説明

周波数計測装置、並びに同装置を備えるニオイセンサー及び電子機器

【課題】振動子と発振回路との組を複数備えた周波数測定装置において、引き込み現象を回避しつつ、振動子の選別の必要のない周波数測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様の周波数計測装置は、第1吸着膜を備えた第1振動子100aと、第2吸着膜を備えた第2振動子100xと、第1振動子100aに接続され、周波数を調整可能に第1発振信号118aを出力する第1周波数調整器を備えた第1発振回路110aと、第2振動子100xに接続され、周波数を調整可能に第2発振信号118xを出力する第2周波数調整器を備えた第2発振回路110xと、第1発振信号118a及び第2発振信号118xの周波数をそれぞれ計測可能に構成された計測回路120aと、計測回路120aによる計測結果に基づいて、第1発振信号118aと第2発振信号118xとの間の周波数差が所定の周波数差より大きくなるように第1周波数調整器及び第2周波数調整器を制御可能に構成された制御回路130と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、吸着膜を備える振動子及びこの振動子に接続された発振回路からなる組を複数備える周波数計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
共振状態にある水晶振動子の表面に周辺媒体に含まれる物質が付着すると、その付着物質に応じて共振周波数が変化する現象がある。この現象を利用した技術はQCM(Quarts Crystal Microbalance)と呼ばれ、周辺媒体に含まれる分子の存在やその量を検出するセンサーとして用いられている。QCMの応用例として、振動子の表面に特定の分子を選択的に吸着する吸着膜を形成したニオイセンサーが挙げられる。また、DNAのハイブリダイゼーションを利用したバイオセンサー、ガスセンサーなどとしても応用が検討されている。以下の説明では、主にニオイセンサーを例に挙げて説明する。
【0003】
一般に、QCMデバイスにはATカット型の水晶振動子が用いられる。ATカットとは水晶結晶軸に対しある特定の方位のカット基板のことで、室温近傍で温度係数変化が極小になり温度安定性に優れるためQCMデバイスに限らず広く用いられる。
【0004】
ATカット水晶振動子は、基板表裏に形成した励振電極間に電圧を印加すると表面と裏面が互い違いにスライドするいわゆる厚みすべり振動モードで動作する。その共振周波数f0は表裏の電極に挟まれた部位の水晶板厚に反比例し、一般に次のような関係がある。
0(MHz)=1670/水晶板厚(μm)
【0005】
そして、このATカット水晶振動子を用いたQCMデバイスの吸着物質量ΔMと周波数変化量Δfの関係は次のSauerbreyの式で表されることが知られている。
【0006】
【数1】

ここで、f0:振動子の共振周波数、ρ:水晶の密度、μ:水晶のせん断弾性定数、A:有効振動面積(略電極面積)である。上式より、水晶振動子の共振周波数f0を高めることにより、感度すなわち吸着物質量ΔMあたりの周波数変化量Δfを高められることがわかる。
【0007】
ところで、QCMデバイスを用いたニオイセンサーは、例えば特開昭63−222248号公報(特許文献1)などに開示されている。この特許文献1の実施例6に開示された技術では、ATカット水晶振動子1の電極2上に吸着膜としてジアルキルアンモニウム塩とポリスチレンスルホン酸からなる二分子膜フィルムを形成した素子(図6)を用いて、空気に飽和したニオイ物質βヨノンの存在を、振動数の変化として検出(図9)している。
【0008】
ただし、実際には目的の物質だけを選択的に吸着膜に吸着させることは不可能であり、吸着膜には複数の物質が吸着されてしまう。これを解決するために、例えば特開平1−244335号公報(特許文献2)に記載の技術では、それぞれ異なる種類の吸着膜を形成した複数の水晶振動子の振動数変化を同時に観測し、振動子間の振動数変化比をパターン解析することで、ニオイの種類を特定する、いわゆるマルチアレイ方式を採用している。
【0009】
ここで、ニオイの識別精度を高めるには、用いる吸着膜を備える振動子の種類を増やすことが有効である。測定対象であるニオイ物質は40万種類もあると考えられ、このような膨大な種類のニオイ物質を上記の従来技術のように数個(数種類)の振動子(QCM)で識別することは不可能である。
【0010】
このように、振動子(QCM)を多数用いる際、振動子にそれぞれ接続された発振回路間の引き込み現象が問題となることがある。ここでいう引き込み現象とは、2つの発振回路の発振周波数が近い場合、何らかのきっかけでこれらの発振回路から出力される信号の周波数が突然一致するよう変化してしまう現象を指す。引き込み現象が発生すると、吸着膜に付着した物質に関わらず、発振回路から出力される信号の周波数が変化する。
【0011】
特開平10−142134号公報(特許文献3)では、引き込み現象を回避するため、予め選別したそれぞれ共振周波数の異なる振動子を複数用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−222248号公報
【特許文献2】特開平1−244335号公報
【特許文献3】特開平10−142134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記特許文献3に記載されるようにそれぞれ共振周波数の異なる振動子を予め選別して使用したとしても、発振回路に含まれる負荷容量などの特性にばらつきがある場合がある。この場合、発振回路から出力される信号の周波数が予定する周波数とならないことがあり、発振回路間で所望の周波数差が得られないことがある。その結果、やはり引き込み現象が発生することがある。
【0014】
さらには、多数の振動子を用いる場合、これらの振動子がそれぞれ異なる共振周波数を有している必要があり、選別に時間を要するという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するために、本発明の一態様の周波数計測装置は、第1吸着膜を備えた第1振動子と、第2吸着膜を備えた第2振動子と、前記第1振動子に接続され、周波数を調整可能に第1発振信号を出力する第1周波数調整器を備えた第1発振回路と、前記第2振動子に接続され、周波数を調整可能に第2発振信号を出力する第2周波数調整器を備えた第2発振回路と、前記第1発振信号及び前記第2発振信号の周波数をそれぞれ計測可能に構成された計測回路と、前記計測回路による計測結果に基づいて、前記第1発振信号と前記第2発振信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きくなるように前記第1周波数調整器及び前記第2周波数調整器を制御可能に構成された制御回路と、を備えることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、第1発振回路及び第2発振回路からそれぞれ出力される第1発振信号と第2発振信号との間の周波数差を所定の周波数差より大きくしているので、発振回路の間で引き込み現象が発生することを防止することができる。ひいては、引き込み現象により周波数計測装置の動作に不具合が発生することを防止することができる。
