説明

固体膜へのドーピング方法およびドーピング・パターン形成方法

【課題】 固体膜へのドーピング方法およびドーピング・パターン形成方法を提供すること。
【解決手段】 基板上に固体の表面を形成する工程と、ドーパント溶液を保持した中空部材を介してドーパント溶液を固体の表面に隣接させる工程と、基板を一方の電極として前記ドーパント溶液に電圧を印加して、固体にドーパントをパターン状にドーピングする工程とを含むドーピング方法を提供する。この固体は、酸化物、有機物、または有機無機複合材料から選択される材料を含んでいる。また、本発明は、パターン状にドーパントをドーピングする、ドーピング・パターン形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動技術に関し、より詳細には、電気泳動を使用して膜に対してドーパントを局所的にドーピングする方法およびドーパントのパターンを膜に形成させるドーピング・パターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料中の表面近傍数から数10μmの領域にイオンや分子を添加するためには、従来では、イオンや分子を含んだ溶液中に材料を浸漬させ熱拡散させる方法が知られている。この場合、材料の表面にイオンがドーピングされる部分とされない部分とを区別するために、金属薄膜や有機薄膜によるマスク材を固体表面に形成させる必要があった。マスク材の形成においては、マスクの形成精度はもとより、マスク形成プロセス自体が含む問題点や、ドーピング後のマスクの除去(化学エッチング)などの多数の工程を経る必要がある。このため、化学的に侵食され易い固体材料や、添加するイオン自体の活性がマスキング−ピーリング工程で失われてしまうことがあるなど、多くの制約を受けることになっている。
【0003】
また、基板上の材料に多数の機能を集積させる目的では、限られた面積の固体材料に複数種類のイオンや分子のドーピングを行う必要がある。しかしながら、上述した従来方法では、目的の化学種を一種ずつ別々のプロセスでドーピングする必要があり、現実的な方法とはいえなかった。一方で、印刷技術は、異なるイオンを含む複数の溶液を固体表面の限定された部分に付着させることができると考えられる。この場合、印刷により固体表面に化学種を付着させた状態で熱処理すれば、熱拡散によってイオンを固体内部に拡散させることができる。この場合でもイオンによって拡散係数が異なり、拡散量や深さをすべてのイオンについて制御することは困難であるという問題がある。すなわち、一種類の所望するイオンを固体表面の任意の領域に所望の量と所望の深さにドープするのであれば、印刷技術によってもパターン状にドーピングすることができるといえるが、複数のイオンを所望の領域にドーピング量、ドーピング深さを正確に制御してドーピングする方法は、これまで知られていない。
【0004】
すなわち、上述した従来の方法は知られているものの、従来の方法は、多数の工程を必要とし、すでに一種類のドーピングが行われた領域に対して、後続のドーピング処理が影響を与えてしまうという、相互干渉の大きなプロセスであるが故に、複雑な機能設計を行うことができないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明は、多数の工程を必要とすることなく、すでに一種類のドーピングが行われた領域に対して、後続のドーピング処理が影響を与える可能性を排除して複数回のドーピング処理を可能とすることにより、ドーピングによる複雑な機能設計を可能とするドーピング方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、パターン状にドーピングを行うことによる、ドーピング・パターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を加えた結果、有機材料あるいは無機材料およびその複合材料から形成される固体表面に対して中空部材、具体的にはキャピラリを使用した電気泳動法を適用することによって、位置選択的にドーピングを行うことが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明では、所望のイオン(無機イオン、有機イオンあるいはそれらの複合イオン)を、サブミクロンから数百μmの内径を有するキャピラリ(毛細管)にそれらのイオンを溶解させた溶液で満たし、キャピラリの一方の開口端を固体表面に接触させる。キャピラリの他端は、ドーパント溶液を蓄えた容器中に浸しておき、キャピラリ・ブリッジを構成する。その後ドーパント溶液を介して、ドーパント溶液に接触する電極の間に直流または交流成分を含む直流電圧を印加する。キャピラリ内に収容されたドーパント溶液は、キャピラリ内で電気泳動し、開口端を通して固体表面に接触し、固体表面から固体内部へと電気泳動によりドーピングされる。本発明では、キャピラリを介して印加する電圧に応答して流れる電気量の大きさによって、ドープ量をコントロールすることができる。また、キャピラリの接触する固体表面に制限された状態で固体内部に選択的にドープすることができるので、ドット、ラインなどの形状でドーピングを行うことができ、また、キャピラリを移動させることで様々な形でドーピング・パターンを形成することができる。
【0008】
すなわち、本発明によれば、基板上に固体の表面を形成する工程と、ドーパント溶液を保持した中空部材を介して前記固体の表面に前記ドーパント溶液を接触させる工程と、前記基板を一方の電極として前記ドーパント溶液に電圧を印加して、前記固体にドーパントをパターン状にドーピングする工程とを含むドーピング方法が提供される。前記基板は、導電性コーティングを含むことができる。前記固体は、酸化物、有機物、または有機無機複合材料から選択される材料を含むことができる。前記ドーパントは、イオン性官能基または極性官能基を有し、電気泳動性を有することができる。
