説明

培 地

【目的】培地作製時に培地の秤量や培地の殺菌が不要な滅菌済みの長期保存が可能な液体および寒天培地を提供することを目的とする。
【構成】液体培地あるいは寒天培地をプラスチック製の袋または容器に充填、密封後、殺菌処理を施すか、あるいは、無菌充填により培地をプラスチック製の袋または容器に充填、密封したことを特徴とする培地である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、培地に関するものである。さらに詳しくは培地作製時に培地の秤量や培地の殺菌が不要な滅菌済みの培地に関するものである。
【0002】
【従来の技術】微生物、細胞、植物等の培養用の培地は、液体状態で使用される液体培地とその液体培地を寒天で固化させた寒天培地が代表的である。一般に、これらの培地は培地の種類によって異なるが、金属容器やプラスチック容器あるいは袋入りの粉末培地として市販されている。そして、使用時には必要とする液体培地や寒天培地の量に応じた必要量の粉末培地を秤量し、秤量後、所定量の水に溶解し、ほとんどの培地はさらに殺菌処理を施さなければならず、現在、これらの作業に多大な時間を要している。
【0003】さらに、粉末培地は微粒子であるため、秤量時に飛散し、秤や実験台を汚したり、また、粉末培地を溶解するための容器へ粉末培地を投入する時にも飛散する問題がある。この問題は、一部の培地では粉末培地を微粒子から粒子径の大きい粒状にすることで解決されているが、多くの培地は従来の微粒子のままである。さらに、粉末培地を溶解するための容器が三角フラスコ等の開口部が狭い容器であれば、投入時に開口部に粉末培地が付着したり、容器の外側へこぼれたりし、うまく投入できないという問題もある。
【0004】すなわち、培地を粉末ではなく、液体培地や寒天培地の状態で入手できれば前記の問題は解決できると考えられる。しかし、液体状態の培地は現在、市販されておらず、また、寒天培地では最終の使用形態であるシャーレに分注された状態で市販されている製品があるに過ぎない。このシャーレに分注された培地は培地からの水分の蒸散が著しく、長期保存すれば、培地が乾燥して使用できなくなるため、短期間で使用する必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上のような問題点に着目してなされたもので、培地作製の種々の手間を省くとともに、長期保存が可能な液体および寒天培地を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、液体培地あるいは寒天培地をプラスチック製の袋または容器に充填、密封後、殺菌処理を施すか、あるいは、無菌充填により培地をプラスチック製の袋または容器に充填、密封したことを特徴とする培地である。
【0007】以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】まず、培地をプラスチック製の袋や容器に充填後、殺菌処理を施す方法について説明する。
【0009】袋または容器への培地の充填は、粉末状の培地あるいは必要な種々の培地成分を袋または容器に充填した後で必要量の水を充填しても、あるいは液体培地や寒天培地を作製した後でその培地を充填してもよい。ただし、後者の場合で寒天培地を充填する場合は、寒天を完全に溶解させるため、加温溶解する必要があることは云うまでもなく、さらに寒天が固化しない温度、すなわち45℃以上の温度で充填しなければならない。充填後、袋あるいは容器を完全に密封し、殺菌処理を行う。殺菌条件は、培地中の微生物が完全に殺菌できればどのような条件でも良いが、120℃、15分以上の殺菌処理が好ましい。殺菌処理はレトルト殺菌装置を用いることが好ましい。オートクレーブも使用できるが、殺菌対象が密封された袋や容器であるため、破袋や容器の破損の危険性がある。また、レトルト殺菌の場合、回転式の方法が好ましい。特に、培地成分と水を別々に充填した場合は、回転式では培地成分の溶解を容易に、かつ均一に行え、寒天培地では特に効果的である。殺菌処理終了後、速やかに冷却を行い、培地成分の変質をできる限り防止する必要があるが、培地成分と水を別々に充填し、回転式のレトルト殺菌を行わなかった場合は、殺菌処理終了後に、内容物を撹拌し、内容物を均一にする必要があり、寒天培地では冷却により寒天が固化する前に行わなければならない。
【0010】上記の方法に袋を用いる場合、袋の材質は、殺菌処理に耐えられるだけの耐熱性を有し、かつ、熱融着による密封が可能であれば、どのような材質でもよい。ただし、内容量が多いため、充分な強度が必要であり、積層フィルムが好ましい。例えば、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)や延伸ナイロン(ONy)等を用い、シーラントとして無延伸ポリプロピレン(CPP)を積層したフィルムから成る袋が使用できる。さらに、酸素や水蒸気のバリアー性を付与するため、中間層にアルミニウム箔やエチレン−ビニル酢酸共重合体ケン化物(EVOH)あるいはポリ塩化ビニリデン(PVDC)等を積層したフィルムも使用可能であり、また、PVDCをコートしたフィルムやアルミニウム(AL)あるいは金属酸化物を蒸着したフィルムも基材、中間層として使用可能である。ただし、本発明の場合、バリアー性のない材質であっても、培地が保存中に使用できなくなる恐れがないため、コスト等を考慮すれば、バリアー性の材質を敢えて使用する必要はない。さらに、使用時の誤使用を避けるため、内容物を確認できる透明性を有する袋の方が好ましい。さらに、操作性を向上させるため、図1に断面形状を示すような自立式の形状の袋が好ましい。
