説明

固体電解コンデンサの製造方法、マスキング材塗布装置及び固体電解コンデンサ

【課題】マスキング層を均一かつ経時的に安定して形成し、装置の頻繁な点検交換を不要とするマスキング材の塗布方法を提供する。
【解決手段】マスキング材の供給をギアポンプをもって行なうことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法、マスキング材塗布装置及び固体電解コンデンサに関する。さらに詳しく言えば、本発明は、陽極部と陰極部とを確実に絶縁するためのマスキング層を均一かつ経時的に安定して形成する固体電解コンデンサの製造方法及びこの方法に用い得るマスキングの塗布装置並びに前記製造方法または装置によって製造される固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、二酸化マンガンなどを固体電解質とする固体電解コンデンサに比べて等価直列抵抗及び漏れ電流を小さくでき、電子機器の高性能化、小型化に対応できるコンデンサとして有用である。
【0003】
固体電解コンデンサの基本素子は、図1に示すように、一般にエッチング処理された比表面積の大きな金属箔からなる陽極基体(1)に誘電体の酸化皮膜層(2)を形成し、この外側に対向する陰極部として固体の半導体層(以下、固体電解質という。)(4)を形成し、望ましくはさらに導電ペーストなどの導電体層を形成して作製される。露出した陽極基体はそのまま陽極部となる。
【0004】
導電性重合物を用いて高性能の固体電解コンデンサを製造する際、特に弁作用金属箔を使用する場合には、陽極端子となる陽極部(1)と導電性重合体を含む導電体層からなる陰極部(4)とを電気的に確実に絶縁することが不可欠である。しかし、固体電解質の含浸または形成工程では、固体電解質が陽極領域側に侵入するいわゆる這い上がりが起こることがあり、この場合、陽極部と陰極部との間で絶縁不良が発生する。このため、従来、陽極部と陰極部との間に両者を絶縁遮断するマスキング層(3)が設けられている。
【0005】
固体電解コンデンサの陽極部と陰極部を絶縁するマスキング層形成方法としては、例えば弁作用金属の固体電解質を形成しない部分の少なくとも一部に、ポリアミック酸塩を含む溶液を電着してポリアミック酸の膜を形成した後、加熱により脱水硬化させてポリイミド膜を形成する方法(特開平5−47611号公報:特許文献1)、固体電解質の這い上がり防止のためにポリプロピレン、ポリエステル、シリコン系樹脂またはフッ素系樹脂製のテープもしくは樹脂コートフィルム部を形成する方法(特開平5−166681号公報:特許文献2)、絶縁性塗膜として、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂またはこれらの混合物、共重合体等の耐熱性高分子材料をローラーコーター、リバースコーター、スクリーン印刷等の印刷によるマスキングを施す方法(特開平05−159983公報:特許文献3)などが提案されている。
【0006】
電着法でポリイミド膜を形成する方法(特開平5−47611号公報)は通常の塗布法に比べて細孔部まで膜を形成できるが、電着工程を必要とするため生産コストが嵩み、またポリイミド膜を形成させるために高温の脱水工程を必要とする。作製時における固体電解質の這い上がり防止のため絶縁樹脂製のテープもしくはコートフィルムを利用する方法(特開平5−166681号公報)は、基材の端部をテープ(フィルム)で確実に貼付することが困難であり、固体電解質が陽極側に進入する危険がある。これに対し、各種高分子材料または溶液を塗布ないし印刷するマスキング方法(特開平05−159983号公報)は比較的廉価に任意形状のマスキング層を形成できるが、典型的な多孔質のアルミ化成箔表面は、マスキング材をはじく性質があり、直線上に塗布することが困難でありムラになりやすい。また、長期にわたって継続的に作業を行なう場合、各種高分子材料または溶液のゲル化が起こることがあり、材料液供給部を頻繁に交換ないし清掃する必要がある。
以上のように、従来のマスキング方法では、いずれも十分満足できるものではなく、固体電解コンデンサの陽極部と陰極部とを確実に絶縁できるマスキング方法が求められていた。
【0007】
本発明者らは、WO00/67267号パンフレット(特許文献4)において、(1)直線運動を行なう台上(支持部材)に複数の化成箔(基板)の一端を短冊状に固定すること、(2)上記支持部材に固定された基板の裏面(下側)に、回転運動をする円盤状ローラーの平滑な頂面(塗布面)が一定の力で接触するように配置すること、(3)ローラーの塗布面へのマスキング材の供給は、マスキング材を含む溶液を密閉容器に保管し、脈動の少ない定量連続吐出ディスペンサー等の定量塗布液供給機を用い、樹脂チューブ、ニードル等を介して密閉系で行なうこと、(4)塗布面の円周部へ均一にマスキング材を含む溶液が塗布されたローラーを化成箔に押圧し、金属板ガイドの走行速度と回転ローラーの回転速度を調整することにより化成箔基板の下面及び側面へのマスキング材の塗布を行なうこと、(5)マスキング材を含む溶液が塗布されたローラーが化成箔基板に接触した後、新たな塗布液が塗布されるまでの間にローラーの塗布面に残留するマスキング材を除去清掃する手段を設けること、によって基板の所望の箇所の全周にマスキング材を均一な線状に塗布する方法を提案した。
