垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜
【課題】 膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ配向角度の乱れの小さなシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜及びその製造方法に関する。
【解決手段】 本発明は、膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜及びその製造方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料に微細構造を付与しその特有の機能や物性を利用する技術は、一般にナノテクノロジーと称され、近年、エレクトロニクス分野のみならず、エネルギー・環境等、広範な分野への応用が期待されている。
基板上にナノメーターオーダーのパターンを自己組織的に形成させ、磁気記録媒体、太陽電池、発光素子、精密フィルターなどの製造に適用が可能な材料として、芳香環含有ポリマー鎖とアクリル系ポリマー鎖とを有するブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーを含有しミクロ相分離構造を形成するパターン材料が知られている(特許文献1、2)。しかしながら、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有する膜については検討されておらず、例えば特許文献1においては、球状ミクロ相分離構造が球の直径程度の厚みの薄膜中で六方細密充填する現象(自己組織化能力)の応用技術を開示したものに過ぎない。
【特許文献1】特開2001−151834号公報
【特許文献2】特開2002−279616号公報
【0003】
一方、非特許文献1及び2は、流動場を用いて、ジブロック共重合体またはトリブロック共重合体中に、膜面に平行にラメラやシリンダーを配向させる方法を開示する。
【非特許文献1】"Spherulite formation from microphase-separated lamellae in semi-crystalline diblock copolymer comprising polyethylene and atactic polypropylene blocks"; M. Ueda, K. Sakurai, S. Okamoto, D. J. Lohse, W. J. MacKnight, S. Shinkai, S. Sakurai, S. Nomura (2003, Polymer, 44, pp. 6995 - 7005)
【非特許文献2】"Synchrotron Small-Angle X-ray Scattering Studies on Flow-Induced Gyroid to Cylinder Transition in an Elastomeric SBS Triblock Copolymer"; S. Sakurai, T. Kota, D. Isobe, S. Okamoto, K. Sakurai, T. Ono, K. Imaizumi, S. Nomura (2004, J. Macromol. Sci., Physics, B43, pp. 1-11)
【0004】
また、所定の特性表面粗さ以上の基板上にブロック共重合体樹脂を載置し、該樹脂に熱処理することにより垂直配向ラメラ構造を有するブロック共重合体膜を作製する方法も知られている(特許文献3)。
【特許文献3】特開2004−99667号公報
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の方法はラメラ構造を膜面に垂直に配向させる方法であって、得られた膜面内のラメラ構造の配列を規定できないという不都合があった。また、シリンダー構造の場合のように後加工によってナノポア(微細孔)を作り出すなどの応用がほとんどできない、という不都合があった。
そこで、以下のように、垂直配向シリンダー構造を付与するための検討も行われている。
【0006】
例えば、ポリスチレン−ポリメタクリル酸メチルジブロック共重合体膜を電極板上にキャストして、30〜40V/μmの直流電圧を165℃で14時間印加すると、ポリメタクリル酸メチルからなるシリンダーが垂直配向することが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、得られるジブロック共重合体膜は、膜厚が1μm以下と極めて薄いものであるため、材料としての利用価値が小さかった。また、この方法によれば電場の印加という煩雑な処理を要するうえ、電場に応答しないポリマーに対してはこの方法を適用できなかった。
【非特許文献3】Ultrahigh-Density Nanowire Arrays Grown in Self-Assembled Diblock Copolymer Templates, T. Thurn-Albrecht, J. Schotter, G. A. Kaestle, N. Emley, T. Shibauchi, L. Krusin-Elbaum, K. Guarini, C. T. Black, M. T. Tuominen, and T. P. Russell, Science Dec 15 2000: 2126-2129
【0007】
また、スチレンーメタクリル酸メチルのランダム共重合体をグラフトした後に、ポリスチレンーポリメタクリル酸メチルジブロック共重合体をキャストし、表面に垂直に立ったシリンダー構造を形成させる方法も知られている(非特許文献4)。しかしながら、この方法は煩雑であるのみならず、得られるジブロック共重合体膜は、膜厚が30nm以下と極めて薄いものであるため、材料としての利用価値が小さかった。また、シリンダーは垂直配向しているものの、膜面内で見た時の配列(シリンダーの断面の配置状態)はランダムであった。
【非特許文献4】K. Shin, K. A. Leach, J. T. Goldbach, D. H. Kim, J. Y. Jho, M. Tuominen, C. J. Hawker, T. P. Russell, Nano Letters, 2, 933 (2002)
【0008】
また、新規ポリシリケートを中間体とすることによって垂直配向メソポーラスシリカ膜を作成することが提案されている(特許文献4)。しかしながら、このような材料の場合は有機溶媒へ溶解させたり熱分解させることが困難であるため、ナノテンプレート等の鋳型用途としては不適であった。
【特許文献4】特開2003−335516号公報
【0009】
また、配向方向のそろったミクロ相分離構造膜を得るために、親水性ポリマー成分(A)及び疎水性ポリマー成分(B)からなるブロック共重合体における各ポリマー成分の分子量分布(Mw/Mn)を調整する方法が提案されている(特許文献5)。
しかしながら、この方法では、同文献に添付された電子顕微鏡写真から見ても膜厚はせいぜい数μm程度で極めて薄いため、実用的に要求される力学強度を満足した膜とは言い難いものしか得られない不都合があった。
【特許文献5】特開2004−124088号公報
【0010】
本発明者らは、所定のスチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体を用い、選択溶媒を用いた溶液キャスト法によって球状ミクロ相分離構造を形成させ、これを150℃の温度で10時間熱処理する方法を提案した(非特許文献5)。同文献には、上記熱処理によって、球状からシリンダー状のミクロ相分離構造へ転移したことが開示されている。
【非特許文献5】"スチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体フィルムの力学特性に与えるミクロ相分離構造の影響"; 楳田英雄、相田栄、櫻井伸一、北川裕一、須田義和、正本順三、野村春治(1997、日本レオロジー学会誌、Vol. 25, pp. 217-220)
【0011】
しかしながら、同文献においては、球が合体してシリンダーが形成する際、シリンダーが膜面に対していかなる方向に存在しているかについては未確認であった。そこで、本発明者らが同文献に記載の方法を追試したところ、垂直配向が確認されたものの、配向角度の乱れは±9°であることが判った。垂直配向性を利用して高機能性を発現する場合には、配向角度の乱れが大きいと不十分である場合が多い。
そこで、本発明者らは、上記技術的な問題点を克服して、配向角度の乱れが小さい垂直配向シリンダー材料を作製すべく鋭意検討を行った結果、配向角度の乱れの小さな垂直配向を得ることに成功した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来技術における不都合を解決し、膜表面に対して±9°未満の乱れで垂直配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜、該ブロック共重合体膜を簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜に関する。
更に、本発明は、ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を簡便に製造することができる。
また、本発明によれば、これまで実現できなかったシリンダーの垂直配向を簡単で低コストの方法で実現できる。すなわち、本発明の方法は、シリンダーの垂直配向化を行うために電場印加や温度勾配の付与、あるいはゾーン加熱などの煩雑な操作を要さず、極めて簡単かつ低コストの方法と言える。
従って、本発明に従うと、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、光学位相差フィルム等の高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)、高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のブロック共重合体膜を構成するブロック共重合体は、本発明の目的を逸脱しない限り何ら限定されず、従来公知のいかなるブロック共重合体も使用し得る。ブロック共重合体のブロック構造としては、AB型、A(BA)n型(ここで、nは自然数を表し、好ましくはn=1〜3である。)、A(BAB)m、(mは自然数を表し、好ましくはm=1〜2である。)の直鎖状ブロック共重合体や、(AB)pX(但し、pは自然数を表し、好ましくはp=3〜5である。Xは枝分かれを生じる多官能性官能基(原子団)を表す。)で表示される、B部分を結合中心とする星型ブロック共重合体が挙げられる。このなかでも、分岐や湾曲のない明確なシリンダーを形成させるためには、AB型又はABA型のブロック共重合体が好ましく、とりわけ、ABA型のトリブロック共重合体が好ましい。また、上記のブロック共重合体の2種以上をブレンドして使用しても構わない。
【0016】
また、上記の1種以上のブロック共重合体へ、各ブロックを構成する成分(例えばA成分及び/又はB成分)からなるホモポリマーを更にブレンドして、本発明のブロック共重合体膜を構成することもできる。
【0017】
本発明におけるブロック共重合体は、2種以上の、より好ましくは2種の繰り返しモノマー単位から成り、少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Aから形成されるブロック鎖(ポリマー成分)は通常のキャスト温度に相当する23℃でガラス状態であることが、非平衡モルホロジーをガラス化によって凍結(固定化)することが容易であるため好ましい。また、本発明のある実施態様においては、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分は、23℃でゴム状態であることが好ましい。
上記の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)と上記の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)の体積分率は、いずれかを0.1〜0.4とすることが、シリンダー構造を形成させるために有効であって好ましく、体積分率の小さな成分がシリンダー構造を、体積分率の大きな成分がマトリックス相を、それぞれ形成し得る。上記の体積分率は、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましい。繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)のブロック共重合体に対する体積分率を0.1〜0.4とすることが、シリンダー構造を形成させ易いためより好ましく、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.24とすることが最も好ましい。