【0017】
また、所定の共振周波数を有する振動子を予め選別する必要がなくなる。さらに、振動子の選別が不要となるので、ある共振周波数を有する振動子が余ってしまうことがなく、歩留りを向上させることも可能となり得る。
【0018】
また、本発明の一態様の周波数計測装置は、第3吸着膜を備えた第3振動子と、前記第3振動子に接続され、周波数を調整可能に第3発振信号を出力する第3周波数調整器を備えた第3発振回路と、前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、前記制御回路は、(a1)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定し、(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、(c1−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、(c1−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を低くして前記(a1)に戻る、処理を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0019】
かかる構成によれば、第1発振信号乃至第3発振信号のそれぞれの信号間における周波数差をそれぞれ所定の周波数差より大きくしているので、これらの発振回路の間で引き込み現象が発生することを防止することが可能となる。また、上記構成の制御回路を用いることで、容易かつ適切に、各発振信号の間の周波数差を所定の周波数差より大きくすることができる。
【0020】
さらに、上記構成の制御回路では、発振信号の周波数を調整するときに、周波数を低くする処理を行っている。これによって、周波数計測装置の消費電力を増加させることなく、発振信号の周波数を調整することができる。
【0021】
また、本発明の他の一態様の周波数計測装置は、第3吸着膜を備えた第3振動子と、前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、前記制御回路は、(a2)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も低い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を第2信号として特定し、(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、(c2−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、(c2−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を高くして前記(a1)に戻る、処理を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0022】
かかる構成によれば、前述の構成と同様、第1発振信号乃至第3発振信号のそれぞれの信号間における周波数差をそれぞれ所定の周波数差より大きくしているので、これらの発振回路の間で引き込み現象が発生することを防止することが可能となる。また、上記構成の制御回路を用いることで、容易かつ適切に、各発振信号の間の周波数差を所定の周波数差より大きくすることができる。
【0023】
また、本発明の他の一態様の周波数計測装置は、第3吸着膜を備えた第3振動子と、前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、前記制御回路は、(a1)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定し、(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、(c1−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、(c3−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を低くした後、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻る、処理を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0024】
かかる構成によれば、発振信号の周波数を低くするよう調整しながら、より短時間の処理で、第1発振信号乃至第3発振信号のそれぞれの信号間における周波数差をそれぞれ所定の周波数差より大きくすることが可能となる。
【0025】
また、本発明の他の一態様の周波数計測装置は、第3吸着膜を備えた第3振動子と、前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、前記制御回路は、(a2)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も低い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を第2信号として特定し、(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、(c2−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、(c4−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を高くした後、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻る、処理を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0026】
かかる構成によれば、発振信号の周波数を高くするよう調整しながら、より短時間の処理で、第1発振信号乃至第3発振信号のそれぞれの信号間における周波数差をそれぞれ所定の周波数差より大きくすることが可能となる。
【0027】
また、前記制御回路は、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のそれぞれの間の周波数差が所定の周波数差より大きくなったことを判定した時に前記処理を終了するよう構成されてよい。
【0028】
