説明

吸着担体及び吸着担体の製造方法

【課題】難水溶性無機化合物が有する良好な吸着性及び溶出性を、フィルターを用いた固液分離によるバッチ法やカラムクロマトグラフィー法のような簡便で精製効果の高い精製方法に活用できる手段を提供すること。
【解決手段】難水溶性無機化合物を担持した多孔質体から成る吸着担体及びその製造方法を提供した。該製造方法は、多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陽イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Aと、多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陰イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Bとを行なうことにより、多孔質体の表面及び/又は孔内部に該陽イオンと該陰イオンとの組み合わせから成る少なくとも1種の難水溶性無機化合物を形成させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着担体及び吸着担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
元素周期表2族に属するバリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩および典型金属元素であるアルミニウムのリン酸塩もしくは水酸化物等の難水溶性無機化合物は、生物学的に不活性で生理活性物質の不活化が起きにくい事が知られている。難水溶性無機化合物は生物活性タンパク質や核酸などの有機物との親和性が高いため、ワクチン、血液タンパク、成長ホルモン、食品添加物、インターフェロン等の精製に応用されている(特許文献1、非特許文献1〜6)。
【0003】
化学合成される多くの難水溶性無機化合物は粒子径が小さく、フィルターを通過あるいは詰まらせてしまうため、濾過膜を用いた簡便な固液分離によるバッチ法、および有機物精製効果が高いとされるカラムクロマトグラフィー法、吸着流動床法への難水溶性無機化合物の適用は困難である。そのため、現在のところ、難水溶性無機化合物を吸着担体として用いて行う工業的な有機物の精製方法は、一般的にフィルターを用いない、大型の遠心分離機を用いた固液分離によるバッチ法に限定されている(特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】特開2000-262280号公報(ウイルスまたはウイルス性抗原の精製方法およびワクチンの製造方法)
【特許文献2】特開2003-310256号公報(細胞培養担体および細胞培養方法)
【特許文献3】特開2005-137973号公報(磁性吸着担体およびその製造方法並びに水処理方法)
【非特許文献1】Voss, D.:Barium sulphate adsorption and elution of the 'prothrombin complex' factors., Scand J Clin Lab Invest. 1965 ; 17 : Suppl 84 : 119-128.
【非特許文献2】C.B.Reimer et.al.:Purification of Large Quantities of Influenza Virus by Density Gradient Centrifugation. , Journal of Virology., Dec.1967. 1207-1216
【非特許文献3】H.Prydz : Studies on Proconvertin (Factor VII) IV. The Adsorption on Barium Sulphate , Scandinav. J. Clin. & Lab. Investigation, 16, 1964, 409-414
【非特許文献4】Andrzej G. : Inhibition of influenza A virus hemagglutin and induction of interferon by synthetic sialylated glycoconjugates, Can.J.Microbiol., Vol37, 1991,233-237
【非特許文献5】糖鎖工学 初版第1刷 549頁〜 552頁(産業調査会 バイオテクノロジー情報センター)
【非特許文献6】Tsutomu Kawasaki : Hydroxyapatite as a liquid chromatographic packing., Journal of Chromatography, 544. 1991.147-184
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、難水溶性無機化合物が有する良好な吸着性及び溶出性を、フィルターを用いた固液分離によるバッチ法やカラムクロマトグラフィー法のような簡便で精製効果の高い精製方法に活用できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ゼオライト等の多孔質体に硫酸バリウム等の難水溶性無機化合物を担持させることにより、所望の粒子径を有し、且つ、難水溶性無機化合物の吸着性及び溶出性が付与された吸着担体が容易に得られることを見出し、本願発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、難水溶性無機化合物を担持した多孔質体から成る吸着担体を提供する。