図柄多重化装置、図柄多重化方法、プログラムおよび異方性反射媒体
【課題】異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化され、視覚効果が高い異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置等を提供する。
【解決手段】セルグループ形成手段23は、図柄ごとにセルグループを形成する。法線情報記録手段25は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。法線情報変換手段27は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。条溝角度範囲割当手段29は、図柄ごとに条溝角度範囲を割り当てる。版下データ作成手段31は、条溝角度範囲に基づいて、変換法線情報のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定し、決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。
【解決手段】セルグループ形成手段23は、図柄ごとにセルグループを形成する。法線情報記録手段25は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。法線情報変換手段27は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。条溝角度範囲割当手段29は、図柄ごとに条溝角度範囲を割り当てる。版下データ作成手段31は、条溝角度範囲に基づいて、変換法線情報のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定し、決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、異なる条溝角度範囲を有する複数の図柄を割り当て多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置、図柄多重化方法、プログラムおよび当該異方性反射媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の印刷物は、4色のインキを用いてカラーの印刷像を形成する。そして、被写体を撮影した画像を印刷する場合、被写体の立体感を効果的に再現するため、撮影時にライティングや被写体の向きを考慮し、画像に含まれる陰影やハイライトが適切な状態になるように細心の注意を払う。これは、平面に印刷された画像を観察する場合、人間の視覚が、画像に含まれる陰影やハイライトから被写体の立体感を認識するようになっているからである。しかしながら、ある部分の立体感を効果的に再現するためのライティングは別の部分の立体感を犠牲にするものであり、通常の印刷物では、ライティングと観察方向が固定された状況下の被写体の立体感しか再現することができない。
【0003】
一方、紙、プラスチック、金属といった媒体上に、異方性反射現象を起こす異方性反射特性を有する画像を実体化し、画像を表現するという方法がある。
尚、異方性反射現象とは、媒体の平滑な表面に対し、向きの揃った細かい傷をつけると、媒体の表面に対して入射した光が正反射方向ではない方向に強く反射する現象をいう。以下、異方性反射現象を起こす性質を異方性反射特性ということとする。また、異方性反射現象が生じる表面を持つ媒体を異方性反射媒体ということとする。
【0004】
異方性反射媒体の一種であるホログラムのような回折格子記録媒体を用いて画像を表現する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
特許文献1に記載されている方法では、回折格子が形成された画素を平面的に配置することにより、ホログラムパターンを記録している。このような画素を並べる方法を採ることにより、コンピュータによって任意のモチーフ画像を作成することができる。また、各画素内に形成する回折格子の画像パターンも、コンピュータによって作成することができ、最終的なホログラムパターン作成までの作業をすべてコンピュータによって処理することができる。
【0006】
特許文献2に記載されている方法では、回折格子が形成された画素を平面的に配置することにより、多数の画素から構成されるカラー画像を記録している。記録媒体上には、もとのカラー画像の個々の画素に対応して多数の画素領域が定義される。この各画素領域内には、所定の回折格子が形成された画素パターンが割り付けられる。カラー画像を構成する各画素は、各色成分ごとに画素値をもっていて、各画素のもつ色成分は、回折格子のピッチにより表現されている。
【0007】
特許文献3に記載されている方法では、記録すべき画像を構成する画素配列に対応させて複数の画素領域を配列してなる割付プレーンが定義している。一方、この画素領域もしくはこの画素領域に内包される所定の格子占有領域内に、所定ピッチおよび所定角度で格子線を配置することにより回折格子を形成してなる画素パターンが複数種類用意し、この割付プレーン内の各画素領域に用意した画素パターンのいずれかを割り付けることにより、1枚の回折格子記録媒体を形成している。
【0008】
また、異方性反射現象を起こす異方性反射特性を有する画像を実体化し、画像の立体感を表現する方法が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5)。これらの方法は、異方性反射現象を利用して三次元形状の反射の変化を表現し、画像の立体感を表現する。
【0009】
特許文献4に記載されている方法では、画面全体を微細なセルに分割し、各セルに対応する位置での三次元形状の法線方向に基づいて、各セルにおける万線の向きを決定している。そして、この万線を媒体に形成することで、媒体を観察するときに三次元的な反射像が得られる。尚、特許文献4では、異方性反射が滑らかに変化するように観察されるための工夫を行っている。
【0010】
特許文献5に記載されている方法では、三次元形状の法線方向に基づいて、各位置における回折条溝の条溝角度を決定している。そして、この回折条溝を媒体に形成することで、同様の立体感が表現された回折条溝媒体が得られる。尚、特許文献5では、担当する色成分に応じた条溝ピッチの制御、または担当する色成分の濃度値に応じた条溝面積の制御を行い、三次元形状の色彩を表現する方法も記載されている。
【特許文献1】特開平06−337622号公報
【特許文献2】特開平08−021909号公報
【特許文献3】特開平08−075912号公報
【特許文献4】特開2007−240838号公報
【特許文献5】特願2006−224965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されている方法では、回折格子記録媒体上に形成されるパターンが光学的な干渉縞パターンではなく、単なる回折パターンであるため、二次元平面上の原画像を回折格子記録媒体上に表現することしかできず、原理的に三次元立体像を表現することはできない。
【0012】
特許文献4、特許文献5に記載されている方法では、演出意図に基づいて決定された特定の撮影条件(ライティングを除く)において、特定方向に照明方向が変化したときの三次元形状の反射の様相を媒体上に再現することができる。しかしながら、特許文献4、特許文献5に記載されている方法では、ある三次元形状に対して、ライティングを除く撮影条件が単一、かつ照明方向に係る光源が単一の場合の照明方向の変化しか表現することができない。従って、視覚効果としては単調なものとなってしまい、意匠性が必ずしも高いとは言えない。
【0013】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化され、視覚効果が高い異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために第1の発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置であって、前記図柄ごとにセルグループを形成するセルグループ形成手段と、前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する法線情報記録手段と、前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする法線情報変換手段と、前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てる条溝角度範囲割当手段と、前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する版下データ作成手段と、を具備することを特徴とする図柄多重化装置である。第1の発明に係る図柄多重化装置の使用をすることによって、異なる条溝角度範囲を有する複数の図柄を割り当て多重化される異方性反射媒体の作製に用いる版下データを作成できる。
【0015】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体に対する視線方向を変えていくと、ある視線方向を境にいままで観察していた図柄と異なる図柄を観察することができる。
【0016】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体上で図柄が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に異なる図柄が同時に観察できるようになり、更に視線方向を変えていくと最初に見えていた図柄は観察できなくなる。
