説明

地盤改良構造

【課題】地中壁内部の地盤の上下動によるせん断変形を抑えると共に地盤の液状化を抑えることができる地盤改良構造体を得る。
【解決手段】地盤改良構造10は、地盤12を囲む地中壁20と、軟弱地盤18上に配置され軟弱地盤18よりも高い剛性を有し地中壁20の内側を覆う変形抑止板22と、地中壁20の内面と変形抑止板22の隙間を埋める目地部材24と、を有している。ここで、地震時には、鉛直荷重が変形抑止板22を介して軟弱地盤18に伝達されるので、軟弱地盤18上層の有効応力が増加して軟弱地盤18の上下への動きが拘束される。さらに、変形抑止板22によって軟弱地盤18表層の剛性が軟弱地盤18よりも高くなっているので、地震時には、水平力が、変形抑止板22から目地部材24を介して地中壁20へ伝達される。これにより、軟弱地盤18のせん断変形及び液状化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の液状化対策として、地盤中に立設した地中壁の間に斜め方向の壁体を設けたものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1の液状化対策構造は、縦方向に設けられた地中壁の間に筋違状に斜め方向の壁体を設けた構造となっている。これにより、特許文献1の液状化対策構造では、斜め方向の壁体により縦方向の地中壁を支えて変形を抑制している。
【0004】
しかし、特許文献1の液状化対策構造では、地盤の上下方向の動きを抑制する手段が無いので、地震によって地盤の表層部分が上下動したときに、地盤の拘束が不十分となり、液状化が発生することになる。
【0005】
一方、特許文献2の液状化対策構造は、縦方向に設けられた地中壁の間にV字状の壁体を設け、さらに、V字状の壁体で囲まれた地盤の表層に水平方向に広がる表層固化版を設けている。これにより、特許文献2の液状化対策構造では、V字状の壁体により縦方向の地中壁を支えて変形を抑制すると共に、表層固化版によりV字状の壁体で囲まれた地盤の上下動を抑えて拘束力を高めている。
【0006】
しかし、特許文献2の液状化対策構造では、表層固化版が地中壁に剛結されているため、地震時に地盤が僅かでも沈下したり、常時に地盤沈下が生じた場合、表層固化版(及び構造物)による上載荷重が地中壁内側の地盤に作用しなくなり(伝わらなくなり)、地盤に作用する有効応力が低下して、液状化が発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−311638
【特許文献2】特開平9−32004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、地中壁内部の地盤の上下動によるせん断変形を抑えると共に地盤の液状化を抑えることができる地盤改良構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る地盤改良構造は、地盤を囲む地中壁と、地盤上に配置され、地盤よりも高い剛性を有し、前記地中壁の内側を覆う剛性板と、前記地中壁の内面と前記剛性板との間の隙間を塞ぐ目地部材と、を有する。
【0010】
上記構成によれば、地中壁と剛性板との間の隙間に目地部材を設けることで、地中壁と剛性板との間に生じる引張応力や温度膨張差による破損を防止することができる。また、目地部材と地中壁と剛性板とによって門型の変形抑止壁が形成されており、地震時にも、鉛直荷重が剛性板を介して地盤に伝達されるので、地盤上層の有効応力を維持し、門型の変形抑止壁によって地盤の上下への動きが拘束され、拘束された地盤のせん断変形が抑えられる。
【0011】
さらに、剛性板によって地盤表層の剛性が地盤よりも高くなっているので、地震時には、水平力が剛性板から地中壁へ目地部材を介して伝達され、地盤のせん断変形が抑えられる。これにより、地盤の液状化を抑えることができる。
【0012】
