説明

呼吸回路用部品

【課題】接続ミスによる温度異常の可能性についての注意を喚起することができる呼吸回路用部品を提供すること。
【解決手段】チューブ600は、医療機器の呼吸回路を構成する呼吸回路用部品であって、その素材に、所定値を超えた温度と、前記所定値を超えない温度とに対して、異なった色を呈する物質を含有する。また、この物質は、可逆的な色変化を行う物質であり、吸気に適した温度範囲を超えているときに暖色系の色を呈する物質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブや配管継手等、医療機器の呼吸回路を構成する呼吸回路用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
人工呼吸器等の医療機器の呼吸回路で使用されるチューブ(患者チューブ)等の部品(以下「呼吸回路用部品」という)は、他の構成部品と容易かつ確実に接続することができるよう、両端の形状および口径がISO規格により規定されている。例えば、チューブの端部は、所定の円錐形状のコネクタに統一されており、呼吸回路中の各部で共通して使用することができるようになっている。
【0003】
ところが、このような呼吸回路用部品を用いる場合、その接続の自由度の高さゆえに、接続ミスにより誤った呼吸回路を形成し得る。回路構成に誤りがあると、例えば、温度センサが適切な位置に配置されず、呼吸回路内の温度が上昇するといった事態が発生し得る。呼吸回路の温度が吸気に適さない温度となっている状態(以下「温度異常」という)は、安全性の面で問題がある。
【0004】
そこで、チューブを用途毎に異なる色とすることが、例えば特許文献1に記載されている。このようなチューブを採用することにより、誤った呼吸回路が形成される可能性を低減し、接続ミスによる温度異常の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−267219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の呼吸回路用部品では、色と用途との対応関係に対する認識誤りがあったような場合には、やはり接続ミスが発生し得る。同様に、他の対策を講じたとしても、呼吸回路用部品の汎用性を維持した状態で接続ミスの可能性をゼロにすることは、非常に困難である。したがって、実際に接続ミスが発生した場合において、接続ミスによる温度異常の可能性についての注意を改めて喚起することができる呼吸回路用部品が望まれる。
【0007】
本発明の目的は、接続ミスによる温度異常の可能性についての注意を喚起することができる呼吸回路用部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の呼吸回路用部品は、医療機器の呼吸回路を構成する呼吸回路用部品であって、その素材に、所定値を超えた温度と、前記所定値を超えない温度とに対して、異なった色を呈する物質を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、呼吸回路用部品の素材の色が、吸気に適さない温度になったときに変化するので、接続ミスによる温度異常の可能性についての注意を喚起することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る呼吸回路用部品が用いられる呼吸回路の構成の一例を示す図
【図2】本発明の一実施の形態に係る呼吸回路用部品であるチューブの構造の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態の呼吸回路用部品が用いられる呼吸回路の構成の一例を示す図である。ここでは、人工呼吸システムに、本発明に係る呼吸回路用部品であるチューブが用いられる例を示す。
【0013】
人工呼吸システム100は、人工呼吸器200、加温加湿器300、カテーテルマウント400、およびウォータトラップ500と、これらを接続する複数のチューブ600から主に構成される。
【0014】
人工呼吸器200は、患者の人工呼吸を自動的に行うための装置であり、吸気の供給および呼気の排出を行う。加温加湿器300は、人工呼吸器200から吸気を導入し、加温および加湿を行ってカテーテルマウント400へ送る。カテーテルマウント400は、加温加湿された吸気を供給すると共に、呼気弁(図示せず)の働きにより患者の呼気をウォータトラップ500を介して人工呼吸器200へ送る。ウォータトラップ500は、呼気に含まれる水蒸気の凝固等により発生する不要水(復水)を貯留する。
【0015】
加温加湿器300の下流側には、内部に温度センサが取り付けられたチューブ600が接続されている。そして、加温加湿器300は、この温度センサの検出温度が、患者の吸気に適した温度範囲(以下「正常温度範囲」という)となるように、加温および加湿を制御する。これにより、吸気経路の温度異常の発生や、温度異常が生じている状態が継続するのを防ぐことができる。
【0016】
ところが、上述の通り、チューブ600は呼吸回路において汎用化されているため、温度センサが取り付けられたチューブ600と別のチューブ(例えば加温加湿器300の上流のチューブ600)とが取り違えて接続される可能性がある。この場合、加温加湿器300は上流の加温加湿前の吸気に基づいて制御を行うため、患者に供給される吸気が、異常に高温となるおそれがある。
【0017】
そこで、チューブ600は、その素材が、正常温度範囲の上限値を超えた温度と、正常温度範囲の上限値を超えない温度とに対して、異なった色を呈する物質を含有する。すなわち、チューブ600が、吸気に適した温度となっているときと、吸気に適さない温度となっているときとで、異なった色を呈するようになっている。
【0018】
図2は、チューブ600の構造の一例を示す断面図である。
【0019】
チューブ600は、可とう性を有する蛇管部610と、蛇管部610の両端に設けられた2つのソケット部620とから成る。
【0020】