【0017】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体で図柄が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に異なる図柄が同時に観察できるようになり、更に視線方向を変えていくと、最初の図柄だけが観察できる。
このように、複数の図柄を多重化することで、特殊な視覚効果のある異方性反射媒体を作製することができる。
【0018】
第2の発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化方法であって、前記図柄ごとにセルグループを形成するステップと、前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録するステップと、前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とするステップと、前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てるステップと、前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成するステップと、を含むことを特徴とする図柄多重化方法である。
【0019】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0020】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0021】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0022】
第3の発明は、コンピュータを第1の発明の図柄多重化装置として機能させるプログラムである。この第3の発明に係るプログラムをコンピュータにインストールすることによって、第1の発明に係る図柄多重化装置を得ることができる。
【0023】
第4の発明は、第2の発明の図柄多重化方法によって作成された版下データに基づいて、前記セル集合が形成され、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体である。この異方性反射媒体は、特殊な視覚効果があるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化され、視覚効果が高い異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置等を提供することができる。そして、図柄多重化装置等を用いて作製された異方性反射媒体は、視線方向の変化に従い図柄が変化する意匠性の極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態に係る図柄多重化装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図1のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
図柄多重化装置1は、制御部3、記憶部5、メディア入出力部7、通信制御部9、入力部11、表示部13、周辺機器I/F部15等が、バス17を介して接続される。
【0027】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0028】
CPUは、記憶部5、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各装置を駆動制御し、図柄多重化装置1が行う後述する処理(図11等参照)を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部5、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部3が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0029】
記憶部5は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部3により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0030】
メディア入出力部7(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0031】
通信制御部9は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0032】
入力部11は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部11を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0033】
表示部13は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0034】
周辺機器I/F(インタフェース)部15は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部15を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部15は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0035】
バス17は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0036】
次に、図2を参照しながら、後述の説明にて用いる用語の意味を説明する。
図2は、異方性反射特性を有するセルの一例を示す図である。
【0037】
異方性反射媒体は、例えば、微細な格子状のセル41の集合により形成される。図4に示すように、セル41は、例えば、43をセル41の一辺の長さとする正方形をなす。尚、セル41の形状は、正方形に限定をするものではないが、正方形であれば特に問題が生じることはない。
【0038】
セル41内には、黒色で示された複数の条溝45が形成される。条溝45は、同一のセル41内においては、条溝角度47に従い、互いに平行である。また、49を条溝45の線幅、51を条溝45同士の間隔とすると、49と51とを足した長さが条溝ピッチ53となる。尚、最終的に作製された異方性反射媒体において、黒色で示した部分、すなわち条溝45は筋条に延びる凹溝を意味し、白色で示した部分、すなわち条溝45以外を凸状に形成する。
【0039】
次に、図3から図10を参照しながら、図柄多重化装置1の機能を実現する構成について説明する。
図3は、図柄多重化装置1の機能の概要を示すブロック図である。図4は、セルグループの形成例を示す図である。図5は、投影面S1上の法線ベクトルN1を示す図である。図6は、法線ベクトルN1の法線投影面S2への投影を示す図、図7は、2つの図柄の条溝角度範囲のスケール変換の一例を示す図、図8は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第1の例を示す図、図9は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第2の例を示す図、図10は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第3の例を示す図である。
【0040】
図3に示すように、図柄多重化装置1は、三次元形状設計手段21、セルグループ形成手段23、法線情報記録手段25、法線情報変換手段27、条溝角度範囲割当手段29、版下データ作成手段31等を備える。
【0041】
三次元形状設計手段21は、異方性反射媒体の表面上に再現する所望の図柄に係る三次元形状を設計する。三次元形状設計手段21は、一般に市販されているCG(Computer Graphic)ソフトウェアが有するモデリング機能に相当する。尚、多重化する複数の図柄が異なる三次元形状を有するものとする場合、それぞれの図柄に対して三次元形状の設計を行う。
【0042】
セルグループ形成手段23は、図柄ごとにセルグループを形成する。ここで、セルグループとは、特定の図柄の再現を担当するセルの集合である。
【0043】
図4は、セルグループの形成例として、3通り示している。セルグループの形成は、複数の図柄に係るセルが異方性反射媒体上で均等に分布するように行うことが望ましい。これによって、複数の図柄に係る三次元形状を、異方性媒体上に概ね同じ程度の明るさで再現することができる。2つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(1)に示すように、縦または横に隣接するセル同士が、異なるセルグループに属するように形成する。また、3つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(2)に示すように、任意に抽出した3×3のセル群(黒の太線で図示)において、異なるセルグループに係るセルが3つずつ含まれるように形成する。また、4つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(3)に示すように、任意に抽出した2×2のセル群(黒の太線で図示)において、異なるセルグループに係るセルが1つずつ含まれるように形成する。
尚、必ずしも複数の図柄に係るセルが異方性反射媒体上で均等に分布させる必要はなく、演出意図等により各図柄に係るセルの割合を調整しても良い。この場合、各図柄はそれぞれの図柄に係るセル数の割合に応じた明るさで再現されることとなる。また、この場合でも、単一のセルグループに属するセルの分布は偏りなく、空間的に均一に配置することが好ましい。