また、本発明は、多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陽イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Aと、多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陰イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Bとを行なうことにより、多孔質体の表面又は孔内部に該陽イオンと該陰イオンとの組み合わせから成る少なくとも1種の難水溶性無機化合物を形成させることを含む、上記本発明の吸着担体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来の多孔質担体よりも吸着性能に優れ、溶出性能の良好な吸着担体が提供された。本発明の吸着担体は、難水溶性無機化合物の吸着性能及び溶出性能を併せ持ち、且つ、多孔質体の粒径の選択により所望の粒径で調製できる。従って、フィルターを用いた簡便な固液分離が可能になる。これにより、カラムクロマトグラフィーや吸着流動床法等への適用が可能になる。また、フィルタードライヤー(3V COGEIM社製など)やFVドライヤー(株式会社大川原製作所製)等を用いた精製工程の自動化及びコスト削減等が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、「難水溶性無機化合物」とは、25℃の水100gに対する溶解度が50mg以下、好ましくは25mg以下、より好ましくは10mg以下である無機化合物を言う。化合物の溶解度に関する情報は、当業者であれば容易に入手可能であり、また、実際に25℃の水100gに溶解する量を調べることにより、容易に知ることができる。
【0010】
本発明の吸着担体は、多孔質体に難水溶性無機化合物を担持させたものである。難水溶性無機化合物は、多孔質体の表面及び孔内部の少なくともいずれか一方に担持される。
【0011】
本発明で用いられる難水溶性無機化合物としては、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選択される1の陽イオンと、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンから成る群より選択される1の陰イオンとの組み合わせ(ただし、25℃の水100gに対する溶解度が50mgをこえる化合物を与える組み合わせを除く)から成る化合物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。多孔質体に担持させる難水溶性化合物は、1種類であってもよく、また、2種類以上の難水溶性化合物を同一の多孔質体に担持させてもよい。また、異なる種類の難水溶性化合物を担持させた多孔質体を混合して用いてもよい。
【0012】
本発明で用いられる多孔質体は、特に限定されず、例えば、有機物質や無機物質等の吸着除去や精製等に通常用いられている公知の多孔質体を、吸着目的の物質及び適用する吸着除去ないし精製方法に応じて、任意に選択して用いることができる。多孔質体の具体例としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質及びセラミック多孔質体等が挙げられるが、これらに限定されない。多孔質体として平均粒子径が1μm〜300μm程度のものを用いた場合には、フィルターを目詰まりさせることなく固液分離できるため、有機物等の一般的な精製方法である濾過法、カラムクロマトグラフィー法、吸着流動床法等にも好ましく適用できる吸着担体が得られる。また、多孔質体として磁性化したものを用いれば、磁気分離も可能になる。多孔質体の磁性化方法は公知であり、例えば特許文献3記載の方法等を用いることができる。多孔質体は、1種類のみから成るものであってもよく、また、2種類以上の多孔質体を混合して用いてもよい。多孔質体は、種々の市販品が存在し、また製造方法も周知なので、容易に入手することができる。
【0013】
ゼオライトは、結晶中に0.3nm〜1nm程度の微細孔を持つアルミノ珪酸塩の総称である。結晶中の微細孔には任意の分子やイオン等の物質が吸着でき、また、吸着した物質は物理および化学的な処理により分離することができる。この性質から分子ふるいとも呼ばれる。微細孔の孔径は任意に選択できるため、吸着させる物質に選択性を持たせることができる。また、ゼオライトには、その微細孔内にナトリウムイオンなどの陽イオンが保持されており、これら陽イオンは容易に多価イオンと交換可能である。この交換能を利用することによって、アルカリ土金属イオンや重金属イオンを吸着、捕捉することもできる。本発明に用いる多孔質体としてゼオライトを用いる場合、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたは人工ゼオライトのうちいずれも好適に選択して用いることができる。
【0014】
難水溶性無機化合物の多孔質体への担持は、例えば、担持させるべき難水溶性化合物の構成成分である少なくとも1種の陽イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させ(工程A)、次いで、担持させるべき難水溶性化合物の構成成分である少なくとも1種の陰イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる(工程B)ことにより、容易に行うことができる。工程Bを先に行い、次いで工程Aを行なってもよい。工程A及び工程Bを行なうことで、多孔質体の表面又は孔内部に少なくとも1種の難水溶性無機化合物を形成させることができる。すなわち、本発明は、上記工程Aと上記工程Bとを行なうことにより、多孔質体の表面又は孔内部に上記陽イオンと上記陰イオンとの組み合わせから成る少なくとも1種の難水溶性無機化合物を形成させることを含む、上記本発明の吸着担体の製造方法をも提供する。