【0018】
繰り返しモノマー単位から形成されるブロック鎖(ポリマー成分)がガラス状態とゴム状態のいずれであるか、並びに該ポリマー成分のガラス転移温度については、ガラス転移温度の一般的な測定方法、例えば、示差走査熱量分析(DSC)、動的粘弾性測定などによって確認することができる。
【0019】
本発明においては、ブロック鎖は、熱力学的平衡ないしは準平衡状態でシリンダー構造を形成し得る組成を有することが重要である。また、ブロック鎖は、後述する選択溶媒を用いることによって容易に球構造が形成される組成であることも重要である。このような観点から、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)のブロック共重合体に対する体積分率は0.1〜0.4とすることが好ましく、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.24とすることが最も好ましい。AB型又はABA型のブロック共重合体を用いる場合、繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)のブロック共重合体に対する体積分率は0.9〜0.6とすることが好ましく、0.89〜0.65とすることがより好ましく、0.88〜0.7が更に好ましく、0.87〜0.75が特に好ましく、0.85〜0.76とすることが最も好ましい。繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分が、本発明のブロック共重合体膜中でシリンダー構造を構成することが好ましい。
【0020】
前記の2種以上の繰り返しモノマー単位は、芳香族ビニル及び部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンであることが、非平衡モルホロジーを形成させ易いため好ましい。
このような芳香族ビニルのベースとなる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o,p−ジクロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンが、最も安価に入手が可能であり特に好ましい。
また、本発明における共役ジエンは、同一分子内に共役二重結合を有する単量体に起因するものであり、共役ジエンのベースとなる単量体は特に限定されない。共役ジエンは、重合体分子の主鎖中に組み込まれる場合(1−4結合)と分岐鎖中に組み込まれる場合(1−2結合)とがあるが、重合体分子中での両者の比率は特に限定されない。共役ジエンのベースとなる単量体としては、ブタジエン、イソプレン、スチレン−ブタジエンランダムコポリマーが好適である。本発明において、繰り返しモノマー単位としての部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンは、共役ジエン系ポリマーの通常の水添法(例えば、特開昭62-207303号公報を参照)によって、ブロック共重合体中に導入することができる。
本発明においては、芳香族ビニル単位はスチレンに由来する単位であり、部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位はブタジエンに由来する単位であることが特に好ましい。
【0021】
本発明におけるブロック共重合体は、ミクロ相分離することが少なくとも可能な分子量以上であって、かつ、熱力学的平衡ないしは準平衡状態を達成しやすい程度の分子量を有することが重要である。このような観点から、数平均分子量は1万〜100万の範囲であることが好ましい。数平均分子量は2万以上であることがより好ましく、3万以上であることが更に好ましく、5万以上であることが特に好ましい。また、数平均分子量は75万以下であることがより好ましく、50万以下であることが更に好ましく、20万以下であることが特に好ましい。
【0022】
本発明のブロック共重合体膜は、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有している。すなわち、本発明の重要な特徴は、ブロック共重合体膜がシリンダー構造を有し、しかもシリンダー構造が膜表面に対して垂直方向に配向していることを含む。ブロック共重合体膜にこのような特徴を付与することにより、前記したように、広範な材料分野での高機能材料の設計が可能となる。
本発明の別の重要な特徴は、その膜厚が0.1μm〜50mmという特定の範囲にあることである。後述する本発明の製造方法を採用することにより、従来得ることのできなかった、前記の各高機能材料に好適で、より実用的な比較的膜厚の大きなブロック共重合体膜を製造することが可能となった。膜厚は、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上、特に好ましくは0.1mm以上である。また、膜厚は、30mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以下、更に好ましくは5mm以下である。
【0023】
本発明において、膜厚の測定は、そのサイズ範囲に応じて適切な方法を選択して行い得る。例えば、X線や中性子線の反射率測定(100nm程度以下)、原子間力顕微鏡(1μm程度以下)、エリプソメトリー(1μm程度以下)、光学顕微鏡(10μm程度以上)などが挙げられる。
【0024】
本発明においては、膜厚と後述する配向角度の乱れが相互に密接に関係し、両者について本発明に規定する構成を同時に満足することが、極めて重要である。即ち、垂直配向したシリンダーが膜を貫くための条件として配向角度の乱れを規定する際、膜厚に対して考慮を行うことが肝要である。例えば、膜厚が大きい場合には、配向角度の乱れを小さくしないと、垂直配向したシリンダーが膜を貫通しない。より具体的には、配向角度の乱れの絶対値の所定値(例えば9°)より小さいという条件は、実用に耐える十分な力学的強度を有する所定の膜厚(例えば10μm)以上の膜に対して重要な条件であり得る。
【0025】
本発明においては、膜表面でのシリンダー配向の乱れを低減させるという観点から、シリンダー構造の垂直配向に対する配向角度の乱れ(2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される)の絶対値は9°未満である。配向角度の乱れは、2次元小角X線散乱(SAXS)の測定を行った際に得られるエッジ像、即ち、膜の側面から膜面に平行にX線を入射して測定した場合に得られる2次元散乱パターン(Edge View Pattern)、の1次反射ピーク強度を方位角に対してプロットしたとき、方位角が配向角180°に一致する最大ピーク強度から半減した際の配向角の変化量と定義される。従って、ある主軸方向にシリンダーが配向している場合、その方位角の位置(垂直方向の場合は180°)が最大値となるようなピーク強度が現れるため、このピークの半値幅の半分(半値半幅)をもって配向角度の乱れとする。配向角度の乱れの絶対値は7°以下であることがより好ましく、更には6°以下であること、特に5°以下であることが好ましい。現実的に達成可能な配向角度の乱れの絶対値の下限は2.5°程度である。
また、本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造は、六方格子上に配列していることが、垂直配向したシリンダーの充填本数を最大にするという観点から好ましい。
【0026】
本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造は、直径が3〜50nmのシリンダーから成ることが、記憶媒体としての格納可能な情報量の増大のためには欠かせない磁性体ナノドット数密度の向上、分離機能の高性能化、ナノ反応場(触媒)の表面積を増大させる点から好ましい。シリンダーの直径は3〜20nmであることがより好ましい。また、そのようなシリンダーは、好ましくは5〜120nm、より好ましくは5〜50nmの距離で配列していることが、垂直配向したシリンダーの充填本数を最大にするという観点から好ましい。シリンダー径及びシリンダー間の距離は、透過型電子顕微鏡観察、小角X線散乱法などによって測定し得る。
本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造を構成する成分は、前記のとおり、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分であること、すなわち23℃でガラス状態のポリマー成分であることが好ましい。
【0027】
次に、本発明のブロック共重合体膜を製造する好ましい方法について詳述する。
本発明のブロック共重合体膜の製造においては、特別な溶媒を用いたブロック共重合体試料の調整と精密な温度制御による熱処理が重要である。この際、特定のブロック共重合体試料と特定の選択溶媒を組み合わせて使用することが、特に重要である。
シリンダー状ミクロ相分離構造を本質的に形成し得るブロック共重合体試料(例えば、スチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体:SEBS)を用いて、以下に説明する特別な方法によって球状ミクロ相分離構造を形成させる。これを、ブロック共重合体中のガラス成分(この場合、ポリスチレン成分)のガラス転移温度以上の温度、好適にはシリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より100℃以上高い温度で、精密に(好適には、±1℃の温度精度で)、かつ、熱処理試料の温度が均一となるように熱処理を行うことによって、球構造を合体させてシリンダー構造に変化させることができ、しかも、シリンダーを膜面に対して垂直に配向させることができる。
【0028】
その特別な方法には、前記のブロック共重合体試料を選択溶媒(この場合、例えばヘプタン)に溶解させることが含まれる。例えば、ブロック共重合体としてSEBSを使用する場合、ヘプタンは、ポリエチレンブチレン成分を溶解させる能力はあるが、ポリスチレンを溶解させる能力が低い。このような選択溶媒を溶媒として用い所定のポリマー濃度(好ましくは1〜5重量%)となるように調整すると、溶液中ではポリエチレンブチレン相中へ過剰に溶媒が分布する。このため、溶液中では、本来の試料の組成よりもポリエチレンブチレン相を過大に、ポリスチレン相を過小にすることが可能となる。その結果、溶液中ではポリスチレン相は球構造(球状ドメイン)を形成するようになる。この状態から溶媒を徐々に蒸発させるとポリマー濃度が上昇し、やがてポリスチレン相がガラス化して球構造が凍結される。球構造はこの段階まで保持されているので、その後、溶媒が完全に蒸発して得られるキャストフィルム中に、本来形成されるはずのない球構造が凍結される。
【0029】
ここで、熱処理は精密な温度制御下に行うことが重要である。例えば、ポリスチレンのガラス転移温度以上の温度(例えば、150℃)で、好適にはシリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より80℃以上高い温度、より好適には90℃以上高い温度、更に好適には100℃以上高い温度、特に好適には100℃以上高い温度で、精密に(好適には±1℃、より好適には±0.5℃の温度精度で)、所定時間(例えば、10時間)、例えばシリコーンオイルバス中で、温度むらや温度勾配が生じないように、可能な限り均一な温度分布を達成するように熱処理を行う。その結果、球構造が合体してシリンダー構造に変化し、しかも膜面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造が形成される。合体する前の構造は、体心立方格子を組む球構造であることが、シリンダーへの転移の容易さの点から好ましい。また、合体する前の構造は、膜厚方向に収縮したような歪んだ異方的体心立方格子を組む球構造であることが垂直配向の配向角度の乱れを低減させる点から好ましい。
【0030】
