説明

圧延銅箔

【課題】熱処理後の強度と破断伸びがいずれも優れた圧延銅箔を提供する。
【解決手段】Ni:0.05-0.20wt%、P:0.01-0.20wt%を含み、残部が不可避的不純物及び銅からなり、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa以上で、かつ350℃で30分間熱処理後の導電率が65%IACS以上である圧延銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池を含む二次電池の電極に用いる集電体に適した圧延銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は軽量でエネルギー密度が高いことから,多くの分野で採用されつつある。そして、リチウムイオン電池の電極(負極)の集電体として、従来から銅分99.9%のタフピッチ銅と呼ばれる圧延銅箔や、電解銅箔が使用されている。
ところで、集電体には電極活物質が塗着されているが、活物質からのイオンの移動に伴って充放電時には活物質が膨張及び収縮し、充放電毎に集電体が繰り返し負荷を受けることになる。そのため,集電体である銅箔が部分的に破断、剥離すると電池の寿命低下に繋がる。特に、電池の高容量化を図るためには集電体を薄くすることが求められるが、銅箔の厚みが薄くなるほど外力に対する抵抗力が低下する。さらに、集電体上に活物質を塗布後に乾燥処理(例えば200〜400℃)が行われ、この際に銅箔が軟化してさらに強度が低下するという問題がある。
【0003】
このようなことから、乾燥処理によっても軟化し難く、伸びと強度を兼ね備えた銅箔として、Pを添加するとともに、コバルト、ニッケルおよび鉄のうち1つ以上の成分を添加した圧延銅箔を長時間(350℃で4時間以上)熱処理した後の引張強さが260N/mm2程度である電池用圧延銅箔が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-197199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の銅箔は、熱処理が過大(350℃で4時間、又は350℃で4時間)であり軟化が進むので、熱処理後の引張強さが高いとはいい難い。又、活物質の乾燥のための熱処理装置等の制約により、高温で短時間の熱処理ができない場合は低温で長時間の加熱を行うこともある。従って、30分程度の短時間の熱処理でも強度と破断伸びを確保する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、NiとPを所定量含有させることで、熱処理後の圧延銅箔の強度と破断伸びがいずれも向上することを見出した。
すなわち本発明の圧延銅箔は、Ni:0.05-0.20wt%、P:0.01-0.20wt%を含み、残部が不可避的不純物及び銅からなり、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa以上で、かつ350℃で30分間熱処理後の導電率が65%IACS以上である。
【0007】
350℃で30分間熱処理する前の引張強さTSBに対し、{(TSB-TSA)/TSB}×100(%)で表される強度低下率が30%以下であることが好ましい。
350℃で30分間熱処理する前の破断伸びEL、350℃で30分間熱処理後の破断伸びELに対し、{(EL-EL)/EL}で表される破断伸び増加比が0.5〜9であることが好ましい。
厚みが20μm以下であることが好ましい。
酸素の含有量が60wtppm以下であることが好ましい
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱処理後の強度と破断伸びがいずれも優れた圧延銅箔を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の試料の圧延面(表面)のSEM像を示す図である。
【図2】350℃で30分加熱した後の銅箔の破断伸びELと、電池のサイクル寿命との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る圧延銅箔について説明する。
【0011】
<成分組成>
