説明

固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびその製造方法、それを使用した燃料電池単セル、燃料電池スタック

【課題】カソード触媒層およびアノード触媒層中の水が触媒層および高分子電解質膜のプロトン伝導度を保ちつつ、余分な水が抜けやすくなることでフラッディングを防止し得る、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池単セルを提供する。
【解決手段】貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14からなる電極触媒層を備える固体高分子形燃料電池用膜電極接合体12である。少なくともアノードおよびカソードどちらか一方の上記電極触媒層には、30nm以上800nm以下の一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16が存在している。フッ素樹脂の一次粒子化およびその攪拌は、貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14の混合攪拌と同時に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池の技術における、発電性能向上のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素などの燃料ガスと空気などの酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する発電装置の一種であり、高効率かつ環境負荷が低いなどの利点を有する。中でも電解質に高分子を用いる固体高分子形燃料電池は、低温での動作が可能であるため家庭用あるいは車載用の電源としての利用が見込まれている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の両面に電極を設けた構造の膜電極接合体を備える。膜電極接合体の製造方法としては、基材として用いた転写シート上に電極触媒層を形成し、その転写シート上の電極触媒層を熱プレスすることにより、高分子電解質膜の両面に電極触媒層を接合する方法が挙げられる。ここで、上記電極触媒層の形成は、例えば基材として用いた転写シート上に、導電性担体に担持した貴金属触媒と高分子電解質が溶媒に分散された触媒インクを塗布、乾燥させて形成する。また、上記基材としてガス拡散層を用い、上記のようにして電極触媒層を形成したガス拡散層を高分子電解質膜に熱プレスすることや、高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布、乾燥させることにより高分子電解質膜の両面に電極触媒層を接合する方法で膜電極接合体を製造する場合もある。
【0004】
作製された膜電極接合体は固体高分子形燃料電池単セルに組み込まれる。固体高分子形燃料電池単セル内部の構造としては、膜電極接合体の外側にガス拡散層があり、これらを挟持するようにセパレータが接合している。セパレータはガス流路を備えており、燃料極(アノード)では主に水素である燃料ガス、空気極(カソード)では主に酸素および空気である酸化剤ガスを、流路を介してアノードおよびカソードに供給する役割を持つ。またセパレータは膜電極接合体で生じた起電力により流れた電流を集める集電体としての役割も有すため、導電性を持つ材料から作られる必要がある。
【0005】
なお、アノードおよびカソードに供給されるガスが混合されると電極での電気化学反応を阻害するため、混合されないようにシールする必要があり、膜電極接合体の外周部にある高分子電解質膜を覆うようにガスケットが配置される。
【0006】
燃料電池は、車載用や家庭用といった実用機では、大電流を確保するために固体高分子形燃料電池単セルを複数直列に接続させたスタック構造となっている。
【0007】
膜電極接合体の電極触媒層は、主に、下記のような4つの要求特性を持っており、それらの特性の性能が高いときに燃料電池の発電特性は高くなることが知られている。
【0008】
第1の要求特性として、導電性担体に担持した貴金属粒子と高分子電解質と燃料および酸化剤ガスの三相界面がより多く存在することである。またプロトン伝導性のある高分子電解質は、電極触媒層中で三相界面を形成しつつ、つながって形成されることが求められる。第2の要求特性として、導電性担体がつながり電極として導電性を持っていることである。第3の要求特性として、セパレータの流路とガス拡散層を通じて運ばれた燃料ガスおよび酸化剤ガスが触媒層の奥まで届くことである。第4の要求特性として、電極反応により生成した水を程良く保持、排出することである。
【0009】
上述の第3および第4の要求特性には水の関与が大きい。固体高分子形燃料電池単セルのアノードに水素である燃料ガスを流し、カソードには主に酸素および空気である酸化剤ガスを流し電流を取り出すと、カソードでは電極反応により水が発生する。この水はアノードおよびカソードの高分子電解質のプロトン伝導を引き起こすのには必須の物質である。一方、水が大量に膜電極接合体中の主にカソードに滞留すると、ガスの拡散性が悪化し、燃料効率が落ちることから固体高分子形燃料電池単セルの発電性能は低下する問題がある。この現象をフラッディングと呼ぶ。
【0010】
以上のように、膜電極接合体にあっては、電極反応によって生成される水がカソード触媒層中に多すぎても少なすぎても、固体高分子形燃料電池単セルの発電性能を下げてしまう。また、アノードでも、供給されるガス中の水分やカソードからの水の逆拡散によってアノードにおけるフラッディングの問題もある。
【0011】