従って、本発明はまた、ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法にも関する。かかる製造方法において、球状ミクロ相分離構造からシリンダー構造への転移は、該ブロック共重合体の自己組織化能力によって生じることが好ましい。
また、本発明は、前記のブロック共重合体膜の製造方法であって、
(a)ブロック共重合体に選択溶媒を添加してポリマー溶液を形成し、
(b)次いで、該ポリマー溶液から該選択溶媒を除去することによって非平衡モルホロジーを有するアズキャスト膜を形成し、
(c)該アズキャスト膜に熱処理を施すことによってシリンダー構造を形成させる、
ことを含んで成る方法に関する。
【0031】
ここで、選択溶媒とは、ある種類のポリマー成分に対しては選択的良溶媒に該当し、かつ他の種類のポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に該当する溶媒をいう。また、非平衡モルホロジーとは、ブロック共重合体単独(溶媒や添加剤など一切含まないもの)で、ガラス転移温度以上において安定に存在するミクロ相分離構造の形態以外の形態を指す。
また、ポリマー溶液から該選択溶媒を除去する場合には、ポリマー溶液を濃縮して完全に選択溶媒を蒸発させて絶乾アズキャスト膜とすることが好ましい。
【0032】
前記方法において、シリンダーを形成させるポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に相当し、マトリックスを形成させるポリマー成分に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いることが好ましい。
ここで、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)に対しては選択的貧溶媒に相当し、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いることが好ましい。ここで、選択的良溶媒とは、溶解性パラメータ(Solubility Parameter)δを用いた下記式:
(δsolvent−δpolymer)/δsolvent
から得られる値の絶対値が0.1より小さい溶媒をいい、選択的貧溶媒とは、前記値の絶対値が0.1より大きい溶媒をいう。溶解性パラメータδの測定方法、並びに代表的なポリマー及び溶媒に対する実測値については、例えば、ポリマーハンドブック(ポリマーハンドブック、第3版、J. Brandrup & E. H. Immergut編、Wiley、ニューヨーク、1989年)などに記載されている。
また、溶媒として、ブロック共重合体に対する共通溶媒に相当する1種以上の溶媒を更に含む混合溶媒を用いることが、ポリマー試料を均一に溶解させる点から好ましい。このような更なる溶媒としては、例えば塩化メチレンなどを挙げることができる。
【0033】
前記の熱処理を、アズキャスト膜中で球構造を構成するポリマー成分のガラス転移温度以上の温度で施すことが、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を得るために有効である。
【0034】
本発明に従うと、前記のとおり、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、光学位相差フィルム等の高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)、高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
本発明において、光学材料には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板や1/2波長板などの位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム、ディスプレイ全面板、ディスプレイ基盤、レンズなど、また、太陽電池等に用いられる透明基盤などが含まれる。本発明のブロック共重合体膜は、これらの光学材料に特に好適に使用し得る。
【0035】
例えば、本発明のブロック共重合体膜中に形成されたシリンダー構造を分解または溶解によって空孔化させ、ナノポーラス材料を得ることが可能である。分解方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、イオンビームエッチングやオゾン分解処理などの方法が推奨される。また、溶解方法についても特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、シリンダーまたはマトリックスを形成するポリマーの一方のみを溶解し得る溶剤(例えば、ガラス成分は溶解するがゴム成分を溶解しない溶媒、ゴム成分は溶解するがガラス成分を溶解しない溶媒)を用いる方法、酸やアルカリを用いて処理する方法などが推奨される。このようにして得られるナノポーラス材料は、例えば1〜100nm程度の大きさの細孔を有するものである。
【0036】
本発明におけるナノポーラス材料を吸着剤、触媒又は分離膜として使用する場合の方法の一例を以下に示す。
1.垂直に配向しているシリンダーだけを溶かす溶媒で選択的にエッチングし、或いはオゾン分解する。
シリンダーを形成している成分のみを分解除去することによって、3〜50nm程度の直径の穴を貫通させることができる。
2.この貫通穴の内壁面に化学処理を施すなどして、化学的な親和性を発現させる。
そうすれば、混合気体の分離や溶液から特定の成分だけをターゲットにして抽出することができるようになる。
3.まず、特定の分子を貫通穴の壁面に吸着させておき、その後、これと化学反応を起こすような分子をこの貫通穴に透過させれば、触媒としての作用を付与することができる。
本発明により得られる貫通穴はそれ自体極めて小さいため、貫通穴の壁面の面積は、単位体積あたりかなり大きな割合で存在し得る。従って、かなり高い触媒効率、反応時間の飛躍的短縮が期待される。
【0037】
また、本発明のブロック共重合体膜からマトリックス相を分解または溶解することによって除去すると、ナノワイヤーを得ることができる。分解方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、オゾン分解或いはイオンビームエッチングなどの方法が推奨される。また、溶解方法についても特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、シリンダーまたはマトリックスを形成するポリマーの一方のみを溶解し得る溶剤(例えば、ガラス成分は溶解するがゴム成分を溶解しない溶媒、ゴム成分は溶解するがガラス成分を溶解しない溶媒)を用いる方法、酸やアルカリを用いて処理する方法などが推奨される。このようにして得られるナノワイヤーは、1〜100nm程度の直径の細長いワイヤー状材料であって、膜厚に応じた長さを有するものである。導電性ポリマーを使用することによって導電性の付与されたナノワイヤーは極めて有用である。
【0038】
上記のようにして得られるナノポーラス材料に金属を蒸着させて空孔及び膜表面を蒸着層で覆った後、ブロック共重合体膜を分解または溶解させるとナノスタンプが得られる。本発明に従うと、1〜100nm程度の精度で彫り込まれた図柄を有する印判(ナノスタンプ)が得られる。このようなナノスタンプは、基材表面上への図柄の転写に好適に用い得る。ナノスタンプはローラー形状を有するものであってよい。
得られたナノスタンプを、磁性体溶液に浸漬させて引き揚げた後に基材表面に接触させると高密度記録が可能な磁気記録媒体を得ることができる。
また、上記のようにして得られるナノポーラス材料はナノテンプレートとして、1〜100nm程度の精度で3次元的に形成された造物用の鋳型として好適に使用し得る。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0040】
1.配向角度の乱れ
シリンダー構造の垂直配向に対する配向角度の乱れは、以下の方法に従って測定した。
配向角度の乱れは、2次元小角X線散乱(SAXS)の測定を行った際に得られるエッジ像、即ち、膜の側面から膜面に平行にX線を入射して測定した場合に得られる2次元散乱パターン(Edge View Pattern)、の1次反射ピーク強度を方位角に対してプロットしたとき、方位角が配向角180°に一致する最大ピーク強度から半減した際の配向角の変化量により評価した。具体的には、ある主軸方向にシリンダーが配向している場合、その方位角の位置(垂直方向の場合は180°)が最大値となるようなピーク強度が現れるため、このピークの半値幅の半分(半値半幅)をもって配向角度の乱れとした。
測定は、試料位置での照射X線ビームサイズを、水平方向1.0mm、鉛直方向0.7mm(長方形状ビーム断面)、波長を0.1499nm、高エネルギー加速器研究機構(つくば)の放射光科学研究施設のビームラインBL−9Cにて、イメージングプレート(フジフイルム)を用いて行った。読み取りには、Fuji BAS2000を用いた。1ピクセルの分解能(サイズ)は、100μm×100μmであった。
【0041】
2.シリンダー間の距離
シリンダー間の距離は、以下の方法に従って測定した。
小角X線散乱測定を行い、散乱強度の散乱角度依存性をプロットし、現れる格子散乱因子の1次ピーク(最も散乱角度が小さい位置に現れるピーク)の位置から、その散乱角θを求めた。これをブラッグ(Bragg)の反射条件式:
2d・sin(θ/2)=nλ
(式中、dは反射面の面間隔、θは散乱角、nは自然数、λはX線波長を表す)
に代入することにより、反射面の面間隔dを求めた。dとシリンダー間の距離Lとの関係式:
L=(2/30.5)×d
を用いて、シリンダー間の距離を求めた。
【0042】
3.シリンダー径
シリンダー径は、以下の方法に従って測定した。
散乱強度の散乱角度依存性をプロットし、現れる粒子散乱因子の1次ピークの位置から、その散乱角θpを求めた。これを式:
(4π/λ)sin(θp/2)=4.98/R
に代入して、シリンダー半径Rを算出した。
【0043】
[実施例1]
ブロック共重合体として、スチレン-エチレンブチレン-スチレントリブロック共重合体(SEBS)(旭化成ケミカルズ(株)製タフテック(登録商標)H1062)を用いた。試料は、ポリスチレン(PS)の体積分率が0.16、数平均分子量(Mn)が6.6×104、分子量分布の多分散指数(Mw/Mn)が1.03、ポリエチレンブチレン(PEB)鎖中のブチレン鎖のモル分率が0.41であった。試料は、PEBに対して選択的に良溶媒であるヘプタンと共通溶媒である塩化メチレンの体積比1:1の混合溶媒を用いてポリマー濃度が5重量%となるように調整し、キャスト溶液をシャーレに入れ、23℃にて溶媒を蒸発させてブロック共重合体膜(as-cast試料)を作製した。ヘプタンは、PEBに関しては(δsolvent−δpolymer)/δsolvent=0.095であり、PSに関しては(δsolvent−δpolymer)/δsolvent=0.257であった。
このas-cast試料を210℃で3時間、シリコーンオイル中で熱処理し、氷水中で急冷した(得られた試料をas-annealed試料と称する)。これらの試料について、高エネルギー加速器研究機構のBL-9Cにて2次元小角X線散乱(SAXS)測定を行った。
【0044】
図1に、(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料について得られた2次元SAXSパターン(edge view)を示す。図中のnはフィルムの法線方向を示している。スケールバーは、散乱ベクトルの大きさqを示しており、q=(4π/λ)sin(θ/2)である。ここで、λは波長、θは散乱角である。
図2の(a)、(b)は、それぞれ図1における(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料の2次元SAXSパターンより得られた1次元SAXSプロフィールを示す。1次ピークに対する高次ピークの相対比が、(a)as-cast試料では、1:√2:√3、(b)as-annealed試料では1:√3:√4となっていることから、熱処理の前後で球状構造からシリンダー状構造へと転移していることが分かる。
また、図1(a)as-cast試料では散乱ピークが楕円状になっていることから球構造が形成する規則的なbcc(体心立方格子)配列が歪んでいる(特に、厚み方向に収縮している)ことが分かる。