この方法は、優れた効果を有するが、マスキング材を含む溶液をシリンダーに保持し、ディスペンサーから吐出するため、継続的に操業を行なうと溶液のゲル化が発生しやすい。この結果、吐出が不安定になったり、頻繁にシステムの点検や交換等を行なう必要があった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−47611号公報
【特許文献2】特開平5−166681号公報
【特許文献3】特開平05−159983公報
【特許文献4】WO00/67267号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は上記従来技術の問題点を解決し、マスキング層を均一かつ経時的に安定して形成する固体電解コンデンサの製造方法及びマスキング材塗布装置並びに前記製造方法または装置によって製造される固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは、マスキング材の供給をギアポンプをもって行なうことにより、マスキング層を均一かつ経時的に安定して形成し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下の固体電解コンデンサの製造方法、マスキング材塗布装置及び固体電解コンデンサが提供される。
【0011】
1.表面に誘電体層を有する弁作用金属材料上に固体電解質を陰極として形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、固体電解質層と陽極端との間を絶縁遮断するマスキング材の供給をギアポンプをもって行なうことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
2.マスキング材溶液をギアポンプをもって仲介部材の表面に供給し、次いで、このマスキング材溶液を固体電解コンデンサ用基材に転写してマスキング層を形成する前記1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
3.仲介部材が回転ローラーである前記2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
4.マスキング材溶液が、耐熱性樹脂またはその前駆体の溶液である前記1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
5.マスキング材がシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂またはこれらの混合物もしくは共重合体から選択される耐熱性樹脂である前記1〜4のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
6.弁作用金属材料が、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムのうち少なくとも一種の金属を含む前記1〜5のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
7.弁作用金属材料を含む固体電解コンデンサ用基材が平板状であり、陽極部領域と陰極部領域の間の一方の面、両面または全周にわたって少なくとも1の線状または帯状のマスキング層を形成する前記1〜6のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
8.固体電解コンデンサ用基材にマスキング材を塗布するマスキング材塗布装置において、マスキング材を含む溶液を供給する手段がギアポンプを含むことを特徴とするマスキング材塗布装置。
9.複数の固体電解コンデンサ用基材をそれぞれの端部において保持する支持部材、前記支持部材を移動する手段、前記基板の所望の箇所に接触する回転ローラー、前記回転ローラーの塗布面にマスキング材を含む溶液を供給する手段、及び回転ローラーの塗布面を清掃するスクレーパーを備え、固体電解コンデンサ用基材の所望箇所の両面及び両側面にマスキング材を塗布するマスキング材塗布装置において、マスキング材を含む溶液を供給する手段がギアポンプを含むことを特徴とするマスキング材塗布装置。
10.前記1〜7のいずれかに記載の方法によって製造された固体電解コンデンサ用基材を用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
11.前記8または9に記載の装置によって製造された固体電解コンデンサ用基材を用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期にわたってマスキング層が均一かつ経時的に安定して形成され、製造プロセスが効率化されるともに製品品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の固体電解コンデンサの製造方法、マスキング材塗布装置及び固体電解コンデンサについて説明する。
