説明

土壌からセシウムを除去する方法

【課題】放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去する方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、土壌からセシウムを除去する方法が提供される。該方法は、セシウムの付着した土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて撹拌し、混合物を得ることと、混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射性セシウムで汚染された土壌からセシウムを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害物質により汚染された土壌を浄化するために、種々の方法が用いられている。放射性セシウムで汚染された土壌を除染する方法としては、高濃度の酸を用いて土壌から放射性セシウムを抽出する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、放射性セシウムは、土壌に強固に付着しているため容易に脱離しない。そこで、例えば6mol/Lの濃硝酸もしくは濃塩酸を使用して90℃程度に加熱する方法がある。しかし、高濃度の酸は取り扱いが難しく、また、酸水溶液の再利用が困難でコストが高いなど多くの問題がある。また、大量の土壌を処理する場合、大量の酸水溶液を使用する必要が生じる。そのため、装置が大型化したり、消費エネルギーが増大したりするという問題があった。
【0004】
よって、放射性セシウムで汚染された土壌をより簡便且つ低エネルギーで除染する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−209915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、土壌からセシウムを除去する方法が提供される。該方法は、セシウムの付着した土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて撹拌し、混合物を得ることと、混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る土壌からセシウムを除去する方法の一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1態様)
本実施形態の第1態様における土壌からセシウムを除去する方法は、セシウムの付着した土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて撹拌し、混合物を得ることと、前記混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、前記混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理とを含む。
【0011】
セシウムには、放射性同位体であるセシウム137及びセシウム134及び安定同位体であるセシウム133が含まれる。除染の対象となるセシウムはセシウム137及びセシウム134であるが、セシウム133はこれらの放射性セシウムと化学的挙動が同じである。よって、本態様において、セシウムにはセシウム133も含まれてよい。
【0012】
セシウムを除去される土壌は、典型的には、放射性セシウムで汚染された汚染土壌である。ここでは、汚染土壌から放射性セシウムを除去することを除染と称する。
【0013】
土壌は、無機物と有機物を含んでいる。無機物は、一次鉱物と粘土鉱物を含んでいる。土壌には、無機物と有機物の種類や割合により、種々の種類が存在する。本態様において、土壌は、いずれの種類の土壌であってもよい。土壌成分は、土壌を構成する無機物及び有機物のそれぞれの成分であり、典型的には粘土鉱物である。
【0014】
セシウムは、土壌に付着している。ここで、「付着」とは、土壌にセシウムが物理的又は化学的に結合していることを意味する。
【0015】
図1は、本態様に係る汚染土壌の除染方法の一例を示すフロー図である。図1に示すように、汚染土壌は任意に、脱離処理に先立って分級される(工程S1)。
【0016】
土壌に含まれる粒子のうち、粒径の小さい細粒子は粘土鉱物を多く含んでいる。セシウムは、この粘土鉱物に強固に付着している。そのため、セシウムの大部分は、細粒子を含む画分に含まれている。一方、粒径の大きい粗粒子に付着したセシウムは、比較的容易に除去することができる。よって、脱離処理の前に土壌を予め分級し、粘土鉱物を多く含む細粒子を取り出すことにより、処理対象となる土壌の量を減少することができる。それ故、後述する脱離処理に必要な水溶液の量を減少することができる。
【0017】
分級により取得される細粒子の平均粒径は、0.05〜75μmの範囲であり、典型的には0.05〜20μmの範囲である。
【0018】
分級は、例えば、篩、遠心分離、膜分離、重量分離、を用いて行うことができる。
【0019】
工程S1の分級工程を行わない場合は、土壌をそのまま次の脱離処理(工程S2)に供する。あるいは、分級しない土壌と、分級して得られた土壌成分を混合して処理してもよい。以下では、土壌成分として粘土鉱物を標的とし、粘土鉱物を多く含む細粒子を処理する例について説明する。