一方、図1(b)as-annealed試料では、ピークは子午線方向にのみスポット状に出ており、シリンダー状構造が膜面に垂直に配向しているという結果になった。これは球の合体が膜面の垂直方向にのみ優先的に起こったためと考えられる。
【0045】
図3に、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察結果を示す。
実施例1で得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)から、ウルトラミクロトームを用いて切削温度‐85℃〜−90℃にて厚みが80nmの超薄切片を得た。該切片を四酸化ルテニウムで染色した。日立製電子顕微鏡H‐600を加速電圧75kVで稼働させて、観察を行った。
図中の暗い領域は染色されたポリスチレン相である。一方、明るい領域は、未染色のポリエチレンブチレン相である。スルー像にはポリスチレンシリンダーの円形断面が見られる。また、シリンダーが六方格子上に規則配列していることもわかる。エッジ像には、水平方向に横たわったシリンダーが一次元方向(紙面上下方向)に繰り返し配列していることがわかる。
これらの透過型電子顕微鏡観察によって、シリンダーが膜面に垂直に配向していることが確認された。
【0046】
図4は、実施例及び比較例で得られたブロック共重合体膜の2次元小角X線散乱のエッジ像結果から、一次ピークについて、その規格化散乱強度を求め方位角の関数として示した図である。
即ち、図4は、図1(b)に記載の2次元小角X線散乱像から、1次ピークの散乱強度の方位角依存性をプロットしたものである。ここで、方位角は時計の12時の方向を規準に、時計方向まわりを正とした。縦軸は規格化散乱強度である。規格化散乱強度とは、散乱強度を方位角180°での散乱強度の値でわり算した値である。したがって、規格化散乱強度は方位角180°で1.0の値をとる。ピークが鋭ければ、垂直配向からの乱れが少ないことを意味する。図中の注釈BOX中に記載した角度はピークの半値幅を示している。したがって、この値の半分の値が、垂直からの乱れの度合い(±値)である。
【0047】
実施例1で得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは4.25°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、特に膜厚方向に複屈折性を有する光学位相差フィルムとして有用な膜材料が得られた。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、シリコーンオイル中での熱処理を、210℃で3時間に代えて、150℃×10時間としたこと以外は同実施例と同様にして、ブロック共重合体膜(as-annealed試料)を得た。
得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは9°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、膜厚方向に複屈折性を有する光学位相差フィルムとしては不十分な膜材料であった。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、シリコーンオイル中での熱処理を、210℃で3時間に代えて、180℃×3時間としたこと以外は同実施例と同様にして、ブロック共重合体膜(as-annealed試料)を得た。
得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは7°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、特にナノテンプレートとして有用な膜材料が得られた。
【0050】
[比較例2]
実施例1において、溶媒としてトルエンを用いたキャストにより、球を形成させず、最初からシリンダーを形成させたこと以外は同実施例と同様にして、膜厚が0.3mmのブロック共重合体膜を得た。
得られたブロック共重合体膜においては、球構造の合体という過程を経なかったため、実施例1と同様の熱処理を行ってもシリンダーは垂直配向しなかった。従って、ナノシリンダーが膜を貫通する必要のある材料としては全く不十分であった。
【0051】
[比較例3]
球の合体プロセスを利用する方法を用いず、比較例2に従って得られた膜を3枚重ね(初期厚み:0.9mm、初期長:3mm)、これに対して、更に、一方向に流動場を与えることによりブロック共重合体膜を得た(最終厚み:0.45mm、最終長:6mm)。流動場は、1065gの荷重下、150〜210℃にて20秒間与えた。また、最終膜厚を固定するため、スペーサを用いた。
得られたブロック共重合体膜においては、与えた流動場の方向と平行に配向が生じたが、膜面に垂直に流動場を与えることは不可能であるため、垂直配向を形成することはできなかった。従って、ナノシリンダーが膜を貫通する必要のある材料としては全く不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ配向角度の乱れの小さなシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を簡便に製造することができる。
本発明に従うと、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、実施例1において、(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料について得られた2次元SAXSパターン(edge view)を示した図である。
【図2】図2は、図1における(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料の2次元SAXSパターンより得られた1次元SAXSプロフィールを示した図である。
【図3】図3に、実施例1で得られたブロック共重合体膜の透過型電子顕微鏡(TEM)の観察結果を示す。
【図4】図4は、2次元小角X線散乱の結果(1次ピークの散乱強度の方位角依存性)を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料に微細構造を付与しその特有の機能や物性を利用する技術は、一般にナノテクノロジーと称され、近年、エレクトロニクス分野のみならず、エネルギー・環境等、広範な分野への応用が期待されている。
基板上にナノメーターオーダーのパターンを自己組織的に形成させ、磁気記録媒体、太陽電池、発光素子、精密フィルターなどの製造に適用が可能な材料として、芳香環含有ポリマー鎖とアクリル系ポリマー鎖とを有するブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーを含有しミクロ相分離構造を形成するパターン材料が知られている(特許文献1、2)。しかしながら、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有する膜については検討されておらず、例えば特許文献1においては、球状ミクロ相分離構造が球の直径程度の厚みの薄膜中で六方細密充填する現象(自己組織化能力)の応用技術を開示したものに過ぎない。
【特許文献1】特開2001−151834号公報
【特許文献2】特開2002−279616号公報
【0003】
一方、非特許文献1及び2は、流動場を用いて、ジブロック共重合体またはトリブロック共重合体中に、膜面に平行にラメラやシリンダーを配向させる方法を開示する。
【非特許文献1】"Spherulite formation from microphase-separated lamellae in semi-crystalline diblock copolymer comprising polyethylene and atactic polypropylene blocks"; M. Ueda, K. Sakurai, S. Okamoto, D. J. Lohse, W. J. MacKnight, S. Shinkai, S. Sakurai, S. Nomura (2003, Polymer, 44, pp. 6995 - 7005)
【非特許文献2】"Synchrotron Small-Angle X-ray Scattering Studies on Flow-Induced Gyroid to Cylinder Transition in an Elastomeric SBS Triblock Copolymer"; S. Sakurai, T. Kota, D. Isobe, S. Okamoto, K. Sakurai, T. Ono, K. Imaizumi, S. Nomura (2004, J. Macromol. Sci., Physics, B43, pp. 1-11)
【0004】
また、所定の特性表面粗さ以上の基板上にブロック共重合体樹脂を載置し、該樹脂に熱処理することにより垂直配向ラメラ構造を有するブロック共重合体膜を作製する方法も知られている(特許文献3)。
【特許文献3】特開2004−99667号公報
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の方法はラメラ構造を膜面に垂直に配向させる方法であって、得られた膜面内のラメラ構造の配列を規定できないという不都合があった。また、シリンダー構造の場合のように後加工によってナノポア(微細孔)を作り出すなどの応用がほとんどできない、という不都合があった。
そこで、以下のように、垂直配向シリンダー構造を付与するための検討も行われている。
【0006】
例えば、ポリスチレン−ポリメタクリル酸メチルジブロック共重合体膜を電極板上にキャストして、30〜40V/μmの直流電圧を165℃で14時間印加すると、ポリメタクリル酸メチルからなるシリンダーが垂直配向することが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、得られるジブロック共重合体膜は、膜厚が1μm以下と極めて薄いものであるため、材料としての利用価値が小さかった。また、この方法によれば電場の印加という煩雑な処理を要するうえ、電場に応答しないポリマーに対してはこの方法を適用できなかった。
【非特許文献3】Ultrahigh-Density Nanowire Arrays Grown in Self-Assembled Diblock Copolymer Templates, T. Thurn-Albrecht, J. Schotter, G. A. Kaestle, N. Emley, T. Shibauchi, L. Krusin-Elbaum, K. Guarini, C. T. Black, M. T. Tuominen, and T. P. Russell, Science Dec 15 2000: 2126-2129
【0007】
また、スチレンーメタクリル酸メチルのランダム共重合体をグラフトした後に、ポリスチレンーポリメタクリル酸メチルジブロック共重合体をキャストし、表面に垂直に立ったシリンダー構造を形成させる方法も知られている(非特許文献4)。しかしながら、この方法は煩雑であるのみならず、得られるジブロック共重合体膜は、膜厚が30nm以下と極めて薄いものであるため、材料としての利用価値が小さかった。また、シリンダーは垂直配向しているものの、膜面内で見た時の配列(シリンダーの断面の配置状態)はランダムであった。
【非特許文献4】K. Shin, K. A. Leach, J. T. Goldbach, D. H. Kim, J. Y. Jho, M. Tuominen, C. J. Hawker, T. P. Russell, Nano Letters, 2, 933 (2002)
【0008】
また、新規ポリシリケートを中間体とすることによって垂直配向メソポーラスシリカ膜を作成することが提案されている(特許文献4)。しかしながら、このような材料の場合は有機溶媒へ溶解させたり熱分解させることが困難であるため、ナノテンプレート等の鋳型用途としては不適であった。
【特許文献4】特開2003−335516号公報
【0009】
また、配向方向のそろったミクロ相分離構造膜を得るために、親水性ポリマー成分(A)及び疎水性ポリマー成分(B)からなるブロック共重合体における各ポリマー成分の分子量分布(Mw/Mn)を調整する方法が提案されている(特許文献5)。
しかしながら、この方法では、同文献に添付された電子顕微鏡写真から見ても膜厚はせいぜい数μm程度で極めて薄いため、実用的に要求される力学強度を満足した膜とは言い難いものしか得られない不都合があった。
