説明

固体高分子型燃料電池の触媒層の評価方法

【課題】固体高分子型燃料電池の触媒層における、プロトン伝導性を評価する方法を提供する。
【解決手段】触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末とプロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を、次式(プロトン移動距離係数)=d×A×S×r[式中、dは触媒層の厚さ(μm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]で定義されるプロトン移動距離係数に基づいて評価する。このプロトン移動距離係数が0.05〜0.8になるよう制御することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を評価する方法に関する。さらに、その評価方法を利用して最適化された触媒層を有する固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を設け、水素ガスを燃料ガスとして一方の電極(燃料極:アノード)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として他方の電極(空気極:カソード)へ供給することによって起電力を得るものである。固体高分子型燃料電池は、高い電池特性を得られることに加え、小型軽量化が容易であることから、電気自動車等の移動車両や、小型コジェネレーションシステムの電源等として実用化が期待されている。
【0003】
通常、固体高分子型燃料電池に使用されるガス拡散性の電極は、プロトン伝導性高分子電解質で被覆された触媒担持カーボン粉末を含有する触媒層と、この触媒層に反応ガスを供給すると共に電子を集電するガス拡散層とから構成される。そして、触媒層内には、カーボンの二次粒子間あるいは三次粒子間に形成される微小な細孔からなる空隙部が存在し、その空隙部が反応ガスの拡散流路として機能している。
【0004】
カーボン粉末に担持させるカソード及びアノード触媒としては、白金又は白金合金等の貴金属が用いられる。例えば、白金担持カーボン粉末は、塩化白金酸水溶液に、亜硫酸水素ナトリウムを加えた後、過酸化水素水と反応させ、生じた白金コロイドをカーボンブラック等の粉末に担持させ、洗浄後、必要に応じて熱処理することにより調製される。この白金担持カーボン粉末をプロトン伝導性高分子電解質の溶液に分散させて触媒インクを調製し、その触媒インクをカーボンペーパーなどのガス拡散基材に塗布し、乾燥することによって電極が作製される。この2枚の電極で固体高分子電解質膜を挟み、ホットプレス等することにより電解質膜−電極接合体(MEA)が組立てられる。
【0005】
固体高分子型燃料電池の発電性能を高めるには、触媒に対してプロトンを効率的に供給することが望まれる。そのために、触媒層内におけるプロトン伝導性を向上させることが必要である。また、従来は、効率良く燃料電池を作動させるために、触媒層に対して反応ガスとともに水蒸気を供給し、高分子電解質膜を常に湿潤状態に保持している。しかし、湿潤状態にするには空気供給路又は水素供給路に加湿器を別途設けなければならず、それによって燃料電池が大型化し、製造コストが上昇するという欠点があった。そのため、低加湿条件下でも運転可能な技術の開発が望まれているが、低加湿条件下では、通常、触媒層内におけるプロトンの物質移動抵抗が増加し、燃料電池の出力性能は低下する傾向がある。したがって、低加湿条件下での運転においては触媒層内でのプロトン伝導性の向上はより重要な課題となる。
【0006】
触媒層のプロトン伝導性を高めるための技術が従来提案されている。例えば、(特許文献1)には、親水化処理された触媒担持カーボンの粒子が高分子電解質で被覆されているマイクロ/ナノカプセルを含む燃料電池用の触媒層が開示されている。親水化処理により、触媒担持カーボンの粒子が比較的均一な高分子電解質の層で覆われ、粒子表面近傍にプロトン伝導性に優れた領域ができるとされている。しかし、この技術は、個々の触媒担持カーボン粒子におけるプロトン伝導性を検討したものに留まり、触媒層全体でのプロトン伝導性を評価し、最適化したものでないという点で不十分であった。
【0007】
