説明

回収塗料の分離液の再使用方法

【目的】 塗料希釈水の濃縮の効率を低下させることなく塗料希釈水からの分離液を洗浄水として再利用できるようにする。
【構成】 水性塗料を洗浄水1に捕集させて得られる塗料希釈水2を回収し、これを塗料と水に分離することによって塗料を回収すると共に分離液3を洗浄水2として再使用する。このシステムにおいて、分離液2を再使用して調製される洗浄水1の酸価を10以下、pHを7.0〜9.0に調整する。酸価及びpHで分離液中の低分子酸成分の量を管理して、洗浄水1に塗料を捕集して得られる塗料希釈水2を濾過・濃縮する際に濃縮塗料の粘度が異常に高くなることを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塗装ブース内の洗浄水に捕集される水性塗料を分離回収して再使用する系における分離液の再使用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】塗装ブース内において水性塗料をスプレー塗装するにあたって、被塗装物に塗着しない塗料のダストが多く発生するが、この塗料ダストは塗装ブース内の洗浄水(ブース循環水)に溶解乃至分散させて捕集される。このように洗浄水に捕集される塗料ダストは多量であるために、これをそのまま廃棄すると塗料の損失になると共に、また環境汚染の問題にもつながる。
【0003】そこで、従来から洗浄水に捕集された塗料を回収して再使用することが検討されており、例えば特開昭49−51324号公報に開示されるような回収方法が提案されている。すなわちこのものは、水性塗料の噴霧ダストを塗装ブース内の洗浄水に捕集することによって得られる塗料希釈水を限外濾過膜や逆浸透濾過膜などに通し、水を濾過して濃縮することによって水性塗料の不揮発分濃度を元の水性塗料と同程度に戻すようにしたものであり、このように塗料希釈水を濃縮することによって水性塗料を洗浄水から分離して再生使用できるようにしたものである。
【0004】このように洗浄水に捕集された塗料を回収するために塗料希釈水を限外濾過膜などに通して濃縮する際に、塗料から分離された大量の分離液が濾液として得られる。この分離液を廃棄するとなると排水処理をおこなうことが必要になるために、分離液を再度塗装ブースに戻して洗浄水として再使用することがおこなわれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のように塗料希釈水から分離された分離液を塗装ブースの洗浄水として再使用する場合、塗料希釈水の回収、塗料希釈水の濾過分離、分離液の洗浄水としての再使用を繰り返していくと、塗料希釈水を濾過濃縮して回収塗料を得ようとする際に、濃縮する塗料の粘度が異常に上昇し、元の塗料の不揮発分濃度(例えば約50%)まで濃縮することが困難になり、また濾過濃縮をおこなうのに長時間を要することになるという問題が発生するものであった。
【0006】このように濾過分離を繰り返した分離液を使用すると濃縮した回収塗料が増粘する現象がどのようなメカニズムで起こるか詳細は不明であるが、次のように推定される。すなわち、水性塗料には、塗料主原料である樹脂合成の際に残留する未反応の酸モノマーや、樹脂合成の副生成物である酸を含んだ低分子の重合体や、樹脂ワニスをアミン等で中和する際に生じる樹脂の分解生成物や、樹脂ワニスや塗料の保管中に生じる樹脂の分解生成物や、塗料を夏場などのような高温下で塗装・洗浄水に捕集・濃縮分離・再使用を多数回繰り返すことによって生じる加水分解生成物など、様々な原因による低分子酸成分が含まれている。そして、この水性塗料を洗浄水に捕集した塗料希釈水を濾過すると、低分子酸成分は洗浄水に溶解して分離液と共に濾過され、塗料から分離されることになり、この濾過分離を繰り返すと分離液中に低分子酸成分が蓄積されて分離液中の低分子酸成分の濃度が高くなる。この低分子酸成分の濃度が高い分離液を洗浄水として使用して塗料を捕集することによって得られる塗料希釈水では、塗料樹脂は蓄積された高濃度の低分子酸成分によって安定化されているが、この塗料希釈水を濾過・濃縮して塗料を回収する過程で低分子酸成分は分離液と共に流出して塗料樹脂から引き離されることになり、この結果として濃縮した回収塗料中の樹脂が不安定になって増粘し、濾過効率が低下して目的とする元の塗料の不揮発分濃度まで濃縮することができなくなると考えられる。
