説明

圧縮機

【課題】ローラ端面の内側空間が吐出孔と対向しないようにし、容積効率の低下を防ぐ。
【解決手段】ピストン40は、環状のローラ本体44およびローラ本体44の内周部に配置された軸受メタル47を有するローラ41と、ローラ41の外周面から延在するブレード42とを有している。そして、ローラ本体44の上端部におけるフロントヘッド20に形成された吐出孔と対向可能な位置に、軸受メタル47の上端面を覆う凸部44aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮するための圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータリ圧縮機においてシリンダの内側に配置されるローラとして、環状のローラ本体の内周部に軸受メタルが圧入されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなローラの作製過程において、その軸方向端面を仕上げ加工する際に、別の部材で構成されているローラ本体と軸受メタルとを同時に切削または研削することは困難である。よって、通常、軸受メタルの端面はローラ本体の端面から引っ込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−278540号公報(段落0033)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ローラの軸方向端面は、シリンダの圧縮室で圧縮された冷媒を吐出するための吐出孔が形成された端板部材と対向している。ここで、ローラが圧縮室内で回転する際に、ローラ端面の内側空間が端板部材に設けられた吐出孔と対向すると、圧縮冷媒がローラ内周側に漏れたり高圧の潤滑油が吐出孔から吐出されたりすることにより、容積効率が低下するという問題が生じる。したがって、ローラ端面の内側空間が吐出孔と対向することがないように、吐出孔はローラ端面の内縁よりもローラの径方向外側に設けることが好ましい。
【0005】
しかしながら、圧縮機の小型化に伴って、圧縮機構を構成する部品同士を固定するボルト等の配置の兼ね合いで、吐出孔をより径方向内側に設けなくてはならない場合がある。さらに、小型化圧縮機において大容量化するためには、ローラの軸受径を大きくする必要がある。それに加えて、上述のように軸受メタルの端面がローラ本体の端面から引っ込んでいることから、軸受メタルを備えたローラでは、軸受メタルを備えないローラと比べて、ローラ端面の内縁が径方向外側に配置される。したがって、このようなローラを備えた圧縮機においては、設計上、ローラ端面の内側空間が吐出孔と対向しやすくなる。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ローラ端面の内側空間が吐出孔と対向しないようにし、容積効率の低下を防ぐことができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る圧縮機は、圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、前記圧縮室において圧縮された冷媒を吐出する吐出孔が形成されており、前記シリンダの軸方向一端に配置される第1端板部材と、前記シリンダの軸方向他端に配置される第2端板部材と、前記圧縮室および前記ブレード収容部の内側に配置されるピストンとを備え、前記ピストンは、環状のローラ本体及び前記ローラ本体の内周部に配置された軸受部材を有するローラと、前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に対して進退可能に配置されたブレードとを有し、前記ローラ本体の前記第1端板部材側の端部において、前記吐出孔と対向可能な位置に前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第1凸部が形成されている。
【0008】
この圧縮機では、ローラ本体の端部に形成された第1凸部によって、ローラが圧縮室内で回転する際に、ローラ端面の内周側空間が吐出孔と対向するのを防ぐことができる。したがって、圧縮冷媒がローラ内周側に漏れたり高圧の潤滑油が吐出孔から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。また、第1凸部が形成された部分において、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を抑制することができる。
【0009】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、前記第1凸部は、前記ローラ本体の軸方向端部の全周に設けられている。
【0010】
この圧縮機では、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を全周で長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を確実に抑制することができる。
【0011】
第3の発明に係る圧縮機は、圧縮室および前記圧縮室に連通したベーン収容部を有するシリンダと、前記圧縮室において圧縮された冷媒を吐出する吐出孔が形成されており、前記シリンダの軸方向一端に配置される第1端板部材と、前記シリンダの軸方向他端に配置される第2端板部材と、環状のローラ本体及び前記ローラ本体の内周部に配置された軸受部材を有し、前記圧縮室の内側に配置されるローラと、前記ローラの外周面に押圧される先端を有し且つ前記ベーン収容部の内側を進退可能に配置されたベーンとを備え、前記ローラ本体の前記第1端板部材側の端部の全周に、前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第1凸部が形成されている。
【0012】
この圧縮機では、ローラ本体の端部に形成された第1凸部によって、ローラが圧縮室内で回転する際に、ローラ端面の内周側空間が吐出孔と対向するのを防ぐことができる。したがって、圧縮冷媒がローラ内周側に漏れたり高圧の潤滑油が吐出孔から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。また、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を全周で長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を確実に抑制することができる。
【0013】
第4の発明に係る圧縮機は、第1〜第3のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記第1凸部の先端は、前記軸受部材の内周面より前記ローラの径方向内側にない。
【0014】
なお、「(第1凸部の先端が、)ローラの径方向内側にない」とは、第1凸部の先端が軸受部材の内周面と一致、または、軸受部材の内周面より径方向外側にあることを意味している。
【0015】
この圧縮機では、ローラに対して第1凸部が形成された側から軸を嵌め込む場合に、第1凸部が妨げになることがない。よって、ローラと軸との嵌め込み方向が規制されない。
【0016】
