説明

固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法

【課題】イオン交換基含有ポリアリーレンを固形状で得る方法を提供する。
【解決手段】イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液9をノズル13から、その下方に位置する貧溶媒19に対して吐出させて、該貧溶媒19中で固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる工程を含む固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法であり、該貧溶媒19は、水、鉱酸および炭素数1〜4のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であり、該ノズル13は貧溶媒19の液面からの高さ(h)0.5m以上に位置し、該ノズルが少なくとも1つの孔を有し、該孔の内径が0.5mm以上かつ10mm以下であることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換基含有ポリアリーレンは、例えば燃料電池の固体電解質またはプロトン伝導膜などとして用いられ得る有用な物質である。
【0003】
従来、イオン交換基を有しない固形状ポリアリーレンの製造方法としては、ポリアリーレンを含む溶液を、気体と共に貧溶媒中に噴霧して、ポリアリーレンを溶媒中で凝固させる方法が特許文献1に開示され、具体的には4,4’−ジクロロベンゾフェノン(4,4’−DCBP)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)および2,5−ジクロロ−4’−(4−フェノキシ)フェノキシベンゾフェノン(DCPPB)の共重合体の固形物が平均粒径120μmで得られる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−75930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、イオン交換基含有ポリアリーレンについても固形状で得る方法、すなわち、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[11]を提供するものである。
[1] イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから、その下方に位置する貧溶媒に対して吐出することにより、該貧溶媒中で固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる工程を含む固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法であり、該貧溶媒は、水、鉱酸および炭素数1〜4のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であり、該ノズルは貧溶媒の液面からの高さ0.5m以上に位置し、該ノズルが少なくとも1つの孔を有し、該孔の内径が0.5mm以上かつ10mm以下であることを特徴とする製造方法。
[2] 該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度が5質量%以上であることを特徴とする、前記[1]記載の製造方法。
[3] 該溶液の65℃における粘度が4,000mPa・s以上かつ50,000mPa・s以下であり、該ノズルの孔の内径が0.5mm以上かつ1.5mm未満であることを特徴とする、前記[1]または[2]記載の製造方法。
[4] イオン交換基含有ポリアリーレンのイオン交換基がスルホ基であることを特徴とする、前記[1]〜[3]のいずれか記載の製造方法。
[5] イオン交換基含有ポリアリーレンが、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するイオン交換基含有ポリアリーレンであることを特徴とする、前記[1]〜[4]のいずれか記載の製造方法。
[6] イオン交換基含有ポリアリーレンの数平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれか記載の製造方法。
[7] 該溶液の吐出量が0.05〜0.2m/s(線速度)であることを特徴とする、前記[1]〜[6]のいずれか記載の製造方法。
[8] 固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液と貧溶媒とを含む混合物から、開口部にメッシュを有する管を通じて該混合物に含まれる液状物を除去して、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを回収する工程を更に含むことを特徴とする、前記[1]〜[7]のいずれか記載の製造方法。
[9] 前記[8]記載の固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを回収する工程を、該混合物に鉱酸水を供給しながら行うことを特徴とする製造方法。
[10] 前記[1]〜[9]のいずれか記載の固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法により製造されてなることを特徴とする固形状イオン交換基含有ポリアリーレン。
[11] 粒状または糸状であり、長さ方向に対して垂直な断面における長径が平均0.1mm〜5mmであり、長径に対する長さの比が平均1〜1000の範囲内である形状を有することを特徴とする固形状イオン交換基含有ポリアリーレン。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるイオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法を説明する概略図である。
【図2】本発明の1つの実施形態に利用可能な板状ノズルのヘッド部分を示す概略図である。
【図3】本発明の1つの実施形態に利用可能なシャワーヘッド型ノズルのヘッド部分を示す概略図である。
【図4】粒状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さおよび長径を説明する図であり、(a)は粒状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さLを示した図であり、(b)は(a)のX−X断面(長さLの方向に対して垂直な断面)における長径Dを示した図である。