また、(特許文献2)には、プロトン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜上に接合された第1電極とを備える膜−電極接合体であって、前記第1電極は、触媒と、前記触媒を被覆しプロトン交換基として機能する第1アイオノマ(プロトン伝導性高分子電解質)とを含み、前記第1電極において、前記膜−電極接合体の定格出力点における生成水量(mol/min)/第1アイオノマ体積(cm)が1350以上であることを特徴とする膜−電極接合体が開示されている。この構成により、第1アイオノマにおける水分濃度が十分に高くなり、プロトン移動抵抗を低下させることができるが、触媒層全体におけるプロトン伝導性を評価し、触媒層の構成を最適化する手法として、なお改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−286329号公報
【特許文献2】特開2008−192490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、固体高分子型燃料電池の触媒層における、プロトン伝導性を評価する方法を提供することを目的とする。また、その評価方法を利用して、優れたプロトン伝導性を有し発電性能の高い触媒層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に対し、本発明者は、触媒層の厚さや、触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の酸量等に基づく「プロトン移動距離係数」を定義し、このプロトン移動距離係数と電池性能との関係を調べたところ、相関性が認められたため、この知見に基づき本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末とプロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を、次式
(プロトン移動距離係数)=d×A×S×r
[式中、dは触媒層の厚さ(μm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
で定義されるプロトン移動距離係数に基づいて評価する方法。
【0012】
(2)触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末とプロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を、次式
(プロトン移動距離係数)=W×A×S×r
[式中、Wは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の、触媒層の単位面積当たりの量(mg/cm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
で定義されるプロトン移動距離係数に基づいて評価する方法。
【0013】
(3)上記(1)に記載のプロトン移動距離係数が0.05〜0.8である触媒層を有する固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロトン移動距離係数という新たな概念を採用することによって、固体高分子型燃料電池の触媒層内におけるプロトン伝導性を評価することが可能となる。また、プロトン移動距離係数が0.05〜0.8になるよう制御することによって、触媒粒子へのプロトンの伝導効率が向上し、発電性能を高めることができる。特に、MEA内に水分が少ない環境では一般にプロトン伝導性が低下する傾向にあるため、本発明によって最適化された触媒層の、発電性能の向上に対する寄与は大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の評価方法を説明するための、触媒層内の状態を示す模式図である。
【図2】本発明の評価方法を説明するための、触媒層内の状態を示す模式図である。
【図3】本発明の評価方法を説明するための、触媒層内の状態を示す模式図である。
【図4】酸処理時間と触媒担持カーボン粉末の酸量との関係を示すグラフである。
【図5】酸処理温度と触媒担持カーボン粉末の酸量との関係を示すグラフである。
【図6】触媒担持カーボン粉末の酸量とプロトン伝導過電圧との関係を示すグラフである。
【図7】プロトン移動距離係数に対する発電性能の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法では、触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末と、プロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層全体におけるプロトン伝導性を評価するに当たり、特に、触媒層の厚みと、親水処理が施された上記触媒担持カーボン粉末の酸量に注目する。
【0017】
