説明

嚥下障害検出システム

【課題】認知症患者に対しても、嚥下動作自体が生じていないことを自動的に迅速に検出可能で、患者および介護者の負担を軽減可能な、嚥下障害検出システムを提供する。
【解決手段】嚥下障害検出システム1は、咀嚼検出手段2と、動き検出手段3と、嚥下障害判定手段4とを備える。咀嚼検出手段は、被検者Aの咀嚼動作に関する物理量を検出して、当該物理量に基づいて咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する。動き検出手段は、被検者の咽頭Pまたは喉頭Lの動きに関する物理量を検出して、当該物理量に基づいて咽頭または喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する。嚥下障害判定手段は、咀嚼検出手段によって被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、動き検出手段によって咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下障害検出システム、より詳細には、言葉を理解することが困難な、あるいは、自分の状況を言葉で説明することが困難な認知症患者の嚥下障害を検出する嚥下障害検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食べ物を良く噛んで呑み込むこと、すなわち、咀嚼と嚥下の機能は、栄養をとることの基本となる。特に、嚥下機能の低下は、栄養の不足、ひいては免疫機能の低下という深刻な事態を招く。このため、検査によって嚥下障害を早期に発見することにより、患者が重篤な状態になる前に予防的措置を講じることは極めて重要になる。
【0003】
ところで、近年、嚥下障害の検査方法として、例えば、反復唾液嚥下テスト(RSST:repetitive saliva swallowing test)やオーラルディアドコキネシスなどが知られている。
反復唾液嚥下テストは、患者(被検者)に例えば30秒間唾を繰り返し飲み込ませ、医師(検者)が触診によって被検者の嚥下に伴う喉頭挙上の回数を数えて、嚥下障害を評価するというものである。
また、オーラルディアドコキネシスは、被検者に例えば10秒間「パ」、「タ」、「カ」をできる限り発音させ、検者がそれらの発音回数を数えて、嚥下障害を評価するというものである。
しかしながら、これらの検査方法では、「30秒間にできる限り唾を繰り返し飲み込んで下さい」あるいは「10秒間にできる限りパ、タ、カを発音して下さい」という検者の指示内容を理解できない、あるいは、理解していても行動に移せないような認知症患者に対して、嚥下障害の検査を行うことは困難である。
【0004】
そこで、このような認知症患者に対しても嚥下障害の検査を行うための各種装置が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4011071号
【特許文献2】特開2008−301895号
【特許文献3】特開2009−160459号
【特許文献4】特開2008−018010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の装置によれば、被検者の嚥下において重要な、喉頭蓋の開閉音および食べ物の食道入口での通過音(嚥下音)を、センサーで捕捉して解析することで、嚥下障害を判定する。しかしながら、特許文献1記載の装置では、嚥下動作に伴う嚥下音をとることを大前提としているため、被検者の嚥下動作自体が生じていないことを検査することはできない。
【0007】
特許文献2記載の装置によれば、被検者の喉頭における横方向の2箇所の変位を検出して、被検者が嚥下する時の嚥下音を検出することによって、検出した変位および嚥下音の波形を表示することで、嚥下の度合いを視覚的に捕らえることができる。しかしながら、特許文献2記載の装置では、特許文献1と同様、嚥下動作に伴う嚥下音をとることを大前提としているため、被検者の嚥下動作自体が生じていないことを検査することはできない。
【0008】
特許文献3記載の装置によれば、被検者の喉頭における甲状軟骨の上下運動方向に沿って配列された複数の圧力センサーを用いて、被検者が嚥下する時の嚥下動作を検出することにより、ビール等の飲み物を飲み込むときに生ずる嚥下能力を検査する。しかしながら、特許文献3記載の装置では、特許文献1および2と同様、嚥下動作に伴う嚥下音をとることを前提としているため、被検者の嚥下動作自体が生じていないことを検査することはできない。
