説明

回転式圧縮機

【課題】回転式圧縮機において、油供給機構による潤滑油の供給が停止した場合であっても、駆動軸と軸受との摺動部分を潤滑できるようにする。
【解決手段】ケーシング(11)と、ケーシング(11)内に収容される電動機(50)と、電動機(50)から略鉛直方向に延びる駆動軸(40)と、駆動軸(40)に駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、駆動軸(40)を支持する少なくとも1つの軸受部(22d,32)と、ケーシング(11)の底部(11a)に溜まった潤滑油を軸受部(22d,32)と駆動軸(40)との間の軸受隙間(27,47)に汲み上げる油供給機構(30)と、軸受隙間(27,47)の上方に軸受隙間(27,47)と連通する油貯留空間(S1,S2,S2')を形成する油溜め部(26,46,46')と、を備える回転式圧縮機を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式圧縮機に関し、特に潤滑油が回転式圧縮機の摺動部分へ正常に供給されない場合における、摺動部分の焼付き対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転式圧縮機において、圧縮機構を駆動させる駆動軸と該駆動軸を支持する軸受との間に潤滑油を連続的に供給することにより、駆動軸を軸受に対してスムーズに回転させるための構造として、特許文献1のような構造が知られている。特許文献1における駆動軸には、鉛直方向に延びる駆動軸を上下に貫通する給油通路と、該給油通路から水平方向に延びる分岐路とが形成されている。そして、上記給油通路の下端には、該給油通路に潤滑油を汲み上げる油ポンプが設けられている。この油ポンプによって給油通路に汲み上げられた潤滑油は、上記分岐路を通過した後、駆動軸と軸受との間に形成された軸受隙間を流れて、駆動軸と軸受との摺動部分を潤滑する。このように軸受隙間を流れた潤滑油は、該軸受隙間の上端側又は下端側から流出した後、ケーシングの底部に戻される。ケーシングの底部に戻された潤滑油は、再び、油ポンプによって軸受隙間へ供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、潤滑油は、圧縮機構によって圧縮された冷媒ガスととともに圧縮機の外部へ吐出されてしまう場合がある。このように外部へ吐出される潤滑油が大量になる、いわゆる油上がりが悪化すると、ケーシングの底部の潤滑油が枯渇して油切れ状態となる。そうなると、軸受隙間に潤滑油が供給されなくなるため、駆動軸と軸受との間で焼付きが発生してしまう。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、油供給機構による潤滑油の供給が停止した場合であっても、駆動軸と軸受との摺動部分を潤滑できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、回転式圧縮機を対象とし、ケーシング(11)と、該ケーシング(11)内に収容される電動機(50)と、該電動機(50)から略鉛直方向に延びる駆動軸(40)と、該駆動軸(40)に駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、上記駆動軸(40)を支持する少なくとも1つの軸受部(22d,32)と、上記ケーシング(11)の底部(11a)に溜まった潤滑油を、上記軸受部(22d,32)と駆動軸(40)との間の軸受隙間(27,47)に汲み上げる油供給機構(30)と、上記軸受隙間(27,47)の上方に、該軸受隙間(27,47)と連通する油貯留空間(S1,S2,S2')を形成する油溜め部(26,46,46')と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、油供給機構(30)によってケーシング(11)の底部(11a)から汲み上げられた潤滑油は、駆動軸(40)と該駆動軸(40)を支持する軸受部(22d,32)との間の軸受隙間(27,47)を流れて、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との摺動部分を潤滑する。更に、軸受隙間(27,47)に潤滑油が供給されると、軸受隙間(27,47)の上端から溢れた潤滑油が油溜め部(26,46,46')に溜められる。よって、例えば油切れに起因して油供給機構(30)から軸受隙間(27,47)への潤滑油の供給が停止した場合であっても、軸受隙間(27,47)には、上記油溜め部(26,46,46')に溜まった潤滑油が、その自重、及び軸受部(22d,32)の反負荷側に生じる負圧によって軸受隙間(27,47)に流れ込む。従って、油溜め部(26,46,46')に潤滑油が溜まっている間は、油切れが発生した場合であっても、軸受隙間(27,47)に潤滑油が流れ込むため、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との摺動部分が潤滑される。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記駆動軸(40)は、主軸部(41)と、該主軸部(41)の軸心と偏心して該主軸部(41)の上端に形成された偏心軸部(42)と、を含み、上記少なくとも1つの軸受部は、上記主軸部(41)を回転自在に支持する主軸受部(32)を含み、上記主軸受部(32)と上記主軸部(41)との間に形成された上記軸受隙間としての主軸受隙間(27)の上方には、該主軸受隙間(27)に連通する上記油溜め部としての主軸側油溜め部(26)が形成されていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明では、油供給機構(30)によって汲み上げられた潤滑油は、主軸部(41)と該主軸部(41)を回転自在に支持する主軸受部(32)との間の主軸受隙間(27)を流れて、主軸部(41)と主軸受部(32)との摺動部分を潤滑する。更に、主軸受隙間(27)に潤滑油が供給されると、該主軸受隙間(27)の上端から溢れた潤滑油が主軸側油溜め部(26)に溜められる。よって、油供給機構(30)から主軸受隙間(27)への潤滑油の供給が停止した場合であっても、主軸受隙間(27)には、主軸側油溜め部(26)に溜まった潤滑油が、その自重、及び主軸受部(32)の反負荷側に生じる負圧により流れ込む。従って、主軸側油溜め部(26)に潤滑油が溜まっている間は、主軸受隙間(27)に潤滑油が流れ込むため、駆動軸(40)と主軸受部(32)との摺動部分が潤滑される。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記主軸部(41)は、上記主軸受部(32)の上端面よりも上方へ突出し、上記主軸側油溜め部(26)は、上記主軸受部(32)の突出した部分の外周面を囲む環状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、主軸側油溜め部(26)を、主軸部(41)の外周面のうち主軸受部(32)の上端面よりも上方へ突出した部分を囲むように設けた。これにより、主軸受隙間(27)の上端の全周に亘って主軸側油溜め部(26)が形成される。従って、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、主軸受隙間(27)の上端の全周から潤滑油が流れ込むため、駆動軸(40)と主軸受部(32)との摺動部分が周方向において均一に潤滑される。
