説明

圧電アクチュエータおよびそれを用いた走査型プローブ顕微鏡

【課題】圧電アクチュエータにおいて、圧電素子の変位方向以外の低次のモードの共振周波数によって利用可能な周波数帯域が狭められることを防止し、高い周波数領域での駆動が可能な圧電アクチュエータを提供するものである。
【解決手段】電圧を印加することで伸縮変位する圧電素子1の一端を土台5に固定し、圧電素子1の変位方向に対して略平行に設けられたケース3を備える。さらに、面方向が圧電素子1の変位方向に対して交差する少なくとも1つの板バネ2を、一端をケース3に、もう一端を圧電素子1の側面に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電効果を利用した圧電アクチュエータ、およびそれを使用した走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することで変位する圧電素子を利用した圧電アクチュエータにおいて、圧電素子の変位量を大きくする方法として、圧電素子の変位する方向の長さを大きくすれば良いことが知られている。
【0003】
これは、単体の圧電素子を用いた圧電アクチュエータでは、印加可能な電圧の最大値を大きくするということであり、複数枚の圧電素子を積層した積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータでは、積層圧電素子の数を増やすことである。
【0004】
しかし、圧電素子の長さを長くすると、圧電素子の変位(伸縮)する方向の伸縮振動の共振周波数が低下するのみならず、圧電素子の伸縮方向に対してたわみを生じるたわみ振動の共振周波数も低下してしまう。
【0005】
さらに、圧電素子の太さに対して長さが長すぎる場合では、変位方向の伸縮振動の共振周波数よりもたわみ振動の共振周波数が低くなることが知られています。そのため、圧電素子を制御することができる周波数帯域はその圧電素子の共振周波数のうち最も周波数が低い1次モードの共振周波数によって決まるので、変位(伸縮)方向への振動の共振周波数よりもたわみ振動の共振周波数が低くなると、圧電素子を駆動できる周波数帯域が著しく低下してしまうという欠点があった。
【0006】
ここで、この欠点に対して、圧電素子を太くすることでたわみ振動の共振周波数の低下を防止するという方法は、圧電素子の電気容量を増大させ、特に高速に長さ方向の伸縮振動を駆動する場合には電源の負荷が大きくなりすぎるため実用的ではないことが知られている。
【0007】
また、圧電アクチュエータの伸縮変位量を大きくする方法として、梃子を利用した拡大機構を圧電素子に取り付けて変位量を大きくする方法が知られている。(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
この方法では、圧電素子自体の変位(伸縮)方向の長さを長くする必要が無いため、圧電素子のたわみ振動の共振周波数の低下は生じないが、梃子の構造を用いた場合には長手方向ではなく横方向に力が加わるため圧電アクチュエータ全体としては剛性が弱くなり、伸縮方向の共振周波数を高くすることができない。さらに、梃子と圧電素子の間の接点は容易に曲がることで梃子と圧電素子との角度の差を吸収するために細くしなければならないため、必然的に強度が弱くなり、これも長手方向の共振周波数を低下させる原因となる。また、拡大機構を持つ圧電アクチュエータでは変位の方向が直線方向から円弧方向に変換されてしまうため、例えば移動機構に用いるような場合に実用上不都合となることが多い。また、拡大機構を持つ圧電アクチュエータでは、梃子を使うことにより変位量が大きくなる代わりに、(圧電アクチュエータ全体の発生力)=(圧電素子のみの発生力)/(梃子による変位量の拡大倍率)との関係から、発生力が小さくなるため駆動できる質量が小さくなり、さらには、拡大機構が追加されるため質量が重くなり共振周波数が低下し、しかも駆動するために必要な電源のエネルギーが大きくなるという欠点もあった。
【0009】
また、圧電アクチュエータを利用する装置として、先鋭化した探針と観察対象となるサンプルの相対位置を移動機構によりXYZ方向に移動し、そのときに探針とサンプル表面の間に働く相互作用からサンプル表面の形状や、磁気または電気などの物性を測定する走査型プローブ顕微鏡が知られている。
【0010】
この走査型プローブ顕微鏡では、広い範囲で、かつ高速に精度良く相対位置を移動(走査)して、短時間で測定する要求がある。しかし、従来の走査型プローブ顕微鏡の移動機構としては、一般的に単体型や積層型の圧電素子、および積層型圧電素子に拡大機構を加えた圧電アクチュエータが用いるが、拡大機構を持つ圧電アクチュエータは円弧方向への移動となるため移動位置の精度が低下したり、広い範囲で移動(走査)するためには、圧電素子の全長を長くしなければならないために、圧電素子のたわみ方向への共振周波数が低くなるため高速で駆動できず、測定するのに長時間をかける必要がるという問題があった。
