説明

回転軸装置

【課題】バランス調整が短時間で簡単に行え、バランス調整に係る作業性に優れる回転軸装置を提供する。
【解決手段】主軸装置1は、主軸3に、後端面から主軸3の軸線と平行に延び、開口側の内周に雌ネジ部12を有する穴11を、軸線と同心円上で周方向に等間隔をおいて複数箇所設けると共に、穴11に、雌ネジ部12に螺合可能で雌ネジ部12よりも軸方向長さが短い雄ネジ部を端部に形成した棒状の錘部材をそれぞれ差し込んで、雌ネジ部12に対する雄ネジ部のねじ込み深さを錘部材ごとに設定することで、錘部材を軸方向に移動させて主軸3のバランスを調整可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸が回転する際のバランス修正を可能とした回転軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工作機械では、回転軸としての主軸に工具またはワークの一方を取り付け、工具またはワークの他方と相対移動させながら接触させて加工を行う。近年の加工の高速化・高能率化の要求に伴い、主軸の回転速度は高速化しつつあるが、反面主軸のアンバランスによって回転時に発生する振動が大きくなり、これが加工精度の悪化、軸受の損傷などに繋がるとして問題視されるようになってきている。
このような事情の下、主軸のアンバランスを除去するため、例えば特許文献1には、主軸の前端面にねじ穴を形成し、このねじ穴に、長さによって必要重量が設定される質量部とねじ穴に螺合されるねじ部とからなる錘を螺合させてバランス調整を行う構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−174370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の発明においては、質量部の長さによって重量が決定されるため、質量部の長さが異なる複数の錘を複数用意する必要がある上、必要重量が異なる場合はねじ穴から錘を抜き取って別の錘を螺合させなければならず、バランス調整に時間と手間がかかるものとなっていた。
【0005】
そこで、本発明は、このような錘を用いるものであっても、バランス調整が短時間で簡単に行え、バランス調整に係る作業性に優れる回転軸装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、回転駆動する回転軸を軸支する回転軸装置であって、
前記回転軸に、少なくとも一方の端面から前記回転軸の軸線と平行に延び、開口側の内周に雌ネジ部を有する穴を、前記軸線と同心円上で周方向に等間隔をおいて複数箇所設けると共に、前記穴に、前記雌ネジ部に螺合可能な雄ネジ部を端部に形成した棒状の錘部材をそれぞれ差し込んで、前記雌ネジ部に対する前記雄ネジ部のねじ込み深さを前記錘部材ごとに設定することで、前記錘部材を軸方向に移動させて前記回転軸のバランスを調整可能としたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記穴の終端を、前記回転軸の軸方向に所定間隔をおいて配置されて前記回転軸を軸支する複数の軸受の間に位置させたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記雌ネジ部にネジ部材をさらに螺合させ、前記ネジ部材を前記錘部材に当接させて前記錘部材を固定したことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、前記ネジ部材の長さを、前記錘部材のねじ込み深さに合わせて変更したことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4の構成において、前記雌ネジ部を、前記錘部材の雄ネジ部が螺合する奥側部分と、前記ネジ部材が螺合する開口側部分とに分割して、前記奥側部分と開口側部分とでネジのリードを異ならせたことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、請求項3乃至5の何れかの構成において、前記雌ネジ部を、前記錘部材の雄ネジ部が螺合する奥側部分と、前記ネジ部材が螺合する開口側部分とに分割して、前記開口側部分を前記奥側部分に対する偏心位置に形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、任意の錘部材を前後へネジ送り操作するだけでバランス調整が可能となる。よって、バランス調整が短時間で簡単に行え、バランス調整に係る作業性に優れる。また、回転軸の端面からの作業で済むので、回転軸のアンバランスを片側の端面からしか修正できない構造において有効となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、軸受間のアンバランスを効率的に修正可能となり、高速回転時のアンバランス振動及び回転振れを効率よく低減可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、ネジ部材の採用により、設定したねじ込み深さから錘部材が偶発的に移動するおそれがなくなり、バランス調整に係る信頼性が高まる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加えて、ネジ部材の長さ変更により、回転軸の端面側でのバランスを変化させることなく奥側でのバランス調整が可能となる。