本発明の請求項2に係る地盤改良構造は、前記目地部材は、透水性を有する袋体と、前記袋体に詰められた粒状体と、を備える。この構成によれば、目地部材にせん断力が作用したとき、粒状体の充填状態が変化して袋体の体積が膨張する。これにより、剛性板の両端部の動作を拘束して、剛性板の傾きを抑えることができる。さらに、目地部材によって地中壁と剛性板との隙間が塞がれているので、噴砂による地盤の流出を防ぎ、余剰な間隙水圧を消散させることができる。
【0013】
本発明の請求項3に係る地盤改良構造は、前記剛性板に形成された貫通孔に挿通され地盤中に設けられた杭と、前記剛性板の上方で前記杭に固定された受け部材と、前記剛性板と前記受け部材に固定され前記剛性板の上昇時及び下降時に前記剛性板に反力を作用させる弾性体と、を有する。この構成によれば、地震時に剛性板が浮き上がるとき、または沈下するとき、弾性体の反力によって剛性板が元の位置に戻される。これにより、剛性板の変位を抑えることができる。
【0014】
本発明の請求項4に係る地盤改良構造は、前記剛性板が、セメント系の表層改良体である。この構成によれば、剛性板の剛性を高めることができる。
【0015】
本発明の請求項5に係る地盤改良構造は、前記剛性板が、前記地中壁の間に構築された建物の根入れ部と、前記根入れ部の下部に設けられた前記建物の基礎梁とで構成されている。この構成によれば、建物の根入れ部と基礎梁が剛性板となるので、別途剛性板を設ける必要がなくなる。また、建物の自重により地盤の有効応力を増加させることができる。
【0016】
本発明の請求項6に係る地盤改良構造は、前記剛性板が、前記地中壁の間に構築された地中構造物の躯体である。この構成によれば、地中構造物の躯体が剛性板となるので、別途剛性板を設ける必要がなくなる。また、地中構造物とその上部の土の自重により地盤の有効応力を保持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記構成としたので、地中壁内部の地盤の上下動によるせん断変形を抑えると共に地盤の液状化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る地盤改良構造の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る地盤改良構造の目地材周辺の断面図である。
【図3】(a)、(b)本発明の第1実施形態に係る地中壁のみの地盤に地震による慣性力が作用したときの状態を示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る地中壁のみの地盤で地中壁の間隔を変えたときの地盤の液状化状態の変化を示す説明図である。
【図5】(a)地中壁と上載板の間に隙間がある構造における地盤の液状化発生状態を示す模式図である。(b)地中壁と上載板が連結された構造における地盤の液状化発生状態を示す模式図である。
【図6】(a)、(b)本発明の第1実施形態に係る地盤改良構造における目地材の作用を示す断面図である。
【図7】(a)本発明の第2実施形態に係る地盤改良構造の全体構成図である。(b)本発明の第2実施形態に係る地盤改良構造の部分構成図である。
【図8】(a)、(b)本発明の第2実施形態に係る地盤改良構造の受け部材及び弾性体による剛性板の傾斜抑制状態を示す部分断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る地盤改良構造の他の実施例を示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る地盤改良構造の全体構成図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る地盤改良構造の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の地盤改良構造の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1には、地盤12に設けられた地盤改良構造10と、地盤12上に構築された構造物としての建物14が示されている。地盤12は、不透水層としての硬質地盤16と、硬質地盤16の上層にあり液状化する可能性のある軟弱地盤18とで構成されている。
【0020】
