説明

呼吸補助装置

本発明は、その近位端(3)で通路(8)を介して呼吸可能気体噴流を受け、偏向手段(14b)と、咽頭で、患者の気管との気密状気体連通を確実にできるシール手段とを備える呼吸装置(1)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止の人の蘇生中人工呼吸装置として使用できるのが望ましい呼吸補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自発呼吸が不十分な患者用の管状呼吸補助装置は、特に、米国特許第6,363,935号、米国特許第6,761,172号および米国特許第6,814,075号で既に知られている。
この種の既知の呼吸補助装置は、
− 主通路を形成し、その遠位端を介して患者の気道に連結され、その近位端は患者の外側に位置するようになされた管状要素であって、上記の患者の呼吸器系が上記の主通路により外側に連結されているものと、
− 上記の主通路に開口し、呼吸用気体が供給される周方向補助通路と、
− 上記の補助通路を通って噴射される呼吸気体噴流を上記の主通路内で相互に集中させる偏向手段とからなる。
【0003】
よって、患者は上記の呼吸気体噴流により換気される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,363,935号
【特許文献2】米国特許第6,761,172号
【特許文献3】米国特許第6,814,075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特定の実施例では、この種の管状呼吸補助装置はその遠位端を介して患者の口に導入され、上記の遠位端がカリーナ(carina)のレベルで、肺近くに位置するまで前方に押出されるようになされていて、喉頭と気管とを通って延びている。
【0006】
患者の気道に呼吸補助装置を位置させることは患者に不快感を覚えさせ、高度の資格を持つ操作者によってでしかできない厄介な手順であると認識されている。更に、上記の呼吸補助装置は意識のある患者の気管に配置すると、患者には我慢できないことが時々起こる。
【0007】
更に、自発呼吸をしている患者用の呼吸補助装置は、胸郭を交互に圧迫および圧迫解除して蘇生させている心停止状態の人に(単なる呼吸補助装置としてでなく)人工呼吸装置として使用すれば、上記の呼吸気噴流により吸気の回復と血液循環とを促進して成功することが経験により示されている。
【0008】
然し、この呼吸補助装置を心停止状態の患者の気管に位置させるという上記の困難と、緊急事態に、気管にこの装置を置く際、高度の資格操作者でさえ経験する動揺と相まって時間のロスになり患者にとっては致命的となる。
【0009】
本発明の目的は、よって、上記の既知の装置を改良して適切位置に配置することをより簡単にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的で、本発明によれば、管状で、主通路を形成し、この主通路がその近位端とその遠位端とを連結し、その遠位端は患者の肺の方向にその口内に導入され、その近位端は患者の口の外側に維持されるようになされている呼吸補助装置であって、
− 上記の遠位端近くで、上記の主通路に開口し、そこを通ってこの主通路に呼吸可能気体噴流が噴出される少なくとも1つの周方向補助通路と、
− 上記の補助通路を通って噴射された呼吸可能気体噴流を上記の主通路内に偏向させる偏向手段とからなり、
上記遠位端を囲み、上記の患者の咽頭の領域では、この患者の気管と上記装置の主通路との間での少なくともほぼ気密状の気体連通を確実にすることができるシール手段を備えることを特徴とする。
【0011】
よって、本発明によれば、患者の呼吸補助をするためには、上記の遠位端を(最早、喉頭と気管とを通ってカリーナまででなく)咽頭のところまで導入するだけでよく、その手順は遥かにより簡単でより素早いものである。
【0012】
上記のシール手段は患者の喉頭を囲むことができ、上記装置に配送される膨張ガスの作用で膨張する、少なくとも1つの環状カフからなるのが好ましい。よって、この膨張性カフは簡単に患者の口と喉頭に収縮した状態で導入され、適切箇所に配置されると膨張する。上記の膨張ガスは上記装置の肉厚内に形成された少なくとも1つの通路を介して上記のカフに配送されるのが好ましい。
