説明

嘔吐検出方法及び嘔吐検出装置

【課題】スンクスの嘔吐行動を検出する場合において、人の負担を軽減することができる嘔吐検出方法を提供する。
【解決手段】小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出方法は、スンクスの鳴声を入力する音声入力工程S2と、音声入力工程S2にて入力されたスンクスの鳴声から20±4kHzの音声を検出する音声検出工程S3と、音声検出工程S3にて検出された20±4kHzの音声から嘔吐情報を特定し、嘔吐情報に基づいてスンクスの嘔吐行動を判定する音声判定工程S5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出方法及び嘔吐検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スンクス(Suncus murinus)は食虫目トガリネズミ科ジネズミ亜科ジャコウネズミ属に属する小型哺乳動物であり、薬物や動揺刺激により容易に嘔吐することから、薬物や食物等の嘔吐誘発性判定試験に用いられる。なお、一般的な試験に用いられる小型実験動物のマウス、ラット、モルモットは嘔吐しないことから、嘔吐誘発性の判定試験には用いることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
嘔吐誘発性の判定試験には、複数匹(好ましくは12匹程度)以上のスンクスに被試験物質を強制的に摂取させるか、あるいは腹腔内投与したあと、約1〜3時間の行動観察、嘔吐の有無を調べるというものが多い。この場合、動物個体数に応じた観察者が実験時間中、常に拘束を強いられることになる。このような作業は限られた人員で運営している研究部門にとって大きな負担である。特に、実験の正確性を重んじる場合には、動物の個体数を増加させる必要がある。このような場合には、動物の個体数の増加に応じて熟練した観察者の数も増加させる必要があるため、研究部門の負担の増加を招いてしまう。
【0004】
そこで、本発明は、スンクスの嘔吐行動を検出する場合において、人の負担を軽減することができる嘔吐検出方法及び嘔吐検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の嘔吐検出方法は、小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出方法において、スンクスの鳴声を入力する音声入力工程(S2)と、前記音声入力工程にて入力されたスンクスの鳴声から所定周波数帯の音声を検出する音声検出工程(S3)と、前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声から嘔吐情報を特定し、前記嘔吐情報に基づいてスンクスの嘔吐行動を判定する音声判定工程(S5)と、を備えている。
【0006】
本発明によれば、スンクスの鳴声から検出した所定の周波数帯の音声に基づいてスンクスの嘔吐行動が判定されるので、スンクスの行動を常に観察する必要がない。このため、嘔吐行動を検出するための人の負担を軽減することができる。
【0007】
音声検出工程では、所定周波数帯の音声としてどのような音声を検出してもよい。例えば、本発明の嘔吐検出方法の一態様において、前記音声検出工程では、前記所定周波数帯として20±4kHzの音声を検出してもよい。
【0008】
本発明の嘔吐検出方法の一態様において、前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声に基づいて所定の音声パターン(25)を検出するフィルタ工程(S4)を更に備え、前記音声判定工程では、前記フィルタ工程にて検出された前記所定の音声パターンを前記嘔吐情報として特定するものでもよい。この場合、より嘔吐行動時のものに近い音声を嘔吐情報として特定することができるので、より正確に嘔吐行動を検出することができる。
【0009】
