説明

吸着装置

【課題】正規の解除動作以外の方法で吸着力を解除する操作を阻止する吸着装置にする。
【解決手段】
被吸着面12に吸着する弾性体からなるスカート部14と軸部15を有する吸着盤16と、スカート部14を隠蔽した状態と開放した状態とをとることができる保護カバー18と、吸着盤の軸部15と保護カバー18とに直接または間接的に連結されて、保護カバー18がスカート部14を隠蔽した状態をとるとき、軸部15に対して被吸着面12から引き離す方向の力を付与し、かつ、スカート部14の弾性に基づく反作用によって保護カバー18に対して被吸着面12に押し付ける方向の力を付与する加圧機構23と、保護カバー18がスカート部14を隠蔽した状態をとるとき、ロック状態において、保護カバー18がスカート部14を開放した状態への移行を阻止し、かつ、解除状態において、保護カバー18がスカート部14を開放した状態への移行を許容するロック機構25を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着盤を使用して被吸着面に対象物を固定するために使用される吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
壁面に傷を付けずに対象物を固定するために、ゴムやプラスチック製の吸盤が広く利用されている。しかし、一般に、ゴムやプラスチック製の吸盤は、外れ易かったり位置ずれし易いものが多かった。そこで、より強力な吸着力を持ち、安定性の高い吸着盤が開発された。しかも、吸着させる壁面が平坦でなくても強力な吸着力を付与できる(特許文献1)。一方、この種の強力な吸着力を持つ吸着盤で対象物を壁面に固定すると、無断持ち去り防止等の用途に利用できる。その技術も紹介されている(特許文献2)(特許文献3)(特許文献4)。
【特許文献1】特開2006−347138号公報
【特許文献2】特開2001−12444号公報
【特許文献3】特開2008−116046号公報
【特許文献4】実用新案登録第3108707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
大気圧を利用した吸着盤は、いくら強力な吸着力を与えても、吸盤の一部を持ち上げると簡単に吸着を解除できる。たとえ保護カバーが被せてあっても、保護カバーと被吸着面の隙間にピン等を差し込めば、吸盤の一部を持ち上げて壁面から容易に外されてしまう。本発明は、以上の課題を解決する吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
【0005】
〈構成1〉
被吸着面に吸着する弾性体からなるスカート部と、このスカート部のほぼ中央にあって、前記被吸着面に対してほぼ垂直の方向に立ち上がる軸部を有する吸着盤と、前記被吸着面上で、前記吸着盤の少なくとも前記スカート部を隠蔽した状態と開放した状態とをとることができる保護カバーと、前記吸着盤の前記軸部と前記保護カバーとに直接または間接的に連結されて、前記保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態をとるとき、前記軸部に対して前記被吸着面から引き離す方向の力を付与し、かつ、前記スカート部の弾性に基づく反作用によって前記保護カバーに対して前記被吸着面に押し付ける方向の力を付与する加圧機構と、前記保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態をとるとき、ロック状態において、前記保護カバーが前記スカート部を開放した状態への移行を阻止し、かつ、解除状態において、前記保護カバーが前記スカート部を開放した状態への移行を許容するロック機構を備えたことを特徴とする吸着装置。
【0006】
〈構成2〉
前記ロック機構を隠蔽するロックカバーを備えたことを特徴とする構成1に記載の吸着装置。
【0007】
〈構成3〉
複数の前記吸着盤を備え、前記保護カバーは前記複数の吸着盤全体を隠蔽することを特徴とする構成1または2に記載の吸着装置。
【0008】
〈構成4〉
複数の前記吸着盤を備え、前記ロックカバーは前記複数の吸着盤の全ての前記ロック機構を隠蔽することを特徴とする構成1または2に記載の吸着装置。
【0009】
〈構成5〉
それぞれ個別に前記保護カバーで隠蔽された複数の前記吸着盤を備えたことを特徴とする構成1または2に記載の吸着装置。
【0010】
〈構成6〉
前記保護カバーの被吸着面側には、加圧により弾性変形する環状縁が設けられていることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の吸着装置。
【0011】
〈構成7〉