【0020】
工程S1に続いて、脱離処理(工程S2)を行う。この脱離処理により、セシウムが付着した細粒子からセシウムを脱離させる。
【0021】
脱離処理では、細粒子に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて十分に撹拌する。さらに、細粒子と前記水溶液の混合物を、60〜90℃の温度範囲になるよう加熱し、1〜6時間保持する。加熱は、外部の熱源によって行ってよい。混合物は、加熱中に撹拌し続けてもよい。
【0022】
細粒子を前記水溶液と共に、60〜90℃の温度範囲で1〜6時間保持することにより、セシウムを土壌から脱離させることができる。
【0023】
水溶液は、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液であり、典型的には酸水溶液である。なお、酢酸アンモニウムは酸に混合した水溶液として用いる。
【0024】
水溶液の濃度は、例えば、0.1〜5mol/Lであり、典型的には0.5〜1mol/Lである。このような濃度の水溶液を使用することにより、環境に対する負荷を低減することができる。
【0025】
細粒子を含む固体と、水溶液からなる液体の質量比(即ち、固液比)は、例えば、1:1〜1:10の範囲であり、典型的には、1:1〜1:5の範囲である。このような固液比にすることにより、使用する水溶液の容量を低減することが可能となり、環境付加を低減するとともに、装置の小型化や環境負荷の低減を図ることができる。
【0026】
土壌を前記水溶液と共に加熱することにより、セシウムが付着した細粒子からセシウムを脱離させることができる。土壌から脱離したセシウムは、水溶液中に移動する。
【0027】
本態様では加熱温度が90℃以下という比較的穏和な条件であるため、耐久性の高い装置を使用せずに処理を行うことができる。また、消費エネルギーを低減することができる。
【0028】
次に、工程S3の分離処理において、混合物中の固液成分を分離する。具体的には、細粒子とセシウムを含有する水溶液とを分離する。
【0029】
固液の分離方法は、濾過、サイクロン、重力沈降、などの方法を用いることができる。
【0030】
この分離処理により、セシウムが除去された除染済土壌を得ることができる。
【0031】
さらに任意に、セシウムを含有する水溶液からセシウムを除去する吸着処理(工程S4)を行う。吸着処理は、セシウムを含有する水溶液に、吸着材を添加して撹拌することにより行う。この処理により、水溶液中のセシウムは吸着材に吸着される。よって、水溶液からセシウムが除去される。このようにして、セシウムが除去された除染済水溶液が得られる。吸着材としては、ゼオライト、珪チタン酸塩、酸化チタン、プルシアンブルーなどを用いることができる。
【0032】
なお、除染済水溶液は、そのまま排出されてもよいが、工程S2の脱離処理において使用されてもよい。水溶液を再利用することにより、使用量を低減することができる。
【0033】
粘土鉱物の主な結晶構造は、中心にSiが位置し頂点にOが位置するSi四面体と、中心にAl又はMgが位置し頂点にO又はOHが位置するAl八面体である。これらの結晶は、それぞれ二次元的に結合してSi層(例えば、(Si,Al)O四面体層)及びAl層(例えば、(Al,Mg)(O,OH)八面体層)を形成する。これらの層は、1:1または2:1の割合で平面状に重なり合い、層状ケイ酸塩鉱物を形成する。その層状構造物には、例えば、二つのSi層の間にAl層を挟んだ三層構造をもつモンモリロナイト、その層と層との間にKが入り込んだイライト、Si層とAl層が平行に繰り返され積み重なった二層構造をもつカオリンなどがある。また、これらの層間に水の層が存在する構造もある。
【0034】
セシウムは、このような層間に入り込んでいると考えられる。粘土の層構造は強固であり、破壊され難い。そのため、層間に存在するセシウムが外部に取り出され難い。それ故、粘土に付着したセシウムは除去することが困難であると考えられる。
【0035】
しかしながら、上記のように水溶液中で加熱処理することによって、粘土構造を破壊し、セシウムの脱離効率を向上させることができる。
【0036】
図1では図示していないが、工程S3によって分離された土壌は、水溶液を用いてさらなる脱離処理及び分離処理に供されてもよい。脱離処理及び分離処理は、工程S2及びS3と同様に行うことができる。このような脱離処理及び分離処理は、二回以上繰り返し行ってもよい。脱離処理及び分離処理を繰り返し行うことにより、土壌からより多くのセシウムを除去することができ、その結果、高い脱離効率を実現することができる。
【0037】
なお、工程S1の分級によって除外された主に粗粒子を含む土壌は、例えばイオン交換処理に供してもよい。粘土鉱物とは異なり、平均粒径の大きい粗粒子に含まれる土壌成分は、セシウムが比較的容易に解離する。そのため、イオン交換処理によりセシウムを除去することができる。イオン交換処理は、例えば、酢酸アンモニウムを用いて土壌を洗浄することによって、或いは、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどによって行うことができる。
