土壌の中性化処理方法
【課題】酸性、またはアルカリ土壌の効率的な中性化処理方法を提供する。
【解決手段】酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度(例えば、2,550K以上)のアークプラズマにより処理をして、中性化焦土とする土壌の中性化処理方法。および、アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属(カルシウムやマグネシウム等)を溶発させるエネルギー相当(例えば、カルシウムの場合1,750K)以上の温度のアークプラズマにより処理する土壌の中性化処理方法。
【解決手段】酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度(例えば、2,550K以上)のアークプラズマにより処理をして、中性化焦土とする土壌の中性化処理方法。および、アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属(カルシウムやマグネシウム等)を溶発させるエネルギー相当(例えば、カルシウムの場合1,750K)以上の温度のアークプラズマにより処理する土壌の中性化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性・アルカリ土壌の中性化処理方法に関し、詳しくは、アークプラズマによる酸性・アルカリ土壌の中性化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸性雨によって酸性化した土壌は、植物の成長に欠かすことのできない養分であるMgやCaが酸と反応して流出し、植物の成長が止まったり、病気に対する抵抗力が弱まり、農作物の収穫量の減少を引き起こす問題を起こしていた。また、土壌からの重金属の溶出は、土壌の種類よりもpHに支配され、ZnはpHが約5.5以下、Cuは約4.0以下で溶出量が増加するとの研究結果も報告されている(非特許文献1参照)。酸性雨の主な被害地域としては、東ヨーロッパ・北欧・北米・東南アジアが挙げられるが、我が国においても、従来酸性雨による被害は報告されていないとされてきたが、日本政府は1994年に「日本にも酸性雨の被害があり、その原因は中国からの大気汚染物質の影響もある」という異例のコメントを発表していることから決して楽観視できる状況ではない。
【0003】
また、アルカリ土壌に関しては、塩分の問題だけでなく土も堅くなり改善が大変困難であり、燐酸を始めとする有用成分の多くが水に溶けない形態になるため、植物が養分を吸い上げられず不毛化するという問題がある。アルカリ土壌に関しては、pHにして8.5以上の状態と定義される(非特許文献2参照)。アルカリ土壌は雨が少なく乾燥した地域に分布するが、このような地域では、土中の水分の蒸発が激しく、塩類が集積してアルカリ性を示す。現在中国では日本の国土の面積を上回る約42万平方キロメートルの土地がアルカリ化しており、将来的な土地の枯渇が懸念されている。日本国内においては、コンクリートやセメントという強アルカリ建築資材の残りが工事完成後・解体後、放置分散された場合や、大規模な土木造成地では、地盤安定処理のために大量のセメント系固化材が使用されており、都市の土壌や植物を取り巻く環境が急速にアルカリ化に向かっている。
このような酸性土壌およびアルカリ土壌の問題に対する有効な対策が求められている。
【0004】
一方、アークプラズマによる廃棄物処理が汎用技術となりつつある昨今、鉛・六価クロム等の重金属類やダイオキシン等の化学物質などによって汚染された土壌の処理、改質に関する報告がなされている。
【非特許文献1】服部浩之著、「汚泥施用土壌からの重金属溶出の潜在的な危険性」、日本土壌肥料学雑誌、69巻、第2号、pp.135−143(1998)
【非特許文献2】岩生周一著、粘土の事典、朝倉書店、p.9(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸性、またはアルカリ土壌の効率的な中性化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通常土壌は陰性に帯電しているとされているが、その原因は土壌コロイドによるものである。土壌コロイドとは、土壌を構成する数μm以下から数nm以上の微細な画分を総称した名称であり、土壌中では主に粘土分がこれに相当する。粘土分が負電荷を発生させる原因として、第1に粘土粒子中では結晶格子中での置換および表面、特に格子末端での欠陥が粘土粒子に負電荷を発生させる。第2の原因としては、粒子端部における不備な満たされない原子価(破壊原子価)の電荷である。これらの理由から土壌表面は陰性に帯電している。よって土壌は交換性陽イオンを含む陽イオンを表面に吸着している。この様子を図1に示す。交換性陽イオンとは、土壌に吸着している陽イオンの内、他の陽イオンにより容易に交換される陽イオンのことであり、Ca2+、Mg2+、K+、NH4+、Na+がこれにあたる。そして図2の(a)状態に酸性物質が負荷されると土壌中の交換性陽イオンが順次H+に置換されて(b)に示す状態になる。(b)の状態で土はすでにH+が支配的になっているために酸性を示すが、H+を保持した土(粘土粒子)は、これ自体が酸であるため、さらに粘土自体の酸が粘土を構成しているアルミニウムをイオンとして溶出する。溶出したアルミニウムイオンAl3+は(c)に示すように、水と反応してH+を生じる。以上のように、土壌粒子に吸着されるH+と、土壌粒子から溶出するH+によって土壌は酸性化する(松野健太郎著、「酸性雨と酸性霧」裳華房、(1993))。
【0007】