【0009】
本発明の第2の構成によれば、基板上に形成した固体の表面に対して、ドーパント溶液を保持した中空部材を介して前記固体の表面に前記ドーパント溶液を接触させる工程と、前記基板を一方の電極として前記ドーパント溶液に電圧を印加して、前記固体にドーパントをパターン状にドーピングする工程と前記開口端とを含むドーピング・パターン形成方法が提供できる。また、本発明では、前記中空部材の開口端と前記固体表面の間の相対位置を変化させる工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、キャピラリ内に満たされた溶液中で生じる電気泳動現象をイオンの輸送法として利用し、微小な内径を有するキャピラリと固体表面との接触と、電界によるイオンの拡散とを利用してドープされる領域を選択し、ドーピング量を制御し、ドーピング深さの制御を行うことを可能とし、キャピラリ接触部分のごく限られた領域でドーピングを生じさせるので、他の領域に対して行われた処理に与える影響はきわめて小さく、独立に行うことができる。
【0011】
イオン種のドーピングでは、ドープ化学種、ドープ領域、ドープ量、ドープ深さの4つの制御が必要である。これらは固体材料の高機能化(たとえば光デバイス、テンプレートを積載した化学チップなど)に必要不可欠な手法であり、集積化が強く望まれる。多様なドープ領域の形成には,相互干渉の小さいドーピング法が必要不可欠であり,マスクの形成や多数のエッチング処理は適さない。すなわち、本発明は、ドーピング化学種、ドーピング領域、ドーピング量、ドーピング深さの4つすべての因子に対して他のドープ処理に対して相互干渉なく実施することができる、ドーピング方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、単一の固体材料領域に対してドーピング処理の回数に原理的に制限を与えることなく、また、無機材料、有機材料、有機無機複合材料などの広い材料へのドーピングも可能とし、無機材料、有機材料、有機無機複合材料などを利用した機能集積材料の作製に利用できる。さらに、ドーピングをパターン状に行う場合であっても、マスキング処理が不要となり、マスキング処理にともなう真空蒸着処理、パターニング、エッチングなどのリソグラフィー工程を排除することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明においてドーピングすることができる化学種としては、イオン性化学種または極性基を有する化学種を挙げることができる。このような化学種としては、酸、アルカリ、染料、顔料、各種診断薬、またはDNA、RNA、オリゴヌクレオチドなどの塩基鎖などを挙げることができる。より具体的に酸としては、硫酸、フッ化水素酸、塩酸、硝酸、燐酸等を挙げることができる。この他にも、ドーピングすることができる化学種としては、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、SO、HClO、ClSOH、CFSOH、LiCFSO、LiClO、LiBF、NaCFSO、AgNO、アミノ酸、Na、Li、K、Rb、Ce、Ca、Srなど、またはこれらの塩類、および有機酸および有機アルカリ化合物などを挙げることができる。染料、顔料としては、アセチレンブラック、アニリンブラック等のアジン系色素、金属塩アゾ色素、金属酸化物、複合金属酸化物、p−ターフェニル、QUI、ポリフェニル1、スチルベン1、スチルベン3、クマリン2、クマリン47、クマリン102、クマリン30、ローダミン6G、ローダミンB、DCM、DCM2、DCJTB、ローダミン700、スチリル9、HLTCL、IR140、クマリンC−545、クマリンC−545T、クマリンC−545B、5,7−ジメトキシクマリン、N,N’-ジメチルキナクリドンといったキナクリドン系色素、N,N,N',N'-テトラフェニル-9,10-ジアミノアセトンといったアントラキノン系色素、テトラフェニルポルフィリンといったポルフィリン系色素または顔料などを挙げることができる。また、本発明においては、上述した以外にもカラーインデックスCIにより指定される構造の蛍光性の色素または顔料、遷移金属または希土類金属イオンを含む錯イオン、光、放射線、または電子などの荷電粒子ビームにより反応を開始させる重合開始剤などを挙げることができる。これらのドーパントは、ドーパントが溶液の場合には、単独で、また室温状態で固体の場合には、より詳細には後述する好適な溶媒に溶解または分散させて、本発明に使用することができる。上述した重合開始剤としては、アシルホスフィンオキシド系、アセトフェノン系またはプロピオフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系などを挙げることができる。アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリCl−2アルキルベンゾイルジアリールホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェエルホスフィンオキシド(例えば、BASF社製、「ルシリンTPO」)など;ビス(2, 4, 6−トリC1−2アルキルベンゾイル)アリールホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェエルホスフィンオキシド(例えば、チバスペシャリティケミカルズ社製の「イルガキュア819」)など;2,4,6−トリC1−2アルキルベンゾイルアリールアルコキシホスフィンオキシド[2,4,6−トリメチルベンゾイルフェエルエトキシホスフィンキシドなど;ビス(2,6−ジC1−2アルコキシベンゾイル)−分枝鎖状C6−12アルキルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド(BAPO)など;ビス(2,4,6−トリC1−2アルキルベンゾイル)C1−6アルキルホスフィンオキシド[ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)メチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)エチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)N−ブチルホスフィンオキシドなどを挙げることができる。