【0009】
特許文献4記載の装置によれば、被検者の咬筋部等に取り付けた加速度センサーを用いて咀嚼動作を測定し、被検者の喉頭に取り付けた加速度センサーを用いて嚥下動作を測定し、各加速度センサーの出力を解析することで、嚥下障害を判定する。しかしながら、特許文献4には、各加速度センサーの出力をどのように解析して嚥下障害を判定するのかの具体例が何ら開示されておらず、その実現には試行錯誤を要する。このため、当業者が特許文献4を参照して嚥下障害を明確に判定できるとは言えない。さらに、特許文献4記載の装置では、嚥下動作を加速度センサーによって測定しているが、医療現場では喉頭の動きが触診によって調べられていることを鑑みれば、当該加速度センサーを用いる方法は実際の検査には不向きであると考えられる。
【0010】
さらに、特許文献4記載の装置は咀嚼動作および嚥下動作を測定する装置であるにもかかわらず、特許文献4の明細書中には、咀嚼動作が正常か異常かを判定する点のみしか開示されておらず(例えば段落[0058]を参照)、嚥下動作を判定するという技術的事項は何ら開示されていない。
ところで、嚥下障害のある患者は、食事中、咀嚼動作を正常に行っていたとしても、実際には嚥下反射(自動的な嚥下動作)を行えていない。このため、特許文献4記載の装置を使用したとしても、患者の介護者は、咀嚼動作が正常に行われていることだけにとらわれて、嚥下反射が行われていないことに気づかない。これによって、介護者は、患者に咀嚼動作を続けさせる等の的外れな介護を行ってしまい易い。また、患者の食事時間が不必要に長くなる等、患者および介護者の負担も増大し易い。
【0011】
そこで、本発明は、認知症患者に対しても、嚥下動作自体が生じていないことを自動的に迅速に検出可能で、患者および介護者の負担を軽減可能な、嚥下障害検出システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、被検者の咀嚼動作に関する物理量を検出して、当該咀嚼動作に関する物理量に基づいて、当該被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する咀嚼検出手段と、前記被検者の咽頭または喉頭の動きに関する物理量を検出して、当該咽頭または喉頭の動きに関する物理量に基づいて、当該咽頭または喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する動き検出手段と、前記咀嚼検出手段および動き検出手段の各検出結果に基づいて、前記被検者が嚥下障害であるかの判定結果を出力する嚥下障害判定手段と、を備え、前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする嚥下障害検出システムとしたものである。
【0013】
上記構成において、前記咀嚼動作に関する物理量は、前記被検者の咀嚼時の口内の音、前記被検者の咀嚼時に動く顎の位置、前記被検者の咀嚼に関与する筋肉の筋電位、および前記被検者の咀嚼に関与する血管の血流に関するもののうちの少なくとも1つまたは2以上の組み合せであることが好ましい。
あるいは、上記構成において、前記咽頭または喉頭の動きに関する物理量は、前記被検者の咽頭または喉頭の位置に関するものであることが好ましい。
【0014】
また、上記構成において、前記咀嚼検出手段は、前記被検者の咀嚼時の口内の音を測定可能な音センサーと、前記音センサーの出力を解析して前記被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する音解析部とからなり、前記嚥下障害判定手段は、前記音解析部によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することが好ましい。
あるいは、上記構成において、前記咀嚼検出手段は、前記被検者の咀嚼時に動く顎の位置を測定可能な測距センサーと、前記測距センサーの出力を解析して前記被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する距離解析部とからなり、前記嚥下障害判定手段は、前記距離解析部によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することが好ましい。
【0015】