前記保護カバーには、前記スカート部の周辺を被吸着面側に押し付ける押圧部が設けられていることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の吸着装置。
【0012】
〈構成8〉
前記スカート部の周縁には、前記スカート部から突出した爪が設けられており、前記保護カバーと前記爪とが直接あるいは連結材を介して連結されていることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の吸着装置。
【0013】
〈構成9〉
前記保護カバーの内面には、前記スカート部から突出した爪と前記吸着面との間に差し込まれる突起が設けられていることを特徴とする構成8に記載の吸着装置。
【発明の効果】
【0014】
(1)保護カバーが、吸着盤の少なくともスカート部を覆い、吸着盤の主要部を隠蔽するので、正規の解除動作以外の方法で吸着力を解除する操作を阻止できる。また、ロック状態において、保護カバーがスカート部を開放した状態への移行を阻止するロック機構を設けたので、解除動作自体を制限できる。
(2)ロック機構を隠蔽するロックカバーを設ければ、ロック機構の存在も外部から認識させない。
(3)複数の吸着盤を使用して、吸着力を高め、大型固定物の荷重を分散させることができる。複数の吸着盤全体を1個の保護カバーやロックカバーで隠蔽することができる。さらに、ロック機構を一元管理することもできる。また、保護カバーに様々なデザインを施すことができる。
(4)複数の吸着盤がそれぞれ別個に保護カバーで覆われていれば、保護カバーに個別にロック機構を設けてセキュリティを向上させることができる。
(5)保護カバーの被吸着面側に、加圧により弾性変形する環状縁が設けられていれば、保護カバーが押しつけられる面に凹凸があったとしても、保護カバーとその面との間の隙間を無くすことができる。
(6)吸着盤のスカート部周辺が、保護カバーの押圧部により被吸着面に押し付けられるようにすると、吸着力が増大する。この押圧部は、スカート部周辺全体を押し付けるものでなくて、一部だけを押し付けるものであっても十分に効果がある。
(7)吸着盤のスカート部から突出した爪を設けておき、保護カバーと爪とが直接あるいは連結材を介して連結されていると、保護カバーに被吸着面から離す方向の力を加えたとき、スカート部の一部が被吸着面から離れて、吸着を容易に解除できる。
(8)保護カバーの内面にスカート部から突出した爪と吸着面との間に差し込まれる突起が設けられていると、保護カバーを使用して吸着盤の吸着を容易に解除できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1の(a)は実施例1の吸着装置を示す外観斜視図、(b)はその主要部縦断面図である。
図の吸着装置10は、(b)に示すように、吸着盤16と保護カバー18とを備えている。吸着盤16は、スカート部14と軸部15とを有する。スカート部14はゴムやプラスチック、金属、あるいはこれらを組み合わせて構成した弾性体からなり、床やテーブル等の被吸着面12に吸着する機能を持つ。軸部15は、スカート部14のほぼ中央に位置しスカート部14と一体化している。この軸部15は、被吸着面12に対してほぼ垂直の方向に立ち上がるように構成されている。保護カバー18は、図の一点鎖線に示すように、吸着盤16の少なくともスカート部14を隠蔽した状態と、破線に示すように、スカート部14を開放した状態とをとることができる形状にされている。保護カバー18は、プラスチック、金属、あるいはこれらを組み合わせた成型性の良い材料が適する。
【0017】
スカート部14には既知の各種の吸盤を採用できる。しかし、特許文献1に示したような、吸着力が高く安定しているものが好ましい。軸部15は、スカート部14と一体のゴムやプラスチック等からなるものであってもよいし、スカート部14の中央部に任意の手段で固定した金属や硬質プラスチック等により構成したものでもよい。
【0018】
なお、この実施例では、吸着装置10を、例えば、スーツケースを床に固定して盗難防止を図るために使用する。そこで、図1(a)に示すように、軸部15の上端にボルト孔19を設けたフランジ20を取り付けた。この場合、被吸着面12(図1(b))は例えば床である。例えば、このボルト孔19を利用して、吸着装置10を図示しないスーツケースの底面にボルト締め固定する。また、あるいは、特許文献2に記載されたように、ボルト孔19にチェンの一端を固定し、そのチェンの他端をスーツケースの任意の箇所に固定するとよい。
【0019】