第5の発明に係る圧縮機は、第1〜第4のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記ローラ本体の前記第2端板部材側の端部において、前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第2凸部が形成されている。
【0017】
この圧縮機では、ローラの軸方向両端面において、端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を長くすることができるため、端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を抑制することができる。
【0018】
第6の発明に係る圧縮機は、第6の発明に係る圧縮機において、前記ローラ本体は、軸方向に積層された複数の部材を有しており、前記複数の部材が、前記ローラ本体の軸方向一端部を含む第1部材と、前記ローラ本体の軸方向他端部を含む第2部材とを含んでいる。
【0019】
この圧縮機では、軸方向両端部に第1凸部および第2凸部がそれぞれ設けられており且つその内周部に軸受部材が配置されたローラ本体を容易に作製できる。
【0020】
第7の発明に係る圧縮機は、第5または第6の発明に係る圧縮機において、前記第2凸部の先端は、前記軸受部材の内周面より前記ローラの径方向内側にない。
【0021】
この圧縮機では、ローラに対して第2凸部が形成された側から軸を嵌め込む場合に、第2凸部が妨げになることがない。よって、ローラの第2凸部が形成された側から軸を嵌め込むことができる。また、第1凸部の先端も軸受部材の内周面よりローラの径方向内側にない場合には、ローラと軸との嵌め込み方向が規制されない。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0023】
第1の発明では、ローラ本体の端部に形成された第1凸部によって、ローラが圧縮室内で回転する際に、ローラ端面の内周側空間が吐出孔と対向するのを防ぐことができる。したがって、圧縮冷媒がローラ内周側に漏れたり高圧の潤滑油が吐出孔から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。また、第1凸部が形成された部分において、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を抑制することができる。
【0024】
第2の発明では、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を全周で長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を確実に抑制することができる。
【0025】
第3の発明では、ローラ本体の端部に形成された第1凸部によって、ローラが圧縮室内で回転する際に、ローラ端面の内周側空間が吐出孔と対向するのを防ぐことができる。したがって、圧縮冷媒がローラ内周側に漏れたり高圧の潤滑油が吐出孔から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。また、第1端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を全周で長くできる。したがって、第1端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を確実に抑制することができる。
【0026】
第4の発明では、ローラに対して第1凸部が形成された側から軸を嵌め込む場合に、第1凸部が妨げになることがない。よって、ローラと軸との嵌め込み方向が規制されない。
【0027】
第5の発明では、ローラの軸方向両端面において、端板部材とローラの軸方向端面との間の隙間のシール長を長くすることができるため、端板部材とローラの軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油の漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を抑制することができる。
【0028】
第6の発明では、軸方向両端部に第1凸部および第2凸部がそれぞれ設けられており且つその内周部に軸受部材が配置されたローラ本体を容易に作製できる。
【0029】
第7の発明では、ローラに対して第2凸部が形成された側から軸を嵌め込む場合に、第2凸部が妨げになることがない。よって、ローラの第2凸部が形成された側から軸を嵌め込むことができる。また、第1凸部の先端も軸受部材の内周面よりローラの径方向内側にない場合には、ローラと軸との嵌め込み方向が規制されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った概略断面図であって、シリンダ内でのピストンの動作を示す図である。
【図3】図1に示した圧縮機のフロントヘッドを図中の下方から見た図である。
【図4】(a)は図1に示した圧縮機のピストンを構成するピストン基材を下方から見た斜視図であり、(b)はピストンを下方から見た斜視図である。
【図5】(a)は図4(b)のピストンの上面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図6】図1のシリンダおよびピストンの平面図であって、ピストン端面の内縁が吐出孔に最も近づいた状態を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図8】図7のC−C線に沿った断面図である。
【図9】(a)は図7において上方に位置するピストンの縦断面図であり、(b)は図7において下方に位置するピストンの縦断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る圧縮機における、シリンダ内でのローラおよびベーンの動作を示す図である。
【図11】図10に示した圧縮機のローラを下方から見た斜視図である。
【図12】(a)は図11のローラの上面図であり、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図である。
【図13】第1実施形態の第1変形例に係る圧縮機のピストンの斜視図である。
【図14】(a)は図13のピストンの上面図であり、(b)は(a)のE−E線に沿った断面図である。
【図15】図13のピストンの組み立て手順を示す図であり、(a)は第2部材を示し、(b)は第2部材に軸受メタルを圧入した状態を示し、(c)は第1部材を嵌め込んだ状態を示す。
【図16】第1実施形態の第2変形例に係る圧縮機のシリンダおよびピストンの平面図であって、ピストン端面の内縁が吐出孔に最も近づいた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態は、1シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、密閉ケーシング2と、密閉ケーシング2内に配置される圧縮機構10および駆動機構6を備えている。なお、図1は、駆動機構6の断面を示すハッチングを省略して表示している。この圧縮機1は、例えば、空調装置などの冷凍サイクルに組み込まれて使用され、後述する吸入管3から導入された冷媒(本実施形態では、CO2)を圧縮して排出管4から排出する。図1の上下方向を単に上下方向として、圧縮機1について以下説明する。