アセトフェノン系またはプロピオフェノン重合開始剤としては例えば、アルキルフェニルケトンまたはその誘導体、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、アセトフェノンジエチルケタール、ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノンまたはその誘導体、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(例えば、チバスペシャリティケミカルズ社製の「ダロキュアー1173」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノフェニル−(4−モルホリノフェエル)−ブタノン(例えば、チバスペシヤリティケミカルズ社製の「イルガキュアー369」、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(例えば、チバスペシヤリティケミカズル社製の「イルガキュアー907J」、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンのオリゴマー(例えば、ランベルチエスピーエ社製の「エサキユアーKIP」)などのプロピオフェノンまたはその誘導体など、ベンジルまたはその誘導体を挙げることができる。さらに、本発明においてはベンゾイン系光重合開始剤を使用することもでき、例えばベンゾイン、ベンゾインC1−6アルキルエーテル、具体的にはベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどを挙げることができる。また、本発明において使用することができるベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノンまたはその誘導体、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸C1−6アルキル(例えば、O−ベンゾイル安息香酸メチルなど)、4−フェニルベンゾフエノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフエノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトンなどを挙げることができる。本発明において使用することができるキサントン系光重合開始剤としては、例えば、2−または4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどを挙げることができる。上述した光重合開始剤の他にも例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(例えば、チバスペシャリティケミカルズ社製の「イルガキユアー184」)、メチルフェニルグリオキシエステル(AKZO社製)、「バイキュアー55」、3,6−ビス(2−モルホリノイソプチル)−9−プチルカルバゾール(旭電化(株)製、「A−Cure3」)、チタノセン化合物、キサントン、フルオレンなども例示することができる。上述した光重合開始剤は、単独で使用することもできるし、適宜2種以上組合わせて使用できる。2種以上組み合わせた光重合開始剤系としては、例えば、商品名「イルガキュアー1700」、[ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルベンチルホスフィンオキシド/2−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパン−1−オン=25/75(質量%)]、商品名「イルガキュアー1800」、[ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルベンチルホスフィンオキシド/2−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン=25/75(質量%)]、商品名「イルガキュアー1850」、[ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルベンチルホスフィンオキシド/1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン=50/50(質量%)]、(いずれもチバスペシャリティケミカルズ(株)製)などとして市販されている。また、上述した熱重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスシアノ吉草酸、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスメチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルといったアゾ系開始剤、を適宜混合して用いることもできる。また、本発明においては、開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることもできる。さらに本発明においては、上述の重合開始剤としてイソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイドからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることもできる。