土壌から抽出したRNAの精製法
【課題】夾雑物を限りなく除去するRNA精製法を開発する。
【解決手段】セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含するRNA精製法を提供する。
【解決手段】セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含するRNA精製法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の微生物に関する情報を簡便に得る技術に関するものであり、より詳細には、土壌から抽出したRNAを高度に精製する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物内における本来の物質動態を知るためには、植物におけるイメージングを行う際の環境がその植物にとっての本来の生育環境に近似していることが重要である。植物にとっての本来の生育環境を知るためには、植物が生育する土壌についての情報を解析する、優れた技術が不可欠である。植物の生育に大きな影響を与える要因としては、土壌のpH、無機塩類濃度といった土壌の理化学性に加え、植物と共生、共存の関係にある土壌の微生物の存在が挙げられる。
【0003】
土壌から微生物DNAを検出または分離する技術は、これまでにいくつも報告されている。土壌から核酸を抽出するための既知の方法は、界面活性剤、リン酸、キレート剤などを含む抽出液で微生物菌体を破壊する。この抽出液は、土壌から腐植物質(例えば、腐植酸など)も同時に抽出する。この腐植物質が少しでも混入すると、引き続く分子生物学的な解析に弊害が生じる(例えば、Taq、制限酵素などの酵素活性を阻害する)。よって、酵素を用いる解析(例えば、RT−PCRなど)の前に、十分な精製作業を行う必要がある。しかし、このような精製操作は非常に煩雑であり、時間もコストもかかる。
【0004】
本発明者らは、高塩濃度下にて抽出した核酸抽出液に、高分子ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)を添加するとともにその溶液のpHを上昇させることによって、DNAだけを沈殿させる土壌DNA回収法を開発した(特許文献1参照)。
【特許文献1】WO2005/073377(国際公開日:2005(平成17)年8月11日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1は、高塩濃度下にて抽出した核酸抽出液を用いる技術であり、特許文献1に記載されるような高い塩濃度(2M〜)における精製処理ではRNAは沈殿してしまう。このような技術はあくまでもDNA精製法であり、この精製法をRNA精製に採用することはできない。また、RNAを除去することが当該分野においてよく知られているPEGが用いられた核酸精製技術はあくまでもDNA精製法でありRNA精製に適用されることはない。RNAはDNAよりもはるかに分解されやすいため、より慎重かつ簡便なRNA精製法が開発される必要がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、夾雑物を限りなく除去するRNA法を開発することであり、具体的には、土壌から抽出したRNAを、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便に精製する技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るRNA精製法は、陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびPEG存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴としている。なお、上記陽イオン性界面活性剤はセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)であることが好ましい。
【0008】
本発明に係るRNA精製法において、CTABの濃度は2%(w/v)以上であることが好ましく、3%(w/v)以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るRNA精製法において、PEGの濃度は5(w/v)以上であることが好ましく、7%(w/v)〜15%(w/v)であることがより好ましい。
【0009】
第1工程は、0.5〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることが好ましく、1.0〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることがより好ましく、1.0MのNa+存在下にて行われることがさらに好ましい。
【0010】
本発明に係るRNA精製法において、第1工程は、pH5.0〜6.5の範囲内で行われることが好ましく、pH5.0〜5.5の範囲内で行われることがより好ましい。
【0011】
本発明に係るRNA精製法において、第2工程は、pH8.0以上にて行われることが好ましく、さらなる塩を添加することなく行われることが好ましい。
【0012】
本発明に係るRNA精製法において、上記RNA抽出液は、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出によって得られたものであってもよい。
【0013】
本発明に係るRNA精製法は、回収したRNAを限外濾過に供する工程をさらに包含してもよく、この場合、限外濾過はNMWL50,000以上を分画し得る濾過であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るRNA精製法は、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥および糞便からなる群より選択される少なくとも1つに由来するサンプルからのRNA抽出液であっても適用可能である。
【0015】
本発明に係るRNA精製キットは、陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴としている。上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましい。
【0016】
本発明に係るRNA精製キットは、緩衝液または緩衝化能を有する塩を備えていることが好ましい。上記緩衝液は、弱酸性環境を提供するために必要な緩衝液およびアルカリ性環境を提供するために必要な緩衝液であり得、上記塩は、このようなpH環境を提供する緩衝化能を有していればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るRNA精製法を用いれば、土壌由来の腐植物質のような強固な夾雑物がRNA抽出液中に存在してもRNAを首尾よく分離/精製し得る。すなわち、本発明を用いれば、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便にRNAを精製することができるので、植物が生育する土壌についての微生物の情報を解析することができる。このことは、土壌微生物の解析のみならず、本来の生育環境における養分吸収、植物体内での物質挙動を調査する際の指標として非常に有効である。また、ATA(aurintricarboxylic acid)等のRNase阻害剤がRNA抽出液中に存在している場合であっても、本発明を用いれば、このような物質を首尾よく除去し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
遺伝子の解析には、PCR反応、クローニング、シークエンシング、ハイブリダイゼーション、遺伝子発現試験などの技術が用いられる。特に、PCR反応は、多くの遺伝子解析にとって重要で欠くことができない基本技術であり、遺伝情報に基づく微生物群集構造解析にとっても必須の操作である。
【0019】
土壌には、微生物または植物およびこれらの細胞膜または細胞壁、タンパク質、腐植物質や重金属などが含まれている。このような土壌からの核酸抽出液には上記物質が夾雑物として含まれているので、解析のためにはこれらの夾雑物をできるだけ取り除くべきである。特に、腐植物質は、精製した核酸サンプルに夾雑していると、極めて微量であっても酵素反応(例えば、PCR反応)を強力に阻害する。よって、腐植物質を核酸抽出液からできるだけ取り除くことが重要である。
【0020】
腐植物質は、植物の葉/茎が微生物により分解されてできた高分子の有機成分であり、一般的には、土壌からNaOHなどのアルカリ溶液により抽出される画分である。このように、腐植物質は、単なるアルカリ抽出画分であるので、単一の化合物というよりむしろ種々の高分子を含んだ不均一な混合物である。なお、本明細書中において、土壌由来の腐植物質を例に挙げて説明するが、本発明を実施するに際して、腐植物質は、土壌由来のものに限定されず、堆肥、水系堆積物、活性汚泥、糞便などに由来するものであってもよい。
【0021】
土壌由来の腐植物質は茶色もしくは黒色の物質である。有機物を多く含む土壌から核酸を抽出する場合、通常多量の腐植物質が核酸とともに抽出されるので、抽出液は暗褐色を呈している。
【0022】
DNAと腐植物質との分離には、両者の分子量の差が利用されており、多くのDNA精製法がこの原理(サイズ分画)に基づいている。また、カオトロピック効果によりDNAがガラス表面に吸着しやすくなることを利用する技術や磁性ビーズを利用した精製法も知られている。さらに、CTABやポリビニルポリピロリドン(PVPP)なども腐植物質の除去剤として使用されている。これらの物質を用いることによって土壌由来のDNAサンプルへの腐植物質の混入は軽減されているものの、完全な除去にまでは至っていない。特に、PVPPはDNAの収量が下げるなどの問題を有していることも知られている(特許文献1参照)。
【0023】
特許文献1に記載されるように、土壌DNA抽出液からのおおまかな腐植物質除去のために、CTAB、PVPPなどのような腐植物質除去剤が使用されることがある。本発明者らは、公知の腐植物質の除去法を用いた後にサイズ分画によるRNA精製を試みたが、腐植物質の除去が不十分なために目詰まりが生じてしまった。しかし、本発明者らは、CTABなどの陽イオン性界面活性剤を特定の条件下で用いれば、従来RNA精製において採用され得ないPEGを組み合わせることが可能になるとともに、引き続く限外濾過もスムーズに行い得る程度または限外濾過を行う必要がない程度に高度なRNA精製が高収率にて達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
本発明は、RNAを高度に分離/精製し得るRNA精製法を提供する。本発明に係るRNA精製法を用いれば、腐植物質のような除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る。また、腐植物質のような除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能である。
【0025】