【0013】
上記のカフが膨張した際、喉頭の粘膜が傷つくのを避けるため上記のシール手段は環状の2つのカフからなるのが望ましく、その1つは他方の内側に配置され、上記患者の喉頭を囲むことができる。これらカフの一方は上記の装置に配送された膨張ガスの作用で膨張でき、他方は、上記の偏向手段の下流の装置の遠位端と気体連通する。
【0014】
よって、上記膨張ガスは良好なシールに必要な圧力より低い圧力であり、追加のシール用圧力が上記の気体連通を介して呼吸可能気体噴流により提供される。この結果、(損傷を生じる)シール圧は呼吸可能気体を噴射中のみ与えられ、これらの噴射期間外では、シール手段により咽頭に出される圧力はいかなる損傷も生じさせない程低いものでよい。
【0015】
装置の遠位端と気体連通している上記カフは、上記の膨張ガスにより膨張される上記カフの内側あるいは外側に配置できる。
【0016】
上記シール手段はトランペット形構成要素の拡大傾斜円周に保持されるのが望ましく、このトランペット形構成要素は例えば、呼吸補助装置の上記遠位端に適合する形態で装着される。この構成要素の上記遠位端への固定は一時的でも永久的でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明装置の一実施例を示す軸方向に沿う概略部分断面図である。
【図2】図1、図7及び図8に記された線II-IIに沿う横断面図である。
【図3】図1、図7及び図8に記された線III-IIIに沿う横断面図である。
【図4】図1に示された矢印IVの方向で見た本発明による装置のシール手段の略図である。
【図5】図4に示されたV−V線に沿うシール手段の略横断面図である。
【図6】本発明による装置の配置の略図である。
【図7】シール手段の1つの代替実施例の図1に類似する略図である。
【図8】シール手段のもう1つの代替実施例の図1に類似する略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面の図により、本発明がどのように実現されるかが明確に示されている。これらの図中同一符号は同一要素を示す。
図1は、本発明による装置の実施例1の近位端2と遠位端3のみの拡大略図を示す。
【0019】
装置1は、近位端2では開口部6を介して、遠位端3では開口部7を介して開口する主通路5を形成する可撓性管4(あるいは患者の形態に適合するように予め成形されている可撓性管)からなる。
【0020】
よって、主通路5は開口部6と7との間に通路を確保でき、開口部の一方(遠位開口部7)は患者の気道内に位置し、他方(近位開口部6)は患者の外側に位置するようになされている。この近位開口部6は周囲の空気に開口でき、よって、この場合、患者は新鮮な空気を吸い、主通路5を通って汚染空気を排出できる。(上記の開口部6を加圧呼吸可能気体源に連結し、一方向バルブ・システムを設け、患者は上記の主通路を介して上記の気体源から呼吸可能気体を吸い、また、主通路5を介して周囲の空気に汚染空気を排出できる。)
【0021】
主通路5の直径は数mm程度であり、3mm、7mm、8mm及び12mmの直径で満足いく試みがなされた。
【0022】
更に、管4の壁の肉厚内に形成された補助通路8は主通路5のほぼ全長に亘って伸び、以下に記載するように、加圧呼吸可能気体源に連結されるようになされている。
【0023】
上記の加圧呼吸可能気体源への連結はリング9により為され、このリング9は近位端2で気密状に管4を囲み、この管4の周囲に気密環状室10を形成する。補助通路8は管4の壁の局部切欠き11により環状室10と連通され、この環状室10は導管12により呼吸可能気体源に連結される。勿論、補助通路8の近位端は、例えば、管4の近位端面から導入されたプラグ13により閉鎖される。
【0024】
補助通路8は主通路5より小さい直径を有する。この補助通路8の直径は1mm未満が好ましく、約400〜800μmが望ましい。補助通路8は、その遠位端で、管4の内壁15の凹所14に開口している。この凹所14は環状で遠位端3の軸16を中心にしてセンターリング(心合わせ)されており、面14aと面14bとを備える。この面14aは実質的に斜めに横断あるいは僅かに傾斜して主通路5の拡大部を形成し、この拡大部に上記の補助通路8はその開口部17を介して開口し、上記面14bは上記面14aに続いて軸16の方向に集中する。