また、前記第1発振回路及び第2発振回路は、それぞれ、前記振動子の第1端子と第2端子との間に接続された抵抗素子と、前記第1端子と前記第2端子との間に前記抵抗素子と並列に接続されたインバーターと、前記第1端子と第1電位端子との間に接続された可変容量素子と、前記第2端子と前記第1電位端子との間に接続された第1容量素子と、を備える構成とすることができる。
【0029】
かかる構成によれば、比較的簡易な構成の発振回路を備える周波数計測装置を提供することができる。
【0030】
また、前記第1周波数調整器及び第2周波数調整器は、それぞれ、前記可変容量素子に印加される電圧を変化可能に構成された電圧調整回路をさらに備える構成とすることができる。
【0031】
かかる構成によれば、印加電圧を変化させることで容易に各発振信号の周波数を調整可能な周波数計測装置を提供することができる。
【0032】
また、前記電圧調整回路はアナログフィルタ回路を含む構成とすることができる。
【0033】
かかる構成によれば、アナログ素子を用いた簡易な構成の電圧調整回路を備える周波数計測装置を提供することができる。
【0034】
また、前記第1周波数調整器及び前記第2周波数調整器は、それぞれ、対応する前記第1発振回路または前記第2発振回路の駆動電圧を変化可能に構成された駆動電圧調整回路を含んで構成されてもよい。
【0035】
かかる構成によれば、駆動電圧を変化させるだけで、各発振信号の周波数を調整可能な周波数計測装置を提供することができる。
【0036】
また、外部から供給される1ビットの制御信号に基づいて第1選択信号及び第2選択信号を生成するシリアルパラレル変換器をさらに備え、前記駆動電圧調整回路は、前記駆動電圧の端子と第2電位端子との間に直列に接続された第1駆動電圧調整抵抗素子及び第1スイッチング素子と、前記駆動電圧の端子と第2電位端子との間に直列に、かつ前記第1駆動電圧調整抵抗素子とは並列に接続された、第2駆動電圧調整抵抗素子及び第2スイッチング素子とをさらに含んでおり、前記第1スイッチング素子は前記第1選択信号によって導通状態が変化し、前記第2スイッチング素子は前記第2選択信号によって導通状態が変化する構成とすることができる。
【0037】
かかる構成によれば、駆動電圧調整回路の複数のスイッチング素子を1ビットの制御信号で制御することが可能となる。これにより、用いられる信号線を減少させることができ、例えば、制御回路と発振回路との間の接続を容易化することができる。
【0038】
また、本願は上記いずれかの周波数計測装置を備えるニオイセンサーを含む。
【0039】
また、本願は上記周波数計測装置を備える電子機器を含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】周波数計測装置の構成例を示す図。
【図2】発振回路の構成例を示す図。
【図3】制御電位調整回路の構成例を示す図。
【図4】制御信号の波形の例を示す図。
【図5】周波数計測装置の動作を説明する第1のフローチャート。
【図6】駆動電圧生成回路の構成例を示す図。
【図7】シリアルパラレル変換器の構成例を示す図。
【図8】周波数計測装置の動作を説明する第2のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明に係る実施形態について、以下の構成に従って、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下で説明する実施形態はあくまで本発明の一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、各図面において、同一の部品には同一の符号を付しており、その説明を省略する場合がある。
1.定義
2.実施形態1
(1)周波数計測装置の構成例
(2)発振回路の構成例
(3)周波数調整器の構成例
(4)周波数計測装置の動作例
(5)実施形態1の特長
3.実施形態2
(1)周波数調整器の構成例
(2)実施形態2の特長
4.実施形態3
(1)周波数計測装置の動作例
(2)実施形態3の特長
5.補足
【0042】
<1.定義>
まず、本明細書における用語を以下のとおり定義する。
【0043】
「○○回路」(○○は任意の語。):電気的な回路によるものを含むがこれに限定されず、当該回路の機能を果たす物理的手段、又はソフトウェアで実現される機能的手段などをも含む。また、1つの回路が有する機能が2つ以上の物理的又は機能的手段により実現されても、2つ以上の回路が有する機能が1つの物理的又は機能的手段により実現されても良い。
【0044】
<2.実施形態1>
本発明の実施形態1における周波数計測装置の構成及び動作について、図1乃至図5を参照しながら説明する。
【0045】
なお、本実施形態1を含む各実施形態で説明する周波数計測装置は、カウンタ回路または制御回路で計測された周波数に基づいて、例えば周辺媒体のニオイを識別するニオイセンサーなどの機器に用いられるものである。ニオイセンサーにおいては、各実施形態で説明する周波数計測装置に加えてニオイ識別用のデータベースを準備する。そして、周波数計測装置で計測された各発振回路から出力される周波数の変化に基づいてデータベースのデータを参照し、ニオイを識別することが可能になっている。以下においてはニオイセンサーなどの機器についての具体的な説明は行わず、本願における発明の特徴的部分である周波数測定装置について説明している。
【0046】
<(1)周波数計測装置の構成例>
図1は、本実施形態1における周波数計測装置の構成を示す図である。図1に示すように、周波数計測装置は、水晶振動子100a〜100x、発振回路110a〜110x、カウンタ回路120a〜120x、及び制御回路130を含んで構成される。すなわち、周波数計測装置は、水晶振動子100、発振回路110、及びカウンタ回路120からなる構成を複数組(n組)備え、これらの構成における複数のカウンタ回路120に接続された1つの制御回路130を備える構成となっている。
【0047】
<水晶振動子100a〜100x>
水晶振動子100a〜100xは、表面と裏面とに電極対が形成され、この電極対を介して、それぞれ発振回路110a〜110xに接続されるよう構成されている。水晶振動子100a〜100xは、この電極対に電圧を印加することにより、表面と裏面とが互い違いにスライドして振動する、いわゆる厚みすべり振動モードで動作する。また、水晶振動子100a〜100xは同一の基板上に設けられている。
【0048】
水晶振動子100a〜100xの電極の表面には、特定の物質を吸着する特性を有する吸着膜が設けられている。水晶振動子100a〜100xの周辺媒体は主に気体であるが、液体または気体と液体との混合物などであってもよい。この吸着膜は、水晶振動子毎に異なる膜が用いられ、本実施形態においては、水晶振動子100a〜100xはそれぞれ異なる吸着膜を備えている。吸着膜は、水晶振動子100a〜100xの片面、または両面に形成されるが、両面に形成することが好ましい。このように吸着膜を両面に形成した場合、片面に形成するより効果的に吸着の対象となる物質を吸着することができる。なお、吸着膜としては、ポリマー膜、脂質膜、たんぱく質膜、又は単分子膜のいずれかが用いられる。また、吸着膜の種類によって吸着しやすい分子の種類が異なることが好ましい。