酸性土壌の粒子表面と水素イオンのさらなる反応状態を図3に示す。水素イオン(H+)1は土粒子表面2の負の電荷(−)をもつ部分に引き寄せられ、水素結合により強く結合する(「土質工学ハンドブック」、社団法人土質工学会、pp.32〜33(1982))。引きつけられた水素イオン1の濃度は、図3のように土粒子表面2でもっとも高く,表面から遠ざかるほど低くなる。粒子表面近くのイオン膜を固着層3、その外側のイオンが拡散している層を拡散層4という。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、熱プラズマ処理を行い、その水素結合エネルギー以上に相当する高温度(約2,550K)を与えれば、水素結合を破壊し、拡散層に点在している水素イオンを粒子外部に離散させ、中性化させることが可能であることを見出した。また、アルカリ土壌においても同様に熱プラズマ処理することにより中性化させることが可能であることを見出した。
本発明はこの知見に基づきなすにいたったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(2)酸性土壌をアーク中心温度2,550K以上のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(3)前記アークプラズマによる処理が、アーク照射時間5〜20秒で行うことを特徴とする(1)または(2)項に記載の土壌の中性化処理方法、
(4)アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属を溶発させるエネルギー相当以上の温度のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(5)アルカリ土壌をアーク中心温度1,750K以上のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法、および
(4)前記アークプラズマが被処理土壌を有する導電性坩堝と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させたものであることをより行うことを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の土壌の中性化処理方法
を提供するものである。
なお、上記の印加させられる電圧は、高電圧なら、直流、交流、高周波、インパルス等の任意の手段を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、非常に短時間で酸性土壌およびアルカリ性土壌を中性化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、酸性土壌またはアルカリ性土壌を、高温アークプラズマを用いて中性化処理するものである。本発明において、用いられる高温アークプラズマは中心温度が2,550〜18,000K、好ましくは8,000〜18,000K、さらに好ましくは15,000〜18,000Kであるものである。また、平均のアーク温度は、好ましくは3,000〜9,000K、さらに好ましくは7,000〜9,000Kである。
中心温度が2,550K以上である理由を以下に述べる。水素結合の結合力は約5kcal/mol(21kJ/mol)であり、電子ボルト単位に換算するとおよそ0.22eV/molになる。プラズマの温度とeVの関係は、11,600Kで1eVに対応する。すなわち、水素結合の強さに匹敵するエネルギーを生み出すのに必要な温度は2,550K、約2,300度と求められる。よって、熱プラズマ処理を行い、その結合エネルギー以上に相当する温度を与えれば、水素結合を打ち破り中性化することが可能である。
【0011】
本発明の一つの実施態様は、酸性土壌をアーク中心温度15,000〜18,000Kのアークプラズマによる処理をして、中性化焦土とする酸性土壌の中性化処理を行った。処理される酸性土壌のpHは、特に限定されるものではないが、例えばpH4.3の酸性土壌を、本実施態様の方法により、pHが通常7.2〜9.1、好ましくは7.0前後の焦土とすることができる。また、被処理酸性土壌としては、例えば、活性汚泥の余剰汚泥を用いることができる。
なお、本発明において、処理後の焦土とは坩堝内に固形化したスラグとは別に残留した土壌のことをいい、pHはその焦土を攪拌したものを任意に測定している。好ましくは平均粒径が処理前とほぼ同一粒径であるものをいう。
【0012】
本実施態様におけるアークプラズマ処理時間は、アークの発生から、好ましくは5〜20秒、さらに好ましくは数秒以下で行うものである。アークプラズマ処理時間がこれより短いとアーク温度の制御が困難であり、また、アークプラズマ処理時間が長すぎると、発生するスラグ成分の割合が多くなり、そのままでは土壌として再利用することができない。ただし、生成されるスラグ自体も中性の物質であり、上記の20秒以下の処理時間では焦土に含有される量も少ないので、実用上問題はない。また、アークプラズマ処理時間後に常法によりスラグを分別しても良い。スラグ自体も別途路盤材料に有効活用でき、用途によってはスラグを得る方が得策の場合も有りうる。
【0013】
本発明の別の実施態様は、アルカリ土壌をアーク中心温度15,000〜18,000Kのアークプラズマにより処理するアルカリ土壌の中性化処理方法である。処理されるアルカリ土壌のpHは、特に限定されるものではないが、例えばpH10のアルカリ土壌を、本実施態様の方法により、pHが通常7.5〜7.6、好ましくは7.0前後の中性化土壌とすることができる。