フィルタ工程では、嘔吐情報としてどのような音声パターンを検出してもよい。例えば、本発明の嘔吐検出方法の一態様において、前記フィルタ工程では、前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声に基づいて、スンクスの嘔吐行動の開始と判定可能な特定状態(25)の発生から前記所定周波数帯の音声が一定時間検出されない終了状態(26)の発生までを、前記所定の音声パターンとして検出してもよい。また、この場合に、例えば、本発明の嘔吐検出方法の一態様において、前記フィルタ工程では、前記所定周波数帯の音声が所定時間継続する特定音声(19a)の発生を前記特定状態の発生として検出してもよい。さらに、この場合に、例えば、本発明の嘔吐検出方法の一態様において、前記フィルタ工程では、前記所定時間として630msが、前記一定時間として1000msがそれぞれ適用され、630ms継続する前記特定音声の発生を前記特定状態の発生として、1000ms前記所定周波数帯の音声が発生しない状態の発生を前記終了状態の発生として、それぞれ検出してもよい。
【0010】
本発明の嘔吐検出方法の一態様において、スンクスの嘔吐行動を撮影する撮影工程(S1)と、前記音声判定工程の前記判定結果の時間軸と前記撮影工程の撮影結果の時間軸とを揃え、互いに関連付けて統合した統合情報に基づいて前記判定結果を前記撮影結果にて評価する評価工程(S6)と、を更に備えていてもよい。この場合、評価工程において、音声判定工程の判定結果を、撮影工程の撮影結果に基づいて実際にスンクスが嘔吐しているか否かの評価をすることができる。これにより、嘔吐行動の判定結果をより正確なものにすることができる。
【0011】
本発明の嘔吐検出装置は、小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出装置(1)において、スンクスの鳴声を入力する音声入力手段(4)と、前記音声入力手段にて入力されたスンクスの鳴声から所定周波数帯の音声を検出する音声検出手段(5)と、前記音声検出手段にて検出された前記所定周波数帯の音声から嘔吐情報を特定し、前記嘔吐情報に基づいてスンクスの嘔吐行動を判定する音声判定手段(6)と、を備えている。
【0012】
この嘔吐検出装置によれば、本発明の嘔吐検出方法を実現することができる。
【0013】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、本発明によれば、スンクスの嘔吐行動を検出する場合において、人の負担を軽減することができる嘔吐検出方法及び嘔吐検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一形態に係るスンクスの嘔吐検出装置の機能ブロック図。
【図2】本発明の一例に係るスンクスの嘔吐検出方法の手順を示すフローチャート。
【図3】フィルタ部が実行するフィルタ処理の一例を示すフローチャート。
【図4】判定部が実行する嘔吐判定処理の一例を示すフローチャート。
【図5A】試験開始からの経過時間と音声シグナルの検出結果との関係を各音声周波数帯別に示す図であって、試験開始からの経過時間の前半を示す図。
【図5B】試験開始からの経過時間と音声シグナルの検出結果との関係を各音声周波数帯別に示す図であって、試験開始からの経過時間の後半を示す図。
【図6】スンクスの鳴声に基づいてスンクスの嘔吐行動と判定した判定結果とスンクスの動画データとを統合した統合データを不図示の表示装置に表示した場合の評価画面を模式的に示す図。
【図7】判定結果と人の観察結果との比較結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一形態に係るスンクスの嘔吐検出装置の機能ブロック図である。図1に示すように、スンクスの嘔吐検出装置1は、アクリルゲージ3と、音声入力手段としてのマイク4と、音声検知手段としてのバンドパスフィルタ5と、コンピュータ6と、撮影手段としてのカメラ7と、を備えている。アクリルゲージ3は、上部が開口し、12区画に区分されている。アクリルゲージ3の各区画には、判定試験に用いられるスンクスがそれぞれ1匹ずつ収容され、アクリルゲージ3には合計12匹のスンクスが収容されている。
【0017】
マイク4は、アクリルゲージ3の横上部に配置され、アクリルゲージ3内のスンクスの鳴声を含む音を入力し、入力した音を音声データとして出力可能に構成されている。マイク4は、バンドパスフィルタ5に接続されている。バンドパスフィルタ5は、マイク4より出力された音声データからノイズを除去し、所定の音声周波数領域にある音声シグナルを検出し、検出した音声シグナル情報を出力可能に構成されている。バンドパスフィルタ5は、コンピュータ6に接続されている。また、カメラ7は、アクリルゲージ3の上部に、アクリルゲージ3内に収容された12匹のスンクスの動画を撮影可能に配置され、スンクスの行動を撮影し、撮影した動画を出力可能に構成されている。カメラ7もコンピュータ6に接続されている。なお、上述の各構成機器間の接続は、有線接続、無線接続のどちらであってもよい。