(固体電解コンデンサの製造方法)
本発明の製造方法は、弁作用金属材料上に固体電解質を陰極として形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、固体電解質層と陽極端との間を絶縁遮断するマスキング材の供給をギアポンプをもって行なうことを特徴とする。
ギアポンプは回転ポンプの一種であり、複数のギアの噛合いにより流体を押出すポンプである。ギアポンプには、適用対象として紡糸用ギアポンプ、昇圧・送液用ギアポンプ、油剤用ギアポンプ等があり、用途として押出し成形用ギアポンプ、計量用ギアポンプ等が市販されているが、本発明では、予め定めた量のマスキング材を吐出し得るものであればいずれのギアポンプも用いることができる。構造的には1個のギアケースに収容されるギアの個数により、2ギア配列、3ギア配列、遊星配列等が知られているが、これらのいずれの構成でもよい。
【0014】
本発明においてギアポンプは、マスキング材(通常、溶液等の形態を取るが特に必要がない限り、以下、単にマスキング材という。)の送出に効果がある限りにおいてマスキング材供給系の任意の場所に設けることができる。例えば、塗布面に対しギアポンプからノズルまたはニードルを介して直接にマスキング材の送出を行なってもよいし、ノズルまたはニードルとの間にパイプないしチューブ等の管系を設けてもよい。
ギアポンプの吐出量は、製造しようとする固体電解コンデンサの寸法やマスキング層の幅、要求されるマスキング層の幅等の精度にもよるが、通常は0.05〜1ml(1回転当たり)程度の吐出が可能であればよい。一般にギアポンプのギア回転速度は低速であり過熱が問題になることはないが、必要であれば温度制御手段を設けてもよい。ギアポンプには、用いるギアポンプの内容量、構造等の仕様に従って、適宜、液溜めから送入管を経てマスキング材を送り込むことができる。軸封方式には、カプラ方式、グランドパッキン方式、オイルシール方式、メカニカルシール方式等があるが、これもいずれの方式も利用可能である。
【0015】
ギアポンプを使用することにより、通常、マスキング層形成に要求される微量の吐出を高精度で行なうことができる。また、マスキング材のゲル化が発生しても操業を停止することなく使用を継続することができる。
マスキング材溶液はギアポンプをもって、コンデンサ用基材に直接に塗布してもよいが、仲介部材の表面に供給し、次いで、この仲介部材上のマスキング材溶液を固体電解コンデンサ用基材に転写してマスキング層を形成してもよい。このような仲介部材としては回転ローラー、平板、半円筒(横断面が円弧状の柱状部材)が挙げられる。一般にマスキング層は1mm程度の微小な線幅であり、一方、長さは数〜十数mmに及ぶため、回転ローラー、特に円盤状の回転ローラーが好適に使用できる。
【0016】
本発明においてマスキング材としては、一般的な耐熱性樹脂、好ましくは溶剤に可溶あるいは膨潤し得る耐熱性樹脂またはその前駆体、無機質微粉とセルロース系樹脂からなる組成物(特開平11−80596号公報参照)等が使用できるが、材料は限定されない。具体例としてはポリフェニルスルホン(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、シアン酸エステル樹脂、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等)、低分子量ポリイミド及びそれらの誘導体などが挙げられる。特に好ましくは低分子量ポリイミド、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂及びそれらの前駆体が挙げられる。
コンデンサ用基材は、好ましくは表面に誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属である。弁作用金属はアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムあるいはこれらを基質とする合金系の弁作用を有する金属箔、棒、あるいはこれらを主成分とする焼結体等から選ばれる。これらの金属は空気中の酸素により表面が酸化された結果としての誘電体酸化皮膜を有しているが、予め公知の方法によりエッチング処理等をして多孔質化する。次に公知の方法に従って、化成処理し確実に誘電体酸化皮膜を形成しておくことが好ましい。
【0017】
(マスキング材塗布装置)
本発明のマスキング材塗布装置は、固体電解コンデンサ用基材にマスキング材を塗布するマスキング材塗布装置において、マスキング材を含む溶液を供給する手段がギアポンプを含むことを特徴とする。従って、上に述べたギアポンプを用いたマスキング材供給部を有する装置であれば、他の構成部分は特に限定されないが、例えば、WO00/67267において説明した装置について好適に用いることができる。
WO00/67267において説明した装置に本発明を適用した態様を平面図(図a)および側面図(図2b)で示す。