【0012】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記主軸側油溜め部(26)は、上記偏心軸部(42)の下方に形成されていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、主軸部(41)の外周面を囲む主軸側油溜め部(26)を偏心部(42)の下方に形成したため、偏心部(42)は、該主軸側油溜め部(26)内の潤滑油には浸されない。その結果、偏心部(42)が偏心回転しても、主軸側油溜め部(26)内の潤滑油には、偏心部(42)が偏心回転することによる径方向外方への遠心力が作用しにくくなる。従って、主軸油溜め部(26)に溜められた潤滑油は溢れにくくなる。
【0014】
第5の発明は、上記第3又は第4の発明において、上記主軸側油溜め部(26)には、上記油貯留空間(S1)を周方向において複数の空間に仕切る仕切部(29)が形成されていることを特徴とする。
【0015】
第5の発明では、仕切部(29)によって、主軸部(41)の外周面を囲む環状に形成された主軸側油溜め部(26)を周方向において複数の空間に仕切ったため、駆動軸(40)の回転により発生する主軸側油溜め部(26)内の潤滑油の旋回流が小さくなる。これにより、潤滑油に作用する遠心力が軽減され、潤滑油が主軸側油溜め部(26)の外へ溢れにくくなる。
【0016】
第6の発明は、上記第2から第5の発明のうちいずれか1つの発明において、上記主軸側油溜め部(26)の上方には、該主軸側油溜め部(26)と連通し上記ケーシング(11)の内壁へ向かって延びる排油路(25)が形成されていることを特徴とする。
【0017】
主軸受隙間(27)の上端から流出する潤滑油は、主軸側油溜め部(26)を通じて排油路(25)へ導かれる。この潤滑油は、排油路(25)を通過した後、ケーシング(11)の内壁を伝って下方へ流れ、ケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。このようにケーシング(11)の底部(11a)に戻された潤滑油は、油供給機構(30)によって汲み上げられて、再び駆動軸(40)と主軸受部(32)との摺動部分を潤滑する。
【0018】
ここで、第6の発明では、排油路(25)が主軸側油溜め部(26)の上方に形成されているため、潤滑油は主軸側油溜め部(26)が満杯になった後、排油路(25)から排出される。従って、主軸側油溜め部(26)が確実に満杯になった状態で、潤滑油が底部に返送される。
【0019】
第7の発明は、上記第1の発明において、上記駆動軸(40)は、主軸部(41)と、該主軸部(41)の軸心と偏心して該主軸部(41)の上端に形成された偏心軸部(42)と、を含み、上記圧縮機構(20)は、上記ケーシング(11)に固定される固定部材(21)と、上記偏心軸部(42)が挿通される筒部(22c)を有し上記駆動軸(40)の駆動により上記固定部材(21)に対して偏心回転される可動部材(22)と、を含み、上記少なくとも1つの軸受部は、上記偏心軸部(42)と上記筒部(22c)との間に挿通固定される偏心軸受部(22d)を含み、上記偏心軸部(42)と上記偏心軸受部(22d)との間に形成された上記軸受隙間としての偏心軸受隙間(47)の上方には、該偏心軸受隙間(47)に連通する上記油溜め部としての偏心軸側油溜め部(46,46')が形成されていることを特徴とする。
【0020】
第7の発明では、油供給機構(30)によって汲み上げられた潤滑油は、偏心軸部(42)と該偏心軸部(42)に支持される偏心軸受部(22d)との間の偏心軸受隙間(47)を流れて、偏心軸部(42)と偏心軸受部(22d)との摺動部分を潤滑する。更に、偏心軸受隙間(47)に潤滑油が供給されると、外偏心軸受隙間(47)の上端から溢れた潤滑油が偏心軸側油溜め部(46)に溜められる。よって、油供給機構(30)から偏心軸受隙間(47)への潤滑油の供給が停止した場合であっても、偏心軸受隙間(47)には、偏心軸側油溜め部(46)に溜まった潤滑油が、その自重、及び偏心軸受部(22d)の反負荷側に生じる負圧により流れ込む。従って、偏心軸側油溜め部(46)に潤滑油が溜まっている間は、主軸受隙間(27)に潤滑油が流れ込むため、駆動軸(40)と主軸受部(32)との摺動部分が潤滑される。
【0021】
第8の発明は、上記第7の発明において、上記油供給機構(30)は、上記駆動軸(40)の下端に設けられる油搬送部(31)と、該油搬送部(31)から上記偏心軸部(42)の上端まで延びる主給油路(44)と、該主給油路(44)から分岐して上記軸受隙間(47)へ延びる分岐給油路(45a,45b)とを有する給油路(43)と、を含み、上記偏心軸側油溜め部(46')は、上記偏心軸部(42)の上端に形成されていることを特徴とする。
【0022】
第8の発明では、油搬送部(31)によって主給油路(44)へ搬送された潤滑油の一部は、偏心軸受隙間(47)の上端から、又は主給油路(44)の上端から、偏心軸側油溜め部(46')へ供給され、該偏心軸側油溜め部(46')へ溜められる。ここで、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止すると、偏心軸側油溜め部(46')に溜められた潤滑油は、自重及び軸受(22d)の反負荷側に生じる負圧により主給油路(44)へ流れる。この際、潤滑油には、駆動軸(40)の回転による遠心力が作用するため、該潤滑油は、分岐給油路(45a,45b)を介して各軸受隙間(27,47)へ供給される。つまり、偏心軸側油溜め部(46')に潤滑油が溜まっている間は、潤滑油は、分岐流油路(45a,45b)を介して、主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)の両方に供給される。
【0023】