【0007】本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、塗料希釈水の濃縮の効率を低下させることなく塗料希釈水からの分離液を洗浄水として再利用することができるようにすることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係る回収塗料の分離液の再使用方法は、水性塗料を洗浄水1に捕集させて得られる塗料希釈水2を回収し、これを塗料と水に分離することによって塗料を回収すると共に分離液3を洗浄水1として再使用するにあたって、分離液3を再使用して調製される洗浄水1の酸価を10以下、pHを7.0〜9.0に調整することを特徴とするものである。
【0009】本発明において、塗料希釈水2を塗料と水に分離する手段として限外濾過を用いることができる。また本発明では、洗浄水1に捕集される水性塗料が回収塗料と新塗料の混合塗料である場合、回収塗料と新塗料の混合体積比に応じて、分離液3を再使用して調製される洗浄水1の酸価を、回収塗料の混合体積百分率をy軸、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価をx軸としたx−y座標系において、(0,0),(10,0),(10,50),(5,100),(0,100)の各点を結ぶ直線で囲まれた範囲に調整することが好ましい。
【0010】さらに本発明では、水性塗料として、酸価が25〜100、水酸基価が35〜200、SP値が10.0〜11.0の水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂を主成分とし、水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂のSP値より0.5〜3.0高いSP値を有する硬化剤を配合して調製されるものを用いるのが好ましい。
【0011】以下、本発明を詳細に説明する。図1は水性塗料の塗装−濃縮回収システムの一例を示すものであり、水性塗料としてはスプレー塗装用に従来から使用されている水性アルキド樹脂塗料や水性アクリル樹脂塗料など、特に制限されることなく使用することができるが、特に水性アルキド樹脂塗料は一般に樹脂合成過程で未反応酸モノマーが残留し易く、低分子酸成分の濃度が高くなり易いので本発明に適用して効果を高く得ることができるものである。そしてこの水性塗料を図1のような塗装ブース8においてスプレー機9でスプレー塗装する際に、被塗装物に塗着しない塗料ダストは塗装ブース8内に循環される洗浄水1に溶解乃至分散させて捕集される。このように洗浄水1に塗料ダストが捕集されると塗装作業の進行に従って洗浄水1中の塗料の濃度が高まり、洗浄水1中の不揮発分濃度が高くなる。洗浄水1中の不揮発分濃度が所定値にまで高くなると、この水性塗料が溶解乃至分散する洗浄水1を塗料希釈水2として塗料濃縮タンク7に移し、この塗料希釈水2を濾過装置4で濾過する。
【0012】濾過装置4としては、塗料希釈水2中の塗料と水とを分離することができるものであれば何でも使用することができるが、具体的には限外濾過膜を具備して形成される限外濾過装置や、逆浸透膜を具備して形成される逆浸透濾過装置など、特開昭49−51324号公報などで従来から提供される装置を用いておこなうことができる。濃縮タンク7からこの濾過装置4に塗料希釈水2を送って水を濾過することによって濃縮し、さらにこの濃縮した塗料希釈水2を濃縮タンク7に返送して再度濾過装置4に供給するというように繰り返して塗料希釈水2を濾過することによって、塗料希釈水2を元の水性塗料の不揮発分濃度とほぼ同じ濃度になるまで濃縮して、洗浄水1から分離して回収塗料を得ることができるものである。一方、濾過装置4で塗料希釈水2から濾過・分離された分離液3は濾液タンク5に回収され、塗装ブース8に送って洗浄水1として再使用される。