【0018】
コンピュータ6は、マイクロプロセッサと、そのマイクロプロセッサの動作に必要なプログラム等を記憶する内部記憶装置(一例としてROM及びRAM)等の各種の周辺装置とが組み合わされて構成されている。コンピュータ6は、フィルタ部11と、判定部12と、データ統合部13と、を備えている。フィルタ部11は、後述の処理を実行することにより、音声シグナル情報から所定の音声シグナルパターンを検出する。また、判定部12は、後述の処理を実行することにより、スンクスの嘔吐行動を判定する。データ統合部13は、判定部12の判定結果とカメラ7が撮影した動画データとを時間軸を揃え、お互いがリンクするように2つのデータを関連付けて統合する。これらのフィルタ部11、判定部12、データ統合部13は、いずれもコンピュータハードウェアとコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現される論理的装置である。
【0019】
次に、図1及び図2を参照して、嘔吐誘発性の判定試験においてスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出方法について説明する。スンクスは嘔吐するときに甲高い鳴き声を発することが観察により発見された。この発見に基づき、このスンクスの嘔吐検出方法は人の声(0.085kHz〜8kHz)よりも高い周波数の鳴き声を検知することでスンクスの嘔吐を特異的に検知することができるのではないかという点に着目したものである。また、実験を重ねることで20kHz前後の音声周波数領域がノイズも拾い難く、最適な条件であることが見出された。図2は、本発明の一例に係るスンクスの嘔吐検出方法の手順を示すフローチャートを示している。このスンクスの嘔吐検出方法では、まず撮影工程S1にてアクリルゲージ3の上部に配置されたカメラ7によってアクリルゲージ3内のスンクスの行動が動画として常時撮影され、撮影された動画データはコンピュータ6に出力される。この撮影工程S1は、スンクスの嘔吐行動を撮影するためのもので、全行程が終了するまで、つまり嘔吐の検出が終了するまで継続して実行される。次の音声入力工程S2では、アクリルゲージ3の横上部に配置されたマイク4にてスンクスの鳴声が入力され、入力された音声データがバンドパスフィルタ5に出力される。なお、図2のフローチャートでは、撮影工程S1が音声入力工程S2の前に行われているが、順番はこれに限定されるものではなく、例えば、これらの工程の順序は逆でもよいし、同時に行われてもよい。続く音声検出工程S3では、マイク4より出力された音声データから所定周波数帯として音声周波数帯20±4kHの音声シグナルを嘔吐時の鳴声として検出し、検出した音声シグナル情報をコンピュータ6に出力する。
【0020】
次のフィルタ工程S4では、バンドパスフィルタ5より出力された音声シグナル情報からスンクスが嘔吐する時の特徴的な音声シグナルパターンを検出する。つまり、音声シグナル情報に基づいて、その音声シグナル情報中に含まれる所定の音声シグナルパターンを検出する。嘔吐時のスンクスの鳴き声のさらなる分析により、スンクスは嘔吐するときに、嘔吐に特徴的な音声シグナルパターン(連続的な細かなシグナル)を示すことが発見された。フィルタ工程S4は、この発見に着目したもので、嘔吐時に示す所定の音声パターンとしての特徴的な音声シグナルパターンを検出するためのものである。所定の音声シグナルパターンは、音声シグナル情報に含まれるフィルタ条件を満たす音声シグナルをパターン化することにより検出する。本形態では、特定音声として所定の時間継続する20±4kHの音声シグナルが検出された場合に音選択を開始し(on time)、音選択を開始した音声シグナルの検出から一定時間20±4kHの音声シグナルが検出されない場合に終了状態として音声選択を終了(off time)する条件がフィルタ条件として用いられる。また、このフィルタ条件には、所定の時間として630ms(on time)が、一定の時間として1000ms(off time)が、それぞれ適用されている。これらのフィルタ条件は、実験により最適と判断したものである。即ち、フィルタ工程S4では、バンドパスフィルタ5より出力された音声シグナル情報に基づいて、特定状態の発生としての20±4kHの音声シグナルが630ms継続する特定音声の発生から20±4kHの音声シグナルが1000ms検出されない終了状態までを所定の音声シグナルパターンとして検出する。フィルタ工程S4は、コンピュータ6のフィルタ部11によって実行される。フィルタ部11が実行するフィルタ処理の詳細は後述する。