【0049】
なお、上記構成ではすべての水晶振動子100a〜100xが吸着膜を備える構成としたが、これらの水晶振動子100a〜100xのうちの1つに吸着膜を備えない構成としてもよい。この場合、吸着膜を備えない水晶振動子100aに接続された発振回路110aから出力される発振信号は吸着膜に付着した物質によって周波数が変化するものではないため、基準周波数を有する信号として利用することができる。
【0050】
<発振回路110a〜110x>
発振回路110a〜110xは、それぞれ水晶振動子100a〜100xに接続されるよう配置される。発振回路110a〜110xはそれぞれ発振信号118a〜118xを出力可能に構成される。また、発振回路110a〜110xはそれぞれ周波数調整器を備えており、これらの周波数調整器は、発振信号118a〜118xの周波数を調整可能に構成されている。発振回路110a〜110xの具体的な構成及び機能については後述する。
【0051】
<カウンタ回路120a〜120x>
カウンタ回路120a〜120xは、それぞれ発振回路110a〜110xに接続されるよう配置される。カウンタ回路120a〜120xは、それぞれ対応する発振回路110a〜110xから入力された発振信号118a〜118xの変化数をカウントし、カウント結果を一定時間毎に制御回路130に出力するよう構成されている。カウンタ回路120a〜120xによるカウントは、各発振信号118a〜118xの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジの発生数をカウントするのが一般的であるが、これに限るものではない。
【0052】
なお、本実施形態1では、それぞれ発振回路110a〜110xに対応する複数のカウンタ回路120a〜120xを設ける構成としているが、複数のカウンタ回路120a〜120xを1つの構成としてもよい。
【0053】
<制御回路130>
制御回路130は、カウンタ回路120a〜120xから入力されたカウント結果に基づいて、発振回路110a〜110xが出力する発振信号118a〜118xのそれぞれの周波数を演算によって導出するよう構成されている。さらに制御回路130は、導出した各発振信号118a〜118xの周波数に基づいて、発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差が所定の周波数差より大きくなるように、発振回路110a〜110xのそれぞれに含まれる周波数調整器を制御するための制御信号140a〜140xを出力する。制御回路130による制御の具体的な方法については後述する。
【0054】
<(2)発振回路の構成例>
図2は、本実施形態1における発振回路の構成例を示す図である。図2に示すように、発振回路110は、抵抗素子111、インバーター112及び113、負荷容量114及び115、可変容量ダイオード116、並びに制御電位調整回路119を含んで構成される。この構成は、いわゆるコルピッツ発振回路となっているが、発振回路で生成される発振信号の周波数を調整可能にするため、負荷容量の一部として可変容量ダイオード116を含む。
【0055】
抵抗素子111は、水晶振動子100の2つの端子間に接続されるよう配置される。インバーター112は、水晶振動子100の2つの端子間に、抵抗素子111と並列に接続されるよう配置される。インバーター113は、入力端子がインバーター112の出力端子に接続されるよう配置され、出力端子からは発振信号118が出力される。負荷容量114は、水晶振動子100の一方の端子と接地電位端子との間に接続されるよう配置される。負荷容量115は、水晶振動子100の他方の端子と可変容量ダイオード116との間に接続されて配置される。可変容量ダイオード116は、負荷容量115の一端子と接地電位端子との間に接続されて配置される。制御電位調整回路119は、負荷容量115と可変容量ダイオード116との間に接続されて配置される。
【0056】
ここで、可変容量ダイオード116は、両端に印加される電圧によって容量が変化する素子である。本実施形態1では、接地電位端子に印加される電位は一定の接地電位であり、制御電位117は制御可能な電位である。よって、可変容量ダイオード116の容量は、制御電位117を変化させることで変化する。可変容量ダイオード116の容量が変化すると、発振回路110を構成する容量のパラメーターが変化し、これによって発振回路110から出力される発振信号118の周波数が変化する。つまり、本実施形態1の周波数測定装置では、可変容量ダイオード116及び制御電位調整回路119が、発振回路110から出力される発振信号の周波数を調整可能な周波数調整器として機能する。
【0057】
制御電位調整回路119は、入力信号である制御信号140に基づいて制御電位117を生成して出力する。
【0058】
<(3)制御電位調整回路の構成例>
図3は、制御電位調整回路119の具体的な構成例を示す図である。図3に示すように、制御電位調整回路119は抵抗素子300、310、及び320、並びに容量素子330を含んで構成される。制御電位調整回路119は、制御回路130から入力される制御信号140に基づいて制御電位117を生成し、発振回路110へ供給する。
【0059】
抵抗素子300及び310は、制御信号140が入力される端子と制御電位117が出力される端子との間に直列に接続される。抵抗素子320は、抵抗素子300と抵抗素子310との間の端子と、容量素子330の一方の端子との間に接続される。容量素子330は、抵抗素子320の一方の端子と、接地電位端子との間に接続される。
【0060】
図4は、制御電位調整回路119に入力される制御信号140を、電圧の時間変化として示す図である。制御信号140はディジタル信号であって、所定の電位と接地電位との2つの電位との間で変化する。図4に示すような制御信号140を入力すると、制御電位調整回路119を構成するアナログ素子がローパスフィルタの役割を果たし、制御電位117の端子には所定の電位が現れる。制御電位117は、制御信号140のパルスの発生タイミングやパルス幅によって決定される。
【0061】
<(4)周波数計測装置の動作例>
ここで、周波数計測装置の引き込み現象防止のための周波数調整機構に関する具体的な動作例について、図5を参照しながら説明する。
【0062】