【0025】
よって、補助通路8に要素9〜12を介して加圧呼吸可能気体を供給すると、対応する気体噴流が上記の傾斜面14bに衝突し、これを軸16方向に偏向して、(図1中開口部17の出口の矢印参照)主通路5の遠位端3内に長方形の圧力領域を生じさせる。この圧力領域は上記遠位開口部17から始まり、上記の遠位端3の軸16に沿い遠位開口部17の方向に連続する。この圧力領域の横断面は凹所14から遠位開口部17まで徐々に減少し、上記の圧力領域は管4の内壁15から徐々に離れていき、管4の遠位端3の中央部のみを占める。この圧力領域の下流、軸16の近辺で、呼吸可能気体の偏向噴流は低圧領域を生じさせ、この低圧領域は主通路5内で、近位開口部から遠位開口部までの気体流を促進させ、これにより患者の吸気も促進させる。
【0026】
図2および図3に示されているように、補助通路8は管4の軸を中心に規則的に配置されている。これらの数は使用(大人あるいは子供)により変わるが、一般に、3〜9の間の数である。
【0027】
本発明による装置の管4は呼吸プローブに使用されている既知のどの材料、例えば、任意でシリコンをコーティング(被覆)した塩化ポリビニールで作製される。
【0028】
補完通路20が上記管4の肉厚内に設けられている。これらの補完通路20は異なる目的、例えば、流体薬剤、圧力測定、(図1の下方部の通路20内を指す矢印(f)により象徴的に示されているように)気体のサンプルの収集と、以下に記載するように、シール用カフの膨張に使用できる。図1では、図面を簡単にするために、通路8および通路20の一部分が示されているが、これらの通路は異なる面に位置する(図2および図3参照)。
【0029】
図1、図4および図5に示されているように、環状の膨張性カフ21が管4の遠位端3に装着されており、構成要素23の周囲に保持されている。この構成要素23は少なくともほぼトランペット形状で、その小端部を介して管4の遠位端3に外嵌されている。上記構成要素23の拡大縁部は傾斜され、上記の円周22とこれにより支持されている膨張性カフ21は遠位端3の軸16に対し傾斜している。このように、上記装置1が、収縮状態で、患者25にその口26と咽頭27とを通って導入されると、上記カフ21は、ガス源(図示略)からカフ21へ通路20を介して配送された膨張ガス(G)により膨張した後、喉頭28を囲み、患者の気管29と装置1の主通路5との少なくともほぼ気密状の気体連通を確実にする(図6参照)。この後者の位置では、カフ21は部分的に食道30を塞いでいる。
【0030】
よって、管4を気管に導入しなくても、通路8と偏向手段14bとを介して主通路5に導入された呼吸可能気体により患者25の肺(図示略)を換気し、汚染気体を上記肺から外側に排気させる(図6中2つの矢印参照)ことができる。
【0031】
図1に対応する図である、図7と図8とは、患者25の咽頭27の粘膜を殆どあるいは全く傷つけないシール手段を備えた装置1を示す。図1に示され、これに関し記載した全ての要素が図7と図8にも現れている。
【0032】
図7の環状カフ21は膨張ガス(G)で膨張でき、構成要素23の内側、即ち、偏向手段14bの下流の装置1の遠位端3に気体連通32により連結されているもう1つの環状カフ31を含む。
【0033】
反対に、図8では、環状カフ21はもう1つの環状カフ33に含まれており、この環状カフ33もまた気体連通34により構成要素23の内側に連結されている。
【0034】
上記の気体連通33および34によりカフ31および33は、通路8を通って呼吸可能気体を噴出中膨張し、噴出同士の間では膨張しない。
【0035】
従って、膨張ガス(G)の圧力はカフ21のみが気密性を確保できるのに必要な圧力以下のレベルに設定される、この理由は、気体噴射中、この低圧レベルがカフ31あるいは33内の圧力により補完されるからである。
【0036】