【0015】
上記工程Aで用いられる陽イオンとしては、工程Bで用いられる陰イオンのうちの少なくとも1種類との結合により難水溶性無機化合物を形成できるものであれば特に限定されず、例えばバリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオン等を挙げることができる。同様に、工程Bで用いられる陰イオンとしては、工程Aで用いられる陽イオンのうちの少なくとも1種類との結合により難水溶性無機化合物を形成できるものであれば特に限定されず、例えば硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオン等を挙げることができる。
【0016】
例えば、硫酸バリウムを担持した多孔質体から成る吸着担体は、下記実施例にある通り、塩化バリウム水溶液等のバリウムイオンを含有する水溶液と多孔質体とを15分間〜3時間程度接触させ、次いで、遠心等により多孔質体を分離して蒸留水等で洗浄し、次いで、硫酸ナトリウム水溶液等の硫酸イオンを含有する水溶液と該多孔質体とを15分間〜3時間程度接触させ、遠心等により多孔質体を分離して蒸留水等で洗浄することにより製造できる。工程A及び工程Bを行なうことにより、多孔質体の表面等に硫酸バリウムが形成される(図1及び2参照)。また、例えば、硫酸バリウムと水酸化マグネシウムとを担持した多孔質体から成る吸着担体は、バリウムイオン及びマグネシウムイオンを含有する水溶液と多孔質体とを接触させ、次いで多孔質体を分離、洗浄し、次いで、硫酸イオン及び水酸化物イオンを含有する水溶液と該多孔質体とを接触させ、多孔質体を分離、洗浄することにより製造できる。
【0017】
上記陽イオン含有水溶液及び陰イオン含有水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常0.1M〜5M程度、より一般的には0.5M〜2M程度である。2種以上のイオンを用いる場合には、それぞれの濃度が上記範囲内であればよい。
【0018】
本発明の製造方法に用いられる多孔質体は、本発明の吸着担体に関して上述した多孔質体と同様である。
【0019】
下記実施例に具体的に記載される通り、本発明の吸着担体は、難水溶性無機化合物を担持させない多孔質担体よりも吸着性能が高い。また、溶出性能も良好である。一般に、多孔質体の孔内部に物質が吸着された場合、それを溶出させる事は困難である。しかし、孔内部に難水溶性無機化合物を形成させることにより、多孔質体自体による吸着よりも、孔内部に担持された難水溶性無機化合物による吸着が優位に生じ、その結果、全体として溶出性能が高まるものと考えられる。よって、本発明の吸着担体は、溶出性能も従来の多孔質吸着担体より高いものと考えられる。
【0020】
本発明の吸着担体は、多孔質担体や難水溶性無機化合物担体を吸着担体として用いる公知の種々の分離、精製方法に用いることができる。例えば、特に限定されないが、環境ホルモン物質やダイオキシン類等の有害物質の吸着除去や、ウイルス、核酸、タンパク質等の精製に用いることができる。特に、本発明の吸着担体は、難水溶性無機化合物が有する生体物質に対する良好な吸着性及び溶出性を有し、且つ、粒子径も任意に選択できるため、遠心分離のみならず、フィルターを用いた固液分離も可能になる。従って、従来、難水溶性無機化合物吸着担体の適用が困難であった、フィルターを固液分離に用いるバッチ法、カラムクロマトグラフィー法、吸着流動床法等による分離・精製方法にも好ましく適用可能である。
【0021】
本発明の吸着担体により好ましく分離・精製できる生体物質としては、例えば、ウイルス及び細菌等の微生物、並びにポリペプチド、酵素、抗体、膜タンパク質、ワクチン用抗原、ssDNA、dsDNA、RNA、プラスミドDNA等の生物由来成分及びこれらの複合体を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明の吸着担体に吸着された物質(被分離物質)は、塩類を含む溶出液と吸着担体ー被分離物質複合体とを接触させることにより、容易に吸着担体から溶出させることができる。溶出液としては、難水溶性無機化合物を用いた有機物等の精製に従来用いられている公知の溶出液を用いることができる。好適な溶出液の組成及び濃度は、被分離物質の種類に応じて異なり得るが、当業者であれば容易に選択することができる。例えば、上記した生体物質の精製を行う場合、合計塩類濃度は、特に限定されないが、通常、0.005Mから3M、好ましくは0.1Mから2Mの溶出液を用いることができる。被分離物質の安定化に有用であることが知られている成分をさらに含ませてもよい。溶出液の具体例としては、下記実施例で用いられている1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)等を挙げることができるが、これに限定されない。溶出液のpHは、特に限定されないが、溶出対象の有機物の生化学活性を保持したい場合には、好ましくはpH5〜9、さらに好ましくはpH6〜8の中性付近とすることが望ましい。中性付近の溶出液を用いることにより、該有機物の活性を損なわずに溶出することができる。
【0023】