【図5】糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さおよび長径を説明する概略図であり、(a)は糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さLを示した図であり、(b)は(a)のY−Y断面(長さLの方向に対して垂直な断面)における長径Dを示した図であり、(c)は糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンが屈曲した状態を示した図である(なお、(a)〜(c)で縮尺は異なる)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1つの実施形態について、図面を参照しながら以下に詳述する。図1はイオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法を説明する概略図であり、図2および図3はこれに利用可能なノズルのヘッド部分を示す概略図である。
【0011】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態を説明すると、イオン交換基含有ポリアリーレンを反応容器5にて重合反応により得る。より詳細には、原料モノマーを良溶媒および必要に応じて縮合剤、重合開始剤、重合触媒などの重合剤と共にライン1より、熱交換器3を通じて反応容器5に供給し、これらの混合物9を撹拌部材7で撹拌しながら、適切な温度および圧力下にて重合反応を進行させる。
【0012】
尚、熱交換器3は蒸発し得る成分を凝縮させるためのものであり、反応容器5に接続されたNラインは系内を窒素置換し、必要に応じて圧力コントロール(加圧)するためのものであるが、これらは必須ではない。また、熱交換器23、および析出容器15に接続されたNラインも同様である。
【0013】
本発明の製造方法において、所望に応じて任意のイオン交換基含有ポリアリーレンを用いることができるが、本実施形態では、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するイオン交換基含有ポリアリーレンを得ることとする。ここで、「イオン交換基を有する」とは、当該セグメントに含まれる芳香族基当たり有しているイオン交換基が、概ね平均0.5個以上であることを意味し、「イオン交換基を実質的に有しない」とは、当該セグメントに含まれる芳香族基当たり有しているイオン交換基が概ね平均0.1個以下であることを意味する。
【0014】
イオン交換基を有するセグメントとしては、例えば、下記一般式(1)で表わされるようなセグメントを挙げることができる。
【化1】

(式中、mは5以上、例えば5〜1000、好ましくは10〜1000、より好ましくは20〜500の整数を表し、Arは2価の芳香族基を表し、Arは主鎖を構成する芳香環に、少なくとも1つのイオン交換基が直接結合する。)
【0015】
ここで、2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0016】
この2価の芳香族基は置換基を有していなくても、1つまたはそれ以上の置換基Rを有していてもよい。置換基Rが2つ以上存在する場合は同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
この置換基Rには以下のものが含まれる:
フッ素原子、
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基等)、
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基等)、
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基等)、
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基等)、または
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基(例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアシル基)。
【0018】
本実施形態においてイオン交換基は酸基である。酸基は、弱酸基、強酸基、超強酸基等であり得るが、好ましくは強酸基または超強酸基である。弱酸基にはホスホ基(−PO)、カルボキシル基(−COOH)等が含まれる。強酸基にはスルホ基(−SOH)、スルホンイミド基(−SO−NH−SO−R。ここでRはアルキル基、アリール基等の一価の基を表す。)等が含まれる。強酸基であるスルホ基、スルホンイミド基が好ましく、スルホ基がより好ましい。また、フッ素原子等の電子吸引性基で芳香環および/またはスルホンイミド基のRに含まれる水素原子を置換することにより、フッ素原子等の電子吸引性基の効果で上記強酸基を超強酸基として機能させることも好ましい。
【0019】
重合反応性の観点からイオン交換基が塩を形成した状態のモノマーを用いることが好ましく、このようなモノマーから得られたイオン交換基含有ポリアリーレンのイオン交換基は塩を形成した状態となる。本発明の製造方法では、イオン交換基(本実施形態においては酸基)は、その一部または全部が、金属イオン(例えばLiイオン、NaイオンまたはKイオンなどのアルカリ金属イオン)や4級アンモニウムイオンなどと塩を形成しているイオン交換基含有ポリアリーレンをそのまま用いることができる。(この場合、後述するように、必要に応じて金属イオンや4級アンモニウムイオンなどをプロトン(H)と交換させて遊離酸とし得る。)
【0020】
上記一般式(1)で示されるセグメントの好ましい例としては、下記一般式(2)で表されるセグメントが挙げられる。
【化2】

(式中、mおよびRは上記と同様の定義である。pは0以上3以下、好ましくは0または1、より好ましくは0(すなわち置換基を有しない)の整数である。)
尚、スルホ基は、上述のように、金属イオン(例えばLiイオン、NaイオンまたはKイオンなどのアルカリ金属イオン)や4級アンモニウムイオンなどと塩を形成していてよい(以下も同様とする)。
【0021】
他方、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとしては、例えば、下記一般式(3)で表わされるセグメントを挙げることができる。
【化3】