【0018】
図2の装置は、円盤状の回転ローラー(13)を1回転させる間に、ローラー塗布面へのマスキング材を含む溶液の供給、基板へのマスキング材の塗布、およびローラー表面に残留するマスキング材の清掃の1サイクルを実施できるように構成されている。
図中、11は複数の固体電解コンデンサ用基材(12a,12b,12c……)の一端を複数の固体電解コンデンサ用基材をそれぞれの端部において保持する支持部材である。
支持部材(11)は好ましくは金属製であり、支持部材(11)への基板の固定は電気的あるいは機械的に接合することにより行なうことができる。接合方法としては、例えば半田付け、導電ペーストによる接合、超音波溶接、スポット溶接、電子ビーム溶接などが挙げられる。
【0019】
支持部材(11)は回転ローラー(13)上を矢印方向に直線運動する。支持部材(11)を移動する手段(図示せず)としてモーター、ベルト、シリンダー等慣用の手段が利用できる。支持部材の進行速度(V1)と回転ローラーの回転速度(V2)の関係を調整することにより基板(12)の側面をも塗布することができる。すなわち、図2aに示すように、支持部材の進行速度(V1)が回転速度(V2)より大きい時は、基板の進行方向先端部の側面を塗布でき、支持部材の進行速度(V1)が回転速度(V2)より小さいときは、基板の進行方向後端部の側面部を塗布できる(図2b)。
【0020】
また、この装置では、支持部材と回転ローラーとの相対的な位置関係を反転させ支持部材に固定した基板の両面および両側面を塗布できる機構を設けている。このような機構の一例は支持部材の反転機構である。反転はモーター、シリンダーを利用するか、あるいは支持部材の保持部を長手方向に対して回動自在に設け保持部を半回転させることなどにより行なうことができる。
反転した支持部材に固定された基板の反対面を塗布するためには、回転ローラーの塗布面と基板の塗布位置との関係を調整する必要があるが、慣用の手段により支持部材を移動するか、回転ローラーの位置を移動するか、あるいは両者を移動することにより行なうことができる。また、2台の回転ローラーを用意し、反転した支持部材に固定された基板の未塗布面を専用の回転ローラーにて塗布してもよい。さらに、基板を挟み配置に2台の回転ローラーを設置し、支持部材に固定した基板の両面及び両側面を同時にマスキングすることもできる。
【0021】
回転ローラー(13)は、前記基板の所望の箇所に所定の押圧力で接触する平滑な塗布面を有する円盤状の回転ローラーである。回転ローラー(13)としては、マスキング材を含む溶液に耐性のある硬質の材料からなる金属製(ステンレス鋼等)あるいはセラミック材料製のものが使用される。その大きさは、1回転する間(マスキング材の塗布の1サイクル)にマスキング材が変質しない大きさであればよく、通常直径約2mm〜約500mmであり、本発明においては限定されない。また、ローラーの塗布面幅は、所望幅にマスキング材が塗布できる幅であり、好ましくは、0.2〜3.0mm程度である。
前記回転ローラー(13)の周囲には、前記基板との接触位置の後方(回転方向の後方)に塗布面にマスキング材を含む溶液を供給するニードル部(14)及びギアポンプ(15)、基板(12)との接触位置の前方に回転ローラーの塗布面を清掃するスクレーパー(16)及び拭き取り材(17)が配設されている。適当な液溜め(18)を有してもよい。
【0022】
マスキング材を含む溶液を供給する手段は、本発明ではギアポンプ(15)を備えた定量塗布液供給機である。この定量塗布液供給機から、マスキング材を含む溶液に耐性のある樹脂製のチューブを通して吐出ニードル(14)により所定量連続的にローラー塗布面にマスキング材を含む溶液を供給する。
また、マスキング材を含む溶液をローラー(13)の塗布面に安定して供給するためにニードル先端部とローラー面との距離を安定させる微調整機構が設けられている。このような機構の一例は、マイクロメータヘッド(ネジ機構)を使って上下の位置を微調整するものである。
【0023】
マスキング材を含む溶液を供給された回転ローラー(13)の塗布面は、基板との接触位置にて一定の押圧力で基板と接触する。この接触時の押圧力は、基板の弾性限度内であり、好ましくは回転運動をするローラーの平滑な頂点(塗布面)における撓み量が約0.03〜0.3mmの範囲となるようにする。具体的な押圧力は、基板の種類や厚みによって異なるため一概に言えないが、例えば0.002〜0.02g/基板(幅3mm×厚さ0.1mm)程度とする。
次いで、ローラー塗布面を清掃する。清掃手段としては、例えば、機械式スクレーパ(15)と拭き取り材(16)を使用する。
【0024】
スクレーパー(15)はステンレス鋼、セラミックス材料などのローラーと同質あるいはそれよりは柔らかい材質からなる材料製(樹脂、鋼材等)のブレードであり、少なくとも先端がローラーの塗布面と密接するように配置され、基板塗布後のローラーの塗布面に残留するマスキング材をかき落とす。スクレーパー(15)の前方(回転方向の前方)に配設された、樹脂繊維に有機溶剤及び/または水(マスキング材溶液に使用しているのと同一の溶剤など)をしみ込ませた拭き取り材(16)にてローラー塗布面の付着物をこすり落とし、次の塗布サイクルに備えられる。