保護カバー18は、図1(b)に示すように、吸着盤16の少なくともスカート部14を覆い、吸着盤16の主要部を隠す機能を持つ。その形状は任意である。どこからもスカート部14を機械的に保護し、内部を視認できない構造が好ましい。従って、不透明の金属や硬質プラスチック等が適する。保護カバー18がスカート部14を覆うので、正規の解除動作以外の方法で吸着力を解除する操作を阻止する。保護カバー18は、吸着盤16の存在を意識させない。後で説明する加圧機構23により、保護カバー18が被吸着面12に吸着盤16とともに強く押しつけられ、ロック機構25により保護カバー18を容易に開放させないので、高い隠蔽効果を発揮する。
【0020】
続いて、加圧機構23の説明をする。加圧機構23は、吸着盤16の軸部15と保護カバー18とに連結されている。この例では、軸部15の上端に固定されたフランジ20等からなり、保護カバー18を貫通して上方に突きだしている。後で説明するように、保護カバー18は加圧機構23の外周面に螺合している。即ち、加圧機構23は、軸部15にも保護カバー18にも、直接または間接的に連結されている。これより、双方に加わる力の伝達をする。直接溶接やビス止め等で固定されていなくても、スペーサ等を介して力が伝達できるように連結されていればよい。
【0021】
さらに、加圧機構23は、保護カバー18がスカート部14を隠蔽した状態をとるとき、軸部15に対して被吸着面12から引き離す方向の力を付与する機能を持つ。同時に、スカート部14の弾性に基づく反作用によって、保護カバー18に対して被吸着面12に押し付ける方向の力を付与する機能を持つ。なお、このような構成例については、特許文献3や4にも記載されている。
【0022】
図の例では、加圧機構23と保護カバー18とは、雄ねじと雌ねじの関係にある。図1(b)に示すように、スカート部14を被吸着面12に吸着させた状態で、図1(a)に示した矢印Cの方向に保護カバー18を回転させると、吸着盤16の軸部15が矢印A方向に引き上げられる。同時にスカート部14にも引き上げ力が伝わり、スカート部14が弾性変形して吸着力が増す。また、スカート部14が縮もうとする力が加圧機構23を通じて保護カバー18に伝達される。即ち、加圧機構23は、矢印B方向に、保護カバー18を被吸着面12に押し付けるように機能する。これで、保護カバー18と被吸着面12とが密着する。即ち、加圧機構23は、吸着盤16の軸部や保護カバー18に対して、作用あるいは反作用を伝達する。
【0023】
図2は、実施例1の吸着装置の縦断面図で、(a)は保護カバーが前記スカート部を開放した状態、(b)は保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態を示す。
この実施例1では、保護カバー18は、固定カバー31と回転カバー32の2段構造とされている。固定カバー31は、図示しないキー溝等を介して軸部15に嵌め込まれている。従って、軸部15の軸方向にのみ可動に支持されて、被吸着面12に直接押し付けられる機能を有する。
【0024】
固定カバー31の被吸着面12側には、加圧により弾性変形する環状縁28が設けられている。環状縁28は、ゴムやプラスチック等の弾性変形し易いものがよい。例えば、(株)イノアックコーポレーションPORON(登録商標)型番HH−48などを使用することができる。この実施例の環状縁28は、加圧により被吸着面12の凹凸に沿って弾性変形する。従って、被吸着面12に凹凸があったとしても、保護カバー18と被吸着面12との間の隙間を無くすことができる。
【0025】
一方、固定カバー31の上部は回転カバー32に包囲されている。固定カバー31の筒状の内軸35には、キー溝34が形成されている。回転カバー32の筒状の外軸36には、その下端付近にキー33が設けられている。固定カバー31のキー溝34と回転カバー32のキー33が噛み合っているので、回転カバー32は固定カバー31に嵌りあった状態で同軸的に自由回転する。
【0026】
吸着盤の軸部15の上方に連結された加圧機構23の外周部分には、雄ねじ部37が設けられている。この雄ねじ部37は回転カバー32の雌ねじ部38と噛み合っている。図2(a)の状態で、回転カバー32を矢印C(図1)の方向に回転させると、回転カバー32と固定カバー31とが下降して、被吸着面12に近付き、図2(b)の状態に移行する。
【0027】
図3(b)に示すように、固定カバー31の下端が被吸着面12に押し付けられるまで下降した後、回転カバー32をさらに回転させると、回転カバー32が加圧機構23を押し上げるように力を及ぼす。加圧機構23により軸部15が押し上げられると、スカート部14が上方に力を受けて弾性変形する。この反作用で、加圧機構23は、回転カバー32を介して固定カバー31を被吸着面12の方向に強く押し付ける。回転カバー32は固定カバー31の上方で自由回転し、固定カバー31に回転力は伝わらない。従って、保護カバー18の端縁にある環状縁28に被吸着面12と擦れ合うような無理な力を加えなくて済むという効果がある。