フラッディング対策としては、水の排出性を高めるためにガス拡散層基材への撥水処理や、ガス拡散層の電極触媒層側にMPL(マイクロポーラスレイヤー)と呼ばれるカーボン粒子にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など撥水性樹脂を添加した混合物を塗布することが検討されている。
【0012】
また、触媒層内の水の排水性を高めるために、特許文献1では、プロトン伝導性電解質に被膜された触媒粒子上にフッ素系化合物からなる撥水性の被膜を設置する技術が開示されている。
【0013】
電極触媒層中にフッ素樹脂を添加する技術としては、水の排出性ではなく触媒粒子を相互に結着させる目的として検討されている。特許文献2では貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子に高分子電解質を混合した後にフッ素樹脂を混合する燃料電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−135369号公報
【特許文献2】特開平5−36418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
燃料電池内で水が発生する部位はカソード触媒層であるので、燃料電池のフラッディング対策としては、ガス拡散層だけではなく電極触媒層への対策も重要になってくる。
しかしながら、特許文献1にある電極触媒層の製造方法は複雑である。また、特許文献2にある貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子に高分子電解質を混合した後にフッ素樹脂を混合する方法では、高分子電解質が触媒粒子に包まった状態にフッ素樹脂を混合するため、触媒粒子とフッ素樹脂が電極触媒層内で均一に分散せず、フッ素樹脂の撥水性を有効に活用できないという問題がある。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、カソード触媒層およびアノード触媒層中の水が電極触媒層および高分子電解質膜のプロトン伝導度を保ちつつ、電極触媒層の水の排出性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、高分子電解質膜を、それぞれ貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質からなる一対の電極触媒層で狭持する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、
少なくとも一方の電極触媒層に、一次粒子の形態を有するフッ素樹脂が存在していることを特徴とするものである。
【0018】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記一次粒子の形態を有するフッ素樹脂は、撥水性を持つ粒子であり、粒径が30nm以上800nm以下であることを特徴とするものである。
【0019】
次に、請求項3に記載した発明は、高分子電解質膜を、それぞれ貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質からなる一対の電極触媒層で狭持する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法において、
貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子と溶媒とを攪拌し、第1のインクを作製する第1の工程と、上記第1のインクに二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を添加して攪拌し、第2のインクを作製する第2の工程と、上記第2のインクに高分子電解質を添加して攪拌し、第3のインクを作製する第3の工程と、上記第3のインクによって、上記高分子電解質膜上に電極を形成する第4の工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0020】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した構成に対し、上記第2の工程あるいは上記第3の工程における攪拌工程の少なくとも一方は、上記二次粒子の形態を有するフッ素樹脂の少なくとも1つの粒子を破砕して、一次粒子の形態を有するフッ素樹脂にすることを特徴とするものである。
【0021】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項3又は請求項4に記載した構成に対し、 上記第2の工程あるいは上記第3の工程における少なくとも一方の攪拌工程は、遊星型ボールミルあるいはビーズミルを用いた攪拌であり、その攪拌によって、上記二次粒子の形態を有するフッ素樹脂の少なくとも一つの粒子を破砕し一次粒子の形態を有するフッ素樹脂にすると共に、破砕された上記一次粒子の形態を有するフッ素樹脂、上記貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子、および上記高分子電解質を混合することを特徴とするものである。
【0022】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した構成に対し、上記ボールミルによる攪拌あるいは上記ビーズミルによる攪拌に用いるボールあるいはビーズの粒径は、0.5mm以上5mm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
次に、請求項7に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いたことを特徴とする固体高分子形燃料電池単セルを提供するものである。