【0021】
続く音声判定工程S5では、フィルタ工程S4にて検出された所定の音声シグナルパターンを嘔吐情報として特定し、その嘔吐情報として特定した音声シグナルパターンに基づいてスンクスの嘔吐を判定する。具体的には、フィルタ工程S4にて検出された音声シグナルパターンが出現した時期を特定し、その特定した時期をスンクスの嘔吐時期として判定する。音声判定工程S5は、コンピュータ6の判定部12にて実行される。判定部12が実行する嘔吐判定処理の詳細は後述する。
【0022】
次の評価工程S6では、音声判定工程の判定結果と撮影工程にて入力された動画データとがコンピュータ6のデータ統合部13により関連付けられて統合される。この統合データに基づいて人が判定結果を評価する。この統合データは、不図示の表示装置に表示される。判定結果を評価する人は、表示された統合データに基づいて判定部12にて判定された嘔吐時期と対応する時期のスンクスの動画とを確認することにより、実際に嘔吐されているか否かを評価し、スンクスの嘔吐時期を認定すればよい。
【0023】
次に図3を参照して、フィルタ部11が実行する処理の詳細を説明する。図3は、本発明に係るフィルタ部11が実行するフィルタ処理の一例を示すフローチャートである。フィルタ部11は、ステップS31において、検出された音声シグナルの前に検出された前回の音声シグナルが音声選択されているか否かを判断する。ステップS31にて否定的判断がされた場合、つまり、前回の音声シグナルが音選択されていない場合には、ステップS32に進む。ステップS32では、検出された音声シグナルが所定の時間、つまり、630ms継続しているか否かを判断する。ステップS32にて肯定的判断がされた場合には、ステップS33に進み、ステップS33にて音声選択を開始して、つまり、今回検出された音声シグナルを音声選択して今回のルーチンを終了する。一方、ステップS32にて否定的判断がされた場合には、以降の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。
【0024】
また、ステップ31にて肯定的判断がされた場合、つまり、前回の音声シグナルが音声選択されている場合には、前回の音声シグナルから今回の音声シグナルまでの経過時間が一定時間、つまり、1000msを超えているか否かを判断する。ステップS31にて否定的判断がされた場合、つまり、前回の音声シグナルから今回の音声シグナルまでの経過時間が1000msを超えていないと判断された場合には、以降の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。一方、ステップS31にて肯定的判断がされた場合、つまり、前回の音声シグナルから今回の音声シグナルまでの経過時間が1000msを超えていると判断された場合には、ステップS35に進み、音声選択を終了し、音声選択の開始から音声選択の終了までを所定の音声シグナルパターンとして検出して今回のルーチンを終了する。
【0025】
また、図4を参照して、判定部12が実行する処理の詳細を説明する。図4は、本発明に係る判定部12が実行する嘔吐判定処理の一例を示すフローチャートである。判定部12は、ステップS51において、嘔吐情報として所定の音声シグナルパターンを特定する。続くステップS52では、特定した所定の音声シグナルパターンに基づいて嘔吐行動を判定する。具体的には、判定部12は、所定の音声シグナルパターンが検出されている時期を嘔吐行動の時期と判定して今回のルーチンを終了する。
【0026】