【0013】ここで、図1の塗装及び塗料の濃縮回収再生使用システムにおいて、新しい洗浄水1と新しい水性塗料を用いて初めて稼動する場合や、塗装ブース8を含む塗料回収循環系を清掃などするために洗浄水1を廃棄した場合は、洗浄水1として新しい水にブチルセロソルブなどの親水溶剤を若干量添加したものを用いるので、低分子酸成分を低減するための水質を調整をする必要はないが、上記のようにして塗料希釈水2から濾過した分離液3を塗装ブース8に循環されるブース循環水源(以下マスターバッチという)に戻して洗浄水1として使用する場合には、既述のように塗料希釈水2から濾過・分離された分離液3は低分子酸成分が蓄積して低分子酸成分の濃度が高くなっており、この分離液3をそのまま洗浄水1として使用して塗料を捕集し、塗料希釈水2として回収して濾過・濃縮すると、濃縮した塗料の粘度が高くなるおそれがある。
【0014】そこで本発明では、塗料希釈水2から濾過・分離した分離水3をマスターバッチに戻すことによって洗浄水1を調製するにあたって、この洗浄水1の低分子酸成分の量を管理することによって、この洗浄水1を使用して塗料を捕集することによって得られる塗料希釈水2を濾過・濃縮する際に、粘度が異常に高くなることなく濃縮して回収塗料を得ることができるようにしたものである。そして本発明では、分離液3を再使用して調製される洗浄水1の酸価を10以下、pHを7.0〜9.0の範囲に管理することによって、洗浄水1の低分子酸成分を調整するようにしている。
【0015】洗浄水1の酸価(AV)とは、1gの洗浄水1中の酸の量を中和するのに必要なKOHのmg数と定義されるものであり、市販の電位差滴定装置により中和点までに要した0.1NのKOH水溶液の滴定量から計算される値である。洗浄水1の酸価が10を超えると、洗浄水1に含有される低分子酸成分の量が多過ぎて、濃縮塗料の粘度が高くなって元の塗料の不揮発分濃度にまで濃縮することが困難になるものである。
【0016】ここで、塗装ブース8で塗装に供される水性塗料としては、新規に配合調製された新塗料の他に、上記のように塗料希釈水2から濃縮・分離して回収された回収塗料が使用されるものであり、この回収塗料を使用する場合には新規塗料に混合して混合塗料として用いるのが普通である。そしてこのように回収塗料を使用するときには回収塗料中の樹脂は新塗料のものよりも水に対する溶解性が不安定になっているために、混合塗料中の回収塗料の混合体積比に応じて洗浄水1の酸価の限界値を決めるのが好ましい。すなわち混合塗料を用いる場合の洗浄水1の酸価の値は、混合塗料中の回収塗料の混合体積百分率をy軸、分離液3を再使用して調製される洗浄水の酸価をx軸としたx−y座標系において、(0,0),(10,0),(10,50),(5,100),(0,100)の各点を結ぶ直線で囲まれた範囲内になるように調整するのが好ましい。この範囲を図2R>2に実線で示すが、さらに好ましい範囲は、図2に破線で示すように上記x−y座標系において、(0,0),(5,0),(5,50),(4,100),(0,100)の各点を結ぶ直線で囲まれた範囲内である。酸価がこの範囲であれば、濃縮した塗料の粘度は元の塗料よりもむしろ粘度が低くなり、元の塗料よりも高い不揮発分濃度になるまで濃縮することが可能になって、回収後の塗料の調整が容易になると共に、濃縮の時間も短縮することができるものである。
【0017】塗料希釈水2から得られる分離液3を再使用して調製した洗浄水1中の低分子酸成分を低減して酸価を上記範囲に調整する方法は、公知の方法等を用いることができるものであって特に限定されるものではないが、例えば次の方法を採用することがきる。
■ 塗料希釈水2から濾過回収した分離液3中の低分子酸成分の濃度が高いとき、この分離液3を水で希釈して低分子酸成分の濃度を下げて酸価を調整し、この分離液3で洗浄水1のマスターバッチを調製する。この方法では分離液3を水で希釈すると量が増えるために、全量を洗浄水1のマスターバッチとして再使用することができない場合があって、一部を廃棄する必要が生じてリサイクルシステムとして不完全になることがあるが、簡単な方法であるので実用的な価値がある。
【0018】■ 塗料希釈水2から濾過回収した分離液3中の低分子酸成分の濃度が高いとき、逆浸透法などで分離液3中の低分子酸成分を濃縮して除去することによって、分離液3の低分子酸成分の濃度を下げて酸価を調整し、この分離液3で洗浄水1のマスターバッチを調製する。この方法では低分子酸成分の濃縮した液を処理して廃棄する必要があり、リサイクルシステムとして不完全になることがあるが、処理量は少量になるため実用的な価値がある。