また、本実施態様におけるアークプラズマ処理時間は、アークの発生から2分間処理したが、好ましくは酸性土壌処理と同様に5〜20秒、さらに好ましくは数秒以下行うものである。この処理時間で処理を行うことにより、アルカリ土壌における成分中、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属の割合を大幅に減少することができる。
【0014】
本発明においてアークプラズマの発生方式に特に限定はないが、例えば、被処理土壌を有する導電性坩堝(例えば炭素坩堝)と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させる方式を用いて行うことができる。電圧は、直流、交流、高周波、インパルス等の任意の手段を用いることが可能である。
上記電圧として、直流電流が用いられる場合は、与えられる直流電流は200A程度が好ましく、電力コスト低減の観点からより低電流がさらに好ましい。陰極電極としては、例えば、炭素、タングステンなどを用いることができる。電極間距離L=50mm程度が好ましい。プラズマガスとしては、Ar、さらに電極損耗対策を施せば窒素、空気などを用いることができる。ガス流量Fcは8L/mim(slm)程度が好ましい。雰囲気は空気、アルゴン、窒素などを用いることができる。
上記方式は乾式であり、時間も短く、極めて簡便な手法である。
また、酸性土壌を中性化焦土に処理する方法では、酸性度の強い状態の被処理土を、ほぼ同粒径の微粒化した乾燥状態の土壌として得ることができ、その処理後の土壌はそのまま造成、植林等に再利用することができる。
【実施例】
【0015】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実施例1 酸性土壌処理
図4の概略斜視図に示すアークプラズマ発生装置を用いて酸性土壌の中性化処理を行った。図4のアークプラズマ発生装置は、チャンバー(放電室)11内に、トーチA12とトーチB13の2つのトーチが設置しており、本実施例ではトーチA12を用いる。トーチA12における陰極電極は中空であり、そこからプラズマガスを流入させることでアークプラズマの制御が可能である。陰極先端の形状は、角度60度の円錐形で最先端は丸みを帯びており、中軸直径はφ=40mmである。また水冷銅帯板上に炭素坩堝を配置し、これを陽極14とした。なお、図4中、15,16は陰極、17は高速カメラ、18,19は電極、20,21は窓、22,23はケーブルである。
【0017】
図5に炭素坩堝24と陰極電極(トーチ)25の概略を示す。炭素坩堝24の内径は6.5cm、深さは8.8cmのものを用いた。プラズマ条件は、直流電流I=200A、陰極電極:炭素、電極間距離L=50mm、プラズマガス:Ar、ガス流量Fc=8slm(Nl/min)、雰囲気は空気で行い、酸性土(pH4.3)5.0gをアーク発生から5〜30秒を5秒間隔で処理を行った。なお、図5中、26は土壌であり、トーチ25は矢印方向に挿入される。
【0018】
処理時間5〜30s間の処理では、坩堝内に黒色の焦土(黒焦土)と生成されたスラグ(固溶体)が混在していた。その結果を図6〜8に示す。図6は、処理時間に対する黒焦土重量の変化を示すグラフである。図7は、処理時間に対するスラグ重量の変化を示すグラフである。図8は、黒焦土重量(M)に対するスラグ重量(m)の割合(m/M)の処理時間による変化を示すグラフである。図6〜8において、横軸は処理時間(秒)を示す。
図6〜8に示されるように、処理時間が長くなるほどスラグの発生割合が多くなった。
【0019】
次に、処理された焦土のpHを測定した。処理して得られた焦土は、ほぼ同一粒径の形状を有する土であった。固体である土において、溶液中の水素イオン濃度を示す指数のpHを測定するために、土質工学会基準では、土に水H2O又は塩化カリウム溶液KClを滴下し、そのpH値を土のpHと規定している。土と蒸留水(pH7.0)を1:2.5の重量比で水を滴下し、1分間撹拌した後測定されたpHをpH(H2O)と表記する。この方法では、土と平衡状態になっている土中の水溶液中に含まれる水素イオンがpHとして表れる。一般に土のpHといえばpH(H2O)を指す。一方、土と塩化カリウム溶液(pH7.0,1mol)を1:2.5の重量比で塩化カリウムを滴下し、撹拌した後測定されたpHをpH(KCl)と表記する。この方法では、土と平衡状態になっている土中の水溶液中に含まれる水素イオンだけではなく、土粒子表面に付着している水素イオンがカリウムイオンで置換されるために、その遊離された水素イオンも含めて測定される。よって、基本的にpH(H2O)より値が低くなる。本実施例では、上記の土質工学会基準に基づいたpH測定を行った。
【0020】
図9は、焦土の処理時間とpHの関係を示すグラフである。
焦土に関しては、処理前の土のpHがpH(H2O)で4.3、pH(KCl)で3.5であったものが、処理時間に応じて、pH(H2O)、pH(KCl)共に上昇している。これは、土の拡散層に存在している水素イオンが熱エネルギーを受け取り、土粒子外部へ離散し、土全体に占める水素イオンの割合が徐々に減少していったためと思われる。さらに、pH(H2O)、pH(KCl)の値が全ての時間において、処理前と同等の差が生じているため、この時点では土粒子表面(固着層)に水素イオンが吸着していると考えられる。
【0021】
また、アーク中心温度T0(K)が、Arアークの場合、アーク半径R(cm)を用いて
【0022】
【数1】
【0023】
と近似できる(稲葉次紀,楠茂幸,岩尾徹,遠藤正雄:大電流器壁安定化アークの放射パワーに及ぼす電流と電力のパラメータの解析的試算, 電気学会,基礎・材料・共通部門論文誌, Vol.118-A, No.1, pp.10-15(1998))。本実施例におけるアーク写真よりアーク半径Rを求め、(1)式より温度を算出すると、アーク中心温度T0は図10のように求められる。アーク中心温度は、陰極から5cmのところ、つまり土が処理される領域において、約15,000Kと高い値を示している。
