説明

地熱熱水処理装置

【課題】熱水を水平配管で供給する場合でも、該熱水中に酸を注入して均等に混合することができることから、該酸により配管の内壁が腐食されることを確実に防止することができる。
【解決手段】地熱生産井から蒸気と共に生産される熱水を、気水分離器により蒸気から分離した後、配管を通して下流側へ供給する地熱熱水処理装置において、前記配管に相当する主配管10の内側に、該主配管より小径のガイド管12が軸方向に沿って配設され、該ガイド管の上流端12A近傍の周縁部内側に、前記主配管内を流れる熱水中に酸を注入する酸供給管14の開口部14Aが配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱熱水処理装置に係り、特に地熱発電に使用される地熱蒸気生産井から蒸気と共に生産される熱水を適切に処理する際に適用して好適な地熱熱水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電所において、地熱生産井から流出する熱水の処理に当たり、熱水中に含まれるシリカ成分が析出し、配管内にスケールとして付着して閉塞させることが問題となっている。
【0003】
このようなシリカ成分の析出を抑制するために、例えば硫酸、硝酸等の無機酸を添加してpHを下げる調整が行われている。その調整に際しては、pHを下げすぎると機器の酸腐食が問題となるので、シリカ成分析出の抑制効果と機器材料の耐食性とを勘案して酸の添加量が決められることになる。
【0004】
ところが、添加した酸が完全に混合した場合の酸濃度(もしくはpH)を想定して、その添加量が決められているため、添加した酸が十分に混合せずに高濃度のまま配管内壁面や機器表面に到達すると、結果的に酸腐食の問題が生じることになる。そのため、例えば配管に酸を注入する場合には管の中央部分に供給口を配設し、管の軸方向に流出させることが一般に行われている。
【0005】
例えば、特許文献1や2では、図1に特許文献1の例を示すように、生産井1より生産される地熱蒸気及び熱水は、配管2を介して気水分離器3に供給されて地熱蒸気と熱水とに分離された後、地熱蒸気は配管4から取り出されて図示しないタービンへ供給されると共に、熱水はレベルヘッダーL・Hを経て熱交換器7に供給され、ここで暖房等の熱源として利用された後、還元井8から地下に還元されるようになっている地熱蒸気生産設備において、前記気水分離器3で分離された熱水の配管5中に、酸容器6から酸を直接注入しpHを調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−51393号公報(図1)
【特許文献2】特開平10−205266号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、通常、酸を水中に添加すると希釈熱が発生する。又、地熱熱水には様々な成分が溶解していることから、酸がその成分と反応して反応熱を発生する場合もある。
【0008】
一般に、気水分離器3から分離した熱水は沸点より少し温度の低い程度のほとんど気液飽和条件に近い状態にあるため、酸を注入した際の希釈熱や反応熱により、特に発熱量の大きい酸液と熱水の混合界面付近では、熱水温度が沸点に達し、沸騰して水蒸気泡が発生しやすい。このように発生した水蒸気泡は、浮力により配管内を鉛直上方に力を受けるため、図2に水平配管の場合を示す如く、発生した水蒸気泡Bに同伴される形で酸供給管14の開口部14Aから注入された酸液Aが上方に移動し、配管5の天部内壁に高濃度の酸液Aが到達し、その表面を腐食するという問題が生じる。
【0009】
この問題を避けるために、水平配管でなく鉛直配管に酸を供給することも考えられるが、この場合には設備上の高さの制約などから注入部前後の管長を長く確保することは困難であることが多いため、注入部近くの上流や下流にエルボ等の曲がり配管が配設されることになり易い。この場合には、図3に注入部下流側(図の上方)に曲がり配管11がある場合を示すように、曲がり部で、熱水の流れる方向が管中心からずれる偏流Cが発生することになるため、曲がり配管内壁に高濃度の酸液が到達しやすくなり、同様の懸念が生じる。これは、図4に示すように、注入部上流側(図の下方)に曲がり配管11がある場合でも、同様である。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、熱水を水平配管で供給する場合でも、該熱水中に酸を注入して均等に混合することができ、従って該酸により配管の内壁面が腐食されることを確実に防止することができる地熱熱水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、地熱生産井から蒸気と共に生産される熱水を、気水分離器により蒸気から分離した後、配管を通して下流側へ供給する地熱熱水処理装置において、前記配管の内側に、該配管より小径のガイド管を軸方向に沿って配設し、該ガイド管の上流端近傍の周縁部内側に、前記配管内を流れる熱水中に酸を注入する酸供給管の開口部を配設することにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