【0024】
次に、請求項8に記載した発明は、請求項7に記載の固体高分子形燃料電池単セルが複数積層されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池スタックを提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カソード触媒層およびアノード触媒層中の水が電極触媒層および高分子電解質膜のプロトン伝導度を保ちつつ、電極触媒層中にフッ素樹脂を入れることで、電極触媒層の水の排出性を高めることを可能となる。
また、電極触媒層中の少なくとも一つのフッ素樹脂が一次粒子の形態を有するため、フッ素樹脂の表面積が向上し、生成された水と接触する機会が増えることで、より効率的に水の排出性を高めることが可能となる。
【0026】
特に、上記フッ素樹脂が撥水性を持つ粒子であり、電極触媒層中の少なくとも一つの粒子は粒径が30nm以上800nm以下の一次粒子の形態を有することで、撥水性のフッ素樹脂の表面積が多くなった結果、電極反応によって生成された水と接触する機会が増えたため、反応に余分な水が固体高分子形燃料電池単セル外部に抜けやすく、発電性能向上に寄与し得る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造することが出来る。すなわち、本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体にあっては、電極反応に余分な水が固体高分子形燃料電池単セル外部に抜けやすくなるため、カソードに供給されるガスが少量でも余分な水の排出が行われるので、ガスの流量を減らすことができる。
【0027】
また、本発明の膜電極接合体の製造方法は、高分子電解質の添加前に二次粒子の形態を持つフッ素樹脂を一次粒子化する別の工程を踏むことなく、膜電極接合体を作製でき、かつその一次粒子と貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質の混合攪拌を同時期に行うため、フッ素樹脂が均一に分散した状態を簡便に作製することが可能になる。このため、製造コストや製造に要する時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る固体高分子形燃料電池単セルの分解模式図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るフッ素樹脂を添加していない電極触媒層の拡大説明図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る電極触媒層の拡大説明図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る実施例と比較例の固体高分子形燃料電池単セルの発電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、本発明は、以下に記載する各実施形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
(固体高分子形燃料電池単セルについて)
【0030】
まず、本実施形態の固体高分子形燃料電池単セルについて、分解模式図である図1を参照して説明する。
本実施形態の固体高分子形燃料電池単セル17にあっては、カソード触媒層2とアノード触媒層3が高分子電解質膜1を挟んで対向配置されることで、膜電極接合体12を形成している。また、カソード触媒層2にカソードガス拡散層4が対向配置されてカソード6が形成され、アノード触媒層3にアノードガス拡散層5が対向配置されて、アノード7が形成される。また、カソード6及びアノード7にそれぞれセパレータ10が対向配置している。セパレータ10は、ガス流通用のガス流路8がリブ11によって構成され、相対する面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつ不透過性の材料よりなる。カソード6側のセパレータ10のガス流路8からは、酸化剤ガスとして、例えば酸素を含むガスが供給される。一方、アノード7側のセパレータ10のガス流路8からは、燃料ガスとして、例えば水素が供給される。そして、酸化剤ガスと燃料ガスを触媒の存在下で電極反応させることにより、アノード7とカソード6の間に起電力を生じることができる。
【0031】
図1に示したような固体高分子形燃料電池単セル17で固体高分子形燃料電池を構成しても良いし、複数の固体高分子形燃料電池単セル17を積層して、本実施形態に係る燃料電池としても良い。
(電極触媒層について)
【0032】
まずフッ素樹脂を添加していない従来の電極触媒層について説明する。
その電極触媒層の拡大説明図を、図2に示す。図2は図1のカソード触媒層2およびアノード触媒層3の拡大図である。以下、電極触媒層についての説明はカソード触媒層2について述べるが、本発明はカソード触媒層に限定されない。
【0033】
酸化剤ガス(以下、空気と記載)は、ガス流路8を通り、カソードガス拡散層4で拡散されてカソード触媒層2に入り、貴金属である触媒粒子13に到達する。固体高分子形燃料電池単セル17に負荷を掛けた場合、アノード触媒層3で燃料ガス(以下、水素と記載)が貴金属触媒と電気化学反応して生成されたプロトンは、アノード7の高分子電解質および高分子電解質膜1を通りカソード触媒層2へ、同じく生成された電子は外部回路を通りカソード触媒層2へ移動する。その後プロトンはカソード6の高分子電解質14を、電子は導電性担体15を通り、触媒粒子13に到達することで、触媒粒子13上で空気とプロトンと電子が出会い、電気化学反応が起き、水を生成する。