【0024】
実施例2 アルカリ土壌処理
被処理土壌としてアルカリ土(pH10)5.0gを用い、空気中またはAr中で、アーク発生から2分間で処理を行った以外は実施例1と同様にアークプラズマ処理を行った。
アークプラズマ点弧から2分後に生成されたスラグと、それを砕いた微砕粉(粒径約0.1mm以下)のpHを実施例1と同様に測定した。ただし、pH(H2O)のみ測定した。アルカリ土の処理前後のpH試験結果を図11に示す。
【0025】
同図より、処理前に強アルカリの10であったpHが、空気中・Ar中の両方共に,スラグ時には中性の約7.5に改善され、スラグを砕いた微砕粉においても砕く前のスラグとほぼ変わらない値となった。この理由として、土壌がアルカリ性を示す場合の最要因である塩類(今回の実験条件においては水酸化カルシウム:融点839℃,沸点1,480℃,1,750K)の減少が考えられる。つまり、熱プラズマ処理によって塩類であるカルシウムやマグネシウムが溶発し、土全体の成分におけるカルシウムやマグネシウムの成分割合が減少したことが原因の1つと考えられる。また、酸性土の測定結果と同様に、空気中、Ar中共に同一の結果であることから、化学反応的な事象が原因ではないと解せる。
【0026】
次に処理前後のアルカリ土壌について蛍光X線分析装置による成分分析を行った。
処理前の供試アルカリ土壌(pH10)の成分分析結果を図12に、処理後のスラグ表面の成分分析結果を図13に、またスラグ内部の成分分析結果を図14に示す。一般的な土のカルシウムの割合はカリウムと同程度で数%しか無いが、図12より、処理前の土に水酸化カルシウムとマグネシウムが主成分である苦土石灰を添加させ、pHを10に調整してあるために、一般的な土よりカルシウムの成分が多いことが解る。
【0027】
しかし、処理後にスラグとなった試料は、他元素も多少の増減が見られるが、スラグ表面・内部共にカルシウムの割合がほぼ半分と大幅に減少している。具体的にその減少率を計算する。処理前の成分量を1とすると、スラグ表面におけるアルミニウムの減少率は21.0%、カルシウムの減少率は49.3%、スラグ内部のアルミニウムの減少率は10.2%、カルシウムの減少率は41.6%であり、スラグの表面・内部共にアルミニウムの減少率よりカルシウムの減少率の方が2倍以上と圧倒的に大きい。これは、カルシウムは測定される主な元素の中で沸点が最も低いため、熱プラズマ処理により他の元素より容易に蒸発し、外部へ離散しためと思われる。表1に土中に含まれる主な元素の融点と沸点に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
つまり、前項のpH試験結果において、アルカリ土が、熱プラズマ処理後pHが2.5も大幅減少し、中性化できた主な原因として、カルシウムの蒸発、離散の可能性が高い。この分析結果から、処理後のスラグでは、アルカリ性となる原因であったカルシウムの減少が示された。よって、熱プラズマ処理によるアルカリ土壌処理の妥当性を示すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】土壌粒子の陽イオン吸着の様子を示す模式図である。
【図2】土壌酸性化の過程の説明図である。
【図3】酸性土壌粒子表面のイオン拡散状態の説明図である。
【図4】ビッグトーチ装置の構成を示す概略図である。
【図5】実施例で用いた坩堝の概略図である。
【図6】処理時間に対する黒焦土重量の変化を示すグラフである。
【図7】処理時間に対するスラグ重量の変化を示すグラフである。
【図8】黒焦土重量に対するスラグ重量の割合の処理時間による変化を示すグラフである。
【図9】焦土の処理時間とpHの関係を示すグラフである。
【図10】実施例におけるアーク中心温度分布を示すグラフである。
【図11】生成スラグのpH試験結果を示すグラフである。
【図12】供試アルカリ土壌の成分分析結果を示すグラフである。
【図13】アルカリスラグ表面の成分分析結果を示すグラフである。
【図14】アルカリスラグ内部の成分分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 水素イオン
2 土粒子表面
3 固着層
4 拡散層
11 チャンバー
12 トーチA
13 トーチB
14 陽極
15,16 陰極
17 高速カメラ
18,19 電極
20,21 窓
22,23 ケーブル
24 炭素坩堝
25 陰極電極(トーチ)
26 土壌
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性・アルカリ土壌の中性化処理方法に関し、詳しくは、アークプラズマによる酸性・アルカリ土壌の中性化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸性雨によって酸性化した土壌は、植物の成長に欠かすことのできない養分であるMgやCaが酸と反応して流出し、植物の成長が止まったり、病気に対する抵抗力が弱まり、農作物の収穫量の減少を引き起こす問題を起こしていた。また、土壌からの重金属の溶出は、土壌の種類よりもpHに支配され、ZnはpHが約5.5以下、Cuは約4.0以下で溶出量が増加するとの研究結果も報告されている(非特許文献1参照)。酸性雨の主な被害地域としては、東ヨーロッパ・北欧・北米・東南アジアが挙げられるが、我が国においても、従来酸性雨による被害は報告されていないとされてきたが、日本政府は1994年に「日本にも酸性雨の被害があり、その原因は中国からの大気汚染物質の影響もある」という異例のコメントを発表していることから決して楽観視できる状況ではない。