溶出に先立ち、水または溶出液よりも低濃度の塩類溶液と吸着担体ー被分離物質複合体とを接触させることにより、吸着担体に対する親和性が被分離物質よりも低い夾雑物のみを溶出させることができるので、回収される被分離物質の純度を高めることができる。また、溶出液の塩類濃度を段階的に高めることにより、吸着力の弱い物質から順に溶出できるため、目的物質の選択的な分離回収が可能になる。
【0024】
本発明の吸着担体は、被分離物質の吸着及び溶出に用いた後、この分野で周知の一般的な担体再生方法により再生して、繰り返し使用することができる(下記実施例参照)。担体再生方法は特に限定されず、例えば、酸、塩基又は有機溶媒等で洗浄して残存吸着物を除去する薬剤再生法等を挙げることができる。
【0025】
本発明の吸着担体は、高圧蒸気滅菌 (例えば121℃、30分間) が可能である。従って本発明を用いた吸着担体は、無菌性が求められる医薬品製造工程への適用が可能である。
【0026】
本発明の吸着担体のうち、特にリン酸カルシウム系化合物を担持した多孔質体から成る吸着担体は、その表面に細胞を付着させ、この細胞を増殖させる細胞培養に用いることが出来る。更に、この技術を応用することにより、培養細胞を用いた微生物の培養も可能である(特許文献2)。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1 [ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体の製造
ゼオライトに硫酸バリウムを担持させた吸着担体を製造した。製造には以下の2種類の水溶液を用いた。
〈塩化バリウム水溶液〉
塩化バリウム2水和物(BaCl2・2H2O)1.05gを蒸留水に溶かし5mLとし、860mM BaCl2水溶液を調製した。
〈硫酸ナトリウム水溶液〉
硫酸ナトリウム(Na2SO4)0.73gを蒸留水に溶かし5mLとし、1M Na2SO4水溶液を調製した。
【0029】
(1) ゼオライト1g(CaCO3 290mg/g DRY(陽イオン交換容量2.9meq/g DRY)、平均粒子径75μm(200mesh通過)、WAKO)を860mM BaCl2水溶液5mLに添加し、懸濁液を室温でおよそ30分間穏やかに攪拌した。
(2) 懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、傾斜法により上清を除去した。次に沈渣に蒸留水5mLを添加し、しばらく穏やかに攪拌後、再び遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)を行い上清を傾斜法により除去した。
(3) 洗浄後のゼオライトを1M Na2SO4水溶液 5mLに添加し、室温でおよそ30分間穏やかに攪拌した。
(4) 懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、傾斜法により上清を除去した。次に沈渣に蒸留水5mLを添加し、しばらく穏やかに攪拌後、再び遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)を行い傾斜法により上清を除去し、[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を得た。
【0030】
得られた吸着担体の電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。上記処理を行なわないゼオライトのSEM写真(図1)との比較により、ゼオライトの表面に硫酸バリウムが形成されていることが確認された。
【0031】
実施例2 [ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体の吸着性能の評価
実施例1で製造した[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を用いて、バッチ法により、インフルエンザウイルス培養液からのウイルスの除去を行い、吸着性能を評価した。
【0032】
(1) (ウイルスの吸着)
常法である細胞培養法により、H1N1 A/New Caledonia株インフルエンザウイルス培養液を調製した。該培養液10mLに、実施例1で製造した[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体をゼオライト相当量で0.5g(すなわち、実施例1で得られた吸着担体の半分量)、又は比較としてゼオライト0.5g若しくは硫酸バリウム(デンカ生研製)0.5gを添加し、室温で穏やかに30分間攪拌した。
(2) (固液分離)
各懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、上清を傾斜法により回収し、沈渣を除去した。
(3) (ウイルス量の測定)
回収した各上清及び吸着担体添加前の培養液について、インフルエンザウイルスの赤血球凝集反応を利用した赤血球凝集試験(HA試験:(株)日本バイオテスト研究所 ニワトリ保存血球を使用)により、インフルエンザウイルスのウイルス活性(ウイルス量)をHA価で求めた。培養液のHA価を100%とし、各上清のHA価(すなわち担体に吸着されなかったウイルス量)をその相対値として算出することにより、担体に吸着されたウイルス量(ウイルス吸着率、%)を求めた。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体は、ゼオライトの2倍以上のウイルス吸着性能を有していることが示された。また、[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体は、硫酸バリウムと同等のウイルス吸着性能を有していることが示された。これにより、上記製造方法により、多孔質体であるゼオライトに硫酸バリウムのウイルス吸着特性を付与できたことが確認された。