周波数計測装置の引き込み現象防止のための周波数調整機構の動作がスタートすると(S200)、制御回路130は、計測した発振信号118a〜118xのそれぞれの周波数fa〜fxを制御回路130内の記憶領域に保存する(S210)。次に、制御回路130は、保存した周波数fa〜fxを周波数の高い順に並び替える(S220)。ここでは説明の便宜上、周波数の高いものから改めて次のように記号を付与し、f1>f2>f3>・・・>fnとする。次に、制御回路130は、変数iを1として初期化する(S230)。次に、制御回路130は、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fd(例えば100Hz)より大きいか否かを判定する(S240)。ここで、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fdより大きかった場合は(Yes)、制御回路130は変数iに1を加算する(S250)。そして、変数iが発振信号118の数nと等しかった場合には(Yes)、制御回路130は処理を終了する(S280)。一方で変数iが発振信号118の数nより小さかった場合には(No)、制御回路130はS240に戻って処理を再開する。
【0063】
ところで、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fdより大きいか否かを判定した結果(S240)、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fd以下であった場合には(No)、制御回路130はf2の周波数を所定の周波数(例えば50Hz)低くするよう、周波数fi+1に対応する発振信号118を出力する発振回路110へ制御信号140を出力する(S270)。その後、制御回路130はS210からの処理を繰り返す。
【0064】
周波数計測装置の具体的な動作を示すフローチャートとしては上記のとおりであるが、以下の概念で示すこともできる。
【0065】
まず、制御回路130は、(a1)カウンタ回路120a〜120xで計測された周波数に基づいて、発振信号118a〜118xのうちで最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定する。
【0066】
次に、制御回路130は、(b)第1信号と第2信号とを比較する。比較の結果、(c1−1)第1信号の周波数f1と第2信号の周波数f2との間の周波数差が所定の周波数差fd(例えば100Hz)より大きかったときは、制御回路130は、発振信号118a〜118xのうち最も低い周波数を有する信号が第2信号になるまで、第2信号を新たな第1信号として特定し、新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな第2信号として特定して(b)に戻る。一方で、(c1−2)第1信号と第2信号との間の周波数差が所定の周波数差fd以下であったときは、制御回路130は、第2信号を出力する発振回路110a〜110xのいずれかに対応する周波数調整器を制御して、第2信号の周波数を低くして(a1)に戻る。
【0067】
このように動作することで、制御回路130は、発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差を所定の周波数差より大きくするよう、周波数調整器を制御することができる。
【0068】
なお、上記の説明においては、発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差fdが100Hzより大きくなるよう発振信号の周波数を調整しているが、この周波数差fdは必ずしも100Hzに限るものではない。ただし、この周波数差fdを100Hz以上にすることで引き込み現象が発生しないことが経験的に分かっている。また、この周波数差fdを50Hz以上に設定すれば、引き込み現象はほぼ発生しないことが経験的に分かっている。したがって、発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差fdは、50Hz以上とすることが好ましく、100Hz以上とすることがより好ましいといえる。
【0069】
また、上記説明においては、制御回路130は周波数fa〜fnを周波数の高い順に並び替えて(S220)一連の処理を行ったが、逆に周波数fa〜fnを周波数の低い順に並び替えて一連の処理を行ってもよい。この場合、S270においては、制御回路130は第2信号の周波数を所定の周波数高くするよう、第2信号に対応する発振信号118を出力する発振回路110へ制御信号140を出力することとなる点などにおいて、上記のフローチャートとは異なる動作になる。
【0070】
なお、上記の動作は周波数測定装置の動作中に引き込み現象が発生しないようにするための調整であり、所定の頻度で実行することが好ましい。例えば、周波数測定装置を用いて周辺媒体に含まれるニオイを検出する場合において、検出の初期調整として実行され得る。さらに、所定の時間毎に調整を実行することが好ましい。ただし、調整中に周辺媒体の変化によって発振信号の周波数が変化すると調整が困難になるため、調整中は周辺媒体が変化しないような措置をとることが好ましい。
【0071】
また、周波数測定装置が調整中であることを示すために、調整中であることをユーザーに告知するための表示部または音声発生部を設けてもよい。これにより、ユーザーは周波数測定装置が調整中であることを認識できる。より好ましくは、周波数測定装置に含まれる水晶振動子の周辺に媒体を送り込む流路に、弁を設けるとよい。また、水晶振動子の周辺に、無臭空気などの安定した媒体を送り込む機構を備えてもよい。
【0072】
<(5)実施形態1の特長>
上記のように構成された周波数計測装置によれば、各発振回路110a〜110xから出力される発振信号118a〜118xの間のそれぞれの周波数差を所定の周波数差より大きくしているので、発振回路110a〜110xの間で引き込み現象が発生することを防止することができる。ひいては、引き込み現象により周波数計測装置の動作に不具合が発生することを防止することができる。
【0073】
また、制御回路130が、周波数fa〜fnを周波数の高い順に並び替えて(S220)一連の処理を行う場合、発振信号118a〜118xの周波数を調整するときに、周波数を低くする処理を行っている。これによれば、周波数計測装置の消費電力を増加させることなく、発振信号118a〜118xの周波数を調整することができる。
【0074】
一方で、制御回路130が、周波数fa〜fnを周波数の低い順に並び替えて(S220)一連の処理を行う場合、発振信号118a〜118xの周波数を調整するときに、周波数を高くする処理を行っている。この方法でも、発振信号118a〜118xの周波数を適切に調整することができる。
【0075】
また、本実施形態1で示した発振回路を採用すれば、比較的簡易な構成の発振回路110a〜110xを備える周波数計測装置を提供することができる。
【0076】
また、本実施形態1で示したように、周波数調整器が可変容量ダイオード116に印加される電圧を変化可能に構成された制御電位調整回路(電圧調整回路)をさらに備える構成とすれば、印加電圧を変化させることで容易に各発振信号118a〜118xの周波数を調整可能な周波数計測装置を提供することができる。
【0077】
また、本実施形態1では、制御電位調整回路はアナログフィルタ回路によって構成されている。これによって、アナログ素子を用いた簡易な構成の制御電位調整回路を備える周波数計測装置を提供することができる。