圧延銅箔は、Ni:0.05-0.20wt%、P:0.01-0.20wt%を含み、残部が不可避的不純物及び銅からなる。NiとPは、Ni:P=5:2(原子比)の割合で銅中に析出物を生成し、熱処理による再結晶を抑制して軟化を防止する(耐熱性が向上する)。又、銅中にNiとPを添加すると、Ni-P化合物が結晶粒内に析出し,粒界でのピン止め効果により軟化を抑制して熱処理後の強度低下を抑制し,かつ熱処理によって内部歪が除去されるため延性が高くなって破断伸びを向上させる。
一方、NiとP以外の元素(例えば、Co,Fe)を添加しても、これら元素は銅中にわずかしか固溶せずに晶出し、銅箔製造時の圧延で破断を生じたり、破断伸びを減少させるので好ましくない。
【0012】
圧延銅箔中のNiの含有量が0.05wt%未満であると、銅のインゴットの鋳造時にNi濃度の管理が難しくなる。圧延銅箔中のNiの含有量が0.20wt%を超えると導電率が著しく低下する。Pの含有量の上限と下限は、上記したNiの含有量の範囲に基づき、Ni:P=5:2(原子比)から算出される。
【0013】
さらに、酸素の含有量が60wtppm以下であると、銅箔中の酸化物に起因して破断することが抑制され、熱処理後の破断伸びがさらに向上するので好ましい。
【0014】
<引張強さ>
本発明の圧延銅箔は、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa以上である。TSAが400MPa未満であると、圧延銅箔を電池の集電体に用いたときに、充放電時の活物質の膨張及び収縮に伴って集電体が繰り返し負荷を受けると、集電体が破断し易くなる。
350℃で30分間熱処理する前の引張強さTSBに対し、{(TSB-TSA)/TSB}×100(%)で表される強度低下率が30%以下であることが好ましい。強度低下率が30%以下であると、熱処理後の強度が高いだけでなく、熱処理前の強度に対する熱処理後の軟化の度合いが小さく、集電体上の活物質の乾燥時に銅箔の強度が低くならず、集電体製造時のハンドリング性が向上する。
【0015】
なお、引張強さTSA,TSBは、引張試験機により、JIS−Z2241に従い、圧延方向と平行な方向における引張り強さ(破断強度;TS)を測定して求める。
【0016】
<破断伸び>
圧延銅箔を集電体に用いたとき、上述のように充放電による繰り返し負荷に耐えるには、銅箔の熱処理後の強度が高いだけでなく、熱処理後の破断伸びがある程度高いことが好ましい。但し、圧延銅箔の板厚が変化すると熱処理後の破断伸びの値の好ましい範囲も変化する。これは、板厚によって圧延銅箔上への活物質の塗布量や、充放電時の銅箔の歪量等が異なるからである。
そこで、本発明においては、圧延銅箔の350℃で30分間熱処理後の破断伸びELの好ましい範囲を実験的に求めて数式化した。図2は、圧延銅箔の350℃で30分間熱処理後の破断伸びELと、この圧延銅箔を負極集電体として用いたときの電池のサイクル寿命との関係を示す。なお、サイクル寿命の評価方法は後述する。又、図2は、TSAが400MPa以上で、かつ350℃で30分間熱処理後の導電率が65%IACS以上である試料についてのプロットである。
【0017】
図2に示すように、サイクル寿命が優れている試料(○)と、サイクル寿命が劣る試料(×)との境界のELを表す直線Cを、板厚t(mm)に対して実験的に表すと、式1:
C=180×t−0.06 (1)
となった。
直線Cを用いた理由は、銅箔を用いた集電体を円筒型電池に組み込んだ際、銅箔が巻回されるが、この時に集電体(銅箔)に生じる曲げ歪は、銅箔の板厚が薄くなるのと比例して小さくなるからである。つまり、銅箔の板厚が薄くなるほど、電池の充放電による集電体の膨張収縮の際に加えられる曲げ歪が小さくなり、破断伸びが小さくても破断しにくくなるので、右上がりの直線となる。
なお、図2において、板厚毎に、サイクル寿命が優れている試料の内で最もELが小さい値の試料のデータと、サイクル寿命が劣る試料の内で最もELが大きい値の試料のデータを抽出し(合計10点のデータ)、これらのデータと直線Cとの誤差の二乗和が最小となるように最小二乗法によりCを求めた。
【0018】
なお破断伸びは、引張試験機により、JIS−Z2241に従い、圧延方向と平行な方向に引っ張り、試験片が破断したときの標点間の長さLと、試験前の標点距離L0(50mm)との差を%で求めた破断伸びである。破断伸び(%)=(L−L)/L×100で表される。