【0035】
実施例3 吸着担体のウイルス回収性能の評価(バッチ法)
実施例1で製造した[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を用いて、下記に示す手順にてインフルエンザウイルスの担体への吸着、ウイルス-吸着担体複合体の固液分離およびウイルスの回収を行った。
【0036】
(1) (ウイルスの吸着)
ゼオライト相当量で0.5gの[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を、細胞培養法により得られたH1N1 A/New Caledonia株インフルエンザウイルス培養液10mLに添加し、室温で穏やかに30分間攪拌した。
(2) (固液分離)
懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、上清(吸着工程上清)を傾斜法により除去し、沈渣を回収した。
(3) (ウイルスの溶出)
(2)で得られた[ウイルス-吸着担体]複合体に、1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)5mLを添加し、室温で穏やかに30分間攪拌した。
(4) (ウイルスの回収)
懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、上清(溶出工程上清)を傾斜法により回収した。
(5) (ウイルス量の測定)
吸着工程上清、溶出工程上清及び吸着担体添加前の培養液について、インフルエンザウイルス核タンパク質(NP)に対する抗体(デンカ生研社製)を用いて、常法に基づきNP-ELISA法を行ない、インフルエンザウイルスNP抗原量(NP価)を測定した。培養液のNP価を100%とし、各上清のNP価をその相対値として算出して、ウイルス吸着率(担体に吸着されたウイルス量、%)及び回収率(溶出されたウイルス量の、培養液中のウイルス量に対する割合、%)を求めた。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
吸着工程上清中のNP抗原量の測定結果から、ほぼ全量のウイルスが、本発明の吸着担体に捕捉されたことが確認された。また、溶出工程上清中のNP抗原量の測定結果から、本発明の吸着担体の溶出性が良好であることも確認された。
【0039】
実施例4 吸着担体のウイルス回収性能の評価(カラムクロマトグラフィー法)
実施例1で製造した[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を用いて、下記に示す手順にてインフルエンザウイルスの回収を行った。
【0040】
(1) (カラムクロマト管への充填)
実施例1の(3)で得られた[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体(ゼオライト1g相当量)の硫酸ナトリウム懸濁液をカラムクロマト管(アマシャム社製エコノカラム: φ = 1.0cm、h = 2.0 cm)に充填し、しばらく静置後、固定相上面まで徐々に移動相(実施例1の(3)における1M Na2SO4水溶液の反応後液)を流出させた。その後、蒸留水5mLを流速1.3mL/分で通液し、固定相を平衡化した。
(2) (ウイルスの吸着)
細胞培養法により得られたH1N1 A/New Caledonia株インフルエンザウイルス培養液20mLを流速1.3mL/分で通液し、ウイルスを吸着担体に吸着させた。流出した液は5mL毎分画した。
(3) (ウイルスの溶出)
1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)20mLを流速1.3mL/分で通液し、担体に吸着されたウイルスを溶出した。流出した溶出液は5mL毎分画した。
(4) (ウイルス量の測定)
実施例3(5)と同様にして、各分画のNP価を測定し、吸着率及び回収率を求めた。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3より、吸着工程上清中のNP-ELISA法によるNP抗原の測定結果から、ほぼ全量のウイルスが、本発明の吸着担体に吸着されたことが示された。また、溶出収率(回収率)は、およそ84%を示した。このことから、本発明の吸着担体が、カラムクロマトグラフィー法によるウイルスの精製に適用可能であることが確認された。
【0043】
実施例5 吸着担体の再生利用の検討
下記に示す手順にて、[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体を用いてインフルエンザウイルスの精製を行ない、次いで、精製に用いた吸着担体を再生利用して、吸着及び溶出の性能を評価した。
【0044】
(1) (カラムクロマト管への充填)
実施例1の(3)と同様の手法で得られる[ゼオライト-硫酸バリウム]吸着担体(ゼオライト5g相当量)の硫酸ナトリウム懸濁液をカラムクロマト管(アマシャム社製XK-16カラム: φ = 1.6cm、h = 5.0 cm)に充填し、しばらく静置後、固定相上面まで徐々に移動相(実施例1の(3)における1M Na2SO4水溶液の反応後液)を流出させた。
(2) (固定相の平衡化)
蒸留水25mLを流速3mL/分で通液して固定相を平衡化した。
(3) (ウイルスの吸着)
細胞培養法により得られたH1N1 A/New Caledonia株インフルエンザウイルス培養液100mLを流速3mL/分で通液し、ウイルスを吸着担体に吸着させた。流出した液は10mL毎分画した。
