説明

土壌改質組成物および土壌改質方法

【課題】油臭および油膜の発生を防止し、地耐力強化を行い、六価クロムの発生を簡便かつ安価に抑制する油汚染土壌を改質する土壌改質組成物が望まれていた。
【解決手段】本発明に係る土壌改質組成物は、活性炭とセメント系固化剤を有する油汚染土壌を改質する土壌改質組成物において、さらに還元剤を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油汚染土壌を改質する土壌改質組成物および土壌改質方法に係り、さらに詳しくは、油臭および油膜の発生防止と地耐力強化を行いつつ、活性炭とセメント系固化材を併用した際に特異的に起こる六価クロムの発生を迅速、簡便かつ安価に抑制する土壌改質組成物および土壌改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工場やガソリンスタンドなどの跡地を再利用する際に、跡地の土壌が鉱物油やその他の化学物質に汚染されている場合があり、これら汚染土壌への対策が必要になっている。
従来から、鉱物油などで汚染された油汚染土壌の改質には、活性炭が吸着剤として用いられており、例えば特許文献1や特許文献2には土壌と活性炭をスラリー状にすることによって、活性炭に鉱物油を吸着させて分離除去する土壌改質方法が開示されている。
また、土壌改質時に地耐力の保持、向上や、汚染物質の封じ込めを行う目的で、ポルトランドセメントを同時に適用することも知られている(特許文献2、段落[0003])。
【0003】
しかしながら、本発明者等によって油汚染土壌の改質に活性炭とセメント系固化材とを併用した場合、セメント固化材が固化する際にクロム成分の封じ込めが不十分になることによって有害物質である六価クロムが溶出したり、土壌の種類などによってはセメント系固化材中のクロム成分が酸化されることによって有害物質である六価クロムが発生したりすることがあり、単純には併用できないという問題が存在することがわかった。また、この現象はローム土壌や有機質土壌などのセメント系固化材の水和反応が阻害されやすい土壌において発生する傾向が高いこともわかった。
【0004】
ここで、土壌中の六価クロムを無害な三価クロムにする方法としては、硫化第一鉄などを用いる方法が知られており、例えば特許文献3には、低含水率とした土壌と活性炭、セメント系固化材、硫化第一鉄を混合して造粒することによって、六価クロムを無害な三価クロムにして封じ込める造粒材が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の造粒材は、段落[0008]、[0010]にも記載されている通り、含水率を20%程度にまで乾燥させた土壌でなければ効果が発現しないことから、六価クロムの発生が起こりやすい、ローム土壌や有機質土壌などの水和反応が阻害されやすい土壌には適用できないという欠点がある。
またこの欠点があることから、特許文献3に記載の造粒材は、特許文献3の[請求項2]にも記載されている通り、造粒後にさらにセメントによって被覆する処理が必要となってくるという欠点がある。
その上、改質の対象とする土壌の含水率を20%程度まで乾燥(低水分化)するための乾燥工程やそれに伴う複数の工程が必要になり、相応のコストもかかるという欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−253923号公報
【特許文献2】特開2002−233859号公報
【特許文献3】特開平11−319758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、油臭および油膜の発生を防止し、地耐力強化を行いつつ、六価クロムの発生を簡便かつ安価に抑制する土壌改質組成物および土壌改質方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る土壌改質組成物は、活性炭とセメント系固化剤を有する油汚染土壌を改質する土壌改質組成物において、さらに還元剤を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る土壌改質組成物は、活性炭が、セメント系固化剤100重量部に対して1.5〜360重量部であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る土壌改質組成物は、還元剤が、セメント系固化剤100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る土壌改質組成物は、還元剤が、硫酸第一鉄、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る土壌改質方法は、本発明の土壌改質組成物を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明に用いられる活性炭は、鉱物油などの油状汚染物質を無数の細孔によって吸着できるものであれば特に限定されず、椰子、木などを原料とする植物系のものや石炭、石油などを原料とする鉱物系のもの、あるいはこれらのものを薬品などによって賦活させたものなどを用いることができる。
なお、活性炭を使用することによって、農作物や植物の生育が良くなり、さらに土壌中の微生物を活性化させる効果も期待できるという利点がある。
【0014】
活性炭の粒径については特に限定されないが、土壌と混合した際の均一性の点から粉末状となっているものを用いることが好ましく、具体的には150μm以下のものであることが好ましい。
【0015】