【0003】
また、アルカリ土壌に関しては、塩分の問題だけでなく土も堅くなり改善が大変困難であり、燐酸を始めとする有用成分の多くが水に溶けない形態になるため、植物が養分を吸い上げられず不毛化するという問題がある。アルカリ土壌に関しては、pHにして8.5以上の状態と定義される(非特許文献2参照)。アルカリ土壌は雨が少なく乾燥した地域に分布するが、このような地域では、土中の水分の蒸発が激しく、塩類が集積してアルカリ性を示す。現在中国では日本の国土の面積を上回る約42万平方キロメートルの土地がアルカリ化しており、将来的な土地の枯渇が懸念されている。日本国内においては、コンクリートやセメントという強アルカリ建築資材の残りが工事完成後・解体後、放置分散された場合や、大規模な土木造成地では、地盤安定処理のために大量のセメント系固化材が使用されており、都市の土壌や植物を取り巻く環境が急速にアルカリ化に向かっている。
このような酸性土壌およびアルカリ土壌の問題に対する有効な対策が求められている。
【0004】
一方、アークプラズマによる廃棄物処理が汎用技術となりつつある昨今、鉛・六価クロム等の重金属類やダイオキシン等の化学物質などによって汚染された土壌の処理、改質に関する報告がなされている。
【非特許文献1】服部浩之著、「汚泥施用土壌からの重金属溶出の潜在的な危険性」、日本土壌肥料学雑誌、69巻、第2号、pp.135−143(1998)
【非特許文献2】岩生周一著、粘土の事典、朝倉書店、p.9(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸性、またはアルカリ土壌の効率的な中性化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通常土壌は陰性に帯電しているとされているが、その原因は土壌コロイドによるものである。土壌コロイドとは、土壌を構成する数μm以下から数nm以上の微細な画分を総称した名称であり、土壌中では主に粘土分がこれに相当する。粘土分が負電荷を発生させる原因として、第1に粘土粒子中では結晶格子中での置換および表面、特に格子末端での欠陥が粘土粒子に負電荷を発生させる。第2の原因としては、粒子端部における不備な満たされない原子価(破壊原子価)の電荷である。これらの理由から土壌表面は陰性に帯電している。よって土壌は交換性陽イオンを含む陽イオンを表面に吸着している。この様子を図1に示す。交換性陽イオンとは、土壌に吸着している陽イオンの内、他の陽イオンにより容易に交換される陽イオンのことであり、Ca2+、Mg2+、K+、NH4+、Na+がこれにあたる。そして図2の(a)状態に酸性物質が負荷されると土壌中の交換性陽イオンが順次H+に置換されて(b)に示す状態になる。(b)の状態で土はすでにH+が支配的になっているために酸性を示すが、H+を保持した土(粘土粒子)は、これ自体が酸であるため、さらに粘土自体の酸が粘土を構成しているアルミニウムをイオンとして溶出する。溶出したアルミニウムイオンAl3+は(c)に示すように、水と反応してH+を生じる。以上のように、土壌粒子に吸着されるH+と、土壌粒子から溶出するH+によって土壌は酸性化する(松野健太郎著、「酸性雨と酸性霧」裳華房、(1993))。
【0007】
酸性土壌の粒子表面と水素イオンのさらなる反応状態を図3に示す。水素イオン(H+)1は土粒子表面2の負の電荷(−)をもつ部分に引き寄せられ、水素結合により強く結合する(「土質工学ハンドブック」、社団法人土質工学会、pp.32〜33(1982))。引きつけられた水素イオン1の濃度は、図3のように土粒子表面2でもっとも高く,表面から遠ざかるほど低くなる。粒子表面近くのイオン膜を固着層3、その外側のイオンが拡散している層を拡散層4という。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、熱プラズマ処理を行い、その水素結合エネルギー以上に相当する高温度(約2,550K)を与えれば、水素結合を破壊し、拡散層に点在している水素イオンを粒子外部に離散させ、中性化させることが可能であることを見出した。また、アルカリ土壌においても同様に熱プラズマ処理することにより中性化させることが可能であることを見出した。
本発明はこの知見に基づきなすにいたったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(2)酸性土壌をアーク中心温度2,550K以上のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(3)前記アークプラズマによる処理が、アーク照射時間5〜20秒で行うことを特徴とする(1)または(2)項に記載の土壌の中性化処理方法、
(4)アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属を溶発させるエネルギー相当以上の温度のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法、
(5)アルカリ土壌をアーク中心温度1,750K以上のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法、および
(4)前記アークプラズマが被処理土壌を有する導電性坩堝と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させたものであることをより行うことを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の土壌の中性化処理方法