また、上記構成において、前記動き検出手段は、前記被検者の喉頭の位置を測定可能な圧力センサーと、前記圧力センサーの出力を解析して前記喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する圧力解析部とからなり、前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記圧力解析部によって、前記喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することが好ましい。
あるいは、上記構成において、前記動き検出手段は、前記被検者の喉頭の位置を測定可能な測距センサーと、前記測距センサーの出力を解析して前記喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する距離解析部とからなり、前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記距離解析部によって、前記喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することが好ましい。
また、あるいは、上記構成において、前記動き検出手段は、前記被検者の咽頭の位置を内部撮影して透視画像を取得して出力する撮像カメラと、前記撮像カメラの出力を解析して前記咽頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する画像解析部とからなり、前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記画像解析部によって、前記咽頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、咀嚼検出手段が、被検者の咀嚼動作が継続して行われていることを検出し、動き検出手段が、咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを検出し、嚥下障害判定手段が、咀嚼検出手段および動き検出手段の2つの検出結果のみに基づいて被検者が嚥下障害であることを判定するように構成されている。そして、本発明は、上記各特許文献1〜3に記載の従来技術のような、被検者の嚥下動作(嚥下音等)を検出してから嚥下障害を判定するものではなく、嚥下の前段階である咽頭または喉頭の動きが生じていないことに起因する自動的な嚥下動作が生じていないことを検出して、嚥下障害を判定するように構成されている。したがって、本発明に係る嚥下障害検出システムによれば、認知症患者に対しても、嚥下動作自体が生じていないことを自動的に迅速に検出することができる。
また、本発明では、咀嚼検出手段および動き検出手段によって、それぞれ咀嚼動作および嚥下動作が正確に検出されるように構成されている。したがって、上記特許文献4に記載の従来技術のような、患者の咀嚼動作が正常に行われていたとしても、介護者が患者の嚥下反射の異常に気づかないといった的外れな介護を行う等の、介護者および患者の負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る嚥下障害検出システムの構成図である。
【図2】図1の嚥下障害判定手段の動作を示すフローチャートである。
【図3】咽頭および喉頭の構造を示した図である。
【図4】本発明の第1実施例による嚥下障害検出システムの構成図である。
【図5】図4の音センサーの出力を示すグラフである。
【図6】(A)は図4の圧力センサーの構成例を示す側面図、(B)は(A)の上面図、(C)は被検者の甲状軟骨の位置を示した図、(D)は圧力センサーを甲状軟骨の近傍の皮膚表面へ取り付ける状態を説明する図、(E)は図4の圧力センサーの他の構成例を示す側面図である。
【図7】図4の嚥下障害判定手段の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施例による嚥下障害検出システムの構成図である。
【図9】(A)は図8のドップラーセンサーの出力を示すグラフ、(B)は(A)の出力のフーリエ解析結果を示すグラフ、(C)は図8の各ドップラーセンサーのパワースペクトルを示すグラフである。
【図10】嚥下動作の過程を説明するための図である。
【図11】図8の嚥下障害判定手段の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る嚥下障害検出システムの好ましい実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る嚥下障害検出システムの構成図である。図2は、図1の嚥下障害判定手段の動作を示すフローチャートである。