地盤改良構造10は、建物14を取り囲んで地盤12中に立設された地中壁20と、地中壁20の内側の軟弱地盤18上(表層)に配置され、軟弱地盤18よりも剛性の高い剛性板としての変形抑止板22と、地中壁20の内面と変形抑止板22との隙間を塞ぐ目地部材24とを有している。
【0021】
地中壁20は、地盤改良体またはRC連続壁からなり、地中壁20の下端部は硬質地盤16に到達している。これにより、地中壁20で囲まれた軟弱地盤18内部の地盤のせん断変形を抑制している。また、変形抑止板22は、セメント系の表層改良体であり、地中壁20と隙間をあけて水平配置されている。なお、変形抑止板22の厚さは、例えば1m〜2mの範囲で選択してもよいが、これに限らず、2mより厚いものであってもよい。
【0022】
図2に示すように、目地部材24は、透水性を有する土嚢袋26と、土嚢袋26内に詰められた砂、礫からなる複数の粒径を有する粒状体28とを備えており、地中壁20の内面20Aと変形抑止板22の側面22A(端面)との隙間に複数詰め込まれることにより、この隙間を塞いでいる。
【0023】
ここで、図1に示すように、地盤改良構造10は、目地部材24によって地中壁20と変形抑止板22が連結状態とされた門型となっており、建物14は、変形抑止板22により軟弱地盤18上に支持されている。なお、本実施形態における目地部材24による地中壁20と変形抑止板22の連結とは、これらをコンクリート等で一体化するような剛結を意味するものではなく、地中壁20と変形抑止板22の隙間を埋めて軟弱地盤18中の土砂を地上へ流出させにくくすると共に、変形抑止板22を地中壁20に対して鉛直方向の相対移動可能に保持することを意味している。
【0024】
次に、本発明の第1実施形態の地盤改良構造10との比較例として、地中壁20のみを設けた場合の地盤12の状態について説明する。
【0025】
図3(a)、(b)には、地中壁20のみを設けた地盤12について、地震による水平方向の慣性力(矢印A、B)が作用したときの地盤12の変位状態を矢印C1、C2、C3、D1、D2、D3で表している。なお、各矢印C1〜C3、D1〜D3の大きさ及び方向は、個別要素法による地盤解析で得られたものである。また、左側の地中壁20を20A、右側の地中壁20を20Bとして区別している。
【0026】
図3(a)に示すように、地震により地盤12に矢印A方向(図3(a)の右方向)の慣性力が作用すると、地中壁20A近傍の軟弱地盤18では、矢印C1方向(図3(a)の右下方向)の変位が生じる。また、地中壁20Aと地中壁20Bの間の中央の軟弱地盤18では、矢印C2方向(図3(a)の水平右方向)の変位が生じる。さらに、地中壁20B近傍の軟弱地盤18では、矢印C3方向(図3(a)の右上方向)の変位が生じる。
【0027】
同様にして、図3(b)に示すように、地震によって地盤12に矢印B方向(図3(b)の左方向)の慣性力が作用すると、地中壁20A近傍の軟弱地盤18では、矢印D1方向(図3(b)の左上方向)の変位が生じる。また、地中壁20Aと地中壁20Bの間の中央の軟弱地盤18では、矢印D2方向(図3(b)の水平左方向)の変位が生じる。さらに、地中壁20B近傍の軟弱地盤18では、矢印D3方向(図3(b)の左下方向)の変位が生じる。
【0028】
図3(a)、(b)に示すように、地中壁20Aと地中壁20Bで囲まれた軟弱地盤18において、地震により生じる変位量は、地中に比べて表層の方が大きくなっている。これにより、地中壁20A、20Bの近傍で表層の軟弱地盤18の剛性は地中に比べて低下することになり、特に破線で囲んだ領域Sが剛性低下領域となる。このように、地中壁20Aと地中壁20Bを設けたのみの構造では、特に表層において軟弱地盤18の剛性が低下するが、地中壁20Aと地中壁20Bの間の軟弱地盤18を拘束する手段が無いため、軟弱地盤18の液状化を防ぐことは難しい。
【0029】
次に、地盤12に地中壁20のみを設けた構造において、地中壁20の間隔を広げたときの液状化の発生状態の差について説明する。
【0030】