【0032】
密閉ケーシング2は、両端が塞がれた円筒状の容器であり、その上部には、圧縮された冷媒を排出するための排出管4と、駆動機構6の後述する固定子7bのコイルに電流を供給するためのターミナル端子5が設けられている。なお、図1では、コイルとターミナル端子5とを接続する配線は省略して表示している。また。密閉ケーシング2の側部には、圧縮機1に冷媒を導入するための吸入管3が設けられている。また、密閉ケーシング2内の下部には、圧縮機構10の摺動部の動作を滑らかにするための潤滑油Lが貯留されている。密閉ケーシング2の内部には、駆動機構6と、圧縮機構10とが上下に並んで配置されている。
【0033】
駆動機構6は、圧縮機構10を駆動するために設けられており、駆動源となるモータ7と、このモータ7に取り付けられたシャフト8とから構成されている。
【0034】
モータ7は、密閉ケーシング2の内周面に固定されている略円環状の固定子7bと、この固定子7bの径方向内側にエアギャップを介して配置される回転子7aとを備えている。回転子7aは磁石(図示省略)を有し、固定子7bはコイルを有している。モータ7は、コイルに電流を流すことによって発生する電磁力によって、回転子7aを回転させる。また、固定子7bの外周面は、全周が密閉ケーシング2の内周面に密着しているわけではなく、固定子7bの外周面には、上下方向に沿っていると共にモータ7の上下の空間を連通させる複数の凹部(図示省略)が、周方向に並んで形成されている。
【0035】
シャフト8は、モータ7の駆動力を圧縮機構10に伝達するために設けられており、回転子7aの内周面に固定されて、回転子7aと一体的に回転する。また、シャフト8は、後述する圧縮室31内となる位置に、偏心部8aを有している。偏心部8aは、円柱状に形成されており、その軸心がシャフト8の回転中心から偏心している。この偏心部8aには、圧縮機構10の後述するローラ41が装着されている。
【0036】
また、シャフト8の下側略半分の内部には、上下方向に沿った給油路8bが形成されている。この給油路8bの下端部には、シャフト8の回転に伴って潤滑油Lを給油路8b内に吸い上げるための螺旋羽根形状のポンプ部材(図示省略)が挿入されている。さらに、シャフト8には、給油路8b内の潤滑油Lをシャフト8の外側に排出するための複数の排出孔8cが形成されている。
【0037】
圧縮機構10は、密閉ケーシング2の内周面に固定されるフロントヘッド(第1端板部材)20と、フロントヘッド20の上側に配置されるマフラー11と、フロントヘッド20の下側に配置されるシリンダ30と、シリンダ30の内部に配置されるピストン40と、シリンダ30の下側に配置されるリアヘッド(第2端板部材)50とを備えている。詳細は後述するが、図2に示すように、シリンダ30は、略円環状の部材であって、その中央部に圧縮室31が形成されている。シリンダ30は、リアヘッド50と共に、フロントヘッド20の下側にボルトにより固定されている。なお、図2は、シリンダ30に形成されているボルト孔は省略して表示している。
【0038】
図1および図3に示すように、フロントヘッド20は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔21が形成されている。フロントヘッド20の外周面は、密閉ケーシング2の内周面にスポット溶接などによって固定されている。フロントヘッド20の下面は、シリンダ30の圧縮室31の上端を閉塞している。フロントヘッド20には、圧縮室31において圧縮された冷媒を吐出するための吐出孔22(図2参照)が形成されている。吐出孔22は、上下方向から視て、シリンダ30の後述するブレード収容部33の近傍に形成されている。図示は省略するが、フロントヘッド20の上面には、圧縮室31内の圧力に応じて吐出孔22を開閉する弁機構が取り付けられている。また、フロントヘッド20のシリンダ30よりも径方向外側の部分には、複数の油戻し孔23が周方向に並んで形成されている。
【0039】
リアヘッド50は、略円環状の部材であって、その中央部にシャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔51が形成されている。リアヘッド50は、シリンダ30の圧縮室31の下端を閉塞している。
【0040】
マフラー11は、フロントヘッド20の吐出孔22から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。マフラー11は、フロントヘッド20の上面にボルトによって取り付けられ、フロントヘッド20との間にマフラー空間Mを形成している。また、図示は省略するが、マフラー11には、マフラー空間M内の冷媒を排出するためのマフラー吐出孔が形成されている。
【0041】
図1および図2に示すように、シリンダ30には、上述した圧縮室31と、圧縮室31内に冷媒を導入するための吸入孔32と、ブレード収容部33とが形成されている。なお、図2は、図1のA−A線断面図であって、フロントヘッド20の吐出孔22は本来表れないが、説明の便宜上表示している。
【0042】
吸入孔32は、シリンダ30の径方向に沿って形成されている。吸入孔32の一端は、圧縮室31の周壁面に開口している。また、吸入孔32の圧縮室31側とは反対側の端部には、吸入管3の先端が内嵌されている。
【0043】
ブレード収容部33は、シリンダ30を上下方向に貫通しており、圧縮室31と連通している。ブレード収容部33は、圧縮室31の径方向に沿って形成されている。ブレード収容部33は、上下方向から視て、吸入孔32とフロントヘッド20の吐出孔22との間の位置に形成されている。このブレード収容部33内には、一対のブッシュ34が配置されている。一対のブッシュ34は、略円柱状の部材を半分割した形状に形成されている。この一対のブッシュ34の間にブレード42が配置されている。一対のブッシュ34は、その間にブレード42が配置された状態で、ブレード収容部33内において周方向に揺動可能となっている。
【0044】
図4(b)に示すように、ピストン40は、円環状のローラ41と、このローラ41の外周面から径方向外側に延在するブレード42とから構成されている。図2に示すように、ローラ41は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に装着されて、圧縮室31内に配置されている。ブレード42は、ブレード収容部33に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。
【0045】
なお、ピストン40の上下方向長さは、圧縮室31の上下方向長さよりも僅かに小さい。そして、ピストン40の上端面とフロントヘッド20との間、および、ピストン40の下端面とリアヘッド50との間の微小な隙間(ピストン端面隙間)には、シャフト8の排出孔8cから排出された潤滑油Lが存在する。
【0046】
ここで、圧縮機構10の動作について、図2(a)〜図2(d)を参照して説明する。
図2(a)は、ピストン40が上死点にある状態を示しており、図2(b)〜図2(d)は、図2(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0047】