【特許文献5】特開2004−124088号公報
【0010】
本発明者らは、所定のスチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体を用い、選択溶媒を用いた溶液キャスト法によって球状ミクロ相分離構造を形成させ、これを150℃の温度で10時間熱処理する方法を提案した(非特許文献5)。同文献には、上記熱処理によって、球状からシリンダー状のミクロ相分離構造へ転移したことが開示されている。
【非特許文献5】"スチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体フィルムの力学特性に与えるミクロ相分離構造の影響"; 楳田英雄、相田栄、櫻井伸一、北川裕一、須田義和、正本順三、野村春治(1997、日本レオロジー学会誌、Vol. 25, pp. 217-220)
【0011】
しかしながら、同文献においては、球が合体してシリンダーが形成する際、シリンダーが膜面に対していかなる方向に存在しているかについては未確認であった。そこで、本発明者らが同文献に記載の方法を追試したところ、垂直配向が確認されたものの、配向角度の乱れは±9°であることが判った。垂直配向性を利用して高機能性を発現する場合には、配向角度の乱れが大きいと不十分である場合が多い。
そこで、本発明者らは、上記技術的な問題点を克服して、配向角度の乱れが小さい垂直配向シリンダー材料を作製すべく鋭意検討を行った結果、配向角度の乱れの小さな垂直配向を得ることに成功した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来技術における不都合を解決し、膜表面に対して±9°未満の乱れで垂直配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜、該ブロック共重合体膜を簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜に関する。
更に、本発明は、ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を簡便に製造することができる。
また、本発明によれば、これまで実現できなかったシリンダーの垂直配向を簡単で低コストの方法で実現できる。すなわち、本発明の方法は、シリンダーの垂直配向化を行うために電場印加や温度勾配の付与、あるいはゾーン加熱などの煩雑な操作を要さず、極めて簡単かつ低コストの方法と言える。
従って、本発明に従うと、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、光学位相差フィルム等の高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)、高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のブロック共重合体膜を構成するブロック共重合体は、本発明の目的を逸脱しない限り何ら限定されず、従来公知のいかなるブロック共重合体も使用し得る。ブロック共重合体のブロック構造としては、AB型、A(BA)n型(ここで、nは自然数を表し、好ましくはn=1〜3である。)、A(BAB)m、(mは自然数を表し、好ましくはm=1〜2である。)の直鎖状ブロック共重合体や、(AB)pX(但し、pは自然数を表し、好ましくはp=3〜5である。Xは枝分かれを生じる多官能性官能基(原子団)を表す。)で表示される、B部分を結合中心とする星型ブロック共重合体が挙げられる。このなかでも、分岐や湾曲のない明確なシリンダーを形成させるためには、AB型又はABA型のブロック共重合体が好ましく、とりわけ、ABA型のトリブロック共重合体が好ましい。また、上記のブロック共重合体の2種以上をブレンドして使用しても構わない。
【0016】
また、上記の1種以上のブロック共重合体へ、各ブロックを構成する成分(例えばA成分及び/又はB成分)からなるホモポリマーを更にブレンドして、本発明のブロック共重合体膜を構成することもできる。
【0017】
本発明におけるブロック共重合体は、2種以上の、より好ましくは2種の繰り返しモノマー単位から成り、少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Aから形成されるブロック鎖(ポリマー成分)は通常のキャスト温度に相当する23℃でガラス状態であることが、非平衡モルホロジーをガラス化によって凍結(固定化)することが容易であるため好ましい。また、本発明のある実施態様においては、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分は、23℃でゴム状態であることが好ましい。
上記の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)と上記の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)の体積分率は、いずれかを0.1〜0.4とすることが、シリンダー構造を形成させるために有効であって好ましく、体積分率の小さな成分がシリンダー構造を、体積分率の大きな成分がマトリックス相を、それぞれ形成し得る。上記の体積分率は、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましい。繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)のブロック共重合体に対する体積分率を0.1〜0.4とすることが、シリンダー構造を形成させ易いためより好ましく、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.24とすることが最も好ましい。
【0018】
繰り返しモノマー単位から形成されるブロック鎖(ポリマー成分)がガラス状態とゴム状態のいずれであるか、並びに該ポリマー成分のガラス転移温度については、ガラス転移温度の一般的な測定方法、例えば、示差走査熱量分析(DSC)、動的粘弾性測定などによって確認することができる。
【0019】
本発明においては、ブロック鎖は、熱力学的平衡ないしは準平衡状態でシリンダー構造を形成し得る組成を有することが重要である。また、ブロック鎖は、後述する選択溶媒を用いることによって容易に球構造が形成される組成であることも重要である。このような観点から、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)のブロック共重合体に対する体積分率は0.1〜0.4とすることが好ましく、0.11〜0.35とすることがより好ましく、0.12〜0.3が更に好ましく、0.13〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.24とすることが最も好ましい。AB型又はABA型のブロック共重合体を用いる場合、繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)のブロック共重合体に対する体積分率は0.9〜0.6とすることが好ましく、0.89〜0.65とすることがより好ましく、0.88〜0.7が更に好ましく、0.87〜0.75が特に好ましく、0.85〜0.76とすることが最も好ましい。繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分が、本発明のブロック共重合体膜中でシリンダー構造を構成することが好ましい。
【0020】
前記の2種以上の繰り返しモノマー単位は、芳香族ビニル及び部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンであることが、非平衡モルホロジーを形成させ易いため好ましい。
このような芳香族ビニルのベースとなる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o,p−ジクロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンが、最も安価に入手が可能であり特に好ましい。
また、本発明における共役ジエンは、同一分子内に共役二重結合を有する単量体に起因するものであり、共役ジエンのベースとなる単量体は特に限定されない。共役ジエンは、重合体分子の主鎖中に組み込まれる場合(1−4結合)と分岐鎖中に組み込まれる場合(1−2結合)とがあるが、重合体分子中での両者の比率は特に限定されない。共役ジエンのベースとなる単量体としては、ブタジエン、イソプレン、スチレン−ブタジエンランダムコポリマーが好適である。本発明において、繰り返しモノマー単位としての部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンは、共役ジエン系ポリマーの通常の水添法(例えば、特開昭62-207303号公報を参照)によって、ブロック共重合体中に導入することができる。
本発明においては、芳香族ビニル単位はスチレンに由来する単位であり、部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位はブタジエンに由来する単位であることが特に好ましい。
【0021】
本発明におけるブロック共重合体は、ミクロ相分離することが少なくとも可能な分子量以上であって、かつ、熱力学的平衡ないしは準平衡状態を達成しやすい程度の分子量を有することが重要である。このような観点から、数平均分子量は1万〜100万の範囲であることが好ましい。数平均分子量は2万以上であることがより好ましく、3万以上であることが更に好ましく、5万以上であることが特に好ましい。また、数平均分子量は75万以下であることがより好ましく、50万以下であることが更に好ましく、20万以下であることが特に好ましい。
【0022】
本発明のブロック共重合体膜は、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有している。すなわち、本発明の重要な特徴は、ブロック共重合体膜がシリンダー構造を有し、しかもシリンダー構造が膜表面に対して垂直方向に配向していることを含む。ブロック共重合体膜にこのような特徴を付与することにより、前記したように、広範な材料分野での高機能材料の設計が可能となる。
本発明の別の重要な特徴は、その膜厚が0.1μm〜50mmという特定の範囲にあることである。後述する本発明の製造方法を採用することにより、従来得ることのできなかった、前記の各高機能材料に好適で、より実用的な比較的膜厚の大きなブロック共重合体膜を製造することが可能となった。膜厚は、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上、特に好ましくは0.1mm以上である。また、膜厚は、30mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以下、更に好ましくは5mm以下である。
【0023】
本発明において、膜厚の測定は、そのサイズ範囲に応じて適切な方法を選択して行い得る。例えば、X線や中性子線の反射率測定(100nm程度以下)、原子間力顕微鏡(1μm程度以下)、エリプソメトリー(1μm程度以下)、光学顕微鏡(10μm程度以上)などが挙げられる。
【0024】
本発明においては、膜厚と後述する配向角度の乱れが相互に密接に関係し、両者について本発明に規定する構成を同時に満足することが、極めて重要である。即ち、垂直配向したシリンダーが膜を貫くための条件として配向角度の乱れを規定する際、膜厚に対して考慮を行うことが肝要である。例えば、膜厚が大きい場合には、配向角度の乱れを小さくしないと、垂直配向したシリンダーが膜を貫通しない。より具体的には、配向角度の乱れの絶対値の所定値(例えば9°)より小さいという条件は、実用に耐える十分な力学的強度を有する所定の膜厚(例えば10μm)以上の膜に対して重要な条件であり得る。
【0025】
本発明においては、膜表面でのシリンダー配向の乱れを低減させるという観点から、シリンダー構造の垂直配向に対する配向角度の乱れ(2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される)の絶対値は9°未満である。配向角度の乱れは、2次元小角X線散乱(SAXS)の測定を行った際に得られるエッジ像、即ち、膜の側面から膜面に平行にX線を入射して測定した場合に得られる2次元散乱パターン(Edge View Pattern)、の1次反射ピーク強度を方位角に対してプロットしたとき、方位角が配向角180°に一致する最大ピーク強度から半減した際の配向角の変化量と定義される。従って、ある主軸方向にシリンダーが配向している場合、その方位角の位置(垂直方向の場合は180°)が最大値となるようなピーク強度が現れるため、このピークの半値幅の半分(半値半幅)をもって配向角度の乱れとする。配向角度の乱れの絶対値は7°以下であることがより好ましく、更には6°以下であること、特に5°以下であることが好ましい。現実的に達成可能な配向角度の乱れの絶対値の下限は2.5°程度である。