この形態によれば、スンクスが嘔吐時に発する鳴き声を検出して嘔吐行動の時期を判定することができるので、観察者は常にスンクスを観察する必要がない。このため、判定試験に必要とされる人の負担を軽減することができる。また、スンクスの実際の行動がカメラにて撮影され、この撮影された動画が鳴声に基づく判定結果と関連付けられて統合される。このため、撮影された動画に基づく実際のスンクスの行動と音声判定工程の判定結果とを比較して人が評価することができるので、試験結果の正確性も確保することができる。さらに、評価時には、嘔吐時期と判定された時期付近を重点的に確認すればよいため、評価工程においても人の負担の増加を抑制することができる。
【0027】
上述の形態では、コンピュータ6のフィルタ部11が図3のルーチンを実行することによりフィルタ手段として、コンピュータ6の判定部12が図4のルーチンを実行することにより音声判定手段として、コンピュータ6のデータ統合部13が判定部12の判定結果とカメラ7の撮影結果とを時間軸を揃え、関連付けて統合することにより統合手段として、それぞれ機能する。
【0028】
本発明は上述の形態に限定されず、適宜の形態にて実施することができる。上述の形態では、嘔吐検出工程にフィルタ工程が含まれているが、これを省略してもよい。この場合、音声判定工程では、所定の周波数帯の音声シグナルの有無を嘔吐情報として特定することにより嘔吐時期を判定すればよい。また、撮影工程及び評価工程を省略してもよい。これまで自動化が強く求められていたが、それを実現した例は知られていない。しかし、この場合、嘔吐検出工程において人の判断が不要になるので、スンクスの嘔吐行動の検出を自動化することができる。これにより、人の負担を大幅に削減することができる。
【0029】
また、上述の形態では、音声検出工程において所定の周波数帯として20±4kHzを検出しているが、検出する所定の周波数帯は20±4kHzに限定されるものではない。例えば、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHz等適宜の周波数帯を検出してよい。なお、実験結果によれば嘔吐時期のより正確な判定には20±4kHzを検出することが好ましいと考えられる。さらに、上述の形態では、フィルタ条件として、所定の時間に630msが、一定時間に1000msがそれぞれ適用されているが、これらに限定されるものではない。例えば、適宜、所定の時間、一定時間を変えてもよい。また、例えば、上述の形態では、所定の音声周波数帯の音声が所定の時間継続する特定音声の発生を嘔吐行動の開始と判定可能な特定状態の発生として検出しているが、所定の音声周波数帯の音声が所定の時間内に連続して検出される状態(継続しておらず途切れつつも所定時間内に複数の所定の音声周波数帯の音声が発生する状態)の発生を嘔吐行動の開始と判定可能な特定状態の発生として検出してもよい。この場合、所定時間内に検出される連続した複数の所定の音声周波数帯の音声をまとめて音声選択することにより、特定状態の発生を検出すればよい。また、特定音声の発生及び所定の音声周波数帯の音声が所定の時間内に連続して検出される状態の発生の両方を特定状態の発生として検出してもよい。
【実施例】
【0030】
上述の実施の形態の手順に従って、嘔吐誘発性の判定試験にて本発明のスンクスの嘔吐検出方法を実施した。
【0031】
(実施例1)
スンクス1個体に嘔吐誘発物質である硫酸銅を40mg/kg相当強制経口投与し、嘔吐行動を誘発させた。ULTRAVOX(ノルダス社製の超音波検出・解析システム)を用いて、スンクスの嘔吐時の鳴声を的確に検知できる音声周波数帯を探索した。ULTRAVOXの音声検知周波数帯を20±4kHz、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHzに設定して最適な条件の検討を行った。
【0032】
さらに、スンクスの嘔吐時の特徴的な音声シグナルパターン(連続的な細かなシグナル)を特異的に検出するために、最適な音声フィルタ条件(on time、off time値)を探索した。(この音声フィルタ条件とは、所定時間継続する音声が出現した場合に音声選択を開始し(on time)、ある一定時間、音声が途切れる箇所が出現すると、そこまでをスンクスの嘔吐とする条件(off time)のことを言う。)
【0033】