上記の厚み及び酸量とプロトン伝導性の関係について、触媒層の状態を模式的に示す図1及び図2に基づき説明する。図1に示すように、触媒層は、触媒2が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末1と、それを取り囲むプロトン伝導性高分子電解質3とを含んでいる。このとき、触媒層の厚みdに依存してプロトンHの移動距離が増減する。すなわち、触媒層の厚みdが大きくなるほど、プロトンの移動距離が大きくなることが分かる。また、図2に示すように、触媒2が担持されたカーボン粉末1は、酸を作用させること等によって表面にカルボキシル基等の親水基が付与されるが、この親水基の量(酸量)が多い場合(図2(a))、触媒担持カーボン粉末の表面は、同様に親水基を有するプロトン伝導性高分子電解質3によって薄く均一に被覆され、その結果、Hが触媒1に接触することで生成するプロトンHは薄いプロトン伝導性高分子電解質3の層に沿って非直線的に進み(矢印)、プロトンの移動距離は増大する。一方、酸量が少ない場合(図2(b))には、触媒担持カーボン粉末の表面にプロトン伝導性高分子電解質3が不均一に被覆され、その結果としてプロトンの移動距離が小さくなる伝導経路が形成される(矢印)。したがって、プロトンの移動距離を小さくする観点からは酸量は小さくなるように制御することが好ましい。
【0018】
以上の知見に基づき、本発明者は、以下に定義される「プロトン移動距離係数」を用いて、触媒層におけるプロトンの移動しやすさを表し得ることを見出した。すなわち、プロトン移動距離係数は、
(プロトン移動距離係数)=d×A×S×r (1)
[式中、dは触媒層の厚さ(μm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
によって求められる。
【0019】
ここで、酸量(mmol/g)は、例えば、親水処理が施された触媒担持カーボン粉末を中和し、その中和に要したアルカリの量から求めることができる。また、担体形状因子とは、Ketjen EC(商品名;ケッチェンブラックインターナショナル社製)に対するプロトン移動経路の屈曲の度合を示し、比表面積が大きな担体ほど大きな値となる傾向があり、0.1〜2の範囲で変動する値である。具体例として、Ketjen EC(比表面積:約800m/g)の担体形状因子が1、Vulcan(Cabot社製、比表面積:約250m/g)では0.3、アセチレンブラック(電気化学工業社製、比表面積:約60m/g)では0.1、Ketjen EC 600JD(ケッチェンブラックインターナショナル社製、比表面積:約1200m/g)では1.5である。これらの担体形状因子は、各担体の比表面積のおよその比に基づいて求めることができる。
【0020】
さらに、上記プロトン移動距離係数は、プロトン伝導性高分子電解質/親水処理が施された触媒担持カーボン粉末の重量比rが、触媒層の厚み方向において一定でなく、変動する場合にも求めることができる。具体的には、重量比rが一定とみなせる厚み部分について、個々にプロトン移動距離係数を算出し、それらを合計することによって全体の触媒層のプロトン移動距離係数を求めることができる。例えば、図3に示すように、触媒層が、プロトン伝導性高分子電解質/親水処理が施された触媒担持カーボン粉末の重量比がrである厚さdの部分と、重量比がrである厚さdの部分から構成される場合、触媒層全体のプロトン移動距離係数は次式で求められる。
(プロトン移動距離係数)=d×A×S×r+d×A×S×r (2)
【0021】
触媒層において十分なプロトン伝導性が発揮され、高い発電性能を得るためには、上記式で求められるプロトン移動距離係数が0.05〜0.8、特に0.1〜0.5となるように触媒層を設計することが好ましい。これらの好ましい範囲は、アノード側及びカソード側のいずれの触媒層についても同様に当てはまる。触媒層のプロトン移動距離係数は、上記式に基づき、触媒層の厚さ、触媒担持カーボン粉末を親水処理する際の条件(酸処理時間、酸処理温度、酸濃度等)、カーボン粉末の種類、及びプロトン伝導性高分子電解質/触媒担持カーボン粉末の重量比等によって任意に制御することができる。例えば、0.05〜0.8のプロトン移動距離係数を得るための条件としては、触媒層の厚さを0.3〜2.5μm、酸量を0.20〜0.35mmol/g(酸処理温度80〜90℃、酸処理時間0〜1時間)とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、従来知られている触媒層は、例として厚さが3μm以上、酸量は0.4mmol/g程度であり、プロトン移動距離係数は概ね1.0以上である。
【0022】
なお、上記式における触媒層の厚さdは、親水処理が施された触媒担持カーボン粉末の、触媒層の単位面積当たりの量Wと比例するため、dをWに置き換えても良い。すなわち、次式に従ってプロトン移動係数を求めることができる。