図1に示すように、嚥下障害検出システム1は、咀嚼検出手段2と、動き検出手段3と、嚥下障害判定手段4とを備える。
【0020】
咀嚼検出手段2は、被検者Aの咀嚼動作に関する物理量を検出して、当該咀嚼動作に関する物理量に基づいて、当該被検者Aの咀嚼が継続しているかの検出結果(検出信号)を出力するものである。咀嚼動作に関する物理量としては、例えば、被検者Aの咀嚼時の口内の音、被検者Aの咀嚼時に動く顔(例えば顎等)の位置、被検者Aの咀嚼に関与する筋肉の筋電位、被検者Aの咀嚼に関与する血管の血流に関するもの等が挙げられる。
【0021】
動き検出手段3は、被検者Aの咽頭Pまたは喉頭Lの動きに関する物理量を検出して、当該咽頭Pまたは喉頭Lの動きに関する物理量に基づいて、当該咽頭Pまたは喉頭Lが所定の動きをしているかの検出結果(検出信号)を出力するものである。咽頭Pまたは喉頭Lの動きに関する物理量としては、例えば、被検者Aの咽頭Pまたは喉頭Lの位置に関するもの等が挙げられる。
ここで、図3は、咽頭Pおよび喉頭Lの構造を示した図であって、書物『摂食・嚥下のメカニズム』(発行所:医歯薬出版株式会社、著者:山田好秋、p.80の図3−10およびp.81の図3−11)を参考に描いたものである。図3に示すように、咽頭Pは、鼻腔、口腔、喉頭と頚椎との間にできた筒状の空間であり、上咽頭、中咽頭、下咽頭に区分される。また、喉頭Lは、喉頭軟骨(甲状軟骨、輪状軟骨、喉頭蓋軟骨等)を靱帯と喉頭筋でつなぎ合わせた構造を有する。喉頭Lは、甲状舌骨筋で舌骨に吊り下げられた形をしている。嚥下動作時には、顎二腹筋等の舌骨上筋群により舌骨が上前方に引き上げられるとともに、甲状舌骨筋が収縮し、喉頭L(特に当該喉頭Lの甲状軟骨)が上前方に移動する。また、喉頭蓋軟骨は、嚥下動作時に喉頭蓋をふさぐ蓋となる軟骨である。
【0022】
嚥下障害判定手段4は、咀嚼検出手段2および動き検出手段3の各検出結果(検出信号)に基づいて、図2に示すような手順で、被検者Aが嚥下障害であるかの判定結果(判定信号)を出力する。
すなわち、嚥下障害判定手段4は、咀嚼検出手段2によって、被検者Aの咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、動き検出手段3によって、咽頭Pまたは喉頭Lが所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、被検者Aが嚥下障害であることを示す判定結果を出力する。
【0023】
咀嚼検出手段2および動き検出手段3としてはいずれも様々な公知のものを使用することができるが、以下、本発明の好ましいいくつかの実施例について説明する。
【0024】
(第1実施例)
図4は本発明の第1実施例による嚥下障害検出システムの構成図である。図4に示すように、嚥下障害検出システム1Aは、咀嚼検出手段2Aと、動き検出手段3Aと、嚥下障害判定手段4Aとを備える。
【0025】
本実施例において、咀嚼検出手段2Aは音センサー5と音解析部6からなる。また、動き検出手段3Aは圧力センサー7と圧力解析部12からなる。嚥下障害判定手段4Aは、咀嚼検出手段2Aおよび動き検出手段3Aの各検出結果(検出信号)に基づいて、後述するような図7に示す手順で、被検者Aの嚥下障害を判定するものである。
【0026】
まず、咀嚼検出手段2Aについて図4および図5を参照して詳細に説明する。
図4に示すように、音センサー5は、公知のマイクロフォンからなり、被検者Aの耳の内部または耳の近傍の皮膚表面に取り付けられ、被検者Aの咀嚼時の口内の音を測定するものである。
音解析部6は、音センサー5の出力を解析して被検者Aの咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する。音解析部6は音センサー5の出力を次に述べるような方法で解析する。
【0027】
図5は、被検者Aが食べ物を噛んでいるときの音センサー5の出力を示すグラフである。音解析部6は、さらに図5のグラフの波形をローパスフィルター(図示しない)に入力して、低周波成分(例えば、図5に示す咀嚼点<1>〜<5>)を求めて、咀嚼開始時からの咀嚼回数または咀嚼時間を算出する。そして、音解析部6は、算出した咀嚼回数または咀嚼時間が所定咀嚼回数以上または所定咀嚼時間以上である場合に、被検者Aの咀嚼が継続しているとの検出結果(検出信号)を出力する。
【0028】
次に、動き検出手段3Aについて図4および図6を参照して詳細に説明する。