本発明に係るRNA精製法は、陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴としている。なお、上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましく、その濃度は2%(w/v)以上が好ましい。また、PEGの濃度は5(w/v)以上であることが好ましい。
【0026】
第1工程では、RNA抽出液にCTABを添加してインキュベートした後にクロロホルムによる除タンパク操作を行う。第1工程ではCTAB以外に塩を共存させることが好ましい。この場合、抽出液に1.0M以上の1価のカチオンを添加し得る塩が好ましく、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびリン酸アンモニウムが挙げられる。本発明の第1工程において用いられる塩は、NaClまたは酢酸ナトリウムが好ましい。
【0027】
なお、塩濃度が1.25Mを超えるとRNAの塩析が生じ、塩濃度が低すぎるとCTABと結合するので除タンパク時にRNAが消失することから、第1工程において用いられる塩濃度は0.5〜1.25Mの範囲内であることが好ましく、1.0〜1.25Mの範囲内であることがより好ましい。最も好ましくは、第1工程は1.0MのNa+存在下にて行われ得る。
【0028】
また、CTABによる腐植物質の除去効率はpHが低いほどよいが、pHが低すぎるとRNAの分解および塩析が生じ、特にpHが5を下回るとRNA回収効率が著しく低減することから、第1工程が行われる反応のpHは5.0以上が好ましく、5.0〜6.5の範囲内であることがより好ましく、5.0〜5.5の範囲内であることがさらに好ましい。このようなpH環境を提供するために、第1工程において用いられる塩は酢酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム/NaClが好ましい。
【0029】
このような条件下において腐植物質を首尾よく除去しかつRNA回収効率を高めるためには、添加するCTABは2.5%(w/v)以上がより好ましく、3.0%(w/v)以上がなお好ましく、3.3%(w/v)以上がさらに好ましい。
【0030】
このような第1工程を経て調製されたRNA溶液からRNAを回収する第2工程は、PEGが用いられることを特徴としている。特許文献1に記載されているように、PEGには腐植物質を沈殿させにくく、腐植物質の混入を低減させるという効果があるが、それ以上に、RNAを除去してDNAの回収率を高めることが、当該分野においてよく知られている。よって、RNAの回収/精製にPEGが用いられることはない。
【0031】
本発明に係るRNA精製法において、第2工程は、pH7.0以上にて行われることが好ましく、このpH環境を提供するに必要な塩または緩衝液以外にはさらなる塩(例えば、LiCl)を添加することなく行われることが好ましい。通常、RNAを遠心分離によって回収する(沈殿させる)場合、2−プロパノールまたはLiClがよく用いられる。しかし、本発明の実施において、RNA溶液中には0.5M以上の塩が用いられているので2−プロパノールが首尾よく混合しない。また、後述する実施例において示されるように、アルカリ環境下でPEGを使用する第2工程ではLiClを用いない方がRNA回収効率は非常に優れている。この場合、用いるPEGの濃度は7%(w/v)〜15%(w/v)であることが好ましく、10%(w/v)であることがより好ましい。
【0032】
このような第1工程および第2工程を包含するRNA精製法を用いれば、土壌由来の腐植物質のような強固な夾雑物がRNA抽出液中に存在している場合であってもRNAを首尾よく分離/精製し得る。すなわち、本発明を用いれば、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便にRNAを精製することができる。腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能であり、本発明に係るRNA精製法に用いられるRNA抽出液は、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出、あるいは当該分野において公知の他の抽出技術によって得られたものであってもよい。
【0033】
本発明はさらに、上述したRNA精製法を行うためのRNA精製キットを提供する。本発明に係るRNA精製キットを用いれば、腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る。また、腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能である。
【0034】
本発明に係るRNA精製キットは、上述したRNA精製法を実施するに必要な試薬または器具が備えられていればよい。本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは試薬または器具の各々を使用するための指示書が備えられている。本明細書中にてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に試薬などが内包されている状態が意図される。「指示書」は、紙またはその他の媒体に印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に記録されていてもよい。
【0035】
本発明に係るRNA精製キットは、陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴とする。ここで、上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましい。
【0036】
上述したように、本発明に係るRNA精製法において、CTABの濃度は2%(w/v)以上であることが好ましい。よって、本発明に係るRNA精製キットに備えられているCTABは、2%(w/v)以上の濃度を提供し得る濃度であればよい。また、本発明に係るRNA精製法において、PEGの濃度は5%(w/v)以上であることが好ましい。よって、本発明に係るRNA精製キットに備えられているPEGは、5%(w/v)以上の濃度を提供し得る濃度であればよい。さらに、本発明に係るRNA精製キットは、上記CTABおよびPEGを必要な濃度に希釈するための溶液(例えば、蒸留水)がさらに備えられていてもよい。
【0037】
上述したように、本発明を実施するに際して、陽イオン性界面活性剤は弱酸性環境下にて用いられることが好ましく、PEGはアルカリ性環境下にて用いられることが好ましい。このような観点から、本発明に係るRNA精製キットは、緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることが好ましい。弱酸性環境を提供するために必要な緩衝液は当該分野において周知である(例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液又は硫酸緩衝液)が、抽出液に1.0M以上の1価のカチオンを添加する観点から、用いられるべき緩衝化剤(塩)は酢酸ナトリウムが最も好ましく、NaClをさらに備えていてもよい。また、アルカリ性環境を提供するために必要な緩衝液または緩衝化剤(塩)もまた、当該分野において周知であるが、pH環境を提供するに必要な塩以外にさらなる塩を添加することなくRNA回収が行われるべきという観点から、Trisが好ましい。本発明に係るRNA精製キットにおいて、上記緩衝液または緩衝化剤(塩)は上述した第1工程および第2工程を実施するに適切な態様で備えられていればよく、特定の濃度の溶液形態で備えられていれば迅速に混合溶液を調製し得るので即時使用に好ましい。
【0038】
本発明に係るRNA精製キットは、精製を実行するに必要な器具をさらに備えていてもよい。また、精製すべきRNAを抽出するために必要な試薬および器具をさらに備えていてもよい。
【0039】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0040】
土壌から核酸を抽出した場合、その抽出液には、微生物または植物などに由来する細胞膜または細胞壁の破砕物、界面活性剤によって変性したタンパク質、あるいは土壌自体に蓄積されていた土壌有機物(例えば、腐植物質)または重金属などの夾雑物が含まれている。抽出した核酸をその後の解析に供するためには、これらの夾雑物を除去する必要がある。RNAを遺伝子解析の対象とする場合、RNAを鋳型として一本鎖のDNAを合成するRT反応またはRT−PCR反応を行う必要がある。しかし、このような酵素反応は、土壌由来の夾雑物によって強力に阻害されることが知られている。特に腐植物質は、ナノグラム単位の微量な混入であってもPCR反応をはじめとする酵素反応を強く阻害することが知られている。よって、土壌から抽出した核酸を用いて遺伝子解析を行う場合は、抽出した核酸溶液からできるだけ腐植物質を除去する必要があり、腐植物質と核酸とを分離するための優れた精製技術が求められている。
【0041】
本実施例では、土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液を用いて、腐植物質の除去試験を行った。具体的には、以下に示す腐植物質抽出液2.5ml(必要に応じて2倍量の5ml)を、以下に示すE.coliからのRNA抽出液50mlに添加した混合液を用いた。
【0042】
〔腐植物質抽出液の調製〕
以下の手順に従って、図21に示す3種類の土壌(腐植物質を多量に含む火山灰土壌)から腐植物質を抽出し、次いで濃縮して腐植物質抽出液を得た。
【0043】
2.5mlの200mM EDTA/200mM Na2HPO4(pH8.6)に土壌1gを添加して1時間振とうした。次いで、この溶液を65℃で一昼夜インキュベートし、8000×gにて10分間遠心分離した。得られた上清に0.6等量の2−プロパノールを添加し、8000×gにて10分間遠心分離して腐植物質の沈殿を回収した。回収した沈殿を乾燥した後、4Mグアニジンチオシアネート溶液を添加し、室温で30分間振とうした。次いで、この溶液に等量のフェノール:クロロホルム(1:1)溶液を添加し、振とうした後に、8000×gにて10分間遠心分離した。この除タンパク処理によって土壌由来のRnaseが除去される。回収した上清に等量の2−プロパノールを添加し、8000×gにて10分間遠心分離して暗褐色の腐植物質を沈殿として回収した。回収した沈殿を乾燥し、次いでTEに溶解して腐植物質抽出液を得た。なお、実験には、15gの乾燥土壌から腐植物質抽出液を2ml調製した。
【0044】
〔RNA抽出液の調製〕
大腸菌(DH−5α)を、LB培地(1L当たり10g tryptone,5g yeast extract,10g NaCl)中で一晩培養し、この培養液を8000×gにて5分間遠心分離し、菌体を沈殿として回収した。1Lの培養液から集菌したE.coliを5mlの1%NaClに懸濁した。このE.coli菌体液50μlを1サンプル分として試験に使用した。このE.coli菌体液に、RNA抽出用溶液(SDS溶液(2% SDS,100mM Tris−HCl(pH8.0),50mM EDTA(pH8.0))またはグアニジンチオシアネート溶液(4Mグアニジンチオシアネート,25mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0),1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩))を添加し、次いで10分間の振とうした。この溶液を8000×gにて10分間遠心分離し、上清をRNA抽出液として得た。