また、活性炭の比表面積についても特に限定されないが、消臭性や油膜除去性の点から600m以上のものであることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるセメント系固化材は、各種のポルトランドセメントやアルミナセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなど水和反応によって硬化する一般的なセメントから選ばれる少なくとも1種以上を用いることができる。また、これらのセメントに石膏、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、生石灰、消石灰等を混合することもできる。
【0017】
本発明に用いられる還元剤は、有害な六価クロムを無害な三価クロムに還元できるものであり、例えば、硫酸第一鉄や塩化第一鉄などの第一鉄塩類、亜硫酸ナトリウムや重亜硫酸ナトリウムや亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩類、チオ硫酸ナトリウムやチオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩類、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸カリウムなどの亜硝酸塩類、硫化アンモニウムや硫化ナトリウムなどの硫化物などが挙げられる。そして、これらの中でも六価クロムの還元性の点から、硫酸第一鉄、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種以上のものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明における各構成要件の配合量については、改質対象となる土壌において油状汚染物質が活性炭に吸着されて、且つ発生する六価クロムを還元できる量であれば特に限定されないが、セメント系固化材を基準として以下の範囲内で配合されることが好ましい。
【0019】
まず、活性炭の量についてはセメント系固化材100重量部に対して1.5〜360重量部であることが好ましく、さらに22〜54重量部であることが好ましい。1.5重量部未満の場合には吸着効果が十分ではなくなる場合があり、360重量部を超える場合にはセメント系固化材による地耐力の向上効果が低下する恐れがあるからである。
【0020】
次に、還元剤の量についてはセメント系固化材100重量部に対して0.5〜20重量部であることが好ましく、さらに2〜5重量部であることが好ましい。0.5重量部未満の場合には還元効果が十分ではなくなる場合があり、5重量部を超える場合にはセメント系固化材による地耐力の向上効果が低下する恐れがあるからである。
【0021】
また、上記の通り配合された土壌改質組成物の汚染土壌に対する配合量については、汚染土壌100重量部に対して2.5〜35重量部であることが好ましく、さらに14〜29重量部であることが好ましい。2.5重量部未満の場合には吸着効果や地耐力の向上効果が十分ではなくなる場合があり、35重量部を超える場合にはコストが高くなる恐れがあるからである。
【0022】
本発明の土壌改質組成物が適用される土壌は、鉱物油、動物油、植物油などの油成分で汚染された油汚染土壌を主な対象とするが、重金属類、有機溶剤、薬品などの活性炭によって吸着される化学物質に汚染されている土壌も対象とすることができる。
また、本発明が解決する課題の1つである、活性炭とセメント系固化材とを混合した際に発生する六価クロムは、適用される土壌によって発生の程度に差が生じる。ここで、この六価クロムが発生する現象は、セメント系固化材の水和反応が阻害されやすい土壌において起こりやすく、その中でも特にローム土壌や有機質土壌において起こりやすい。従って、本発明の土壌改質組成物はこれらの土壌に対して用いるのが好ましい。
【0023】
本発明の土壌改質組成物の対象土壌への適用については、予め改質対象となる汚染土壌をサンプリングし、上記の配合比の範囲内において各構成要件の最適な配合量を決定した後に、重機によって所定量の各構成要件を対象土壌に混合することによって行う。そして、油臭や油膜が解消されたか否かを確認した後、土壌の転圧、締固めを行い、そのまま建築工事に移行する。
なお、この際の土壌に対する各構成要件の混合順序などについては特に限定されるものではないが、還元剤とセメント系固化材の種類によっては、これら2つの原料を混合してしまうと硫黄臭が発生することがあることから、これらの原料のみを混合することは避けた方が好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の土壌改質組成物および土壌改質方法によれば、油臭および油膜の発生防止と地耐力強化を行いつつ、活性炭とセメント系固化材を併用した際に特異的に起こる六価クロムの発生を迅速、簡便かつ安価に抑制することができる。
また、土壌にセメント系固化材が混合されることによる地耐力の確保が行われることから、すぐに建築工事に取りかかることができる。
【0025】
特に、各成分を特定の配合比にし、還元剤に特定の物質を用いることによって油汚染土壌の改質効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の土壌改質組成物を実施例と比較例に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
【0027】
(実施例1〜6)
表1に記載した種類および配合量によって活性炭、セメント系固化材、還元剤を混合することで実施例1〜6の土壌改質組成物を作製した。そして、3種類の火山灰質粘性土にA重油を加えて油の濃度を3000または5000ppmにした模擬汚染土壌を作製し、実施例1〜6の土壌改質組成物を混合した。