第9の発明は、上記第1から第8の発明のうちいずれか1つの発明において、上記駆動軸(40)の外周面のうち上記軸受隙間(27,47)と面する部分には、周方向に延びる円環状のリング溝(41b,42c)が形成され、上記軸受部(22d,32)の背面側には、上記リング溝(41b,42c)と上記油貯留空間(S1,S2,S2')とを連通する軸受背面通路(28,48)が形成されていることを特徴とする。
【0024】
第9の発明では、軸受隙間(27,47)を流れた潤滑油のうち該軸受隙間(27,47)の下端へ向けて流れる潤滑油の一部は、リング溝(41b,42c)によって回収された後、駆動軸(40)の回転による軸受反力によって軸受背面通路(28,48)へ送られる。更に潤滑油がリング溝(41b,42c)から軸受背面通路(28,48)へ送られると、軸受背面通路(28,48)の上端から溢れた潤滑油が油溜め部(26,46,46')へ流れ込む。つまり、一旦軸受隙間(27,47)を流れて駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との摺動部を潤滑した潤滑油が、油溜め部(26,46,46')に溜められる。しかも、上述のように軸受背面通路(28,48)を流れる潤滑油によって、駆動軸(40)が軸受部(22d,32)に対して回転することにより発生した摩擦熱が冷却される。これにより、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との間の摺動部分の温度上昇が低減されるため、該摺動部分の焼付きが抑制される。
【発明の効果】
【0025】
上記第1の発明によれば、軸受隙間(27,47)の上方に該軸受隙間(27,47)と連通する油溜め部(26,46,46')を設けたため、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、油溜め部(26,46,46')に溜まった潤滑油が軸受隙間(27,47)に流れ込む。従って、油溜め部(26,46,46')に潤滑油が溜まっている間は、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との摺動部分を潤滑できる。
【0026】
また、上記第2の発明によれば、主軸受隙間(27)の上方に該主軸受隙間(27)と連通する主軸側油溜め部(26)を設けたため、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、主軸側油溜め部(26)に溜まった潤滑油が主軸受隙間(27)に流れ込む。従って、主軸側油溜め部(26)に潤滑油が溜まっている間は、駆動軸(40)と主軸受部(32)との間を潤滑できる。
【0027】
また、上記第3の発明によれば、主軸側油溜め部(26)を主軸部(41)の外周面を囲むように設けたため、主軸受隙間(47)の上端の全周から、主軸受隙間(47)に潤滑油が流れ込む。従って、駆動軸(40)と主軸受け部(32)との摺動部分を全体的に均一に潤滑できる。
【0028】
また、上記第4の発明によれば、偏心軸部(42)が偏心回転することによる主軸側油溜め部(26)内の潤滑油の遠心力が軽減されるため、潤滑油が主軸側油溜め部(26)から溢れるのが抑制される。従って、主軸側油溜め部(26)を満杯の状態に保ちやすくなり、比較的長時間、主軸受隙間(27)に潤滑油を流し込むことができる。
【0029】
また、上記第5の発明によれば、主軸側油溜め部(26)に仕切部(29)を設けたため、主軸側油溜め部(26)内の潤滑油に作用する遠心力を抑制でき、該潤滑油が主軸側油溜め部(26)から溢れるのを抑制できる。従って、主軸側油溜め部(26)を満杯の状態に保ちやすくなり、比較的長時間、主軸受隙間(27)に潤滑油を流し込むことができる。
【0030】
また、上記第6の発明によれば、主軸側油溜め部(26)の上方に排油路(25)を設けたため、主軸側油溜め部(26)を潤滑油で満杯に保ちつつ、ケーシング(11)の底部に潤滑油を戻すことができる。
【0031】
また、上記第7の発明によれば、偏心軸受隙間(47)の上方に該偏心軸受隙間(47)と連通する偏心軸側油溜め部(46,46')を設けたため、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、偏心軸側油溜め部(46,46')に溜まった潤滑油が偏心軸受隙間(47)に流れ込む。従って、偏心軸側油溜め部(46,46')に潤滑油が溜まっている間は、駆動軸(40)と偏心軸受部(22d)との間を潤滑できる。
【0032】
また、上記第8の発明によれば、偏心軸部(42)の上端に偏心軸油溜め部(46')を設けたため、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、偏心軸側油溜め部(46')に溜められた潤滑油を、主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)の両方に供給することができる。
【0033】
また、上記第9の発明によれば、軸受隙間(27,47)の下端へ向かって流れる潤滑油の一部がリング溝(41b,42c)で回収された後、軸受背面通路(28,48)を通じて油溜め部(26,46,46')へ返送されるため、その分、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との摺動部分を長時間、潤滑することができる。しかも、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との間で発生する摩擦熱が、軸受背面通路(28,48)を流れる潤滑油によって冷却されるため、駆動軸(40)と軸受部(22d,32)との焼付きを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の要部を示す構造図である。
【図3】図3は、駆動軸及びハウジング部を上方から視た図である。
【図4】図4は、変形例1に係るスクロール圧縮機の要部を示す構造図である。
【図5】図5は、変形例2に係るスクロール圧縮機の要部を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0036】
本実施形態のスクロール圧縮機(10)(回転式圧縮機)は、例えば、空気調和装置の蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられ、冷媒を圧縮するものである。
【0037】
−全体構成−