【0045】
〔試薬の調製〕
cetyltrimethylammmonium bromide (sigma-aldrich)をミリQ水に溶解して、10%CTAB溶液を調製した。分子量8000および58000のpolyvinylpyrorridoneをミリQ水に溶解、10%ポリビニルピロリドン溶液を調製した。4M CH3COONaを、酢酸を用いてpH4.0,4.5,5.0または5.5に調整し、オートクレーブ処理して酢酸ナトリウム溶液を調製した。5M NaCl溶液および10M LiCl溶液を調製した。polyethylene glycol MW 8000 (sigma-aldrich)をミリQ水に溶解して、オートクレーブ処理して20%PEG溶液を調製した。
【0046】
〔RNA精製工程〕
RNA抽出液500μlに対し、10%CTAB溶液、10%ポリビニルピロリドン溶液(MW 8000)、10%ポリビニルピロリドン溶液(MW 58000)、5M NaCl、4M CH3COONa(pH4.0,4.5,5.0または5.5)を所定の濃度になるように添加した。この溶液をVortaxで30秒間攪拌した後、65℃で10分間インキュベートした。この溶液を室温に戻し、次いで等量のクロロホルムを添加した。この溶液をvortaxで30秒間攪拌し、12,000×gにて15分間遠心分離し、上清を回収した。この精製工程によって、腐植物質の除去および除タンパクを行い得る。
【0047】
〔RNA回収工程〕
(I)PEGを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlに、20%PEG溶液、20% PEG/4M LiCl溶液、10M LiCl、20%PEG/3M Tris−HCl(pH8.0)溶液または3M Tris−HCl(pH8.0)溶液を添加して、所定の濃度の溶液を調製した。得られた溶液を攪拌した後に、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0048】
(II)LiClを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlに、10M LiCl溶液または3M Tris−HCl(pH8.0)溶液を添加して、所定の濃度の溶液を調製した。得られた溶液を攪拌した後に、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0049】
(III)2−プロパノールを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlにミリQ水を添加して等量の2−プロパノールと完全に混合する濃度まで希釈した。この希釈溶液に等量の2−プロパノールを添加し、得られた溶液を攪拌し、次いで、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0050】
〔腐植物質のモニタリング〕
土壌から抽出される腐植物質は暗褐色であり、可視光の波長領域全域に非特徴的な光吸収特性を有している。腐植物質の定量には一般的に400nmにおける吸光度(ABS)が用いられる。本研究においても同様に405nmのABSを測定することによって腐植物質の量を測定した。ABSの値が低いほど溶液中の腐植物質の混入が少ない(腐植物質の除去率が高い)。
【0051】
上記精製工程において回収した上清(10〜20μl)または沈殿をTEに溶解した溶液(10〜20μl)を、96穴ウエル(263339 NUNC社製)に移し、合計100μlになるようTE緩衝液を添加した。このウエルを用いてマイクロプレートリーダーModel 680(バイオラット社製)にてABSを測定した。
【0052】
〔RNAの定量〕
DNAとRNAをアガロースゲル電気泳動により分離し、ゲルを染色した後にrRNA部分の蛍光を測定してRNAを定量した。アガロースゲルの濃度は1.5%で作製した。電気泳動を、×0.5 TAE緩衝液中で50Vにて30分間行った。ゲルの染色を、SYBR GreenIIで1時間行った。BAS3000(富士写真フィルム社製)を用いて、473nm励起および532nm以下の蛍光をカットしてDNAおよびRNAを定量的に検出した。画像処理を、Image Gaugeを用いて23S rRNAおよび16S rRNAのrRNAバンドの輝度を計測した。なお、各ゲルには、4〜5段階の標準としてλDNAのHindIII消化物を0.05μg〜0.25μgを同時に電気泳動し、λDNAのHindIII消化物を基準にした検量線に基づいてRNA量を定量した。
【0053】
〔大腸菌からのRNA抽出液に対するRNA回収法の比較〕
2−プロパノールを使用するRNA回収法が通常よく用いられる。しかし、この方法は抽出液中の塩濃度が高い場合は抽出液と2−プロパノールが混和せず、2層に分かれてしまうため、好ましくない。LiClを使用するRNA回収法もまたよく用いられるが、RNAの回収量がさほどよくない。そこで、本発明者らはさらなるRNA回収法を検討し、試行錯誤の結果、LiClと、通常RNA回収法に使用されることがないPEGとを共存させると、LiCl単独と比較してRNA回収率が向上することを見出した(図1)。
【0054】
図1は、2−プロパノールを使用した場合のRNA回収率を100として他の回収法と比較した結果を示す。図1に示すように、0.5M〜2MのLiClに対して5%〜10%のPEGを共存させるとRNA回収率が向上した。特に、1〜2MのLiClと10%PEGを共存させるとRNA回収率が優れていた。
【0055】
〔腐植物質除去効果に対するRNA抽出用溶液中の界面活性剤の影響〕
土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液からの腐植物質除去効果を検討するに際し、RNA抽出液中の界面活性剤の影響を検討した。その結果、RNA抽出用溶液が4Mグアニジンチオシアネート溶液(図2、3)であっても2%SDS溶液(図4、5、6)であっても有意な差はなかった。
【0056】
〔CTABまたはPVPPによる腐植物質除去効果〕
土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液からの腐植物質除去効果を検討するに際し、腐植物質除去に用いる物質を検討した。図2、4および5はCTABを用いた場合の腐植物質除去効果、図3(a)および図6はPVPPを用いた場合の腐植物質除去効果を示す。その結果、CTABが好ましいことがわかった。
【0057】
〔腐植物質除去におけるpHの影響〕
SDSによりE.coliより調整したRNA抽出液に腐植物質抽出液を混合した溶液からCTABを用いて腐植物質除去を行う際のpHの影響を検討した。その結果、CTABを用いて腐植物質除去を行う際のpHは5.0を下回るとRNA回収量が半減した(図9〜10)。
【0058】
〔腐植物質除去に対するCTABの濃度の影響〕
SDSによりE.coliより調整したRNA抽出液に腐植物質抽出液を混合した溶液からCTABを用いて腐植物質除去を行う際のCTABの濃度を検討した。その結果、2%(w/v)以上のCTABを用いれば、腐植物質除去効率が非常に良好であった(図7〜8、11〜12)。また、塩濃度(Na+イオン濃度)が高くなるにつれて腐植物質除去効率が低下することもわかった(図11〜12)。しかし、[Na+]が0.5Mまたは0.75Mの場合は、2.5%以上のCTABを用いるとRNAが分解し、rRNAのバンドを確認し得えない、もしくは不明瞭となった(図13(b)および図14(b))。さらに、[Na+]が1.0M〜1.25Mの場合は、いずれの濃度のCTABを用いてもRNAが分解しないことがわかった(図15(c))。また、CTAB濃度が2.5%または3%の場合の、塩の種類および濃度によるRNA回収率に対する影響を検討したが、[Na+]が0.75M〜1.25MであればRNA回収率は良好であることがわかった(図16)。
【0059】
〔CTABを用いたRNA精製後のRNA回収法の検討〕
以上の結果より、3%CTAB/1.0M CH3COONaを用いたRNA精製(腐植物質除去)が最適であることがわかった。このRNA溶液からのRNA回収法を検討した。その結果、腐植物質除去効率の観点から、アルカリ条件下のPEG溶液(PEG/Tris−HCl(pH8.0))溶液を用いてRNAを回収する方法が最適であることがわかった(図19〜20)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
生体内情報(例えば、生体内での物質の挙動)の画像化、すなわち物質の動態をリアルタイムで画像化する際に、自然環境が生体に与える影響を検討することは非常に重要である。本発明を用いれば、土壌での土壌微生物の生態をリアルタイムに検出し得る。さらに、本発明は、土壌からのRNAの抽出技術として、土壌からのDNAの抽出技術と同様に有用であり、土壌で活動している微生物を正確に評価し得る。本発明は、腐植物質の除去効率を改善し、土壌RNAの分子生物学的解析をより簡便にし得るので、土壌微生物生体解明にも大いに有用である。このように本発明は植物利用分野に大いに貢献できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】種々の回収方法によるRNA回収率を比較した結果を示すグラフである。
【図2】グアニジンチオシアネートを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図3】(a)は、グアニジンチオシアネートを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(b)は本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図4】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図5】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフ、ならびに本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図6】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフ、ならびに本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図7】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。(c)はSDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図8】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。(c)はSDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図9】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程を行った場合のRNA回収率を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。