圧力センサー7は、図4および図6(A)、(B)に示すように、少なくとも1つ以上の圧力センサー本体8と、付勢手段9と、支持部材10と、バンド11から構成される。各圧力センサー本体8は、それぞれ付勢手段9を介して支持部材10の一方面に設けられている。
あるいは、圧力センサー7は、図6(E)に示すように、少なくとも1つ以上の圧力センサー本体8と、付勢手段9と、第1および第2の支持部材10a、10bと、バンド11から構成されてもよい。この場合、各圧力センサー本体8は、付勢手段9を介さずに第1の支持部材10aの一方面に直接設けられている。また、第1の支持部材10aは付勢手段9を介して第2の支持部材10bの一方面に設けられている。
圧力センサー本体8は、図6(B)に示すように、支持部材10の上部(被検者Aの顔側)に3個、中央部(被検者Aの喉頭Lの甲状軟骨に対向する側)に3個、下部(被検者Aの胸側)に3個設けられている。支持部材10の両側面には、バンド11が取り付けられている。そして、バンド11が被検者Aの首の周りに巻きつけられて、付勢手段9の付勢力によって各圧力センサー本体8が被検者Aの喉頭Lの甲状軟骨の近傍の皮膚表面に密着されるようになっている。各圧力センサー本体8は、被検者Aの甲状軟骨の運動によって受けた圧力の大きさに応じたセンサー信号を出力する。したがって、甲状軟骨が移動すると各圧力センサー本体8の圧力の大きさが変化する。
なお、付勢手段9の種類は、複数の圧力センサー本体8を被検者Aの甲状軟骨の近傍の皮膚表面に押し付けるものであれば何ら限定されるものでなく、例えば、バネやゴム部材であってもよい。また、圧力センサー本体8の種類は、圧力に感応するものであれば何ら限定されるものでなく、例えば、圧力に応じて電荷が変化する圧電素子、圧力に応じて抵抗値が変化する導電素子(例えばピエゾ抵抗型素子)、圧力に応じて静電容量が変化する素子であってもよい。
【0029】
圧力解析部12は、例えば、被検者Aの甲状軟骨の動きに伴う各圧力センサー本体8の出力変動量等を解析して、喉頭Lが所定の動きをしているかの検出結果を出力する。圧力解析部12は、各圧力センサー本体8の出力変動量が所定出力変動量以下であると判定される場合に、喉頭Lの甲状軟骨が所定の動きをしていない(喉頭Lが所定の動きをしていない)ことを示す検出信号を出力する。
【0030】
さらに、嚥下障害判定手段4Aについて図4および図7を参照して詳細に説明する。
図4および図7に示すように、嚥下障害判定手段4Aは、咀嚼検出手段2Aの音解析部6によって、被検者Aの咀嚼が所定咀嚼回数以上または所定咀嚼時間以上継続して行われていることが検出されているにもかかわらず、動き検出手段3Aの圧力解析部12によって、被検者Aの喉頭Lの甲状軟骨が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力する。
【0031】
(第2実施例)
ところで、第1実施例の嚥下障害検出システム1Aでは、被検者の耳および首にそれぞれ音センサーおよび圧力センサーを取り付ける必要があるため、特に子供や高齢者等の被検者に対しては負担が大きくなる場合がある。そこで、被検者の負担を軽減させるため、本第2実施例の嚥下障害検出システム1Bでは、咀嚼動作、および、咽頭または喉頭の動きを非接触で検出する構成とした。
図8は本発明の第2実施例による嚥下障害検出システムの構成図である。図8に示すように、嚥下障害検出システム1Bは、咀嚼検出手段2Bと、動き検出手段3Bと、嚥下障害判定手段4Bとを備える。
【0032】
本実施例において、咀嚼検出手段2Bは、二周波・二波型のマイクロ波ドップラーセンサー(測距センサー)13a、13bと距離解析部14からなる。また、動き検出手段3Bは撮像カメラ15と画像解析部16からなる。嚥下障害判定手段4Bは、咀嚼検出手段2Bおよび動き検出手段3Bの各検出結果(検出信号)に基づいて、後述するような図11に示す手順で、被検者Aの嚥下障害を判定するものである。
【0033】
まず、咀嚼検出手段2Bについて図8および図9を参照して詳細に説明する。
図8に示すように、一般的に、被検者Aの咀嚼動作は顎Jの上下運動が周期的に繰り返されるものと考えられるため、ドップラーセンサー13a、13bは、被検者Aの顎Jの下方に配置される。ドップラーセンサー13a、13bは、互いに異なる搬送周波数を有している。これは、マイクロ波の反射位置を弁別して、特定距離にある顎位置からの反射のみを取り出して、咀嚼動作と他の行動を区別するようにするためである。ドップラーセンサー13a、13bは、被検者Aの顎Jの上下運動に応じたセンサー信号をそれぞれ出力する。ドップラーセンサー13a、13bの各センサー信号は、それぞれ位相がずれたものとなる。