(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは5以上、好ましくは5〜200の整数を表す。Ar、Ar、Ar、Arは互いに独立に2価の芳香族基(この芳香族基の具体例は、Arについて上述したものにおいて、イオン交換基を有しない点以外は同じであり、同様に、置換されていてもよい)を表す。X、X'は、互いに独立に直接結合または2価の基を表し、好ましくはカルボニル基、スルホニル基、2,2−イソプロピリデン基、2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン基または9,9−フルオレンジイル基である。Y、Y'は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0022】
上記一般式(3)で表されるセグメントの好ましい代表例としては、例えば以下のセグメントが挙げられる。式中、nは上記一般式(3)と同様の定義である。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【0023】
本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン(重合体)の製造方法としては、所望する重合体に応じて原料モノマー、重合剤、温度および圧力等を適切に選択し重合すればよい。
具体例としては、上記一般式(3)で表わされるセグメントの結合手に塩素原子などのハロゲン原子が結合した化合物と、上記一般式(2)で表わされるセグメントのm=1であり結合手に塩素原子などのハロゲン原子が結合したジハロフェニレンとを、後述する良溶媒に溶解し、Pd含有触媒などの重合触媒の存在下、反応容器5で重合反応(ブロック共重合またはグラフト重合)を進行させて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を得る方法(例えば特開2007−177197号公報を参照のこと)等を挙げることができる。
【0024】
本発明の製造方法に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレンの分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量が、例えば5,000〜1,000,000の範囲内のものを挙げることができ、好ましくは15,000〜400,000の範囲内のものが挙げられる。
【0025】
重合反応は一般的に良溶媒の存在下にて行われる。本明細書において良溶媒は、イオン交換基含有ポリアリーレンの溶解度が高いものであり、例えばテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、およびこれらの2種以上の混合物等を挙げることができ、好ましくはDMF、DMAc、NMP、DMSOおよびこれら2種以上の混合物が挙げられる。
【0026】
以上により、イオン交換基含有ポリアリーレンが良溶媒中に溶解してなる溶液(反応混合物9)が得られ、反応容器5からライン11を通じて抜き出される。
【0027】
反応混合物9は、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液としてそのまま用いてもよく、あるいはライン11の途中にて良溶媒の量を増加または減少させて(図示せず)イオン交換基含有ポリアリーレンの濃度を調整して用いてもよい。該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度は、5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、上限は特に限定されないが、例えば50質量%以下、好ましくは25質量%以下である。
【0028】
このようにして得られたイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を、ライン25より析出容器15に予め入れておいた貧溶媒19へノズル13より吐出する。この際、貧溶媒19を撹拌部材17で撹拌することが好ましい。
【0029】
ノズル13は、析出容器15内の貧溶媒(および吐出された該溶液より形成される混合物)19の液面からノズル13(より詳細にはその孔)までの高さhが0.5m以上、好ましくは1m以上に位置する。高さhは、液面の変動に応じて変化し得るが、吐出する間に亘って0.5m以上を維持するものとする。高さhの上限は本質的には存在しないが、図1のように析出容器15中で吐出することが好ましいことから、析出容器15のスケールにより調整でき、例えば10m以下である。
【0030】
ノズル13は少なくとも1つの孔を有し、その孔からイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液が吐出される。ノズルの孔は一般的には円形であるが、例えば楕円形や多角形(三角形および矩形等)等の任意の適切な形状を有し得る。孔の内径は、吐出面における最大内側寸法を言うものとする。ノズル13には複数の孔が存在していてよいが、各孔の内径はいずれも0.5mm以上かつ10mm以下である。この内径は、吐出する該溶液の粘度に応じて設定することが好ましい。粘度は、該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度および該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの分子量(代表的には数平均分子量)によって異なるが、具体的には、該溶液の65℃における粘度が4,000mPa・s未満であるときは内径0.5mm以上かつ10mm以下の範囲であればいずれでもよいが、該溶液の65℃における粘度が4,000mPa・s以上かつ50,000mPa・s以下であるときは内径0.5mm以上かつ1.5mm未満とすることが好ましい。なお、ここで言う粘度の測定方法は、後述する実施例において記載するものである。
【0031】
ノズル13に複数の孔が存在する場合、隣接する2つの孔の間隔は、それらの内径および吐出する該溶液の粘度などに応じて適宜選択され得る。
【0032】
ノズル13のヘッド部分の2つの例を図2および図3に示す。
図2は板状ノズルのヘッド部分(空洞の板状型)を示し、図2(a)は下面図、図2(b)は側方断面図である。このノズルでは、ノズルの管内流れに対して略平行な板状面に複数の孔が設けられて分散板を形成している。尚、図2は円板状ノズルを示し、円形の分散板に21個の孔40が等間隔で(図2(a)中に点線にて示す格子点を中心として)設けられている。
