説明

回転体連結用カップリング装置

【課題】第1回転体と第2回転体の軸ずれ吸収能を有している回転体の相互連結用カップリング装置について、予め回転体の内部に充填した潤滑剤を簡易なキャップで安定して摺動部に封入し、それにより、潤滑効果の長期保持を可能にして摺動部の長期耐久性を向上させる。
【解決手段】第1回転体1に、有底筒状で第2回転体2の嵌合用凸部4を通す凸部挿通孔5cの形成されたキャップ5を被せ、そのキャップ5を弾性体6で軸方向に付勢してキャップの開口側端面6dを第1回転体1に形成された環状端面1aに当接させ、その当接部によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室7をキャップ5の内側に形成し、その連結部収容室7に潤滑剤を貯留した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2つの回転体をトルク伝達可能に嵌合させて連結する回転体連結用のカップリング装置、詳しくは、回転体の回転に伴って不可避の摺動が起こる連結部の嵌合面を、潤滑剤を用いて潤滑するときに有効性を発揮するカップリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの回転体を、軸ずれの吸収機能を有するカップリング装置で接続する用途は、多々存在する。例えば、ABS(アンチロック制御)、ESC(横滑り防止制御)、TCS(トラクションコントロール)などの制御機能を有する車両用ブレーキ液圧制御装置に使われていて、その装置は、モータで駆動するポンプを有している。
【0003】
そのポンプには、プランジャポンプと歯車ポンプがあり、このうち、後者の歯車ポンプは、ポンプロータを装着したロータ軸にモータの出力軸を連結し、モータを起動させてロータ軸を回転させる。
【0004】
前記ロータ軸とモータの出力軸の連結は、両軸間に不可避の軸ずれが生じることから、その軸ずれの吸収能を有するカップリング装置を用いて行われている。その種のカップリング装置は、例えば、下記特許文献1,2などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−68836号公報
【特許文献2】特開2011−80530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に開示されたカップリング装置は、片方の軸に形成された凹部に他方の軸に形成された凸部を嵌合させて連結される軸に不可避の軸ずれ(軸心のずれ)があることから、被駆動軸が駆動軸によって回転駆動されたときに両軸間に振れによる小さな相対変位が生じ、それが原因で、カップリング装置の軸ずれ吸収部(すなわち摺動部)が摩耗する。
【0007】
駆動頻度の高い回転軸のカップリング装置や、元々のサイズが小さくて摩耗によるサイズ縮小で強度維持が難しくなるようなカップリング装置の場合、上記の摩耗によってその寿命が短縮される。
【0008】
従って、潤滑剤による潤滑を行って摺動部の摩耗を抑制することが望まれるが、構造が複雑、或いは、サイズが小さいなどの理由によって外部からの給油ができない状況で使用されるカップリング装置に関しては、予め摺動部に注入した限られた量の潤滑剤に依存せざるを得ないため、潤滑剤を摺動部に保持できない場合は、早期に摩耗が促進されるようになる。
【0009】
その摩耗対策として、上記特許文献2は、摺動面を凹曲面と凸曲面で構成して両面の面圧を下げることや、摺動面に摩擦係数の小さいDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の被膜を形成しその面を保護することを提案している。同様に摺動部に潤滑剤を(単純に)塗布することでも摩擦係数を低減できるが、熱の影響を受けやすい環境下で使用され、しかも、高速回転する回転体の場合には特に、熱の影響で粘性の低下した潤滑剤が遠心力で飛散し易いことから、そのような対策では潤滑効果を長期にわたって維持するのが難しい。
【0010】