図4には、地中壁20の間隔をW1、W2、W3(W1<W2<W3)と変えたときの個別要素法による軟弱地盤18の液状化解析結果が示されている。なお、図4において、網がけされた領域Lが、過剰間隙水圧が高く液状化状態となっていることを表している。
【0031】
図4に示すように、地中壁20の間隔がW1、W2、W3と大きくなるにつれて、軟弱地盤18の表層において、液状化領域Lが拡大することが分かる。これは、地中壁20の間隔が広がると、地震のときに軟弱地盤18の表層部での変位が大きくなって、軟弱地盤18を拘束する効果が弱まり、結果として軟弱地盤18の表層で液状化状態が発生することを表している。
【0032】
次に、軟弱地盤18上に上載板を載せたときの軟弱地盤18の液状化状態について説明する。
【0033】
図5(a)には、地中壁20の間の軟弱地盤18上に地中壁20と隙間dをあけ、10kN/mの上載板32を載置した状態で、地震が発生したときの軟弱地盤18の液状化領域Lの分布状態の解析結果が示されている。なお、解析は有限要素法によるものであり、過剰間隙水圧比が高い領域を液状化領域Lとしている。
【0034】
図5(a)に示すように、地中壁20と上載板32が連結されていない状態では、地震による上載板32の上下動が拘束されず、さらに隙間dから土砂が流出する。このため、軟弱地盤18が拘束できず、表層の広い範囲で液状化が発生することになる。
【0035】
一方、図5(b)には、地中壁20の間の軟弱地盤18上に地中壁20と隙間をあけずに10kN/mの上載板34を載置し連結した状態で、地震が発生したときの軟弱地盤18の液状化領域Lの分布状態の解析結果が示されている。
【0036】
図5(b)に示すように、地中壁20と上載板34が連結されている状態では、地震による上載板34の上下動を拘束でき、さらに、土砂の流出も防ぐことができる。このため、軟弱地盤18を拘束して、液状化の発生領域を地中壁20近傍の一部にとどめることができる。
【0037】
ここで、図3〜図5で説明したように、地中壁20の間の軟弱地盤18上に上載板34に相当するものを設け、さらに地中壁20と連結させることにより液状化が抑えられる。このため、本実施形態の地盤改良構造10(図1参照)では、地中壁20と変形抑止板22とを目地部材24を介して連結させた構造としている。
【0038】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
【0039】
図6(a)、(b)に示すように、地震により地中壁20内の軟弱地盤18が上下動して、変形抑止板22に矢印F1方向(下方向)、矢印F2方向(上方向)の力が作用したとき、目地部材24は、複数の粒状体28(図2参照)のせん断変形によって粒状体28の充填状態が変化し、土嚢袋26の体積が膨張する。これにより、変形抑止板22の動きを拘束することができる。
【0040】
また、目地部材24は透水性を有しているため、軟弱地盤18内の水(地下水)の一部が目地部材24を透過して地上へ排水される。これにより、軟弱地盤18の余剰な過剰間隙水圧が消散され、液状化が抑えられる。
【0041】
ここで、一般の改良地盤では、地中壁と表層改良との接合部において引張強度が低いため、接合部で損傷が生じて地盤の変形抑止効果が低下してしまうが、本実施形態の地盤改良構造10では、変形可能な目地部材24を用いることで、地中壁20と変形抑止板22との間に生じる引張応力や温度膨張差があったとしても、損傷を防止できる。
【0042】
また、変形抑止板22の端部が地中壁20に対してロック状態となることで、変形抑止板22の両端部の上下動及び傾きが抑えられると共に、地中壁20に曲げモーメントの伝達が可能となる。これにより、地中壁20と変形抑止板22が目地部材24を介して一体化され、門型の変形抑止壁となり、地盤改良構造10の全体剛性が増大して、地中壁20内部の軟弱地盤18の水平方向及び上下方向のせん断変形を抑止することができる。
【0043】
さらに、地盤改良構造10では、変形抑止板22によって軟弱地盤18の表層の剛性が高められているので、地中壁20内部の軟弱地盤18の水平方向及び上下方向のせん断変形をより効果的に抑止することができる。
【0044】