【0034】
このような従来の電極触媒層では、発電により生じた水は電極触媒層中あるいはガス拡散層中に溜まり、ガスの拡散を阻害し、発電性能を低下させるフラッディングと呼ばれる現象があった。
【0035】
次に、本実施形態の電極触媒層について説明する。
その電極触媒層の拡大説明図を図3に示す。図3も図2同様、図1のカソード触媒層2およびアノード触媒層3の拡大図である。
【0036】
本実施形態の膜電極接合体12では、撥水性の一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16がカソード触媒層2に存在する。このため、カソードにガスが流れた場合、ガスの力とフッ素樹脂の撥水力によって、発電によって生じた水は、電極触媒層中に留まることが抑制され、カソード触媒層2の外に排出されやすくなる。
【0037】
一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16の粒径は、30nm以上800nm以下が好ましい。粒径が30nmより小さいものは作製するのが困難である。300nmより大きいものは導電性担体15に比べ大きくなってしまうことおよび一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16の比表面積が小さくなってしまうことから、電極反応によって生成された水と接する機会が失われ、水の排水性が悪くなってしまう。更に好ましくは50nm以上500nm以下が良く、100nm以上300nm以上の場合、最も発電性能向上への寄与が大きい。
【0038】
また、一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16は、撥水性あるものであれば何でも良い。フッ素樹脂16は、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などの粒子であることが好ましい。
(固体高分子形燃料電池用膜電極接合体12の製造方法)
【0039】
次に、それぞれ貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14からなる一対の電極触媒層で、高分子電解質膜1を狭持する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体12の本実施形態での製造方法の一例について説明する。
【0040】
本製造方法は、以下の第1の工程〜第4の工程を備える。なお、第1〜第3の工程がインクを作製する工程である。
第1の工程では、貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子13と溶媒とを攪拌し、第1のインクを作製する。第2の工程では、第1のインクに二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を添加攪拌し、第2のインクを作製する。第3の工程では、第2のインクに高分子電解質14を添加攪拌し、第3のインクを作製する。第4の工程では、第3のインクを塗布乾燥させて高分子電解質膜1の主面に接合させ、高分子電解質膜1上に電極を形成する。
【0041】
第1の工程〜第4の工程において、第2の工程と第3の工程とを入れ替えてインクを作製した膜電極接合体12は、発電特性が低下することを確認した。この理由は次の通りである。すなわち、第2の工程、第3の工程という順番で作製された場合、導電性担体15とフッ素樹脂とが分散した状態で高分子電解質14が入ることで、均一にフッ素樹脂ならびに導電性担体15に高分子電解質14が分散する。一方、第3の工程、第2の工程という順番では、導電性担体15に高分子電解質14が覆われた状態にフッ素樹脂を添加するため、フッ素樹脂と高分子電解質14が電極触媒層内で不均一に存在してしまい、フッ素樹脂の撥水性の効果が薄くなってしまうという現象が生じる。
【0042】
第2の工程において、第1の工程で作製されたインクに添加する二次粒子の形態を有するフッ素樹脂は、撥水性を持つパウダー状粒子であることが好ましい。ディスパージョンの形態で二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を添加しても良いが、ディスパージョンでは溶液を安定させるため分散材として、アンモニウム塩などが入っており、弱塩基性になっていることがある。パウダー状粒子の方が分散性に優れるとともに、粒子のみで余分な成分がないために、電極触媒層中での高分子電解質14の凝集が起こらないため、好適に利用できる。
【0043】
また、本実施形態に係る、膜電極接合体12の製造方法において、第2の工程あるいは第3の工程における少なくとも一方の攪拌工程は、遊星型ボールミルあるいはビーズミルを用いた攪拌であり、二次粒子の形態を有するフッ素樹脂の少なくとも一つの粒子を破砕し一次粒子の形態にすると共に、破砕された一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16、貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13、および高分子電解質14の混合を、一つの攪拌工程で行うことが好ましい。
【0044】