【図10】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程を行った場合のRNA回収率を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。
【図11】本発明の一実施形態のRNA精製工程が弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が(a)0.5M、(b)0.75M、(c)1.0M、(d)1.25Mである。
【図12】弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程が、PEG沈殿法により回収したRNA溶液と混合された腐植物質の除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が(a)0.5M、(b)0.75M、(c)1.0M、(d)1.25Mである。
【図13】(a)は弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が0.5Mの場合を示す。(b)は(a)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(b)において、1は2.5%CTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液を示し、2は3%CTAB処理を元の抽出液(500μl)の1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.5MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、回収したRNA溶液について示している。3は3%のCTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で行った結果を示し、4は3.3%のCTAB処理を1/10量の4M CH3COONaを添加した結果を示し、5は3.3%CTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で行った結果を示す。
【図14】(a)は弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が0.75Mの場合を示す。(b)は(a)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(b)において、1、2、3は2.5%CTAB処理、4、5、6は3%CTAB処理、7、8、9は3.3%CTAB処理を行った結果であり、1は元の抽出液(500μl)に対し、1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.75MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液についての結果であり、2は元の抽出液(500μl)に対し、1/5量(100μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.75MとなるようNaClで調整して精製処理を行った結果、3は0.75M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行った結果について示している。同様に4、7は1/10量の4M CH3COONaを添加して0.75Mに調整して行った精製処理の結果、5、8は1/5量の4M CH3COONaを添加した結果、6、9は0.75M CH3COONa存在下での精製処理を示す。
【図15】弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(a)は[Na+]が1.0Mの場合を示し、[Na+]が1.25Mの場合を示す。(c)は(a)および(b)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(c)において、1は0.05μgのλDNAのHindIII消化物、2は0.1μg、3は0.15μg、4は0.2μg、5は0.25μgを電気泳動した。6,7,8は1%CTAB処理、9、10、11は2%CTAB処理、12、13、14は2.5%CTAB処理、15、16、17は3%CTAB処理、18、19、20は3.3%CTAB処理についての結果を示している。6は元の抽出液(500μl)に対し、1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに1MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液についての結果であり、7は元の抽出液(500μl)に対し、1/5量(100μl)の4M CH3COONaを添加しさらに1MとなるようNaClで調整して精製処理を行った結果、8は1M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行った結果について示している。同様に9、12、15、18は1/10量の4M CH3COONaを添加して1Mに調整して行った精製処理の結果、10、13、16、19は1/5量の4M CH3COONaを添加した結果、11、14、17、20は1M CH3COONa存在下での精製処理を示す。
【図16】本発明の一実施形態のRNA精製工程における塩の種類およびNaイオン濃度がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図17】本発明の一実施形態のRNA精製工程が東北大学森林土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程の除タンパク後の上清における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(b)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程後、PEG沈殿により回収したRNA溶液における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(c)は本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす効果を比較した結果を示す。
【図18】本発明の一実施形態のRNA精製工程に係るRNA精製工程が栃木森林土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程の除タンパク後の上清における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(b)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程後、PEG沈殿により回収したRNA溶液における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(c)は本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす効果を比較した結果を示す。
【図19】(a)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法の腐植物質除去効果に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(b)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法のRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図20】(a)は、東北大学森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法の腐植物質除去効果に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(b)はCTABによる精製処理を行わず、クロロホルムによる除タンパク処理のみを行い、2−プロパノールの等量添加により回収したRNA溶液であり、(c)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法のRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図21】実施例において用いた土壌の性状を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の微生物に関する情報を簡便に得る技術に関するものであり、より詳細には、土壌から抽出したRNAを高度に精製する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物内における本来の物質動態を知るためには、植物におけるイメージングを行う際の環境がその植物にとっての本来の生育環境に近似していることが重要である。植物にとっての本来の生育環境を知るためには、植物が生育する土壌についての情報を解析する、優れた技術が不可欠である。植物の生育に大きな影響を与える要因としては、土壌のpH、無機塩類濃度といった土壌の理化学性に加え、植物と共生、共存の関係にある土壌の微生物の存在が挙げられる。
【0003】
土壌から微生物DNAを検出または分離する技術は、これまでにいくつも報告されている。土壌から核酸を抽出するための既知の方法は、界面活性剤、リン酸、キレート剤などを含む抽出液で微生物菌体を破壊する。この抽出液は、土壌から腐植物質(例えば、腐植酸など)も同時に抽出する。この腐植物質が少しでも混入すると、引き続く分子生物学的な解析に弊害が生じる(例えば、Taq、制限酵素などの酵素活性を阻害する)。よって、酵素を用いる解析(例えば、RT−PCRなど)の前に、十分な精製作業を行う必要がある。しかし、このような精製操作は非常に煩雑であり、時間もコストもかかる。
【0004】
本発明者らは、高塩濃度下にて抽出した核酸抽出液に、高分子ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)を添加するとともにその溶液のpHを上昇させることによって、DNAだけを沈殿させる土壌DNA回収法を開発した(特許文献1参照)。