本実施形態における地盤改良構造10では、地中壁20と変形抑止板22が目地部材24で連結されているため、地震による変形抑止板22の上下動を拘束でき、土砂の流出も防ぐことができる。これにより、地盤改良構造10では、軟弱地盤18が拘束され液状化の発生領域を地中壁20近傍の一部にとどめることができる。さらに、地盤改良構造10では、地中壁20の配置間隔が広くなっても、変形抑止板22及び目地部材24によって、液状化を防止することができる。
【0045】
以上説明したように、地盤改良構造10は、軟弱地盤18の表層に設置した剛性の高い変形抑止板22と地中壁20を剛結せず、目地部材24を介して連結することで、地中壁20に鉛直荷重を伝達すると共に、地中壁20内側の軟弱地盤18の有効応力が減少することを防いでいる。
【0046】
また、地盤改良構造10は、地中壁20近傍の変形抑止板22端部の上下動を抑止する機能を持たせることで、より効果的な液状化対策が可能となっている。なお、上載荷重による水平力は地中壁20に負担されるため、地中壁20内側の軟弱地盤18内に伝達されない。
【0047】
次に、本発明の地盤改良構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0048】
図7(a)、(b)には、地盤改良構造40が示されている。地盤改良構造40は、第1実施形態の地盤改良構造10(図1参照)の変形抑止板22に換えて、変形抑止板41を設け、さらに、杭材42、受部材44、及び反力板46を設けた構成となっている。なお、地中壁20の内面と変形抑止板41の側面(端面)との隙間には、目地部材24が複数詰め込まれて隙間を塞いでいる。
【0049】
変形抑止板41は、軟弱地盤18よりも剛性の高いセメント系の表層改良体であり、地中壁20と隙間をあけて水平配置されている。また、変形抑止板41の両端部には、地上から軟弱地盤18に向けて貫通孔41Aが形成されている。なお、変形抑止板41の厚さは、例えば1m〜2mの範囲で選択してもよいが、これに限らず、2mより厚いものであってもよい。
【0050】
杭材42は、変形抑止板41の貫通孔41Aの孔径よりも小さい直径の円柱状部材であり、貫通孔41Aに挿通され、下端部が硬質地盤16に到達した状態で地盤12中に設けられている。また、杭材42の上端側には、後述する固定ボルト56を固定するための螺号溝(図示省略)が形成されている。なお、貫通孔41Aの内面と杭材42の外周面との隙間は、摩擦低減部47とされている。
【0051】
摩擦低減部47は、杭材42の軸方向に変形抑止板41が移動しようとするときに、変形抑止板41に作用する摩擦力を低く抑えるための部位であり、ここでは、貫通孔41Aに何も充填せずに隙間をあけた構成としている。なお、摩擦低減部47は、変形抑止板41と杭材42の摩擦係数を下げるものであればよく。例えば、2重管のように、杭材42の外側に管が通っているものであってもよい。
【0052】
受部材44は、杭材42の径よりも大きい径の貫通孔(図示省略)が形成され杭材42に外挿されたワッシャ52と、杭材42に外挿されると共にワッシャ52の上面に一端が取り付けられたスプリング54と、杭材42の上端側の螺号溝(図示省略)に締結固定され、下面にスプリング54の他端が取り付けられた固定ボルト56とで構成されている。
【0053】
反力板46は、ゴム等の弾性体からなり、変形抑止板41の上面とワッシャ52の下面に固定され、変形抑止板41の上昇時及び下降時に変形抑止板41に反力を作用させるようになっている。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。なお、変形抑止板41の上下動は両端部で同様であるため、ここでは一方の端部のみについて説明し、他方の端部の説明は省略する。
【0055】
図8(a)に示すように、地震時に変形抑止板41が下方向に高さh1で変位したとき、反力板46及びワッシャ52は、変形抑止板41と一体となって下方向に変位する。このとき、ワッシャ52の移動に伴ってスプリング54が伸張するため、ワッシャ52の下方の移動は邪魔されず、変形抑止板41と軟弱地盤18は密着した状態が保持される。これにより、軟弱地盤18に作用する有効応力の減少を抑えることができる。