【0038】
本態様の除染方法は、バッチ式及びフロー式のいずれの方式でも行うことができる。フロー式を用いた場合は、処理装置をさらに小型化することができる。
【0039】
上記の態様によれば、放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去する方法を提供することができる。
【0040】
(第2態様)
次に、第2態様について説明する。第2態様においては、第1態様と同様の除染方法を用いるが、工程S2の脱離処理において、混合物に電磁波を照射する。
【0041】
ここでは、例えば周波数が300MHz〜300GHz、又は、周波数が300GHz〜140THzの電磁波を用いることができる。後述するように、粘土鉱物の構造又は結晶を破壊するのに適した周波数の電磁波を用いることが好ましく、除染の対象となる粘土鉱物に依存して適宜選択される。典型的には、周波数が2450MHzもしくは915MHzの高周波を用いる。
【0042】
電磁波の照射は、脱離処理において混合物を撹拌する際、及び、加熱保持する間のいずれにおいて行ってもよい。照射時間は特に限定されず、混合物中の水分が沸騰するまでの時間で任意に設定することができる。
【0043】
電磁波の強度は、特に限定せず、土壌の処理量などにより任意に設定するが、例えば、1kW〜30kWの範囲とすることができる。
【0044】
電磁波を照射する装置としては、例えば、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
【0045】
脱離処理において、混合物に電磁波を照射することにより、粘土鉱物の層状構造を破壊することができる。また、電磁波の周波数を適切に選択することにより、粘土鉱物の結晶を破壊することができる。よって、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。さらに、電磁波を照射することによって、土壌鉱物とセシウムの物理的又は化学的結合を緩和もしくは切断し、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができると考えられる。
【0046】
また、電磁波を照射することにより、粘土鉱物の層状構造中に存在する水の層において、水分子を振動させることができる。これにより、粘土鉱物中への水溶液の浸透及び拡散を促進することができる。同時に、セシウムの拡散を促進することができる。
【0047】
さらに、電磁波を照射することにより、誘導加熱によって混合物の温度を60〜90℃にすることができる。よって、第1態様で用いた加熱のための熱源として電磁波を用いることができる。電磁波として、周波数が300GHz〜140THzの赤外線を照射することにより、迅速に温度を上昇させることができる。それ故、加熱時間を短縮することができる。また、電磁波として、周波数が300MHz〜300GHzのマイクロ波を照射することにより、急激に温度を上昇させることができる。それ故、加熱時間をさらに短縮することができる。
【0048】
電磁波を用いて混合物を加熱することにより、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液の作用を増強させ、粘土鉱物の層状構造及び/又は結晶構造の破壊を促進することができる。よって、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。
【0049】
以上のように、電磁波を照射することによって、土壌からのセシウムの脱離を促進することができる。よって、上記の態様によれば、放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去することができる。
【0050】
また、脱離効率が向上することにより、より穏和な条件で除染することが可能となる。例えば、脱離処理における加熱温度を低下させることができる。また、使用する酸の強度や濃度を低下させることができる。あるいは、使用する前記水溶液の量を低減し、固液比を低下させることができる。それらの結果、より低エネルギーで除染することが可能となる。
【0051】
なお、上記第2態様は、他の態様と組み合わせて実施することも可能である。他の態様と組み合わせることにより、セシウムの脱離効率をさらに向上させることが可能である。
【0052】
(第3態様)
次に、第3態様について説明する。第3態様においては、第1態様と同様の除染方法を用いるが、工程S2の脱離処理において、混合物に超音波を照射する。
【0053】
ここでは、例えば、周波数が20kZ〜10MHzの範囲の超音波を用いることができる。
【0054】
超音波の照射は、脱離処理において混合物を撹拌する際、及び、加熱保持する間のいずれにおいて行ってもよい。照射時間は特に限定されず、混合物中の水分が沸騰するまでの時間で任意に設定することができる。
【0055】
超音波の強度については、特に限定せず、土壌の処理量などにより、任意に設定することができる。
【0056】
超音波を照射する装置としては、例えば、超音波発振素子を照射対象物に投入する形式の装置、超音波発振素子を取り付けた槽などに照射対象物を導入する形式の装置などが挙げられるが、特に限定せず、また、装置の処理方式についても、バッチ方式やフロー方式など、特に限定しない。