本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、図1及び図2に示すように、縦方向にやや細長い密閉状のケーシング(11)と、該ケーシング(11)内の下方に設けられた電動機(50)と、該電動機(50)から上下方向に延びる駆動軸(40)と、該駆動軸(40)によって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、油供給機構(30)と、を備えている。
【0038】
ケーシング(11)の頂部には、吸入管(12)が貫通して取り付けられている。この吸入管(12)は、終端が圧縮機構(20)に接続されている。上記ケーシング(11)の胴部には、吐出管(13)が貫通して取り付けられている。この吐出管(13)は、終端がケーシング(11)内の圧縮機構(20)及び電動機(50)の間に開口している。また、ケーシング(11)の底部(11a)には潤滑油が貯留されている。
【0039】
電動機(50)は、上記ケーシング(11)の内壁に固定された略円筒状のステータ(51)と、該ステータ(51)内で回転可能な円筒状のロータ(52)と、を備えている。ロータ(52)の中心部には、駆動軸(40)を挿通可能な貫通穴が形成されている。
【0040】
駆動軸(40)は、上下方向に延びる細長い棒状に形成された主軸部(41)と、該主軸部(41)の上端に立設された偏心ピン(42)(偏心軸部)とを備えている。駆動軸(40)は、電動機(50)のロータ(52)に形成された貫通穴に挿通固定され、電動機(50)の駆動により回転駆動される。
【0041】
主軸部(41)の上部は、下部よりもやや大径の上端部(41a)で構成されている。また、上端部(41a)の下側には、周方向に延びる環状のリング溝(41b)が形成されている。
【0042】
偏心ピン(42)は、主軸部(41)よりも小径に形成された略円柱状であって、主軸部(41)の軸心から所定距離だけ偏心している。具体的には、偏心ピン(42)は、上段部(42a)と下段部(42b)とで構成されている。下段部(42b)は、主軸部(41)よりもやや小径の円柱状であって、上記主軸部(41)の上端に立設されている。上段部(42a)は、上記下段部(42b)よりも更に小径の円柱状であって、下段部(42b)の軸心と同軸になるように該下段部(42b)の上端に立設されている。
【0043】
駆動軸(40)には、給油路(43)が形成されている。この給油路(43)は、詳しくは後述する油供給機構(30)の一部を構成している。給油路(43)は、駆動軸(40)を上下に貫通する主給油路(44)と、該主給油路(44)から分岐する2本の分岐給油路(45a,45b)とで構成されている。分岐給油路は、主軸部(41)の上端部(41a)に形成された主軸側給油路(45a)と、偏心ピン(42)の下段部(42b)に形成された偏心軸側給油路(45b)とで構成されている。主軸側給油路(45a)は、上記主給油路(44)から水平方向に延びて主軸部(41)の外周面から径方向外方へ向けて開口している。偏心軸側給油路(45b)は、上記主給油路(44)から水平方向に延びて偏心ピン(42)の外周面から径方向外方へ向けて開口している。
【0044】
圧縮機構(20)は、固定スクロール(21)(固定部材)と、該固定スクロール(21)に噛合し、該固定スクロール(21)に対して偏心回転可能な可動スクロール(22)(可動部材)と、上記固定スクロール(21)を固定支持するハウジング部(23)と、を備えている。
【0045】
ハウジング部(23)は、その全周がケーシング(11)の胴部内面に接合されている。このハウジング部(23)は、上段部(23a)と下段部(23b)とによって構成されている。これら上段部(23a)及び下段部(23b)は、順に上から下へ連続して形成されている。上段部(23a)は、その上面中央に凹部が形成されている。この凹部によって覆われた空間がクランク室(24)を構成する。下段部(23b)は、上段部(23a)よりも小径の略円筒状に形成され、上段部(23a)の下面から下方へ突出している。
【0046】
また、ハウジング部(23)の上段部(23a)と下段部(23b)との間には、上記クランク室(24)の底面付近から水平に延びてケーシング(11)の内壁へ向かって延びる排油路(25)が形成されている。
【0047】
また、ハウジング部(23)の下段部(23b)の上面には、クランク室(24)よりも小径の環状に形成された溝部が形成されている。この溝部が、潤滑油を貯留可能な主軸側油溜め部(26)を構成し、該溝部によって形成された環状の空間が主軸側油貯留空間(S1)(油貯留空間)を構成している。この主軸側油溜め部(26)には、図3に示すように、該主軸側油溜め部(26)を周方向に仕切る6つの仕切部(29)が設けられている。この6つの仕切部(29)は、上記主軸側油溜め部(26)の周方向に等間隔となるように設けられている。これにより、主軸側油貯留空間(S1)は6つの空間に仕切られる。また、ハウジング部(23)の下段部(23b)の内周面には、垂直方向に延びる溝状の主軸受背面通路(28)(軸受背面通路)が形成されている。つまり、この主軸受背面通路(28)は、主軸受メタル(32)の背面側に形成されている。主軸受背面通路(28)は、下段部(23b)の上面から、該下段部(23b)の下面から所定距離だけ上方に離れた位置まで延びるように形成されている。
【0048】
また、ハウジング部(23)の下段部(23b)の内周面には、円筒状に形成された金属製の主軸受メタル(32)が挿通固定されている。この主軸受メタル(32)には、主軸部(41)の上端部(41a)が挿入されている。主軸受メタル(32)の上端は、主軸部(41)の上端部(41a)よりも下方に位置している。すなわち、主軸部(41)の上端部(41a)は主軸受メタル(32)の上端よりも上方に突出するように位置している。この突出した部分の外周面を囲むように、上記主軸側油溜め部(26)が形成されている。主軸受メタル(32)の内周面は、主軸部(41)の上端部(41a)の外周面よりもやや大径に形成されていて、これにより、主軸部(41)と主軸受メタル(32)との間には主軸受隙間(27)が形成される。この主軸受隙間(27)の上端は、全周に亘って、上記主軸側油溜め部(26)と連通している。また、主軸受メタル(32)には、主軸部(41)の上端部(41a)に形成されたリング溝(41b)と、ハウジング部(23)の下段部(23b)に形成された主軸受背面通路(28)の下端部とを連通する貫通穴(32a)が形成されている。
【0049】