【特許文献1】WO2005/073377(国際公開日:2005(平成17)年8月11日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1は、高塩濃度下にて抽出した核酸抽出液を用いる技術であり、特許文献1に記載されるような高い塩濃度(2M〜)における精製処理ではRNAは沈殿してしまう。このような技術はあくまでもDNA精製法であり、この精製法をRNA精製に採用することはできない。また、RNAを除去することが当該分野においてよく知られているPEGが用いられた核酸精製技術はあくまでもDNA精製法でありRNA精製に適用されることはない。RNAはDNAよりもはるかに分解されやすいため、より慎重かつ簡便なRNA精製法が開発される必要がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、夾雑物を限りなく除去するRNA法を開発することであり、具体的には、土壌から抽出したRNAを、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便に精製する技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るRNA精製法は、陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびPEG存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴としている。なお、上記陽イオン性界面活性剤はセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)であることが好ましい。
【0008】
本発明に係るRNA精製法において、CTABの濃度は2%(w/v)以上であることが好ましく、3%(w/v)以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るRNA精製法において、PEGの濃度は5(w/v)以上であることが好ましく、7%(w/v)〜15%(w/v)であることがより好ましい。
【0009】
第1工程は、0.5〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることが好ましく、1.0〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることがより好ましく、1.0MのNa+存在下にて行われることがさらに好ましい。
【0010】
本発明に係るRNA精製法において、第1工程は、pH5.0〜6.5の範囲内で行われることが好ましく、pH5.0〜5.5の範囲内で行われることがより好ましい。
【0011】
本発明に係るRNA精製法において、第2工程は、pH8.0以上にて行われることが好ましく、さらなる塩を添加することなく行われることが好ましい。
【0012】
本発明に係るRNA精製法において、上記RNA抽出液は、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出によって得られたものであってもよい。
【0013】
本発明に係るRNA精製法は、回収したRNAを限外濾過に供する工程をさらに包含してもよく、この場合、限外濾過はNMWL50,000以上を分画し得る濾過であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るRNA精製法は、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥および糞便からなる群より選択される少なくとも1つに由来するサンプルからのRNA抽出液であっても適用可能である。
【0015】
本発明に係るRNA精製キットは、陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴としている。上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましい。
【0016】
本発明に係るRNA精製キットは、緩衝液または緩衝化能を有する塩を備えていることが好ましい。上記緩衝液は、弱酸性環境を提供するために必要な緩衝液およびアルカリ性環境を提供するために必要な緩衝液であり得、上記塩は、このようなpH環境を提供する緩衝化能を有していればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るRNA精製法を用いれば、土壌由来の腐植物質のような強固な夾雑物がRNA抽出液中に存在してもRNAを首尾よく分離/精製し得る。すなわち、本発明を用いれば、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便にRNAを精製することができるので、植物が生育する土壌についての微生物の情報を解析することができる。このことは、土壌微生物の解析のみならず、本来の生育環境における養分吸収、植物体内での物質挙動を調査する際の指標として非常に有効である。また、ATA(aurintricarboxylic acid)等のRNase阻害剤がRNA抽出液中に存在している場合であっても、本発明を用いれば、このような物質を首尾よく除去し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
遺伝子の解析には、PCR反応、クローニング、シークエンシング、ハイブリダイゼーション、遺伝子発現試験などの技術が用いられる。特に、PCR反応は、多くの遺伝子解析にとって重要で欠くことができない基本技術であり、遺伝情報に基づく微生物群集構造解析にとっても必須の操作である。
【0019】
土壌には、微生物または植物およびこれらの細胞膜または細胞壁、タンパク質、腐植物質や重金属などが含まれている。このような土壌からの核酸抽出液には上記物質が夾雑物として含まれているので、解析のためにはこれらの夾雑物をできるだけ取り除くべきである。特に、腐植物質は、精製した核酸サンプルに夾雑していると、極めて微量であっても酵素反応(例えば、PCR反応)を強力に阻害する。よって、腐植物質を核酸抽出液からできるだけ取り除くことが重要である。
【0020】
腐植物質は、植物の葉/茎が微生物により分解されてできた高分子の有機成分であり、一般的には、土壌からNaOHなどのアルカリ溶液により抽出される画分である。このように、腐植物質は、単なるアルカリ抽出画分であるので、単一の化合物というよりむしろ種々の高分子を含んだ不均一な混合物である。なお、本明細書中において、土壌由来の腐植物質を例に挙げて説明するが、本発明を実施するに際して、腐植物質は、土壌由来のものに限定されず、堆肥、水系堆積物、活性汚泥、糞便などに由来するものであってもよい。
【0021】
土壌由来の腐植物質は茶色もしくは黒色の物質である。有機物を多く含む土壌から核酸を抽出する場合、通常多量の腐植物質が核酸とともに抽出されるので、抽出液は暗褐色を呈している。
【0022】
DNAと腐植物質との分離には、両者の分子量の差が利用されており、多くのDNA精製法がこの原理(サイズ分画)に基づいている。また、カオトロピック効果によりDNAがガラス表面に吸着しやすくなることを利用する技術や磁性ビーズを利用した精製法も知られている。さらに、CTABやポリビニルポリピロリドン(PVPP)なども腐植物質の除去剤として使用されている。これらの物質を用いることによって土壌由来のDNAサンプルへの腐植物質の混入は軽減されているものの、完全な除去にまでは至っていない。特に、PVPPはDNAの収量が下げるなどの問題を有していることも知られている(特許文献1参照)。
【0023】
特許文献1に記載されるように、土壌DNA抽出液からのおおまかな腐植物質除去のために、CTAB、PVPPなどのような腐植物質除去剤が使用されることがある。本発明者らは、公知の腐植物質の除去法を用いた後にサイズ分画によるRNA精製を試みたが、腐植物質の除去が不十分なために目詰まりが生じてしまった。しかし、本発明者らは、CTABなどの陽イオン性界面活性剤を特定の条件下で用いれば、従来RNA精製において採用され得ないPEGを組み合わせることが可能になるとともに、引き続く限外濾過もスムーズに行い得る程度または限外濾過を行う必要がない程度に高度なRNA精製が高収率にて達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
本発明は、RNAを高度に分離/精製し得るRNA精製法を提供する。本発明に係るRNA精製法を用いれば、腐植物質のような除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る。また、腐植物質のような除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能である。
【0025】
本発明に係るRNA精製法は、陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴としている。なお、上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましく、その濃度は2%(w/v)以上が好ましい。また、PEGの濃度は5(w/v)以上であることが好ましい。
【0026】
第1工程では、RNA抽出液にCTABを添加してインキュベートした後にクロロホルムによる除タンパク操作を行う。第1工程ではCTAB以外に塩を共存させることが好ましい。この場合、抽出液に1.0M以上の1価のカチオンを添加し得る塩が好ましく、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびリン酸アンモニウムが挙げられる。本発明の第1工程において用いられる塩は、NaClまたは酢酸ナトリウムが好ましい。
【0027】
なお、塩濃度が1.25Mを超えるとRNAの塩析が生じ、塩濃度が低すぎるとCTABと結合するので除タンパク時にRNAが消失することから、第1工程において用いられる塩濃度は0.5〜1.25Mの範囲内であることが好ましく、1.0〜1.25Mの範囲内であることがより好ましい。最も好ましくは、第1工程は1.0MのNa+存在下にて行われ得る。
【0028】
また、CTABによる腐植物質の除去効率はpHが低いほどよいが、pHが低すぎるとRNAの分解および塩析が生じ、特にpHが5を下回るとRNA回収効率が著しく低減することから、第1工程が行われる反応のpHは5.0以上が好ましく、5.0〜6.5の範囲内であることがより好ましく、5.0〜5.5の範囲内であることがさらに好ましい。このようなpH環境を提供するために、第1工程において用いられる塩は酢酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム/NaClが好ましい。
【0029】
このような条件下において腐植物質を首尾よく除去しかつRNA回収効率を高めるためには、添加するCTABは2.5%(w/v)以上がより好ましく、3.0%(w/v)以上がなお好ましく、3.3%(w/v)以上がさらに好ましい。
【0030】
このような第1工程を経て調製されたRNA溶液からRNAを回収する第2工程は、PEGが用いられることを特徴としている。特許文献1に記載されているように、PEGには腐植物質を沈殿させにくく、腐植物質の混入を低減させるという効果があるが、それ以上に、RNAを除去してDNAの回収率を高めることが、当該分野においてよく知られている。よって、RNAの回収/精製にPEGが用いられることはない。
【0031】
本発明に係るRNA精製法において、第2工程は、pH7.0以上にて行われることが好ましく、このpH環境を提供するに必要な塩または緩衝液以外にはさらなる塩(例えば、LiCl)を添加することなく行われることが好ましい。通常、RNAを遠心分離によって回収する(沈殿させる)場合、2−プロパノールまたはLiClがよく用いられる。しかし、本発明の実施において、RNA溶液中には0.5M以上の塩が用いられているので2−プロパノールが首尾よく混合しない。また、後述する実施例において示されるように、アルカリ環境下でPEGを使用する第2工程ではLiClを用いない方がRNA回収効率は非常に優れている。この場合、用いるPEGの濃度は7%(w/v)〜15%(w/v)であることが好ましく、10%(w/v)であることがより好ましい。