そこで、回転体の嵌合連結部をキャップで覆うことが検討されている。そのキャップを片方の回転軸に圧入して取り付けると、キャップの固定と、潤滑剤の流出路となるキャップと軸との間の隙間の閉鎖が同時に行える。ところが、キャップを圧入する側の回転軸が例えばモータの出力軸である場合、圧入による負荷がその軸に加わることでモータの内部の部品が軸方向にずれるなどの不具合が生じる。
【0011】
この発明は、第1回転体と第2回転体の軸ずれ吸収能を有している回転体の相互連結用カップリング装置について、予め回転体の内部に充填した潤滑剤を簡易なキャップで安定して摺動部に封入し、それにより、潤滑効果の長期保持を可能にして摺動部の長期耐久性を向上させることを目的としている。
【0012】
また、回転体がモータの出力軸の場合、その出力軸に対するキャップの装着はモータの組立て後でなければ行えないこともある。そのモータの出力軸に対してキャップ装着時に無理な負荷がかかるとモータ内の部品が軸方向に位置がずれることもある。従って、回転体がモータの出力軸などであってもその軸に無理な負荷をかけずにキャップを安定して装着できるようにすることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明においては、第1回転体と第2回転体とを同一軸線上で対向させ、前記第1回転体に設けられた嵌合用凹部とこれに対応して第2回転体に設けられた嵌合用凸部を嵌合させて両回転体をトルク伝達可能に連結するカップリング装置を以下の通りに構成した。
【0014】
即ち、前記第1回転体に、有底筒状で底壁に前記第2回転体の嵌合用凸部を挿通する孔の形成された連結部覆い用のキャップを第1回転体の連結端側から被せ、そのキャップを弾性体で軸方向に付勢して当該キャップの開口側端面、又は、前記底壁を前記第1回転体に形成された環状端面に当接させ、その当接部によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室を前記キャップの内側に形成し、その連結部収容室に潤滑剤を貯留した。これを、以下では第1形態と言う。
【0015】
また、もうひとつの構造として、第1形態と同様に同様のキャップを第1回転体に被せたカップリング装置に対して、前記キャップから独立した弾性体を軸方向に圧縮して前記キャップの開口側端面と前記第1回転体に形成された環状端面との間に挟み、この弾性体の力(弾発力)で前記キャップを前記第2回転体の連結側端面に押しつけて回転体に対してキャップを固定し、さらに、前記弾性体によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室を前記キャップの内側に形成し、その連結部収容室に潤滑剤を貯留した。これを、以下では第2形態と言う。
【0016】
ここで言う第1回転体と第2回転体は、どちらか一方が駆動側の回転体、他方が被駆動側の回転体である。第1回転体がモータの出力軸などの駆動軸である場合、その駆動軸の外周に固定されて駆動軸と一体回転する軸受のインナーレースなども第1回転体に含まれる。
なお、前記環状端面は、第1回転体の外周に形成される段部の端面や第2回転体との連結側の端面を指す。
【0017】
第1形態のカップリング装置の好ましい態様を以下に列挙する。
1)前記キャップに前記弾性体を一体に形成し、前記第1回転体もしくは第2回転体の外周に反力受けとなる斜面を形成し、前記弾性体を前記斜面に弾性的に押しつけ、その押しつけ部に生じる軸方向分力で前記環状端面に対する前記キャップの押しつけと回転体に対するキャップの固定を行ったもの。
【0018】
2)前記キャップの周壁の一部をキャップの内面側に切り起した切り起し片を設けてその切り起し片で逆止爪兼用の前記弾性体を形成し、さらに、前記斜面を、前記第2回転体からの軸方向離反距離が増大するにつれて径方向内側に変位する面にしてその斜面を前記第1回転体の外周に設け、その斜面に前記弾性体を弾性的に押しつけて前記軸方向分力を生じさせるようにしたもの。
【0019】
3)前記キャップに、前記第2回転体の連結側の外周を取り巻く筒状延伸部を連設し、その筒状延伸部の一部をキャップの内面側に切り起した切り起し片を設けてその切り起し片で前記弾性体を形成し、さらに、前記斜面を前記第1回転体側に行くにつれて径方向内側に変位する面にしてその斜面を前記第2回転体の外周に設け、その斜面に前記弾性体を弾性的に押しつけて前記軸方向分力を生じさせるようにしたもの。