図5A及び図5Bは、いずれも実験結果に基づく試験開始からの経過時間と音声シグナルの検出結果との関係を各音声周波数帯別に示す図である。図5A及び図5Bは、上から、20±4kHz、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHzの順にそれぞれの検出結果を示すもので、横軸はいずれも経過時間を示している。また、図5Aは試験開始からの経過時間の前半を、図5Bは試験開始からの経過時間の後半を、それぞれ示している。図5A及び図5Bの各一点鎖線15、16、17、18は、それぞれ各音声周波数帯における音声シグナルの検出結果を示している。各一点鎖線15、16、17、18には、音声シグナル19が検出された時期に、その発生時間に応じて凸型の波形が形成されている。
【0034】
図5Aでは、例えば、00:01:26:130(1分26秒130)経過前には、20±4kHz、30±4kHz、40±4kHzの音声シグナル19が検出されているのに対し、50±4kHzの音声シグナル19は検出されていない。また、その後、00:01:27:000経過前に、20±4kHz、30±4kHz、の音声シグナル19が検出されているのに対し、40±4kHz、50±4kHzの音声シグナル19は検出されていない。さらに、例えば、00:01:27:870付近では、20±4kHzの音声シグナル19は間をあけずに2度検出されているのに対し、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHzの音声シグナル19は一度も検出されていない。つまり、20±4kHz、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHzの順に音声シグナル19の検出頻度が少なくなり、各音声シグナル19が検出されている時間も20±4kHz、30±4kHz、40±4kHz、50±4kHzの順に短い。
【0035】
また、各実線21、22、23、24は、各音声周波数帯における所定の音声パターンとしての音声シグナルパターン25の検出結果を示している。各実線21、22、23、24には、音声シグナルパターン25として、on timeが検出された時期からoff timeが検出される時期まで凸型の波形が形成される。図5Aでは、例えば、20±4kHz及び30±4kHzにおいて00:01:25:260経過直後に所定時間継続する特定音声としての特定の音声シグナル19aが発生している。その後、20±4kHzでは、00:01:27:87直前に検出された音声シグナルから次の00:01:30:480経過直後に発生する特定の音声シグナル19aまで一定時間音声シグナル19が検出されない状態、つまり、00:01:27:87直前に検出された音声シグナル19直後から終了状態26が発生し、30±4kHzでは、00:01:270直後から次の00:01:30:480経過直後に発生する特定の音声シグナル19aまで終了状態26が発生している。即ち、20±4kHzでは00:01:25:260経過直後から00:01:27:870付近に亘って、30±4kHzでは00:01:25:260経過直後から00:01:27:870経過前までに亘って、それぞれ音声シグナルパターン25が形成されている。
【0036】
一方、図5Bに示すように、20±4kHzでは、例えば、00:02:13:980経過直後から00:02:14:850付近に亘って音声シグナルパターン25が形成されているのに対し、30±4kHzでは、この時間帯付近に音声シグナルパターン25が形成されていない。これは、20±4kHzの音声シグナル19に比べて、30±4kHzの音声シグナル19が正確に検知されていないことを示している。この実験結果から40±4kHz、50±4kHzの音声周波数帯ではスンクスの鳴声を的確に検出できず、20±4kHz、30±4kHzの音声周波数帯が、スンクスの嘔吐時の鳴声を的確に検出できる周波数帯であることが明らかとなった。さらに、ノイズを除外し、スンクスの嘔吐時の特徴的な音声シグナルパターン25を特異的に検出する音声フィルタ条件はon time:630ms、off time:1000msであった。また、30±4kHzの音声周波数帯では、音声シグナルを正確に検出できない場合も認められたことから、20±4kHzの音声周波数帯の音声シグナルを検出することが本発明には有用であると考えられる。
【0037】
(実施例2)