蛇管部610は、例えば、正常温度範囲を超えているときに赤色を呈するサーモクロミック材料(感温色変化材)が配合された、白色のシリコンを素材とする。このような蛇管部610は、例えば、シリコンに、サーモクロミック材料の粒子やこれをカプセル化したものを混入し、その後にシリコンを蛇管に成型することにより、製造することができる。
【0021】
また、蛇管部610は、例えば、白色のシリコンから成る素材の表面に、正常温度範囲を超えているときに赤色を呈するサーモクロミック材料を含む素材を有している。このような蛇管部610は、例えば、シリコンを成型した後に、サーモクロミック材料を含む塗料を塗布したり、サーモクロミック材料を含むシールを貼り付けたりすることにより、製造することができる。
【0022】
なお、ソケット部620にサーモクロミック材料を含有させても良いが、蛇管部610よりも厚みがあり、内部の温度変化に対する追従が遅いため、少なくとも蛇管部610にサーモクロミック材料を含有させることが望ましい。
【0023】
また、サーモクロミック材料は可逆的に色変化を行うので、現在の温度状態を示すことが出きると共に、チューブ600の継続的使用や再利用が可能である。
【0024】
また、どのような異常が発生しているのかを直感的に把握できるように、正常温度範囲を超えているときに、赤色等の暖色系の色を呈するサーモクロミック材料が用いられることが望ましい。
【0025】
正常温度範囲は、例えば、患者に到達したときの温度が32℃〜37℃程度となるような温度範囲である。したがって、例えば、蛇管部610には、患者に到達するまでの吸気の温度低下を考慮し、40℃を超えたときに赤色に変化するサーモクロミック材料が使用される。
【0026】
また、蛇管部610の全部ではなく、端部のみ等の一部のみに、サーモクロミック材料が分布しても良い。これにより、温度異常が発生したときに、蛇管部610の色がまだらとなるため、視覚的に注意を引き易くなると共に、なんらかの異常が発生していることを、管理者等に直感的に認識させることができる。
【0027】
また、チューブ600は、蛇管部610またはソケット部620のいずれかのみというように、チューブ600を構成する所定の部位の素材に、サーモクロミック材料を含有しても良い。これにより、チューブ600の低コスト化が図れるだけでなく、特に複数のチューブ600が連結される場合には全体として色がまだらになり、上述の注意喚起等の効果を奏することができる。
【0028】
また、サーモクロミック材料の蛇管部610における分布を、「異常高温」の文字、炎を示す記号または模様等、異常の具体的な内容を示す所定の文字または記号の形状としても良い。これにより、異常の具体的な内容を、管理者等に直感的に認識させることができる。
【0029】
また、より細かく吸気温度の変化が把握できるように、異なる温度に対応した複数種類のサーモクロミック材料が使用されても良い。例えば、正常温度範囲を下回っているときに、青色等の寒色系の色を呈するサーモクロミック材料を更に含ませても良い。これにより、充分に加温が行われていないことについて注意喚起を行うことができる。また、正常温度範囲の上限付近の温度において、黄色を呈するサーモクロミック材料等を、更に含ませても良い。これにより、吸気が正常温度範囲を超えそうなときに、超える前に注意喚起を行うことができる。
【0030】
以上のように、本実施の形態に係るチューブは、その材料の色が、吸気に適さない温度になったときに変化するので、接続ミスによる温度異常の可能性についての注意を喚起することができる。すなわち、接続ミスが実際に発生してしまった場合でも、接続ミスによる温度異常が放置されることを防ぐことができ、人工呼吸システムの安全性と信頼性を向上させることができる。
【0031】
なお、本発明は、本実施の形態では人工呼吸システムの呼吸回路のチューブに適用したが、これに限定されない。本発明は、管継手等、呼吸回路の他の構成部品にも適用することができる。更に、本発明は、他の医療機器や医療システムの各種呼吸回路の構成部品にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
100 人工呼吸システム
200 人工呼吸器
300 加温加湿器
400 カテーテルマウント
500 ウォータトラップ
600 チューブ
610 蛇管部
620 ソケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器の呼吸回路を構成する呼吸回路用部品であって、
その素材に、所定値を超えた温度と、前記所定値を超えない温度とに対して、異なった色を呈する物質を含有する、
呼吸回路用部品。
【請求項2】
前記物質は、可逆的な色変化を行う物質である、
請求項1記載の呼吸回路用部品。
【請求項3】
前記物質は、所定の温度範囲を超えた温度に対して暖色系の色を呈する物質を含む、
請求項1記載の呼吸回路用部品。
【請求項4】
前記物質は、所定の温度範囲を下回った温度に対して寒色系の色を呈する物質を含む、
請求項1記載の呼吸回路用部品。
【請求項5】
前記物質の前記素材における分布は、不均一である、
請求項1記載の呼吸回路用部品。
【請求項6】
前記分布は、所定の文字、記号の形状、または模様を形成している、
請求項5記載の呼吸回路用部品。
【請求項7】
前記呼吸回路用部品を構成する所定の部位の前記素材に、前記物質を含有する、
請求項5記載の呼吸回路用部品。
【請求項8】
前記呼吸回路を構成するチューブである、
請求項1記載の呼吸回路用部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176208(P2012−176208A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41940(P2011−41940)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000112602)フクダ電子株式会社 (196)