【0020】
4)前記キャップに前記弾性体を一体に形成し、その前記弾性体を弾性変形させて前記第1回転体と前記第2回転体との間に挟み、この弾性体の力(弾発力)で前記環状端面に対する前記キャップの押しつけと回転体に対するキャップの固定を行ったもの。
【0021】
5)前記弾性体として前記キャップから独立した環状弾性体を設け、その環状弾性体を軸方向に圧縮して前記キャップの底壁と前記第2回転体との間、又は前記第1回転体の外周に設けた環状溝と前記キャップの周壁内面に設けた環状溝との間に介在し、この弾性体の力で前記環状端面に対する前記キャップの押しつけと回転体に対するキャップの固定を行ったもの。
【0022】
第1形態、第2形態のカップリング装置の共通の好ましい態様を下記a)〜d)に示す。
a)前記嵌合用凸部と、その嵌合用凸部を挿通する前記キャップの凸部挿入孔を同順に断面非円形の凸部とそれに対応させた非円形の孔にし、その嵌合用凸部と凸部挿入孔とを嵌合させて前記キャップの回転体に対する相対回転を前記嵌合用凸部で阻止するようにしたもの。
【0023】
b)前記キャップに、周壁の内面から径方向内側に突出する突起又は前記底壁の内面から軸方向に突出する突起を設け、その突起を前記嵌合用凹部の一部に入り込ませ、嵌合用凹部の内面に係合させて前記キャップの回転体に対する相対回転を前記嵌合用凹部で阻止するようにしたもの。
【0024】
c)前記嵌合用凹部が第1回転体の外周に解放するクレビス溝で、前記嵌合用凸部がクレビス突起でそれぞれ構成され、その両者が嵌合して第1回転体と第2回転体が互いに連結されているもの。
【0025】
d)前記嵌合用凹部が第1回転体の連結側端面に解放する角穴で、前記嵌合用凸部が前記角穴に相対回転不可に挿入される非円形断面の軸でそれぞれ構成され、その両者が嵌合して第1回転体と第2回転体が互いに連結されているもの。
【0026】
なお、この発明のカップリング装置で使用する潤滑剤は、軸受などの潤滑に利用されているNLGIちょうど番号2号(混和ちょう度265〜295)或いは3号(混和ちょう度220〜250)のグリースやそれよりもちょうど番号の大きいグリースが封入の安定性に優れる。
【発明の効果】
【0027】
この発明のカップリング装置は、キャップを弾性体の力で回転体に押しつけて固定する。そのため、キャップの装着を圧入力などの無理な力を第1回転体に加えず簡単に行うことができ、その第1回転体がモータの出力軸などであっても、第1回転体を備えた機器の性能や信頼性を損なうような不具合が生じない。
【0028】
また、第1回転体に対するキャップの当接部やキャップの開口側端面と第1回転体に形成された環状端面との間に圧縮介在する弾性体によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室をキャップの内側に形成し、その連結部収容室に潤滑剤を貯留する。これにより、連結部収容室に貯留された潤滑剤の遠心力による飛散が防止され、潤滑剤による潤滑効果が長期にわたって発揮されて摺動部、即ちカップリング装置の長期耐久性が向上する。
【0029】
なお、潤滑剤が、軸受の潤滑などに利用される粘性の高いグリースであると、キャップと第1回転体との間或いはキャップと第2回転体との間に多少隙間があっても潤滑剤の外部への飛散、流出は起らない。従って、連結部収容室の出口はシールによる密閉がなされていなくても差し支えない。
【0030】
上記において好ましいとした態様の作用、効果は、後述する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明を適用するカップリング装置の一形態を示す分解斜視図
【図2】この発明を適用するカップリング装置の他の形態を示す分解斜視図
【図3】この発明の回転体連結用カップリング装置の一形態を示す分解斜視図
【図4】図3のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図5】この発明の回転体連結用カップリング装置の他の例を示す分解斜視図