【特許文献1】特開平3−51139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、圧電素子の変位方向に大きな変位量にかつ直線的に伸縮し、且つ伸縮する変位方向に対するたわみ振動による共振周波数の低下を防止し、高い周波数領域での駆動ができる圧電アクチュエータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために、本発明に係る圧電アクチュエータでは、電圧を印加することで変位する圧電素子と、圧電素子の一端を固定する土台と、圧電素子の変位方向に対して略平行に設けられたケースと、圧電素子の変位方向に対して交差するように、一端を圧電素子と、他端をケースに保持される少なくとも1つの弾性体と、からなるようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る圧電アクチュエータでは、以下の効果を得ることができる。
【0014】
圧電素子の変位方向に大きな変位量にかつ直線的に伸縮し、且つ伸縮する長手方向に対するたわみ振動による共振周波数の低下を防止し、高い周波数領域での駆動することが可能となる。
【0015】
つまり、圧電素子の長手方向の長さを長くして伸縮変位量を大きくしても、たわみ方向へたわみ振動することが防止されるため、たわみ方向への振動によって周波数帯域が制限されることがない。したがって、圧電素子の伸縮方向への長さによって決まる周波数帯域で高速に駆動することができる。
【0016】
また、拡大機構を使わずに圧電素子の長さを長くすることで変位量を大きくするので、伸縮方向が円弧ではなく直線であり、圧電アクチュエータの発生力が小さくなることがない。
【0017】
さらに、拡大機構は変位方向へのバネ定数が高くなければならないため変位方向への動きを阻害することになり、さらに拡大機構自体の質量が加わる形になるが、本発明に係る圧電アクチュエータでは側面から薄い板バネで変位方向とは垂直な方向にのみ強く支持するので、変位方向への動きを阻害する力は極めて小さく、また圧電素子によって駆動される質量も拡大機構に比べて小さくできるので、被駆動体も含めた全体の共振周波数が高くでき、高速で駆動できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧電アクチュエータの第1実施形態について図1を参照して説明する。
【0019】
本発明に係る圧電アクチュエータでは、変位方向(図1においては、紙面上では上下方向)に伸縮変位するように分極された圧電素子1の変位方向の一端が固定端である土台5に固定(保持)され、もう一端が圧電素子によって移動させる被駆動体4に固定されている。
ケース3は、圧電素子1の変位方向の側面に対しは平行に隙間を設けて覆うようにして、土台5と接続している。尚、本実施例では、土台とケースを別体として構成しているが、一体で構成してもよい。
【0020】
そして、圧電素子1の変位方向に対して交差する方向に、弾性体として板バネ2の一端がケース3に接着され、もう一端が圧電素子1の側面に接着されている。なお、本実施例では、複数枚の板バネ2が、板バネの面と圧電素子1の変位方向は垂直となるように取り付けられ、板バネ2の屈曲方向は圧電素子1の変位方向に追従できる方向になっている。
【0021】
また、本実施例では、板バネ2によって圧電素子に過大な負荷が加わることを防止するために、圧電素子1が最大量変位したときに、複数の板バネ2が圧電素子1に加える力の合計が、圧電素子1の発生力よりも十分小さくなるように、板バネ2の圧電素子1の変位方向へのバネ定数を決めるものとする。
【0022】
また、圧電素子1の端部とそれに隣接する板バネ2との距離に相当する長さ、または複数の板バネ2と隣接する板バネ2との間隔に相当する長さ分の圧電素子1の1次モードの共振周波数が、圧電素子1の変位方向への共振周波数より高くなるように板バネ2の間隔を定めるものとする。これにより、本実施例における圧電素子1のたわみ方向の共振周波数は、変位方向への共振周波数よりも高くなる。
【0023】
また、複数の板バネ2自体の共振周波数が、それぞれ圧電素子1の変位方向への共振周波数より高くなるように、板バネ2の寸法および材質を決める。これにより圧電素子1の変位方向の共振周波数よりも低い周波数領域で板バネ2が共振し、板バネ2の共振周波数で本実施例の圧電アクチュエータの制御帯域が制限されることを防止することができる。
【0024】
尚、本実施例は、単体型圧電素子を用いたが、積層型圧電素子を用いてもよい。
【0025】
次に、本発明に係る圧電アクチュエータの第2実施形態について図2を示す。複数の圧電素子1と、その断面積よりも面積の広い板バネ2で積層した積層型圧電素子として用いた場合であり、板バネ2を土台3に固定するような構造としても良い。
【0026】
さらに、本発明に係る圧電アクチュエータの第3実施形態について図3を示す。図3に示すように、板バネ2を固定する圧電素子1の部分に溝を形成し、そこに板バネ2をはめ込むように固定するような構造としても良い。このようにすると、板バネ2と圧電素子1を接着した場合に比べて、圧電素子1を伸縮させたときに接着面に加わる応力によって接着が剥がれてしまうというような問題が生じなくなる利点がある。
【0027】
また、本発明に係る圧電アクチュエータの第4実施形態について図3を示す。図4に示すように、板バネ2を1軸だけでなく2軸方向に取り付けることが望ましい。
【0028】
また、圧電素子1の変位方向のある位置に置ける板バネ2の取り付け方は、複数の板バネ2が圧電素子1を挟む形で、圧電素子1を中心として対照になるように、同じバネ定数を持つ板バネ2を、圧電素子1の変位方向に垂直な面内に複数枚配置することが望ましい。これにより、板バネ2によって圧電素子1が受ける力のうち圧電素子1の変位方向以外の力のバランスを取ることができる。