固定スクロール(21)は、固定側鏡板部(21a)と、固定側ラップ(21b)と、縁部(21c)とを備えている。固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)は、略円板状に形成されている。固定側ラップ(21b)は、固定側鏡板部(21a)の下面に立設され、該固定側鏡板部(21a)に一体形成されている。この固定側ラップ(21b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。縁部(21c)は、固定側鏡板部(21a)の外周縁部から下方へ向かって延びる壁状に形成されている。この縁部(21c)は、その下端部が全周に亘って外側へ突出し、ハウジング部(23)の上段部(23a)の上面に固定されている。
【0050】
固定スクロール(21)の外周側には、吸入管(12)の終端に接続される吸入ポート(39)が形成されている。この吸入ポート(39)は、可動スクロール(22)の偏心回転運動に伴って圧縮室(24)に間欠的に連通するように構成されている。上記固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)には、その上方を覆うカバー(37)が取り付けられている。そして、このカバー(37)と固定側鏡板部(21a)との間には、吐出空間としての吐出室(38)が形成されている。上記固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)の中央には、吐出室(38)に開口する吐出ポート(35)が形成されている。この吐出ポート(35)は、可動スクロール(22)の偏心回転運動に伴って圧縮室(24)に間欠的に連通するように構成されている。また、固定スクロール(21)の固定側鏡板(21a)の上面には、上記吐出ポート(35)の開口部を覆うリード弁(36)が設けられている。このリード弁(36)は、圧縮室(24)内の圧力と吐出室(38)内との差圧に応じて開閉する。なお、上記圧縮機構(20)は、吐出室(38)に吐出されたガス冷媒がガス通路(図示省略)を通じてハウジング(23)の下方の空間に導入され、吐出管(13)からケーシング(11)外へ吐出されるように構成されている。
【0051】
可動スクロール(22)は、可動側鏡板部(22a)と、可動側ラップ(22b)と、ボス部(22c)(筒部)と、偏心軸受メタル(22d)と、を備えている。可動側鏡板部(22a)は、略円板状に形成され、上記ハウジング部(23)の上段部(23a)の上方に位置している。可動側ラップ(22b)は、可動側鏡板部(22a)の上面に立設され、該可動側鏡板部(22a)に一体形成されている。この可動側ラップ(22b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成され、固定スクロール(21)の固定側ラップ(21b)に噛合するように構成されている。ボス部(22c)は、可動側鏡板部(22a)の下面から突出するように該可動側鏡板部(22a)に一体形成されている。このボス部(22c)は、ハウジング部(23)に形成されたクランク室(24)に収容される。
【0052】
偏心軸受メタル(22d)は、円筒状に形成された金属製であって、上記ボス部(22c)の内周面に挿通固定されている。この偏心軸受メタル(22d)には、駆動軸(40)の偏心ピン(42)が挿通されている。偏心軸受メタル(22d)の内周面は、偏心ピン(42)の下段部(42b)よりもやや大径に形成されていて、これにより、偏心ピン(42)の下段部(42b)と偏心軸受メタル(22d)との間には偏心軸受隙間(47)が形成される。また、偏心ピン(42)の上段部(42a)の外周面と、偏心ピン(42)の下段部(42b)の上端面と、ボス部(22c)の内周面とで偏心軸側油溜め部(46)が構成される。この偏心軸側油溜め部(46)によって形成された空間が偏心軸側油貯留空間(S2)である。
【0053】
油供給機構(30)は、ポンプ部(31)(油搬送部)と、駆動軸(40)に形成された給油路(43)と、を備えている。このポンプ部(31)は、例えば遠心ポンプで構成されている。ポンプ部(31)は、上記駆動軸(40)の下端に設けられており、ケーシング(11)の底部(11a)に溜められた潤滑油に浸漬されている。ポンプ部(31)は、潤滑油を給油路(43)へ汲み上げるように構成されている。
【0054】
−運転動作−
上記スクロール圧縮機(10)の運転動作を以下に説明する。
【0055】
《圧縮機構による冷媒圧縮動作》
スクロール圧縮機(10)を起動すると、電動機(50)が駆動されて駆動軸(40)が回転されると同時に、ポンプ部(31)も駆動される。
【0056】
駆動軸(40)が回転すると、可動スクロール(22)が固定スクロール(21)に対して偏心回転される。これにより、吸入ポート(39)の冷媒が圧縮室(24)内に吸い込まれ、徐々に圧縮されながら圧縮室(24)の中心部へ移動していく。そして、圧縮室(24)が吐出ポート(35)に連通すると、圧縮室(24)で圧縮された冷媒が吐出室(38)へ吐出される。この吐出室(38)の冷媒は、ケーシング(11)の内部空間から吐出管(13)を通じて冷媒回路に戻る。
【0057】
−油搬送機構による潤滑油供給動作−
ポンプ部(31)が駆動されると、ケーシング(11)の底部(11a)に溜められた潤滑油は、ポンプ部(31)によって上方へ汲み上げられる。この潤滑油は、主給油路(44)を上昇する。そして、そのまま該主給油路(44)の上端から駆動軸(40)外へ流出するか、又は、主軸側給油路(45a)若しくは偏心軸側給油路(45b)を通じて駆動軸(40)から径方向外方へ流出する。
【0058】
上記主給油路(44)の上端から流出した潤滑油は、偏心ピン(42)の上端を径方向外方へ流れた後、偏心軸側油溜め部(46)に溜まる。この偏心軸側油溜め部(46)に溜まった潤滑油は、偏心軸受隙間(47)を通じて下降するか、又はそのまま偏心軸側油溜め部(46)に貯留される。
【0059】
上記主軸側給油路(45a)から流出した潤滑油は、主軸受隙間(27)へ流れ込んで、駆動軸(40)の上端部(41a)と主軸受メタル(32)との摺動部分を潤滑する。その後、この潤滑油は、主軸受隙間(27)の上端又は下端へ流れる。主軸受隙間(27)の上端へ流れた潤滑油は、該主軸受隙間(27)の上方に設けられた主軸側油溜め部(26)に溜められた後、該主軸側油溜め部(26)の上方に設けられた排油路(25)へ流れる。そして、この潤滑油は、排油路(25)を通過した後、ケーシング(11)の内壁を伝って下降し、ケーシング(11)の底部(11a)に溜められる。一方、主軸受隙間(27)の下端へ流れる潤滑油については、その一部は該下端から排出されるものの、残りについては、リング溝(41b)によって回収された後、主軸受背面通路(28)を通じて主軸側油溜め部(26)に戻される。
【0060】