吸入管3から吸入孔32を介して圧縮室31に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図2(a)〜図2(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ41は、圧縮室31の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室31内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0048】
図2(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図2(b)に示すように、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面とによって形成される空間が、低圧室31aと高圧室31bとに区画される。その後、さらに偏心部8aが回転すると、図2(c)、図2(d)に示すように、低圧室31aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔32を介して低圧室31a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室31bの容積が小さくなるため、高圧室31bにおいて冷媒が圧縮される。
【0049】
そして、高圧室31b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた弁機構が開弁して、高圧室31b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。その後、図2(a)の状態に戻り、高圧室31bからの冷媒の吐出が完了する。この工程を繰り返すことにより、吸入管3から圧縮室31に供給された冷媒が連続的に圧縮されて排出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。
【0050】
上述のような圧縮機構10から吐出された冷媒は、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップなどを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。このとき、シャフト8の排出孔8cから圧縮室31内に供給された潤滑油Lの一部は、冷媒と共に吐出孔22からマフラー空間Mに吐出された後、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの一部は、フロントヘッド20の油戻し孔23を通って密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。また、圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの他の一部は、冷媒と共に固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、固定子7bの外周面に形成された凹部(図示省略)と密閉ケーシング2の内周面との間と、フロントヘッド20の油戻し孔23とを通って、密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。
【0051】
ここで、図4、5を参照しつつ、本実施形態のピストン40の構成についてより詳細に説明する。なお、図4(a)はピストン基材43を、図4(b)はピストン40を、それぞれリアヘッド50側(下方側)から見た図である。図4(b)においては、軸受メタル47を網掛けで示している。また、図5(a)においては、軸受メタル47の外縁線を破線で示している。ピストン40は、図4(b)に示すように、ピストン基材43と軸受メタル47との2つの部材で構成されている。図4(a)に示すように、ピストン基材43は、円環状のローラ本体44と、ローラ本体44の外周面から径方向外側に延在するブレード42とを有している。そして、軸受メタル47は、ローラ本体44の内周部に配置されている。すなわち、ローラ41は、ローラ本体44と軸受メタル47とで構成されている。
【0052】
軸受メタル47は、略筒状の部材であり、裏金上にカーボン系、PTFE系、またはアルミニウム合金や銅合金等の金属系のライニングを接合することで形成されている。軸受メタル47には、その周方向の1箇所に軸方向に貫通する合わせ目が存在する。図5(a)に示すように、ローラ本体44の内周部に配置された状態の軸受メタル47は、ローラ本体44に圧入されており、合わせ目が閉じた状態となっている。
【0053】
図5(b)に示すように、ローラ本体44の上端部には、軸受メタル47の上端面を覆う凸部(第1凸部)44aが全周に形成されている。ローラ本体44の上端面(凸部44aの上端面を含む)は、面一となっている。したがって、図5(a)に示すように、ローラ本体44の凸部44aの先端縁Eが、ローラ41の上端面の内縁となる。そして、凸部44aの先端縁Eの内側の空間が、ローラ41の上端面の内側空間となる。ローラ本体44の内周面からの凸部44aの突出長さL1は、軸受メタル47の厚み(径方向に沿う長さ)L2よりも短い。よって、凸部44aの先端は、軸受メタル47の内周面よりもローラ41の径方向外側にあり、軸受メタル47の内周面から引っ込んでいる。
【0054】
凸部44aの厚み(軸方向に沿う長さ)H1は、ローラ41の軸受長さを長くする観点から、できるだけ薄い方が好ましい。本実施形態においては、凸部44aの厚みH1は、ローラ本体44全体の軸方向に沿う長さH4の10%以下となっている。また、ローラ本体44の凸部44aを除いた部分の軸方向に沿う長さH2は、軸受メタル47の軸方向に沿う長さH3よりも長い。ここで、軸受メタル47は、その上端面が凸部44aに当接するようにローラ本体44の内周部に圧入されている。したがって、軸受メタル47の下端面は、ローラ本体44の下端面からH2−H3だけ引っ込んでいる。
【0055】
図6は、ローラ41の上端面の内縁が吐出孔22に最も近づく位置にローラ41が位置している状態、すなわち、圧縮室31の上下方向から視て圧縮室31の軸中心O1からローラ41の軸中心O2側に向かう直線Lが、吐出孔22の中心O3を通る位置にある状態を示している。なお、図6においては、軸受メタル47の外縁線を破線で示している。図6に示すように、このときローラ本体44の凸部44aは、吐出孔22と対向している。そして、吐出孔22は、ローラ41の上端面の内側空間と対向していない。このように、吐出孔22は、凸部44aと対向することで、ローラ41の上端面の内側空間と対向しないようになっている。
【0056】
なお、ピストン40を作製する際には、ピストン基材43のローラ本体44に軸受メタル47を圧入した後に、ピストン40の上下端面、外周面、内周面、およびブレード42の側面を切削または研削する仕上げ加工を行う。
【0057】
