説明

坐 剤

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、坐剤に関し、更に詳しくは軽質無水ケイ酸を添加することによりカルボキシビニルポリマーの分散状態を良好にした坐剤に関する。
[従来の技術]
カルボキシビニルポリマーを坐剤に配合することは特開昭59−163310号公報により知られている。これによれば炭素数8〜10の脂肪酸およびそれらの塩との併用により薬物の直腸からの吸収を改善できるとしている。
[発明が解決しようとする問題点]
痔の治療に用いる坐剤は挿入部に留まっていることが望ましいが、通常の坐剤は、例えば、油脂性の坐剤の場合、体温で10〜20分程度で溶融して拡散してしまい、坐剤中の薬効成分が挿入部、即ち痔の患部から移動してしまうことが多い。
カルボキシビニルポリマーを坐剤に配合すると、直腸中の水分を吸収し、坐剤自体を膨潤させ、挿入部位に長時間留まることが、予想された。しかし、脂肪酸グリセライドを主成分とする基剤中にカルボキシビニルポリマーを配合する場合、カルボキシビニルポリマーは親水性が強く、脂肪酸グリセライドは疎水性であるため、カルボキシビニルポリマーが特に凝集し易い状態になっている。
そのため、カルボキシビニルポリマーが凝集し、当然、薬物の分散性にも影響して、坐剤中の薬物の濃度にむらが生じ、薬物の放出性、吸収性にもばらつきを生じていた。
更に、充填時においては、薬物の分散性を保持するために、溶融した坐剤をその凝固点付近まで冷却する必要があった。しかし、脂肪酸グリセライドを主成分とする基剤中にカルボキシビニルポリマーを配合する場合、カルボキシビニルポリマーが、製造時、充填機のピストンとシリンダー間で凝集し易いため充填量がばらついたり、坐剤中に一定量の薬物を充填することができなくなってしまっていた。
[問題点を解決するための手段]
本発明者らは、前記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、脂肪酸グリセライドを主成分とする基剤中にカルボキシビニルポリマーおよび軽質無水ケイ酸を添加することにより坐剤中の配合成分の分散性がよくなる上に、坐剤製造の際に充填のばらつきが少なくなることを見出し、この知見に基き本発明を完成するに至った。
本発明においては、カルボキシビニルポリマーの含有量は、1〜10重量%であることが好ましい。これはカルボキシビニルポリマーの含有量が1重量%より少ないと坐剤が挿入部位に留まらないし、10重量%より多いと坐剤の製造が困難になるためである。
カルボキシビニルポリマーを坐剤中に良好な分散状態で配合させるために、脂肪酸グリセライドを主成分とする基剤をカルボキシビニルポリマーが潤滑しない程度に親水性にすることが好ましい。そのためには前記脂肪酸グリセリドは水酸基価が20〜70であることが好ましく、特に40〜60のものが好ましい。その量は50〜95重量%であることが好ましく、更に、70〜80重量%であることが特に好ましい。この範囲を超すといずれの場合もカルボキシビニルポリマーが凝集しやすくなる。
この脂肪酸グリセライドとしては、例えば、ウイテップゾルE76,ウィテップゾルW35,(いずれもダイナマイトノーベル社製)ファーマゾルN−145,ファーマゾルT−115(いずれも日本油脂(株)社製),イソカカオMO−5,イソカカオMH−35(いずれも花王石鹸(株)社製)などが挙げられ、これらの一種または二種以上を混合して使用できる。
更に、軽質無水ケイ酸の添加量は0.5〜2重量%であることが好ましい。軽質無水ケイ酸の添加量が2重量%を超えると、薬物の放出性が抑制されたり、粘度が高くなり充填が困難となる。また、添加量が、逆に0.5重量%より低いと薬物の分散状態が悪くなる。
本発明の薬物とは、通常坐剤に供せられるものであれば特に限定する必要はないが、酢酸ヒドロコルチゾン、塩化リゾチームなどの抗炎症剤が本発明の目的から考えて好ましい。
本発明の坐剤は、脂肪酸グリセライド,軽質無水ケイ酸、カルボキシビニルポリマーおよび薬物などを通常の方法で混合、成形することにより製造することができるが、例えば、脂肪酸グリセライドを50〜60℃で加温溶融させた後、軽質無水ケイ酸、薬物およびカルボキシビニルポリマーを添加混合し、この混合を、35〜50℃で坐剤コンテナーに充填すると、充填作業が効率良く行なわれる。
[発明の効果]
本発明により、配合成分の分散性や作業性などが良好で挿入部位に留まり易い坐剤を提供できる。
[実施例]
以下、実施例および試験例を挙げて本発明を具体的に説明する。
実施例1 下記の処方のB成分を加温(50〜60℃)溶融させた後、A成分を添加しよく混合した。次いで、この混合物を約40℃に冷却跡、坐剤コンテナーに充填し、さらに冷却して成型し、坐剤を得た。
(処方)
A成分:酢酸ヒドロコルチゾン 5gアラントイン 10g塩酸ジフェンヒドラミン 10g軽質無水ケイ酸 30gカルボキシビニルポリマー 30gB成分:ウィテップゾルE85 300gウィテップゾルW35 1265g 計1650g実施例2 実施例1と同様にして坐剤を得た。
(処方)
A成分:塩化リゾチーム 30 gグリチルレチン酸 17.5g塩酸クロルヘキシジン 5 g軽質無水ケイ酸 15 gカルボキシビニルポリマー 150 gB成分ファーマゾールA−105 250 gファーマゾールB−115 1182.5g 計1650 g試験例1[検体]
実施例1の坐剤を検体1とした。次の第1表の処方により実施例1に準じて調製した坐剤を対照検体a〜cとした。これらをそれぞれ20個ずつ用意した。
検体1および対照検体a〜cを、挿入部から横に3分割して、それぞれの部分を上から、■部、■部、■部とし、各検体の各部を集めて、粉砕し良く混ぜ合わせた。この内、1.65gを精密に量り検体とした。