【0019】■ 水性塗料を調製するにあたって、塗料を構成するワニスを水で希釈し、限外濾過などにより水を濾過することによって、塗料に含まれる低分子酸成分を水に溶解させて水と共に濾過・除去し、水性塗料の低分子酸成分量を少なくする。このようにして低分子酸成分を少なくした水性塗料を用いることによって分離液3中の低分子酸成分の濃度も低くなるようにする。
【0020】■ 水性塗料を構成するワニスを合成する際に、酸モノマーを縮合させる反応時間を長く取るなどの反応工程の工夫により、低分子酸成分の少ないワニスを調製し、この低分子酸成分の少ないワニスから調製した水性塗料を用いることによって分離液3中の低分子酸成分の濃度も低くなるようにする。また塗料希釈水2から得られる分離液3を再使用して調製した洗浄水1のpHは、上記のように7.0〜9.0の範囲に調整する必要がある。pHが7.0未満であると洗浄水1の酸価が上記範囲内であっても、回収塗料が増粘して希望する不揮発分濃度(例えば50%)にまで濃縮することができなくなるものであり、逆にpHが9.0を超えて高いと、使用中又は保存中の回収塗料が加水分解を促進されて低分子酸成分が増え、塗料増粘に至ることになるものである。洗浄水1のpHの調整はアルカリを添加しておこなうことができる。このアルカリは塗料を焼き付ける際に揮散するものであれば良く、特に水性塗料を調製する際に中和するために用いられるものと同じアミン類が好ましい。
【0021】尚、塗装ブース8の洗浄水1には水性塗料を安定して水に分散させるためにブチルセロソルブなど親水性の有機溶剤を添加することがおこなわれており、その濃度は塗料の種類によって適宜変更されるが、労働安全性の観点からブチルセロソルブについては1〜5%の範囲で添加するのがよい。また、水性塗料には塗膜形成用の水溶性樹脂を水に分散させるためにブチルセロソルブなどの親水性有機溶剤が配合されているが、上記のように濾過装置4に通して塗料希釈水2を濾過して濃縮する際に、水性塗料に配合されている親水性有機溶剤も水と共に濾過されて除去され、回収塗料では水溶性樹脂に対する有機溶剤の配合比が小さくなり、この結果、回収塗料中での水溶性樹脂の形態が溶解状態から分散状態に変化するなどして顔料が凝集を起こし、塗料分離が発生すると共に、塗装塗膜にはツヤヒケなどが発生するおそれがある。そこでこの場合には、水性塗料に配合されている有機溶剤11を溶剤タンク12から濃縮タンク7内の塗料希釈水2に添加して補充しつつ、塗料希釈水2を濾過して濃縮する作業をおこなうようにするのがよい。塗料希釈水2へのこの有機溶剤11の添加の操作は、少量づつの有機溶剤11を連続して濃縮タンク7に供給するようにしておこなったり、あるいは濃縮の進行に伴って不揮発分濃度が所定値になった時点で所定量の有機溶剤11を濃縮タンク7に供給すると共にさらに濃縮の進行に伴って不揮発分濃度が所定値になった時点で所定量の有機溶剤11を濃縮タンク7に供給するという操作を繰り返して供給を不連続的におこなうようにしたりすることができるものであり、回収塗料における塗膜形成用の水溶性樹脂に対する有機溶剤11の配合比が元の水性塗料の場合より大きく低下しないように補充することができれば良い。有機溶剤11の添加量は水性塗料の種類毎に異なるものであって、各水性塗料について実験的に決定することができる。そしてこのように有機溶剤11を塗料希釈水2に添加して補充しつつ塗料希釈水2を濾過して濃縮することによって、回収塗料の不揮発分濃度を元の水性塗料の濃度と同程度にまで濃縮すると共に有機溶剤11の含有量も元の水性塗料と同程度に保って有機溶剤と水との比率を元の水性塗料と同程度に保つようにすることができるものである。
【0022】また上記のように、本発明にあって使用する水性塗料は特に限定されるものではないが、水溶性樹脂として水溶化度を高めたものを配合した水性塗料を用いることが、塗料希釈水を濾過・濃縮して塗料を回収する際に塗料分離を確実に防止するうえで好ましい。しかしこのように水溶化度を高めた水溶性樹脂を配合して調製される水性塗料は、耐湿性や耐沸水性などの塗膜性能が悪くなるという問題がある。このために本発明にあっては、塗料希釈水を濾過・濃縮して回収塗料を得るのに特に適した水性塗料として次のものを用いるのが好ましい。すなわち、酸価が25〜100、水酸基価が35〜200、SP値が10.0〜11.0の水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂を主成分とし、水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂のSP値より0.5〜3.0高いSP値を有する硬化剤を配合して調製される水性塗料を用いるのが好ましい。