(プロトン移動距離係数)=W×A×S×r (3)
[式中、Wは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の、触媒層の単位面積当たりの量(mg/cm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
【0023】
上記(3)式を用いてプロトン移動距離係数を求めた場合、高い発電性能を得る観点から、好ましい範囲は0.0025〜0.04、好ましくは0.005〜0.025である。
【0024】
触媒を担持させるカーボン粉末としては、上記式により得られるプロトン移動距離係数の値を考慮しつつ適宜選択することができ、特に限定されない。比表面積が200m/g以上であることが好ましい。カーボンブラックが一般的に使用される。その他、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、カーボンナノチューブ等が適用可能である。好適な例として、Ketjen EC(ケッチェンブラックインターナショナル社製)やVulcan(Cabot社製)が挙げられる。
【0025】
また、カーボン粉末に担持させる触媒としては、白金、コバルト、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の金属、あるいは上記金属の2種以上からなる合金、金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。
【0026】
触媒層に用いるプロトン伝導性高分子電解質としては、含フッ素イオン交換樹脂等が適用可能であり、特に、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体が好ましく用いられる。好適な例として、Nafion(デュポン社製)が挙げられる。
【0027】
カーボン粉末に触媒を担持させるに当たっては、従来の方法により行うことができる。具体的には、例えば、カーボン粉末を水等に懸濁させ、これに塩化白金酸等の触媒金属の化合物を滴下し、還元剤を滴下することによってカーボン粉末上に触媒を析出させる。得られた触媒担持カーボン粉末における触媒とカーボン粉末との割合は、触媒の種類等によって異なるが、一般に重量比率で触媒:カーボン粉末=1:9〜5:5とすることが好ましい。合金を担持させる場合は、さらに別の金属をカーボン粉末上に析出させ、高温で熱処理を行って合金化する。
【0028】
触媒を担持させたカーボン粉末は、プロトン伝導性高分子電解質による被覆性を改善するため、親水処理を行って表面にカルボキシル基等の親水基を付与する。親水処理としては、例えば、硝酸等の酸による処理、オゾン酸化、プラズマ処理、酸化雰囲気での熱処理等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記に挙げた各親水処理における諸条件(酸処理条件、熱処理条件等)は、プロトン移動距離係数の値に影響する他の因子との関係で決まり、また上述の通り、プロトン移動距離係数の値が好ましい範囲内となるよう適宜設定することができる。一例として、触媒担持カーボン粉末を硝酸水溶液で処理する場合の好ましい条件は、硝酸水溶液の濃度0.01〜5N、酸処理温度が室温〜100℃、酸処理時間0.5〜50時間であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
続いて、親水処理を施した触媒担持カーボン粉末と、プロトン伝導性高分子電解質とを、溶媒に加え、超音波照射やビーズミル等による分散処理を行うことにより、触媒インクを作製する。ここで用いる溶媒としては、水、及びエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコールや、含フッ素アルコール、含フッ素エーテル等を挙げることができる。そして、触媒インクを、燃料電池の高分子電解質膜又はガス拡散層となるカーボンクロス等に塗布し、乾燥させることによって触媒層を形成することができる。また、別途用意した基材上に上記触媒インクを塗布し乾燥させたものを、高分子電解質膜上に転写することによって高分子電解質上に触媒層を形成しても良い。
【0030】
触媒インクにおける、親水処理が施された触媒担持カーボン粉末に対するプロトン伝導性高分子電解質の重量比率は、プロトン移動距離係数を0.05〜0.8に制御する観点から、0.5〜1.5とすることが好ましい。また、触媒インク全体に対する水の重量比率は20〜50重量%とすることが好ましい。
【0031】
燃料電池におけるカソード及びアノードの触媒層の層厚は、適宜設定することができる。一般には、1〜30μm、好ましくは2〜15μmである。