上記偏心軸側給油路(45b)から流出した潤滑油は、偏心軸受隙間(47)へ流れ込んで、偏心ピン(42)の下端部(42b)と偏心軸受メタル(22d)との摺動部分を潤滑する。その後、この潤滑油は、偏心軸受隙間(47)の上端又は下端へ流れる。偏心軸受隙間(47)の上端へ流れた潤滑油は、該偏心軸受隙間(47)の上方に設けられた偏心軸側油溜め部(46)に溜まり貯留される。一方、偏心軸受隙間(47)の下端へ流れた潤滑油は、主軸側油溜め部(26)へ溜められるか、排油路(25)へ流れた後にケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。
【0061】
上述のように、潤滑油は、ケーシング(11)の底部(11a)から汲み上げられて各軸受隙間(27,47)を流れた後、再びケーシング(11)の底部(11a)へ返送される。つまり、各軸受隙間(27,47)には、ポンプ部(31)によって汲み上げられた潤滑油が留まることなく連続的に供給される。これにより、駆動軸(40)が各軸受メタル(22d,32)に対して回転することにより発生する摩擦熱を効率的に冷却できる。
【0062】
また、主軸側油溜め部(26)は、偏心ピン(42)の下方に形成されている。つまり、偏心ピン(42)は、主軸側油溜め部(26)に浸からないような位置に設けられている。これにより、主軸側油溜め部(26)に貯留された潤滑油には、偏心ピン(42)が偏心回転することによる径方向外方への遠心力が作用しにくくなり、その結果、主軸側油溜め部(26)に貯留された潤滑油が溢れてしまうのを抑制できる。
【0063】
更に、主軸側油溜め部(26)には、該主軸側油溜め部(26)によって形成された主軸側油貯留空間(S1)を周方向において複数の空間に仕切る6つの仕切部(26)が形成されている。これにより、環状に形成された主軸側油貯留空間(S1)内で旋回する潤滑油の旋回流を小さくできるため、潤滑油に作用する遠心力を抑制し、潤滑油が主軸側油貯留空間(26)から溢れてしまうのを抑制できる。
【0064】
しかも、主軸受隙間(27)を潤滑した潤滑油をケーシング(11)の内壁へ導く排油路(25)は、主軸側油溜め部(26)の上方に形成されている。これにより、主軸受隙間(27)の上端から流出した潤滑油は、主軸側油溜め部(26)を満杯に満たした後、排油路(25)へ流れる。つまり、主軸側油溜め部(26)を常に満杯に保ちつつ、潤滑油を、排油路を通じてケーシング(11)の底部(11a)へ返送することができる。
【0065】
《油供給機構による潤滑油の供給が停止した場合の潤滑油の流れ》
油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合、具体的には、油切れが発生した場合や、ポンプ部(31)が故障した場合等のスクロール圧縮機(10)の運転動作について以下に説明する。
【0066】
油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止すると、給油路(43)から主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)へ潤滑油が流れなくなる。
【0067】
ここで、各軸受隙間(27,47)の上方には、該軸受隙間(27,47)と連通する主軸側油溜め部(26)及び偏心軸側油溜め部(46)が、ぞれぞれ形成されている。そして、各油溜め部(26,46)には、上述のように潤滑油が貯留されているため、主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)には、それぞれ、各油溜め部(26,46)に貯留された潤滑油が自重及び軸受部(22d,32)の反負荷側に生じる負圧により流れ込む。従って、油溜め部(26,46)に潤滑油が溜まっている間は軸受隙間(27,47)に潤滑油が流れ込むため、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との摺動部分、及び駆動軸(40)と偏心軸受メタル(22d)との摺動部分を潤滑することができる。これにより、該摺動部分の焼付きを抑制することができる。
【0068】
また、主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)の上端は、それぞれ、全周に亘って、各油溜め部(26,46)と連通している。従って、主軸側油溜め部(26)及び偏心軸側油溜め部(46)内の潤滑油は、それぞれ、各軸受隙間(27,47)の上端の全周から下方へ流れ込む。従って、各軸受隙間(27,47)には周方向において均一に潤滑油を流れ込ませることができる。
【0069】
しかも、偏心軸側油溜め部(46)に貯留された潤滑油は、偏心軸受隙間(47)を下方へ流れた後、該偏心軸受隙間(47)の下方に形成された主軸側油溜め部(26)へ流れ込む。つまり、偏心軸側油溜め部(46)を設けることによって、該偏心軸側油溜め部(26)に溜まった潤滑油を、主軸側油溜め部(26)へ潤滑油を供給することができ、その分、主軸受隙間(27)に長時間、潤滑油を流すことができる。
【0070】
更に、駆動軸(40)における主軸受メタル(32)の下部にはリング溝(41b)が形成されていて、ハウジング部(23)における主軸受メタル(32)の背面側には、該リング溝(41b)と主軸側油貯留空間(S1)とを連通する主軸受背面通路(28)が形成されている。これにより、主軸受隙間(27)を下方へ流れる潤滑油の一部を回収した後、該潤滑油を主軸受背面通路(28)を介して主軸側油溜め部(26)へ戻すことができる。従って、主軸受隙間(27)を流れた潤滑油を再度、主軸側油溜め部(26)へ搬送して、主軸受隙間(27)へ供給できるため、その分、主軸受隙間(27)に潤滑油を流すことができる。しかも、主軸受メタル(32)に対する駆動軸(40)の回転に起因して発生する摩擦熱は、主軸受背面通路(28)を流れる潤滑油によって冷却される。これにより、主軸受メタル(32)と駆動軸(40)との間の焼付きを抑制できる。
【0071】
−実施形態の効果−
以上より、本実施形態によれば、主軸受隙間(27)の上方に該主軸受隙間(27)と連通する主軸側油溜め部(26)を、偏心軸受隙間(47)の上方に該偏心軸受隙間(47)と連通する偏心軸側油溜め部(46)を、それぞれ設けた。これにより、油供給機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合であっても、主軸側油溜め部(26)に溜まった潤滑油が主軸受隙間(27)へ、偏心軸側油溜め部(46)に溜まった潤滑油が偏心軸受隙間(47)へ、それぞれ流れる。従って、油溜め部(26,46)に潤滑油が溜まっている間は、駆動軸(40)と軸受メタル(22d,32)との摺動部分を潤滑できるため、該摺動部分の焼付きを抑制することができる。
【0072】