距離解析部14は、次のような手順で、ドップラーセンサー13a、13bのセンサー信号を解析して、被検者Aの顎Jの動きを検出して咀嚼動作を判定する。
【0034】
(ステップ1)データ取得、ウィンドウ設定
距離解析部14は、得られたドップラーセンサー13a、13bのセンサー信号に対して、一定時間(1秒間)ずつずらした一定サイズのウィンドウ(5秒間)を作成する。
【0035】
(ステップ2)FFT、ピーク周波数測定
被検者Aの咀嚼動作は一定速度の運動の繰り返しであると考えられるため、距離解析部14は、移動体(顎J)が一定速度で運動している場合に、咀嚼動作が行われていると判定する。この処理手順は以下の通りである。
[1]センサー信号のフーリエ変換
距離解析部14は、ギブス条件を考慮して、図9(A)に示すようなウィンドウに窓関数(hamming窓)を乗算し、センサー信号のフーリエ変換を行う。
[2]ピーク周波数の判定
距離解析部14は図9(B)に示すようなセンサー信号のフーリエ解析結果に基づいて、ピーク周波数が咀嚼周波数の範囲内にあるか否かを調べる。各種食品の第1大臼歯の咀嚼並行速度は37〜74[mm/s]であることが知られている。このため、距離解析部14は、咀嚼周波数付近にドップラー周波数のピークが出たときに、咀嚼周波数であると判定する。
[3]2つのセンサーのピーク周波数の比較
距離解析部14は、ドップラーセンサー13a、13bのピーク周波数が一致しているか否かを判定する。一致していれば咀嚼周波数と判定し、ピーク周波数のみを取り出すフィルターをかけた後、フーリエ逆変換を行う。
【0036】
(ステップ3)上下運動回数判定
被検者Aの咀嚼動作は一定距離の顎Jの上下運動の繰り返しであると考えられる。このため、距離解析部14は、顎Jが一定回数以上にわたって上下運動をしていれば咀嚼動作と判定する。距離解析部14は、まず、図9(C)に示すような、ドップラーセンサー13a、13bが出力した各センサー信号のパワースペクトルを算出する。そして、各センサー信号の位相のずれから、顎Jの各ドップラーセンサー13a、13bへの接近・離反を判定することで、咀嚼動作が行われているか否かを判定する。この処理手順は以下の通りである。
[1]振幅値検出
顎Jが一定速度で運動していれば、ピーク周波数におけるセンサー信号の電圧の振幅値は大きくなる。したがって、距離解析部14は、ピーク周波数における振幅値が所定振幅値よりも大きければ、咀嚼動作が行われていると判定する。
[2]接近・離反判定
距離解析部14は、一定閾値以上の振幅値において、各センサー信号の位相のずれから移動体の接近・離反判定を行う。
[3]上下運動回数検出・判定
距離解析部14は、図9(C)のグラフに示すような、接近・離反の波形パターンを解析して上下運動の回数を検出し、その回数が所定回数以上ある場合に、咀嚼動作が行われていると判定する。
【0037】
(ステップ4)距離判定
距離解析部14は、特定距離にある顎位置からの反射のみを検出することによって、咀嚼動作とその他の行動とを区別する。
【0038】
(ステップ5)行動判定
距離解析部14は、10秒間のウィンドウ幅の「区間」を作成し、この中に存在する6個のウィンドウの行動判定の多数決を取ることにより、最終的な「区間」の行動を決定する。そして、距離解析部14は、「区間」に存在する6個のウィンドウにおいて2個以上、上記ステップ1〜3の条件を満たしていれば10秒間咀嚼動作を行っていると判定し、被検者Aの咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する。
【0039】
次に、動き検出手段3Bについて図8および図10を参照して詳細に説明する。
図8に示すように、撮像カメラ15は、X線カメラ15からなり、被検者Aから一定距離だけ離れた側方位置に配置され、被検者Aの咽頭Pの位置を内部撮影して透視画像を取得して出力する。
画像解析部16は、X線カメラ15によって撮像された複数の画像を解析して、被検者Aの咽頭Pの動きを検出する。
【0040】