【図6】図5のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図7】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す分解斜視図
【図8】図7のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図9】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す断面図
【図10】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す分解斜視図
【図11】図10のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図12】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す分解斜視図
【図13】図12のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図14】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す分解斜視図
【図15】図14のカップリング装置の軸線に沿った断面図
【図16】図14のカップリング装置に用いたキャップを開口側から見た斜視図
【図17】この発明の回転体連結用カップリング装置のさらに他の例を示す側面図
【図18】図17のX−X線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の回転体連結用カップリング装置の実施の形態を、添付図面の図3〜図18に基づいて説明する。
【0033】
先ず、この発明を適用するカップリング装置の基本形態を図1及び図2に示す。図1は、連結部の摺動面が連結部の外周に解放されるカップリング装置、図2は、連結部の摺動面が連結部の外周に解放されないカップリング装置である。この発明は、図1の解放型のカップリング装置に適用すると特に大きな効果を期待できるが、図2の非解放型のカップリング装置でもその有効性が発揮される。
【0034】
これ等のカップリング装置は、第1回転体1と第2回転体2を同一軸線上で対向させて軸ずれ吸収のための径方向相対変位が許容されるように連結するものである。
【0035】
第1回転体1と第2回転体2は、片方が回転駆動源の出力軸(例えばモータの出力軸)に一体に形成されるか又は継ぎ足される駆動軸であり、他方は被駆動軸である。この2者のうち、第1回転体1の片端に嵌合用凹部3がその第1回転体1の連結側端面に開口させて設けられており、第2回転体2には、嵌合用凹部3に嵌合させる嵌合用凸部4(図のそれは1山のクレビス突起)が設けられている。
【0036】
嵌合用凹部3は、クレビス溝で構成されるもの(図1、及び図3〜図11、図17、図18参照)や角穴で構成されるもの(図2、及び図12、図13参照)が採用される。この嵌合用凹部3に嵌合用凸部4を摺動可能に嵌合させて第1回転体1と第2回転体2をトルク伝達可能に連結する。
【0037】
嵌合用凹部3と嵌合用凸部4は、軸ずれ吸収のための径方向相対移動が許容されるように嵌合させており、両者の嵌合面の相互接触部が潤滑対象の摺動部となる。
【0038】
この発明のカップリング装置は、上記基本形態のカップリング装置に、第1回転体1と第2回転体2の連結部を覆うキャップ5と、そのキャップを軸方向に付勢する弾性体6を追設してなる(図3〜図18参照)。
【0039】
キャップ5は、周壁5aと底壁5bを有し、底壁5bに第2回転体の嵌合用凸部4を通す凸部挿入孔5cを設けた有底筒状のものが採用される。凸部挿入孔5cは、嵌合用凸部4の断面形状と相似形であり、嵌合用凸部4と嵌合用凹部3の軸ずれ吸収のための径方向相対移動を阻害しない大きさを有する。
【0040】
このキャップ5は、第1回転体1に対してその第1回転体1の端部側から被せられて内側に潤滑剤貯留用の連結部収容室7を生じさせる。
【0041】
弾性体6は、キャップ5を第1回転体1や第2回転体2に押しつけて固定し、同時に、押しつけにより連結部収容室7の出口を封鎖もしくは狭める目的で設けられている。
【0042】