【0044】
法線情報記録手段25は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。一般に、CG製作過程では、モデリングによって作成されたデータから、ライティングやカメラの条件等を加味して最終的な画像を作成するレンダリングが行われる。従来のレンダリングでは、各画素におけるRGB色成分の輝度値を算出するが、法線情報記録手段25は、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を算出し、これらを法線情報として記録する。
【0045】
尚、多重化する複数の図柄が異なる三次元形状を有するものとする場合、図柄多重化装置1は、法線情報記録手段25によって、それぞれの図柄に対して法線情報の記録を行う。
【0046】
法線情報変換手段27は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。そして、変換法線情報は、後述する条溝角度範囲割当手段29によって、スケール変換された後、後述する版下データ作成手段31によって、条溝角度を決定する際に用いられる。これは、異方性反射媒体の表面上に三次元形状に対する照明光の反射の様相を表現するためには、法線情報を何らかの方法で条溝角度に継承させることが必要だからである。
【0047】
尚、図柄多重化装置1は、法線情報変換手段27によって、多重化する複数の図柄ごとに、法線情報の変換を行う。すなわち、多重化する複数の図柄が同一の三次元形状を有する場合であっても、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面を用いて、法線情報の変換を行う。但し、特定の方位角とは、図柄ごとに必ず異なる値ではなく、同一の値も含むものとする。
【0048】
図5に示すように、法線ベクトルN1は、投影面S1上の点Pを始点とし、投影面S1に定義した座標系に対する方位角φと仰角kとで表現される。一方、条溝角度にて示される方向を持つベクトル(以下、「条溝方向ベクトル」と呼ぶ。)は、異方性反射媒体の表面上に定義される方位角のみで表現されることから、法線ベクトルN1に係る情報を全て継承することはできない。従って、法線情報変換手段27は、法線ベクトルN1を所定の方位角(後述する図6のα)に投影して次元を減ずることにより、法線ベクトルN1に係る情報を、条溝方向ベクトルに継承させる。
【0049】
図6に示すように、法線投影面S2は、投影面S1に対して垂直であり、方位角α方向に設けられた新たな投影面である。法線情報変換手段27は、法線ベクトルN1を法線投影面S2に投影する。投影されたベクトルが、変換法線ベクトルN2である。そして、法線情報変換手段27は、変換法線ベクトルN2の仰角tを算出する。仰角tの値は、後述する版下データ作成手段31によって、条溝角度に継承される。尚、仰角tは、図6に示すように、S2内でPを通過し、S1に垂直な線を基準(t=0度)とし、基準線と変換法線ベクトルN2とのなす角度によって定義する。
ここで、三次元形状の隠面は投影されないから、法線ベクトルN1の向きは、必ず点Pから見て投影面S1の表の方向になる。従って、仰角tは180度(−90度≦t≦90度)の範囲を取り得るが、立体形状に含まれる最も形状の異なる部分が最も異なる角度を継承するために、90度(−45度≦θ≦45度)の範囲に線形変換を施して、図柄の条溝角度範囲とする。
【0050】
条溝角度範囲割当手段29は、セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てることにより、図柄を多重化する。割り当てる条溝角度範囲は、予め定められた値を記憶部5等に保持しておいても良いし、ユーザが入力部11から入力できるようにしても良い。
【0051】
図7の(1)、(2)は、図柄1,2について法線情報変換手段27によって処理された条溝角度範囲を示しており、−45度≦θ≦45度である。図7の(3)に示すように、例えば図柄1に係るセルグループの条溝角度範囲±45度は±θ1度、図7の(4)に示すように、図柄2に係るセルグループの条溝角度範囲±45度は±θ2度の条溝角度範囲にスケール変換されることになる。ここで、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲を±θK度(通常は±90度)とすると、θ1、θ2は、θK≧θ1、θK≧θ2となるようにする。作製された異方性反射媒体を観察すると、視線方向の変化に従い、観察できる図柄が変化するが、条溝角度範囲が広いほどその図柄が見える範囲が広くなり、図柄の変化も緩やかとなる。
【0052】
図8から10に示すように、セルグループ(図柄)ごとの条溝角度範囲の中心θt1度、θt2度は、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲±θK度の範囲内とする。
【0053】
図8は、二つの図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に、図柄1は観察できなくなり、図柄2が観察できるようになる。例えば、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲が±90度とすると、図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲を±30度にスケール変換し、図柄1に対応する条溝角度範囲を−75度〜−15度、図柄2を+15度〜+75度とする。
【0054】
図9は、二つの図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に図柄1、図柄2が同時に観察できるようになり、さらに視線方向を変えていくと図柄2のみが観察できるようになる。
【0055】
図10は、図柄2の条溝角度範囲が図柄1の条溝角度範囲に含まれるように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に図柄1、図柄2が同時に観察できるようになり、さらに視線方向を変えていくと図柄2が観察できなくなり図柄1のみが観察できる。このように、本実施の形態によって2つの図柄を多重化することで、特殊な視覚効果のある異方性反射媒体を作製することができる。
【0056】
版下データ作成手段31は、条溝角度範囲に基づいて、仰角tの値のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定する。スケール変換は、例えば、線形変換である。線形変換の場合、異方性反射媒体上へ割り当てる図柄i(i=1〜n)のセルごとの条溝方向fi(t)は、fi(t)=ai×t+θti(−1≦ai≦1、ai≠0)となる。ここで、ai、及びθtiの値は、条溝角度範囲割当手段29によって割り当てられたセルグループ(図柄)ごとの条溝角度範囲によって一意的に決まるものである。また、スケール変換は線形変換に限らず、例えば、単純増加関数、単純減少関数を用いた非線形変換でもよい。
【0057】
また、版下データ作成手段31は、セルごとに決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。また、版下データ作成手段31は、必要があれば、更に、セルグループ(図柄)ごとに条溝ピッチを決定する。例えば、セルグループ(図柄)ごとに異なる条溝ピッチを割り当てる場合、複数の図柄に係る三次元形状に照射した光の色が異なるものとして再現することができる。
版下データ作成手段31は、図11の説明にて後述するように、セルグループ形成手段23、法線情報記録手段25、法線情報変換手段27、条溝角度範囲割当手段29等で決定された情報に基づいて、版下データの作成を行う。
【0058】
次に、図11を参照しながら、図柄多重化装置1の動作の詳細について説明する。
図11は、図柄多重化装置1が行う版下データ作成処理の流れを示すフローチャートである。
【0059】
図11に示すように、入力部11および表示部13等を介したユーザとの対話的処理を行い、三次元形状設計手段21によって三次元形状の設計が行われた後(S101)、制御部3は、セルグループ形成手段23によってセルグループの形成を行う(S102)。
【0060】
次に、制御部3は、セルグループを選択し(S103)、選択したセルグループが担当する図柄に係る三次元形状を投影面に投影する(S104)。
【0061】
次に、制御部3は、法線情報記録手段25によって、S104で投影された三次元形状の各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する(S105)。そして、制御部3は、法線投影面の方位角を決定し(S106)、法線情報変換手段27によって、法線情報に係るベクトルを、特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする(S107)。
S106に係る法線投影面の方位角は、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。
【0062】
次に、制御部3は、セルグループごとの条溝角度範囲を割り当てる(S108)。割り当てる条溝角度範囲は、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。
【0063】