ここで、前記ガイド管を、前記酸供給管の開口部から注入される酸により発熱して発生する水蒸気泡が前記熱水に伴って移動する間に消滅する長さに設定することができる。
【0013】
又、前記ガイド管を、前記配管と同軸に配設することができる。
【0014】
又、前記ガイド管を、耐食性材料により形成することができる。
【0015】
更に、前記酸供給管の開口部を、前記ガイド管内に位置するようにできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱水を流通させる配管内に、該配管より小径のガイド管を軸方向に沿って配設し、該ガイド管の上流端近傍の周縁部内側に配設した開口部から酸を注入できるようにしたので、注入された酸は熱水と共に該ガイド管内を案内されて流れることになり、その結果、酸混合による発熱に起因して熱水が沸騰し、水蒸気泡が発生したとしても、該水蒸気泡の上昇に伴って高濃度の酸が前記主配管の天部内壁に到達することを阻止できることから、該天部内壁が酸により腐食されることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の地熱蒸気生産井の概要を示す模式図
【図2】従来の問題点を示す断面図
【図3】従来の他の問題点を示す断面図
【図4】従来の更に他の問題点を示す断面図
【図5】本発明に係る地熱熱水処理装置の第一実施形態の要部を示す断面図
【図6】第一実施形態の作用を示す線図
【図7】本発明に係る地熱熱水処理装置の第二実施形態の要部を示す断面図
【図8】本発明に係る地熱熱水処理装置の第三実施形態の要部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図5は、本発明に係る地熱熱水処理装置の第一実施形態の要部を、作用と共に示す概略説明図である。
【0020】
本実施形態の地熱熱水処理装置は、地熱生産井から蒸気と共に生産される熱水を、気水分離器により蒸気から分離した後、配管を通して下流側へ供給するものである。
【0021】
前記図1の生産設備の場合であれば、気水分離器3より下流の配管5内を流れる熱水と、酸容器6に連結された酸供給管から注入される酸との合流位置に適用される。
【0022】
本実施形態においては、前記配管5に相当する主配管10の内側に該主配管10より小径のガイド管12が軸方向に沿って配設され、該ガイド管12の上流端12A近傍の周縁部内側かつ上流端12Aより少し下流側に、前記主配管10を流通する熱水H中に酸を注入する酸供給管14の開口部14Aが配設されている。
【0023】
この開口部14Aは、ガイド管12の内側まで延ばした構造になっているため、水蒸気泡Bが真上に上昇してしまう場合でもその上昇を確実に防止できる。
【0024】
前記ガイド管12は、ステンレス管やフッ素樹脂管、フッ素樹脂コーティング管等の耐食性材料で形成された円筒状の直管からなり、その軸が前記主配管10と概略同軸に配設されている。
【0025】
また、前記ガイド管12は、前記酸供給管14の開口部14Aから注入される酸により発熱して発生する水蒸気泡Bが前記熱水Hに伴って移動する間に消滅する長さ、例えばガイド管の直径をDとした場合、2D〜5D程度に設定されている。
【0026】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0027】
前述したように、ガイド管12は主配管10と概略同軸に配設されており、該主配管10中を流れる熱水Hの一部がガイド管12の上流端12Aから該ガイド管内を常に流れるようになっている。
【0028】
前記酸供給管14から供給された酸液Aは、熱水Hの流れに伴ってガイド管12内に流入し、ガイド管12内を流れる熱水Hと接触し、混合される。この混合の際に、希釈熱や反応熱が発生し、熱水Hが沸騰して水蒸気泡Bが生じる。
【0029】
この水蒸気泡Bは、浮力により鉛直上向き流速成分を持っているため、高濃度の酸液を同伴して上昇することになるが、ガイド管12によりその上昇が制限されることから、ガイド管12内を流れることになる。
【0030】
その際に、ガイド管12は酸耐食性を有する材料で構成されていることから、腐食の問題が生じることはない。
【0031】
また、発生した水蒸気泡Bは、ガイド管12内を流れるにしたがって、沸点より少し温度が低い熱水と接触することにより凝縮するため、気泡径は次第に小さくなっていき、最終的には消滅する。従って、ガイド管12の下流端12Bからは、少なくとも大きな水蒸気泡Bが確実に消滅した状態で熱水と酸液の混合液が流出することになる。より好ましくは、ガイド管12の下流端12Bから流出する熱水において、水蒸気泡Bがすべて消滅していることが望ましい。一般的な地熱熱水条件では、ガイド管12の長さをその直径の2倍から5倍程度にすることで上記状態が達成される。
【0032】