【0011】一方、ボトルのような容器も使用可能ではあるが、材質的に耐熱性が必要であるとともに、内容物の漏洩を防止するための手段を設ける必要がある。例えば、容器本体開口部をパッキンを有するキャップで密封する方法や開口部を蓋材で熱融着法により密封する方法等が考えられるが、レトルト殺菌適性の点ではキャップ式よりも熱融着法で完全密封されている容器の方が好ましい。
【0012】次に培地を殺菌後に無菌的に充填する方法について説明する。
【0013】まず、液体培地あるいは溶融状態の寒天培地を作製し、その培地を完全に殺菌する。殺菌装置としては、熱交換方式のプレート式殺菌装置等が使用でき、殺菌条件は培地中の微生物が完全に殺菌できる条件であればよい。殺菌処理後、無菌充填包装機で無菌的に無菌の袋や容器に培地を充填すればよい。この場合、充填温度は、使用する袋や容器の耐熱性よりも低い温度であれば常温でも80℃程度の高温でもよいが、寒天培地では寒天が固化していないことが条件となる。無菌充填包装機は、使用する袋や容器に充填できる機種であればどのような装置でもよい。また、袋や容器の材質も、無菌充填装置にかかる材質であれば、どのような材質でもよく、制約はなく、例えば、液体培地であれば、紙容器も使用可能である。ただし、寒天培地では、使用時に寒天を融解させるために再加熱が必要であり、100℃以上の耐熱性を有する材質を使用する必要がある。また、その再加熱を湯浴中で行うことが多いため、紙容器は寒天培地には適していない。
【0014】以上の方法で作製された培地は、液体培地であれば、使用時に開封し、実際に使用する三角フラスコ等の無菌容器に必要量を無菌的に分注して使用すればよい。また、寒天培地であれば、密封状態のままで加温溶解し、無菌シャーレ等に分注し、使用すればよい。加温溶解の方法は90℃以上の湯浴中で加熱する方法が一般的であるが、寒天が溶解し、袋や容器に問題が生じなければ、電子レンジやオートクレーブ等、どのような方法で溶解させてもよい。
【0015】培地を分注する作業を容易にするため、袋や容器に注出口を設け、分注作業を容易にすることも可能である。
【0016】なお、対象となる培地の種類には制限がなく、殺菌処理を必要とする液体培地や寒天培地に対して、本発明は適用できる。
【0017】
【作用】本発明では液体培地や寒天培地を袋、容器等の包装体に充填、密封することにより、作製量に応じた量の粉末培地を秤量し、水に溶解した後、殺菌処理を行なうという培地作製の手間が省略でき、入手した本発明の培地は袋等を開封すればそのまま、あるいはシャーレ等に移し替えるだけで使用することができ、また、使用前は無菌状態で密封されているため、寒天培地の保存性の問題も解決される。
【0018】また、包装体として自立性のある袋を用いれば、開封後、分注時に作業を中断する場合、転倒防止策を施さなくてもよく、プラスチック製の容器を用いれば、透明であれば培地の色が判り、誤使用を防止できる。さらに紙製の容器を用いれば、使用時に容器の形状が保持され、手で持ち易いので最終使用容器への分注が容易でかつ自立性の袋と同様に分注時に作業を中断する場合、転倒防止策を施さなくてもよく、それぞれ目的に応じて包装体としての材質、構造面での有利な性能を生かすことができる。
【0019】
【実施例】以下、実施例について説明する。
<実施例1>粉末の普通ブイヨン培地18.0gと水1000mlをONy/接着剤/CPPからなる図1に示した形態の150mm×250mmの自立式の袋に密封包装し、レトルト殺菌装置で120℃、20分の殺菌処理を行った。殺菌終了後、室温まで冷却させ、袋をよく振り混ぜて液体培地を均一化した。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、大腸菌の培養に使用したが、大腸菌は問題なく増殖した。
【0020】<実施例2>粉末の標準寒天培地23.5gと水1000mlをONy/接着剤/CPPからなる図1に示した形態の150mm×250mmの自立式の袋に密封包装し、レトルト殺菌装置で120℃、20分の殺菌処理を行った。殺菌終了後、50℃まで冷却し、袋をよく振り混ぜて寒天培地を均一化し、さらに室温で放置して、寒天を固化させた。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、95℃の湯浴で培地を溶解した後、無菌シャーレに分注し、大腸菌の菌数計測に用いたが、作りたての培地と結果に差は認められなかった。