しかも、偏心軸側油溜め部(46)に貯留された潤滑油は、偏心軸受隙間(47)を流れた後、該偏心軸受隙間(47)の下端から流出して主軸側油溜め部(26)に溜まるため、主軸側油溜め部(27)に潤滑油を補充することができる。従って、その分、主軸受隙間(27)に潤滑油を長時間流すことができる。
【0073】
更に、駆動軸(40)における主軸受メタル(32)の下部付近にリング溝(41b)を、ハウジング部(23)における主軸受メタル(32)の背面側に主軸受背面通路(28)を、それぞれ設けたため、主軸受隙間(27)を流れた潤滑油を主軸側油溜め部(26)へ戻すことができる。従って、その分、潤滑油を主軸受隙間(27)へ流すことができる。しかも、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との摩擦熱が、主軸受背面通路(28)を流れる潤滑油によって冷却されるため、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との焼付きを抑制できる。
【0074】
また、主軸側油溜め部(26)を、偏心ピン(42)の下方に設けたため、主軸側油溜め部(26)に溜められた潤滑油が溢れるのを抑制でき、その分、主軸受隙間(27)に長時間、潤滑油を流すことができる。
【0075】
しかも、主軸側油溜め部(26)は、仕切部(29)によって、周方向において複数の空間に仕切られているため、主軸側油溜め部(26)に溜まった潤滑油に遠心力が作用するのを低減することができ、主軸側油溜め部(26)に溜められた潤滑油が溢れるのを抑制でき、その分、主軸受隙間(27)に長時間、潤滑油を流すことができる。
【0076】
加えて、軸受隙間(27,47)を潤滑した潤滑油をケーシング(11)の底部(11a)へ戻すための排油路(25)は、主軸側油溜め部(26)の上方に設けられている。このため、主軸受隙間(27)の上端から流出した潤滑油は、主軸側油溜め部(26)に満杯に溜められた後、排油路(25)を通じてケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。つまり、主軸側油溜め部(26)に貯留可能な潤滑油の容量を確保しつつ、潤滑油をケーシング(11)の底部(11a)へ戻すことができる。
【0077】
《実施形態の変形例1》
実施形態の変形例1に係るスクロール圧縮機(10)は、上記実施形態と比べて、図4に示すように、偏心ピン(42')の形状、及びボス部(22c')の形状のみが異なるだけであり、その他の構成は同じである。従って、以下では、その異なる部分のみを説明する。
【0078】
偏心ピン(42')は、円柱状に形成されている。この偏心ピン(42')の高さは、上記実施形態に係る偏心ピン(42)よりも低くなるように形成されている。また、ボス部(22c')の内周面は、上部の方が下部よりもその内径が大きくなるように形成されている。このような構成において、偏心ピン(42’)の上端面と、ボス部(22c’)の内周面とで囲まれた空間が偏心軸側油溜め部(46')を構成し、この偏心軸側油溜め部(46')によって偏心軸油貯留空間(S2')が形成される。
【0079】
このような構成のスクロール圧縮機(10)において、油搬送機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合、偏心軸側油溜め部(46')に溜められた潤滑油の一部は、主給油路(44)を下降する。その際潤滑油は、駆動軸(40)の回転による遠心力によって、分岐給油路(45a,45b)を通じて軸受隙間(27,47)へ流れ込む。従って、上記偏心軸側油溜め部(46')に潤滑油が溜まっている間は、主給油路(44)を通じて、主軸受隙間(27)及び偏心軸受隙間(47)の両方に潤滑油を供給することができる。
【0080】
《実施形態の変形例2》
実施形態の変形例2に係るスクロール圧縮機(10)は、変形例1に係る実施形態と比べて、図5に示すように、駆動軸(40)の偏心ピン(42')の形状、偏心軸受メタル(22d')の形状、及びボス部(22c')の形状のみが異なるだけであり、その他の構成は同じである。従って、以下では、その異なる部分のみを説明する。
【0081】
偏心ピン(42')の外周面の下部には、円環状のリング溝(42c)が形成されている。ボス部(22c')の内周面の下部には、垂直方向に延びる溝状の偏心軸受背面通路(48)(軸受背面通路)が形成されている。つまり、この偏心軸受背面通路(48)は、偏心軸受メタル(22d)の背面側に形成されている。また、偏心軸受メタル(22d')には、上記リング溝(42c)と偏心軸受背面通路(48)の下端とを連通する貫通穴(22e)が形成されている。
【0082】
このような構成のスクロール圧縮機(10)において、油搬送機構(30)による潤滑油の供給が停止した場合、偏心軸受隙間(47)の下端へ向けて下降する潤滑油は、上記リング溝(42c)で回収された後、上記貫通穴(22e)及び偏心軸受背面通路(48)を通じて偏心軸側油溜め部(46')に再び溜められる。従って、その分、偏心軸受隙間(47)に潤滑油を流すことができる。しかも、駆動軸(40)と偏心軸受メタル(22d')との間で発生する摩擦熱が、偏心軸受背面通路(48)を流れる潤滑油によって冷却されるため、駆動軸(40)と偏心軸受メタル(22d')との焼付きを抑制できる。
【0083】
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0084】
上記実施形態では、スクロール圧縮機(10)において、主軸側油溜め部(26)及び偏心軸側油溜め部(46,46')の両方を設けたが、この限りでなく、いずれか一方のみを設けてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、主軸側油溜め部(26)は、主軸部(26)の外周面を囲む環状に形成されているが、この限りでなく、例えば主軸部(26)の外周面の一部のみに面するように形成されていてもよい。また、油溜め部の形状は、上記実施形態に限らず、軸受隙間の上方に、軸受隙間と連通する油貯留空間を形成できるような形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、主軸側油溜め部(26)は、偏心ピン(42)の下方に設けられているが、この限りでなく、該主軸側油溜め部(26)の全部又は一部が、主軸部(41)の上方に設けられていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、主軸油溜め部(26)には、6つの仕切部(29)が設けられているが、この限りでなく、1つでも設けられていればよい。更には、主軸油溜め部に仕切部が設けられていなくてもよい。仕切部が設けられていない分、潤滑油を貯留できる空間を確保することができる。