【0032】
カソード及びアノードの触媒層に挟まれる高分子電解質膜の材料としては、湿潤条件下で良好なプロトン伝導性を示す材料であれば適用可能である。例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、ポリスルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を挙げることができる。中でも、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体が好ましく用いられる。なお、この高分子電解質膜は、触媒層に含まれるプロトン伝導性高分子電解質と同じ樹脂であっても良く、異なる樹脂から構成しても良い。
【0033】
触媒層をガス拡散層上に形成した場合には、触媒層と高分子電解質膜とを接着やホットプレス等により接合することによって、電解質膜−電極接合体(MEA)が組立てられる。また、高分子電解質膜上に触媒層を形成した場合には、触媒層のみでアノード及びカソードを構成しても良いし、さらに触媒層に隣接してガス拡散層を配置し、アノード及びカソードとしても良い。
【0034】
アノード及びカソードの外側には、通常、ガスの流路が形成されたセパレータが配置され、本発明の固体高分子型燃料電池が作製される。セパレータの流路に対し、アノードには水素を含むガス、カソードには酸素又は空気を含むガスが供給されて発電が行われる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
<触媒担持カーボン粉末の作製>
Pt担持させるカーボン粉末としてカーボンブラックKetjen EC(商品名;ケッチェンブラックインターナショナル社製)を用いた。担体形状因子は1である。このカーボンブラック2.0〜4.5gを蒸留水に懸濁攪拌し、塩化白金酸15%を3〜20g滴下した。次に、還元剤としてエタノール5〜30gを滴下することによりPtをカーボン上に析出させた。この混合物をろ過し、固形物を乾燥させることによってPt担持カーボン粉末を得た。なお、これらの作製条件は、調製したい触媒担持カーボン粉末におけるPtとカーボンとの重量比率(Pt/C比)や、1バッチ当たりの触媒担持カーボン粉末の量によって変動する。上記各条件は、Pt/C=1/9〜6/4、5g/バッチを目安とした場合の条件である。
【0036】
<親水処理>
次に、得られたPt担持カーボン粉末を、硝酸水溶液に浸し、低温制御しながら攪拌して親水処理を行った。
【0037】
<酸量の測定>
上記の親水処理を施したPt担持カーボン粉末0.5gを、0.1N水酸化ナトリウム20mlに加え、20分間超音波攪拌した後にろ過を行い、Pt担持カーボン粉末をろ別した。ろ液5mlに対して指示薬であるメチルオレンジ0.05mlを攪拌しながら加え、0.05N塩酸で滴定を行って、親水処理を施したPt担持カーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)を求めた。硝酸水溶液中での攪拌時間(酸処理時間)を0、21、及び45時間としたとき(温度は全て80℃)の酸量の変化(Pt/C比は同一)を図4に示す。また、硝酸水溶液による処理温度を80、90、及び95℃にしたとき(酸処理時間は全て21時間)の酸量の変化(Pt/C比は同一)を図5に示す。図4及び図5の結果から、酸処理時間、及び酸処理温度によってPt担持カーボン粉末の酸量の制御が可能であることが分かった。
【0038】
<触媒インクの作製>
親水処理を施したPt担持カーボン粉末に蒸留水を加えた後、エタノールを加えた。プロトン伝導性高分子電解質として、市販のナフィオン溶液(デュポン社製)をさらに加えた。このときの全体重量に対する水の重量比率は、40重量%とした。また、親水処理を施したPt担持カーボン粉末に対するプロトン伝導性高分子電解質の重量比率は1になるように設定した。これらの混合物を十分に攪拌し、粒子の微粒化や均一分散のため、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、触媒インクを作製した。
【0039】
<触媒層の作製>
上記で作製した各触媒インクを、テフロンの基材上に様々な厚さに塗布し、乾燥して触媒層を形成した。
【0040】
<MEAの作製>