[試験方法]
(試料溶液・標準溶液の調製)
各検体をリン酸のエタノール溶液(1→1000)20mlで3回抽出し、内部標準溶液(パラオキシ安息香酸プロピル0.1gにエタノールを加えて溶かし100ml)3mlを加えた後、抽出溶媒で正確に100mlとし、試料溶液とした。
別に、標準溶液として、酢酸ヒドロコルチゾンの標準品0.05gを正確に量り、エタノールを加えて溶かし50mlとする。この液5mlおよび内部標準溶液3mlに抽出溶媒を加えて正確に100mlとしたものを調製した。
(定量方法)
試料溶液および標準溶液につき液体クロマトグラフ法によって定量試験を行ない、それぞれの内部標準に対する酢酸ヒドロコルチゾンのピーク面積比QTおよびQSを求め、検体中の酢酸ヒドロコルチゾンの量(mg)を次式により算出した。


(測定条件)
検出器:紫外吸収光度計(日立製作所 655A型)
測定波長:242nmカラム:TSK−GEL LS410(東洋曹達株式会社製)
カラム温度:50℃移動相:水・メタノール・リン酸混液(60:40:0.1)
(結果)
定量結果は、対仕込み量の百分率で示した。その結果を第2表に示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】脂肪酸グリセライドを主成分とする基剤中にカルボキシビニルポリマーおよび軽質無水ケイ酸を添加することを特徴とする坐剤。
【請求項2】カルボキシビニルポリマーの添加量が1〜10重量%の割合である特許請求の範囲第1項記載の坐剤。
【請求項3】軽質無水ケイ酸の添加量が0.5〜2重量%の割合である特許請求の範囲第1項または第2項記載の坐剤。

【特許番号】第2556071号
【登録日】平成8年(1996)9月5日
【発行日】平成8年(1996)11月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−302933
【出願日】昭和62年(1987)11月30日
【公開番号】特開平1−143825
【公開日】平成1年(1989)6月6日
【出願人】(999999999)大正製薬株式会社