【0023】以下、この塗料について詳しく説明する。水溶性アルキド樹脂と水溶性アクリル樹脂はいずれか一方を使用する他、両者を併用することもできるが、上記のように水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂としては、酸価(AV)が25〜100、水酸基価(OHV)が35〜200、さらにSP値が10.0〜11.0のものを用いる。酸価が25未満、水酸基価が35未満、SP価が10.0未満であると、水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂の水溶化度(親水化度)が低く、濃縮過程で分離等が発生するおそれがある。逆に酸価が100を超え、水酸基価が200を超え、SP値が11.0を超えると、水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂の水溶化度(親水化度)が高くなり過ぎて、塗膜の耐水性等に問題が生じることになる。
【0024】ここで、SP値(溶解度パラメーター)は溶解性の尺度となるものであり、次のようにして測定される。参考文献SUH,CLARKE〔J.P.S.A−1,5,1671−1681(1967)〕
・測定温度 20℃・サンプル 樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
・溶媒 良溶媒:ジオキサン、アセトン貧溶媒:n−ヘキサン、イオン交換水・濁点測定 50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
・計算 樹脂のSP値δは次式によって与えられる。
【0025】δ=(Vml1/2 δml+Vmh1/2 δmh)/(Vml1/2 +Vmh1/2
m =V1 2 /(φ1 2 +φ2 1
δm =φ1 δ1 +φ2 δ2i :溶媒の分子容(ml/mol)
φi :濁点における各溶媒の体積分率δi :溶媒のSP値ml:低SP貧溶媒混合系mh:高SP貧溶媒混合系また硬化剤(架橋剤)としては、メラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂などアミノ系樹脂を用いることができるが、上記のようにSP値が水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂のSP値よりも0.5〜3.0の範囲で高くなるように調製したものを用いる。水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂に対して硬化剤としてSP値がこの範囲にあるものを用いることによって、塗装時に水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂を硬化させて塗膜を形成するにあたって塗膜を疎水化することができ、耐吸湿性や耐沸水性などの塗膜性能を高めることができるものである。硬化剤と水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂のSP値の差が0.5未満(硬化剤のSP値が水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂のSP値より低い場合も含む)であると、水性塗料組成物の安定性が悪くなって分離等が発生するおそれがあり、また逆にこのSP値の差が3.0を超えると耐吸湿性や耐沸水性などの塗膜性能を高める効果を得ることができなくなる。
【0026】上記水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂、硬化剤、さらに顔料や水溶性有機溶剤等を配合することによって、水性塗料を調製することができる。この顔料としては、二酸化チタン、カーボン、キナクリドン系等の着色顔料や、炭酸カルシウム等の体質顔料などを用いることができるものであり、配合量はPVC=0〜35%程度が好ましい。また水溶性有機溶剤としてはブチルセロソルブ等を用いることができる。ここで、水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂に対する硬化剤の配合比率は、固形分に換算して50:50〜95:5の範囲に設置するのが好ましい。