図3、図4のカップリング装置は、弾性体6をキャップ5に一体に形成している。キャップの周壁5aの一部を内径側に切り起してできる切り起し片を弾性体6となし、その弾性体6の自由端を第1回転体1の外周に形成した反力受け用の斜面8に弾性的に押しつけるようにしている。弾性体6は、逆止爪としても機能し、これにより、キャップ5の予期せぬ外れが防止され、キャップを押しつけるための力も保持される。
【0043】
斜面8は、第2回転体2からの軸方向離反距離が増大するにつれて径方向内側に変位する面にしており、その斜面8への押しつけによって、斜面8に対する弾性体6の接触点に図4において右向きの軸方向分力が生じ、その力でキャップ5の開口側端面5dが第1回転体1の外周に形成された環状端面1aに押しつけられてキャップ5が第1回転体1に固定される。また、環状端面1aに対するキャップの押しつけによって押しつけ部の隙間(この形態ではそこが連結部収容室7の出口となる)が狭められ、これにより、連結部収容室7に注入された潤滑剤(図示省略)の連結部収容室の出口を通っての外部への流出が防止される。
【0044】
なお、凸部挿入孔5cの内周縁が嵌合用凹部3の開口縁よりも内径側にある構造にすれば、連結部収容室7の潤滑剤は遠心力で嵌合用凹部3の内面に沿って凸部挿入孔5cの開口縁より外径側に移動するので、凸部挿入孔5cからの潤滑剤の流出防止がより万全になるが、潤滑剤がグリースであると、そのような策を施さなくても凸部挿入孔5cからの潤滑剤の流出が防止される。
【0045】
この図3、図4のカップリング装置は、第1回転体1に対してキャップ5を圧入せずに装着することができる。また、第1回転体1が例えばモータの出力軸である場合にも、その出力軸にキャップ5を予め装着しておいて、その後に第2回転体2との連結を行うこともできる。
【0046】
なお、キャップ5は、図3の実線で示す構造のものが予め第1回転体1に組み付けておくことができて好ましいが、図3に鎖線で示すように、キャップ5に対して第2回転体2の連結側の外周を取り巻く筒状延伸部5eを連設し、その筒状延伸部5eの一部をキャップの内面側に切り起してそれを弾性体6となし、さらに、第1回転体1側に行くにつれて径方向内側に変位する斜面8を第2回転体2の外周に設けてその斜面8に弾性体6を弾性的に押しつけてもよく、この構造でも環状端面1aに対するキャップの押しつけがなされる。
【0047】
図5、図6のカップリング装置も、弾性体6をキャップ5に一体に形成している。この態様は、キャップの底壁5bの一部を外側に切り起してできる切り起し片を弾性体6となし、その弾性体6を第1回転体1と第2回転体2との間に弾性変形させて挟み、その弾性体6の力でキャップ5の開口側端面5dを環状端面1aに押しつけるようにしており、これでも、キャップ5の固定と連結部収容室7の出口を狭める目的が達成される。
【0048】
図7、図8のカップリング装置は、キャップ5から独立させた弾性体6を使用し、その弾性体6を第1回転体1と第2回転体2との間に弾性変形させて挟んでその弾性体の力でキャップ5の開口側端面5dを環状端面1aに押しつけるようにしている。この態様は、弾性体6としてOリングなどのシール性のある環状弾性体を使用することで、キャップ5の凸部挿入孔5cからの潤滑剤の万一の漏れ出しにも対応することができる。弾性体6は封止能が要求されなければ、ウエーブワッシャなどを利用しても構わない。
【0049】
図9のカップリング装置は、第1回転体1の外周に斜面8のある環状溝9を設け、さらに、キャップ5の周壁内面に前記環状溝9に対応させた環状溝5fを設け、その環状溝9と5fの位置を軸方向にずらして両環状溝9、5f間にOリングなどの弾性体6を圧縮して介在したものであって、この構造でもキャップ5を弾性体6の力で軸方向に付勢して第1回転体1に押し付けることができる。
【0050】
第1回転体1に対するキャップ5の軸方向押しつけは、キャップ5の開口側端面5dを第1回転体1の外周の環状端面1aに押し当てる方法でなされているが、後述するように、キャップ5の底壁5bを第1回転体1の連結側端面(それも環状端面とみなす)に押し当てる方法でなされていてもよい。図3から図8の態様についても同じことが言える。
【0051】