以上のように、本実施形態の圧縮機1では、ピストン40は、環状のローラ本体44およびローラ本体44の内周部に配置された軸受メタル47を有するローラ41と、ローラ41の外周面から延在するブレード42を有している。そして、ローラ本体44の上端部におけるフロントヘッド20に形成された吐出孔22と対向可能な位置には、軸受メタル47の上端面を覆う凸部44aが形成されている。したがって、ローラ本体44の上端部に形成された凸部44aによって、ローラ41が圧縮室31内で回転する際に、ローラ41の軸方向端面の内周側空間が吐出孔22と対向するのを防ぐことができる。よって、圧縮冷媒がローラ41の内周側に漏れたり高圧の潤滑油Lが吐出孔22から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。
【0058】
また、本実施形態の圧縮機1では、ローラ本体44の上端部の全周に凸部44aが形成されている。したがって、フロントヘッド20とローラ41の軸方向端面との間の隙間のシール長を全周で長くできる。よって、フロントヘッド20とローラ41の軸方向端面間の隙間からの冷媒や潤滑油Lの漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を確実に抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態の圧縮機1では、凸部44aの先端は、軸受メタル47の内周面よりローラ41の径方向内側にない。したがって、ローラ41に対して凸部44aが形成された側からシャフト8を嵌め込む場合に、凸部44aが妨げになることがない。よって、ローラ41とシャフト8との嵌め込み方向が規制されない。
【0060】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、2シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図7に示すように、本実施形態の圧縮機101は、シャフト108および圧縮機構110の構成が上記第1実施形態と異なっている。また、本実施形態の圧縮機101では、2本の吸入管3が、密閉ケーシング2の側部に上下に並んで設けられている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0061】
シャフト108は、2つの偏心部108a、108dを有している。2つの偏心部108a、108dの軸心は、シャフト108の回転軸を中心として180°ずれている。また、シャフト108は、上記第1実施形態のシャフト8と同じく、給油路108bと、複数の排出孔108cを有している。
【0062】
圧縮機構110は、シャフト108の軸方向に沿って上から下に向かって順に、フロントマフラー111と、フロントヘッド120と、シリンダ130およびピストン140と、ミドルプレート150と、シリンダ160およびピストン170と、リアヘッド180と、リアマフラー112とを有する。なお、フロントヘッド120およびミドルプレート150は、ピストン140の上下端に配置されており、それぞれ本発明の第1端板部材および第2端板部材に相当する。また、ミドルプレート150およびリアヘッド180は、ピストン170の上下端に配置されており、それぞれ本発明の第2端板部材および第1端板部材に相当する。
【0063】
フロントマフラー111は、上記第1実施形態のマフラー11と同様の構成を有し、フロントヘッド120との間にマフラー空間M1を形成している。
【0064】
フロントヘッド120には、軸受け孔121と、吐出孔122(図8参照)と、油戻し孔123とが形成されている。さらに、フロントヘッド120は、上下方向に貫通する貫通孔(図示省略)が形成されている。この貫通孔は、リアヘッド180とリアマフラー112とによって形成されるマフラー空間M2内の冷媒を、マフラー空間M1に排出するための流路の一部を構成している。フロントヘッド120は、この貫通孔を有する点以外、第1実施形態のフロントヘッド20と同様の構成である。
【0065】
図8に示すように、シリンダ130には、圧縮室131と、吸入孔132と、ブレード収容部133とが形成されている。さらに、シリンダ130には、圧縮室131の外周側部分に、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔135が形成されている。シリンダ130は、この貫通孔135を有する点以外、第1実施形態のシリンダ30と同様の構成である。
【0066】
ピストン140は、図9(a)に示すように、上記第1実施形態のピストン40と同様に、ローラ141と、ブレード142とから構成されている。ローラ141は、偏心部108aの外周面に回転可能に装着されており、ブレード142は、シリンダ130のブレード収容部133に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ローラ141は、上記第1実施形態のローラ41と同じく、円環状のローラ本体144と、ローラ本体144の内周部に配置された軸受メタル147とで構成されている。さらに、ローラ本体144の上端部には、第1実施形態の凸部44aと同様の凸部144aが形成されている。
【0067】
ミドルプレート150は、円環状の板部材であって、シリンダ130とシリンダ160との間に配置され、シリンダ130の圧縮室131の下端を閉塞すると共に、シリンダ160の圧縮室161の上端を閉塞している。また、ミドルプレート150には、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。
【0068】
シリンダ160は、上述したシリンダ130と同様の構成であって、圧縮室161と、吸入孔162と、一対のブッシュ34が配置されたブレード収容部(図示省略)と、貫通孔(図示省略)とを有する。
【0069】
ピストン170は、図9(b)に示すように、上記第1実施形態のピストン40とほぼ同様の構成であって、ローラ171と、ブレード172とから構成されている。ローラ171は、偏心部108dの外周面に回転可能に装着されており、ブレード172は、シリンダ160のブレード収容部(図示省略)に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ローラ171は、上記第1実施形態のローラ41と同じく、円環状のローラ本体174と、ローラ本体174の内周部に配置された軸受メタル177とで構成されている。さらに、ローラ本体174の下端部には、軸受メタル177の下端面を覆う凸部174aが形成されている。そして、第1実施形態と同様に、ローラ本体174の下端面の内縁が、後述するリアヘッド180に形成された吐出孔(図示省略)に最も近づく位置にある状態にあるときでも、凸部174aが吐出孔と対向することで、吐出孔がローラ171の下端面の内側空間と対向することがないようになっている。
【0070】
リアヘッド180は、シリンダ160の下側に配置され、シリンダ160の圧縮室161の下端を閉塞している。リアヘッド180は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト108が回転可能に挿通される軸受け孔181が形成されている。また、リアヘッド180には、シリンダ160の圧縮室161において圧縮された冷媒を、リアヘッド180とリアマフラー112との間に形成されるマフラー空間M2に吐出するための吐出孔(図示省略)が形成されている。さらに、リアヘッド180には、マフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。また、リアヘッド180の下面には、圧縮室131内の圧力に応じて吐出孔を開閉する弁機構(図示省略)が取り付けられている。