【0056】
また、変形抑止板41が下方向にさらに変位しスプリング54が伸張してくると、ワッシャ52の下方向の変位が規制される。そして、反力板46には下方向への引張力が作用するが、反力板46は元の状態に戻ろうとして変形抑止板41を上方へ引き上げる。これにより、変形抑止板41の下方向への過大な変位が生じるのを抑えている。
【0057】
一方、図8(b)に示すように、地震時に変形抑止板41が上方向に高さh2で変位したとき、反力板46及びワッシャ52は、変形抑止板41と一体となって上方向に変位する。このとき、ワッシャ52の移動に伴ってスプリング54が収縮するが、スプリング54が元の状態に戻ろうとしてワッシャ52及び反力板46を下方向へ付勢する。これにより、変形抑止板41が下方へ押し下げられ、変形抑止板41の上方向への過大な変位が生じるのを抑えている。
【0058】
このように、杭材42、受部材44、及び反力板46を設けることにより、仮に変形抑止板41の厚さを十分厚くすることができない場合でも、沈下に追随でき、さらに、上向きの鉛直動に抵抗できる。
【0059】
ここで、図8(a)、(b)いずれの場合においても、目地部材24の体積膨張によって、変形抑止板41の端部が地中壁20に連結した状態となる。これにより、通常時及び地震時に、変形抑止板41に作用する鉛直荷重が地中壁20内の軟弱地盤18に確実に伝達され、軟弱地盤18に作用する有効応力の減少を抑えることができる。そして、地震時に作用する水平力を変形抑止板41から地中壁20に流すことができる。
【0060】
また、変形抑止板41の端部が地中壁20に対してロック状態となることで、変形抑止板41の両端部の上下動及び傾きが抑えられると共に、地中壁20に曲げモーメントの伝達が可能となる。これにより、地中壁20と変形抑止板41が目地部材24を介して一体化され、門型の変形抑止壁となり、地盤改良構造40の全体剛性が増大して、地中壁20内部の軟弱地盤18の水平方向及び上下方向のせん断変形を抑止すると共に、液状化を抑えることができる。
【0061】
なお、受部材44をワッシャ52、スプリング54、及び固定ボルト56で構成せずに、図9に示すように、固定ボルト58のみからなる受部材としてもよい。この構成では、変形抑止板41が下方向へ変位したときには、反力板46が元の状態に戻ろうとして収縮し、変形抑止板41を上方へ引き上げる。一方、変形抑止板41が上方向へ変位したときには、反力板46が元の状態に戻ろうとして膨張し、変形抑止板41を下方へ引き下げる。
【0062】
次に、本発明の地盤改良構造の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0063】
図10には、地盤改良構造60が示されている。地盤改良構造60は、第1実施形態の建物14及び変形抑止板22に換えて、根入れ部64Aを有する建物64と根入れ部64Aの下部に設けられた建物64の基礎梁65とを設け、さらに、目地部材24に換えて、目地部材62を設けた構成となっている。なお、根入れ部64A及び基礎梁65は、軟弱地盤18よりも剛性の高いものとする。
【0064】
目地部材62は、目地部材24と同様に、透水性を有する土嚢袋26及び粒状体28(図2参照)を備えており、地中壁20の内面と、根入れ部64Aの側面及び基礎梁65との隙間に複数詰め込まれることにより、この隙間を塞いでいる。
【0065】
地盤改良構造60は、目地部材62によって、地中壁20と根入れ部64A及び基礎梁65とが連結状態とされた門型となっている。なお、目地部材62による地中壁20と根入れ部64A及び基礎梁65との連結とは、これらをコンクリート等で一体化するような剛結を意味するものではなく、地中壁20と根入れ部64A及び基礎梁65との隙間を埋めて、軟弱地盤18中の土砂を地上へ流出させにくくすると共に、根入れ部64A及び基礎梁65を地中壁20に対して相対移動可能に保持することを意味している。
【0066】
次に、本発明の第3実施形態の作用について説明する。
【0067】