図10は、嚥下動作の過程を説明するための図であって、書物『摂食・嚥下のメカニズム』(発行所:医歯薬出版株式会社、著者:山田好秋、p.87の図3−16)を参考に描いたものである。図10に示すように、食事時において、被検者Aが食べ物を口の中に入れると、咀嚼が始まり、舌が持ち上がり、食塊が形成され、舌が食塊を咽頭Pに押し出す(同図(1)参照)。そして、鼻腔と咽頭腔の間が閉鎖され、軟骨蓋と咽頭Pの筋が食塊を下方へ押し出す(同図(2)参照)。そして、咽頭Pが舌骨に引きつけられ(同図(3)参照)、喉頭蓋が反転して喉頭口を閉鎖する(同図(4)参照)。さらに、声門が閉鎖される(同図(5)参照)とともに食塊が食道へと移動する。
したがって、画像解析部16は、X線カメラ15によって撮像された咽頭Pに関する複数の画像を解析して、上述した咽頭Pの喉頭蓋の動きが所定の動きをしているかの検出結果を出力する。画像解析部16は、咽頭Pの例えば喉頭蓋等の位置変化が所定変化量以下であると判定される場合に、咽頭Pが所定の動きをしていないことを示す検出信号を出力する。
【0041】
さらに、嚥下障害判定手段4Bについて図8および図11を参照して詳細に説明する。
図8および図11に示すように、嚥下障害判定手段4Bは、距離解析部14によって、被検者Aの咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、画像解析部16によって、咽頭Pが所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、被検者Aが嚥下障害であることを示す判定結果を出力する。
【0042】
本発明に係る嚥下障害検出システムは、特許文献1〜3に記載の従来技術のように、被検者の嚥下動作(嚥下音等)を検出してから嚥下障害を判定するものではなく、嚥下の前段階である咽頭または喉頭の動きが生じていないことに起因する自動的な嚥下動作が生じていないことを検出して、嚥下障害を判定するように構成されている。したがって、本発明に係る嚥下障害検出システムによれば、言葉を理解することが困難な、あるいは、自分の状況を言葉で説明することが困難な認知症患者に対しても、嚥下動作自体が生じていないことを自動的に迅速に検出することができる。
また、本発明では、咀嚼検出手段および動き検出手段によって、それぞれ咀嚼動作および嚥下動作が正確に検出されるように構成されている。したがって、上記特許文献4に記載の従来技術のような、患者の咀嚼動作が正常に行われていたとしても、介護者が患者の嚥下反射の異常に気づかずに的外れな介護を行ったり、患者の食事時間が不必要に長くなったりする等といった、介護者および患者の負担を軽減させることができる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の構成はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0044】
咀嚼検出手段は、被検者の咀嚼が継続しているかを検出できるものであれば、何ら限定されるものではない。咀嚼検出手段として、上記実施例以外に、例えば、特許第3914480号公報に示された咀嚼検出手段等を使用しても良い。
また、第2実施例のマイクロ波ドップラーセンサーの変わりに、フェーズドアレーレーダー(Phased Array Radar)、レーザーレーダ、赤外線センサー、または超音波センサーを使用してもよい。
【0045】
動き検出手段は、咽頭または喉頭が所定の動きをしているかを検出できるものであれば、何ら限定されるものではない。
例えば、第2実施例のX線カメラの変わりに、超音波カメラを使用してもよい。また、第2実施例では咽頭の動きを検出する手段について述べたが、喉頭の動きを検出する手段として、被検者の喉頭の位置(例えば咽仏の位置等)を外部撮影可能な可視光線カメラあるいはステレオカメラを使用してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1、1A、1B 嚥下障害検出システム
2、2A、2B 咀嚼検出手段
3、3A、3B 動き検出手段
4、4A、4B 嚥下障害判定手段
5 音センサー
6 音解析部
7 圧力センサー
8 圧力センサー本体
9 付勢手段
10 支持部材
10a 第1の支持部材
10b 第2の支持部材
11 バンド
12 圧力解析部
13a、13b 測距センサー(ドップラーセンサー)
14 距離解析部
15 撮像カメラ(X線カメラ)
16 画像解析部
A 患者(被検者)
L 喉頭
P 咽頭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の咀嚼動作に関する物理量を検出して、当該咀嚼動作に関する物理量に基づいて、当該被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する咀嚼検出手段と、
