説明

呼吸器系疾患の予防と治療方法

【課題】抗生物質や抗インフルエンザ薬が効果を発揮しない呼吸器系疾患の予防と治療方法を提供する。とくにインフルエンザの場合、副作用の懸念があるワクチン接種が不要で、ウイルスが増殖し、抗インフルエンザ薬が効かないほど重篤化した場合にも治療に有効な方法を提供する。
【解決手段】生体防御機構の好中球が異物貪食の際に発生する次亜塩素酸HOClの水溶液から微細な蒸気を発生し、これを吸引することによって、鼻・喉・気管・気管支・肺に至る気道表面の粘膜に感染・増殖している病原菌・ウイルスを殺滅する。好中球と同じ純粋な次亜塩素酸HOClは、次亜塩素酸ナトリウムを原料とし、陽イオン交換膜を用いる電気分解の方法で生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、図1のように、鼻から喉、さらに気管への上気道・下気道を経由して肺に至る粘膜上皮、及び肺胞に付着・生息している細菌・ウイルスを殺滅して、鼻腔の炎症、気管及び気管支の炎症、肺の炎症の予防と治療を行うことに関するものである。
【背景技術】
【0002】
呼吸器疾患の起因には、ウイルスと病原菌の両方がある。結核等に救世主として登場した抗生物質は、ウイルスには効果が無い。抗生物質は、ウイルスに比較して複雑な構造・成分・代謝の病原菌を、人体に副作用が無いように、ピンポイントで攻撃できるからである。ウイルスの場合は病原菌よりも構造・代謝が簡単なので攻撃ポイントが限られる。抗インフルエンザ薬と知られるタミフル(中外製薬)、リレンザ(グラクソスミスクライン社)、近日発売予定のペラミビル(塩野義製薬)、CS−8598(第−三共)は、ウイルスの増殖過程を疎外するものであって、ウイルスそのものを殺滅できない。発熱し、タミフルやリレンザを投与されたが、重症肺炎になり、死亡した新型インフルエンザ患者の報道が絶えない。2002年11月から2003年にかけて新型インフルエンザの大流行開始と疑われたSARS(重症性呼吸器症候群)の原因は新種のコロナウイルスで、当初、ペニシリンが効かないので非定型性肺炎とされた。
【0003】
菌に有効な筈の抗生物質は、使用が広がるに連れて効果が無くなる。菌が自ら変異して、複雑な構造の抗生物質の攻撃方法を逃れる<耐性>を菌が獲得するからである。同様な<耐性>問題は、タミフルやリレンザの抗インフルエンザ薬にも発生している。いずれの場合も、菌・ウイルスの分裂・増殖の世代交代が速いので、変異によって<耐性>を獲得したものが生き残るからである。
【0004】
薬剤の共通の問題として、感染部位・炎症部位だけに集中的に届かないことである。カプセル・錠剤の場合は小腸から血管に浸透して、皮下注射・点滴剤の場合は直接に血管に入って全身に送られる。そのため、薬剤が感染部位・炎症部位に届くのが遅れて、届く量も不十分になり薬効が薄れる。逆に、感染部位・炎症部位でない部位に薬剤が届くので副作用の弊害を招く。
【0005】
生体の免疫機能を利用するワクチンでは、病原菌・病原ウイルスを弱らせたものまたはそれらを分割した一部を皮下注射する。これらは病原物であるから、注射箇所に炎症を起こしたり、ワクチン接種者の健康状態・免疫力の違いにより、重篤な副作用が発生している。副作用の弊害は、抗体の発現能力を高めるために補助剤が添加される場合はさらに懸念され、グラクソスミスクライン社の新型インフルエンザの場合、カナダでは中止されて回収された([非特許文献1])。さらに、体内に不完全な抗体ができることによって同じタイプの感染症を発症しやすくなる他、発症したときの症状が重くなる「抗体依存性感染増強現象」と呼ばれる弊害がある。
【0006】
インフルエンザワクチンの基本問題は、感染予防には無力であることである。飛沫感染として、空気を吸入する鼻、喉の気道の表面の細胞にインフルエンザウイルスが感染する。ここには血液中にあるワクチンから生成された抗体は届いていない。気道の表面細胞からウイルスが大増殖して皮下の血管に達してから、即ち、重症化してから効果を発揮するとされているが、新型インフルエンザワクチンの接種者から既に死者が発生している([非特許文献2])。従来のインフルエンザワクチンの場合にも、ワクチンを接種していたが死亡した例は何件もある([非特許文献3])。インフルエンザワクチンについては、かつて日本では公衆衛生上から弊害があるのに効果が無い([非特許文献4)として生産が激減された経緯がある。
【0007】
2009年の新型インフルエンザの流行で重症化・死亡した患者の特徴は、鼻・喉・気管・気管支だけでなく、肺に重篤な炎症を起こしていることである([非特許文献5])。発熱し、抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザの投与は効果が無く、最後は集中治療室で人工呼吸器・酸素吸入器を装着されて呼吸を確保しても死亡するか、助かっても脳症の後遺症が残ることが連日報道されている。
【非特許文献1】東京新聞2009年11月24日
【非特許文献2】東京新聞2009年11月26日
【非特許文献3】東京新聞2009年 1月18日