【0057】
脱離処理において、混合物に超音波を照射することにより、粘土鉱物の層状構造を破壊することができる。例えば、層状構造物の表面に振動を与え、層の剥離を促進することができる。粘土鉱物の層状構造を破壊することにより、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。よって、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。
【0058】
また、超音波を照射することにより、粘土鉱物の層状構造中に存在する水の層において、水分子を振動させることができる。これにより、粘土鉱物中への水溶液の浸透及び拡散を促進することができる。同時に、セシウムの拡散を促進することができる。
【0059】
以上のように、超音波を照射することによって、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。よって、上記の態様によれば、放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去することができる。
【0060】
また、脱離効率が向上することにより、より穏和な条件で除染することが可能となる。例えば、脱離処理における加熱温度を低下させることができる。また、使用する酸の強度や濃度を低下させることができる。あるいは、使用する水溶液の量を低減し、固液比を低下させることができる。それらの結果、より低エネルギーで除染することが可能となる。
【0061】
なお、上記第3態様は、他の態様と組み合わせて実施することも可能である。他の態様と組み合わせることにより、セシウムの脱離効率をさらに向上させることが可能である。
【0062】
(第4態様)
次に、第4態様について説明する。第4態様においては、第1態様と同様の除染方法を用いるが、工程S2の脱離処理において、カルボキシル基を有するキレート剤を添加する。水溶液は、キレート剤と共に添加してもよいが、添加しなくてもよい。また、加熱は、第1態様と同様に行ってもよいが、行わなくてもよい。
【0063】
工程S2の脱離処理において、土壌にキレート剤を添加する。必要であれば水を添加してもよい。また、任意に水溶液を添加してもよい。これらの混合物を十分に撹拌する。また任意に、この混合物を60〜90℃の温度範囲になるよう加熱し、1〜6時間保持する。混合物は加熱中に撹拌し続けてもよい。
【0064】
カルボキシル基を有するキレート剤は、カルボキシル基が粘土鉱物の結晶を構成するケイ素やアルミニウムなどの金属イオンに結合し、結晶からそれらの金属イオンを引き抜く作用を有する。それ故、粘土鉱物の結晶を破壊することができる。結晶が破壊されるため、粘土鉱物の層状構造が崩壊する。これにより、セシウムの脱離を促進することができる。従って、セシウムの脱離効率を向上させることが可能である。
【0065】
カルボキシル基を有するキレート剤は、工程S2の脱離処理において加熱されても揮発しないものが好ましい。また、例えば生体分子など、除染済土壌中に残存しても環境に影響しないものであることが好ましい。
【0066】
カルボキシル基を有するキレート剤としては、カルボン酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、高分子物質、及び金属イオンの補足剤を用いることができる。これらのキレート剤は、さらにアミノ基又はアミド基を有することが好ましい。
【0067】
カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、クエン酸、コハク酸などを用いることができる。
【0068】
アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、及びヒスチジンなどの、二つのアミノ基を有する塩基性アミノ酸が好適に用いられる。典型的にはアルギニンが用いられる。
【0069】
ペプチド及びタンパク質としては、例えば、構成するアミノ酸のうち、10〜20%が酸性アミノ酸であり、10〜20%が塩基性アミノ酸であるものが用いられる。典型的には、アルブミンが用いられる。
【0070】
高分子物質として、例えば、高分子分散剤、凝集剤として用いられる電解質高分子などが用いられる。電解質高分子は、カルボキシル基及びアミノ基を有する両性の高分子であることが好ましい。典型的には、ポリアクリル酸が用いられる。これらの高分子物質は、多数のカルボキシル基を有するため、より効率的に粘土鉱物の結晶を構成する金属イオンを引き抜くことができる。高分子物質は加熱により揮発せず、また、安価であるため好適に用いられる。
【0071】
金属イオンの補足剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのポリアミノカルボン酸類を用いることができる。
【0072】
以上のように、カルボキシル基を有するキレート剤を用いることにより、粘土鉱物からのセシウムの脱離を促進することができる。よって、上記の態様によれば、放射性セシウムで汚染された土壌から高い脱離効率でセシウムを除去することができる。
【0073】