【0021】<実施例3>ポテトデキストロース寒天培地を90℃で調製し、培地が固化する前にその1000mlをPET/接着剤/AL/接着剤/CPPからなる図1に示した形態の150mm×250mmの自立式の袋に密封包装し、レトルト殺菌装置で120℃、15分の殺菌処理を行った。殺菌終了後、室温で放置して、寒天を固化させた。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、95℃の湯浴で培地を溶解した後、無菌シャーレに分注し、黒コウジカビの培養を試みたが、作りたての培地と生育に差は認められなかった。
【0022】<実施例4>普通ブイヨン培地を調製し、その1000mlをPET/接着剤/AL/接着剤/CPPからなる図1に示した形態の150mm×250mmの自立式の袋に密封包装し、レトルト殺菌装置で120℃、15分の殺菌処理を行った。殺菌終了後、室温まで冷却した。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、大腸菌の培養を試みたが、作りたての培地と生育に差は認められなかった。
【0023】<実施例5>調整した溶融状態の普通寒天培地をプレート式殺菌装置で130℃、15秒の殺菌処理を行い、70℃まで冷却した後、60℃に保温した無菌タンクに貯蔵した。その培地をパウチ用の無菌充填包装機を用いて、200mm×300mmの延伸ポリプロピレン/ポリエチレン(PE)製の平袋に500mlずつ無菌充填を行った。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、95℃の湯浴で培地を溶解した後、無菌シャーレに分注し、大腸菌の菌数計測に用いたが、作りたての培地と結果に差は認められなかった。
【0024】<実施例6>調整した普通ブイヨン培地をプレート式殺菌装置で130℃、15秒の殺菌処理を行い、30℃まで冷却した後、無菌タンクに貯蔵した。その培地を紙容器用の無菌充填包装機を用いて、PE/紙/PE構成の容量1000mlの口栓付きゲーブルトップ型(屋根型)紙容器に無菌充填を行った。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、大腸菌の培養を試みたが、作りたての培地と生育に差は認められなかった。
【0025】<実施例7>調整した普通ブイヨン培地をプレート式殺菌装置で130℃、15秒の殺菌処理を行い、30℃まで冷却した後、無菌タンクに貯蔵した。その培地をボトル用の無菌充填包装機を用いて、ポリプロピレン製の容量1000mlのボトルに無菌充填を行った。この培地を室温で6カ月間保存したが、微生物の増殖は認められず、その後、大腸菌の培養を試みたが、作りたての培地と生育に差は認められなかった。
【0026】
【発明の効果】本発明の培地は、培地が既に水が充填され、加熱殺菌処理されているので培地を作製するために培地成分を秤量したり、水を加えたり、調製した培地を殺菌する必要がなく、手間がかからず、簡単に使用できる。また、培地は密封包装されているため、保存中の水分の蒸発が少なく、長期間の保存が可能である。
【0027】さらに殺菌処理された液体培地あるいは溶融状態の寒天培地を無菌環境下で無菌の包装体に充填、密封しておくことにより、殺菌時間がレトルト等の加熱殺菌処理よりも短くて済み、培地成分の変質が少ないという利点がある。
【0028】また、包装体は培地の種類や使用目的に応じて、構造は袋、容器、瓶等の中から選択することができ、材質もプラスチック単体、積層体あるいは紙とそれらとの積層体の中から選択して使用することができるので応用範囲が広い。
【0029】以上のように、本発明の培地は、従来の粉末培地やシャーレに分注された寒天培地に比べて、取扱い性が非常に優れた培地である。
【0030】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の培地の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 自立性袋
2 培地
3 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】包装体内に培地成分と所定量の水を充填、密封後、加熱殺菌処理を施して成る培地。
【請求項2】包装体内に液体培地あるいは加温溶解した寒天培地を含むことを特徴とする培地。
【請求項3】殺菌処理された液体培地あるいは溶融状態の寒天培地を無菌環境下で無菌の包装体に充填、密封して成る培地。
【請求項4】包装体がプラスチック製の袋であることを特徴とする請求項1乃至3記載の培地。
【請求項5】包装体がプラスチック製の容器であることを特徴とする請求項1乃至3記載の培地。
【請求項6】包装体が紙製の容器であることを特徴とする請求項1乃至3記載の培地。
【請求項7】使用するプラスチック製の袋が自立式の袋であることを特徴とする請求項4記載の培地。

【図1】
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