【0078】
<3.実施形態2>
次に、本発明の実施形態2について、図6及び図7を参照しながら説明する。本実施形態2では、実施形態1とは異なる周波数調整器を備えており、この周波数調整器は駆動電圧生成回路により構成される。したがって、本実施形態2では、実施形態1の周波数計測装置が備えていた可変容量ダイオード116及び制御電位調整回路119は必ずしも備える必要はない。
【0079】
<(1)駆動電圧生成回路の構成例>
図6は、周波数調整器として機能する駆動電圧生成回路400の具体的な構成と、駆動電圧生成回路400に接続された発振回路110、及び水晶振動子100を示す図である。駆動電圧生成回路400は、電源電位430及び選択信号440を入力とし、発振回路110に駆動電圧450を供給するよう構成される。より具体的には、駆動電圧生成回路400は、複数の抵抗素子410a〜410c及び複数のスイッチング素子420a〜420cを備えて構成される。複数の抵抗素子410a〜410cと複数のスイッチング素子420a〜420cとは、それぞれ1つずつが組になるよう構成される。抵抗素子410a〜410cとスイッチング素子420a〜420cとからなる各組は、一方の端子が電源電位端子430に接続され、他方の端子が駆動電圧端子450に接続される。複数のスイッチング素子420a〜420cには、それぞれ選択信号440が入力され、それぞれのスイッチング素子420a〜420cは、選択信号440によってその導通状態を変化される。
【0080】
ここで、複数の抵抗素子410a〜410cは、それぞれ抵抗値が異なっている。この構成によって、それぞれの抵抗素子410a〜410cによって起こる電圧降下が異なり、結果的に選択信号440によって駆動電圧450を変化させることができる。
【0081】
本実施形態2の駆動電圧生成回路によれば、上記のようにして発振回路110に印加する駆動電圧450を変化可能となる。駆動電圧450が変化すると、発振回路110を構成するインバーター112を駆動する電圧が変化する。これによって発振回路110から出力される発振信号118の周波数を調整することが可能となる。
【0082】
上記のとおり、本実施形態2では、駆動電圧生成回路400の入力信号が複数ビットの選択信号440を含む。この選択信号440は制御回路130によって制御される信号であるが、制御回路130が複数ビットの選択信号440を出力すると配線数が多くなってしまう。そこで、本実施形態2では、制御回路130が出力する制御信号140を1ビットの信号とし、この制御信号140に基づいて複数ビットの選択信号440を生成するためのシリアルパラレル変換器を備えている。
【0083】
図7は、本実施形態2におけるシリアルパラレル変換器を示す図である。図7に示すように、シリアルパラレル変換器460は、1ビットの制御信号140を、複数ビットの選択信号440に変換するよう構成されている。シリアルパラレル変換器460は従来から当業者に知られる構成により実現可能である。
【0084】
ここで、シリアルパラレル変換器460は、出力する選択信号440をホールドできる機能を備えることが好ましい。これによれば、一度制御信号140を受け取った後は、発振周波数の調整が必要とならない限り制御信号140を停止することができる。
【0085】
なお、駆動電圧生成回路400及びシリアルパラレル変換器460は、周波数計測装置に含まれる発振回路110がそれぞれ有するものであって、発振回路110の構成の一部である。
【0086】
また、駆動電圧生成回路400は上記の構成に限るものではなく、降圧回路などの他の構成によっても実現可能であり、当業者が容易に考え得る構成も本発明に含まれるものである。ただし、上記構成は、簡易な構成の駆動電圧生成回路400を提供することができる点において好ましい。
【0087】
<(2)実施形態2の特長>
上記のように構成された周波数計測装置によれば、周波数調整器としての駆動電圧生成回路400を備えるものとした。これによって、周波数測定装置が備える複数の発振回路110を一般的な構成にしつつ、駆動電圧を変化させるだけで各発振信号118の周波数を調整可能な周波数計測装置を提供することができる。
【0088】
また、本実施形態2のようにシリアルパラレル変換器460を備えることで、駆動電圧生成回路400に含まれる複数のスイッチング素子420a〜420cを1ビットの制御信号140で制御することが可能となる。これによって、用いられる信号線を減少させることができ、例えば、制御回路130と発振回路110との間の接続を容易化することができる。
【0089】
<4.実施形態3>
次に、本発明の実施形態3について、図8を参照しながら説明する。本実施形態3は、周波数計測装置の構成自体は実施形態1と同様であるものの、周波数計測装置の動作が異なる。より具体的には、本実施形態3では変数iの初期化タイミングを変更している。これにより、実施形態1ではいずれかの発振信号の周波数が変化する度にすべての発振信号について再度確認を行っていたのに対し、本実施形態3では既に確認の終了した発振信号については再度確認することなく、次の発振信号について確認をするものである。以下、本実施形態3における周波数計測装置の動作について具体的に説明する。
【0090】
周波数計測装置の動作がスタートすると(S500)、制御回路130は変数iを1として初期化する(S510)。次に制御回路130は、計測した発振信号118a〜118xのそれぞれの周波数fa〜fxを制御回路130内の記憶領域に保存する(S520)。次に、制御回路130は、保存した周波数fa〜fxを周波数の高い順に並び替える(S530)。ここでは説明の便宜上、周波数の高いものから改めて次のように記号を付与し、f1>f2>f3>・・・>fnとする。次に、制御回路130は、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fd(例えば100Hz)より大きいか否かを判定する(S540)。ここで、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fdより大きかった場合は(Yes)、制御回路130は変数iに1を加算する(S550)。そして、変数iが発振信号118の数nと等しかった場合には(Yes)、制御回路130は処理を終了する(S580)。一方で変数iが発振信号118の数nより小さかった場合には(No)、制御回路130はS540に戻って処理を再開する。
【0091】
ところで、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fdより大きいか否かを判定した結果(S540)、周波数fiと周波数fi+1との差が所定の周波数差fd以下であった場合には(No)、制御回路130はfi+1の周波数を所定の周波数(例えば50Hz)低くするよう、周波数fi+1に対応する発振信号118を出力する発振回路110へ制御信号140を出力する(S570)。その後、制御回路130はS520からの処理を繰り返す。
