説明

地盤注入用固結材の製造方法

【課題】白濁や部分ゲルの発生が抑制され、所望のpHを有する均質な地盤注入用固結材を精度良く調製するための製造方法を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、及び酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を混合する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておき、
(2)前記地盤注入用固結材を調製する容器に、先ず前記水を供給開始した後、前記酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で供給開始する、
ことを特徴とする地盤注入用固結材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の液状化防止注入工事に有用なコロイダルシリカ、珪酸ソーダ及び酸を含有する地盤注入用固結材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コロイダルシリカ及び珪酸ソーダを含有する地盤注入用固結材は知られている。例えば、特許文献1の請求項1には、「コロイダルシリカと、水ガラス(珪酸ソーダ)とを含み、地盤への注入前にはそれ自体でゲル化しないアルカリ性シリカ溶液からなる地盤注入用固結材。」が記載されている。
【0003】
上記特許文献1には、コロイダルシリカと水ガラスの混合物(アルカリ性シリカ溶液)に反応剤として硫酸、リン酸、塩化アルミニウム等を添加できることが記載されている。この点について、特許文献1の[0029]段落には、「例えば、アルカリ性シリカ溶液に酸性反応剤を添加して該溶液を酸性〜中性領域に調整して所定のゲル化時間を有するグラウトとすることができる。」と記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、アルカリ性シリカ溶液を調製後に酸等の反応剤を添加する場合には、得られる地盤注入用固結材が白濁し易く、また部分ゲルと称呼される副生物が生じ易いという問題がある。得られる地盤注入用固結材が白濁したり部分ゲルが生じたりする場合には、地盤注入用固結材の均質性が十分ではなく、液状化防止注入工事に適用した際に注入全領域において十分な効果が得られない場合がある。また、従来の製造方法では水を単独成分として取扱っておらず、コロイダルシリカ、水ガラス及び酸の希釈に予め使われており、有効成分を精度良く計量することが困難な場合がある。特に酸の計量精度が悪い場合には、得られる地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し難く、所望のゲルタイムに調整することが困難となる。
【0005】
従って、白濁や部分ゲルの発生が抑制され、所望のpHを有する均質な地盤注入用固結材を精度良く調製するための製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−3047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白濁や部分ゲルの発生が抑制され、所望のpHを有する均質な地盤注入用固結材を精度良く調製するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、各原料を特定の順序で混合する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の地盤注入用固結材の製造方法に関する。
1.コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、及び酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を混合する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておき、
(2)前記地盤注入用固結材を調製する容器に、先ず前記水を供給開始した後、前記酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で供給開始する、
ことを特徴とする地盤注入用固結材の製造方法。
2.前記コロイダルシリカは、SiOの平均粒子径が3〜30nmであり、且つ、SiO濃度が5〜30質量%である、上記項1に記載の製造方法。
3.前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3〜5であり、且つ、SiO濃度が3〜15質量%である、上記項1又は2に記載の製造方法。
4.前記コロイダルシリカと前記珪酸ソーダの割合は、SiOの質量比に換算して10:90〜90:10である、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記酸は、硫酸及び/又はリン酸である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記地盤注入用固結材は、pHが1〜5の範囲でありSiO濃度が3〜15質量%の範囲である、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【0010】
以下、本発明の地盤注入用固結材の製造方法について詳細に説明する。
【0011】
本発明の地盤注入用固結材の製造方法は、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、及び酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を混合する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておき、
(2)前記地盤注入用固結材を調製する容器に、先ず前記水を供給開始した後、前記酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で供給開始する、
ことを特徴とする地盤注入用固結材の製造方法。
【0012】
上記特徴を有する本発明の製造方法は、酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量するため、酸原液及び水の計量精度が高く、地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し易い。よって、所望のゲルタイムを有する地盤注入用固結材を精度良く調製することができる。また、水及び酸原液を順に供給開始し、その後に残りの成分を順不同で供給開始するため、白濁及び部分ゲルの発生を抑制して地盤注入用固結材を調製することができる。
【0013】
この製造方法により得られる地盤注入用固結材は、pHを含めて均質性が高く、地盤の液状化防止注入工事に適用した際に注入全領域において十分な効果が得られる。
【0014】
上記コロイダルシリカは、コロイド状の性状を示し、それ単独では半永久的にゲル化しない安定な物質である。コロイダルシリカとしては、市販品やそれに水を加えて希釈した希釈溶液を使用できる。
【0015】
コロイダルシリカに含まれるシリカ(SiO)の平均粒子径としては、3〜30nm程度が好ましく、4〜15nm程度がより好ましい。なお、本明細書に記載の平均粒子径は窒素吸着によるBET法(但しBET法で測定困難な微粒子については動的光散乱法)により測定した値である。
【0016】
コロイダルシリカに含まれるシリカ濃度としては、5〜30質量%程度が好ましい。
【0017】
このようなコロイダルシリカは調製することもできる。例えば、珪酸ソーダの水希釈液をイオン交換により脱アルカリ処理し、次いで得られた活性珪酸にアルカリ剤を添加してpHを調整するとともに加熱により造粒することにより調製する。
【0018】
上記珪酸ソーダとしても、市販品やそれに水を加えて希釈した希釈溶液を使用できる。
【0019】
珪酸ソーダのモル比(SiO/NaO)は限定されないが、3〜5程度が好ましく、汎用の珪酸ソーダが使えるため、3.1〜3.8程度がより好ましい。
【0020】
珪酸ソーダに含まれるシリカ濃度としては、3〜15質量%程度が好ましい。
【0021】