次に、制御部3は、条溝ピッチを決定する(S109)。条溝ピッチは、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。また、条溝ピッチは、セルグループごとに同じ値を決定しても良いし、異なる値を決定しても良い。
【0064】
次に、制御部3は、S103で選択したセルグループに含まれるセルを選択する(S110)。セルの選択は、例えば、版下データに表現されるセルの集合にIDを付与しておき、IDの昇順に選択する。
【0065】
次に、制御部3は、S110で選択したセルの条溝角度を決定する(S111)。条溝角度は、当該セルに対応する画素に係るものであって、制御部3が、S108において割り当てた条溝角度範囲に基づいて、S107の変換法線情報をスケール変換することで決定する。
【0066】
次に、制御部3は、全てのセルについて処理が終了したかどうか確認する(S112)。
処理が終了していない場合、S110から繰り返す(S112のNo)。
処理が終了している場合、S113に進む(S112のYes)。
【0067】
次に、制御部3は、全てのセルグループについて処理が終了したかどうか確認する(S113)。
処理が終了していない場合、S103から繰り返す(S113のNo)。
処理が終了している場合、S114に進む(S113のYes)。
【0068】
次に、制御部3は、版下データを作成する(S114)。具体的には、制御部3は、S109において決定した条溝ピッチ、およびS111において決定した条溝角度等を基に、例えば、条溝を黒色、条溝以外の部分を白色で示した二値データを作成する。
以上のとおり、図柄多重化装置1は、異方性反射媒体の作製に用いる版下データを作成する。
【0069】
次に、図12を参照しながら、異方性反射媒体の作製工程について説明する。
図12は、異方性反射媒体の作製工程を示す図である。
図12に示すように、異方性反射媒体の作製工程は、S201の版下データ作成工程、S202の原版作製工程、およびS203の媒体作製工程が含まれる。
【0070】
版下データ作成工程では、前述した図柄多重化装置1を用いて、版下データを作成する。詳細は前述したとおりである。
【0071】
尚、版下データ作成工程では、図柄ごとに、対応するセルに係る条溝ピッチを決定する。更に、版下データ作成工程では、決定した条溝ピッチを基に、条溝の線幅と条溝同士の間隔を決定する。ここで、後述する原版作製工程、媒体作製工程における凹凸の形成方法によっては、版下データで表現された通りに凹凸が形成されるとは限らない。例えば、形成された凹状の条溝の部分の幅が、版下データに表現された条溝の線幅よりも広くなってしまう、またはその逆に狭くなってしまうことがある。従って、版下データ作成工程では、原版作製工程、媒体作製工程における凹凸の形成方法を考慮し、最終的に作製された異方性反射媒体において、条溝の線幅と条溝同士の間隔が、例えば、互いに略同一の長さとなるように版下データを作成する。
【0072】
原版作製工程では、版下データ作成工程で作成された版下データを基に、媒体作製工程に合わせた原版を作製する。
版下データに表現された凹凸を原版に形成する方法としては、フォトリソグラフィによりフォトレジストを形成してエッチングを施したり、NC工作機械で切削するなどによりエンボス原版とすることができる。また、回折格子を対象とした場合、2光束干渉による方法、グレーティングプロット法、電子線描画装置を用いる方法等がある。これらの中では、セルの描画の精度が高く、ノイズが少ないことから、電子線描画装置を用いると良い。
【0073】
媒体作製工程では、原版作製工程で作製された原版を用いて、異方性反射媒体を作製する。
媒体作製工程では、原版に形成された凹凸をPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材に転写する装置、凹凸に反射層を蒸着する装置、粘着剤や接着剤を塗工する装置等を用いる。
【0074】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る図柄多重化装置1は、図柄ごとにセルグループを形成する。次に、図柄多重化装置1は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。次に、図柄多重化装置1は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。次に、図柄多重化装置1は、図柄ごとに条溝角度範囲を割り当てる。次に、図柄多重化装置1は、条溝角度範囲に基づいて、変換法線情報のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定し、決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。
【0075】
そして、作成された版下データを基に原版を作製する原版作成工程、および原版作製工程で作製された原版を用いて異方性反射媒体を作製する媒体作製工程を行うことによって、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体が作製される。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る図柄多重化装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図柄多重化装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図2】異方性反射特性を有するセルの一例を示す図
【図3】図柄多重化装置1の機能の概要を示すブロック図
【図4】セルグループの形成例を示す図
【図5】投影面S1上の法線ベクトルN1を示す図
【図6】法線ベクトルN1の法線投影面S2への投影を示す図
【図7】2つの図柄の条溝角度範囲のスケール変換の一例を示す図
【図8】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第1の例を示す図
【図9】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第2の例を示す図
【図10】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第3の例を示す図
【図11】図柄多重化装置1が行う版下データ作成処理の流れを示すフローチャート
【図12】異方性反射媒体の作製工程を示す図
【符号の説明】
【0078】
1………図柄多重化装置
3………制御部
5………記憶部
7………メディア入出力部
9………通信制御部
11………入力部
13………表示部
15………周辺機器I/F部
17………バス
19………ネットワーク
21………三次元形状設計手段
23………セルグループ形成手段
25………法線情報記録手段
27………法線情報変換手段
29………条溝角度範囲割当手段
31………版下データ作成手段
41………セル
43………セル41の一辺の長さ
45………条溝
47………条溝角度
49………条溝45の線幅
51………条溝45同士の間隔
53………条溝ピッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、異なる条溝角度範囲を有する複数の図柄を割り当て多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置、図柄多重化方法、プログラムおよび当該異方性反射媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の印刷物は、4色のインキを用いてカラーの印刷像を形成する。そして、被写体を撮影した画像を印刷する場合、被写体の立体感を効果的に再現するため、撮影時にライティングや被写体の向きを考慮し、画像に含まれる陰影やハイライトが適切な状態になるように細心の注意を払う。これは、平面に印刷された画像を観察する場合、人間の視覚が、画像に含まれる陰影やハイライトから被写体の立体感を認識するようになっているからである。しかしながら、ある部分の立体感を効果的に再現するためのライティングは別の部分の立体感を犠牲にするものであり、通常の印刷物では、ライティングと観察方向が固定された状況下の被写体の立体感しか再現することができない。
【0003】
一方、紙、プラスチック、金属といった媒体上に、異方性反射現象を起こす異方性反射特性を有する画像を実体化し、画像を表現するという方法がある。
尚、異方性反射現象とは、媒体の平滑な表面に対し、向きの揃った細かい傷をつけると、媒体の表面に対して入射した光が正反射方向ではない方向に強く反射する現象をいう。以下、異方性反射現象を起こす性質を異方性反射特性ということとする。また、異方性反射現象が生じる表面を持つ媒体を異方性反射媒体ということとする。
【0004】
異方性反射媒体の一種であるホログラムのような回折格子記録媒体を用いて画像を表現する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
特許文献1に記載されている方法では、回折格子が形成された画素を平面的に配置することにより、ホログラムパターンを記録している。このような画素を並べる方法を採ることにより、コンピュータによって任意のモチーフ画像を作成することができる。また、各画素内に形成する回折格子の画像パターンも、コンピュータによって作成することができ、最終的なホログラムパターン作成までの作業をすべてコンピュータによって処理することができる。
【0006】