図3はシャワーヘッド型ノズルのヘッド部分を示す。このノズルでは、ノズルの管内流れに対して略垂直な面に複数の孔が設けられて分散板を形成している。分散板は円形であり得、孔の配置は図2(a)と同様であってよい。
しかしながら、図2および図3に示すノズルのヘッド部分は単なる例であり、本実施形態はこれに限定されず、任意の適切な形状のヘッド部分を有するノズルを用い得る。
【0033】
イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を滴下する貧溶媒は、例えば水;塩酸などの鉱酸;メタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜4のアルコール;またはこれらの2種以上の混合物であり、好ましくは水および/または塩酸である。
【0034】
該溶液の温度は、該溶液が孔から吐出できるように粘度を調整するために適宜設定すればよく、例えば、5〜200℃の範囲を挙げることができ、好ましくは10〜100℃の範囲が挙げられる。貧溶媒の温度は、例えば0〜100℃の範囲を挙げることができ、好ましくは10〜60℃の範囲が挙げられる。該溶液への圧力は、後述する線速度を与えるように適宜設定すればよく、例えば供給ライン全体で0〜180kPa。好ましくは10〜100kPa(いずれもゲージ圧、即ち常圧に対して加圧した値)である。
【0035】
ノズル13の孔から貧溶媒(混合物)19へのイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の1孔あたりの吐出量としては、例えば、0.05〜2g/sの範囲を挙げることができる。また、線速度としては、例えば、0.05〜0.5m/sの範囲を挙げることができ、好ましくは0.05〜0.2m/sの範囲を挙げることができる。
【0036】
このようにしてイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を貧溶媒19に吐出させると、イオン交換基含有ポリアリーレンが貧溶媒中に溶解されることなく固形状で析出してくる。(この結果、もともとは貧溶媒のみであった相は、貧溶媒に加えて、固形状イオン交換基含有ポリアリーレン、および吐出させた該溶液に含まれていた良溶媒等を含んで成る混合物19となる。)
【0037】
ここで、吐出するとは、ノズルから該溶液が流れ出すことを意味し、吐出した直後の該溶液流は、連続的であっても断続的(いわゆる滴下)であってもよい。本発明の製造方法によれば、貧溶媒の液面に達するまでに該溶液は粒状または糸状になっていると考えられる。
【0038】
得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの形状は粒状または糸状である。糸状の場合、その断面はノズルの孔の形状によっても異なるが、概ね円柱状または楕円柱状の形状をしている。粒状の場合、例えば図4(a)に示すように、粒状の固形物の最大寸法を長さLとし、長さLの方向に対して垂直な断面のうちで最大寸法を与えるX−X断面を決め、図4(b)に示すように該断面における最大寸法を長径Dとする。糸状の場合、例えば図5(a)に示すように、糸状の固形物の長さLとし、長さLの方向に対して垂直な断面のうちで最大寸法を与えるY−Y断面を決め、図5(b)に示すように該断面における最大寸法を長径Dとする。糸状の場合、例えば図5(c)に示されるように、貧溶媒において折り畳まれて屈曲する場合があるが、長さLは、屈曲した糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンを、図5(a)に示すように展ばして測定すればよい。粒状または糸状の長さL方向に対して垂直な断面における長径Dは、好ましくは平均0.1mm〜5mmであり、長径Dに対する長さLの比(長さL/長径D)は、好ましくは平均1〜1000の範囲内である。ここで、長径Dの平均値および長さLの平均値は、任意の30個の固形物の長径Dおよび長さLを測定し、これら長径および長さの測定値をそれぞれ平均したものである。そして、長径Dに対する長さLの比の平均は、長さLの平均値を長径Dの平均値で除したものである。
【0039】
粒状または糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンであれば、後述するように、該溶液と貧溶媒とを含む混合物19から該混合物19に含まれる液状物を容易に分離除去できる。また、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが撹拌部材17に巻き付くのを回避し、後述するように析出容器15からこれを容易に取り出す(排出する)には、長径に対する長さの比は小さいほうがより好ましく、糸状よりも粒状であるほうがより好ましい。長径に対する長さの比(長さL/長径D)は、特に好ましくは平均1〜300の範囲内である。
【0040】
イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の濃度、粘度、孔の内径および線速度の条件が上述したような範囲内であると、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを析出容器から容易に排出することができる傾向があることから、かかる範囲内に設定することが好ましい。
【0041】
本実施形態では、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが析出した後、得られた固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを以下のように洗浄した上で回収する方法を例示する。
【0042】
混合物19には、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンおよび貧溶媒に加え、必要に応じて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液に含まれる良溶媒が含まれる。
【0043】
混合物19には、開口部(混合物19と接触する側の先端開口部分)にメッシュを有する管27が挿入されており、この管27を通じて、貧溶媒および良溶媒等である液状物を受器29へ抜き出す。メッシュは、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンと液状物とを効率的に分離し得るものであればよく、例えば固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが実質的に通過しないようなメッシュ寸法を有する網、スクリーンまたはクロスなどであってよい。