請求項5及び6に記載の発明によれば、上記効果に加えて、錘部材をネジ部材で固定する際にねじ込まれたネジ部材が錘部材に当接しても錘部材が連れ回りするおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】主軸装置の説明図で、(A)が上半分の縦断面、(B)が主軸の後端面をそれぞれ示す。
【図2】(A)が錘部材の説明図、(B)がネジ部材の説明図である。
【図3】(A)(B)は錘部材の差し込み状態を示す説明図である。
【図4】(A)(B)はネジのリードを変えた変更例を示す説明図である。
【図5】雌ネジ部の開口側部分を偏心させた変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に回転軸装置の一例を示す。これは、マシニングセンタなどのように工具を回転させて加工を行う工作機械の主軸装置であって、(A)が上半分の縦断面、(B)が主軸の後端面をそれぞれ示す。この主軸装置1において、円筒状のハウジング2内には、主軸3が複数の軸受4,4・・を介して回転可能に支持されている。この主軸装置1はいわゆるビルトインモータ構造となっており、主軸3の外周にはモータ5を構成するロータ6が、ロータ6の外側でハウジング2の内周にはステータ7がそれぞれ組み付けられて、主軸3はモータ5の出力軸として回転駆動する構成となっている。
【0010】
また、主軸3の前端(図1(A)の左側を前方とする。)には、工具ホルダ8が取り付け可能となっている。この工具ホルダ8は、主軸3の軸心で進退動可能なドローバ9が皿ばね10,10・・によって後方へ引き込まれることで、ドローバ9の前端に設けられた図示しない保持機構を介して保持される。
【0011】
一方、主軸3には、後端面から前方へ向けて形成され、終端が軸受4,4間でロータ6の内側まで達する穴11が、主軸3の軸心と同心円上で周方向に等間隔をおいて6箇所設けられている。各穴11の入口側の内周には雌ネジ部12が形成されている。
各穴11には、図2に示すような錘部材13とネジ部材16とがそれぞれ差し込み可能となっている。まず錘部材13は、後端外周に雄ネジ部14を有する軸体で、後端面には六角穴15が形成されている。この雄ネジ部14は、穴11の雌ネジ部12の軸方向長さの半分よりもやや短い寸法で形成されている。
【0012】
次に、ネジ部材16は、軸方向全長に亘って雄ネジ部17が形成される軸体で、後端面には六角穴18が形成されている。このネジ部材16も、穴11の雌ネジ部12の軸方向長さの半分よりもやや短い寸法で形成されている。
よって、錘部材13は、雄ネジ部14のない前端から穴11に差し込んで雄ネジ部14を雌ネジ部12に螺合させ、六角穴15を利用して六角棒レンチ等でねじ込み操作することで、穴11内で軸方向へ移動させることができる。こうして錘部材13を穴11内にねじ込んだ状態で、今度は雌ネジ部12にネジ部材16を螺合させ、六角穴18を利用して六角棒レンチ等でねじ込み操作すれば、図3(A)に示すようにネジ部材16が錘部材13に当接して錘部材13を固定することができる。
【0013】
以上の如く構成された主軸装置1においては、全ての穴11に錘部材13及びネジ部材16を収容した状態で使用する。そして、後側の軸受4,4間にアンバランスがある場合、適当な位相の穴11において、まずネジ部材16を外し、露出した錘部材13をアンバランス量に応じて回転操作して軸方向に前後移動させる。この前後移動によって生じる空間に相当する重量を修正すべきアンバランス量と一致させることができる。修正後再びネジ部材16をねじ込んで錘部材13を固定すればバランス調整は終了する。
このとき、図3(B)に示すように、ネジ部材16は、錘部材13の前後移動によって変更した穴11の入口側の深さに合わせたものを用いることで、主軸1の後端でのアンバランス量は変化しないようにしてもよい。逆にネジ部材16の長さを変更することで、主軸1の後端でのバランス修正を図ることも可能である。
【0014】
このように、上記形態の主軸装置1によれば、主軸3に、後端面から主軸3の軸線と平行に延び、開口側の内周に雌ネジ部12を有する穴11を、軸線と同心円上で周方向に等間隔をおいて複数箇所設けると共に、穴11に、雌ネジ部12に螺合可能で雌ネジ部12よりも軸方向長さが短い雄ネジ部14を端部に形成した棒状の錘部材13をそれぞれ差し込んで、雌ネジ部12に対する雄ネジ部14のねじ込み深さを錘部材13ごとに設定することで、錘部材13を軸方向に移動させて主軸3のバランスを調整可能としたことで、任意の錘部材13を前後へネジ送り操作するだけでバランス調整が可能となる。よって、バランス調整が短時間で簡単に行え、バランス調整に係る作業性に優れる。また、主軸1の端面からの作業で済むので、主軸1のアンバランスを片側の端面からしか修正できない構造において有効となる。
【0015】
特にここでは、穴11の終端を、主軸3を軸支する複数の軸受4,4の間に位置させているので、軸受4,4間のアンバランスを効率的に修正可能となり、高速回転時のアンバランス振動及び回転振れを効率よく低減可能となる。