特許文献2に記載されている方法では、回折格子が形成された画素を平面的に配置することにより、多数の画素から構成されるカラー画像を記録している。記録媒体上には、もとのカラー画像の個々の画素に対応して多数の画素領域が定義される。この各画素領域内には、所定の回折格子が形成された画素パターンが割り付けられる。カラー画像を構成する各画素は、各色成分ごとに画素値をもっていて、各画素のもつ色成分は、回折格子のピッチにより表現されている。
【0007】
特許文献3に記載されている方法では、記録すべき画像を構成する画素配列に対応させて複数の画素領域を配列してなる割付プレーンが定義している。一方、この画素領域もしくはこの画素領域に内包される所定の格子占有領域内に、所定ピッチおよび所定角度で格子線を配置することにより回折格子を形成してなる画素パターンが複数種類用意し、この割付プレーン内の各画素領域に用意した画素パターンのいずれかを割り付けることにより、1枚の回折格子記録媒体を形成している。
【0008】
また、異方性反射現象を起こす異方性反射特性を有する画像を実体化し、画像の立体感を表現する方法が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5)。これらの方法は、異方性反射現象を利用して三次元形状の反射の変化を表現し、画像の立体感を表現する。
【0009】
特許文献4に記載されている方法では、画面全体を微細なセルに分割し、各セルに対応する位置での三次元形状の法線方向に基づいて、各セルにおける万線の向きを決定している。そして、この万線を媒体に形成することで、媒体を観察するときに三次元的な反射像が得られる。尚、特許文献4では、異方性反射が滑らかに変化するように観察されるための工夫を行っている。
【0010】
特許文献5に記載されている方法では、三次元形状の法線方向に基づいて、各位置における回折条溝の条溝角度を決定している。そして、この回折条溝を媒体に形成することで、同様の立体感が表現された回折条溝媒体が得られる。尚、特許文献5では、担当する色成分に応じた条溝ピッチの制御、または担当する色成分の濃度値に応じた条溝面積の制御を行い、三次元形状の色彩を表現する方法も記載されている。
【特許文献1】特開平06−337622号公報
【特許文献2】特開平08−021909号公報
【特許文献3】特開平08−075912号公報
【特許文献4】特開2007−240838号公報
【特許文献5】特願2006−224965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されている方法では、回折格子記録媒体上に形成されるパターンが光学的な干渉縞パターンではなく、単なる回折パターンであるため、二次元平面上の原画像を回折格子記録媒体上に表現することしかできず、原理的に三次元立体像を表現することはできない。
【0012】
特許文献4、特許文献5に記載されている方法では、演出意図に基づいて決定された特定の撮影条件(ライティングを除く)において、特定方向に照明方向が変化したときの三次元形状の反射の様相を媒体上に再現することができる。しかしながら、特許文献4、特許文献5に記載されている方法では、ある三次元形状に対して、ライティングを除く撮影条件が単一、かつ照明方向に係る光源が単一の場合の照明方向の変化しか表現することができない。従って、視覚効果としては単調なものとなってしまい、意匠性が必ずしも高いとは言えない。
【0013】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化され、視覚効果が高い異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために第1の発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置であって、前記図柄ごとにセルグループを形成するセルグループ形成手段と、前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する法線情報記録手段と、前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする法線情報変換手段と、前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てる条溝角度範囲割当手段と、前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する版下データ作成手段と、を具備することを特徴とする図柄多重化装置である。第1の発明に係る図柄多重化装置の使用をすることによって、異なる条溝角度範囲を有する複数の図柄を割り当て多重化される異方性反射媒体の作製に用いる版下データを作成できる。
【0015】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体に対する視線方向を変えていくと、ある視線方向を境にいままで観察していた図柄と異なる図柄を観察することができる。
【0016】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体上で図柄が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に異なる図柄が同時に観察できるようになり、更に視線方向を変えていくと最初に見えていた図柄は観察できなくなる。
【0017】
第1の発明における前記条溝角度範囲割当手段は、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当ててもよい。これによって、異方性反射媒体で図柄が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に異なる図柄が同時に観察できるようになり、更に視線方向を変えていくと、最初の図柄だけが観察できる。
このように、複数の図柄を多重化することで、特殊な視覚効果のある異方性反射媒体を作製することができる。
【0018】
第2の発明は、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化方法であって、前記図柄ごとにセルグループを形成するステップと、前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録するステップと、前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とするステップと、前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てるステップと、前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成するステップと、を含むことを特徴とする図柄多重化方法である。
【0019】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0020】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0021】
第2の発明における条溝角度範囲を割り当てるステップは、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当ててもよい。これによる効果は、第1の発明の説明において前述したとおりである。
【0022】
第3の発明は、コンピュータを第1の発明の図柄多重化装置として機能させるプログラムである。この第3の発明に係るプログラムをコンピュータにインストールすることによって、第1の発明に係る図柄多重化装置を得ることができる。
【0023】
第4の発明は、第2の発明の図柄多重化方法によって作成された版下データに基づいて、前記セル集合が形成され、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体である。この異方性反射媒体は、特殊な視覚効果があるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化され、視覚効果が高い異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置等を提供することができる。そして、図柄多重化装置等を用いて作製された異方性反射媒体は、視線方向の変化に従い図柄が変化する意匠性の極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態に係る図柄多重化装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図1のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
図柄多重化装置1は、制御部3、記憶部5、メディア入出力部7、通信制御部9、入力部11、表示部13、周辺機器I/F部15等が、バス17を介して接続される。
【0027】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0028】
CPUは、記憶部5、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各装置を駆動制御し、図柄多重化装置1が行う後述する処理(図11等参照)を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部5、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部3が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0029】