【非特許文献4】ワクチン非接種地域におけるインフルエンザ流行状況:前橋市インフルエンザ研究班・前橋市医師会・由上修三班長
【非特許文献5】インフルエンザパンデミック:第6、9章:河岡・堀元、講談社
【0008】
新型インフルエンザで重症化するとウイルス性肺炎になり、多くは死亡する。肺炎の原因には、ウイルスだけでなく結核菌をはじめとする非結核性抗酸菌、肺炎球菌、MRSA、肺真菌、口腔内菌(誤嚥性肺炎の原因)、マイコプラズマ等の病原菌や微生物が多数存在する。いずれにも抗生物質が特効薬とされるが、上記のように、<耐性化>の問題、薬剤が肺の患部に集中できない等、共通の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、死に至る呼吸器系疾患の原因の病原菌とウイルスを副作用なく直接に殺滅することである。インフルエンザの場合、ウイルスそのものには毒性は無いが、ウイルスの増殖が進むと生体の防御機構が働き、サイトカインという防御伝達物質が分泌され、全身の各所で発熱、悪寒、筋肉痛、関節痛、脳症等さまざまな症状が発生する。これら諸症状に対処療法として解熱、痛み止めを施しても、ウイルスの増殖とサイトカインの発生は進行するので、死に至る例が多く報道されて居る。原因のウイルス、病原菌を一刻も早く殺滅しなければならない。
医薬品の安全性の条件は、病原性ウイルス・菌に対して、必要な強さで、必要な量を、必要な時に(残留しない)、必要な場所(感染・炎症患部)にだけ届き、治療目的患部以外には副作用が無い、殺滅効果を減じる<耐性>問題が無いことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決する手段として、次亜塩素酸を利用する。次亜塩素酸は、生体内の白血球の防御機構として、マクロファージから進化した好中球([非特許文献6])が異物貪食する最後の止めとして生成するものである([非特許文献7])。次亜塩素酸HOClは、ヒドロキシラジカル・OHと塩素原子・Clに分かれて反応する([非特許文献8])。
ヒドロキシラジカル・OHは最強の活性酸素であり、進化の前段階のマクロファージの場合はこれよりずっと弱いOを生成する。ヒドロキシラジカル・OHは蛋白質を構成するアミノ酸を架橋し、蛋白質を凝固変性する。このことは、鶏卵の透明な白身に次亜塩素酸水を注ぐと瞬時に白濁することから容易に分かる。次亜塩素酸HOClは、水素・酸素・塩素の3原子分子で抗生物質・抗インフルエンザ薬に比べてずっと小さく、単純な化学反応をする。そのため、複雑な抗生物質・抗インフルエンザ薬の反応の場合のような<耐性>問題を生じない。また、蛋白質のような有機物に触れると次第に分解するので、残留することは無い。
【非特許文献6】「絵でわかる免疫」;安保 徹、講談社
【非特許文献7】細菌の感染とこれに対する防御のしくみ−細菌と生体の共存と戦い;金ケ崎史郎(生物の科学−遺伝、1998年4月号、P53)
【非特許文献8】次亜塩素酸のレーザ光分解による塩素原子およびヒトロキシラジカルの生成:徳村、谷口、島(光化学協会光化学討論会、平成13年9月11日発表)
【0011】
次亜塩素酸HOClは、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを原料として電気分解の方法で、次亜塩素酸水として生成する。次亜塩素酸HOClは単独では存在できず、水溶液として水分子に水和して存在するからである。
図2の如く、陽イオン交換膜で隔てられた水の電気分解の構成で、陽極室側に次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を入れると、[化2]の如く陽電極で発生する水素イオンHと陰イオンの次亜塩素酸イオンClOが[化1]の如く結合して中性の次亜塩素酸HOCl分子ができる。次亜塩素酸が中性の分子として析出するのは、次亜塩素酸が陽電極で発生する強酸相当の水素イオンHに比べて弱酸性であるからである。陽極室のNa陽イオンは陽イオン交換膜を通過して陰電極に吸引される。陰極室では、Na陽イオンと[化3]の如く陰電極で発生する水酸化物イオンOHとで、[化1]の如く苛性ソーダNaOHが生成される。陽電極と陰電極でそれぞれ発生する水素イオンHと水酸化物イオンOHの量は、陽電極と陰電極の間に流れる電流と通電時間に比例し、陽極室側に入れられる次亜塩素酸ナトリウムNaClOの濃度に依存する。陽極室は次亜塩素酸ナトリウム水溶液のアルカリ性から次第に酸性の次亜塩素酸水に変化し、逆に陰極室は中性の水からアルカリ性の苛性ソーダに変化する。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に含まれる不純物は、陽イオンは陽イオン交換膜を通過して陰極室に分離され、陰イオンは陽電極の多孔性電極に吸引析出される。この様にして純粋な次亜塩素酸水が得られる。[化2]では陽極に酸素が、[化3]では陰極に水素が発生するが、各室の生成液の液面表面から散逸放出される。図2の陽イオン交換膜1にはフッ素樹脂の陽イオン交換膜が、陽電極3・陰電極4には多孔性の炭素電極が使用される。
【化1】