又、試験片の寸法等によって破断伸びの値が変化する。従って、本発明においては、上記引張強さ及び破断伸びの測定に用いる試験片の寸法を幅12.7mm、長さ110mmとして、引張試験機の標点間距離(引張り長さ)を上記のように50mmとする。
【0019】
従って、350℃で30分間熱処理後の破断伸びEL(%)≧180×t−0.06であると、活物質の乾燥(熱処理)後に銅箔集電体の伸びが大きくなるので、電池の充放電に伴う銅箔集電体の収縮を高い伸びで吸収して破断し難くなり、好ましい。一方、EL(%)<180×t−0.06であると、充放電による繰り返し負荷に耐える集電体が得られないことがある。
【0020】
なお、上記式1を用い、代表的な板厚tにおける350℃で30分間熱処理後の好ましい破断伸びELを示すと、板厚t=18μm、15μm、12μm、10μm、7μmで、それぞれEL=3.2%以上、2.6%以上、2.1%以上、1.7%以上、1.2%以上となる。
【0021】
また、本発明の圧延銅箔の350℃で30分間熱処理前の破断伸びELは15%以下であることが好ましい。破断伸びELが15%を超えると、集電体に活物質を塗布乾燥させる製造ラインでの銅箔集電体の張力の制御が困難となる場合がある。
また、本発明の圧延銅箔の350℃で30分間熱処理後の破断伸びELも15%以下であることが好ましい。破断伸びELが15%を超えると、集電体として使用されている圧延銅箔が充放電時に座屈する場合がある。
また、本発明の圧延銅箔の350℃で30分間熱処理前の破断伸びELは、厚み18μmとしたときに1.6%以上であることが好ましく、厚み15μmとしたときに1.3%以上であることが好ましく、厚み12μmとしたときに1.1%以上であることが好ましく、厚み10μmとしたときに0.8%以上であることが好ましく、厚み7μmとしたときに0.3%以上であることが好ましい。これは、銅箔集電体に活物質を塗布乾燥させる製造ラインにおいて塗布乾燥前の銅箔への張力の不均一を伸びにより解消し、製造ラインでの破断を防止するためである。圧延銅箔の厚みによって、好ましい範囲が異なるのは、圧延銅箔の厚みによって製造ラインの搬送張力が異なり、搬送張力の幅方向の不均一の程度も変化するからである。
【0022】
<破断伸びの増加比>
上記した破断伸びELを規定するのに加え、350℃で30分間加熱前後の破断伸びの増加比M={(EL-EL)/EL}を9以下に小さくすることが好ましい。増加比Mが9より大きくなると、電池の充放電時の活物質の膨張にともなって銅箔集電体が塑性変形してしまい、変形した銅箔集電体が次の収縮時に元に戻らないことがある。この場合、銅箔集電体が収縮する際に電池内部で座屈、破断してサイクル寿命が低下する。
但し、増加比Mが0.5未満になると、熱処理によっても蓄積された加工歪が解放されずにEL又はELが小さくなり、電池の充放電時の活物質の膨張にともなって銅箔集電体が伸びずに破断し、サイクル寿命が低下することがあるので好ましくない。又、再結晶焼鈍後の加工度を低くしても、熱処理前後の加工歪量の変化が小さくなるので増加比Mが0.5未満になるが、この場合には、そもそも銅箔の強度が低くなってハンドリング性が低下する。
なお、増加比Mを0.5〜9に制御する方法としては、銅箔の組成(Ni、Pの添加量,)、又は最終冷間圧延の加工度を制御することが挙げられる。
なお、増加比Mの値は好ましくは0.5〜5、更に好ましくは0.8〜3.0、より好ましくは0.8〜2.5、より好ましくは0.8〜2.0、最も好ましくは0.8〜1.8である。
【0023】
本発明の圧延銅箔は、350℃で30分熱処理後の導電率が65%IACS以上であることが好ましい。上記導電率が65%IACS未満であると、電池の集電体として適さない。導電率は、JIS−H0505に準拠して4端子法により測定する。
本発明の圧延銅箔の厚さは、20μm以下が好ましく、5μm〜18μmがより好ましく、7μm〜15μmがより好ましく、10μm〜15μmが最も好ましい。
【0024】
本発明の圧延銅箔を、再結晶焼鈍に必要な温度である450℃で30分間熱処理後の結晶粒径が1〜15μmであることが好ましい。結晶粒径が1μm以下となるような焼鈍条件の場合、未再結晶組織が残留する可能性が高くなる。又、結晶粒径が15μmを超える場合には最終圧延で充分なひずみを加えることができず、充分な強度が得られないことがある。又、本発明の圧延銅箔を最終冷間圧延後に再結晶させた(例えば450℃で30分加熱した)圧延銅箔は双晶を含んでよい。なお、結晶粒径は、JIS-H0501の切断法に準じ測定し、圧延面について行う。