また、脱離効率が向上することにより、より穏和な条件で除染することが可能となる。例えば、脱離処理における加熱温度を低下させることができる。また、使用する酸の強度や濃度を低下させることができる。あるいは、使用する水溶液の量を低減し、固液比を低下させることができる。それらの結果、より低エネルギーで除染することが可能となる。
【0074】
なお、上記第4態様は、他の態様と組み合わせて実施することも可能である。他の態様と組み合わせることにより、セシウムの脱離効率をさらに向上させることが可能である。
【0075】
(第5態様)
次に、第5態様について説明する。第5態様においては、第1態様と同様の除染方法を用いるが、工程S2の脱離処理において、セシウムを吸着する吸着材を添加する。
【0076】
吸着材は、セシウムを吸着することが知られているものであればいずれのものであってもよく、例えば、ゼオライト、珪チタン酸塩、プルシアンブルー等を用いることができる。
【0077】
吸着材は、平均粒径が1mm以上の粗粒子であることが好ましい。このような粗粒子の形状の吸着材は、土壌から容易に分離することができる。
【0078】
吸着材の添加量は、特に限定はしないが、例えば、吸着剤/混合物の体積比1〜10%の範囲とすることができる。
【0079】
脱離処理において、水溶液と共に吸着材を添加し、撹拌する。これにより、土壌から脱離し、水溶液中に移動したセシウムが吸着材に吸着される。その結果、脱離処理中の水溶液からセシウムが除去される。
【0080】
添加された吸着材は、次の分離処理(工程S3)において、土壌及び水溶液から分離する。分離方法は、濾過、サイクロン、重力沈降などの方法を用いることができる。
【0081】
脱離処理において、水溶液中のセシウムを吸着材で回収することにより、セシウムが土壌に再吸着するのを防止することができる。
【0082】
また、土壌からセシウムが脱離し、水溶液中のセシウム濃度が上昇すると、その後の土壌からのセシウムの脱離率が低下する。しかしながら、吸着材で水溶液中のセシウムを回収することにより、水溶液中のセシウム濃度が低下するため、セシウムの土壌からの脱離率の低下を抑制することができる。
【0083】
以上のことから、上記の態様によれば、セシウムの脱離効率を向上させることが可能である。脱離効率が向上することにより、より穏和な条件で除染することが可能となる。例えば、脱離処理における加熱温度を低下させることができる。また、使用する酸の強度や濃度を低下させることができる。あるいは、使用する水溶液の量を低減し、固液比を低下させることができる。それらの結果、より低エネルギーで除染することが可能となる。
【0084】
なお、上記第5態様は、第2〜第4態様の一以上と組み合わせて実施することができる。第2〜第4態様の何れかと本態様の吸着材の使用を組み合わせることにより、セシウムの脱離効率をさらに向上させることが可能である。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムの付着した土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて撹拌し、混合物を得ることと、
前記混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、
前記混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理と、
を含む、土壌からセシウムを除去する方法。
【請求項2】
前記脱離処理において、前記混合物に電磁波を照射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱離処理において、前記混合物に超音波を照射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記脱離処理において、前記混合物に、カルボキシル基を有するキレート剤を添加することを含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱離処理において、前記混合物に、セシウムを吸着する吸着材を添加することを含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液は0.1mol/L以上5mol/L以下の濃度を有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記脱離処理において、前記土壌及び/又は土壌成分と前記水溶液との質量比は、1:1から1:10の範囲である、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離処理後の土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加えて撹拌し、混合物を得ることと、
前記混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、
前記混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理と、
を繰り返し行う、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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