上記攪拌工程で使用する遊星型ボールミルあるいはビーズミルの粒径は、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。0.5mmより小さい場合、フッ素樹脂および貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質の攪拌および分散性は良好であるが、二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を破砕し、一次粒子の形態にすることは難しい。また、5mmより大きい場合、二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を破砕し、一次粒子の形態にすることは可能であるが、一次粒子化後の一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16および貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14の攪拌が不十分になってしまう。
【0045】
第1の工程において用いられる攪拌工程は、貴金属が担持された導電性担体15が溶媒中でほぐされるものであれば何でも良く、ボールミル、ビーズミル、ロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理などが挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザーなどを用いても良い。
【0046】
次に、より詳細に本実施形態の固体高分子形燃料電池単セル17、膜電極接合体12について説明する。
上記膜電極接合体12に用いられる高分子電解質膜1としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質膜1としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0047】
上記第3のインクに含まれる高分子電解質14としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜1と同様の素材を用いることができ、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。第3のインクへの投入方法としては、高分子電解質は固体でも液体でも構わない。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料などを用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の高分子電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質14としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。なお、電極触媒層と高分子電解質膜1の密着性を考慮すると、高分子電解質膜1と同一の材料を用いることが好ましい。
【0048】
上記触媒粒子13としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属又はこれらの合金が使用できる。また、酸化物、複酸化物等も使用できる。また、これらの触媒の粒径は、0.5nm以上1μm以下が好ましい。更に好ましくは1nm以上5nm以下が良い。
【0049】
これらの触媒粒子13を担持する導電性担体15は、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒粒子13に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンが使用できる。カーボン粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒粒子13の利用率が低下したりするので、10〜1000nm程度が好ましい。更に好ましくは、10nm以上100nm以下が良い。さらには、触媒粒子13が導電性担体15に担持されていなくても構わない。混合しただけの場合でも良い。
【0050】
第1のインクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子13を担持した導電性担体15や高分子電解質14を浸食することがなく、高分子電解質14を流動性の高い状態で溶解または微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。
なお、溶媒としては揮発性の有機溶媒や水が含まれることが望ましく、有機溶媒に関しては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノ―ル、2−プロパノ―ル、1−ブタノ−ル、2−ブタノ−ル、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンタノ−ル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1−メトキシ−2−プロパノール等の極性溶剤等が使用される。また、これらの溶剤や水のうち二種以上を混合させたものも使用できる。分散剤が含まれていても良い。
【0051】
第3のインク中の固形分含有量は、多すぎると第3のインクの粘度が高くなるため電極触媒層表面にクラックが入りやすくなり、また逆に少なすぎると成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまうため、0.1質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。また、第3のインクの粘度は、0.1cP以上2000cP以下の範囲内であることが好ましく、さらには5cP以上100cP以下の範囲内であることが好ましい。
【0052】
貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14を含むインク(以下、触媒インク)から膜電極接合体12を作製する方法は多数考えられている。本発明の膜電極接合体12の製造方法としてどの製造方法を採用しても構わない。膜電極接合体12の製造方法としては、例えば、転写シートもしくはガス拡散層からなる基材上に対し、触媒インクを塗布し、該塗膜を乾燥し基材上に電極触媒層を形成し、その基材上の電極触媒層と高分子電解質膜1を熱プレスして膜電極接合体12とする。基材が転写シートの場合はシートを剥がす。また、高分子電解質膜1に直接触媒インクを塗布し、乾燥させ、熱プレスを行うことで膜電極接合体12を製造したりしてもよい。
【0053】
以下に、基材として転写シートを用いて膜電極接合体12を作製する場合を説明する。
基材として用いられる転写シートとしては、転写性がよい材質であればよい。基材として転写シートを用いた場合には、高分子電解質膜1に電極触媒層を接合後に転写シートを剥離し、高分子電解質膜1の両面に電極触媒層を備える膜電極接合体12とすることができる。転写シートには離型剤が付着したものでも良い。
【0054】
第3のインクの塗布方法としては、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法などを用いることができる。
乾燥工程の温度は、特に制限されるものではないが(基材温度)℃以上150℃以下でおこなうことが好ましい。これよりも温度を高くすると、電極触媒層の乾燥ムラの発生や、高分子電解質膜1に与える熱処理の影響も大きくなるため、適切でない。乾燥工程の温度が第3のインク中の溶媒の沸点以上では蒸発速度が著しく大きくなることから、溶媒の沸点未満であることが好ましい。
【0055】
熱プレス工程で用いられる保護フィルムは、フィルム自身の平滑性が保たれており、熱プレス時、基材や電極触媒層、高分子電解質膜1に余計な応力をかけないものであれば良い。保護フィルムの外側に挟み込まれるプレス部材は、圧力や温度を面内に均一にかけることや緩衝材の役割を果たす。このプレス部材は平滑性が保たれており、熱プレス時、触媒が塗布される基材や電極触媒層、高分子電解質膜1に余計な応力をかけないものであれば良い。また、熱プレスを平滑に行うために、保護フィルム以外にプレス板や圧縮性のある緩衝材を挟んでもよい。
【0056】
熱プレス工程で高分子電解質膜1及び電極触媒層にかけるプレス圧力は、膜電極接合体12の電池性能に影響する。電池性能の良い膜電極接合体12を得るには高分子電解質膜1及び電極触媒層にかけるプレス圧力は、0.5MPa以上20MPa以下の範囲内であることが好ましく、さらには1MPa以上15MPa以下の範囲内であることが好ましい。プレス圧力が上記範囲を超える場合には電極触媒層が圧縮されすぎて、電池性能が低下することがある。またプレス圧力が上記範囲を下回る場合には電極触媒層と高分子電解質膜1の接合性が低下して電池性能が低下してしまう。
【0057】
また、熱プレスの温度は、高分子電解質膜1及び電極触媒層の高分子電解質14のガラス転移点(Tg)付近に設定するのが好ましい。具体的には、熱プレスの温度は、高分子電解質膜1のガラス転移点−40℃(Tg−40℃)以上、高分子電解質膜1のガラス転移点+60℃(Tg+60℃)以下の範囲内であることが好ましい。熱プレスの温度が高分子電解質膜1のガラス転移点−40℃(Tg−40℃)を下回る場合、電極触媒層と高分子電解質膜1の間で十分な界面密着性が得られず電池性能が低下してしまう。一方、熱プレスの温度が高分子電解質膜1のガラス転移点+60℃(Tg+60℃)を超える場合、高分子電解質14が軟化して電極触媒層の空孔がつぶれてしまいガスや生成水の拡散性が低下し電池性能が低下してしまう。
【0058】
本実施形態のガス拡散層は、ガス拡散性と導電性とを有する材質から成るものであれば何でもよい。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、不織布などのポーラスカーボン材を用いることができる。また、予めガス拡散層に撥水加工を施すことや、撥水加工を施したガス拡散層上にMPL(マイクロポーラスレイヤー)を形成させてもよい。これらの撥水加工を施したガス拡散層やMPL付のガス拡散層はカソード6及びアノード7のどちらに用いてもよい。
【0059】
ガス拡散層への撥水加工は、フッ素系樹脂を分散させた溶液にガス拡散層を浸し、フッ素樹脂の融点以上の温度で焼結させることにより形成することができる。フッ素系樹脂としては、PTFE等が利用できる。撥水加工をされたガス拡散層は、膜電極接合体12中の余分な水分を効率よく排出する働きをする。
MPLはカーボン粒子とフッ素系樹脂を混練してフッ素系樹脂の融点以上の温度で焼結させることにより形成することができる。フッ素系樹脂としては、PTFE等が利用できる。MPLは、触媒インクがガス拡散層の中に染み込むことを防止でき、その塗布量が少ない場合でもMPL上に堆積して三相界面を形成できる。また、高分子電解質膜1中により多くの水分を保持させる働きや膜電極接合体12中の余分な水分を効率よく排出する働きをする。
【0060】
MPLは基本的にはガス拡散層の中でも電極触媒層側に付与され、水の排出や保持の管理に使われるが、MPLがガス拡散層のセパレータ10側にも付与され、ガス拡散層の両面にMPLが付与されているタイプでも良い。MPLがセパレータ10側のガス拡散層に付与されていると、より水の排出性に効果があることや、ガス拡散層とセパレータ間の接触が良くなり、セル抵抗が低くなる効果がある。
【0061】
本実施形態におけるセパレータ10は、燃料ガスが供給されるためのガス流路8があり、集電体としての役割を持つものであれば何でもよい。燃料電池セパレータの基材としては、非金属系と金属系に分けられ、非金属系セパレータとしては、例えば緻密カーボングラファイト等のカーボン系材料、樹脂材料を用いることができる。金属系の材料としては、例えばステンレス鋼(SUS)、チタン、アルミニウム等を用いることができる。なお、ガス拡散層とセパレータ10は一体構造となっていても構わない。金属系の場合では、錆止め防止のための導電性樹脂がコーティングされているタイプでも構わない。