【0088】
また、上記実施形態では、軸受隙間(27,47)を潤滑した潤滑油をケーシング(11)の底部(11a)へ戻すための排油路(25)が、主軸側油溜め部(26)の上方に形成されているが、この限りでなく、主軸側油溜め部(26)の上端よりも下方に形成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明は、ケーシングの底部に溜められた潤滑油を汲み上げて軸受隙間に供給するポンプ部を有するスクロール圧縮機について特に有用である。
【符号の説明】
【0090】
10 スクロール圧縮機(回転式圧縮機)
11 ケーシング
11a 底部
20 圧縮機構
21 固定スクロール(固定部材)
22 可動スクロール(可動部材)
22c ボス部(筒部)
22d 偏心軸受メタル(軸受部、偏心軸受部)
25 排油路
26 主軸側油溜め部
27 主軸受隙間
28 主軸受背面通路(軸受背面通路)
29 仕切部
30 油供給機構
31 ポンプ部(油搬送部)
32 主軸受メタル(軸受部、主軸受部)
40 駆動軸
41 主軸部
41b リング溝
42 偏心ピン(偏心軸部)
43 給油路
44 主給油路
45a 主軸側給油路(分岐給油路)
45b 偏心軸側給油路(分岐給油路)
46,46’ 偏心軸側油溜め部
47 偏心軸受隙間
50 電動機
S1 主軸側油貯留空間(油貯留空間)
S2,S2’ 偏心軸側油貯留空間(油貯留空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式圧縮機であって、
ケーシング(11)と、
上記ケーシング(11)内に収容される電動機(50)と、
上記電動機(50)から略鉛直方向に延びる駆動軸(40)と、
上記駆動軸(40)に駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、
上記駆動軸(40)を支持する少なくとも1つの軸受部(22d,32)と、
上記ケーシング(11)の底部(11a)に溜まった潤滑油を、上記軸受部(22d,32)と駆動軸(40)との間の軸受隙間(27,47)に汲み上げる油供給機構(30)と、
上記軸受隙間(27,47)の上方に、該軸受隙間(27,47)と連通する油貯留空間(S1,S2,S2')を形成する油溜め部(26,46,46')と、を備える回転式圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転式圧縮機において、
上記駆動軸(40)は、主軸部(41)と、該主軸部(41)の軸心と偏心して該主軸部(41)の上端に形成された偏心軸部(42)と、を含み、
上記すくなくとも1つの軸受部は、上記主軸部(41)を回転自在に支持する主軸受部(32)を含み、
上記主軸受部(32)と上記主軸部(41)との間に形成された上記軸受隙間としての主軸受隙間(27)の上方には、該主軸受隙間(27)に連通する上記油溜め部としての主軸側油溜め部(26)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転式圧縮機において、
上記主軸部(41)は、上記主軸受部(32)の上端面よりも上方へ突出し、
上記主軸側油溜め部(26)は、上記主軸受部(32)の突出した部分の外周面を囲む環状に形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転式圧縮機において、
上記主軸側油溜め部(26)は、上記偏心軸部(42)の下方に形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の回転式圧縮機において、
上記主軸側油溜め部(26)には、上記油貯留空間(S1)を周方向において複数の空間に仕切る仕切部(29)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項6】
請求項2から5のうちいずれか1つに記載の回転式圧縮機において、
上記主軸側油溜め部(26)の上方には、該主軸側油溜め部(26)と連通し上記ケーシング(11)の内壁へ向かって延びる排油路(25)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項7】
請求項1に記載の回転式圧縮機において、
上記駆動軸(40)は、主軸部(41)と、該主軸部(41)の軸心と偏心して該主軸部(41)の上端に形成された偏心軸部(42)と、を含み、
上記圧縮機構(20)は、上記ケーシング(11)に固定される固定部材(21)と、上記偏心軸部(42)が挿通される筒部(22c)を有し上記駆動軸(40)の駆動により上記固定部材(21)に対して偏心回転される可動部材(22)と、を含み、
上記少なくとも1つの軸受部は、上記偏心軸部(42)と上記筒部(22c)との間に挿通固定される偏心軸受部(22d)を含み、
上記偏心軸部(42)と上記偏心軸受部(22d)との間に形成された上記軸受隙間としての偏心軸受隙間(47)の上方には、該偏心軸受隙間(47)に連通する上記油溜め部としての偏心軸側油溜め部(46,46')が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載の回転式圧縮機において、
上記油供給機構(30)は、
上記駆動軸(40)の下端に設けられる油搬送部(31)と、
上記油搬送部(31)から上記偏心軸部(42)の上端まで延びる主給油路(44)と、該主給油路(44)から分岐して上記軸受隙間(47)へ延びる分岐給油路(45a,45b)とを有する給油路(43)と、を含み、
上記偏心軸側油溜め部(46')は、上記偏心軸部(42)の上端に形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項9】
請求項1から8のうちいずれか1つに記載の回転式圧縮機において、
上記駆動軸(40)の外周面のうち上記軸受隙間(27,47)と面する部分には、周方向に延びる円環状のリング溝(41b,42c)が形成され、
上記軸受部(22d,32)の背面側には、上記リング溝(41b,42c)と上記油貯留空間(S1,S2,S2')とを連通する軸受背面通路(28,48)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−97576(P2012−97576A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243304(P2010−243304)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】