を提供するものである。
なお、上記の印加させられる電圧は、高電圧なら、直流、交流、高周波、インパルス等の任意の手段を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、非常に短時間で酸性土壌およびアルカリ性土壌を中性化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、酸性土壌またはアルカリ性土壌を、高温アークプラズマを用いて中性化処理するものである。本発明において、用いられる高温アークプラズマは中心温度が2,550〜18,000K、好ましくは8,000〜18,000K、さらに好ましくは15,000〜18,000Kであるものである。また、平均のアーク温度は、好ましくは3,000〜9,000K、さらに好ましくは7,000〜9,000Kである。
中心温度が2,550K以上である理由を以下に述べる。水素結合の結合力は約5kcal/mol(21kJ/mol)であり、電子ボルト単位に換算するとおよそ0.22eV/molになる。プラズマの温度とeVの関係は、11,600Kで1eVに対応する。すなわち、水素結合の強さに匹敵するエネルギーを生み出すのに必要な温度は2,550K、約2,300度と求められる。よって、熱プラズマ処理を行い、その結合エネルギー以上に相当する温度を与えれば、水素結合を打ち破り中性化することが可能である。
【0011】
本発明の一つの実施態様は、酸性土壌をアーク中心温度15,000〜18,000Kのアークプラズマによる処理をして、中性化焦土とする酸性土壌の中性化処理を行った。処理される酸性土壌のpHは、特に限定されるものではないが、例えばpH4.3の酸性土壌を、本実施態様の方法により、pHが通常7.2〜9.1、好ましくは7.0前後の焦土とすることができる。また、被処理酸性土壌としては、例えば、活性汚泥の余剰汚泥を用いることができる。
なお、本発明において、処理後の焦土とは坩堝内に固形化したスラグとは別に残留した土壌のことをいい、pHはその焦土を攪拌したものを任意に測定している。好ましくは平均粒径が処理前とほぼ同一粒径であるものをいう。
【0012】
本実施態様におけるアークプラズマ処理時間は、アークの発生から、好ましくは5〜20秒、さらに好ましくは数秒以下で行うものである。アークプラズマ処理時間がこれより短いとアーク温度の制御が困難であり、また、アークプラズマ処理時間が長すぎると、発生するスラグ成分の割合が多くなり、そのままでは土壌として再利用することができない。ただし、生成されるスラグ自体も中性の物質であり、上記の20秒以下の処理時間では焦土に含有される量も少ないので、実用上問題はない。また、アークプラズマ処理時間後に常法によりスラグを分別しても良い。スラグ自体も別途路盤材料に有効活用でき、用途によってはスラグを得る方が得策の場合も有りうる。
【0013】
本発明の別の実施態様は、アルカリ土壌をアーク中心温度15,000〜18,000Kのアークプラズマにより処理するアルカリ土壌の中性化処理方法である。処理されるアルカリ土壌のpHは、特に限定されるものではないが、例えばpH10のアルカリ土壌を、本実施態様の方法により、pHが通常7.5〜7.6、好ましくは7.0前後の中性化土壌とすることができる。
また、本実施態様におけるアークプラズマ処理時間は、アークの発生から2分間処理したが、好ましくは酸性土壌処理と同様に5〜20秒、さらに好ましくは数秒以下行うものである。この処理時間で処理を行うことにより、アルカリ土壌における成分中、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属の割合を大幅に減少することができる。
【0014】
本発明においてアークプラズマの発生方式に特に限定はないが、例えば、被処理土壌を有する導電性坩堝(例えば炭素坩堝)と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させる方式を用いて行うことができる。電圧は、直流、交流、高周波、インパルス等の任意の手段を用いることが可能である。
上記電圧として、直流電流が用いられる場合は、与えられる直流電流は200A程度が好ましく、電力コスト低減の観点からより低電流がさらに好ましい。陰極電極としては、例えば、炭素、タングステンなどを用いることができる。電極間距離L=50mm程度が好ましい。プラズマガスとしては、Ar、さらに電極損耗対策を施せば窒素、空気などを用いることができる。ガス流量Fcは8L/mim(slm)程度が好ましい。雰囲気は空気、アルゴン、窒素などを用いることができる。
上記方式は乾式であり、時間も短く、極めて簡便な手法である。
また、酸性土壌を中性化焦土に処理する方法では、酸性度の強い状態の被処理土を、ほぼ同粒径の微粒化した乾燥状態の土壌として得ることができ、その処理後の土壌はそのまま造成、植林等に再利用することができる。
【実施例】
【0015】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実施例1 酸性土壌処理
図4の概略斜視図に示すアークプラズマ発生装置を用いて酸性土壌の中性化処理を行った。図4のアークプラズマ発生装置は、チャンバー(放電室)11内に、トーチA12とトーチB13の2つのトーチが設置しており、本実施例ではトーチA12を用いる。トーチA12における陰極電極は中空であり、そこからプラズマガスを流入させることでアークプラズマの制御が可能である。陰極先端の形状は、角度60度の円錐形で最先端は丸みを帯びており、中軸直径はφ=40mmである。また水冷銅帯板上に炭素坩堝を配置し、これを陽極14とした。なお、図4中、15,16は陰極、17は高速カメラ、18,19は電極、20,21は窓、22,23はケーブルである。