【実施例1】
【0062】
本発明における膜電極接合体12の製造方法について、以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明は下記例によって制限されるものではない。
【0063】
「実施例」
下記に説明する第1〜第3の工程は、本実施例における第1〜第3のインクの作製方法に関する。
・第1の工程(第1のインクの作製方法)
白金担持量が60重量%である白金担持カーボン触媒に対し、水、1−プロパノールを重量比1:2で混合し、遊星型ボールミル(3mm)で分散処理を行った。
・第2の工程(第2のインクの作製方法)
第1のインクに、PTFEのパウダー状のフッ素樹脂(Fluon:登録商標 ルブリカント L170J/旭硝子社製)を、白金が担持されているカーボンの重量の50重量%を添加し、遊星型ボールミル(3mm)で分散処理を行った。なお、このパウダー状のフッ素樹脂は、二次粒子の形態を有しており、二次粒子の粒径は10μm〜30μmである。
・第3の工程(第3のインクの作製方法)
第2のインクに、20重量%高分子電解質溶液(Nafion:登録商標/デュポン社製)を、白金が担持されているカーボン担体の重量の80重量%を添加し、遊星型ボールミル(3mm)で分散処理を行った。
【0064】
下記に説明する第4の工程は、本実施例における電極触媒層の作製方法と膜電極接合体12の作製方法に関する。
・第4の工程
(電極触媒層の作製方法)
プレート上に基材を固定し、ドクターブレードにより第3のインクを基材上に塗布した。第3のインクからなる塗膜が形成された基材をオーブン(熱風循環恒温乾燥機41−S5H/佐竹化学機械工業社製)に入れ、オーブンの温度を50℃に設定し5分間乾燥させることで基材である転写シート上に電極触媒層を作製した。白金担持量がアノードは約0.3mg/cm2、カソードは約0.5mg/cm2となるように調節した。
(膜電極接合体の作製方法)
【0065】
電極触媒層が形成された転写シートを、アノードおよびカソード用として、25cm2の大きさで2枚切り取り、その2枚の転写シートをそれぞれ高分子電解質膜1の両面に電極触媒層が正対するように基材を配置する。そして、その両側から保護フィルムで電極触媒層が形成された転写シートおよび高分子電解質膜1を挟み込んだ。さらにその両側にプレス部材を挟み込み、熱プレスに載置し、プレス温度130℃、プレス時間10分、プレス圧力7.8MPaの条件で熱プレスした。熱プレス後、転写シートを剥離して膜電極接合体12を得た。
【0066】
「比較例」
比較のために、下記の工程で、比較例で使用する、フッ素樹脂を添加していない触媒インクを製造した。工程を上記実施例と同様に第1〜第4の工程に分けて記載する。
・第1の工程(第1のインクの作製方法)
白金担持量が60重量%である白金担持カーボン触媒に対し、水、1−プロパノールを重量比1:2で混合し、遊星型ボールミル(3mm)で分散処理を行った。
・第2の工程は行わない。
・第3の工程
第1のインクに、20重量%高分子電解質溶液(Nafion:登録商標/デュポン社製)を、白金が担持されているカーボンの重量の80重量%を添加し、遊星型ボールミル(3mm)で分散処理を行い、触媒インクとした。
【0067】
第4の工程は、実施例の項に記載の電極触媒層の作製方法と膜電極接合体12の作製方法と同じである。
(固体高分子形燃料電池単セル17の各部材の詳細)
【0068】
用いた高分子電解質膜、ガス拡散層、発電用セルは以下の通りである。
・高分子電解質膜:Nafion212膜(登録商標/デュポン社製)
・ガス拡散層 :SIGRACET 25BC(登録商標/SGL GROUP製)
・発電用セル :JARI標準セル(25cm2用)
(発電評価手法)
・評価装置 :エヌエフ回路設計ブロック社製燃料電池評価システム
・燃料ガス :アノード 水素/カソード 空気
・流量条件 :利用率一定(アノード75%/カソード55%)
・加湿条件 :アノード70℃/セル70℃/カソード70℃
・電流制御条件 :0.3A/cm2で一定時間保持
【0069】
<結果>
図4に0.3A/cm2保持時の電圧挙動を記したグラフを示す。
図4より、発電開始から全時間範囲に渡り、本実施例の方が比較例よりも高い電圧で同じ電流量を得られることが分かる。また、本実施例のグラフの挙動は、比較例のグラフの挙動に比べばらつきが少ないことが分かる。
【0070】
以上のように、実施例では、電極反応により発生した余分な水の排出が促進されかつ安定的に固体高分子形燃料電池単セル外部に抜け出るといった水の拡散性や、余分な水による燃料ガス供給の阻害を減らすといったガスの拡散性が良好であったことが示されている。
【0071】
また、実施例における膜電極接合体12において、添加前のフッ素樹脂の二次粒子の粒径は電子顕微鏡観察により10μm以上30μm以下であったが、膜電極接合体12の断面の電子顕微鏡観察により約200nmの一次粒子の形態で電極触媒層内に存在していることが確認できた。
【0072】
これらの結果から、実施例の作製方法によって作製された膜電極接合体12では、第2の工程で添加した二次粒子の形態を有するフッ素樹脂は3mmのボールミル攪拌によって破砕され、粒径が約200nmの一次粒子になるとともに、その破砕された一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16と貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子13および高分子電解質14の混合を一つの攪拌で行うことができることが確認できた。また、実施例の固体高分子形燃料電池単セル17の方が比較例の固体高分子形燃料電池単セル17に比べ発電性能が良いということが確認できた。