記憶部5は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部3により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0030】
メディア入出力部7(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0031】
通信制御部9は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0032】
入力部11は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部11を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0033】
表示部13は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0034】
周辺機器I/F(インタフェース)部15は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部15を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部15は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0035】
バス17は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0036】
次に、図2を参照しながら、後述の説明にて用いる用語の意味を説明する。
図2は、異方性反射特性を有するセルの一例を示す図である。
【0037】
異方性反射媒体は、例えば、微細な格子状のセル41の集合により形成される。図4に示すように、セル41は、例えば、43をセル41の一辺の長さとする正方形をなす。尚、セル41の形状は、正方形に限定をするものではないが、正方形であれば特に問題が生じることはない。
【0038】
セル41内には、黒色で示された複数の条溝45が形成される。条溝45は、同一のセル41内においては、条溝角度47に従い、互いに平行である。また、49を条溝45の線幅、51を条溝45同士の間隔とすると、49と51とを足した長さが条溝ピッチ53となる。尚、最終的に作製された異方性反射媒体において、黒色で示した部分、すなわち条溝45は筋条に延びる凹溝を意味し、白色で示した部分、すなわち条溝45以外を凸状に形成する。
【0039】
次に、図3から図10を参照しながら、図柄多重化装置1の機能を実現する構成について説明する。
図3は、図柄多重化装置1の機能の概要を示すブロック図である。図4は、セルグループの形成例を示す図である。図5は、投影面S1上の法線ベクトルN1を示す図である。図6は、法線ベクトルN1の法線投影面S2への投影を示す図、図7は、2つの図柄の条溝角度範囲のスケール変換の一例を示す図、図8は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第1の例を示す図、図9は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第2の例を示す図、図10は、2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第3の例を示す図である。
【0040】
図3に示すように、図柄多重化装置1は、三次元形状設計手段21、セルグループ形成手段23、法線情報記録手段25、法線情報変換手段27、条溝角度範囲割当手段29、版下データ作成手段31等を備える。
【0041】
三次元形状設計手段21は、異方性反射媒体の表面上に再現する所望の図柄に係る三次元形状を設計する。三次元形状設計手段21は、一般に市販されているCG(Computer Graphic)ソフトウェアが有するモデリング機能に相当する。尚、多重化する複数の図柄が異なる三次元形状を有するものとする場合、それぞれの図柄に対して三次元形状の設計を行う。
【0042】
セルグループ形成手段23は、図柄ごとにセルグループを形成する。ここで、セルグループとは、特定の図柄の再現を担当するセルの集合である。
【0043】
図4は、セルグループの形成例として、3通り示している。セルグループの形成は、複数の図柄に係るセルが異方性反射媒体上で均等に分布するように行うことが望ましい。これによって、複数の図柄に係る三次元形状を、異方性媒体上に概ね同じ程度の明るさで再現することができる。2つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(1)に示すように、縦または横に隣接するセル同士が、異なるセルグループに属するように形成する。また、3つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(2)に示すように、任意に抽出した3×3のセル群(黒の太線で図示)において、異なるセルグループに係るセルが3つずつ含まれるように形成する。また、4つの図柄を多重化する場合、例えば、図4(3)に示すように、任意に抽出した2×2のセル群(黒の太線で図示)において、異なるセルグループに係るセルが1つずつ含まれるように形成する。
尚、必ずしも複数の図柄に係るセルが異方性反射媒体上で均等に分布させる必要はなく、演出意図等により各図柄に係るセルの割合を調整しても良い。この場合、各図柄はそれぞれの図柄に係るセル数の割合に応じた明るさで再現されることとなる。また、この場合でも、単一のセルグループに属するセルの分布は偏りなく、空間的に均一に配置することが好ましい。
【0044】
法線情報記録手段25は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。一般に、CG製作過程では、モデリングによって作成されたデータから、ライティングやカメラの条件等を加味して最終的な画像を作成するレンダリングが行われる。従来のレンダリングでは、各画素におけるRGB色成分の輝度値を算出するが、法線情報記録手段25は、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を算出し、これらを法線情報として記録する。
【0045】
尚、多重化する複数の図柄が異なる三次元形状を有するものとする場合、図柄多重化装置1は、法線情報記録手段25によって、それぞれの図柄に対して法線情報の記録を行う。
【0046】
法線情報変換手段27は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。そして、変換法線情報は、後述する条溝角度範囲割当手段29によって、スケール変換された後、後述する版下データ作成手段31によって、条溝角度を決定する際に用いられる。これは、異方性反射媒体の表面上に三次元形状に対する照明光の反射の様相を表現するためには、法線情報を何らかの方法で条溝角度に継承させることが必要だからである。
【0047】
尚、図柄多重化装置1は、法線情報変換手段27によって、多重化する複数の図柄ごとに、法線情報の変換を行う。すなわち、多重化する複数の図柄が同一の三次元形状を有する場合であっても、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面を用いて、法線情報の変換を行う。但し、特定の方位角とは、図柄ごとに必ず異なる値ではなく、同一の値も含むものとする。
【0048】
図5に示すように、法線ベクトルN1は、投影面S1上の点Pを始点とし、投影面S1に定義した座標系に対する方位角φと仰角kとで表現される。一方、条溝角度にて示される方向を持つベクトル(以下、「条溝方向ベクトル」と呼ぶ。)は、異方性反射媒体の表面上に定義される方位角のみで表現されることから、法線ベクトルN1に係る情報を全て継承することはできない。従って、法線情報変換手段27は、法線ベクトルN1を所定の方位角(後述する図6のα)に投影して次元を減ずることにより、法線ベクトルN1に係る情報を、条溝方向ベクトルに継承させる。
【0049】
図6に示すように、法線投影面S2は、投影面S1に対して垂直であり、方位角α方向に設けられた新たな投影面である。法線情報変換手段27は、法線ベクトルN1を法線投影面S2に投影する。投影されたベクトルが、変換法線ベクトルN2である。そして、法線情報変換手段27は、変換法線ベクトルN2の仰角tを算出する。仰角tの値は、後述する版下データ作成手段31によって、条溝角度に継承される。尚、仰角tは、図6に示すように、S2内でPを通過し、S1に垂直な線を基準(t=0度)とし、基準線と変換法線ベクトルN2とのなす角度によって定義する。
ここで、三次元形状の隠面は投影されないから、法線ベクトルN1の向きは、必ず点Pから見て投影面S1の表の方向になる。従って、仰角tは180度(−90度≦t≦90度)の範囲を取り得るが、立体形状に含まれる最も形状の異なる部分が最も異なる角度を継承するために、90度(−45度≦θ≦45度)の範囲に線形変換を施して、図柄の条溝角度範囲とする。
【0050】
条溝角度範囲割当手段29は、セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てることにより、図柄を多重化する。割り当てる条溝角度範囲は、予め定められた値を記憶部5等に保持しておいても良いし、ユーザが入力部11から入力できるようにしても良い。
【0051】