地震により地中壁20内の軟弱地盤18が上下動して、建物64の根入れ部64A及び基礎梁65に上下方向の力が作用したとき、目地部材62は体積が膨張する。これにより、根入れ部64A及び基礎梁65と地中壁20の隙間が塞がれ、局所的に液状化した軟弱地盤18の噴砂による流出を防ぐことができる。
【0068】
また、目地部材62は透水性を有しているため、軟弱地盤18内の水(地下水)の一部が目地部材62を透過して地上へ排水される。これにより、軟弱地盤18の余剰な過剰間隙水圧が消散され、液状化が抑えられる。
【0069】
さらに、目地部材62は、体積膨張によって、根入れ部64A及び基礎梁65の端部を地中壁20に連結した状態(ロック状態)にさせる。これにより、地震時に作用する水平力を根入れ部64A及び基礎梁65から地中壁20に流すことができる。そして、通常時及び地震時に、根入れ部64A及び基礎梁65に作用する鉛直荷重が地中壁20内の軟弱地盤18に確実に伝達され、軟弱地盤18に作用する有効応力の減少を抑えることができる。
【0070】
また、根入れ部64A及び基礎梁65の端部が地中壁20に対してロック状態となることで、根入れ部64A及び基礎梁65の両端部の上下動及び傾きが抑えられると共に、地中壁20に曲げモーメントの伝達が可能となる。これにより、地中壁20と根入れ部64A及び基礎梁65が目地部材24を介して一体化され、門型の変形抑止壁となり、地盤改良構造60の全体剛性が増大して、地中壁20内部の軟弱地盤18の水平方向及び上下方向のせん断変形を抑止すると共に、液状化を抑えることができる。
【0071】
さらに、建物64の根入れ部64Aと基礎梁65が変形抑止板として機能するので、別途、変形抑止板を設ける必要がなくなる。また、建物64の自重により軟弱地盤18の有効応力を増加させることができる。
【0072】
また、既存建物の液状化対策では、建物の直下を対策することが技術的及びコスト的に困難であったが、地盤改良構造60では、建物64の外周部に地中壁20を設置し、目地部材62を用いて根入れ部64A及び基礎梁65と地中壁20とを連結することで、建物64直下の軟弱地盤18の液状化を防止することができる。
【0073】
次に、本発明の地盤改良構造の第4実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0074】
図11には、地盤改良構造70が示されている。地盤改良構造70は、第1実施形態の建物14及び変形抑止板22に換えて、地中構造物の躯体72を設け、さらに、目地部材24に換えて、目地部材74を設けた構成となっている。
【0075】
地中構造物の躯体72は、共同溝や掘割道路(水路)の地中構造物の躯体であり、軟弱地盤18よりも剛性の高い構造体とされている。また、躯体72の高さは5m程度であり、軟弱地盤18の一部である軟弱地盤18Aにより支持されている。また、躯体72の上部は、埋め戻しの土砂によって軟弱地盤18Bが形成されている。
【0076】
目地部材74は、目地部材24と同様に、透水性を有する土嚢袋26及び粒状体28(図2参照)を備えており、地中壁20の内面と躯体72との隙間に複数詰め込まれることにより、この隙間を塞いでいる。
【0077】
また、地盤改良構造70は、目地部材74によって、地中壁20と躯体72とが連結状態とされた門型となっている。なお、目地部材62による地中壁20と躯体72との連結とは、これらをコンクリート等で一体化するような剛結を意味するものではなく、地中壁20と躯体72との隙間を埋めて、軟弱地盤18A中の土砂を軟弱地盤18B及び地上へ流出させにくくすると共に、躯体72を地中壁20に対して鉛直方向の相対移動可能に保持することを意味している。
【0078】
次に、本発明の第4実施形態の作用について説明する。
【0079】
地震により地中壁20内の軟弱地盤18(18A、18B含む)が上下動して、地中構造物の躯体72に上下方向の力が作用したとき、目地部材74は体積が膨張する。これにより、躯体72と地中壁20の隙間が塞がれ、局所的に液状化した軟弱地盤18の噴砂による流出を防ぐことができる。
【0080】