さらに本発明においては、上述のラジカル開始剤としてジターシャルブチルパーオキサイド、t-ブチル−α−クミルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、1,4−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t-ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることも可能である。さらに本発明においては、上述のラジカル開始剤としてt−ブチルヒドロパーオキサイド、キュメンヒドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイドからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることも可能である。さらに本発明においては、上述の重合開始剤として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることも可能である。さらに本発明においては、上述の重合開始剤としてt−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)へキサンからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることも可能である。さらに本発明においては、上述の重合開始剤としてビス−(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ビス(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、OO−t−ブチル−O−イソプロピルパーオキシカーボネートからなる群から選択される化合物またはこれらの混合物とすることもできる。さらに本発明においては、上述のラジカル開始剤としてアゾビスシアノ吉草酸、ビス(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムからなる水溶性の化合物、またはこれらの混合物とすることも可能である。上述したラジカル開始剤は、さらに上述したラジカル開始剤のいかなる組合せの複数種を混合して用いることも可能である。上述した開始剤の他にもオニウム塩など放射線に感応して酸を発生してカチオン重合を生じさせる重合開始剤もドーパントとして使用することができる。
【0014】
また、本発明において使用することができる固体表面を与える材料としては、有機、無機、有機・無機複合材料を使用することができる。有機材料としては、ポリアクリル(メタクリル)酸エステル共重合体、ポリスチレン樹脂、ポリスチレン−アクリル(メタクリル)酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエーテル、ポリアミン、ポリスルフィドなどを挙げることができる。また、本発明では、上述した有機材料中に、分散法、グラフト法などにより無機成分を導入した有機・無機複合体膜を用いることもできる。
【0015】
さらに、本発明において使用することができる固体表面を与える材料としては、ゾルゲル法により形成された酸化物膜または有機・無機ハイブリッド膜を使用することができる。酸化物膜または有機・無機ハイブリッド膜は、ゾル−ゲル法により湿式生成することができる膜とすることもできるし、CVD法などによりドライプロセスを使用して形成される酸化物膜も使用することができる。上述した酸化物膜は、好適には酸化物前駆体の分解およびそれに続くゲル化処理を使用して生成することができ、本発明に使用することができる前駆体物質としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロプリルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、シラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどを挙げることができる。
【0016】
シリコン系以外の組成を有する膜は、例えば、アルミニウムイソプロピネート、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレートなどのトリアルコキシアルミニウム化合物、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラメトキシチタンなどのテトラアルコキシドチタン化合物、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウムなどのテトラアルコキシジルコニウム化合物などを使用することもできる。
【0017】
さらに、本発明において使用することができる金属化合物としては、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物などを挙げることができる。
【0018】
有機・無機複合材料としては、上述した高分子化合物に対して、コロイダルシリカ、コロイダルチタンなどを分散させたものを挙げることができる。本発明における上述した膜の膜厚は、0.5μm〜数mmの範囲とすることができ、より好ましくは、0.5μm〜500μmの範囲とすることができ、さらに好ましくは、1μm〜100μmとすることができる。
【0019】