【0017】
図5に炭素坩堝24と陰極電極(トーチ)25の概略を示す。炭素坩堝24の内径は6.5cm、深さは8.8cmのものを用いた。プラズマ条件は、直流電流I=200A、陰極電極:炭素、電極間距離L=50mm、プラズマガス:Ar、ガス流量Fc=8slm(Nl/min)、雰囲気は空気で行い、酸性土(pH4.3)5.0gをアーク発生から5〜30秒を5秒間隔で処理を行った。なお、図5中、26は土壌であり、トーチ25は矢印方向に挿入される。
【0018】
処理時間5〜30s間の処理では、坩堝内に黒色の焦土(黒焦土)と生成されたスラグ(固溶体)が混在していた。その結果を図6〜8に示す。図6は、処理時間に対する黒焦土重量の変化を示すグラフである。図7は、処理時間に対するスラグ重量の変化を示すグラフである。図8は、黒焦土重量(M)に対するスラグ重量(m)の割合(m/M)の処理時間による変化を示すグラフである。図6〜8において、横軸は処理時間(秒)を示す。
図6〜8に示されるように、処理時間が長くなるほどスラグの発生割合が多くなった。
【0019】
次に、処理された焦土のpHを測定した。処理して得られた焦土は、ほぼ同一粒径の形状を有する土であった。固体である土において、溶液中の水素イオン濃度を示す指数のpHを測定するために、土質工学会基準では、土に水H2O又は塩化カリウム溶液KClを滴下し、そのpH値を土のpHと規定している。土と蒸留水(pH7.0)を1:2.5の重量比で水を滴下し、1分間撹拌した後測定されたpHをpH(H2O)と表記する。この方法では、土と平衡状態になっている土中の水溶液中に含まれる水素イオンがpHとして表れる。一般に土のpHといえばpH(H2O)を指す。一方、土と塩化カリウム溶液(pH7.0,1mol)を1:2.5の重量比で塩化カリウムを滴下し、撹拌した後測定されたpHをpH(KCl)と表記する。この方法では、土と平衡状態になっている土中の水溶液中に含まれる水素イオンだけではなく、土粒子表面に付着している水素イオンがカリウムイオンで置換されるために、その遊離された水素イオンも含めて測定される。よって、基本的にpH(H2O)より値が低くなる。本実施例では、上記の土質工学会基準に基づいたpH測定を行った。
【0020】
図9は、焦土の処理時間とpHの関係を示すグラフである。
焦土に関しては、処理前の土のpHがpH(H2O)で4.3、pH(KCl)で3.5であったものが、処理時間に応じて、pH(H2O)、pH(KCl)共に上昇している。これは、土の拡散層に存在している水素イオンが熱エネルギーを受け取り、土粒子外部へ離散し、土全体に占める水素イオンの割合が徐々に減少していったためと思われる。さらに、pH(H2O)、pH(KCl)の値が全ての時間において、処理前と同等の差が生じているため、この時点では土粒子表面(固着層)に水素イオンが吸着していると考えられる。
【0021】
また、アーク中心温度T0(K)が、Arアークの場合、アーク半径R(cm)を用いて
【0022】
【数1】
【0023】
と近似できる(稲葉次紀,楠茂幸,岩尾徹,遠藤正雄:大電流器壁安定化アークの放射パワーに及ぼす電流と電力のパラメータの解析的試算, 電気学会,基礎・材料・共通部門論文誌, Vol.118-A, No.1, pp.10-15(1998))。本実施例におけるアーク写真よりアーク半径Rを求め、(1)式より温度を算出すると、アーク中心温度T0は図10のように求められる。アーク中心温度は、陰極から5cmのところ、つまり土が処理される領域において、約15,000Kと高い値を示している。
【0024】
実施例2 アルカリ土壌処理
被処理土壌としてアルカリ土(pH10)5.0gを用い、空気中またはAr中で、アーク発生から2分間で処理を行った以外は実施例1と同様にアークプラズマ処理を行った。
アークプラズマ点弧から2分後に生成されたスラグと、それを砕いた微砕粉(粒径約0.1mm以下)のpHを実施例1と同様に測定した。ただし、pH(H2O)のみ測定した。アルカリ土の処理前後のpH試験結果を図11に示す。
【0025】
同図より、処理前に強アルカリの10であったpHが、空気中・Ar中の両方共に,スラグ時には中性の約7.5に改善され、スラグを砕いた微砕粉においても砕く前のスラグとほぼ変わらない値となった。この理由として、土壌がアルカリ性を示す場合の最要因である塩類(今回の実験条件においては水酸化カルシウム:融点839℃,沸点1,480℃,1,750K)の減少が考えられる。つまり、熱プラズマ処理によって塩類であるカルシウムやマグネシウムが溶発し、土全体の成分におけるカルシウムやマグネシウムの成分割合が減少したことが原因の1つと考えられる。また、酸性土の測定結果と同様に、空気中、Ar中共に同一の結果であることから、化学反応的な事象が原因ではないと解せる。
【0026】
次に処理前後のアルカリ土壌について蛍光X線分析装置による成分分析を行った。
処理前の供試アルカリ土壌(pH10)の成分分析結果を図12に、処理後のスラグ表面の成分分析結果を図13に、またスラグ内部の成分分析結果を図14に示す。一般的な土のカルシウムの割合はカリウムと同程度で数%しか無いが、図12より、処理前の土に水酸化カルシウムとマグネシウムが主成分である苦土石灰を添加させ、pHを10に調整してあるために、一般的な土よりカルシウムの成分が多いことが解る。
【0027】