【0028】
(比較例1〜4)
表1に記載した種類および配合量によって還元剤またはセメント固化材が欠如している比較例1〜4の土壌改質組成物を作製し、上記と同様の模擬汚染土壌に混合した。
【0029】
次に、実施例1〜6および比較例1〜4の土壌改質組成物を混合した模擬汚染土壌について、油臭の消臭性率および油膜除去性、圧縮強度、六価クロム濃度の評価を行った。
【0030】
(油臭の消臭性率および油膜除去性)
油臭の消臭性率については、8人の評価者による官能評価により行い、油臭がないと評価して評価者の割合によって消臭率を求めた。また、油膜除去性については水を張ったシャーレに土壌改質組成物を混合した汚染土壌に投入した後、水面に油膜が浮かんでくるか否かを目視にて評価した。
【0031】
(圧縮強度)
圧縮強度については、一軸圧縮試験(関連規格:JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」)によって測定した。なお、150kN/m以上を合格として評価した。
【0032】
(六価クロム濃度)
六価クロム濃度については、活性炭、セメント系固化材、還元剤の構成要件を充足しない、比較例1〜4の土壌改質組成物を混合した各模擬汚染土壌の六価クロム濃度を100とし、実施例1〜6の土壌改質組成物を混合した模擬汚染土壌の六価クロム濃度がこれに対してどの程度低下しているのかの相対評価をすることによって行った。なお、具体的な測定は環境庁告示46号溶出試験に準拠して行い、定量はJIS K 0102 65.2.1「ジフェニルカルバジド吸光光度法」を用いて行った。
【0033】
結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から、活性炭、セメント系固化材、還元剤の各構成要件を充足する実施例1〜6の土壌改質組成物については、油臭の消臭性率、油膜除去性、六価クロム濃度、圧縮強度とも良好な性能を示した。特に、実施例1と実施例2の結果からは汚染状況に応じて土壌改質組成物を選択することによって、六価クロムの発生を完全に防止できることがわかった。
一方、還元剤がない比較例1〜4の土壌改質組成物については六価クロムが発生し、活性炭がない比較例4の土壌改質組成物については油臭の消臭性率、油膜除去性が悪化した。
【0036】
(実施例7、8)
表2に記載した種類および配合量によって活性炭、セメント系固化材、還元剤を混合することで実施例7、8の土壌改質組成物を作製した。そして、砂質土にA重油を加えて油の濃度を3000または5000ppmにした模擬汚染土壌を作製し、実施例7、8の土壌改質組成物を混合した。
【0037】
次に、実施例7、8の土壌改質組成物を混合した汚染土壌について、油臭の消臭性率、油膜除去性、圧縮強度、六価クロム濃度の評価を行った。
【0038】
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果から実施例7、8の土壌改質組成物は、砂質土においても良好な性能を示すことがわかった。
【0041】
(参考例1〜19)
活性炭とセメント系固化材によって六価クロムが発生する傾向があることを確認するために参考例1〜19の土壌改質組成物を作製した。具体的には、表3において2種類のセメント系固化材と6種類の土壌を用いて六価クロムの発生の有無を測定した。また、表4において6種類の活性炭を用いて六価クロムの発生の有無を測定した。なお、配合量は実施例1と同様にして混合した。
【0042】
結果を表3、4に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表3の結果から、火山灰質粘性土を対象とした参考例1〜6については活性炭があるといずれも六価クロムが発生した。一方、参考例7〜12については六価クロムの発生はほとんど認められなかった。
また、表4の結果から、表3において六価クロムが発生した火山灰質粘性土Cについては、各種の活性炭を用いても六価クロムが発生した。なお、セメント系固化材のみの参考例19の土壌改質組成物については六価クロムの発生はほとんど認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の土壌改質組成物および土壌改質方法は、主に油汚染土壌の改質に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭とセメント系固化剤を有する油汚染土壌を改質する土壌改質組成物において、さらに還元剤を含むことを特徴とする土壌改質組成物。
【請求項2】
前記活性炭が、
前記セメント系固化剤100重量部に対して1.5〜360重量部であることを特徴とする請求項1に記載の土壌改質組成物。
【請求項3】
前記還元剤が、
前記セメント系固化剤100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改質組成物。
【請求項4】
前記還元剤が、
硫酸第一鉄、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種以上であること特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の土壌改質組成物。
【請求項5】
請求項1から4に記載の土壌改質組成物を用いた土壌改質方法。

【公開番号】特開2012−201765(P2012−201765A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66757(P2011−66757)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】