【0092】
周波数計測装置の具体的な動作を示すフローチャートとしては上記のとおりであるが、以下の概念で示すこともできる。
【0093】
まず、制御回路130は、(a1)カウンタ回路120a〜120xで計測された周波数に基づいて、発振信号118a〜118xのうちで最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定する。
【0094】
次に、制御回路130は、(b)第1信号と第2信号とを比較する。比較の結果、(c1−1)第1信号の周波数と第2信号の周波数との間の周波数差が所定の周波数差fd(例えば100Hz)より大きかったときは、制御回路130は、発振信号118a〜118xのうち最も低い周波数を有する信号が第2信号になるまで、第2信号を新たな第1信号として特定し、新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな第2信号として特定して(b)に戻る。一方で、(c3−2)第1信号と第2信号との間の周波数差が所定の周波数差fd以下であったときは、制御回路130は、第2信号を出力する発振回路110a〜110xのいずれかに対応する周波数調整器を制御して、第2信号の周波数を低くする。その後、制御回路130は、第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな第2信号として特定して(b)に戻る。
【0095】
このように動作することで、実施形態1と同様、制御回路130は発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差を所定の周波数差より大きくするよう、周波数調整器を制御することができる。
【0096】
また、上記説明においては、制御回路130は周波数fa〜fnを周波数の高い順に並び替えて(S530)一連の処理を行ったが、逆に周波数fa〜fnを周波数の低い順に並び替えて一連の処理を行ってもよい点は実施形態1と同様である。この場合、S570においては、制御回路130は第2信号の周波数を所定の周波数高くするよう、第2信号に対応する発振信号118を出力する発振回路110へ制御信号140を出力することとなる点などにおいて、上記のフローチャートとは異なる動作になる。
【0097】
<(5)実施形態1の特長>
本実施形態3の動作によれば、実施形態1の動作と比較して、より短時間の処理で発振信号118a〜118xのそれぞれの間の周波数差を所定の周波数差より大きくするよう、周波数調整器を制御することができる。
【0098】
<5.補足>
上記周波数計測装置は、ニオイセンサーなどのセンサーに適用可能なほか、様々な電子機器に適用可能である。
【0099】
なお、各実施形態で説明した周波数計測装置においては、カウンタ回路120は発振信号118の変化数をカウントしてカウント結果を出力し、制御回路130が発振信号118の周波数を導出していたが、この構成に限るものではない。例えば、カウンタ回路120に代えて周波数計測回路を配置してもよく、この場合は周波数計測回路が発振信号118の周波数を導出し、導出した周波数に関する情報を制御回路130に出力してもよい。
【0100】
また、各実施形態で説明した周波数測定装置においては、制御回路130は発振信号118から周波数を導出していたが、必ずしも周波数そのものを導出しなくてもよく、同等なものを用いることが可能である。例えば、発振信号118の周期を求めれば必ずしも周波数を導出しなくとも周波数の調整が可能である。すなわち、制御回路130は、間接的に、発振信号118の周波数を計測してもよい。
【0101】
また、実施形態においては水晶振動子100を用いているが、他の振動子を用いてもよい。
【0102】
また、上記で説明した各実施形態は、互いに組み合わせることも可能である。例えば、実施形態2の周波数調整器を備え、実施形態3の動作をする周波数測定装置も構成可能である。
【符号の説明】
【0103】
100・100a〜100x……水晶振動子、110・110a〜110x……発振回路、111……抵抗素子、112・113……インバーター、114・115……負荷容量、116……可変容量ダイオード、117……制御電位、118・118a〜118x……発振信号、119……制御電位調整回路、120・120a〜120x……カウンタ回路、130……制御回路、140・140a〜140x……制御信号、300・310・320……抵抗素子、330……容量素子、400……駆動電圧生成回路、410a〜410c……抵抗素子、420a〜420c……スイッチング素子、430……電源電位(端子)、440……選択信号、450……駆動電圧(端子)、460……シリアルパラレル変換器、fa〜fx……周波数、fd……周波数差、i……変数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1吸着膜を備えた第1振動子と、
第2吸着膜を備えた第2振動子と、
前記第1振動子に接続され、周波数を調整可能に第1発振信号を出力する第1周波数調整器を備えた第1発振回路と、
前記第2振動子に接続され、周波数を調整可能に第2発振信号を出力する第2周波数調整器を備えた第2発振回路と、
前記第1発振信号及び前記第2発振信号の周波数をそれぞれ計測可能に構成された計測回路と、
前記計測回路による計測結果に基づいて、前記第1発振信号と前記第2発振信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きくなるように前記第1周波数調整器及び前記第2周波数調整器を制御可能に構成された制御回路と、を備える、
周波数計測装置。
【請求項2】
第3吸着膜を備えた第3振動子と、
前記第3振動子に接続され、周波数を調整可能に第3発振信号を出力する第3周波数調整器を備えた第3発振回路と、
をさらに備え、
前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、
前記制御回路は、
(a1)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定し、
(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、
(c1−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、
(c1−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を低くして前記(a1)に戻る、処理を実行可能に構成された、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項3】
第3吸着膜を備えた第3振動子と、
前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、
をさらに備え、