図10、図11のカップリング装置(これは第2形態。その他の実施例が第1形態)も、キャップ5から独立させた弾性体6を採用している。この態様は、弾性体6を軸方向に圧縮してキャップ5のフランジを設けて形成した開口側端面5dと第1回転体1の外周の環状端面1aとの間に挟んでおり、そのために、弾性体の力によるキャップの押しつけは、第2回転体2の連結側端面に対してなされる。
【0052】
この態様でも、弾性体の力を利用したキャップの固定が可能である。なお、この態様は、キャップの底壁5bと第1回転体1の連結側端面との間に隙間ができ、その隙間が大きい場合、潤滑剤がキャップ5の開口側端面の位置まで流れる可能性があるので、弾性体6として環状をなすもの、できればシール機能のあるOリングなどを用いるのがよい。
【0053】
図12及び図13は、連結部の摺動面が連結部の外周に解放されない図2のカップリング装置に対してこの発明を適用したものであって、キャップ5の底壁5bを弾性体6の力で第1回転体1の連結側端面(環状端面1a)に押しつけている。この点と、嵌合用凹部3が角穴で形成されている点が図3の形態と異なる。その他の構成は、図3と同一である。
【0054】
このように、キャップ5の底壁5bを第1回転体1の連結側端面に押しつけて潤滑剤が貯留される連結部収容室7の出口を封鎖或いは狭める構造にしても発明の目的が達成される。この態様は、キャップ5の底壁5bが第1回転体1の連結側端面に押しつけられるので、第1回転体1に、キャップ5の開口側端面を押し付ける環状端面がなくても、所期のカップリング装置を実現することができる。
【0055】
図14〜図16は、第1回転体1の外周に軸受10を設け、その軸受10のインナーレース10aを第1回転体1の一部とみなしてキャップ5の固定に利用したカップリング装置を示している。
【0056】
軸受10のインナーレース10aは、アウターレース10bよりも軸方向長さの長い特殊な形状に設計されて第1回転体1の外周に固定されている。そのインナーレース10aの外周に所定の向きに傾いた反力受け用の斜面8を設け、キャップ5に対して一体に形成された弾性体6の自由端をその斜面8に係止させてキャップ5を第1回転体1に固定するようにしている。
【0057】
ここで用いた弾性体6は、キャップ5の一部を他の部位から切り離して径方向に弾性変形可能となし、それを弾性体6にしてその弾性体の自由端の爪を斜面8に押しつけることで斜面8との接触点に軸方向分力を生じさせるものになっている。この態様も、キャップ5の底壁5bが第1回転体1の連結側端面に押しつけられるので、第1回転体1に環状端面がなくてもこの発明のカップリング装置を実現することができる。
【0058】
図16、図17、図18は、キャップ5を、第1、第2回転体に対して相対回転が阻止されるように固定する構造の一例である。
【0059】
キャップ5は、底壁に設ける凸部挿入孔5cを非円形孔にして第2回転体2の嵌合用凸部4を相対回転不可に嵌合させることで第1、第2回転体との相対回転を防止することができるが、図16のように、底壁5bの内面から軸方向内側に突出する突起5gや、図17、図18のように、周壁5aの内面から径方向に突出する突起5hを設け、その突起5gや5hを嵌合用凹部3の一部に入り込ませて嵌合用凹部3の内面に係合させることでも、第1、第2回転体に対するキャップの相対回転を阻止することができる。図17、図18の突起5hは嵌合用凹部荷収容された潤滑剤の遠心力による飛散を妨げる働きもする。
【0060】
突起5gは、図16に一点鎖線にて仮想表示するように、キャップ5の底壁5bの内面に軸方向に突出させて設ける。
【0061】
上述したように、この発明のカップリング装置は、第1回転体に無理な負荷を加えずに簡単に装着できるキャップで連結部を覆い、そのキャップを弾性体の力で第1回転体や第2回転体に押しつけてキャップの内部に出口が封鎖或いは狭められた連結部収容室を作り出し、その連結部収容室に潤滑剤を貯留したので、第1回転体がモータの出力軸などであっても、第1回転体を備えた機器の性能や信頼性を損なうような不具合が生じない。また、連結部収容室に貯留された潤滑剤の遠心力による飛散が確実に防止され、潤滑剤による潤滑効果が長期にわたって発揮される。
