説明

地盤変位抑制装置

【課題】 深度によって異なる地盤変位に対しても隣接地への伝達を有効に抑制することができる地盤変位抑制装置を提供する。
【解決手段】 地盤10中に可撓性の袋体2を設置して地盤10の変位を抑制するようにした地盤変位抑制装置1において、地盤10中の上下方向に積層状態で埋設され、それぞれ内部に流体が充填された可撓性の複数の袋体2と、この複数の袋体2の圧力をそれぞれ調整可能な圧力調整部3と、地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する第1傾斜計4と、この第1傾斜計4の検出状態に基づいて圧力調整部3を制御する制御手段6とを備え、制御手段6は、第1傾斜計4が地盤変位の大きい箇所を検出すると、地盤変位が大きい深度に位置する袋体2の圧力を大きく、当該深度の上下に位置する袋体2の圧力を小さく調整するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎工事、地盤改良工事等の工事施工時において、その隣接地の地盤変位を低減する地盤地盤変位抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の地盤変位抑制構造として、図5に示すように、隣接地と工事区間の緩衝地に鋼矢板20を埋設し、工事区間での地盤変位を鋼矢板20で堰き止めるようにしたものがある。
【0003】
また、図6に示すように、隣接地と工事区間の緩衝地に空穴21を開け、工事区間の地盤変位があると、この地盤変位を空穴21で吸収するようにしたものがある。
【0004】
しかし、上記前者の地盤変位抑制構造では、地盤変位によって鋼矢板20の固定力を超える地盤圧力を受けると、鋼矢板20が容易に変位するために低減効果が小さかった。
【0005】
また、上記後者の地盤変位抑制構造では、地盤変位の低減効果を期待できるが、空溝21が容易に崩れ、空溝21の維持補修が困難であった。
【0006】
このような問題点を解決する地盤変位抑制構造が従来より提案されている。この地盤変位抑制構造は、図7に示すように、地盤の隣接地と工事区間の緩衝地に縦穴22を設け、この縦穴22に細長い単一の袋体23を埋設し、この袋体23の内部に流体を充填したものである(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
この従来例によれば、図8に示すように、工事区間側の地盤中に地盤変位が発生すると、この地盤変位に追従するように袋体23が変位して地盤変位を吸収し、隣接地への地盤変位の伝達を抑制する。そして、縦穴22が崩れたりしないため、縦穴23の維持管理が容易である。
【特許文献1】特開平9−41381号公報
【特許文献2】特開2001−152476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の地盤変位抑制構造では、深度によって異なる地盤変位を有効に吸収できなかった。つまり、深度によって異なる地盤変位が発生すると、図8に示すように、大きな地盤変位を受ける袋体23の箇所のみが大きく変形した。これにより、その箇所が容易に最大変位量にまで達し、この最大変位量に達した後も地盤変位を受けると、その地盤変位が隣接地に伝達され易かった。
【0009】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、深度によって異なる地盤変位に対しても隣接地への伝達を有効に抑制することができる地盤変位抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、地盤中に可撓性の袋体を設置して該地盤の変位を抑制するようにした地盤変位抑制装置において、前記地盤中の上下方向に積層状態で埋設され、それぞれ内部に流体が充填された可撓性の複数の袋体と、この複数の袋体の圧力をそれぞれ調整可能な圧力調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、前記地盤中の深度毎の地盤変位を検出する地盤変位検出手段と、この地盤変位検出手段の検出状態に基づいて前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、前記流体は気体であることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、前記流体は液体であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、前記制御手段は、前記地盤変位検出手段が地盤変位の大きい箇所を検出すると、地盤変位が大きい深度に位置する前記袋体の圧力を大きく、当該深度の上下に位置する前記袋体の圧力を小さく調整するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、深度によって異なる地盤変位が発生した場合、大きな変位の深度に位置する袋体の圧力を大きく、当該深度の上下位置に位置する袋体の圧力を小さく調整して袋体の地盤変位吸収エリアを広くできる。これにより、各袋体が最大変位量に達することを確実に抑制することができ、深度によって異なる地盤変位に対しても隣接地への伝達を有効に阻止することができる。その結果、確実な変位低減効果を長期的に維持することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、深度によって異なる地盤変位に対してリアルタイムで各袋体の圧力を調整できる。このため、確実に地盤変位を吸収することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、流体を気体としたことにより、袋体内の圧力調整を迅速に行うことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、流体を液体としたことにより、袋体内を大きな圧力レベルに設定することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、制御手段により、地盤の変位に応じて各袋体内の圧力を調整することができ、地盤の深度によって異なる地盤変位を確実に低減することができる。また、地盤の縦穴の崩壊もなく、長期に安定した変位低減穴を造成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1〜図4は本発明の一実施形態を示し、図1は地盤変位抑制装置の構成図、図2は複数の袋体の斜視図、図3(a)〜図3(c)はそれぞれ地盤変位抑制装置の設置工程を説明する図、図4は地盤変位の伝達吸収作用を説明する図である。
【0022】
図1に示すように、地盤変位抑制装置1は、基礎工事や地盤改良工事等の工事が施される地盤10の隣接地と工事区間の緩衝地中に埋設される複数の袋体2と、この複数の袋体2の圧力をそれぞれ調整可能な圧力調整手段である圧力調整部3と、工事区間側の地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する地盤変位検出手段である第1傾斜計4と、隣接地側の地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する地盤変位検出手段である第2傾斜計5と、第1傾斜計4及び第2傾斜計5の検出状態に基づいて圧力調整部3を制御する制御手段6と、を備えている。