本発明の基板は、有機材料または無機材料を使用することができ、無機材料としては、鉄、ステンレス・スチールなどの金属、ナトリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、水晶、シリコン・ウェハ、アモルファス・シリコン・ウェハ、Ga−Asウェハ、などのセラミックス材料を使用することができ、また有機材料としては、これまで知られた導電性高分子膜を含む高分子化合物、または重合性単量体または重合性単量体を重合させて形成されるオリゴマーまたはポリマーを含んで形成される膜、シートおよびプレートなどから適宜選択して使用することができる。上述した重合性単量体としては、以下のものに限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビニル化合物、アクリル化合物、またはメタクリル化合物を使用することができる。アクリル化合物、またはメタクリル化合物としては、具体的には例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、アクリロニトリル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどを挙げることができる。さらに、本発明で使用することができる重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ベンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジベンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロイルオキシ)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシプロピル)イソシアヌレートのトリ(メ夕)アクリレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシァヌレートなどが例示できる。これらエチレン性不飽和化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。また、重合性単量体としては、ビニル化合物も使用でき、スチレン、アルキル基置換スチレン、アルコキシ置換スチレン、N−ビニル−窒素含有複素環化合物、例えば、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、の他、架橋脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、例えば、イソボルニル(メ夕)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロベンテエル(メタ)アクリレートなどの単官能性化合物を用いることができる。上述した重合性単量体は、適宜いかなる混合比で用いられ、共重合体とすることができる。
【0020】
本発明の基板は、導電性を有しない場合には、導電性コーティングを施すことにより導電性を付与することが必要である。このような導電性コーティングは、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、ITO、IZO、などの導電性材料をスパッタリングまたは蒸着などの方法を使用して製膜することができる。
【0021】
本発明において基板上に固体表面を与える材料を製膜するためには、これまで知られたいかなる方法を使用してもコーティングすることができる。このようなコーティング方法としては、具体的には例えば、膜を形成する成分を適切な溶媒に溶解させた後、スピンコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング、ナイフコーティング、バーコーティングなどを使用することができる。
【0022】
本発明で使用することができる溶媒としては、種々の溶媒を挙げることができ、具体的には、例えば、水、アミルアルコール、アリルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ウンデカノール、エタノール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、n−オクタノール、グリシドール、シクロヘキサノール、3,5,−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、n−デカノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、α−テルピネオール、ネオペンチルアルコール、ノナノール、フーゼル油、ブタノール、フルフリルアルコール、プロパギルアルコール、プロパノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ベンジルアルコール、ペンタノール、メタノール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ペンチン−3−オールといったアルコール類も挙げることができる。
【0023】
上記溶媒としては、さらにアニソール、エチルイソアミルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル、エチルベンジルエーテル、エポキシブタン、クラウンエーテル類、クレジルメチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルアセタール、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,8−シネオール、ジフェニルエーテル、ジブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジベンジルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、トリオキサン、ビス(2−クロロエチル)エーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、フラン、フルフラール、メチラール、メチル−t−ブチルエーテル、メチルフラン、モノクロロジエチルエーテルといったエーテル・アセタール系溶剤も挙げることができる。