【0027】このように調製される水性塗料を水で希釈することによって塗装に使用することができるものであり、既述したようにこの水性塗料をスプレー塗装する際に発生する塗料ダストを塗装ブースの洗浄水に溶解乃至分散させて捕集し、塗料を捕集した塗料希釈水を既述したように濾過して水を除去し、濃縮して回収塗料を得ることができる。ここで、水性塗料に配合される硬化剤としてSP値が水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂のSP値よりも0.5〜3.0高いものを用いることによって、塗膜を疎水化して耐吸湿性や耐沸水性などの塗膜性能を高めるようにしているために、水性塗料に配合する水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂としては上記のように水溶化度が比較的高いものを用いることができるものであり、従ってこのように塗料希釈水を濾過して濃縮する際に水溶性アルキド樹脂や水溶性アクリル樹脂が分離することを確実に防ぐことができると共に、また塗膜性能が低下することも防ぐことができるのである。
【0028】
【実施例】次に、本発明を実施例によって例証する。
(実施例1)酸価が50、水酸基価が40、数平均分子量が3300のアルキド樹脂をブチルセロソルブに溶解して不揮発分が75重量%のアルキド樹脂ワニスを調製した。これをジメチルエタノールアミンで理論上100%中和して脱イオン水にて不揮発分が40重量%になるように調整してSP値が10.5の水溶性アルキド樹脂ワニスを得た。この水溶性アルキド樹脂ワニス108重量部に硬化剤としてメタノール・エタノール変性ベンゾグアナミン樹脂(三井サイアナミド社製「サイメール1123」:不揮発分100%、SP値11.47)11重量部、二酸化チタン100重量部、シリカ2.5重量部を配合して水性塗料を調製した。
【0029】この水性塗料を水で希釈して不揮発分が55重量%になるように調整し、ブチルセロソルブとイオン交換水とを2:98の重量比で混合すると共に酸価4、pH8.5に調整してマスターバッチ水を調製し、このマスターバッチ水から循環される洗浄水1を張った塗装ブース8内で図1のようにスプレー塗装に供した。そして塗装ブース8内の洗浄水1に塗料ダストが捕集されて水中の不揮発分が15重量%に達した時点で、洗浄水1に塗料を捕集して得られる塗料希釈水2を塗装ブース8から濃縮タンク7に移し、これを限外濾過膜としてデサリネーションシステムズ(DESARLINATION SYSTEMS)社製「EW4026」を用いた限外濾過装置4に通して水を濾過し、不揮発分濃度が55重量%になるまで濾過を継続して濃縮することによって、不揮発分濃度が55重量%の回収塗料を得ると共に濾過した水を分離液3として回収した。
【0030】次に、この回収した分離液3をマスターバッチ水として用い、図1における塗装ブース8の洗浄水1として使用に供した。ここで、洗浄水1はpHを8.2〜9.0の範囲に保ちつつその酸価を表1に示すように調整し、このように各種の数値に酸価を調整した各洗浄水1を25〜35℃の液温に温度設定して平均流量15.7リットル/hの条件で塗装ブース8に循環させ、また塗料として表1に示すように、上記水性塗料を新規に調合して得た新塗料と、上記回収塗料と、新塗料と回収塗料を混合した混合塗料をそれぞれ用いて、塗装ブース8で塗装をおこなった。
【0031】
【表1】


【0032】そして洗浄水1に塗料ダストを捕捉させ、不揮発分濃度が17%になった時点で塗装ブース8から14.7kgの洗浄水1を塗料希釈水2として濃縮タンク7に移し、この塗料希釈水2を限外濾過装置4に180分間通して濃縮した。このように濃縮して得た回収塗料について、20℃での粘度を測定すると共に不揮発分濃度を測定した。尚、不揮発分濃度が50%以上に高い回収塗料については水を加えて不揮発分濃度を50%にして粘度を測定した。粘度の測定は、NK#2カップを用いて塗料の流出時間を計測することによっておこなった。結果を図2のグラフに示す。図2のグラフにおいて、「○」は回収塗料の粘度が60秒以下、不揮発分濃度が50%以上、「△」は回収塗料の粘度が60〜150秒、不揮発分濃度が45〜50%、「×」は回収塗料の粘度が150秒以上、不揮発分濃度が45%以下をそれぞれ示すものである。尚、元の塗料の粘度は60秒であるので、「○」のものは元の塗料よりも粘度が低下しているものである。