【0028】
こうして保護カバー18と被吸着面12との間の隙間は完全になくなる。保護カバー18全体を持ち上げようとしてもスカート部14が被吸着面12に固く吸着しているので、吸着装置10を被吸着面12から引き離すことができない。なお、逆に回転カバー32を矢印C(図1)と反対方向に回転させると、図2(a)に示すような状態に戻る。即ち、保護カバー18全体が被吸着面12から浮き上がり、スカート部14の周辺が露出する。
【0029】
この実施例では、図2(a)に示すように、吸着盤16のスカート部14周縁に、スカート部14から突出した爪17を設けた。この爪17にスカート部14を被吸着面12から離す方向の力を加えると、スカート部14の一部が被吸着面12から離れて、吸着を容易に解除できる。こうした爪17を設けておくと、保護カバー18が無いときには簡単にスカート部14と被吸着面12との密着が解除されてしまう。保護カバー18でスカート部14を完全に覆うと、みだりに爪17に触れられることがない。
【0030】
図3はロック機構主要部の一部分解縦断面図である。
ロック機構25は、ロック状態と解除状態とをとる。図2において、保護カバー18がスカート部14を隠蔽した状態をとるとき、ロック状態において、保護カバー18がスカート部14を開放した状態への移行を阻止する。この例では、回転カバー32の回転を阻止する。さらに、解除状態において、保護カバー18がスカート部14を開放した状態への移行を許容する。この例では、回転カバー32の回転を許容する。さらに、ロック機構25は、ロック状態から解除状態への移行を阻止する施錠部を備える。
【0031】
図3(a)と(b)に示すように、回転カバー32の雌ねじ部38は、加圧機構23の雄ねじ部37と噛み合っている。この状態で回転カバー32は筒状の加圧機構23を軸にして自由回転する。図3(c)に示すように、回転カバー32の内面に固定したロック機構25は、プランジャー26を備える。回転カバー32と固定カバー31とが図2の(a)の状態にあると、プランジャー26は図3の(c)に示す状態にある。即ち、保護カバー18がスカート部14を開放した状態にあるとき、ロック機構25は回転カバー32が自由回転できるように、プランジャー26は後退している。
【0032】
一方、図3(d)に示すように、固定カバー31を被吸着面12(図2)に押し付けて、保護カバー18がスカート部14を隠蔽した状態にあるとき、図示しないスプリング等の力でプランジャー26の左端が固定カバー31の内軸35の一箇所に設けた凹陥部に嵌り込む。即ち、ロック機構25は、回転カバー32の自由回転を阻止する。例えば、この凹陥部をすり鉢状にしておくと、回転カバー32を回転させたとき、スプリングの力に抗してプランジャー26が押し戻され、図3(c)の状態に戻る。
【0033】
また、ロック機構25は、よく知られた例えば3個の数字を組み合わせるダイヤル式のキーにより施錠される。ロック機構25のダイヤルを回転させると、プランジャー26の戻りを阻止できる。ロック機構25のダイヤルを該当する数字に合わせると解錠されて、回転カバー32を再び自由に回転させることができる。ロック機構25はこの実施例に限定されない。保護カバー18が、隠蔽状態から開放状態へ移行するのを機械的に阻止する任意の構成を採用することができる。また、ロック機構25を外部から隠蔽するロックカバーを設ければ、関係者以外は全く操作できない構造を実現できる。例えば、回転カバー32にロック機構25のダイヤルを隠すシャッターを設けるとよい。これで、回転カバー32がロックカバーの機能を持つ。また、こうしたロック機構25の施錠部には、シリンダー錠や南京錠のような構造を採用してもよい。
【実施例2】
【0034】
図4は実施例2の吸着装置を示し、(a)と(b)は主要部縦断面図、(c)と(d)は主要部の部分横断平面図である。
実施例1で、スカート部17の周縁に、スカート部14から突出した爪17を設けた例を説明した。図4(b)には、爪14の部分の拡大図を示した。この爪17にスカート部14を被吸着面12から離す方向の力を加えると、スカート部14の一部が被吸着面12から簡単に離れる。この実施例では、固定カバー31(保護カバー)の内面に、爪17と被吸着面12との間に差し込まれる突起39を設けた。
【0035】