また、雌ネジ部12にネジ部材16をさらに螺合させ、ネジ部材16を錘部材13に当接させて錘部材13を固定しているので、設定したねじ込み深さから錘部材13が偶発的に移動するおそれがなくなり、バランス調整に係る信頼性が高まる。
【0016】
なお、上記形態では、錘部材とネジ部材とが同じ雌ネジ部に螺合される構造となっているが、ネジ部材をねじ込み操作すると、錘部材に当接した際に錘部材を回転(連れ回り)させてしまい、調整したバランスが崩れるおそれがある。
この解決策として、図4(A)に示す構造が考えられる。これは、主軸3の後端面に、穴11よりも大径の有底孔19を形成して有底孔19の底部から穴11を形成すると共に、穴11と同軸且つ同径で、雌ネジ部12よりリードが大きい雌ネジ部21を形成した別体のリング状部材20を組み付けて、雌ネジ部21に、同じリードの雄ネジ部17aを有するネジ部材16aを螺合させてなる。つまり、雌ネジ部を、奥側部分の雌ネジ部12と、開口側部分の雌ネジ部21とに分割して、奥側部分と開口側部分とでネジのリードを異ならせたものである。
【0017】
このように、雌ネジ部12,21とに分割して互いのネジのリードを異ならせたことで、錘部材13をネジ部材16aで固定する際にねじ込まれたネジ部材16aが錘部材13に当接しても錘部材13が連れ回りするおそれがなくなる。なお、この場合も図4(B)に示すように錘部材13のねじ込み位置に合わせてネジ部材16aの長さを変更してもよいし、リードの大小関係は逆にしてもよい。
また、他の解決策として、図5に示すように、リング状部材20に設ける雌ネジ部21を穴11から所定距離Sだけ偏心した位置に設けることも考えられる。この場合も錘部材13の連れ回りを防止することができる。なお、錘部材13とネジ部材16とのネジのリードは同じでもよいし異なっていてもよい。
さらに、図4,5に示すようにネジ部材16aを螺合させる雌ネジ部21を有するリング状部材20を備えた構成にあっては、六角穴15への工具の挿入を容易とするために、錘部材13の雄ネジ部14を主軸3の雌ネジ部12より長くして有底孔19内に突出するようにしてもよい。
【0018】
その他、穴の位置や数は上記形態に限らず、適宜増減してもよく、これに合わせて錘部材及びネジ部材の数も増減すればよい。また、穴の終端も可能であればさらに伸ばしたりしてもよい。さらにはネジ部材を省略して錘部材のみでバランス調整を図ることも可能である。
また、上記形態では主軸の後端面からのみ穴を形成して錘部材の差し込みを可能としているが、前端面にも穴を形成して錘部材を差し込み可能としてもよい。この場合、穴は前後で同じ位相にして一つの貫通穴とすることもできる。
【符号の説明】
【0019】
1・・主軸装置、2・・ハウジング、3・・主軸、4・・軸受、5・・モータ、6・・ロータ、7・・ステータ、9・・ドローバ、11・・穴、12,21・・雌ネジ部、13・・錘部材、14・・雄ネジ部、16,16a・・ネジ部材、17,17a・・雄ネジ部、19・・有底孔、20・・リング状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動する回転軸を軸支する回転軸装置であって、
前記回転軸に、少なくとも一方の端面から前記回転軸の軸線と平行に延び、開口側の内周に雌ネジ部を有する穴を、前記軸線と同心円上で周方向に等間隔をおいて複数箇所設けると共に、前記穴に、前記雌ネジ部に螺合可能な雄ネジ部を端部に形成した棒状の錘部材をそれぞれ差し込んで、前記雌ネジ部に対する前記雄ネジ部のねじ込み深さを前記錘部材ごとに設定することで、前記錘部材を軸方向に移動させて前記回転軸のバランスを調整可能としたことを特徴とする回転軸装置。
【請求項2】
前記穴の終端を、前記回転軸の軸方向に所定間隔をおいて配置されて前記回転軸を軸支する複数の軸受の間に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置。
【請求項3】
前記雌ネジ部にネジ部材をさらに螺合させ、前記ネジ部材を前記錘部材に当接させて前記錘部材を固定したことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転軸装置。
【請求項4】
前記ネジ部材の長さを、前記錘部材のねじ込み深さに合わせて変更したことを特徴とする請求項3に記載の回転軸装置。
【請求項5】
前記雌ネジ部を、前記錘部材の雄ネジ部が螺合する奥側部分と、前記ネジ部材が螺合する開口側部分とに分割して、前記奥側部分と開口側部分とでネジのリードを異ならせたことを特徴とする請求項3又は4に記載の回転軸装置。
【請求項6】
前記雌ネジ部を、前記錘部材の雄ネジ部が螺合する奥側部分と、前記ネジ部材が螺合する開口側部分とに分割して、前記開口側部分を前記奥側部分に対する偏心位置に形成したことを特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載の回転軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−176455(P2012−176455A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40548(P2011−40548)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)