【0033】図2にみられるように、塗料として新塗料を用いる場合には、洗浄水1の酸価を10以下に調整することによって、増粘を抑制して濃縮をおこなうことができることが確認される。塗料として新塗料と回収塗料の混合塗料を用いる場合も、回収塗料の比率が50%以下であれば、同様に洗浄水1の酸価を10以下に調整することによって増粘を抑制して濃縮をおこなうことができることが確認される。塗装に用いる塗料のうち洗浄水1に捕集して回収される塗料は塗装に供される塗料のほんの一部であるので、回収塗料の絶対量はあまり多くなく、回収塗料を使用する場合には新塗料に50%以下の比率で混合するのが一般的である。従って混合塗料を使用する場合も洗浄水1の酸価を10以下に調整しておけば実用上十分である。ただ、例外的に回収塗料を50%以上の比率で混合した混合塗料を用いることもあるので、このときには図2にみられるように、回収塗料の混合体積百分率をy軸、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価をx軸としたx−y座標系において、(0,0),(10,0),(10,50),(5,100),(0,100)の各点を結ぶ直線で囲まれた範囲に調整する必要がある。
【0034】(実施例2)実施例1と同様にして濾過して回収した分離液3を塗装ブース8のマスターバッチ水として用い、洗浄水1として使用に供するにあたって、洗浄水1の酸価を3.2に保ちつつpHを種々の値に調整し、回収塗料50%の混合塗料を用いて実施例1と同様にして塗装をおこなって洗浄水1に塗料ダストを捕捉させ、不揮発分濃度が17%になった時点で塗装ブース8から14.7kgの洗浄水1を塗料希釈水2として濃縮タンク7に移し、この塗料希釈水2を実施例1と同様に限外濾過して不揮発分濃度約50%まで濃縮した。
【0035】そしてこのように濃縮して得た回収塗料について、20℃での粘度をNK#2カップを用いて塗料の流出時間を計測することによって測定した。結果を図3R>3に示す。図3にみられるように、pHが7.0未満では、回収塗料の粘度は元の塗料の粘度(60秒)よりも上昇することが確認される。またpHが9.0を超えても回収塗料の増粘はないが、回収塗料を温度40℃で30日保存すると加水分解が盛んに起こって酸価が大きく上昇した。図4は40℃で30日保存した後の回収塗料の固形分の酸価と洗浄水のpHとの関係を示すものであり、pH9.0で初期の酸価(55)の1.3倍、pH9.5で初期酸価の1.5倍となり、pH9.0を超えると通常の許容範囲を上回るものであった。
【0036】(実施例3)攪拌機、温度制御装置、デカンターを備えた容器に次の組成の原料を仕込み、攪拌しながら加熱した。
大豆油脂肪酸 34重量部イソフタル酸 25重量部無水トリメリット酸 9重量部トリメチロールプロパン 31重量部キシレン 1重量部ジブチルスズオキサイド 0.02重量部反応進行に伴って生成する水をキシレンと共沸させて除去し、酸価50、水酸基価125になるまで加熱を継続し、反応を終了させた。得られた樹脂を不揮発分73重量%となるようにブチルセロソルブで希釈してアルキド樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスはガードナー粘度Z2 であり、SP値=10.37であった。この樹脂ワニスをジメチルエタノールアミンで理論上100%中和し、脱イオン水にて不揮発分40重量%になるように調整して水溶性アルキド樹脂ワニスを得た。この水溶性アルキド樹脂ワニス108重量部に硬化剤として実施例1で用いたメタノール・エタノール変性ベンゾグアナミン樹脂11重量部、二酸化チタン100重量部、シリカ2.5重量部を配合して水性アルキド樹脂塗料を調製した。