固定カバー31が、スカート部14を開放できる状態、即ち、固定カバー31を被吸着面12に押しつける力が加わっていない状態では、フランジ20を掴んで固定カバー31を自由に被吸着面12の上方に持ち上げることができる。このとき、固定カバー31の突起39が爪17を下から持ち上げるので、スカート部14を容易に被吸着面12から引き剥がすことができる。なお、図4の(c)に示すように、爪17はスカート部14の一部に設けられた舌片状のものでよい。従って、突起39は、固定カバー31の内面の一部に舌片状に張り出したものであればよい。また、突起39を設けないでも、同様の目的を達成できる。例えば、図4(d)の例では、固定カバー31と爪17とがワイヤのような連結材22を介して連結されている。こうすれば、フランジ20を掴んで固定カバー31を持ち上げると、爪17を同時に引き上げることができる。
【実施例3】
【0036】
図5は実施例3の吸着装置を示す縦断面図と上面図である。
図5(a)に示すように、この吸着装置の保護カバー18には、リブ状の押圧部30が設けられている。この押圧部30は、保護カバー18が被吸着面12に押し付けられるとき、スカート部14の周辺を被吸着面12に押し付ける機能を有する。図5(b)に示すように、加圧機構23により軸部15が引き上げられると、スカート部14にも同様の力が及ぶ。しかし、押圧部30がスカート部14の浮きを阻止するので、内部の減圧効果が高まり、密着力が強化される。また、押圧部30によりスカート部14の周辺が被吸着面12に強く押し付けられるので、保護カバー18と被吸着面12との間に隙間が生じない。このように、スカート部14は、図1を用いて説明した環状縁28と同様の機能を持つ。なお、押圧部30は、スカート部14の周辺全体を被吸着面12に押し付けるものでなくてよい。例えば、図5(c)に示すように吸着装置を上から見たとき、保護カバー18の3箇所に、スカート部14を押さえる押圧部30が設けられている。即ち、スカート部14の一部だけを押し付けるものであっても十分に効果がある。
【実施例4】
【0037】
図6は実施例4の吸着装置を示す縦断面図である。
これまで説明した実施例では、スカート部14の軸部15がいずれも保護カバー18を貫通して保護カバー18の外部に飛び出していた。一方、実施例5では保護カバー18の内側に加圧機構23を配置した。このような構成にすると、外部から内部構造を完全に隠蔽できる。この例では、保護カバー18の上面裏側に鈎状の加圧機構23を固定している。
【0038】
保護カバー18は例えば、図の矢印Fの部分を指で押すと、図の破線のように弾性変形して、軸部15の上端のフランジ48の上部に加圧機構23を接近させる。加圧機構23は、例えば、つまみ47を回転させると鈎状の部分を開いてフランジ48の上端を受け入れる構造にしておく。つまみ47を逆回転させて加圧機構23にフランジ48を固定して指を離すと、保護カバー18は弾性によりもとの形状に復帰する。このとき、加圧機構23は軸部15を矢印A方向に引き上げ、図の(b)に示す状態になる。これで、加圧機構23は、軸部15を被吸着面12から引き離す方向に力を付与し、かつ、吸盤の弾性に基づく反作用によって保護カバー18を被吸着面12に押し付ける力を付与する。軸部15の上端のフランジと加圧機構23とを切り離すには、再度矢印F方向に保護カバー18を指で押して変形させてからつまみ47を回転させるとよい。
【0039】
加圧機構23をこのように保護カバー18の内部に配置しても、これまでの実施例と全く同様の効果がある。なお、保護カバー18を被吸着面12に押し付ける力を付与するのは、スカート部14が縮もうとする力のみとは限らない。この実施例のように、保護カバー18が弾性変形して復帰する力や、あるいは、加圧機構23自体をコイルばね等により構成して、加圧力の調整をしてもよい。この実施例において、ロック機構は、例えば、つまみ47の回転を阻止する、周知のドアロック用シリンダー錠等が適する。構造は既知のためその構成の説明は省略する。
【実施例5】
【0040】
図7は実施例5の吸着装置の縦断面図である。
この図には4種類の加圧機構の例を図示した。図の(a)と(b)にはレバー40を用いた加圧機構を図示した。レバー40を支点を軸に回転すると、図に示すように軸部15が上方に引き上げられる。また、図の(b)と(c)はカム41を用いた例である。カム41を回転させると、図に示すように軸部15が上方に引き上げられる。図の(e)と(f)はくさび状の部品42を用いた例である。くさび状の部品42を差し込むことによって、軸部15が上方に引き上げられる。このくさび状の部品42をストッパ45でロックすることもできる。図の(g)と(h)はパンタグラフ状の部品43の例を示す。この部品43で軸部15をジャッキアップするように上方に引き上げる。ここで、レバー40、カム41、くさび状の部品42、パンタグラフ状の部品43は、いずれも、様々な既知の構造のロック機構により、その可動部分に施錠できる。また、いずれの構造においても、例えば、図の(h)に示すようなキャップ46を被せると、ロック機構を包囲して隠すロックカバーにすることができる。また、キャップ46と保護カバー18とを連結して施錠するようなロック機構を設けても良い。