【0044】
このようにして管27から液状物を例えば、吸引などの方法により除去しながら、塩酸などの鉱酸と水との混合液、すなわち鉱酸水をライン21から熱交換器23を通じて析出容器15へ新たに供給する。除去と供給とは同時に(または少なくとも部分的に重複して)行っても、交互に行ってもよい。これにより、析出容器15中で、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを新たな鉱酸水に接触させて、イオン交換基の塩を鉱酸水のプロトン(H)に交換して遊離酸にすることができる。新たな鉱酸水を供給してこれと接触させている間(析出容器15に液状物が比較的多量に存在する間)、撹拌部材17により撹拌することによって交換効率を上げるようにしてよい。
【0045】
最終的に回収される固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは、そのイオン交換基の全部が遊離酸となっていることが好ましいが、一部が塩を形成した状態のままとなっていてもよい。
【0046】
本実施形態の1つの例においては、液状物をできるだけ除去して、析出容器15に固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを残し、その後、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを析出容器15から排出してよい。別の例においては、析出容器15から液状物を除去しながら、鉱酸水を析出容器15へ新たに供給して、混合物19中の液状物を鉱酸水で置換し、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンと鉱酸水とを含む流体を析出容器15から排出してよい。後者の例の場合、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを、これを含む流体として取り扱うことができるので好ましい。析出容器15から排出された固形状イオン交換基含有ポリアリーレン(固形物または流体のいずれの形態であってもよい)は、必要に応じて濾過器31にて固液分離して、回収することができる。
【0047】
また、必要であれば、回収後に固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを更に洗浄してもよい。この洗浄操作は、回収したイオン交換基含有ポリアリーレンに鉱酸水を加えて混合し、得られた混合物から、鉱酸水を含む液状物を分離するものである。
【0048】
回収操作の間および/またはその後の洗浄に用いる鉱酸水が、貧溶媒と同じであってもよい。好ましくは、例えば塩酸(すなわち塩化水素の水溶液)等が挙げられる。塩酸を用いる場合の濃度としては、例えば、5〜35重量%等が挙げられる。
【0049】
以上のようにして、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法等により、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが製造される。
【0050】
本発明により製造される固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは、好ましくはそのイオン交換基の実質的に全てが遊離酸であり、また、プロトン伝導度の湿度依存性が小さく、かつ、吸水膨潤時の寸法変化率も小さいので、燃料電池の固体電解質またはプロトン伝導膜などの原料として好適に用いられ得る。
【0051】
上記実施形態では、イオン交換基含有ポリアリーレンが、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するものとしたが、イオン交換基を有する限りいかなるポリアリーレンであってもよい。例えば、イオン交換基を有する1種または2種以上の繰り返し単位(または構造単位)のみを含んで成るイオン交換基含有ポリアリーレンであってよい(2種以上の場合、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を有する別のセグメントとを有し、およびブロック共重合またはグラフト共重合により共重合しているものであってよい)(例えば特開2007−177197号公報を参照のこと)。
【実施例】
【0052】
本発明の実施例として、ノズルの孔、吐出させるイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液および吐出条件を種々に異ならせて行った。
【0053】
いずれの実施例においても、ノズルには図2に示す板状ノズルを用い、貧溶媒の液面からノズルの孔までの初期高さ(吐出開始時の高さ)を2mとした。
【0054】
ノズルの分散板には以下の2種を表1に示すように用いた。
・内径2mmの円形の孔を図2に示すように21個(5mmピッチ)備えるもの
・内径1mmの円形の孔を84個(3mmピッチ)備えるもの
孔の内径および数から求めた孔面積(全体面積)を表1に併せて示す。
【0055】
イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液には、特開2007−177197号公報の実施例1と同様に調製したイオン交換基含有ポリアリーレン(数平均分子量120,000〜180,000)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒中に表1に示す種々の濃度で溶解させたものを用いた。
【0056】
各溶液の65℃における粘度の測定値を表1に併せて示す。粘度は、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を65℃に調整した後、B型粘度計で測定した値である。
【0057】
いずれの実施例においても、貧溶媒には5〜35重量%塩酸を用い(貧溶媒温度 約20℃、容器内圧力 常圧)、貧溶媒の相を撹拌しながらこれに該溶液を吐出させた。
【0058】
吐出量として、各実施例におけるイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の吐出流量(g/s)を表1に示す。該吐出流量を分散板の孔の数で除して、1孔あたりの流量(g/s)を求めた。また、該吐出流量(g/s)を容量に換算した後、孔面積(全体面積)で除して線速度(m/s)を求めた。結果を表1に併せて示す。尚、容量への換算には、該溶液の密度として1048kg/mを用いた。