【0073】
本発明の膜電極接合体12の製造方法は、高分子電解質14の添加前に、二次粒子の形態を持つフッ素樹脂を一次粒子にする別の工程を踏むことなく膜電極接合体12を作製でき、かつその破砕された一次粒子の形態を有するフッ素樹脂16と貴金属を導電性担体15に担持した触媒粒子および高分子電解質14の混合攪拌を同時に行うことができるため、非常に簡便な方法と言うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の固体高分子形燃料電池膜電極接合体は、電極反応により発生した余分な水の排出が促進されかつ安定的に固体高分子形燃料電池単セル外部に抜け出るといった水の拡散性や、余分な水による燃料ガス供給の阻害を減らすといったガスの拡散性を良好にする。このため、発電性能向上に寄与する。また、電極反応に余分な水が固体高分子形燃料電池単セル外部に抜けやすくなる。このため、カソードに供給されるガスが少量でも余分な水の排出が行われるので、ガスの流量を減らすことに寄与する。また、本発明における膜電極接合体の製造方法は簡便である。このため、生産性も高い。したがって、本発明は高分子形燃料電池、特に家庭用燃料電池システムや燃料電池自動車などにおける、固体高分子形燃料電池単セルやスタックに好適に活用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1・・・・高分子電解質膜
2・・・・カソード触媒層
3・・・・アノード触媒層
4・・・・カソードガス拡散層
5・・・・アノードガス拡散層
6・・・・空気極(カソード)
7・・・・燃料極(アノード)
8・・・・ガス流路
9・・・・冷却水流路
10・・・セパレータ
11・・・リブ
12・・・膜電極接合体
13・・・触媒粒子
14・・・高分子電解質
15・・・導電性担体
16・・・一次粒子の形態を有するフッ素樹脂
17・・・固体高分子形燃料電池用単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を、それぞれ貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質からなる一対の電極触媒層で狭持する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、
少なくとも一方の電極触媒層に、一次粒子の形態を有するフッ素樹脂が存在していることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
上記一次粒子の形態を有するフッ素樹脂は、撥水性を持つ粒子であり、粒径が30nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
高分子電解質膜を、それぞれ貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子および高分子電解質からなる一対の電極触媒層で狭持する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法において、
貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子と溶媒とを攪拌し、第1のインクを作製する第1の工程と、
上記第1のインクに二次粒子の形態を有するフッ素樹脂を添加して攪拌し、第2のインクを作製する第2の工程と、
上記第2のインクに高分子電解質を添加して攪拌し、第3のインクを作製する第3の工程と、
上記第3のインクによって、上記高分子電解質膜上に電極を形成する第4の工程と、を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
上記第2の工程あるいは上記第3の工程における攪拌工程の少なくとも一方は、上記二次粒子の形態を有するフッ素樹脂の少なくとも1つの粒子を破砕して、一次粒子の形態を有するフッ素樹脂にすることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
上記第2の工程あるいは上記第3の工程における少なくとも一方の攪拌工程は、遊星型ボールミルあるいはビーズミルを用いた攪拌であり、その攪拌によって、上記二次粒子の形態を有するフッ素樹脂の少なくとも一つの粒子を破砕し一次粒子の形態を有するフッ素樹脂にすると共に、破砕された上記一次粒子の形態を有するフッ素樹脂、上記貴金属を導電性担体に担持した触媒粒子、および上記高分子電解質を混合することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
上記ボールミルによる攪拌あるいは上記ビーズミルによる攪拌に用いるボールあるいはビーズの粒径は、0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いたことを特徴とする固体高分子形燃料電池単セル。
【請求項8】
請求項7に記載の固体高分子形燃料電池単セルが複数積層されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−198503(P2011−198503A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61006(P2010−61006)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】