【実施例6】
【0041】
図8は実施例6の吸着装置を示す側面図と斜視図である。
図の(a)に示すように、この例では対象物52の一面に複数の吸着盤16を固定した。即ち、この吸着装置は、それぞれ個別に保護カバー18で隠蔽された複数の吸着盤16を備えたものである。例えば、スーツケースの底面に4個の吸着盤16を固定する。そして、スーツケースを床の上に置き、吸着盤16を被吸着面12に吸着させて保護カバー18で覆う。保護カバー18を回転させると固定が完了する。これによって、スーツケースを床面等に強力に固定することができる。例えば、1個の吸着盤16が被吸着面12から外されたとしても残り3個が吸着している。従って、簡単にスーツケースを持ち去られることがない。複数の吸着盤を使用すると対象物を強固に確実に被吸着面に固定でき、荷重も分散できる。また、保護カバーに個別に図1で説明したようなロック機構を設けてセキュリティを向上させることができる。図の(b)の斜視図に示す一点鎖線のものが、例えば、スーツケースや金庫である。可搬性があっても、無断持ち出しを物理的に阻止したいものに広く利用できる。
【実施例7】
【0042】
図9は実施例7の吸着装置の平面図と斜視図である。
図の(a)は2個の吸着盤16を1個の細長い保護カバー18で覆っている。即ち、複数の吸着盤16を備え、保護カバー18は複数の吸着盤16全体を隠蔽する構成をしている。この保護カバー18は、各吸着盤16に設けられたロック機構を一括して隠蔽するロックカバーとしての機能を持つ。
【0043】
これは、吸着盤16を固定する壁面が狭いときに有効である。図の(b)は4個の吸着盤16を1個の長方形の保護カバー18で覆っている。4個の吸着盤16に囲まれた広い面積の部分を保護するとき等に有効である。図の(c)は4個の吸着盤16を1個の円形の保護カバー18で覆っている。また、図の(d)は3個の吸着盤16を1個の三角形の保護カバー18で覆っている。いずれも周辺のデザインに配慮した固定方法として有効である。図の(e)の斜視図に示すように、保護カバー18が、全ての吸着盤16を完全に包囲して隠蔽している。従って、外見上は固定手段も推測できない。また、吸着盤16のロック等の解除方法もわからない。
【0044】
以上のような構成にすると、複数の吸着盤16を用いて吸着力を高め、かつ、吸着面の所定範囲を広く保護カバー18で覆うことができるため、吸着面に何らかの保護すべきものがある場合などに有効である。また、保護カバー18を例えば、スーツケースのような他の部材に固定して、床面などに強固に固定する目的に利用することができる。複数の吸着盤を使用して、吸着力を高め、大型固定物の荷重を分散させることができる。これらを1個の保護カバーで覆って図1で説明したようなロック機構を設けた場合には、ロック機構や施錠部を一元管理することもできる。保護カバーの形状を適切に選択すると、ロック機構や施錠部を外部から隠蔽することもできる。また、保護カバーに様々な装飾的なデザインを施すことができる。
【0045】
以上説明した本発明の吸着装置10は、保護カバー18を被吸着面12に強く押し付けて、保護カバー18と被吸着面12の間に隙間を作らないので、スカート部14の吸着力を阻害するような操作を禁止できる。同時に、保護カバー18を被吸着面12に押し付ける力で既知の吸盤による壁面等への吸着力をさらに向上させることができる。その他、上記の実施例でそれぞれ説明したような様々な効果が期待できる。しかも、ロック機構により吸着の安易な解除を阻止することかできる。
【0046】
なお、本発明の吸着装置10は、様々なものを一時的に強固に連結して外れないようにする目的で広く使用することができる。例えば、自転車を自転車置き場の壁に繋ぐ 犬を建物の柱等に繋ぐ、車のスキーキャリアを車に固定する。簡単な手荷物や大きな旅行用トランクを、ベンチや棚に固定できる。また、一時的に出入りを禁止する扉の鍵等に取り付けることができる。覆いのようなシートの四隅に取り付けて、覆ったものを一括して保護できる。このように、本発明の吸着装置10は、広い分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)は実施例1の吸着装置を示す外観斜視図、(b)はその主要部縦断面図である。
【図2】実施例1の吸着装置の縦断面図で、(a)は保護カバーが前記スカート部を開放した状態、(b)は保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態を示す。