【0037】この水性アルキド樹脂塗料を水で希釈して不揮発分が55重量%になるように調整し、酸価1.5〜4.5、pH8.5〜9.0に調整した15m3 のマスターバッチ水から54リットル/hの平均流量で循環される洗浄水1を張った塗装ブース8で実施例1と同様にしてスプレー塗装に供し、洗浄水1に塗料ダストが捕集されて水中の不揮発分が17重量%に達した時点で、この洗浄水1に塗料を捕集させて得られる塗料希釈水2を実施例1と同様にして限外濾過し、不揮発分濃度が55%になるまで濃縮して回収塗料を得た。次に上記水性アルキド樹脂塗料にこの回収塗料を1:1の容量比で混合して同様に塗装をおこない、塗装、濃縮、回収を10回繰り返した。この結果は、10回とも20℃、不揮発分濃度50%でのNK#2カップにおける粘度測定は12〜60秒であって増粘現象はみられず、回収塗料は不揮発分濃度50%以上に濃縮することができた。
【0038】
【発明の効果】上記のように本発明は、水性塗料を洗浄水に捕集させて得られる塗料希釈水を回収し、これを塗料と水に分離することによって塗料を回収すると共に分離液を洗浄水として再使用するにあたって、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価を10以下、pHを7.0〜9.0に調整するようにしたので、酸価及びpHで分離液中の低分子酸成分の量を管理することができ、洗浄水に塗料を捕集して得られる塗料希釈水を濾過・濃縮する際に塗料の粘度が異常に高くなることがなくなって、濾過効率が低下したり、目的とする元の塗料の不揮発分濃度まで濃縮することができなくなったりするというようなことがなくなるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用される塗料の濃縮回収再生使用のシステムの一例を示す概略図である。
【図2】回収塗料の混合体積百分率をy軸、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価をx軸としたx−y座標系のグラフである。
【図3】洗浄水のpHと回収塗料の粘度との関係を示すグラフである。
【図4】洗浄水のpHと回収塗料保存後の固形分の酸価の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 洗浄水
2 塗料希釈水
3 分離液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水性塗料を洗浄水に捕集させて得られる塗料希釈水を回収し、これを塗料と水に分離することによって塗料を回収すると共に分離液を洗浄水として再使用するにあたって、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価を10以下、pHを7.0〜9.0に調整することを特徴とする回収塗料の分離液の再使用方法。
【請求項2】 塗料希釈水を塗料と水に分離する手段が限外濾過であることを特徴とする請求項1に記載の回収塗料の分離液の再使用方法。
【請求項3】 洗浄水に捕集される水性塗料が回収塗料と新塗料の混合塗料である場合、回収塗料と新塗料の混合体積比に応じて、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価を、回収塗料の混合体積百分率をy軸、分離液を再使用して調製される洗浄水の酸価をx軸としたx−y座標系において、(0,0),(10,0),(10,50),(5,100),(0,100)の各点を結ぶ直線で囲まれた範囲に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の回収塗料の分離液の再使用方法。
【請求項4】 水性塗料として、酸価が25〜100、水酸基価が35〜200、SP値が10.0〜11.0の水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂を主成分とし、水溶性アルキド樹脂あるいは水溶性アクリル樹脂のSP値より0.5〜3.0高いSP値を有する硬化剤を配合して調製されるものを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の回収塗料の分離液の再使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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