【0032】
このような第1工程および第2工程を包含するRNA精製法を用いれば、土壌由来の腐植物質のような強固な夾雑物がRNA抽出液中に存在している場合であってもRNAを首尾よく分離/精製し得る。すなわち、本発明を用いれば、土壌からの腐植物質を混入させることなく、高度にかつ簡便にRNAを精製することができる。腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能であり、本発明に係るRNA精製法に用いられるRNA抽出液は、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出、あるいは当該分野において公知の他の抽出技術によって得られたものであってもよい。
【0033】
本発明はさらに、上述したRNA精製法を行うためのRNA精製キットを提供する。本発明に係るRNA精製キットを用いれば、腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る。また、腐植物質のような強固で除去困難な夾雑物が存在してもRNAを高度に分離/精製し得る本発明は、土壌から抽出したRNAに限らず、あらゆるRNA抽出物に適用可能である。
【0034】
本発明に係るRNA精製キットは、上述したRNA精製法を実施するに必要な試薬または器具が備えられていればよい。本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは試薬または器具の各々を使用するための指示書が備えられている。本明細書中にてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に試薬などが内包されている状態が意図される。「指示書」は、紙またはその他の媒体に印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に記録されていてもよい。
【0035】
本発明に係るRNA精製キットは、陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴とする。ここで、上記陽イオン性界面活性剤はCTABであることが好ましい。
【0036】
上述したように、本発明に係るRNA精製法において、CTABの濃度は2%(w/v)以上であることが好ましい。よって、本発明に係るRNA精製キットに備えられているCTABは、2%(w/v)以上の濃度を提供し得る濃度であればよい。また、本発明に係るRNA精製法において、PEGの濃度は5%(w/v)以上であることが好ましい。よって、本発明に係るRNA精製キットに備えられているPEGは、5%(w/v)以上の濃度を提供し得る濃度であればよい。さらに、本発明に係るRNA精製キットは、上記CTABおよびPEGを必要な濃度に希釈するための溶液(例えば、蒸留水)がさらに備えられていてもよい。
【0037】
上述したように、本発明を実施するに際して、陽イオン性界面活性剤は弱酸性環境下にて用いられることが好ましく、PEGはアルカリ性環境下にて用いられることが好ましい。このような観点から、本発明に係るRNA精製キットは、緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることが好ましい。弱酸性環境を提供するために必要な緩衝液は当該分野において周知である(例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液又は硫酸緩衝液)が、抽出液に1.0M以上の1価のカチオンを添加する観点から、用いられるべき緩衝化剤(塩)は酢酸ナトリウムが最も好ましく、NaClをさらに備えていてもよい。また、アルカリ性環境を提供するために必要な緩衝液または緩衝化剤(塩)もまた、当該分野において周知であるが、pH環境を提供するに必要な塩以外にさらなる塩を添加することなくRNA回収が行われるべきという観点から、Trisが好ましい。本発明に係るRNA精製キットにおいて、上記緩衝液または緩衝化剤(塩)は上述した第1工程および第2工程を実施するに適切な態様で備えられていればよく、特定の濃度の溶液形態で備えられていれば迅速に混合溶液を調製し得るので即時使用に好ましい。
【0038】
本発明に係るRNA精製キットは、精製を実行するに必要な器具をさらに備えていてもよい。また、精製すべきRNAを抽出するために必要な試薬および器具をさらに備えていてもよい。
【0039】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0040】
土壌から核酸を抽出した場合、その抽出液には、微生物または植物などに由来する細胞膜または細胞壁の破砕物、界面活性剤によって変性したタンパク質、あるいは土壌自体に蓄積されていた土壌有機物(例えば、腐植物質)または重金属などの夾雑物が含まれている。抽出した核酸をその後の解析に供するためには、これらの夾雑物を除去する必要がある。RNAを遺伝子解析の対象とする場合、RNAを鋳型として一本鎖のDNAを合成するRT反応またはRT−PCR反応を行う必要がある。しかし、このような酵素反応は、土壌由来の夾雑物によって強力に阻害されることが知られている。特に腐植物質は、ナノグラム単位の微量な混入であってもPCR反応をはじめとする酵素反応を強く阻害することが知られている。よって、土壌から抽出した核酸を用いて遺伝子解析を行う場合は、抽出した核酸溶液からできるだけ腐植物質を除去する必要があり、腐植物質と核酸とを分離するための優れた精製技術が求められている。
【0041】
本実施例では、土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液を用いて、腐植物質の除去試験を行った。具体的には、以下に示す腐植物質抽出液2.5ml(必要に応じて2倍量の5ml)を、以下に示すE.coliからのRNA抽出液50mlに添加した混合液を用いた。
【0042】
〔腐植物質抽出液の調製〕
以下の手順に従って、図21に示す3種類の土壌(腐植物質を多量に含む火山灰土壌)から腐植物質を抽出し、次いで濃縮して腐植物質抽出液を得た。
【0043】
2.5mlの200mM EDTA/200mM Na2HPO4(pH8.6)に土壌1gを添加して1時間振とうした。次いで、この溶液を65℃で一昼夜インキュベートし、8000×gにて10分間遠心分離した。得られた上清に0.6等量の2−プロパノールを添加し、8000×gにて10分間遠心分離して腐植物質の沈殿を回収した。回収した沈殿を乾燥した後、4Mグアニジンチオシアネート溶液を添加し、室温で30分間振とうした。次いで、この溶液に等量のフェノール:クロロホルム(1:1)溶液を添加し、振とうした後に、8000×gにて10分間遠心分離した。この除タンパク処理によって土壌由来のRnaseが除去される。回収した上清に等量の2−プロパノールを添加し、8000×gにて10分間遠心分離して暗褐色の腐植物質を沈殿として回収した。回収した沈殿を乾燥し、次いでTEに溶解して腐植物質抽出液を得た。なお、実験には、15gの乾燥土壌から腐植物質抽出液を2ml調製した。
【0044】
〔RNA抽出液の調製〕
大腸菌(DH−5α)を、LB培地(1L当たり10g tryptone,5g yeast extract,10g NaCl)中で一晩培養し、この培養液を8000×gにて5分間遠心分離し、菌体を沈殿として回収した。1Lの培養液から集菌したE.coliを5mlの1%NaClに懸濁した。このE.coli菌体液50μlを1サンプル分として試験に使用した。このE.coli菌体液に、RNA抽出用溶液(SDS溶液(2% SDS,100mM Tris−HCl(pH8.0),50mM EDTA(pH8.0))またはグアニジンチオシアネート溶液(4Mグアニジンチオシアネート,25mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0),1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩))を添加し、次いで10分間の振とうした。この溶液を8000×gにて10分間遠心分離し、上清をRNA抽出液として得た。
【0045】
〔試薬の調製〕
cetyltrimethylammmonium bromide (sigma-aldrich)をミリQ水に溶解して、10%CTAB溶液を調製した。分子量8000および58000のpolyvinylpyrorridoneをミリQ水に溶解、10%ポリビニルピロリドン溶液を調製した。4M CH3COONaを、酢酸を用いてpH4.0,4.5,5.0または5.5に調整し、オートクレーブ処理して酢酸ナトリウム溶液を調製した。5M NaCl溶液および10M LiCl溶液を調製した。polyethylene glycol MW 8000 (sigma-aldrich)をミリQ水に溶解して、オートクレーブ処理して20%PEG溶液を調製した。
【0046】
〔RNA精製工程〕
RNA抽出液500μlに対し、10%CTAB溶液、10%ポリビニルピロリドン溶液(MW 8000)、10%ポリビニルピロリドン溶液(MW 58000)、5M NaCl、4M CH3COONa(pH4.0,4.5,5.0または5.5)を所定の濃度になるように添加した。この溶液をVortaxで30秒間攪拌した後、65℃で10分間インキュベートした。この溶液を室温に戻し、次いで等量のクロロホルムを添加した。この溶液をvortaxで30秒間攪拌し、12,000×gにて15分間遠心分離し、上清を回収した。この精製工程によって、腐植物質の除去および除タンパクを行い得る。
【0047】
〔RNA回収工程〕
(I)PEGを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlに、20%PEG溶液、20% PEG/4M LiCl溶液、10M LiCl、20%PEG/3M Tris−HCl(pH8.0)溶液または3M Tris−HCl(pH8.0)溶液を添加して、所定の濃度の溶液を調製した。得られた溶液を攪拌した後に、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0048】
(II)LiClを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlに、10M LiCl溶液または3M Tris−HCl(pH8.0)溶液を添加して、所定の濃度の溶液を調製した。得られた溶液を攪拌した後に、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0049】
(III)2−プロパノールを使用する回収
上記精製工程において回収した上清500μlにミリQ水を添加して等量の2−プロパノールと完全に混合する濃度まで希釈した。この希釈溶液に等量の2−プロパノールを添加し、得られた溶液を攪拌し、次いで、20000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、50μl〜100μlのTEに溶解してRNA溶液とした。
【0050】