【0071】
リアマフラー112は、リアヘッド180の吐出孔(図示省略)から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。リアマフラー112は、リアヘッド180の下面にボルトによって取り付けられ、リアヘッド180との間にマフラー空間M2を形成している。マフラー空間M2は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1と連通している。
【0072】
本実施形態の圧縮機101の動作について説明する。
吸入孔132、162から圧縮室131、161に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト108を回転させると、偏心部108aに装着されたピストン140のローラ141は圧縮室131の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室131内で冷媒が圧縮される。これと並行して、偏心部108dに装着されたピストン170のローラ171は圧縮室161の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室161内で冷媒が圧縮される。
【0073】
圧縮室131内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド120に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室131内の冷媒がフロントヘッド120の吐出孔22からマフラー空間M1に吐出される。また、圧縮室161内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、リアヘッド180に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室161内の冷媒がリアヘッド180の吐出孔(図示省略)からマフラー空間M2に吐出される。マフラー空間M2に吐出された冷媒は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1に吐出される。
【0074】
マフラー空間M1に吐出された冷媒は、フロントマフラー111のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構110の外に吐出されて、その後、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0075】
本実施形態では、2つのシリンダ130、160が上下に配置されている。そして、上方に配置されたシリンダ130の内部に配置されるピストン140は、そのローラ本体144の上端面におけるフロントヘッド120に形成された吐出孔122と対向可能な位置に、軸受メタル147の上端面を覆う凸部144aが形成されている。また、下方に配置されたシリンダ160の内部に配置されるピストン170は、そのローラ本体174の下端面におけるリアヘッド180に形成された吐出孔と対向可能な位置に、軸受メタル177の下端面を覆う凸部174aが形成されている。
したがって、ローラ141においては、ローラ本体144の上端部に形成された凸部144aによって、軸方向端面の内周側空間が吐出孔122と対向するのを防ぎ、ローラ171においては、ローラ本体174の下端面に形成された凸部174aによって、軸方向端面の内側空間が吐出孔と対向するのを防ぐことができる。よって、第1実施形態と同様に、圧縮冷媒がローラ141、171の内周側に漏れたり高圧の潤滑油Lが吐出孔から吐出されたりするのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。
【0076】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態の圧縮機は、圧縮機構210の構成が上記第1実施形態と異なっている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0077】
図10に示すように、圧縮機構210は、シリンダ230とシリンダ230の内部に配置される部材の構成が異なっており、その他の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0078】
シリンダ230は、圧縮室231と、圧縮室231の周壁面に開口した吸入孔232とを備えている。また、シリンダ230は、第1実施形態のブレード収容部33に代えて、ベーン収容部233を有しており、その他の構成は、上記第1実施形態のシリンダ30と同様である。ベーン収容部233は、シリンダ230を上下方向に貫通しており、圧縮室231に連通している。また、ベーン収容部233は、圧縮室231の径方向に沿って形成されている。
【0079】
圧縮室231の内側には、円環状のローラ241が配置されている。ローラ241は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に装着された状態で、圧縮室231内に配置されている。ベーン収容部233の内側には、ベーン242が配置されている。ベーン242は、平板状の部材であって、その上下方向長さは、ローラ241の上下方向長さと同じである。ベーン242の圧縮室231の中心側の先端部(図10中の下側の先端部)は、上方から視て先細り状に形成されている。また、ベーン242は、ベーン収容部233内に設けられた付勢バネ248によって付勢されており、圧縮室231側の先端部が、ローラ241の外周面に押し付けられている。そのため、図10(a)〜図10(d)に示すように、シャフト8の回転に伴ってローラ241が圧縮室231の周壁面に沿って移動すると、ベーン242は、ベーン収容部233内で、圧縮室231の径方向に沿って進退移動する。また、図10(b)〜図10(d)に示すように、ベーン242が、ベーン収容部233から圧縮室231側に出ている状態では、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面との間に形成される空間は、ベーン242によって低圧室231aと高圧室231bとに区画される。
【0080】
ここで、図11、12を参照しつつ、本実施形態のローラ241の構成についてより詳細に説明する。なお、図11は、ローラ241をリアヘッド50側(下方側)から見た図である。図11においては、軸受メタル247を網掛けで示している。また、図12(a)においては、軸受メタル247の外縁線を破線で示している。図11および図12に示すように、ローラ241は、円環状のローラ本体244と、ローラ本体244の内周部に配置された軸受メタル247とで構成されている。軸受メタル247は、第1実施形態の軸受メタル47と同様の構成を有する略筒状の部材であり、ローラ本体244に圧入されている。
【0081】