【0029】
さらに、圧電素子1の端部および各板バネ2の間隔がそれぞれ等間隔もしくは整数倍比であると、その長さに応じた共振周波数で大きく振動するため、圧電素子1の端部および各板バネ2の間隔がそれぞれ整数倍比にならないようにして共振を防止することが望ましい。前述のように本実施例では、圧電素子1全体の変位方向への共振周波数よりも、各板バネ2の間隔分の長さの圧電素子1の共振周波数の方が高いが、Q値が高いと利用可能な周波数帯域が制限されてしまう。そのため、上記のように圧電素子1の端部および各板バネ2の間隔が整数倍比にならないようにすることで、共振周波数での振幅を小さくし、Q値を低く抑えることが有効である。
【0030】
先端に探針を有したカンチレバーをカンチレバーホルダに固定し、探針に対向配置された試料を載置するステージと、カンチレバーの振動状態の変位を測定するための光てこ方式などの測定手段とを備えた走査型プローブ顕微鏡において、探針と試料とを試料表面に平行な方向に相対移動させる移動手段として本発明の圧電アクチュエータを用いた。
【0031】
これにより、被駆動体4の先端のカンチレバーを備えることにより、移動機構を高速に駆動できるのみならず、直線性が良く精度の高い制御ができるようになるので、高速に試料表面に平行な方向に相対移動させることが可能となり、短時間で試料表面の表面形状や物理的物性などの計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る第1実施形態における圧電アクチュエータの構成を示す概要図である。
【図2】本発明に係る第2実施形態における圧電アクチュエータの構成を示す概要図である。
【図3】本発明に係る第3実施形態における圧電アクチュエータの構成を示す概要図である。
【図4】本発明に係る第4実施形態における圧電アクチュエータの構成を示す概要図である。
【符号の説明】
【0033】
1 圧電素子
2 板バネ(弾性体)
3 土台
4 被駆動体
5 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加で変位する圧電素子を用いた圧電アクチュエータにおいて、
圧電アクチュエータの固定端となり且つ前記圧電素子の一端を固定する土台と、
前記圧電素子の変位方向に対して略平行に設けられ且つ前記土台に固定されたケースと、
前記圧電素子の変位方向に対して交差するように、一端を前記圧電素子の側面に、他端を前記ケースに保持される少なくとも1つの弾性体と、からなることを特徴とする圧電アクチュエータ
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエータであって、
前記圧電素子を最大量変位させたときに、前記弾性体がそのバネ定数と変位量に応じて前記圧電素子に加える力のうち、前記圧電素子の変位方向への成分の合計が、前記圧電素子の発生力よりも小さいことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧電アクチュエータであって、
前記弾性体の1次モードの共振周波数が前記圧電素子の伸縮方向の共振周波数よりも高いことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の圧電アクチュエータであって、
複数の同じバネ定数を持つ前記弾性体が、前記圧電素子の変位方向への位置が同じで且つ前記圧電素子を中心として前記圧電素子を対照に挟み込むように取り付けられることにより、それら複数の前記弾性体により前記圧電素子に加えられる力の前記圧電素子の変位方向以外の成分が打ち消しあうことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の圧電アクチュエータであって、
複数の前記弾性体の間隔および前記弾性体と前記圧電素子の端部との間隔がそれぞれ整数倍比にならないように、それぞれ異なった間隔で固定することにより前記圧電素子の共振振動を防止することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の圧電アクチュエータであって、
複数の前記弾性体の間隔および前記弾性体と前記圧電素子の端部との間隔の中で最も長い間隔分の長さの前記圧電素子の1次モードの共振周波数が前記圧電素子の変位方向への共振周波数よりも高くなるような間隔で、複数枚の前記板バネが取り付けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項7】
先端に探針を有しカンチレバーホルダに固定されるカンチレバーと、
前記探針に対向配置された試料を載置するステージと、
前記探針と前記試料とを、試料表面に平行な方向に相対移動させる移動手段と、
前記カンチレバーの振動状態の変位を測定する測定手段とを備えている走査型プローブ顕微鏡において、
前記移動手段に、請求項1から6のいずれかに記載の圧電アクチュエータを用いたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−32445(P2008−32445A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204108(P2006−204108)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)