本発明に係る音声検出装置にて得られた結果と従来の人による観察によって得られた結果とを比較するため、スンクスの複数個体(12個体)の同時評価を、実際にスンクスが嘔吐していたか否か試験後に簡便に確認できるシステムを構築して実施した。その結果、このシステムにより得られる結果が、従来の人が観察したときに得られる結果と同等であることを次の手順で証明した。
【0038】
(1)スンクス嘔吐試験における動画撮影及びスンクス嘔吐時の音声データ取り込み
嘔吐誘発物質である硫酸銅を強制経口投与したスンクス6匹及び対照物質の水を強制経口投与したスンクス6匹の合計12匹をアクリスゲージに入れ、上部より1台のカメラで12匹のスンクスが嘔吐している時の動画を撮影した。また、URTRAVOX(ノルダス社製の超音波検出・解析システム)を同時に起動させ、アクリルゲージの横上部に設置し、動画撮影時間中のスンクスの鳴声(音声)データの取り込みを動画撮影と同時に実施した。
【0039】
(2)動画撮影と音声データとの統合
ジオブサーバーXT(ノルダス社製の観察データ収集解析プログラム)を使用し、取得したスンクス嘔吐動画とスンクスの鳴声(音声)データの時間軸を揃え、お互いがリンクするように2つのデータを統合した。図6は、スンクスの鳴声に基づいてスンクスの嘔吐行動と判定した判定結果とスンクスの動画データとを統合した統合データを表示装置に表示した場合の評価画面を模式的に示している。評価画面30には、動画データ表示領域31と、判定結果表示領域32と、が含まれている。動画データ表示領域31には、撮影されたスンクスの動画が動画表示部33に表示される。動画表示部33は、動画表示部33の下方に設けられた動画制御部34が操作されることにより再生、早送り、戻り、停止等、動画の再生が制御される。また、動画制御部34は、適宜の時刻が選択可能に構成されている。動画表示部33には、動画制御部34にて選択された適宜の時刻の動画が再生される。判定結果表示領域32には、スンクスの鳴声に基づいてスンクスの嘔吐行動と判定した判定結果35が時間軸と対応付けて表示される。また、判定結果表示領域32には、動画表示部33にて再生されている動画が撮影された時刻に対応する時刻基準線36が表示される。判定結果35は、動画表示部33にて再生されている時刻に対応する時刻のものが表示され、再生される動画表示部33の時刻と判定結果35の時刻とが時刻基準線36にて一致するように移動する。これにより、判定結果35が正確なものであるか否かを対応する動画により容易に評価することができる。判定結果35の内容の詳細は後述する。
【0040】
(3)人観察データ(従来法)と本システムとの比較
本システムから得られる結果が、人が観察した場合の結果と同等であるか比較した。図7は、判定結果35と人の観察結果との比較結果を示す図である。また、図7では、判定結果35の詳細が示されている。図7の判定結果35は、上から、スンクスの嘔吐時の鳴声として20±4kHzの音声周波数帯を検出した場合、30±4kHzの音声周波数帯を検出した場合の順に、検出結果を示している。図7の横軸は時間を、ブロック40は、スンクスの嘔吐シグナルと判定された音声シグナルパターン(フィルタ工程済み)が検出された時刻及び長さを、それぞれ示している。図7に示すように、20±4kHz及び30±4kHzのいずれの音声周波数帯においても、時刻が0:02:00:000(2分)を示す直前に連続して5つのブロック40が、0:02:00:000を経過した直後に連続して2つのブロック40が、それぞれ出現している。一方、時刻が0:06:00:000を示す直後及び0:10:00:000を示す直前では、20±4kHzの場合にブロック40が出現しているのに対し、30±4kHzの場合にはブロック40が出現していない。
【0041】
また、図7の破線41は、人が観察してスンクスに嘔吐行動が認められたと判断した領域を示している。図7に示すように、30±4kHzの音声周波数帯では、スンクスの嘔吐を比較的感度よく、選択的に検出していたが、一部に見落としが認められた。一方、20±4kHzの音声周波数帯では、見落としが無く、スンクスの嘔吐を的確に検出することができた。例えば、図7に示すように、人による観察によって、時刻が0:02:00:000を示す直前から直後にかけてと、時刻が0:06:00:000を示す直後及び0:10:00:000を示す直前とに、それぞれ嘔吐行動が検出されている。これに対して、本システムの判定結果では、20±4kHzの場合には人による観察と同様の時期に嘔吐の判定が示されている一方で、30±4kHzの場合には時刻が0:06:00:000を示す直後及び0:10:00:000を示す直前において嘔吐の判定が示されていない。以上より、音声周波数帯を20±4kHz、音声フィルタ条件をon time:630ms、off time:1000msに設定することで、スンクスの嘔吐行動を自動で検出することも可能であると判断した。