【0024】
さらに上記溶媒としては、アセチルアセトン、アセトアルデヒド、アセトフェノン、アセトン、イソホロン、エチル−n−ブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジ−n−プロピルケトン、ホロン、メシチルオキシド、メチル−n−アミルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−へプチルケトンといったケトン・アルデヒド系溶剤も同様に用いることができる。
【0025】
さらに、上述の溶媒としては、エチレングリコール、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールモノイソプロピルエータル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、エチレンクロロヒドリン、1,3−オクチレングリコール、グリセリン、グリセリン1,3−ジアセタート、グリセリンジアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリントリアセタート、グリセリントリラウラート、グリセリンモノアセタート、2−クロロ−1,3−プロパンジオール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ポリプロピレングリコールといった多価アルコール及びそれらの誘導体を挙げることができる。
【0026】
さらに上述の溶媒としては、適宜、イソ吉草酸、イソ酪酸、イタコン酸、2−エチルヘキサン酸、2−エチル酢酸、オレイン酸、カプリル酸、カプロン酸、ギ酸、吉草酸、酢酸、乳酸、ピバリン酸、プロピオン酸、といったカルボン酸誘導体や、エチルフェノール、オクチルフェノール、カテコール、グアヤコール、キシレノール、p−クミルフェノール、クレゾール、ドデシルフェノール、ナフトール、ノニルフェノール、フェノール、ベンジルフェノール、p−メトキシエチルフェノールといったフェノール類、アセトニトリル、アセトンシアノヒドリン、アニリン、アリルアミン、アミルアミン、イソキノリン、イソブチルアミン、イソプロパノールアミン類、イソプロピルアミン、イミダゾール、N−エチルエタノールアミン、2−エチルヘキシルアミン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、カプロラクタム、キノリン、クロロアニリン、シアノ酢酸エチル、ジアミルアミン、イソブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジアエタノールアミン、N,N−ジエチルアニリン、ジエチルアミン、ジエチルベンジルアミン、ジエチレントリアミン、ジオクチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、トリアミルアミン、トリオクチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリオクチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリプロピルアミン、トリメチルアミン、トルイジン、ニトロアニソール、ピコリン、ピペラジン、ピラジン、ピリジン、ピロリジン、N−フェニルモルホリン、モルホリン、ブチルアミン、ヘプチルアミン、ルチジンといった含窒素化合物、トリクロロ酢酸などのハロゲン化カルボン酸といった酸ハロゲン化物、含イオウ化合物系溶剤、テトラフルオロプロピオン酸などのフッ素系溶剤等も挙げることができ、これらの溶剤は、いかなる種類および添加量で混合して用いることができる。
【0027】
本発明のドーピング方法は、ドーパント溶液に対して固体表面から基板下側に向かう電界を生じさせた条件で行われる。図1には、本発明のドーピング方法を行うための装置を示す。図1に示したドーピング装置10は、精密ステージ12と、中空でドーパント溶液を収容することができるキャピラリ14とを備えている。精密ステージ12は、キャピラリ14の開口端を、ドーピングを行う固体表面に、少なくともドーピング溶液が固体表面に接触する条件で電界が印加できるような距離で近接保持していて、外部からの制御により固体表面に対して開口端を固定、または適切な速度で並進移動させることができる。なお、本発明では、キャピラリは、固体表面に完全に接触していてもよいし、ドーパント溶液が固体表面に接触する距離として、固体表面にキャピラリの開口端を接触させずに保持することができる。
【0028】
キャピラリ14の内径は、数百nm〜数百μmとすることができ、ドーピングを行う精度に応じて適宜選択することができる。キャピラリ14は、ナトリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス(SiO)、水晶、金属、有機材料など中空で、かつ本発明のサイズを有する限り、いかなる材料からでも形成することができる。また、本発明で使用するドーピング装置10は、ドーパント溶液18を蓄えた貯蔵容器16を備えており、キャピラリ14の他端がドーパント溶液18に浸漬されて、固体表面に隣接して配置された開口端から排出されるドーパント溶液18と流体的に連続している。また、貯蔵容器16には、ドーパント溶液18に対して電圧を印加するための電極20が配置されており、精密ステージ12上に配設された基板22の導電性コーティングと対応してドーパント溶液を通じた回路を形成している。
【0029】