前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、
前記制御回路は、
(a2)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も低い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を第2信号として特定し、
(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、
(c2−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、
(c2−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を高くして前記(a1)に戻る、処理を実行可能に構成された、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項4】
第3吸着膜を備えた第3振動子と、
前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、
をさらに備え、
前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、
前記制御回路は、
(a1)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も高い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を第2信号として特定し、
(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、
(c1−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、
(c3−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を低くした後、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち前記第1信号の次に高い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻る、処理を実行可能に構成された、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項5】
第3吸着膜を備えた第3振動子と、
前記第3振動子に接続され、第3周波数調整器によって調整可能な周波数を有する第3発振信号を出力可能に構成された第3発振回路と、
前記計測回路はさらに、前記第3発振信号の周波数を計測可能に構成され、
前記制御回路は、
(a2)前記計測回路で計測された周波数に基づいて、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち、最も低い周波数を有する信号を第1信号として特定し、前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を第2信号として特定し、
(b)前記第1信号と前記第2信号とを比較し、
(c2−1)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差より大きかったときは、前記第2信号を新たな前記第1信号として特定し、前記新たな第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻り、
(c4−2)前記第1信号と前記第2信号との間の周波数差が所定の周波数差以下であったときは、前記第2信号を出力する発振回路に対応する周波数調整器を制御して前記第2信号の周波数を高くした後、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のうち前記第1信号の次に低い周波数を有する信号を新たな前記第2信号として特定して前記(b)に戻る、処理を実行可能に構成された、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記第1発振信号、前記第2発振信号、及び前記第3発振信号のそれぞれの間の周波数差が所定の周波数差より大きくなったことを判定した時に前記処理を終了する、
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の周波数計測装置。
【請求項7】
前記第1発振回路及び第2発振回路は、それぞれ、
前記振動子の第1端子と第2端子との間に接続された抵抗素子と、
前記第1端子と前記第2端子との間に前記抵抗素子と並列に接続されたインバーターと、
前記第1端子と第1電位端子との間に接続された可変容量素子と、
前記第2端子と前記第1電位端子との間に接続された第1容量素子と、
を備える、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項8】
前記第1周波数調整器及び第2周波数調整器は、それぞれ、
前記可変容量素子に印加される電圧を変化可能に構成された電圧調整回路をさらに備える、
請求項7に記載の周波数計測装置。
【請求項9】
前記電圧調整回路はアナログフィルタ回路を含む、
請求項8に記載の周波数計測装置。
【請求項10】
前記第1周波数調整器及び前記第2周波数調整器は、それぞれ、
対応する前記第1発振回路または前記第2発振回路の駆動電圧を変化可能に構成された駆動電圧調整回路を含んで構成される、
請求項1に記載の周波数計測装置。
【請求項11】
外部から供給される1ビットの制御信号に基づいて第1選択信号及び第2選択信号を生成するシリアルパラレル変換器をさらに備え、
前記駆動電圧調整回路は、
前記駆動電圧の端子と第2電位端子との間に直列に接続された第1駆動電圧調整抵抗素子及び第1スイッチング素子と、
前記駆動電圧の端子と第2電位端子との間に直列に、かつ前記第1駆動電圧調整抵抗素子とは並列に接続された、第2駆動電圧調整抵抗素子及び第2スイッチング素子とをさらに含んでおり、
前記第1スイッチング素子は前記第1選択信号によって導通状態が変化し、前記第2スイッチング素子は前記第2選択信号によって導通状態が変化する、
請求項10に記載の周波数計測装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の周波数計測装置を備えたニオイセンサー。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の周波数計測装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−2643(P2012−2643A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137267(P2010−137267)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)