〔腐植物質のモニタリング〕
土壌から抽出される腐植物質は暗褐色であり、可視光の波長領域全域に非特徴的な光吸収特性を有している。腐植物質の定量には一般的に400nmにおける吸光度(ABS)が用いられる。本研究においても同様に405nmのABSを測定することによって腐植物質の量を測定した。ABSの値が低いほど溶液中の腐植物質の混入が少ない(腐植物質の除去率が高い)。
【0051】
上記精製工程において回収した上清(10〜20μl)または沈殿をTEに溶解した溶液(10〜20μl)を、96穴ウエル(263339 NUNC社製)に移し、合計100μlになるようTE緩衝液を添加した。このウエルを用いてマイクロプレートリーダーModel 680(バイオラット社製)にてABSを測定した。
【0052】
〔RNAの定量〕
DNAとRNAをアガロースゲル電気泳動により分離し、ゲルを染色した後にrRNA部分の蛍光を測定してRNAを定量した。アガロースゲルの濃度は1.5%で作製した。電気泳動を、×0.5 TAE緩衝液中で50Vにて30分間行った。ゲルの染色を、SYBR GreenIIで1時間行った。BAS3000(富士写真フィルム社製)を用いて、473nm励起および532nm以下の蛍光をカットしてDNAおよびRNAを定量的に検出した。画像処理を、Image Gaugeを用いて23S rRNAおよび16S rRNAのrRNAバンドの輝度を計測した。なお、各ゲルには、4〜5段階の標準としてλDNAのHindIII消化物を0.05μg〜0.25μgを同時に電気泳動し、λDNAのHindIII消化物を基準にした検量線に基づいてRNA量を定量した。
【0053】
〔大腸菌からのRNA抽出液に対するRNA回収法の比較〕
2−プロパノールを使用するRNA回収法が通常よく用いられる。しかし、この方法は抽出液中の塩濃度が高い場合は抽出液と2−プロパノールが混和せず、2層に分かれてしまうため、好ましくない。LiClを使用するRNA回収法もまたよく用いられるが、RNAの回収量がさほどよくない。そこで、本発明者らはさらなるRNA回収法を検討し、試行錯誤の結果、LiClと、通常RNA回収法に使用されることがないPEGとを共存させると、LiCl単独と比較してRNA回収率が向上することを見出した(図1)。
【0054】
図1は、2−プロパノールを使用した場合のRNA回収率を100として他の回収法と比較した結果を示す。図1に示すように、0.5M〜2MのLiClに対して5%〜10%のPEGを共存させるとRNA回収率が向上した。特に、1〜2MのLiClと10%PEGを共存させるとRNA回収率が優れていた。
【0055】
〔腐植物質除去効果に対するRNA抽出用溶液中の界面活性剤の影響〕
土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液からの腐植物質除去効果を検討するに際し、RNA抽出液中の界面活性剤の影響を検討した。その結果、RNA抽出用溶液が4Mグアニジンチオシアネート溶液(図2、3)であっても2%SDS溶液(図4、5、6)であっても有意な差はなかった。
【0056】
〔CTABまたはPVPPによる腐植物質除去効果〕
土壌からの腐植物質抽出液とE.coliからのRNA抽出液との混合液からの腐植物質除去効果を検討するに際し、腐植物質除去に用いる物質を検討した。図2、4および5はCTABを用いた場合の腐植物質除去効果、図3(a)および図6はPVPPを用いた場合の腐植物質除去効果を示す。その結果、CTABが好ましいことがわかった。
【0057】
〔腐植物質除去におけるpHの影響〕
SDSによりE.coliより調整したRNA抽出液に腐植物質抽出液を混合した溶液からCTABを用いて腐植物質除去を行う際のpHの影響を検討した。その結果、CTABを用いて腐植物質除去を行う際のpHは5.0を下回るとRNA回収量が半減した(図9〜10)。
【0058】
〔腐植物質除去に対するCTABの濃度の影響〕
SDSによりE.coliより調整したRNA抽出液に腐植物質抽出液を混合した溶液からCTABを用いて腐植物質除去を行う際のCTABの濃度を検討した。その結果、2%(w/v)以上のCTABを用いれば、腐植物質除去効率が非常に良好であった(図7〜8、11〜12)。また、塩濃度(Na+イオン濃度)が高くなるにつれて腐植物質除去効率が低下することもわかった(図11〜12)。しかし、[Na+]が0.5Mまたは0.75Mの場合は、2.5%以上のCTABを用いるとRNAが分解し、rRNAのバンドを確認し得えない、もしくは不明瞭となった(図13(b)および図14(b))。さらに、[Na+]が1.0M〜1.25Mの場合は、いずれの濃度のCTABを用いてもRNAが分解しないことがわかった(図15(c))。また、CTAB濃度が2.5%または3%の場合の、塩の種類および濃度によるRNA回収率に対する影響を検討したが、[Na+]が0.75M〜1.25MであればRNA回収率は良好であることがわかった(図16)。
【0059】
〔CTABを用いたRNA精製後のRNA回収法の検討〕
以上の結果より、3%CTAB/1.0M CH3COONaを用いたRNA精製(腐植物質除去)が最適であることがわかった。このRNA溶液からのRNA回収法を検討した。その結果、腐植物質除去効率の観点から、アルカリ条件下のPEG溶液(PEG/Tris−HCl(pH8.0))溶液を用いてRNAを回収する方法が最適であることがわかった(図19〜20)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
生体内情報(例えば、生体内での物質の挙動)の画像化、すなわち物質の動態をリアルタイムで画像化する際に、自然環境が生体に与える影響を検討することは非常に重要である。本発明を用いれば、土壌での土壌微生物の生態をリアルタイムに検出し得る。さらに、本発明は、土壌からのRNAの抽出技術として、土壌からのDNAの抽出技術と同様に有用であり、土壌で活動している微生物を正確に評価し得る。本発明は、腐植物質の除去効率を改善し、土壌RNAの分子生物学的解析をより簡便にし得るので、土壌微生物生体解明にも大いに有用である。このように本発明は植物利用分野に大いに貢献できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】種々の回収方法によるRNA回収率を比較した結果を示すグラフである。
【図2】グアニジンチオシアネートを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図3】(a)は、グアニジンチオシアネートを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(b)は本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図4】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図5】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフ、ならびに本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図6】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフ、ならびに本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質の存在を示すグラフである。
【図7】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。(c)はSDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図8】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程による腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。(c)はSDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明のRNA精製工程を行わない場合の腐植物質除去効果を比較した結果を示すグラフである。
【図9】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程を行った場合のRNA回収率を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。
【図10】SDSを用いて抽出したRNA抽出液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程を行った場合のRNA回収率を比較した結果を示すグラフであり、(a)はpH4.5、(b)はpH5.0で行った場合の結果を示す。
【図11】本発明の一実施形態のRNA精製工程が弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が(a)0.5M、(b)0.75M、(c)1.0M、(d)1.25Mである。
【図12】弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程が、PEG沈殿法により回収したRNA溶液と混合された腐植物質の除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が(a)0.5M、(b)0.75M、(c)1.0M、(d)1.25Mである。
【図13】(a)は弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が0.5Mの場合を示す。(b)は(a)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(b)において、1は2.5%CTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液を示し、2は3%CTAB処理を元の抽出液(500μl)の1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.5MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、回収したRNA溶液について示している。3は3%のCTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で行った結果を示し、4は3.3%のCTAB処理を1/10量の4M CH3COONaを添加した結果を示し、5は3.3%CTAB処理を0.5M CH3COONa存在下で行った結果を示す。