図12(b)に示すように、ローラ本体244の上端部には、軸受メタル247の上端面を覆う凸部244aが全周に形成されている。第1実施形態のローラ41と同様に、凸部244aの先端は、軸受メタル247の内周面よりローラ241の径方向外側にあり、軸受メタル247の内周面から引っ込んでいる。また、軸受メタル247の下端面は、ローラ本体244の下端面から引っ込んでいる。そして、ローラ241の上端面の内縁が、フロントヘッド20に形成された吐出孔22に最も近づく位置にある状態にあるときでも、凸部244aが吐出孔22と対向することで、吐出孔22がローラ241の上端面の内側空間と対向することがないようになっている。
【0082】
次に、本実施形態の圧縮機の動作について説明する。
図10(a)は、ローラ241が上死点にある状態を示しており、図10(b)〜図10(d)は、図10(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0083】
吸入管3から吸入孔232を介して圧縮室231に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図10(a)〜図10(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ241は、圧縮室231の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室231内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0084】
図10(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図10(b)に示すように、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面とによって形成される空間が、低圧室231aと高圧室231bとに区画される。その後、さらに偏心部8aが回転すると、図10(c)、図10(d)に示すように、低圧室231aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔232を介して低圧室231a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室231bの容積が小さくなるため、高圧室231bにおいて冷媒が圧縮される。
【0085】
そして、高圧室231b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた弁機構が開弁して、高圧室231b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、第1実施形態の圧縮機1と同様の経路を通り、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0086】
本実施形態では、ローラ241は円環状である。そして、ローラ241は、円環状のローラ本体244と、ローラ本体244の内周部に配置された軸受メタル247とで構成されている。ローラ本体244の上端部には、軸受メタル247の上端面を覆う凸部244aが全周に形成されている。したがって、第1実施形態と同様に、凸部244aによって、ローラ241の軸方向端面の内周側空間が吐出孔22と対向するのを防ぎ、容積効率の低下を防止できる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0088】
例えば、上述の第1実施形態では、ローラ本体44の上端部、すなわち、ローラ本体44の軸方向両端部のうち吐出孔22が形成されたフロントヘッド20側の端部に、凸部44aが形成されている場合について説明したが、これには限定されない。図13、14に示すように、第1実施形態の第1変形例にかかるローラ本体344は、その上端部に軸受メタル347の上端面を覆う第1凸部344aが形成されており、下端部に軸受メタル347の下端面を覆う第2凸部344bが形成されている。第1凸部344aおよび第2凸部344bは、いずれもローラ本体344の端部の全周に形成されており、その先端は軸受メタル347の内周面から引っ込んでいる。また、第1凸部344aは、第1実施形態の凸部44aと同様に、フロントヘッド20に形成された吐出孔22と対向可能である。
【0089】
本変形例のピストン基材343は、その軸方向のほぼ中心位置において上下に2分割されており、上方に位置する第1部材345と下方に位置する第2部材346とで構成されている。すなわち、ピストン基材343は、第1部材345と第2部材346とを軸方向に積層することで形成されている。そして、第1部材345のローラ本体344に対応する部分の上端部には第1凸部344aが形成されており、第2部材346のローラ本体344に対応する部分の下端部には第2凸部344bが形成されている。なお、ピストン基材343は、軸方向に3つ以上の部材を積層することで構成されていてもよいし、1つの部材で構成されていてもよい。
【0090】
ここで、図15を参照しつつ、本変形例のピストン340の組み立て手順の一例について説明する。まず、図15(a)に示すように、第2部材346を用意し、図15(b)に示すように、第2部材346の内周部に軸受メタル347を圧入する。このとき、軸受メタル347の下端面は、第2部材346の第2凸部344bによって覆われる。また、軸受メタル347の上部は第2部材346の上端部よりも上方に突出している。そして、図15(c)に示すように、軸受メタル347の上部に第1部材345を嵌め込む。このとき、軸受メタル347の上端面は、第1部材345の第1凸部344aによって覆われる。このようにピストン340を組み立てた後に仕上げ加工を行い、ピストン340が完成する。
【0091】
本変形例においては、ローラ本体344は、その上端部に軸受メタル347の上端面を覆う第1凸部344aが形成されており、下端部に軸受メタル347の下端面を覆う第2凸部344bが形成されている。したがって、ローラ341の軸方向両端面において、形成される隙間(フロントヘッド20とローラ341の上端面との間の隙間およびリアヘッド50とローラ341の下端面との間の隙間)のシール長を長くすることができるので、これら隙間からの冷媒や潤滑油Lの漏れを低減でき、容積効率や図示効率の低下を抑制することができる。
また、ピストン基材343は、その上端部に第1凸部344aが形成された第1部材345と、その下端部に第2凸部344bが形成された第2部材346とで構成されている。したがって、軸方向両端部に第1凸部344aおよび第2凸部344bがそれぞれ設けられており且つその内周部に軸受メタル347が配置されたローラ本体344を容易に作製できる。
さらに、第1凸部344aおよび第2凸部344bの先端は、軸受メタル347の内周面から引っ込んでいる。したがって、ローラ341に対して第1凸部344aが形成された側からシャフト8を嵌め込む場合でも、第2凸部344bが形成された側からシャフト8を嵌め込む場合でも、これら第1凸部344aや第2凸部344bが妨げになることがない。よって、ローラ341とシャフト8との嵌め込み方向が規制されない。
なお、上述の第2および第3実施形態においても、この変形例を適用することができる。
【0092】