【符号の説明】
【0042】
1 嘔吐検出装置
4 マイク(音声入力手段)
5 バンドフィルタ(音声検知手段)
6 コンピュータ(フィルタ手段、音声判定手段、統合手段)
7 カメラ(撮影手段)
11 フィルタ部
12 判定部
13 データ統合部
19 音声シグナル
19a 特定の音声シグナル(特定音声)
25 音声シグナルパターン(所定の音声パターン、嘔吐情報、特定状態)
26 終了状態
30 評価画面(統合情報)
S1 撮影工程
S2 音声入力工程
S3 音声検出工程
S4 フィルタ工程
S5 音声判定工程
S6 評価工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出方法において、
スンクスの鳴声を入力する音声入力工程と、
前記音声入力工程にて入力されたスンクスの鳴声から所定周波数帯の音声を検出する音声検出工程と、
前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声から嘔吐情報を特定し、前記嘔吐情報に基づいてスンクスの嘔吐行動を判定する音声判定工程と、を備えることを特徴とする嘔吐検出方法。
【請求項2】
前記音声検出工程では、前記所定周波数帯として20±4kHzの音声を検出する請求項1に記載の嘔吐検出方法。
【請求項3】
前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声に基づいて所定の音声パターンを検出するフィルタ工程を更に備え、
前記音声判定工程は、前記フィルタ工程にて検出された前記所定の音声パターンを前記嘔吐情報として特定する請求項1又は2に記載の嘔吐検出方法。
【請求項4】
前記フィルタ工程では、前記音声検出工程にて検出された前記所定周波数帯の音声に基づいて、スンクスの嘔吐行動の開始と判定可能な特定状態の発生から前記所定周波数帯の音声が一定時間検出されない終了状態の発生までを、前記所定の音声パターンとして検出する請求項3に記載の嘔吐検出方法。
【請求項5】
前記フィルタ工程では、前記所定周波数帯の音声が所定時間継続する特定音声の発生を前記特定状態の発生として検出する請求項4に記載の嘔吐検出方法。
【請求項6】
前記フィルタ工程では、前記所定時間として630msが、前記一定時間として1000msがそれぞれ適用され、630ms継続する前記特定音声の発生を前記特定状態の発生として、1000ms前記所定周波数帯の音声が発生しない状態の発生を前記終了状態の発生として、それぞれ検出する請求項5に記載の嘔吐検出方法。
【請求項7】
スンクスの嘔吐行動を撮影する撮影工程と、
前記音声判定工程の前記判定結果の時間軸と前記撮影工程の撮影結果の時間軸とを揃え、互いに関連付けて統合した統合情報に基づいて前記判定結果を前記撮影結果にて評価する評価工程と、を更に備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の嘔吐検出方法。
【請求項8】
小型哺乳動物のスンクスの嘔吐行動を検出する嘔吐検出装置において、
スンクスの鳴声を入力する音声入力手段と、
前記音声入力手段にて入力されたスンクスの鳴声から所定周波数帯の音声を検出する音声検出手段と、
前記音声検出手段にて検出された前記所定周波数帯の音声から嘔吐情報を特定し、前記嘔吐情報に基づいてスンクスの嘔吐行動を判定する音声判定手段と、を備えることを特徴とする嘔吐検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−72225(P2011−72225A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225427(P2009−225427)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)