前記被検者の咽頭または喉頭の動きに関する物理量を検出して、当該咽頭または喉頭の動きに関する物理量に基づいて、当該咽頭または喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する動き検出手段と、
前記咀嚼検出手段および動き検出手段の各検出結果に基づいて、前記被検者が嚥下障害であるかの判定結果を出力する嚥下障害判定手段と、を備え、
前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする嚥下障害検出システム。
【請求項2】
前記咀嚼動作に関する物理量は、前記被検者の咀嚼時の口内の音、前記被検者の咀嚼時に動く顎の位置、前記被検者の咀嚼に関与する筋肉の筋電位、および前記被検者の咀嚼に関与する血管の血流に関するもののうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項3】
前記咽頭または喉頭の動きに関する物理量は、前記被検者の咽頭または喉頭の位置に関するものであることを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項4】
前記咀嚼検出手段は、前記被検者の咀嚼時の口内の音を測定可能な音センサーと、前記音センサーの出力を解析して前記被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する音解析部とからなり、
前記嚥下障害判定手段は、前記音解析部によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項5】
前記咀嚼検出手段は、前記被検者の咀嚼時に動く顎の位置を測定可能な測距センサーと、前記測距センサーの出力を解析して前記被検者の咀嚼が継続しているかの検出結果を出力する距離解析部とからなり、
前記嚥下障害判定手段は、前記距離解析部によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記動き検出手段によって、前記咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項6】
前記動き検出手段は、前記被検者の喉頭の位置を測定可能な圧力センサーと、前記圧力センサーの出力を解析して前記喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する圧力解析部とからなり、
前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記圧力解析部によって、前記喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項7】
前記動き検出手段は、前記被検者の喉頭の位置を測定可能な測距センサーと、前記測距センサーの出力を解析して前記喉頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する距離解析部とからなり、
前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記距離解析部によって、前記喉頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の嚥下障害検出システム。
【請求項8】
前記動き検出手段は、前記被検者の咽頭の位置を内部撮影して透視画像を取得して出力する撮像カメラと、前記撮像カメラの出力を解析して前記咽頭が所定の動きをしているかの検出結果を出力する画像解析部とからなり、
前記嚥下障害判定手段は、前記咀嚼検出手段によって、前記被検者の咀嚼が継続していることを示す検出結果が出力されたにもかかわらず、前記画像解析部によって、前記咽頭が所定の動きをしていないことを示す検出結果が出力された場合に、前記被検者が嚥下障害であることを示す判定結果を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の嚥下障害検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−75758(P2012−75758A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225319(P2010−225319)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)