なお、このガイド管12から流出する混合液は、完全に均一に混合している必要はなく、ある程度の濃度分布を有していても構わない。ガイド管12から流出する混合液は、ガイド管12の外側を流れる熱水(酸濃度ゼロ)と混合しつつ流れていくことになるが、水蒸気泡Bは消滅しているので、ガイド管がなくても鉛直上向きの浮力が生じることはない。ガイド管12の下流端12Bを主配管10の概略中心軸近傍に配置することにより、ガイド管12より下流の主配管10内では、図6中に示したように、主配管10の中心軸近傍から周辺部に向けて酸液濃度が低減していくような濃度分布が保たれる。従って、中央部が高濃度、周辺部が低濃度の状態を維持したまま、概略同心円状にガイド管12の外側を流れてきた熱水Hと混合しつつ流れていくことになる。図6において、Rは主配管10の半径である。ガイド管12より下流の主配管10の内壁は、図6中に示したように、常にその管軸法線断面における最低濃度の酸液と接しつつ、完全混合に至ることになる。従って、高濃度の酸液により、主配管10の天部壁面が腐食することを確実に防止することが可能となる。
【0033】
本実施形態においては、ガイド管12を円筒状の直管で構成したので、製造が容易で安価である。ただし、ガイド管の形状は円筒状の直管に限定されない。例えば矩形管であっても構わない。
【0034】
図7には、本発明に係る第二実施形態の要部を示す。
【0035】
本実施形態は、ガイド管12を、下流ほど拡径された拡大テーパ管にしたものであり、それ以外の構成は前記第一実施形態と同様である。
【0036】
このように、ガイド管12として拡大テーパ管を採用することにより、拡散混合促進効果が得られるため、特に該ガイド管の下流側で酸と熱水の混合を効率よく促進することが可能となる。
【0037】
図8には、本発明に係る第三実施形態の要部を示す。
【0038】
本実施形態は、ガイド管12を、下流ほど小径となる縮小テーパ管にしたものであり、それ以外の構成は前記第一実施形態と同様である。
【0039】
このようにガイド管として縮小テーパ管を採用することにより、混合促進効果が同様に得られる上に、ガイド管12内の流れの方向と水蒸気泡Bに働く浮力の方向が逆向きとなるため、ガイド管12内に水蒸気泡Bが留まりやすくなり、直管の場合より消泡を促進する効果が得られる。
【0040】
なお、前記実施形態では、酸供給管14がレベルヘッダーL・Hの下流側に連結されている例を示したが、酸供給管14を連結する位置は、これに限定されず、例えば、特許文献2の図1に示されるように、主配管におけるレベルヘッダーL・Hの上流側であったり、特許文献2の図2に示されるように、気水分離器3の上流側の主配管へ熱水を戻す配管であってもよい。
【0041】
また、水平配置の主配管10とガイド管12が同軸に配設されている例を示したが、これに限定されず、例えば下流に向かって上に傾斜させても、逆に上流に向かって下に傾斜させてもよい。
【0042】
更に、主配管10は水平配置に限らず、鉛直配置であってもよく、この場合にも、図4に示したような上流側(図4の下側)のエルボ等の曲がり配管11により生じる酸注入部における偏流Cの影響をガイド管により抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…主配管
12…ガイド管
12A…上流端
12B…下流端
14…酸供給管
14A…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱生産井から蒸気と共に生産される熱水を、気水分離器により蒸気から分離した後、配管を通して下流側へ供給する地熱熱水処理装置において、
前記配管の内側に、該配管より小径のガイド管が軸方向に沿って配設され、
該ガイド管の上流端近傍の周縁部内側に、前記配管内を流れる熱水中に酸を注入する酸供給管の開口部が配設されていることを特徴とする地熱熱水処理装置。
【請求項2】
前記ガイド管が、前記酸供給管の開口部から注入される酸により発熱して発生する水蒸気泡が前記熱水に伴って移動する間に消滅する長さに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の地熱熱水処理装置。
【請求項3】
前記ガイド管が、前記配管と同軸に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の地熱熱水処理装置。
【請求項4】
前記ガイド管が、耐食性材料により形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の地熱熱水処理装置。
【請求項5】
前記酸供給管の開口部が、前記ガイド管内に位置していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の地熱熱水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−202179(P2012−202179A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70304(P2011−70304)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)