本装置ではマスキング材を含む溶液をギアポンプ(15)を用いて無脈動式の駆動方式を採用することにより回転ローラーの塗布面に安定して供給できる。
【0025】
(固体電解コンデンサ)
本発明の固体電解コンデンサは、上記製造方法または上記塗布装置を用いて製造されるマスキング層を有する固体電解コンデンサである。
固体電解質その他の構成は特に限定されない。例えば、固体電解質としてはチオフェン骨格を有する化合物、多環状スルフィド骨格を有する化合物、ピロール骨格を有する化合物、フラン骨格を有する化合物、アニリン骨格を有する化合物等で示される構造を繰り返し単位として含む導電性重合物が挙げられるが、固体電解質を形成する導電性重合物はこれに限られるものではない。
【0026】
固体電解コンデンサは陽極部に接合したリードフレームにリード端子を接合し、固体電解質層、カーボンペースト層及び金属粉含有導電性層からなる陰極部にリード線を接合し、さらに全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂で封止して得られる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、以下の実施例では図2に準じて構成した本発明の塗布装置を用いた。ギアポンプは協和科学(株)製CDSE−18.0−0.1cc/revを用い、吐出のニードル径は内径0.5mmとし、ギアポンプとニードル間はフッ素樹脂製チューブ(内径2mm,長さ80cm)で接続した。
【0028】
実施例
厚み100μmの化成アルミ箔を3mm幅に切断(スリット)したものを13mmずつの長さに切り取り、この箔片の一方の短辺部を支持部材(ステンレス製)に溶接により固定し、固定していない端から7mmの箇所に粘度800cpに調整したポリイミド樹脂溶液を、塗布面幅0.4mmの円盤状の塗布装置に供給して、塗布装置の塗布面をアルミ化成箔の全周に当接・押圧して0.8mm幅に線状に描き、加熱乾燥させマスキング層(ポリイミド膜)を形成した。
【0029】
マスキング材をギアポンプに供給しつつ、塗布作業を連続して行ない、6ヶ月の操業後、ギアポンプを分解し、内部を観察した。ギアポンプ内壁、ニードル及びチューブ内にゲル化物が堆積していたが、閉塞は発生しておらず、アルミ化成箔上のポリイミド層の線幅にも全く変化は見られなかった。さらに、この時点でポリイミド層を顕微鏡観察したところ、均一な層が形成されていた。
また、得られたマスキング済みコンデンサ素子について、化成処理層領域に以下のようにして固体電解質を形成した。すなわち、アルミ箔の先端から4mmのマスキング層を境にしてマスキング層と逆側の部分(3mm×4mm)を3,4−エチレンジオキシチオフェン20質量%を含むイソプロパノール溶液(溶液1)に浸漬し、次にこのモノマー溶液処理したアルミ箔部分を過硫酸アンモニウム30質量%を含む水溶液(溶液2)に浸漬し、これを10分間乾燥し、酸化重合を行なった。溶液1に浸漬してから溶液2に浸漬し酸化重合を行なう操作を25回繰返して固体電解質層を形成した。
【0030】
マスキング層を含む部分をリードフレーム上に銀ペーストで接合しながら3枚重ね、導電性重合体のついていない部分に陽極リード端子を溶接により接続し、全体をエポキシ樹脂で封止し、120℃で定格電圧を印加して2時間エージングしてチップ型固体電解コンデンサを作製した。これらのコンデンサ素子について、230℃の温度領域を30秒通過させることによりリフロー試験を行ない、定格電圧印加後1分後の漏れ電流を測定し、測定値が1CV以下のものについて平均値を求め、0.04CV以上を不良品とした。
上記の操業開始時点から6ヶ月経過するまでの間、適宜サンプリングすることにより上記の製品性能試験を1週間おきに行なった。その結果、漏れ電流値及び不良品発生率のいずれにも統計的に有意な経時変化は観察されなかった。
【0031】
比較例
ギアポンプの代わりにディスペンサー(カートリッジ式のピストン及びシリンダーを有し、ステッピングモーター駆動によりピストンを押出す方式)を用いた以外は上記実施例と同様にしてマスキング材の塗布を行なった。
ディスペンサーはシリンダーに所定量ずつ加える形式を取るため、頻繁にカートリッジ交換が必要であり、そのようにして新たなマスキング材を用いているにも拘らず送液ラインでゲル化が起こり、閉塞を防ぐために概ね10日間に1回程度はニードル及びチューブの交換が必要であった。また、ディスペンサー自体も概ね30日間に1回程度は全体の解体清掃が必要であった。