【0023】
図2に示すように、複数の袋体2は、固定治具7で支持されていると共に上下隣接するもの同士が互いに連結されている。また、複数の袋体2は、可撓性で、且つ、体積変化可能な素材で形成され、その内部に図示しない気体(流体)が充填されている。さらに、複数の袋体2は、圧力弁8a付きの各圧力調整管8を介して圧力調整部3にそれぞれ連結されている。尚、複数の袋体2はアンカー等で地盤10に固定しても良い。
【0024】
圧力調整部3は、外設されたコンプレッサ9を有し、このコンプレッサ9によって圧縮された気体を選択的に各袋体2に供給できるようになっている。
【0025】
制御手段6は、第1傾斜計4と第2傾斜計5の検出状態に基づいて圧力調整部3を制御するようになっている。
【0026】
次に、地盤変位抑制装置1の設置手順を説明する。
【0027】
図3(a)に示すように、地盤10の工事区間と隣接地との間の緩衝地に縦穴11を穿設する。次に、図3(b),(c)に示すように、複数の連結された袋体2を縦穴11に順次埋設する。
【0028】
次に、地盤10の緩衝地内であって、その縦穴11の工事区間側と隣接地側に第1傾斜計4及び第2傾斜計5を埋設する。
【0029】
次に、各袋体2に接続され、地盤10上に導き出された圧力調整管8を圧力調整部3に接続し、第1傾斜計4及び第2傾斜計5の配線を制御手段6に接続等すれば、作業が完了する。
【0030】
上記構成において、初期設定では、各袋体2の圧力を地盤10の土水圧より高く設定する。そして、第1傾斜計4及び第2傾斜計5の検出値を常時チェックする。
【0031】
そして、図4に示すように、第1傾斜計4が深度によって異なる地盤変位を検出すると、大きな変位の深度に位置する袋体2の圧力を大きく、当該深度の上下位置に位置する袋体2の圧力を小さく調整する。これにより、袋体2によって堰き止められた大きな変位箇所の地盤10が上下方向に移動して分散(平滑化)される。即ち、袋体2の地盤変位を吸収するエリアを広くできる。これにより、各袋体2が最大変位量に達することが確実に抑制され、地盤10の隣接地への地盤変位の伝達が阻止される。このような第1傾斜計4に基づく制御過程に際して、第2傾斜計5の検出変位をチェックし、地盤変位がある場合には各袋体2の圧力レベルを相対的に低く調整する。このような制御を繰り返し、各袋体2の圧力レベルを相対的に徐々に減少させていく。
【0032】
この地盤変位抑制装置1によれば、深度によって異なる地盤変位に対しても隣接地への伝達を有効に抑制することができる。
【0033】
また、工事区域側の地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する第1傾斜計4と、この第1傾斜計4の検出状態に基づいて圧力調整部3を制御する制御手段6とを備えたことにより、深度によって異なる地盤変位に対してリアルタイムで各袋体2の圧力を調整することができる。即ち、制御手段6の制御により、地盤10の地盤変位に応じて各袋体2内の圧力を調整することができ、地盤10の深度によって異なる地盤変位を確実に吸収(低減)することができる。また、地盤10の縦穴11の崩壊もなく、長期に安定した変位低減穴を造成することができる。
【0034】
さらに、複数の袋体2に気体を充填したことにより、液体に比べて各袋体2内の圧力調整を迅速に行うことができる。尚、各袋体2内に充填するものは流体であれば良く、液体を充填しても良い。この場合には、気体に比べて大きな圧力レベルに設定することができる。
【0035】
また、地盤変位検出手段は、工事区間側の地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する第1傾斜計4の他に、隣接地側の地盤10中の深度毎の地盤変位を検出する第2傾斜計5を有するので、各袋体2の圧力調整による地盤変位の伝達量をフィードバック制御することができ、地盤変位の隣接地への伝達を確実に阻止することができる。
【0036】
尚、前記実施形態では、地盤変位検出手段は、地盤10の傾斜量より地盤変位を求める第1傾斜計4や第2傾斜計5にて構成したが、地盤の変位を検出できるものであれば良いことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態を示し、地盤変位抑制装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、複数の袋体の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、(a)〜(c)はそれぞれ地盤変位抑制装置の設置工程を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、地盤変位の伝達抑制作用を説明する図である。
【図5】従来の地盤変位抑制構造を示す図である。
【図6】他の従来の地盤変位抑制構造を示す図である。
【図7】更に他の従来の地盤変位抑制構造を示す図である。
【図8】深度によって地盤変位量が異なる場合の地盤吸収状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 地盤変位抑制装置
2 袋体
3 圧力調整部
4 第1傾斜計(地盤変位検出手段)
6 制御手段
10 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に可撓性の袋体を設置して該地盤の変位を抑制するようにした地盤変位抑制装置において、
前記地盤中の上下方向に積層状態で埋設され、それぞれ内部に流体が充填された可撓性の複数の袋体と、この複数の袋体の圧力をそれぞれ調整可能な圧力調整手段と、を備えたことを特徴とする地盤変位抑制装置。
【請求項2】
請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、
前記地盤中の深度毎の地盤変位を検出する地盤変位検出手段と、この地盤変位検出手段の検出状態に基づいて前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする地盤変位抑制装置。
【請求項3】
請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、
前記流体は気体であることを特徴とする地盤変位抑制装置。
【請求項4】
請求項1記載の地盤変位抑制装置であって、
前記流体は液体であることを特徴とする地盤変位抑制装置。
【請求項5】
請求項2記載の地盤変位抑制装置であって、
前記制御手段は、前記地盤変位検出手段が地盤変位の大きい箇所を検出すると、地盤変位が大きい深度に位置する前記袋体の圧力を大きく、当該深度の上下に位置する前記袋体の圧力を小さく調整するようにしたことを特徴とする地盤変位抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−132142(P2006−132142A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320677(P2004−320677)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000236610)不動建設株式会社 (136)