【0062】
従って、長期信頼性が要求される回転体の連結用として利用することができる。例えば、自動車用ブレーキ液圧制御ユニットは、自動車のエンジンコンパートメントなど、熱や振動の影響が大きい厳しい環境下で使用されながら、自動車の制動機能を担うと言う、非常に高い信頼性が求められる装置である。このブレーキ液圧制御ユニットには、自動車における設置スペースの制限から、更なる小型化も併せて強く求められており、これに伴い、潤滑装置自体の設置スペースも制限される。
【0063】
また、この発明のカップリング装置は、キャップを組み立て済みのモータに後から装着することができるので、モータの製造工程に影響を及ぼすことも回避できる。
【0064】
本発明は、そのブレーキ液圧制御ユニットに設けられる歯車ポンプの回転軸とそれを回転駆動するモータの出力軸の接続を行うカップリング装置として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 第1回転体
1a 環状端面
2 第2回転体
3 嵌合用凹部
4 嵌合用凸部
5 キャップ
5a 周壁
5b 底壁
5c 凸部挿入孔
5d 開口側端面
5e 筒状延伸部
5f 環状溝
5g、5h 突起
6 弾性体
7 連結部収容室
8 斜面
9 環状溝
10 軸受
10a インナーレース
10b アウターレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体(1)と第2回転体(2)とを同一軸線上で対向させ、前記第1回転体(1)に設けられた嵌合用凹部(3)とこれに対応して第2回転体(2)に設けられた嵌合用凸部(4)とを嵌合させて両回転体をトルク伝達可能に連結するカップリング装置であって、
前記第1回転体(1)に、有底筒状で底壁(5b)に前記第2回転体の嵌合用凸部(4)を通す凸部挿入孔(5c)の形成された連結部覆い用のキャップ(5)を第1回転体(1)の連結端側から被せ、
そのキャップ(5)を弾性体(6)で軸方向に付勢して当該キャップ(5)の開口側端面(5d)、又は、前記底壁(5b)を前記第1回転体(1)に形成された環状端面(1a)に当接させ、
その当接部によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室(7)を前記キャップ(5)の内側に形成し、その連結部収容室(7)に潤滑剤を貯留した回転体連結用カップリング装置。
【請求項2】
前記キャップ(5)に前記弾性体(6)を一体に形成し、前記第1回転体(1)もしくは第2回転体(2)の外周に反力受けとなる斜面(8)を形成し、前記弾性体(6)を前記斜面(8)に弾性的に押しつけ、その押しつけ部に生じる軸方向分力で前記環状端面(1a)に対する前記キャップ(5)の押しつけと回転体に対する当該キャップの固定を行った請求項1に記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項3】
前記キャップ(5)の周壁(5a)の一部をキャップの内面側に切り起した切り起し片を設けてその切り起し片で逆止爪兼用の前記弾性体(6)を形成し、さらに、前記斜面(8)を、前記第2回転体(2)からの軸方向離反距離が増大するにつれて径方向内側に変位する面にしてその斜面(8)を前記第1回転体(1)の外周に設け、その斜面(8)に前記弾性体(6)を弾性的に押しつけて前記軸方向分力を生じさせるようにした請求項2に記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項4】
前記キャップ(5)に、前記第2回転体(2)の連結側の外周を取り巻く筒状延伸部(5e)を連設し、その筒状延伸部(5e)の一部をキャップの内面側に切り起した切り起し片を設けてその切り越し片で前記弾性体(6)を形成し、さらに、前記斜面(8)を前記第1回転体(1)側に行くにつれて径方向内側に変位する面にしてその斜面(8)を前記第2回転体(2)の外周に設け、その斜面(8)に前記弾性体(6)を弾性的に押しつけて前記軸方向分力を生じさせるようにした請求項2に記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項5】