しかし、処理後にスラグとなった試料は、他元素も多少の増減が見られるが、スラグ表面・内部共にカルシウムの割合がほぼ半分と大幅に減少している。具体的にその減少率を計算する。処理前の成分量を1とすると、スラグ表面におけるアルミニウムの減少率は21.0%、カルシウムの減少率は49.3%、スラグ内部のアルミニウムの減少率は10.2%、カルシウムの減少率は41.6%であり、スラグの表面・内部共にアルミニウムの減少率よりカルシウムの減少率の方が2倍以上と圧倒的に大きい。これは、カルシウムは測定される主な元素の中で沸点が最も低いため、熱プラズマ処理により他の元素より容易に蒸発し、外部へ離散しためと思われる。表1に土中に含まれる主な元素の融点と沸点に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
つまり、前項のpH試験結果において、アルカリ土が、熱プラズマ処理後pHが2.5も大幅減少し、中性化できた主な原因として、カルシウムの蒸発、離散の可能性が高い。この分析結果から、処理後のスラグでは、アルカリ性となる原因であったカルシウムの減少が示された。よって、熱プラズマ処理によるアルカリ土壌処理の妥当性を示すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】土壌粒子の陽イオン吸着の様子を示す模式図である。
【図2】土壌酸性化の過程の説明図である。
【図3】酸性土壌粒子表面のイオン拡散状態の説明図である。
【図4】ビッグトーチ装置の構成を示す概略図である。
【図5】実施例で用いた坩堝の概略図である。
【図6】処理時間に対する黒焦土重量の変化を示すグラフである。
【図7】処理時間に対するスラグ重量の変化を示すグラフである。
【図8】黒焦土重量に対するスラグ重量の割合の処理時間による変化を示すグラフである。
【図9】焦土の処理時間とpHの関係を示すグラフである。
【図10】実施例におけるアーク中心温度分布を示すグラフである。
【図11】生成スラグのpH試験結果を示すグラフである。
【図12】供試アルカリ土壌の成分分析結果を示すグラフである。
【図13】アルカリスラグ表面の成分分析結果を示すグラフである。
【図14】アルカリスラグ内部の成分分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 水素イオン
2 土粒子表面
3 固着層
4 拡散層
11 チャンバー
12 トーチA
13 トーチB
14 陽極
15,16 陰極
17 高速カメラ
18,19 電極
20,21 窓
22,23 ケーブル
24 炭素坩堝
25 陰極電極(トーチ)
26 土壌
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項2】
酸性土壌をアーク中心温度2,550K以上のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項3】
前記アークプラズマによる処理が、アーク照射時間5〜20秒で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の土壌の中性化処理方法。
【請求項4】
アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属を溶発させるエネルギー相当以上の温度のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項5】
アルカリ土壌をアーク中心温度1,750K以上のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項6】
前記アークプラズマが被処理土壌を有する導電性坩堝と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の土壌の中性化処理方法。
【請求項1】
酸性土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着する酸性イオンの結合力以上に相当する温度のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項2】
酸性土壌をアーク中心温度2,550K以上のアークプラズマにより処理をして中性化焦土とすることを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項3】
前記アークプラズマによる処理が、アーク照射時間5〜20秒で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の土壌の中性化処理方法。
【請求項4】
アルカリ土壌をアーク中心温度が前記土壌の粒子に吸着するアルカリ土類金属を溶発させるエネルギー相当以上の温度のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項5】
アルカリ土壌をアーク中心温度1,750K以上のアークプラズマにより処理することを特徴とする土壌の中性化処理方法。
【請求項6】
前記アークプラズマが被処理土壌を有する導電性坩堝と陰極の炭素電極との間に電圧を印加して発生させたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の土壌の中性化処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−11979(P2009−11979A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179068(P2007−179068)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
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