また、本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造は、六方格子上に配列していることが、垂直配向したシリンダーの充填本数を最大にするという観点から好ましい。
【0026】
本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造は、直径が3〜50nmのシリンダーから成ることが、記憶媒体としての格納可能な情報量の増大のためには欠かせない磁性体ナノドット数密度の向上、分離機能の高性能化、ナノ反応場(触媒)の表面積を増大させる点から好ましい。シリンダーの直径は3〜20nmであることがより好ましい。また、そのようなシリンダーは、好ましくは5〜120nm、より好ましくは5〜50nmの距離で配列していることが、垂直配向したシリンダーの充填本数を最大にするという観点から好ましい。シリンダー径及びシリンダー間の距離は、透過型電子顕微鏡観察、小角X線散乱法などによって測定し得る。
本発明のブロック共重合体膜において、シリンダー構造を構成する成分は、前記のとおり、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分であること、すなわち23℃でガラス状態のポリマー成分であることが好ましい。
【0027】
次に、本発明のブロック共重合体膜を製造する好ましい方法について詳述する。
本発明のブロック共重合体膜の製造においては、特別な溶媒を用いたブロック共重合体試料の調整と精密な温度制御による熱処理が重要である。この際、特定のブロック共重合体試料と特定の選択溶媒を組み合わせて使用することが、特に重要である。
シリンダー状ミクロ相分離構造を本質的に形成し得るブロック共重合体試料(例えば、スチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロック共重合体:SEBS)を用いて、以下に説明する特別な方法によって球状ミクロ相分離構造を形成させる。これを、ブロック共重合体中のガラス成分(この場合、ポリスチレン成分)のガラス転移温度以上の温度、好適にはシリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より100℃以上高い温度で、精密に(好適には、±1℃の温度精度で)、かつ、熱処理試料の温度が均一となるように熱処理を行うことによって、球構造を合体させてシリンダー構造に変化させることができ、しかも、シリンダーを膜面に対して垂直に配向させることができる。
【0028】
その特別な方法には、前記のブロック共重合体試料を選択溶媒(この場合、例えばヘプタン)に溶解させることが含まれる。例えば、ブロック共重合体としてSEBSを使用する場合、ヘプタンは、ポリエチレンブチレン成分を溶解させる能力はあるが、ポリスチレンを溶解させる能力が低い。このような選択溶媒を溶媒として用い所定のポリマー濃度(好ましくは1〜5重量%)となるように調整すると、溶液中ではポリエチレンブチレン相中へ過剰に溶媒が分布する。このため、溶液中では、本来の試料の組成よりもポリエチレンブチレン相を過大に、ポリスチレン相を過小にすることが可能となる。その結果、溶液中ではポリスチレン相は球構造(球状ドメイン)を形成するようになる。この状態から溶媒を徐々に蒸発させるとポリマー濃度が上昇し、やがてポリスチレン相がガラス化して球構造が凍結される。球構造はこの段階まで保持されているので、その後、溶媒が完全に蒸発して得られるキャストフィルム中に、本来形成されるはずのない球構造が凍結される。
【0029】
ここで、熱処理は精密な温度制御下に行うことが重要である。例えば、ポリスチレンのガラス転移温度以上の温度(例えば、150℃)で、好適にはシリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より80℃以上高い温度、より好適には90℃以上高い温度、更に好適には100℃以上高い温度、特に好適には100℃以上高い温度で、精密に(好適には±1℃、より好適には±0.5℃の温度精度で)、所定時間(例えば、10時間)、例えばシリコーンオイルバス中で、温度むらや温度勾配が生じないように、可能な限り均一な温度分布を達成するように熱処理を行う。その結果、球構造が合体してシリンダー構造に変化し、しかも膜面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造が形成される。合体する前の構造は、体心立方格子を組む球構造であることが、シリンダーへの転移の容易さの点から好ましい。また、合体する前の構造は、膜厚方向に収縮したような歪んだ異方的体心立方格子を組む球構造であることが垂直配向の配向角度の乱れを低減させる点から好ましい。
【0030】
従って、本発明はまた、ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法にも関する。かかる製造方法において、球状ミクロ相分離構造からシリンダー構造への転移は、該ブロック共重合体の自己組織化能力によって生じることが好ましい。
また、本発明は、前記のブロック共重合体膜の製造方法であって、
(a)ブロック共重合体に選択溶媒を添加してポリマー溶液を形成し、
(b)次いで、該ポリマー溶液から該選択溶媒を除去することによって非平衡モルホロジーを有するアズキャスト膜を形成し、
(c)該アズキャスト膜に熱処理を施すことによってシリンダー構造を形成させる、
ことを含んで成る方法に関する。
【0031】
ここで、選択溶媒とは、ある種類のポリマー成分に対しては選択的良溶媒に該当し、かつ他の種類のポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に該当する溶媒をいう。また、非平衡モルホロジーとは、ブロック共重合体単独(溶媒や添加剤など一切含まないもの)で、ガラス転移温度以上において安定に存在するミクロ相分離構造の形態以外の形態を指す。
また、ポリマー溶液から該選択溶媒を除去する場合には、ポリマー溶液を濃縮して完全に選択溶媒を蒸発させて絶乾アズキャスト膜とすることが好ましい。
【0032】
前記方法において、シリンダーを形成させるポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に相当し、マトリックスを形成させるポリマー成分に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いることが好ましい。
ここで、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分(ガラス成分)に対しては選択的貧溶媒に相当し、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分(例えばゴム成分)に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いることが好ましい。ここで、選択的良溶媒とは、溶解性パラメータ(Solubility Parameter)δを用いた下記式:
(δsolvent−δpolymer)/δsolvent
から得られる値の絶対値が0.1より小さい溶媒をいい、選択的貧溶媒とは、前記値の絶対値が0.1より大きい溶媒をいう。溶解性パラメータδの測定方法、並びに代表的なポリマー及び溶媒に対する実測値については、例えば、ポリマーハンドブック(ポリマーハンドブック、第3版、J. Brandrup & E. H. Immergut編、Wiley、ニューヨーク、1989年)などに記載されている。
また、溶媒として、ブロック共重合体に対する共通溶媒に相当する1種以上の溶媒を更に含む混合溶媒を用いることが、ポリマー試料を均一に溶解させる点から好ましい。このような更なる溶媒としては、例えば塩化メチレンなどを挙げることができる。
【0033】
前記の熱処理を、アズキャスト膜中で球構造を構成するポリマー成分のガラス転移温度以上の温度で施すことが、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を得るために有効である。
【0034】
本発明に従うと、前記のとおり、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、光学位相差フィルム等の高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)、高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
本発明において、光学材料には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板や1/2波長板などの位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム、ディスプレイ全面板、ディスプレイ基盤、レンズなど、また、太陽電池等に用いられる透明基盤などが含まれる。本発明のブロック共重合体膜は、これらの光学材料に特に好適に使用し得る。
【0035】
例えば、本発明のブロック共重合体膜中に形成されたシリンダー構造を分解または溶解によって空孔化させ、ナノポーラス材料を得ることが可能である。分解方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、イオンビームエッチングやオゾン分解処理などの方法が推奨される。また、溶解方法についても特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、シリンダーまたはマトリックスを形成するポリマーの一方のみを溶解し得る溶剤(例えば、ガラス成分は溶解するがゴム成分を溶解しない溶媒、ゴム成分は溶解するがガラス成分を溶解しない溶媒)を用いる方法、酸やアルカリを用いて処理する方法などが推奨される。このようにして得られるナノポーラス材料は、例えば1〜100nm程度の大きさの細孔を有するものである。
【0036】
本発明におけるナノポーラス材料を吸着剤、触媒又は分離膜として使用する場合の方法の一例を以下に示す。
1.垂直に配向しているシリンダーだけを溶かす溶媒で選択的にエッチングし、或いはオゾン分解する。
シリンダーを形成している成分のみを分解除去することによって、3〜50nm程度の直径の穴を貫通させることができる。
2.この貫通穴の内壁面に化学処理を施すなどして、化学的な親和性を発現させる。
そうすれば、混合気体の分離や溶液から特定の成分だけをターゲットにして抽出することができるようになる。
3.まず、特定の分子を貫通穴の壁面に吸着させておき、その後、これと化学反応を起こすような分子をこの貫通穴に透過させれば、触媒としての作用を付与することができる。
本発明により得られる貫通穴はそれ自体極めて小さいため、貫通穴の壁面の面積は、単位体積あたりかなり大きな割合で存在し得る。従って、かなり高い触媒効率、反応時間の飛躍的短縮が期待される。
【0037】
また、本発明のブロック共重合体膜からマトリックス相を分解または溶解することによって除去すると、ナノワイヤーを得ることができる。分解方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、オゾン分解或いはイオンビームエッチングなどの方法が推奨される。また、溶解方法についても特に限定されず、従来公知の方法を採用し得るが、例えば、シリンダーまたはマトリックスを形成するポリマーの一方のみを溶解し得る溶剤(例えば、ガラス成分は溶解するがゴム成分を溶解しない溶媒、ゴム成分は溶解するがガラス成分を溶解しない溶媒)を用いる方法、酸やアルカリを用いて処理する方法などが推奨される。このようにして得られるナノワイヤーは、1〜100nm程度の直径の細長いワイヤー状材料であって、膜厚に応じた長さを有するものである。導電性ポリマーを使用することによって導電性の付与されたナノワイヤーは極めて有用である。
【0038】