(4) (夾雑物の除去)
[ウイルス-吸着担体]複合体を洗浄して夾雑物を除去する目的で、蒸留水25mLを流速3mL/分で通液した。流出した液は12.5mL毎分画した。
(5) (ウイルスの溶出)
1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)100mLを流速3mL/分で通液し、担体に吸着されたウイルスを溶出した。流出した溶出液は10mL毎分画した。
(6) (担体の再生)
0.1N NaOH水溶液25mLを流速3mL/分で通液することにより、担体の再生処理を行なった。
(7) (2)〜(5)の工程を再度行なった。
(8) 実施例3と同様にして、各分画のNP価を測定し、吸着率及び回収率を求めた。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4より、吸着工程上清中のNP-ELISA法によるNP抗原の測定結果から、ほぼ全量のウイルスが、本発明の吸着担体に吸着されたことが確認できた。このことは、再生後の担体についても同様であった。
【0047】
また、溶出収率(回収率)は、再生前後ともおよそ72%以上の収率であった。従って本発明の吸着担体は、カラムクロマトグラフィー法によるウイルスの精製に適用可能であり、かつ再生可能な吸着担体であることが確認できた。
【0048】
培養液成分中に存在する担体と親和性の低い夾雑物の積極的な除去を狙い、吸着工程後に[ウイルス-吸着担体]複合体の洗浄工程を取り入れた。洗浄液中にウイルスNP蛋白がほとんど存在していないことから、水(蒸留水)による夾雑物の除去効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ゼオライトの電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で調製した、硫酸バリウムを担持したゼオライトの電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性無機化合物を担持した多孔質体から成る吸着担体。
【請求項2】
前記難水溶性無機化合物が、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選択される1の陽イオンと、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンから成る群より選択される1の陰イオンとの組み合わせ(ただし、25℃の水100gに対する溶解度が50mgをこえる化合物を与える組み合わせを除く)から成る化合物の1種又は2種以上の混合物である請求項1記載の吸着担体。
【請求項3】
前記難水溶性無機化合物が硫酸バリウムである請求項2記載の吸着担体。
【請求項4】
前記多孔質体が、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質及びセラミック多孔質体から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着担体。
【請求項5】
前記多孔質体がゼオライトである請求項4記載の吸着担体。
【請求項6】
多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陽イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Aと、多孔質体に担持させるべき難水溶性無機化合物の構成成分である少なくとも1種の陰イオンを含有する水溶液に多孔質体を接触させる工程Bとを行なうことにより、多孔質体の表面及び/又は孔内部に該陽イオンと該陰イオンとの組み合わせから成る少なくとも1種の難水溶性無機化合物を形成させることを含む、請求項1記載の吸着担体の製造方法。
【請求項7】
前記工程Aの後に前記工程Bが行なわれる請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記陽イオンが、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選択される1種又は2種以上の陽イオンであり、前記陰イオンが、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンから成る群より選択される1種又は2種以上の陰イオンである請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記陽イオンがバリウムイオンであり、前記陰イオンが硫酸イオンである請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記多孔質体が、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質及びセラミック多孔質体から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である請求項6ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記多孔質体がゼオライトである請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−42074(P2009−42074A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207478(P2007−207478)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】