【0059】
【表1】

【0060】
いずれの実施例においても、貧溶媒の相中でイオン交換基含有ポリアリーレンが固形物として析出した。実施例終了時における貧溶媒、固形物、NMPを含む混合物の液面からノズルの孔までの高さは、約1.8〜1.9mであった。
【0061】
得られた固形物を回収して、その形状を観察し、また、そのうち任意の30個を取出して長径および長さを測定し、長径の平均および長さの平均を求め、長さの平均値を長径の平均値で除して長径に対する長さの比の平均を求めた。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果より、いずれの実施例においてもゲル化が起こらずに、イオン交換基含有ポリアリーレンを固形物の形態で得ることができた。全ての実施例1〜5において、ノズルの高さが0.5m以上、内径が0.5mm以上から10mm以下であり、更に、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の濃度5質量%以上である。
【0064】
実施例1〜5において、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが粒状または糸状で得られ、これを析出容器から容易に排出することができた。実施例1、4、5においては、該溶液が低粘度(4,000mPa・s未満)で、内径が0.5mm以上かつ10mm以下であり、更に、吐出量が0.05〜0.2m/s(線速度)である。実施例2、3においては、該溶液が高粘度(4,000mPa・s以上かつ50,000mPa・s以下)で、内径が0.5mm以上かつ1.5mm未満であり、更に、吐出量が0.05〜0.2m/s(線速度)である。
【0065】
参考例
ガラス容器に15重量%塩酸を入れ、該塩酸の液面から1.4mの高さに、口径0.4mmのスプレーノズルを置いた。実施例1で用いたイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を線速度0.5m/sで該スプレーノズルにてガラス容器中の塩酸に噴霧したところ、該溶液および塩酸は一様なゲルとなり、ガラス容器からイオン交換基含有ポリアリーレンを取り出すことはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを製造することができる。
【符号の説明】
【0067】
1、11、21、25 ライン
3、23 熱交換器
5 反応容器
7、17 撹拌部材
9 混合物(またはイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液)
13 ノズル
15 析出容器
19 貧溶媒(吐出された該溶液と共に混合物を形成する)
27 管
29 受器
31 濾過器
40 孔
L 長さ
D 長さ方向に対して垂直な断面における長径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから、その下方に位置する貧溶媒に対して吐出することにより、該貧溶媒中で固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる工程を含む固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法であり、該貧溶媒は、水、鉱酸および炭素数1〜4のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であり、該ノズルは貧溶媒の液面からの高さ0.5m以上に位置し、該ノズルが少なくとも1つの孔を有し、該孔の内径が0.5mm以上かつ10mm以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度が5質量%以上であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
該溶液の65℃における粘度が4,000mPa・s以上かつ50,000mPa・s以下であり、該ノズルの孔の内径が0.5mm以上かつ1.5mm未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
イオン交換基含有ポリアリーレンのイオン交換基がスルホ基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
イオン交換基含有ポリアリーレンが、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するイオン交換基含有ポリアリーレンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
イオン交換基含有ポリアリーレンの数平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
該溶液の吐出量が0.05〜0.2m/s(線速度)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液と貧溶媒とを含む混合物から、開口部にメッシュを有する管を通じて該混合物に含まれる液状物を除去して、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを回収する工程を更に含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを回収する工程を、該混合物に鉱酸水を供給しながら行うことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載の固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法により製造されてなることを特徴とする固形状イオン交換基含有ポリアリーレン。
【請求項11】
粒状または糸状であり、長さ方向に対して垂直な断面における長径が平均0.1mm〜5mmであり、長径に対する長さの比が平均1〜1000の範囲内である形状を有することを特徴とする固形状イオン交換基含有ポリアリーレン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−285614(P2010−285614A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111329(P2010−111329)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】