上記コロイダルシリカと珪酸ソーダの割合(混合割合)は限定されないが、SiOの質量比に換算して10:90〜90:10程度が好ましく、20:80〜60:40程度がより好ましい。
【0022】
上記酸としては限定されないが、硫酸及び/又はリン酸が好ましい。これらの酸は複数種類を混合して使用することもできる。本発明における酸原液としては、酸濃度が50〜80質量%の酸原液が使用でき、市販品をそのまま使用できる。酸原液の量は、地盤注入用固結材の所望のゲルタイム(即ちpH)に応じて設定する。
【0023】
本発明では、地盤注入用固結材を製造するに際し、酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を用いるが、前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておく。予め別々に計量しておくことにより、酸原液及び水の計量精度が高く、地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し易い。よって、所望のゲルタイムを有する地盤注入用固結材を精度良く調製することができる。他方、予め別々に計量せずに酸原液及び水を同一容器に混合して合算量で計量すると、酸水溶液中の酸の濃度を一定に調整し難く、pHを均一に調整し難い。
【0024】
また、本発明では、先ず水を調製容器に供給開始した後、酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で調製容器に供給開始する。
【0025】
つまり、各成分の供給順序は次の通りである。
(A)水 → 酸原液 → コロイダルシリカ → 珪酸ソーダ、又は
(B)水 → 酸原液 → 珪酸ソーダ → コロイダルシリカ。
【0026】
水を供給開始した後、水の供給が完了した後に酸原液を供給開始してもよく、又は水の供給途中において酸原液を供給開始してもよい。残りの成分についても、酸原液の供給が完了した後に供給開始してもよく、又は酸原料の供給途中において供給開始してもよい。なお、効率的に各成分を混合するとともに酸原液の供給による調製容器の腐食等の発生を効果的に抑制するためには、水を50質量%以上供給した後に酸原液及び残りの成分を順に供給開始することが好ましく、単独成分としての水の量は、地盤注入用固結材に含まれる水の全量の5〜25質量%であることが好ましい。
【0027】
水の供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、20〜1000L/min程度が好ましく、50〜500L/min程度がより好ましい。
【0028】
酸原液の供給速度は限定されないが、5〜200L/min程度が好ましく、10〜100L/min程度がより好ましい。
【0029】
コロイダルシリカの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、50〜1500L/min程度が好ましく、100〜1000L/min程度がより好ましい。
【0030】
珪酸ソーダの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、50〜1500L/min程度が好ましく、100〜1000L/min程度がより好ましい。
【0031】
上記供給速度で各成分を供給することにより、更に白濁及び部分ゲルの発生を抑制することができる。
【0032】
上記成分を供給・混合することにより地盤注入用固結材は得られる。地盤注入用固結材は白濁及び部分ゲルの発生が抑制されており均質性が高い。なお、白濁及び部分ゲルの発生の有無は目視観察による結果である。得られる地盤注入用固結材は、pHが1〜5程度が好ましく、pHが2〜4程度がより好ましい。また、地盤注入用固結材の好ましいシリカ濃度は3〜15質量%程度であり、4〜12質量%程度がより好ましい。シリカ濃度をこの範囲に設定することにより、液状化防止注入工事に適用した際にゲル強度を十分に確保できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法は、酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量するため、酸原液及び水の計量精度が高く、地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し易い。よって、所望のゲルタイムを有する地盤注入用固結材を精度良く調製することができる。また、水及び酸原液を順に供給開始し、その後に残りの成分を順不同で供給開始するため、白濁及び部分ゲルの発生を抑制して地盤注入用固結材を調製することができる。
【0034】
この製造方法により得られる地盤注入用固結材は、pHを含めて均質性が高く、地盤の液状化防止注入工事に適用した際に注入全領域において十分な効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0036】
実施例1〜4及び比較例1〜2
コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、硫酸(酸原料)及び水を混合して地盤注入用固結材を調製した。実施例1〜4では、硫酸及び水を予め別々の容器で計量した。これに対して、比較例1〜2では、硫酸及び水を同一容器に順次注ぎ足して合算量で計量した。
【0037】
地盤注入用固結材は、シリカ濃度10質量%、全量500kg、シリカ中のコロイダルシリカ由来のシリカ分25又は50質量%、シリカ中の珪酸ソーダ由来のシリカ分50又は75質量%となるように設定した。
【0038】
各成分の詳細、供給順序、固結材の性状、pHを表1に示す。
【0039】
実施例1〜4では、先ず水を供給開始し、次に硫酸を供給開始した後に、残りの成分を供給開始することにより、良好な混合液(部分ゲルや白濁が認められない)が得られた。詳細には、水を約50%供給した時点で硫酸の供給を開始し、残りの成分をそれぞれ数秒の間隔を開けて順次供給を開始した。
【0040】
これに対し、硫酸及び水を予め別々の容器で計量しない比較例1〜2では、硫酸及び水の計量精度が不十分であり、所望のpHが得られないばかりか、部分ゲルの生成も認められた。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、及び酸濃度が4〜35質量%の酸水溶液を混合する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50〜80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておき、
(2)前記地盤注入用固結材を調製する容器に、先ず前記水を供給開始した後、前記酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で供給開始する、
ことを特徴とする地盤注入用固結材の製造方法。
【請求項2】
前記コロイダルシリカは、SiOの平均粒子径が3〜30nmであり、且つ、SiO濃度が5〜30質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3〜5であり、且つ、SiO濃度が3〜15質量%である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コロイダルシリカと前記珪酸ソーダの割合は、SiOの質量比に換算して10:90〜90:10である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸は、硫酸及び/又はリン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記地盤注入用固結材は、pHが1〜5の範囲でありSiO濃度が3〜15質量%の範囲である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−241305(P2011−241305A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114948(P2010−114948)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】