よって、呼吸可能気体噴射期間外では、シール手段21、32および21、33はカフ21のみの場合より損傷を生じさせる可能性が少ない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による呼吸補助装置は軽くて携帯用に設計されており、緊急事態および病院あるいは診療所の領域外での応急手当に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…呼吸補助装置、2…近位端、3…遠位端、5…主通路、8…周方向補助通路、14b…偏向手段、20…通路、21・31・33…シール手段(カフ)、22…拡大傾斜円周、23…トランペット形構成要素、25…患者、26…患者の口、27…喉頭、28…咽頭、29…気管、G…膨張ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に形成した主通路(5)を有し、この主通路(5)がその近位端(2)とその遠位端(3)とを連結し、その遠位端(3)は患者の肺の方向にその患者(25)の口(26)内に導入され、その近位端(2)は上記患者の口の外側に維持されるようになされている呼吸補助装置であって、
− 上記の遠位端(3)近くで、上記の主通路(5)に開口し、そこを通ってこの主通路(5)に呼吸可能気体噴流が噴出される少なくとも1つの周方向補助通路(8)と、
− 上記の補助通路(8)を通って噴射された呼吸可能気体噴流を上記の主通路(5)内に偏向させる偏向手段(14b)とからなり、
上記遠位端(3)を囲み、上記の患者の咽頭(28)の領域では、この患者の気管(29)と上記主通路(5)との間で少なくともほぼ気密状の気体連通を確保することができるシール手段(21、31、33)を備えることを特徴とする呼吸補助装置。
【請求項2】
上記のシール手段が上記患者の喉頭(27)を囲むことができ、それに配送される膨張ガス(G)の作用で膨張する、少なくとも1つの環状カフ(21)からなることを特徴とする請求項1に記載の呼吸補助装置。
【請求項3】
上記カフ(21)に、上記の膨張ガス(G)が装置(1)の肉厚内に形成された少なくとも1つの通路(20)を介して供給される請求項2に記載の呼吸補助装置。
【請求項4】
上記のシール手段が環状の2つのカフ(21; 31、33)からなり、その1つは他方の内側に配置され、上記患者の喉頭(27)を囲むことができる、上記カフの一方(21)は装置(1)に配送された上記膨張ガス(G)の作用で膨張でき、他方のカフ(31、33)は、上記の偏向手段(14b)の下流の装置の遠位端(3)と気体連通することを特徴とする請求項2又は3に記載の呼吸補助装置。
【請求項5】
装置の遠位端(3)と気体連通している上記カフ(33)は、上記の膨張ガスにより膨張される上記カフ(21)の内側に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の呼吸補助装置。
【請求項6】
装置の遠位端(3)と気体連通している上記カフ(33)は、上記の膨張ガスにより膨張される上記カフ(21)の外側に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の呼吸補助装置。
【請求項7】
上記シール手段(21、31、33)はトランペット形構成要素(23)の拡大傾斜円周(22)に保持され、このトランペット形構成要素(23)は、装置(1)の上記遠位端(3)に装着できることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の呼吸補助装置。
【請求項8】
上記のトランペット形構成要素(23)は呼吸補助装置(1)の上記遠位端(3)に適合する形態で装着されることを特徴とする請求項7に記載の呼吸補助装置。
【請求項9】
上記のトランペット形構成要素(23)はこの呼吸補助装置(1)の遠位端(3)へ永久に一体連結されることを特徴とする請求項7又は8に記載の呼吸補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−540141(P2010−540141A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527487(P2010−527487)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001360
【国際公開番号】WO2009/077667
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(503159254)