【図14】(a)は弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、[Na+]が0.75Mの場合を示す。(b)は(a)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(b)において、1、2、3は2.5%CTAB処理、4、5、6は3%CTAB処理、7、8、9は3.3%CTAB処理を行った結果であり、1は元の抽出液(500μl)に対し、1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.75MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液についての結果であり、2は元の抽出液(500μl)に対し、1/5量(100μl)の4M CH3COONaを添加しさらに0.75MとなるようNaClで調整して精製処理を行った結果、3は0.75M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行った結果について示している。同様に4、7は1/10量の4M CH3COONaを添加して0.75Mに調整して行った精製処理の結果、5、8は1/5量の4M CH3COONaを添加した結果、6、9は0.75M CH3COONa存在下での精製処理を示す。
【図15】弥生堆肥区土壌由来の腐植物質除去の際に、本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(a)は[Na+]が1.0Mの場合を示し、[Na+]が1.25Mの場合を示す。(c)は(a)および(b)によって得られたRNAを電気泳動した結果を示す図である。なお、(c)において、1は0.05μgのλDNAのHindIII消化物、2は0.1μg、3は0.15μg、4は0.2μg、5は0.25μgを電気泳動した。6,7,8は1%CTAB処理、9、10、11は2%CTAB処理、12、13、14は2.5%CTAB処理、15、16、17は3%CTAB処理、18、19、20は3.3%CTAB処理についての結果を示している。6は元の抽出液(500μl)に対し、1/10量(50μl)の4M CH3COONaを添加しさらに1MとなるようNaClで調整して精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行ったRNA溶液についての結果であり、7は元の抽出液(500μl)に対し、1/5量(100μl)の4M CH3COONaを添加しさらに1MとなるようNaClで調整して精製処理を行った結果、8は1M CH3COONa存在下で精製処理を行い、PEG沈殿法により回収を行った結果について示している。同様に9、12、15、18は1/10量の4M CH3COONaを添加して1Mに調整して行った精製処理の結果、10、13、16、19は1/5量の4M CH3COONaを添加した結果、11、14、17、20は1M CH3COONa存在下での精製処理を示す。
【図16】本発明の一実施形態のRNA精製工程における塩の種類およびNaイオン濃度がRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図17】本発明の一実施形態のRNA精製工程が東北大学森林土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程の除タンパク後の上清における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(b)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程後、PEG沈殿により回収したRNA溶液における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(c)は本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす効果を比較した結果を示す。
【図18】本発明の一実施形態のRNA精製工程に係るRNA精製工程が栃木森林土壌由来の腐植物質除去に及ぼす効果を比較した結果を示すグラフであり、(a)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程の除タンパク後の上清における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(b)は、RNA溶液と腐植物質抽出液との混合液に対する、本発明の一実施形態のRNA精製工程後、PEG沈殿により回収したRNA溶液における腐植物質除去効果を比較した結果を示し、(c)は本発明の一実施形態のRNA精製工程がRNA回収率に及ぼす効果を比較した結果を示す。
【図19】(a)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法の腐植物質除去効果に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(b)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法のRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図20】(a)は、東北大学森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法の腐植物質除去効果に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフであり、(b)はCTABによる精製処理を行わず、クロロホルムによる除タンパク処理のみを行い、2−プロパノールの等量添加により回収したRNA溶液であり、(c)は、栃木森林土壌由来の腐植物質を用いた、PEGまたはLiCl法によるRNA回収法のRNA回収率に及ぼす影響を比較した結果を示すグラフである。
【図21】実施例において用いた土壌の性状を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール(PEG)存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴とするRNA精製法。
【請求項2】
前記陽イオン性界面活性剤がセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)であることを特徴とする請求項1に記載のRNA精製法。
【請求項3】
前記CTABの濃度が2%(w/v)以上であることを特徴とする請求項2に記載のRNA精製法。
【請求項4】
前記PEGの濃度が5〜15%(w/v)の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項5】
第1工程が0.5〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項6】
第1工程がpH5.0〜6.5の範囲内で行われることを特徴とする請求項5に記載のRNA精製法。
【請求項7】
第2工程がpH7.0以上にて行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項8】
前記RNA抽出液が、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出によって得られたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項9】
回収したRNAを限外濾過に供する工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項10】
前記RNA抽出液が、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥および糞便からなる群より選択される少なくとも1つに由来することを特徴とする請求項1に記載のRNA精製法。
【請求項11】
陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴とするRNA精製キット。
【請求項12】
前記陽イオン性界面活性剤がCTABであることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【請求項13】
弱酸性環境を提供し得る緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【請求項14】
アルカリ性環境を提供し得る緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【請求項1】
陽イオン性界面活性剤をRNA抽出液へ添加してRNA溶液を調製する第1工程、およびポリエチレングリコール(PEG)存在下にて該RNA溶液からRNAを回収する第2工程を包含することを特徴とするRNA精製法。
【請求項2】
前記陽イオン性界面活性剤がセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)であることを特徴とする請求項1に記載のRNA精製法。
【請求項3】
前記CTABの濃度が2%(w/v)以上であることを特徴とする請求項2に記載のRNA精製法。
【請求項4】
前記PEGの濃度が5〜15%(w/v)の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項5】
第1工程が0.5〜1.25Mの範囲内の塩存在下にて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項6】
第1工程がpH5.0〜6.5の範囲内で行われることを特徴とする請求項5に記載のRNA精製法。
【請求項7】
第2工程がpH7.0以上にて行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項8】
前記RNA抽出液が、SDS抽出またはグアニジンチオシアネート抽出によって得られたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項9】
回収したRNAを限外濾過に供する工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のRNA精製法。
【請求項10】
前記RNA抽出液が、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥および糞便からなる群より選択される少なくとも1つに由来することを特徴とする請求項1に記載のRNA精製法。
【請求項11】
陽イオン性界面活性剤およびPEGを備えていることを特徴とするRNA精製キット。
【請求項12】
前記陽イオン性界面活性剤がCTABであることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【請求項13】
弱酸性環境を提供し得る緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【請求項14】
アルカリ性環境を提供し得る緩衝液または緩衝化能を有する塩をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のRNA精製キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−82066(P2009−82066A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255921(P2007−255921)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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