また、上述の第1実施形態では、ローラ本体44の上端部(フロントヘッド20側の端部)の全周に凸部44aが形成されている場合について説明したが、これには限定されない。図16に示すように、第1実施形態の第2変形例にかかるピストン440のローラ本体444は、その上端部の一部に軸受メタル447の上端面を覆う凸部444aが形成されている。なお、図16は、ローラ441の上端面の内縁が吐出孔22に最も近づく位置にローラ441が位置している状態を示している。図16に示すように、凸部444aは、フロントヘッド20に形成された吐出孔22と対向可能な位置に形成されている。
なお、第2実施形態の凸部144a、174a、および第1実施形態の第1変形例の第1凸部344aについても同様に、少なくとも吐出孔に対向する位置に形成されていればよい。加えて、第1実施形態の第1変形例の第2凸部344bは、ローラ本体344の下端部の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0093】
さらに、上述の第1〜第3実施形態では、ローラ本体44(144、174、244)に形成された凸部44a(144a、174a、244a)の先端は、軸受メタル47(147、177、247)の内周面よりローラ41(141、171、241)の径方向外側にある場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、凸部44a(144a、174a、244a)の先端は、軸受メタル47(147、177、247)の内周面と一致していてもよいし、軸受メタル47(147、177、247)の内周面よりローラ41(141、171、241)の径方向内側に位置していてもよい。また、第1実施形態の第1変形例においては、ローラ本体344に形成された第1および第2凸部344a、344bの先端は、いずれも軸受メタル347の内周面よりローラ本体344の径方向外側にある場合について説明したが、これには限定されない。第1および第2凸部344a、344bは、そのいずれか一方、または両方の先端が、軸受メタル347の内周面と一致、または、軸受メタル347の径方向内側に位置していてもよい。
【0094】
また、上述の第1〜第3実施形態では、圧縮機構は、フロントヘッド20、120の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持されているが、シリンダ30、130、160、ミドルプレート150、またはリアヘッド50、180の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持される構成であってもよい。
【0095】
さらに、上述の第3実施形態では、ローラ241とベーン242とを備える圧縮機構を、1シリンダ型のロータリ圧縮機に適用しているが、2シリンダ型のロータリ圧縮機に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明を利用すれば、ローラ端面の内側空間が吐出孔と対向しないようにし、容積効率の低下を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0097】
1、101 圧縮機
20、120 フロントヘッド(第1端板部材)
22、122 吐出孔
30、130、160、230 シリンダ
31、131、161、231 圧縮室
33、133 ブレード収容部
40、140、170、340、440 ピストン
41、141、171、241、341、441 ローラ
42、142、172 ブレード
44、144、174、244、344、444 ローラ本体
44a、144a、174a、244a、444a 凸部(第1凸部)
47、147、177、247、347、447 軸受メタル(軸受部材)
50、180 リアヘッド(第2端板部材)
233 ベーン収容部
244 ベーン
344a 第1凸部
344b 第2凸部
345 第1部材
346 第2部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、
前記圧縮室において圧縮された冷媒を吐出する吐出孔が形成されており、前記シリンダの軸方向一端に配置される第1端板部材と、
前記シリンダの軸方向他端に配置される第2端板部材と、
前記圧縮室および前記ブレード収容部の内側に配置されるピストンとを備え、
前記ピストンは、環状のローラ本体及び前記ローラ本体の内周部に配置された軸受部材を有するローラと、前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に対して進退可能に配置されたブレードとを有し、
前記ローラ本体の前記第1端板部材側の端部において、前記吐出孔と対向可能な位置に前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第1凸部が形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記第1凸部は、前記ローラ本体の軸方向端部の全周に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
圧縮室および前記圧縮室に連通したベーン収容部を有するシリンダと、
前記圧縮室において圧縮された冷媒を吐出する吐出孔が形成されており、前記シリンダの軸方向一端に配置される第1端板部材と、
前記シリンダの軸方向他端に配置される第2端板部材と、
環状のローラ本体及び前記ローラ本体の内周部に配置された軸受部材を有し、前記圧縮室の内側に配置されるローラと、
前記ローラの外周面に押圧される先端を有し且つ前記ベーン収容部の内側を進退可能に配置されたベーンとを備え、
前記ローラ本体の前記第1端板部材側の端部の全周に、前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第1凸部が形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
前記第1凸部の先端は、前記軸受部材の内周面より前記ローラの径方向内側にないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ローラ本体の前記第2端板部材側の端部において、前記軸受部材の軸方向端面の少なくとも一部を覆う第2凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ローラ本体は、軸方向に積層された複数の部材を有しており、
前記複数の部材が、前記ローラ本体の軸方向一端部を含む第1部材と、前記ローラ本体の軸方向他端部を含む第2部材とを含んでいることを特徴とする請求項5に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記第2凸部の先端は、前記軸受部材の内周面より前記ローラの径方向内側にないことを特徴とする請求項5または6に記載の圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−87736(P2013−87736A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231032(P2011−231032)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】