上記で作製した触媒層をアノード側に用い、一方のカソード側には、Pt担持カーボン粉末(Pt:C=1:1(重量比率))、及び40重量%の水を含み、さらにプロトン伝導性高分子電解質のPt担持カーボン粉末に対する比率が0.75になるように調製した触媒インクによって形成した触媒層を用いた。高分子電解質膜にはフッ素系ポリマーである20−JT−VIILA(商品名;ゴア社製)を用い、この高分子電解質膜の両面に上記カソード及びアノード触媒層を130℃ホットプレスにより接合させ、テフロン基材を除去した。得られた電解質膜−電極接合体(MEA)を以下の発電性能評価に用いた。なお、プロトン移動距離係数の算出に必要な触媒層の厚みは、MEAの一部を切り出して樹脂包埋し、ミクロトームを用いて超薄切片を作製し、この超薄切片のサンプルをFE−SEMにて断面観察することにより測定した。そして、各作製条件におけるプロトン移動距離係数を上記(1)式に従って算出した。
【0041】
<燃料電池の性能評価>
MEAの外側に、カーボン基材と撥水層(PTFE)とからなるガス拡散層(GDL)を配置して固体高分子型燃料電池を作製し、アノード側に水素、カソード側に空気を流すことで発電させた。負荷電流に対する電圧値により燃料電池の性能評価を行った。加湿条件はセル温度80℃に対して両極とも40%RHとし、負荷電流は1.0A/cmとした。
【0042】
図6に、アノード触媒層の厚みを固定し、酸量を変えてプロトン伝導の過電圧(プロトン抵抗により生じる電圧のロス)を評価した結果を図6に示す。一般に、電圧が低下する理由としては主に、(a)触媒表面での反応の過電圧(活性化過電圧)、(b)酸素拡散の過電圧、(c)プロトン伝導の過電圧、及び(d)抵抗過電圧が考えられる。これらの過電圧の合計値が大きいほど、電池性能は低下する。図6におけるプロトン伝導過電圧は、カソードに供給するガスをOとすることによって(b)酸素拡散の過電圧を0と仮定し、測定された全過電圧から、(a)活性化過電圧、及び(d)抵抗過電圧を除くことにより求めた。このときの(a)活性化過電圧は0.43V、(d)抵抗過電圧は0.14Vであるとして計算した。
【0043】
図6の結果から、Pt担持カーボン粉末の酸量の増加に伴い、Pt担持カーボン粉末の表面がプロトン伝導性高分子電解質によって薄く均一に被覆されるため、プロトンの移動距離が増加し、プロトン伝導の過電圧が増加したことが示唆された。
【0044】
図7に、アノード触媒層の厚み及び触媒酸量を変えることで様々なプロトン移動距離係数になるように設計した燃料電池の電圧値を示す。図7の結果より、プロトン移動距離係数が低下するに伴って性能は向上し、0.05〜0.8の範囲内では高い電圧値が維持されることが分かった。このことから、アノード電極にはプロトン移動距離係数が0.8以下の触媒層を用いることによって、発電性能の高い燃料電池が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0045】
1 カーボン粉末
2 触媒
3 プロトン伝導性高分子電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末とプロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を、次式
(プロトン移動距離係数)=d×A×S×r
[式中、dは触媒層の厚さ(μm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
で定義されるプロトン移動距離係数に基づいて評価する方法。
【請求項2】
触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末とプロトン伝導性高分子電解質とを含む固体高分子型燃料電池の触媒層におけるプロトン伝導性を、次式
(プロトン移動距離係数)=W×A×S×r
[式中、Wは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の、触媒層の単位面積当たりの量(mg/cm)、Aは触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末の単位重量当たりの酸量(mmol/g)、Sはカーボン粉末の形状によって決まる担体形状因子、rは触媒層中における、プロトン伝導性高分子電解質(P)及び触媒が担持され且つ親水処理が施されたカーボン粉末(C)の重量比P/C、xは−1]
で定義されるプロトン移動距離係数に基づいて評価する方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプロトン移動距離係数が0.05〜0.8である触媒層を有する固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−28973(P2011−28973A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172827(P2009−172827)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】