【図3】ロック機構主要部の一部分解縦断面図である。
【図4】実施例2の吸着装置を示し、(a)と(b)は主要部縦断面図、(c)と(d)は主要部の部分横断平面図である。
【図5】実施例3の吸着装置を示す縦断面図と上面図である。
【図6】実施例4の吸着装置を示す縦断面図である。
【図7】実施例5の吸着装置を示す縦断面図である。
【図8】実施例6の吸着装置を示す側面図と斜視図である。
【図9】実施例7の吸着装置を示す平面図と斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
10 吸着装置
12 被吸着面
14 スカート部
15 軸部
16 吸着盤
17 爪
18 保護カバー
19 ボルト孔
20 フランジ
22 連結材
23 加圧機構
25 ロック機構
26 プランジャー
28 環状縁
30 押圧部
31 固定カバー
32 回転カバー
33 キー
34 キー溝
35 内軸
36 外軸
37 雄ねじ部
38 雌ねじ部
39 突起
40 レバー
41 カム
42 くさび状の部品
43 パンタグラフ状の部品
45 ストッパ
46 キャップ
47 つまみ
52 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着面に吸着する弾性体からなるスカート部と、このスカート部のほぼ中央にあって、前記被吸着面に対してほぼ垂直の方向に立ち上がる軸部を有する吸着盤と、
前記被吸着面上で、前記吸着盤の少なくとも前記スカート部を隠蔽した状態と開放した状態とをとることができる保護カバーと、
前記吸着盤の前記軸部と前記保護カバーとに直接または間接的に連結されて、前記保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態をとるとき、前記軸部に対して前記被吸着面から引き離す方向の力を付与し、かつ、前記スカート部の弾性に基づく反作用によって前記保護カバーに対して前記被吸着面に押し付ける方向の力を付与する加圧機構と、
前記保護カバーが前記スカート部を隠蔽した状態をとるとき、ロック状態において、前記保護カバーが前記スカート部を開放した状態への移行を阻止し、かつ、解除状態において、前記保護カバーが前記スカート部を開放した状態への移行を許容するロック機構を備えたことを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記ロック機構を隠蔽するロックカバーを備えたことを特徴とする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項3】
複数の前記吸着盤を備え、前記保護カバーは前記複数の吸着盤全体を隠蔽することを特徴とする請求項1または2に記載の吸着装置。
【請求項4】
複数の前記吸着盤を備え、前記ロックカバーは前記複数の吸着盤の全ての前記ロック機構を隠蔽することを特徴とする請求項2に記載の吸着装置。
【請求項5】
それぞれ個別に前記保護カバーで隠蔽された複数の前記吸着盤を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の吸着装置。
【請求項6】
前記保護カバーの被吸着面側には、加圧により弾性変形する環状縁が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の吸着装置。
【請求項7】
前記保護カバーには、前記スカート部の周辺を被吸着面側に押し付ける押圧部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の吸着装置。
【請求項8】
前記スカート部の周縁には、前記スカート部から突出した爪が設けられており、前記保護カバーと前記爪とが直接あるいは連結材を介して連結されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の吸着装置。
【請求項9】
前記保護カバーの内面には、前記スカート部から突出した爪と前記吸着面との間に差し込まれる突起が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−121664(P2010−121664A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294043(P2008−294043)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(302046920)株式会社デザインネットワーク (4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】