また、目地部材74は透水性を有しているため、軟弱地盤18A内の水(地下水)の一部が目地部材74を透過して軟弱地盤18B及び地上へ排水される。これにより、軟弱地盤18Aの余剰な過剰間隙水圧が消散され、液状化が抑えられる。
【0081】
さらに、目地部材74は、体積膨張によって、躯体72の端部を地中壁20に連結した状態(ロック状態)にさせる。これにより、地震時に作用する水平力を躯体72から地中壁20に流すことができる。そして、通常時及び地震時に、躯体72に作用する鉛直荷重が地中壁20内の軟弱地盤18Aに確実に伝達され、軟弱地盤18Aに作用する有効応力の減少を抑えることができる。
【0082】
また、躯体72の端部が地中壁20に対してロック状態となることで、躯体72の両端部の上下動及び傾きが抑えられると共に、地中壁20に曲げモーメントの伝達が可能となる。これにより、地中壁20と躯体72が目地部材74を介して一体化され、門型の変形抑止壁となり、地盤改良構造70の全体剛性が増大して、地中壁20内部の軟弱地盤18Aの水平方向及び上下方向のせん断変形を抑止すると共に液状化を抑えることができる。
【0083】
さらに、地中構造物の躯体72が変形抑止板として機能するので、別途、変形抑止板を設ける必要がなくなる。また、躯体72の自重により軟弱地盤18Aの有効応力を増加させることができる。
【0084】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されない。
【0085】
目地部材24、62、74は、膨張又は収縮が可能で、透水性を有し、且つ土砂を流出させないものが利用でき、例えば、スポンジ状の弾性を有する多孔質体であってもよい。
【0086】
地盤12中に設置する地中壁は、軟弱地盤18の水平方向のせん断変形を抑止できるものであればよく、格子状地盤改良体の他に、柱状地盤改良体、矢板、鋼管矢板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10 地盤改良構造
12 地盤
20 地中壁
22 変形抑止板(剛性板)
24 目地部材(目地部材)
26 土嚢袋(袋体)
28 粒状体
40 地盤改良構造
41A 貫通孔
42 杭材(杭)
44 受部材(受け部材)
46 反力板(弾性体)
60 地盤改良構造
64 建物
64A 根入れ部
65 基礎梁
70 地盤改良構造
72 躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を囲む地中壁と、
地盤上に配置され、地盤よりも高い剛性を有し、前記地中壁の内側を覆う剛性板と、
前記地中壁の内面と前記剛性板との間の隙間を塞ぐ目地部材と、
を有する地盤改良構造。
【請求項2】
前記目地部材は、透水性を有する袋体と、前記袋体に詰められた粒状体と、を備える請求項1に記載の地盤改良構造。
【請求項3】
前記剛性板に形成された貫通孔に挿通され地盤中に設けられた杭と、
前記剛性板の上方で前記杭に固定された受け部材と、
前記剛性板と前記受け部材に固定され前記剛性板の上昇時及び下降時に前記剛性板に反力を作用させる弾性体と、
を有する請求項1又は請求項2に記載の地盤改良構造。
【請求項4】
前記剛性板が、セメント系の表層改良体である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地盤改良構造。
【請求項5】
前記剛性板が、前記地中壁の間に構築された建物の根入れ部と、前記根入れ部の下部に設けられた前記建物の基礎梁とで構成されている請求項1又は請求項2に記載の地盤改良構造。
【請求項6】
前記剛性板が、前記地中壁の間に構築された地中構造物の躯体である請求項1又は請求項2に記載の地盤改良構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−216107(P2010−216107A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61801(P2009−61801)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】