図7の(1)、(2)は、図柄1,2について法線情報変換手段27によって処理された条溝角度範囲を示しており、−45度≦θ≦45度である。図7の(3)に示すように、例えば図柄1に係るセルグループの条溝角度範囲±45度は±θ1度、図7の(4)に示すように、図柄2に係るセルグループの条溝角度範囲±45度は±θ2度の条溝角度範囲にスケール変換されることになる。ここで、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲を±θK度(通常は±90度)とすると、θ1、θ2は、θK≧θ1、θK≧θ2となるようにする。作製された異方性反射媒体を観察すると、視線方向の変化に従い、観察できる図柄が変化するが、条溝角度範囲が広いほどその図柄が見える範囲が広くなり、図柄の変化も緩やかとなる。
【0052】
図8から10に示すように、セルグループ(図柄)ごとの条溝角度範囲の中心θt1度、θt2度は、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲±θK度の範囲内とする。
【0053】
図8は、二つの図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に、図柄1は観察できなくなり、図柄2が観察できるようになる。例えば、異方性反射媒体上に形成できる条溝角度範囲が±90度とすると、図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲を±30度にスケール変換し、図柄1に対応する条溝角度範囲を−75度〜−15度、図柄2を+15度〜+75度とする。
【0054】
図9は、二つの図柄1、図柄2に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に図柄1、図柄2が同時に観察できるようになり、さらに視線方向を変えていくと図柄2のみが観察できるようになる。
【0055】
図10は、図柄2の条溝角度範囲が図柄1の条溝角度範囲に含まれるように割り当てた例を示している。図柄1が観察できる状態から視線方向を変えていくと、ある視線方向を境に図柄1、図柄2が同時に観察できるようになり、さらに視線方向を変えていくと図柄2が観察できなくなり図柄1のみが観察できる。このように、本実施の形態によって2つの図柄を多重化することで、特殊な視覚効果のある異方性反射媒体を作製することができる。
【0056】
版下データ作成手段31は、条溝角度範囲に基づいて、仰角tの値のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定する。スケール変換は、例えば、線形変換である。線形変換の場合、異方性反射媒体上へ割り当てる図柄i(i=1〜n)のセルごとの条溝方向fi(t)は、fi(t)=ai×t+θti(−1≦ai≦1、ai≠0)となる。ここで、ai、及びθtiの値は、条溝角度範囲割当手段29によって割り当てられたセルグループ(図柄)ごとの条溝角度範囲によって一意的に決まるものである。また、スケール変換は線形変換に限らず、例えば、単純増加関数、単純減少関数を用いた非線形変換でもよい。
【0057】
また、版下データ作成手段31は、セルごとに決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。また、版下データ作成手段31は、必要があれば、更に、セルグループ(図柄)ごとに条溝ピッチを決定する。例えば、セルグループ(図柄)ごとに異なる条溝ピッチを割り当てる場合、複数の図柄に係る三次元形状に照射した光の色が異なるものとして再現することができる。
版下データ作成手段31は、図11の説明にて後述するように、セルグループ形成手段23、法線情報記録手段25、法線情報変換手段27、条溝角度範囲割当手段29等で決定された情報に基づいて、版下データの作成を行う。
【0058】
次に、図11を参照しながら、図柄多重化装置1の動作の詳細について説明する。
図11は、図柄多重化装置1が行う版下データ作成処理の流れを示すフローチャートである。
【0059】
図11に示すように、入力部11および表示部13等を介したユーザとの対話的処理を行い、三次元形状設計手段21によって三次元形状の設計が行われた後(S101)、制御部3は、セルグループ形成手段23によってセルグループの形成を行う(S102)。
【0060】
次に、制御部3は、セルグループを選択し(S103)、選択したセルグループが担当する図柄に係る三次元形状を投影面に投影する(S104)。
【0061】
次に、制御部3は、法線情報記録手段25によって、S104で投影された三次元形状の各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する(S105)。そして、制御部3は、法線投影面の方位角を決定し(S106)、法線情報変換手段27によって、法線情報に係るベクトルを、特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする(S107)。
S106に係る法線投影面の方位角は、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。
【0062】
次に、制御部3は、セルグループごとの条溝角度範囲を割り当てる(S108)。割り当てる条溝角度範囲は、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。
【0063】
次に、制御部3は、条溝ピッチを決定する(S109)。条溝ピッチは、入力部11を介してユーザが指定した値でも良いし、記憶部5にデフォルト値として保持する値でも良い。また、条溝ピッチは、セルグループごとに同じ値を決定しても良いし、異なる値を決定しても良い。
【0064】
次に、制御部3は、S103で選択したセルグループに含まれるセルを選択する(S110)。セルの選択は、例えば、版下データに表現されるセルの集合にIDを付与しておき、IDの昇順に選択する。
【0065】
次に、制御部3は、S110で選択したセルの条溝角度を決定する(S111)。条溝角度は、当該セルに対応する画素に係るものであって、制御部3が、S108において割り当てた条溝角度範囲に基づいて、S107の変換法線情報をスケール変換することで決定する。
【0066】
次に、制御部3は、全てのセルについて処理が終了したかどうか確認する(S112)。
処理が終了していない場合、S110から繰り返す(S112のNo)。
処理が終了している場合、S113に進む(S112のYes)。
【0067】
次に、制御部3は、全てのセルグループについて処理が終了したかどうか確認する(S113)。
処理が終了していない場合、S103から繰り返す(S113のNo)。
処理が終了している場合、S114に進む(S113のYes)。
【0068】
次に、制御部3は、版下データを作成する(S114)。具体的には、制御部3は、S109において決定した条溝ピッチ、およびS111において決定した条溝角度等を基に、例えば、条溝を黒色、条溝以外の部分を白色で示した二値データを作成する。
以上のとおり、図柄多重化装置1は、異方性反射媒体の作製に用いる版下データを作成する。
【0069】
次に、図12を参照しながら、異方性反射媒体の作製工程について説明する。
図12は、異方性反射媒体の作製工程を示す図である。
図12に示すように、異方性反射媒体の作製工程は、S201の版下データ作成工程、S202の原版作製工程、およびS203の媒体作製工程が含まれる。
【0070】
版下データ作成工程では、前述した図柄多重化装置1を用いて、版下データを作成する。詳細は前述したとおりである。
【0071】
尚、版下データ作成工程では、図柄ごとに、対応するセルに係る条溝ピッチを決定する。更に、版下データ作成工程では、決定した条溝ピッチを基に、条溝の線幅と条溝同士の間隔を決定する。ここで、後述する原版作製工程、媒体作製工程における凹凸の形成方法によっては、版下データで表現された通りに凹凸が形成されるとは限らない。例えば、形成された凹状の条溝の部分の幅が、版下データに表現された条溝の線幅よりも広くなってしまう、またはその逆に狭くなってしまうことがある。従って、版下データ作成工程では、原版作製工程、媒体作製工程における凹凸の形成方法を考慮し、最終的に作製された異方性反射媒体において、条溝の線幅と条溝同士の間隔が、例えば、互いに略同一の長さとなるように版下データを作成する。
【0072】
原版作製工程では、版下データ作成工程で作成された版下データを基に、媒体作製工程に合わせた原版を作製する。
版下データに表現された凹凸を原版に形成する方法としては、フォトリソグラフィによりフォトレジストを形成してエッチングを施したり、NC工作機械で切削するなどによりエンボス原版とすることができる。また、回折格子を対象とした場合、2光束干渉による方法、グレーティングプロット法、電子線描画装置を用いる方法等がある。これらの中では、セルの描画の精度が高く、ノイズが少ないことから、電子線描画装置を用いると良い。
【0073】
媒体作製工程では、原版作製工程で作製された原版を用いて、異方性反射媒体を作製する。
媒体作製工程では、原版に形成された凹凸をPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材に転写する装置、凹凸に反射層を蒸着する装置、粘着剤や接着剤を塗工する装置等を用いる。
【0074】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る図柄多重化装置1は、図柄ごとにセルグループを形成する。次に、図柄多重化装置1は、図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する。次に、図柄多重化装置1は、法線情報に係るベクトルを、図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする。次に、図柄多重化装置1は、図柄ごとに条溝角度範囲を割り当てる。次に、図柄多重化装置1は、条溝角度範囲に基づいて、変換法線情報のスケール変換を行い、セルごとの条溝角度を決定し、決定された条溝角度に基づいて、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する。