【0025】
本発明の圧延銅箔は、リチウムイオン二次電池等の電極(負極)の集電体に好適に使用できるが、用途は限定されない。特に、銅箔の厚さが20μm以下となると、熱処理による強度低下が顕著になるので、本発明を有効に適用できる。
【0026】
<圧延銅箔の製造>
本発明の圧延銅箔は、上記組成のインゴットを熱間圧延後、冷間圧延して製造することができる。又、冷間圧延として、焼鈍前圧延、再結晶焼鈍、及び最終圧延を行ってもよい。
又、再結晶焼鈍を行う場合には、最終圧延の加工度を80%以上とすると、引張強さ(強度)が向上するので好ましい。
【実施例】
【0027】
まず、表1に記載の組成の銅インゴット(残部は銅および不可避的不純物)を製造し、厚み10mmまで熱間圧延を行った。その後、面削を行った後、所定の加工度で焼鈍前圧延し、450℃で再結晶焼鈍した。さらに、表1に示す加工度で最終冷間圧延し、表1に示す厚みの銅箔(各実施例及び比較例)を得た。
【0028】
<評価>
最終圧延して得られた銅箔試料を350℃で30分間熱処理する前後の引張強さ、破断伸び、及び導電率を測定した。
引張強さ及び破断伸びの測定に用いる試験片の寸法を幅12.7mm、長さ110mmとして、引張試験機のチャック間距離(引張り長さ)を50mmとし、上記したようにして測定した。又、導電率は、JIS−H0505に準拠して4端子法により測定した。
【0029】
<サイクル寿命>
得られた銅箔につき、円筒型のリチウムイオン二次電池を以下の手順で作製し、サイクル寿命を測定した。
(1)負極活物質として鱗片状黒鉛粉末50重量部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム5重量部、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロース1重量部に対して水99重量部に溶解した増粘剤水溶液23重量部を、混錬分散して負極用ペーストを得た。この負極用ペーストを圧延銅箔(試料)の両面にドクターブレード方式で所定厚さ塗布し、350℃で30分間加熱し乾燥した。さらにもとの厚さの80%の厚みになるよう加圧して厚みを調整した後、せん断加工により成型し負極板を得た。
(2)正極活物質としてLiCoO粉末50重量部、導電剤としてアセチレンブラック1.5重量部、結着剤としてPTFE50%水性ディスパージョン7重量部、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロース1%水溶液41.5重量部を、混練分散して正極用ペーストを得た。この正極用ペーストを、銅箔の厚さの3倍の厚さのアルミニウム箔からなる集電体の両面にドクターブレード方式で所定厚さ塗布して200℃で1時間加熱し乾燥した。さらにもとの厚さの80%の厚みになるよう加圧して厚みを調整した後、せん断加工により成型し正極板を得た。
【0030】
(3)正極板と負極板とを、厚さ20μmのポリプロピレン樹脂製の微多孔膜からなるセパレータを介して絶縁した状態で渦巻状に巻回し、この電極群を電池ケースに収容した。
(4)負極板から連接する負極リードを、電池ケースと下部絶縁板を介して電気的に接続した。同様に正極板から連接する正極リードを、封口板の内部端子に上部絶縁板を介して電気的に接続した。この後、非水電解液を注液し、封口板と電池ケースとを絶縁ガスケットを介してかしめ封口して、直径17mm、高さ50mmサイズの電池容量が780mAhの円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。
(5)電解液は、エチレンカーボネート30体積%、エチルメチルカーボネート50体積%、プロピオン酸メチル20体積%の混合溶媒中に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0モル溶かした電解液を調製した。この電解液を電池ケースに所定量注液し、正極活物質層及び負極活物質層内に含浸させた。
【0031】