上記のようにして得られるナノポーラス材料に金属を蒸着させて空孔及び膜表面を蒸着層で覆った後、ブロック共重合体膜を分解または溶解させるとナノスタンプが得られる。本発明に従うと、1〜100nm程度の精度で彫り込まれた図柄を有する印判(ナノスタンプ)が得られる。このようなナノスタンプは、基材表面上への図柄の転写に好適に用い得る。ナノスタンプはローラー形状を有するものであってよい。
得られたナノスタンプを、磁性体溶液に浸漬させて引き揚げた後に基材表面に接触させると高密度記録が可能な磁気記録媒体を得ることができる。
また、上記のようにして得られるナノポーラス材料はナノテンプレートとして、1〜100nm程度の精度で3次元的に形成された造物用の鋳型として好適に使用し得る。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0040】
1.配向角度の乱れ
シリンダー構造の垂直配向に対する配向角度の乱れは、以下の方法に従って測定した。
配向角度の乱れは、2次元小角X線散乱(SAXS)の測定を行った際に得られるエッジ像、即ち、膜の側面から膜面に平行にX線を入射して測定した場合に得られる2次元散乱パターン(Edge View Pattern)、の1次反射ピーク強度を方位角に対してプロットしたとき、方位角が配向角180°に一致する最大ピーク強度から半減した際の配向角の変化量により評価した。具体的には、ある主軸方向にシリンダーが配向している場合、その方位角の位置(垂直方向の場合は180°)が最大値となるようなピーク強度が現れるため、このピークの半値幅の半分(半値半幅)をもって配向角度の乱れとした。
測定は、試料位置での照射X線ビームサイズを、水平方向1.0mm、鉛直方向0.7mm(長方形状ビーム断面)、波長を0.1499nm、高エネルギー加速器研究機構(つくば)の放射光科学研究施設のビームラインBL−9Cにて、イメージングプレート(フジフイルム)を用いて行った。読み取りには、Fuji BAS2000を用いた。1ピクセルの分解能(サイズ)は、100μm×100μmであった。
【0041】
2.シリンダー間の距離
シリンダー間の距離は、以下の方法に従って測定した。
小角X線散乱測定を行い、散乱強度の散乱角度依存性をプロットし、現れる格子散乱因子の1次ピーク(最も散乱角度が小さい位置に現れるピーク)の位置から、その散乱角θを求めた。これをブラッグ(Bragg)の反射条件式:
2d・sin(θ/2)=nλ
(式中、dは反射面の面間隔、θは散乱角、nは自然数、λはX線波長を表す)
に代入することにより、反射面の面間隔dを求めた。dとシリンダー間の距離Lとの関係式:
L=(2/30.5)×d
を用いて、シリンダー間の距離を求めた。
【0042】
3.シリンダー径
シリンダー径は、以下の方法に従って測定した。
散乱強度の散乱角度依存性をプロットし、現れる粒子散乱因子の1次ピークの位置から、その散乱角θpを求めた。これを式:
(4π/λ)sin(θp/2)=4.98/R
に代入して、シリンダー半径Rを算出した。
【0043】
[実施例1]
ブロック共重合体として、スチレン-エチレンブチレン-スチレントリブロック共重合体(SEBS)(旭化成ケミカルズ(株)製タフテック(登録商標)H1062)を用いた。試料は、ポリスチレン(PS)の体積分率が0.16、数平均分子量(Mn)が6.6×104、分子量分布の多分散指数(Mw/Mn)が1.03、ポリエチレンブチレン(PEB)鎖中のブチレン鎖のモル分率が0.41であった。試料は、PEBに対して選択的に良溶媒であるヘプタンと共通溶媒である塩化メチレンの体積比1:1の混合溶媒を用いてポリマー濃度が5重量%となるように調整し、キャスト溶液をシャーレに入れ、23℃にて溶媒を蒸発させてブロック共重合体膜(as-cast試料)を作製した。ヘプタンは、PEBに関しては(δsolvent−δpolymer)/δsolvent=0.095であり、PSに関しては(δsolvent−δpolymer)/δsolvent=0.257であった。
このas-cast試料を210℃で3時間、シリコーンオイル中で熱処理し、氷水中で急冷した(得られた試料をas-annealed試料と称する)。これらの試料について、高エネルギー加速器研究機構のBL-9Cにて2次元小角X線散乱(SAXS)測定を行った。
【0044】
図1に、(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料について得られた2次元SAXSパターン(edge view)を示す。図中のnはフィルムの法線方向を示している。スケールバーは、散乱ベクトルの大きさqを示しており、q=(4π/λ)sin(θ/2)である。ここで、λは波長、θは散乱角である。
図2の(a)、(b)は、それぞれ図1における(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料の2次元SAXSパターンより得られた1次元SAXSプロフィールを示す。1次ピークに対する高次ピークの相対比が、(a)as-cast試料では、1:√2:√3、(b)as-annealed試料では1:√3:√4となっていることから、熱処理の前後で球状構造からシリンダー状構造へと転移していることが分かる。
また、図1(a)as-cast試料では散乱ピークが楕円状になっていることから球構造が形成する規則的なbcc(体心立方格子)配列が歪んでいる(特に、厚み方向に収縮している)ことが分かる。
一方、図1(b)as-annealed試料では、ピークは子午線方向にのみスポット状に出ており、シリンダー状構造が膜面に垂直に配向しているという結果になった。これは球の合体が膜面の垂直方向にのみ優先的に起こったためと考えられる。
【0045】
図3に、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察結果を示す。
実施例1で得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)から、ウルトラミクロトームを用いて切削温度‐85℃〜−90℃にて厚みが80nmの超薄切片を得た。該切片を四酸化ルテニウムで染色した。日立製電子顕微鏡H‐600を加速電圧75kVで稼働させて、観察を行った。
図中の暗い領域は染色されたポリスチレン相である。一方、明るい領域は、未染色のポリエチレンブチレン相である。スルー像にはポリスチレンシリンダーの円形断面が見られる。また、シリンダーが六方格子上に規則配列していることもわかる。エッジ像には、水平方向に横たわったシリンダーが一次元方向(紙面上下方向)に繰り返し配列していることがわかる。
これらの透過型電子顕微鏡観察によって、シリンダーが膜面に垂直に配向していることが確認された。
【0046】
図4は、実施例及び比較例で得られたブロック共重合体膜の2次元小角X線散乱のエッジ像結果から、一次ピークについて、その規格化散乱強度を求め方位角の関数として示した図である。
即ち、図4は、図1(b)に記載の2次元小角X線散乱像から、1次ピークの散乱強度の方位角依存性をプロットしたものである。ここで、方位角は時計の12時の方向を規準に、時計方向まわりを正とした。縦軸は規格化散乱強度である。規格化散乱強度とは、散乱強度を方位角180°での散乱強度の値でわり算した値である。したがって、規格化散乱強度は方位角180°で1.0の値をとる。ピークが鋭ければ、垂直配向からの乱れが少ないことを意味する。図中の注釈BOX中に記載した角度はピークの半値幅を示している。したがって、この値の半分の値が、垂直からの乱れの度合い(±値)である。
【0047】
実施例1で得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは4.25°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、特に膜厚方向に複屈折性を有する光学位相差フィルムとして有用な膜材料が得られた。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、シリコーンオイル中での熱処理を、210℃で3時間に代えて、150℃×10時間としたこと以外は同実施例と同様にして、ブロック共重合体膜(as-annealed試料)を得た。
得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは9°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、膜厚方向に複屈折性を有する光学位相差フィルムとしては不十分な膜材料であった。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、シリコーンオイル中での熱処理を、210℃で3時間に代えて、180℃×3時間としたこと以外は同実施例と同様にして、ブロック共重合体膜(as-annealed試料)を得た。
得られたブロック共重合体膜(as-annealed試料)の膜厚は0.3mm、配向角度の乱れは7°、シリンダーの直径は13.2nm、シリンダー間距離は30.2nmであり、特にナノテンプレートとして有用な膜材料が得られた。
【0050】
[比較例2]
実施例1において、溶媒としてトルエンを用いたキャストにより、球を形成させず、最初からシリンダーを形成させたこと以外は同実施例と同様にして、膜厚が0.3mmのブロック共重合体膜を得た。
得られたブロック共重合体膜においては、球構造の合体という過程を経なかったため、実施例1と同様の熱処理を行ってもシリンダーは垂直配向しなかった。従って、ナノシリンダーが膜を貫通する必要のある材料としては全く不十分であった。
【0051】
[比較例3]
球の合体プロセスを利用する方法を用いず、比較例2に従って得られた膜を3枚重ね(初期厚み:0.9mm、初期長:3mm)、これに対して、更に、一方向に流動場を与えることによりブロック共重合体膜を得た(最終厚み:0.45mm、最終長:6mm)。流動場は、1065gの荷重下、150〜210℃にて20秒間与えた。また、最終膜厚を固定するため、スペーサを用いた。
得られたブロック共重合体膜においては、与えた流動場の方向と平行に配向が生じたが、膜面に垂直に流動場を与えることは不可能であるため、垂直配向を形成することはできなかった。従って、ナノシリンダーが膜を貫通する必要のある材料としては全く不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ配向角度の乱れの小さなシリンダー構造を有するブロック共重合体膜を簡便に製造することができる。
本発明に従うと、広範な分野における高機能材料の設計が可能となる。高機能材料の例としては、ナノワイヤー、ナノスタンプ、ナノポーラス材料、ナノポーラス中空糸、ナノポーラスチューブ等が挙げられる。また、かかる高機能材料は、例えば電子情報記録媒体、高機能光学材料、吸着剤、ナノ反応場膜、触媒、高機能膜(ナノ反応場、触媒、分離膜)高機能中空糸、高機能チューブ、ナノテンプレート、ナノモールドなどの用途に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、実施例1において、(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料について得られた2次元SAXSパターン(edge view)を示した図である。
【図2】図2は、図1における(a)as-cast試料および(b)as-annealed試料の2次元SAXSパターンより得られた1次元SAXSプロフィールを示した図である。
【図3】図3に、実施例1で得られたブロック共重合体膜の透過型電子顕微鏡(TEM)の観察結果を示す。
【図4】図4は、2次元小角X線散乱の結果(1次ピークの散乱強度の方位角依存性)を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜。
【請求項2】
前記シリンダー構造は、六方格子上に配列している請求項1に記載のブロック共重合体膜。
【請求項3】
前記ブロック共重合体は2種以上の繰り返しモノマー単位から成り、少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分は23℃でガラス状態である請求項1または2に記載のブロック共重合体膜。
【請求項4】
前記の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分のブロック共重合体に対する体積分率が0.1〜0.4である請求項1〜3のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項5】