電極20と導電性コーティングとの間には、電源24と、回路を通じて流れる電流量をモニタし、ドーピング条件をモニタするための電流計26とが接続されている。電源24は、一定電圧を両極間に印加することが可能な低電圧電源とされ、電圧が加えられると、ドーパント溶液を介して電流が流れ、それに伴ってドーピングが進行する。本発明では、印加電圧としては、約1VDC〜約20kVDCの範囲を使用することができ、より好ましくは、1VDC〜10kVDCの範囲を使用することができる。
【0030】
本発明においてドーパントをパターン状にドーピングする方法としては、キャピラリを目的とする形状に形成しておいて、キャピラリのスポット形状にパターニングする方法を用いることができる。また、本発明の他の実施の形態では、ドーピングさせながらキャピラリを、膜の厚さ方向に直交する方向に移動させることにより、ライン状にドーピングを行うこともできる。この場合、膜の微小な凹凸に応答して膜の厚さ方向に同時にキャピラリを移動させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体的な実施例をもってさらに具体的に説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
[基板および固体表面を与える膜の作成]
【0032】
(実験例1)
ガラス基板上に、Auを蒸着して電極を形成した。電極を形成したガラス基板上に、ビニルトリエトシキシラン、3−メタクリロキシプロプリルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランを、それぞれ35:35:30のモル比で含む有機無機ハイブリッドゾルを、ディップコーティング法でコーティングして、厚さ7μmの前駆体膜を形成し、約100℃で60min熱処理を行って有機無機ハイブリッド膜を得た。
【0033】
[ドーピング処理]
有機無機ハイブリッド膜を生成した基板に対し、図1に示したドーピング装置を用い、本発明のキャピラリ電気泳動によるドーピングを行った。ドーパントは、レーザー色素ローダミン6Gとし、ドーパント溶液は、レーザー色素ローダミン6Gの0.01mol/dmの2-プロパノール溶液とした。キャピラリとしては、内径約100μm、長さ30cmのSiOガラス製のキャピラリ管を使用した。また、電源としては菊水電子工業社製の定電圧電源(型番PMC5000)を使用し、電流計としては、ケースレー製の電流計(型番485)を使用した。
【0034】
ドーピングに際しては、精密可動ステージでキャピラリの一端を有機無機ハイブリッド膜の表面に接触させ、他端を貯蔵容器に挿入しキャピラリ管の内部をドーパント溶液で満たし、ガラス基板上のAu電極が陰極に、貯蔵容器に挿入した白金電極が陽極になるようにして、定電圧電源から直流電圧70VDCを印加した。電圧の印加によりキャピラリを通して電流が流れ、ドーピングが行われた。図2には、電流計で測定された、電圧印加開始から終了までの電流挙動を示す。概ね、印加初期のスパイク波形を除き、約15nAの電流がほぼ一定となって流れているのが示されている。
【0035】
ドーピングは、図2に示す値の電流をモニタしておき、総電気量が10.0μCとなった時点で終了させた。ドーピング処理の終了後、基板を2-プロパノールで洗浄した。
【0036】
[ドーピング評価]
基板を洗浄した後、電圧を印加せずにキャピラリの開口端を接触させただけで同じ時間だけ放置した部分と、電圧を印加して10.0μCの電流を流した開口端に接した膜の部分を蛍光顕微鏡(ニコン製、型式E600FN)で観察した。その結果、電圧を印加した部分では、明瞭はリング状のローダミン6Gのドーピング・パターンが観察された。この結果を図3に示す。図3に示されるように、キャピラリの壁部と中心部において濃度差は見られるものの、ローダミン6Gがドーピングされたことを示す黒領域は明確に現れているのが示されている。また、図3で示されるように、本発明によれば、キャピラリの接触した領域に局在化してパターン状にドーピングを行うことができることが示された。
【0037】
(実験例2)
実験例1と同様にして、ガラス基板およびAu電極を形成した。内径75μm、外径370μm、長さ300mmのSiOガラス製のキャピラリを使用した。ドーピング溶液は、レーザ発信用色素ローダミン6Gを、ヘキサノール90Vol%+エタノール10Vol%の混用溶媒に対して10−3mol/dmの濃度で溶解させて作成した。ドーピング処理は、実施例1で説明したドーピング装置を用い、電圧電源から300VDCの電圧を印加して、ドーピング時間を4minとして行った。ドーピング状態の観察は、実験例1と同様に蛍光顕微鏡を使用して目視で観察した。
【0038】
(実験例3)
実験例2と同様のキャピラリおよびドーピング溶液、およびドーピング装置を使用し、ドーピング時間を2minとしたことを除き、実験例2と同様にしてドーピングを行い、観察を行った。
【0039】
図4は、実験例2および実験例3でドーピング処理を行った際の時間と電流値とを示す。図4に示されるように、実験例2および実験例3では、実験例1での電流特性を示した図2よりも小さな電流が観測されている。一方で、印加電圧は、300VDCと高められていることから、ドーピング溶液の抵抗は、実験例2および3の方が高いことがわかる。
【0040】
(結果:実験例2および実験例3)
実験例2および実験例3で得られたドーピングを、実験例1と同様に蛍光顕微鏡で目視観察した。図5および図6に、実験例2(図5)および実験例3(図6)で得られたドーピングの結果を示す。図5および図6に示されるように、キャピラリの内側は、実験例1で得られた図3の結果よりも、概ね良好にドーピングされているのが観察された。
【0041】
(実験例4:比較例)
実験例4として、電極に電圧をまったく印加しなかったことを除き、実験例1と同一の条件でドーピング処理を行った。図7は、電圧を印加せずにキャピラリの開口端を接触させておいただけの比較例について得られた結果を示す。
【0042】