前記キャップ(5)に前記弾性体(6)を一体に形成し、その前記弾性体(6)を弾性変形させて前記第1回転体(1)と前記第2回転体(2)との間に挟み、この弾性体の力で前記環状端面(1a)に対する前記キャップ(5)の押しつけと回転体に対する当該キャップの固定を行った請求項1に記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項6】
前記弾性体(6)として前記キャップ(5)から独立した環状の弾性体を設け、その環状の弾性体(6)を軸方向に圧縮して前記キャップ(5)の底壁(5b)と前記第2回転体(2)との間、又は前記第1回転体(1)の外周に設けた環状溝(9)と前記キャップ(5)の周壁内面に設けた環状溝(5f)との間に介在し、この弾性体の力で前記環状端面(1a)に対する前記キャップ(5)の押しつけと回転体に対する当該キャップの固定を行った請求項1に記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項7】
第1回転体(1)と第2回転体(2)とを同一軸線上で対向させ、前記第1回転体(1)に設けられた嵌合用凹部(3)とこれに対応して第2回転体(2)に設けられた嵌合用凸部(4)とを嵌合させて両回転体をトルク伝達可能に連結するカップリング装置であって、
前記第1回転体(1)に、有底筒状で底壁(5b)に前記第2回転体の嵌合用凸部(4)を通す凸部挿入孔(5c)の形成された連結部覆い用のキャップ(5)を第1回転体(1)の連結端側から被せ、
前記キャップ(5)から独立した弾性体(6)を軸方向に圧縮して前記キャップ(5)の開口側端面(5d)と前記第1回転体に形成された環状端面(1a)との間に挟み、この弾性体の力で前記キャップ(5)を前記第2回転体(2)の連結側端面に押しつけて回転体に対して前記キャップ(5)を固定し、さらに、前記弾性体(6)によって出口が封鎖もしくは狭められた連結部収容室(7)を前記キャップ(5)の内側に形成し、その連結部収容室(7)に潤滑剤を貯留した回転体連結用カップリング装置。
【請求項8】
前記嵌合用凸部(4)と、その嵌合用凸部を挿通する前記キャップ(5)の凸部挿入孔(5c)を同順に非円形断面の凸部とそれに対応させた非円形断面の孔にし、その嵌合用凸部(4)と前記凸部挿入孔(5c)とを嵌合させて前記キャップの回転体に対する相対回転を前記嵌合用凸部(4)で阻止するようにした請求項1〜7のいずれかに記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項9】
前記キャップ(5)に、周壁(5a)の内面から径方向内側に突出する突起(5h)又は前記底壁(5b)の内面から軸方向に突出する突起(5g)を設け、その突起(5g)を前記嵌合用凹部(3)の一部に入り込ませ、嵌合用凹部(3)の内面に係合させて前記キャップの回転体に対する相対回転を前記嵌合用凹部(3)で阻止するようにした請求項1〜7のいずれかに記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項10】
前記嵌合用凹部(3)が前記第1回転体(1)の外周に解放するクレビス溝で、前記嵌合用凸部(4)がクレビス突起でそれぞれ構成され、その両者が嵌合して前記第1回転体(1)と第2回転体(2)が互いに連結されている請求項1〜9のいずれかに記載の回転体連結用カップリング装置。
【請求項11】
前記嵌合用凹部(3)が第1回転体(1)の連結側端面に解放する角穴で、前記嵌合用凸部(4)が前記角穴に相対回転不可に挿入される断面非円形の軸でそれぞれ構成され、その両者が嵌合して第1回転体(1)と第2回転体(2)が互いに連結されている請求項1〜9のいずれかに記載の回転体連結用カップリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−36527(P2013−36527A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172657(P2011−172657)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)