前記シリンダー構造を構成する成分は、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分である請求項4に記載のブロック共重合体膜。
【請求項6】
前記シリンダー構造は、直径が3〜50nmのシリンダーから成る請求項1〜5のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項7】
前記シリンダーは、5〜120nmの距離で配列している請求項6に記載のブロック共重合体膜。
【請求項8】
前記少なくとも2種の繰り返しモノマー単位は、芳香族ビニル単位及び部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位である請求項3〜7のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項9】
芳香族ビニル単位はスチレンに由来する単位であり、部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位はブタジエンに由来する単位である請求項8に記載のブロック共重合体膜。
【請求項10】
ブロック共重合体の数平均分子量は1万〜100万である請求項1〜9のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項11】
垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が7°以下である請求項1〜10のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜における前記シリンダー構造が分解または溶解によって空孔化されて成るナノポーラス材料。
【請求項13】
請求項12に記載のナノポーラス材料を含んで成る触媒。
【請求項14】
請求項12に記載のナノポーラス材料に金属を蒸着させて空孔及び膜表面を蒸着層で覆った後、ブロック共重合体膜を分解または溶解させることによって得られるナノスタンプ。
【請求項15】
ローラー形状を有する請求項14に記載のナノスタンプ。
【請求項16】
請求項14または15に記載のナノスタンプを、磁性体溶液に浸漬させて引き揚げた後に基材表面に接触させて得られる磁気記録媒体。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜からマトリックス相が分解または溶解によって除去されて成るナノワイヤー。
【請求項18】
ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項19】
ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項20】
球構造からシリンダー構造への転移は、該ブロック共重合体の自己組織化能力によって生じる請求項18又は19に記載のブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜の製造方法であって、
(a)ブロック共重合体に選択溶媒を添加してポリマー溶液を形成し、
(b)次いで、該ポリマー溶液から該選択溶媒を除去することによって非平衡モルホロジーを有するアズキャスト膜を形成し、
(c)該アズキャスト膜に熱処理を施すことによってシリンダー構造を形成させる、
ことを含んで成る方法。
【請求項22】
前記溶媒として、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に相当し、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記溶媒は、ブロック共重合体に対する共通溶媒に相当する1種以上の溶媒を更に含む混合溶媒である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記熱処理を、シリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度以上の温度で施す請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記熱処理を、シリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より100℃以上高い温度であって、かつ±1℃の温度精度で施す請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
膜厚が0.1μm〜50mmであって、膜表面に対して垂直方向に配向し、かつ2次元小角X線散乱測定による半値半幅によって規定される、垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が9°未満であるシリンダー構造を有するブロック共重合体膜。
【請求項2】
前記シリンダー構造は、六方格子上に配列している請求項1に記載のブロック共重合体膜。
【請求項3】
前記ブロック共重合体は2種以上の繰り返しモノマー単位から成り、少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分は23℃でガラス状態である請求項1または2に記載のブロック共重合体膜。
【請求項4】
前記の繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分のブロック共重合体に対する体積分率が0.1〜0.4である請求項1〜3のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項5】
前記シリンダー構造を構成する成分は、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分である請求項4に記載のブロック共重合体膜。
【請求項6】
前記シリンダー構造は、直径が3〜50nmのシリンダーから成る請求項1〜5のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項7】
前記シリンダーは、5〜120nmの距離で配列している請求項6に記載のブロック共重合体膜。
【請求項8】
前記少なくとも2種の繰り返しモノマー単位は、芳香族ビニル単位及び部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位である請求項3〜7のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項9】
芳香族ビニル単位はスチレンに由来する単位であり、部分的に或いは完全に水素添加された共役ジエンの単位はブタジエンに由来する単位である請求項8に記載のブロック共重合体膜。
【請求項10】
ブロック共重合体の数平均分子量は1万〜100万である請求項1〜9のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項11】
垂直配向に対する配向角度の乱れの絶対値が7°以下である請求項1〜10のいずれかに記載のブロック共重合体膜。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜における前記シリンダー構造が分解または溶解によって空孔化されて成るナノポーラス材料。
【請求項13】
請求項12に記載のナノポーラス材料を含んで成る触媒。
【請求項14】
請求項12に記載のナノポーラス材料に金属を蒸着させて空孔及び膜表面を蒸着層で覆った後、ブロック共重合体膜を分解または溶解させることによって得られるナノスタンプ。
【請求項15】
ローラー形状を有する請求項14に記載のナノスタンプ。
【請求項16】
請求項14または15に記載のナノスタンプを、磁性体溶液に浸漬させて引き揚げた後に基材表面に接触させて得られる磁気記録媒体。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜からマトリックス相が分解または溶解によって除去されて成るナノワイヤー。
【請求項18】
ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造を有するブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項19】
ブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造における球構造を、膜面に垂直な方向に合体させてシリンダー構造へ転移させることを含んで成る、請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項20】
球構造からシリンダー構造への転移は、該ブロック共重合体の自己組織化能力によって生じる請求項18又は19に記載のブロック共重合体膜の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれかに記載のブロック共重合体膜の製造方法であって、
(a)ブロック共重合体に選択溶媒を添加してポリマー溶液を形成し、
(b)次いで、該ポリマー溶液から該選択溶媒を除去することによって非平衡モルホロジーを有するアズキャスト膜を形成し、
(c)該アズキャスト膜に熱処理を施すことによってシリンダー構造を形成させる、
ことを含んで成る方法。
【請求項22】
前記溶媒として、繰り返しモノマー単位Aから形成されるポリマー成分に対しては選択的貧溶媒に相当し、他の少なくとも1種の繰り返しモノマー単位Bから形成されるポリマー成分に対しては選択的良溶媒に相当する溶媒を用いる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記溶媒は、ブロック共重合体に対する共通溶媒に相当する1種以上の溶媒を更に含む混合溶媒である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記熱処理を、シリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度以上の温度で施す請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記熱処理を、シリンダーを構成するポリマー成分のガラス転移温度より100℃以上高い温度であって、かつ±1℃の温度精度で施す請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−299106(P2006−299106A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123585(P2005−123585)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年(平成14年)5月17日 「日本経済新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月28日 社団法人高分子学会発行の「第13回 ポリマー材料フォーラム要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月7日 日本放射光学会発行の「第18回 日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月15日 京都工芸繊維大学繊維学部高分子学科高分子工学講座発行の「平成16年度 研究発表会要旨集」に発表
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年(平成14年)5月17日 「日本経済新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月28日 社団法人高分子学会発行の「第13回 ポリマー材料フォーラム要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月7日 日本放射光学会発行の「第18回 日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月15日 京都工芸繊維大学繊維学部高分子学科高分子工学講座発行の「平成16年度 研究発表会要旨集」に発表
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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