また、ポリイミド層の線幅にもニードル及びチューブ交換に同期した周期的変化が見られ、顕微鏡観察したところ、ニードル及びチューブの交換から数日経つとポリイミド層内にゲル化物が観察された。また、製品のサンプリング結果からも、漏れ電流値及び不良品発生率のいずれにも、ニードル及びチューブの交換あるいはディスペンサーの解体清掃に起因する統計的に有意な経時変化が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、吐出量の微量なマスキング層形成工程において、流量制御が精密で脈動のほとんどない吐出が実現できる。ポンプの内壁にはマスキング材のゲル化が見られるが、吐出量への影響はほとんどない。特に高圧時に従来のディスペンサーに比べより安定な吐出が可能である。さらに、吐出物の劣化もほとんど見られないため、吐出装置を頻繁に点検管理する必要がなく、半年程度は特別な保守管理を要せずに使用できる。このため、コンデンサの製造プロセスの効率化に有用であり、実際的に優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一般的な固体電解コンデンサ用基材の模式的断面図である。
【図2】マスキング材の塗布を行なう装置例の概要を示す平面図(a)及び側面図(b)である。
【図3】基板の側面塗布の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 陽極部領域
2 陰極部領域
3 マスキング材
4 多孔質層
13 回転ローラー
11 支持部材
12 固体電解コンデンサ用基材
13 回転ローラー
14 吐出ニードル
15 ギアポンプ
16 スクレーパー
17 拭き取り材
18 液溜め


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層を有する弁作用金属材料上に固体電解質を陰極として形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、固体電解質層と陽極端との間を絶縁遮断するマスキング材の供給をギアポンプをもって行なうことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
マスキング材溶液をギアポンプをもって仲介部材の表面に供給し、次いで、このマスキング材溶液を固体電解コンデンサ用基材に転写してマスキング層を形成する請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
仲介部材が回転ローラーである請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
マスキング材溶液が、耐熱性樹脂またはその前駆体の溶液である請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
マスキング材がシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂またはこれらの混合物もしくは共重合体から選択される耐熱性樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
弁作用金属材料が、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムのうち少なくとも一種の金属を含む請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
弁作用金属材料を含む固体電解コンデンサ用基材が平板状であり、陽極部領域と陰極部領域の間の一方の面、両面または全周にわたって少なくとも1の線状または帯状のマスキング層を形成する請求項1〜6のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
固体電解コンデンサ用基材にマスキング材を塗布するマスキング材塗布装置において、マスキング材を含む溶液を供給する手段がギアポンプを含むことを特徴とするマスキング材塗布装置。
【請求項9】
複数の固体電解コンデンサ用基材をそれぞれの端部において保持する支持部材、前記支持部材を移動する手段、前記基板の所望の箇所に接触する回転ローラー、前記回転ローラーの塗布面にマスキング材を含む溶液を供給する手段、及び回転ローラーの塗布面を清掃するスクレーパーを備え、固体電解コンデンサ用基材の所望箇所の両面及び両側面にマスキング材を塗布するマスキング材塗布装置において、マスキング材を含む溶液を供給する手段がギアポンプを含むことを特徴とするマスキング材塗布装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって製造された固体電解コンデンサ用基材を用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項11】
請求項8または9に記載の装置によって製造された固体電解コンデンサ用基材を用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−35888(P2007−35888A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216452(P2005−216452)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】