【0075】
そして、作成された版下データを基に原版を作製する原版作成工程、および原版作製工程で作製された原版を用いて異方性反射媒体を作製する媒体作製工程を行うことによって、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体が作製される。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る図柄多重化装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図柄多重化装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図2】異方性反射特性を有するセルの一例を示す図
【図3】図柄多重化装置1の機能の概要を示すブロック図
【図4】セルグループの形成例を示す図
【図5】投影面S1上の法線ベクトルN1を示す図
【図6】法線ベクトルN1の法線投影面S2への投影を示す図
【図7】2つの図柄の条溝角度範囲のスケール変換の一例を示す図
【図8】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第1の例を示す図
【図9】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第2の例を示す図
【図10】2つの図柄を多重化した異方性反射媒体の条溝角度範囲の割当の第3の例を示す図
【図11】図柄多重化装置1が行う版下データ作成処理の流れを示すフローチャート
【図12】異方性反射媒体の作製工程を示す図
【符号の説明】
【0078】
1………図柄多重化装置
3………制御部
5………記憶部
7………メディア入出力部
9………通信制御部
11………入力部
13………表示部
15………周辺機器I/F部
17………バス
19………ネットワーク
21………三次元形状設計手段
23………セルグループ形成手段
25………法線情報記録手段
27………法線情報変換手段
29………条溝角度範囲割当手段
31………版下データ作成手段
41………セル
43………セル41の一辺の長さ
45………条溝
47………条溝角度
49………条溝45の線幅
51………条溝45同士の間隔
53………条溝ピッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置であって、
前記図柄ごとにセルグループを形成するセルグループ形成手段と、
前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する法線情報記録手段と、
前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする法線情報変換手段と、
前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てる条溝角度範囲割当手段と、
前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する版下データ作成手段と、
を具備することを特徴とする図柄多重化装置。
【請求項2】
前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項3】
前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項4】
前記条溝角度範囲割当手段は、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項5】
異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化方法であって、
前記図柄ごとにセルグループを形成するステップと、
前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録するステップと、
前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とするステップと、
前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てるステップと、
前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成するステップと、
を含むことを特徴とする図柄多重化方法。
【請求項6】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項7】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項8】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項9】
コンピュータを請求項1から請求項4のいずれかに記載の図柄多重化装置として機能させるプログラム。
【請求項10】
請求項5から請求項8のいずれかに記載の図柄多重化方法によって作成された版下データに基づいて、前記セルの集合が形成され、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体。
【請求項1】
異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化装置であって、
前記図柄ごとにセルグループを形成するセルグループ形成手段と、
前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録する法線情報記録手段と、
前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とする法線情報変換手段と、
前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てる条溝角度範囲割当手段と、
前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成する版下データ作成手段と、
を具備することを特徴とする図柄多重化装置。
【請求項2】
前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項3】
前記条溝角度範囲割当手段は、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項4】
前記条溝角度範囲割当手段は、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当てることを特徴とする請求項1に記載の図柄多重化装置。
【請求項5】
異方性反射特性を有するセルの集合により形成され、複数の図柄が多重化される異方性反射媒体の作製に用いる図柄多重化方法であって、
前記図柄ごとにセルグループを形成するステップと、
前記図柄に係る三次元形状を投影面に投影し、投影された各画素の法線方向に係る仰角および方位角を法線情報として記録するステップと、
前記法線情報に係るベクトルを、前記図柄ごとに特定の方位角を持つ法線投影面に投影し、投影されたベクトルに係る仰角を変換法線情報とするステップと、
前記セルグループごとに条溝角度範囲を割り当てるステップと、
前記条溝角度範囲に基づいて、前記変換法線情報をスケール変換することでセルごとに条溝角度を決定し、全てのセルグループに含まれるセル群の凹凸を表現する版下データを作成するステップと、
を含むことを特徴とする図柄多重化方法。
【請求項6】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲が互いに重複しないように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項7】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、複数の前記図柄に対応する条溝角度範囲の一部が互いに重複するように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項8】
前記条溝角度範囲を割り当てるステップは、一方の前記図柄に対応する条溝角度範囲が他方の前記図柄に対応する条溝角度範囲に含まれるように割り当てることを特徴とする請求項5に記載の図柄多重化方法。
【請求項9】
コンピュータを請求項1から請求項4のいずれかに記載の図柄多重化装置として機能させるプログラム。
【請求項10】
請求項5から請求項8のいずれかに記載の図柄多重化方法によって作成された版下データに基づいて、前記セルの集合が形成され、複数の図柄が多重化された異方性反射媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−39048(P2010−39048A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199635(P2008−199635)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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