図7に示されるように、電圧を印加しなかった部分ではわずかに表面に付着したあとが見られるだけで、図3、図5、図6に示されるドーピング処理と比較して、明らかにドーピング・パターンおよびドーパント濃度の相違が見られた。図7で示されるドーパントの蛍光強度と、図3で示される蛍光強度では、明らかに図3の蛍光強度が強く、多くのドーパントが膜中に導入されていることがわかった。
【0043】
すなわち、実験例4(比較例)と実験例1とを比較することにより、本発明では、キャピラリを介した電圧の印加により明らかにドーピング量が増加しており、電圧の印加により膜の表面ばかりではなく、膜の内部までレーザー色素ローダミン6Gが導入されていることがわかる。これは、電圧を印加せずに接触しておいただけでは、充分なドーピングが行われず、本発明により、電圧を印加することにより膜内部へのドーピングが効率的に行われたことを示すものである。
【0044】
また、実験例2および実験例3の結果についても、ドーピングが行われた領域では、実験例1と同程度の濃度でドーピングされていることが示され、本発明により、膜の内部にまでドーピングを行うことができることがわかった。
【0045】
すなわち、本発明によれば、キャピラリ電気泳動によって機能性分子であるローダミン6Gが有機無機ハイブリッド薄膜の特定の領域に電気量の制御によって膜の内部にまでドーピングすることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
これまで説明したように、本発明によれば、キャピラリ内に満たされた溶液中で生じる電気泳動現象をイオンの輸送法として利用し、微小な内径を有するキャピラリと固体表面との接触と、電界によるイオンの拡散とを利用してドープされる領域を選択し、ドーピング量を制御し、ドーピング深さの制御を行うことを可能とし、キャピラリ接触部分のごく限られた領域でドーピングを生じさせるので、他の領域に対して行われた処理に与える影響はきわめて小さく、独立に行うことができる。すなわち、本発明は、ドーピング化学種、ドーピング領域、ドーピング量、ドーピング深さの4つすべての因子に対して他のドープ処理に対して相互干渉なく適用できる、ドーピング方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、単一の固体材料領域に対してドーピング処理の回数に原理的に制限を与えることなく、また、無機材料、有機材料、有機無機複合材料などの広い材料へのドーピングも可能とし、無機材料、有機材料、有機無機複合材料などを利用した機能集積材料の作製に利用できる。
【0047】
さらに、ドーピングをパターン状に行う場合であっても、マスキング処理が不要となり、マスキング処理にともなう真空蒸着処理、パターニング、エッチングなどのリソグラフィー工程を排除することを可能とし、電気・電子デバイス、表示デバイスにおける導電性制御要素、リソグラフィー、DNA、RNA、オリゴヌクレオチドなどをハイブリダイズさせて蛍光検査を行う、所謂DNAプローブ・プレートなど、微小スポット状に目的化学物質を導入することが必要な、いかなる用途に対しても適用することができる、ドーピング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明において使用するドーピング装置の概略図。
【図2】本発明のドーピングを行う場合のドーパント溶液を通じて流れる電流挙動を示した図。
【図3】本発明により得られたドーピングのパターンを示した図。
【図4】実験例2および実験例3でドーピング処理を行った際の時間と電流値とを示した図。
【図5】実験例2で得られたドーピングの結果を示した図。
【図6】実験例3で得られたドーピングの結果を示した図。
【図7】電圧を印加せずにドーパント溶液を接触させておいた場合に得られたローダミン6Gの付着パターンを示した図。
【符号の説明】
【0049】
10…ドーピング装置
12…精密ステージ
14…キャピラリ
16…貯蔵容器
18…ドーパント溶液
20…電極
22…基板
24…電源
26…電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に固体の表面を形成する工程と、
ドーパント溶液を保持した中空部材を介して前記固体の表面に前記ドーパント溶液を接触させる工程と、
前記基板を一方の電極として前記ドーパント溶液に電圧を印加して、前記固体にドーパントをパターン状にドーピングする工程と
を含むドーピング方法。
【請求項2】
前記基板は、導電性コーティングを含む、請求項1に記載のドーピング方法。
【請求項3】
前記固体は、酸化物、有機物、または有機無機複合材料から選択される材料を含む、請求項1または2に記載のドーピング方法。
【請求項4】
前記ドーパントは、イオン性官能基または極性官能基を有し、電気泳動性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドーピング方法。
【請求項5】
基板上に形成した固体の表面に対して、ドーパント溶液を保持した中空部材を介して前記固体の表面に前記ドーパント溶液を接触させる工程と
前記基板を一方の電極として前記ドーパント溶液に電圧を印加して、前記固体にドーパントをパターン状にドーピングする工程と
を含むドーピング・パターン形成方法。
【請求項6】
さらに、前記中空部材の開口端と前記固体表面の間の相対位置を変化させる工程を含む、請求項5に記載のドーピング・パターン形成方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−233276(P2006−233276A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49849(P2005−49849)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)