【化2】

【化3】

【0012】
呼吸器系疾患の予防と治療には、次亜塩素酸水を病原菌・ウイルスに感染している鼻から肺への空気の通り道の気道表面に蒸気として送り届ける。鼻の役割は、吸気を体温近い36℃に加熱し、この温度の100%近い飽和蒸気に加湿することである。標準の呼吸では、700CC/回、7L/分、約1万L/日の空気が吸込まれる。飽和水蒸気量は図3のグラフのようになる。図1左下の蒸気発生器のように、次亜塩素酸水を40℃に加熱して発生蒸気を吸引すると、温度低下を見込みグラフの36℃から蒸気水量を42g/1000Lとすると、1時間当り、約17g(17cc)の次亜塩素酸水が気道の奥の肺まで届くことになる。感染初期の鼻・喉迄であれば、耳鼻科処置室のネブライザーやハンドスプレーの目に見える大きさの水滴でも届く。肺の奥迄水滴が届くためには、粒子径が3μm以下であることがのぞましい。次亜塩素酸水の濃度は、患者の吸引能力、治療時間に応じて変えることができる:50ppm(0.005%)、100ppm(0.01%)、400ppm(0.04%)、1000ppm(0.1%)、もちろんこれらの中間の濃度もつくることができる。
【0013】
次亜塩素酸水の強力な殺菌力は、純粋な条件で表1のように測定されている。Aは本液の57ppm、Bは塩化ベンザルコニウム、Cは本液の原料の次亜塩素酸ソーダ(ナトリウム)200ppmで、最上欄記載の消毒剤テスト菌である芽胞菌の場合、5分後にB、Cではほとんど減っていないのに本液では激減している。
【発明の効果】
【0014】
次亜塩素酸水の微細な蒸気を吸引することによって、以下のような効果を期待できる。
(1)病原菌とウイルスに起因する呼吸器系疾患の予防と治療に有効である。
(2)とくに、抗インフルエンザ薬が効かない新型インフルエンザの重篤化した肺炎に有効である。 人工呼吸器を装着する場合、吸気経路の加湿ができる。
(3)気道表面の感染部位・増殖部位だけに届くので、他部位への副作用は無い。
(4)次亜塩素酸HOClの作用は単純な化学反応であるため、薬剤<耐性>問題は無い。
(5)次亜塩素酸HOClの作用は単純な化学反応であるため、効果は菌の種類、ウイルスの種類によらない。
(6)次亜塩素酸水の蒸気で室内を加湿すれば、飛沫感染を防ぐことができ、医療従事者も患者も安心して診断・治療に専念できる。
【0015】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】呼吸器系の構造と次亜塩素酸水の蒸気吸入器
【図2】次亜塩素酸水の生成装置
【図3】空気温度と飽和水蒸気量及び飽和水蒸気圧の関係
【符号の説明】
【0017】
1 目
2 鼻
3 口
4 鼻腔
5 咽頭
6 喉頭
7 気管
8 気管支
9 次亜塩素酸水
10 温度制御ヒータ
11 微細蒸気
12 鼻あて
13 陽イオン交換膜
14 ガスケット(パッキン)
15 陽電極
16 陰電極
17 陽極室壁
18 陰極室壁
19 給液口
20 出液口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器系疾患に次亜塩素酸水を使用する予防と治療方法。
【請求項2】
呼吸器系疾患に、体温付近の次亜塩素酸水蒸気を吸引する予防と治療方法。
【請求項3】
上記請求項の次亜塩素酸水は、水の電気分解の方法で、陽イオン交換膜で仕切られた陽極室に次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を入れて得られる純粋な次亜塩素酸水を使用することを特徴とする呼吸器系疾患の予防と治療方法。
【請求項4】
上記請求項の陽イオン交換膜としてフッ素樹脂系のものを、電極材として炭素を使用することを特徴とする呼吸器系疾患の予防と治療方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116730(P2011−116730A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291365(P2009−291365)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(509346357)
【Fターム(参考)】