作製した電池を用いて充放電サイクル特性を評価した。20℃の環境下で充放電を行い、3サイクル目における放電容量を初期容量とし、初期容量に対して放電容量が80%に低下するまでサイクル数を計数し、これをサイクル寿命とした。
充電条件は、4.2Vで2時間の定電流−定電圧充電を行い、電池電圧が4.2Vに達するまでは550mA(0.7CmA)の定電流充電を行った後、さらに電流値が減衰して40mA(0.05CmA)になるまで充電した。
放電条件は、780mA(1CmA)の定電流で3.0Vの放電終止電圧まで放電した。サイクル寿命が400回以上になった場合に良好なサイクル特性が得られたと判定した。
【0032】
得られた結果を表1、表2に示す。なお、サイクル寿命の欄の「○」はサイクル寿命が400回以上となった場合を、「×」はサイクル寿命が400回未満となったときを示す。
【0033】
得られた結果を表1に示す。なお、サイクル寿命の欄の「○」はサイクル寿命が400回以上となった場合を、「×」はサイクル寿命が400回未満となったときを示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、Ni:0.05-0.20wt%、P:0.01-0.20wt%を含み、残部が不可避的不純物及び銅からなる各実施例の場合、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa以上で、かつ350℃で30分熱処理後の導電率が65%IACS以上であった。さらに各実施例の場合、破断伸びELが式1から計算した値以上となり、サイクル寿命が400回以上に向上した。
【0036】
一方、Niの添加量が0.20wt%を超えた比較例1の場合、350℃で30分熱処理後の導電率が65%IACS未満に低下した。
NiとPに加え、さらにCo又はFeを添加した比較例2〜6、10の場合、破断伸びELが式1から計算した値未満となり、サイクル寿命が400回未満に低下した。
電解銅箔を用いた比較例7の場合、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa未満に低下し、耐熱性に劣った。又、破断伸びELが式1から計算した値未満となり、サイクル寿命が400回未満に低下した。
酸素の含有量が60wtppmを超えた比較例9の場合、酸化物に起因する破断により破断伸びELが式1から計算した値未満となり、サイクル寿命が400回未満に低下した。
【0037】
厚み及び組成が同一である実施例1、9〜11、及び比較例8の組を比較すると、最終冷間圧延の加工度が小さくなるにつれて熱処理後の引張強さが低下している。そして、加工度が40%の比較例8は熱処理後の引張強さが400MPa未満に低下しており、最終冷間圧延の加工度が40%を超える必要がある。
【0038】
なお、図1は、実施例1の試料の圧延面(表面)のSEM像であり、矢印で示す部分は双晶の一部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:0.05-0.20wt%、P:0.01-0.20wt%を含み、残部が不可避的不純物及び銅からなり、350℃で30分間熱処理後の引張強さTSAが400MPa以上で、かつ350℃で30分間熱処理後の導電率が65%IACS以上である圧延銅箔。
【請求項2】
350℃で30分間熱処理する前の引張強さTSBに対し、{(TSB-TSA)/TSB}×100(%)で表される強度低下率が30%以下である請求項1記載の圧延銅箔。
【請求項3】
350℃で30分間熱処理する前の破断伸びEL、350℃で30分間熱処理後の破断伸びELに対し、{(EL-EL)/EL}で表される破断伸び増加比が0.5〜9である請求項1または2に記載の圧延銅箔。
【請求項4】
厚みが20μm以下である請求項1〜3のいずれか記載の圧延銅箔。
【請求項5】
酸素の含有量が60wtppm以下である請求項1〜4のいずれか記載の圧延銅箔。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−1983(P2013−1983A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136797(P2011−136797)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)