説明

培養組織の品質管理方法

【課題】培養組織を破壊することなく培養組織の品質を容易に且つ適切に管理可能とする。
【解決手段】インビトロで培養され、培養期間の経過に伴って硬さまたは弾性が変化する三次元構造を有する培養組織の硬さ情報を測定し、該測定結果に基づいて細胞の増殖および産生基質の量の状態を把握し、当該状態に基づいて、培養組織の移植適性を判定する培養組織の品質管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロで培養された培養組織の品質管理方法及び、移植適正を有する培養組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体外(インビトロ)において、足場となる組織再生用基材(担体)に細胞を播種・培養し、組織再生を行うことでヒト組織を再構築し、再構築した培養組織を再び生体へ適用することにより治療を行う再生医療や組織工学が注目を浴びている。このような移植用培養組織は生体へ適用する際に移植に適切な状態であるか否かを検査する必要がある。あるいは、このような移植用培養組織がメーカーから出荷される際には、出荷に適した状態であるか否かを検査する必要がある。
【0003】
例えば、培養組織構造を確認する方法として、培養組織の一部を切断して組織切片を作製し、産生基質を染色剤で染色した後、顕微鏡で染色像を観察する方法が知られているが、この方法を移植適性の検査方法、培養状態の経時的な検査方法、または出荷(提供)時の検査方法として利用することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検査用組織切片の作製には時間が掛かるとともに、顕微鏡での観察は検査者にとって手間であり、負担となる。さらに、観察のたびに染色像を得るために、培養組織から一部を切り出して利用したり、同様の条件で培養した別の培養組織片(同一ロットの培養組織片)を準備したり等、多くの検査用組織片が必要となる。
【0005】
また、培養組織をコルクボーラー等で加工し、圧縮検査などの破壊試験によって、産生基質の量と培養組織の硬さとの関係を調べることが試みられているが、このような破壊試験では、同一ロットの他の培養組織を検査用組織片として検査する必要があり、上記染色像観察と同様に多くの検査用組織片が必要となる。
【0006】
さらに、細胞の増殖は細胞提供者の年齢等が影響したり、個々の細胞によって異なる細胞増殖を示したりするため、培養組織ごとに成長度合い等が微妙に異なり、培養組織の移植適性が適切な状態となる時期等の培養予測が困難であった。また、培養予測が困難であるが故に、培養組織を所望の状態へ導くための正確な培養制御が困難であり、延いては培養組織を提供する際の品質を安定させ、移植適性を有する培養組織を確実に且つ容易に製造することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来技術を鑑み、培養組織を破壊することなく培養組織の移植適正を容易に判定して、培養組織の品質を容易に且つ適切に管理可能な品質管理方法、及び確実に且つ容易に製造できる製造方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するための本発明は、(1)インビトロで培養され、培養期間の経過に伴って硬さまたは弾性が変化する三次元構造を有する培養組織の硬さ情報を測定し、該測定結果に基づいて細胞の増殖および産生基質の量の状態を把握し、当該状態に基づいて、培養組織の移植適性を判定する培養組織の品質管理方法
2)接触部、該接触部に連結された振動子及び該振動子の振動を検出する振動検出部を備えた検出部と、該振動検出部からの検出結果に基づいた硬さ情報を算出する算出手段と、を有する硬さ測定装置を使用し、前記培養組織に前記接触部を接触させて該培養組織の硬さを測定する(1)に記載の培養組織の品質管理方法、
(3)前記検出部が、前記接触部に加えられる荷重を検出する荷重検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記荷重検出部により検出された荷重との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定する(2)に記載の培養組織の品質管理方法
(4)前記検出部が、前記接触部の基準位置からの変位量を検出する変位量検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記変位量検出部により検出された変位量との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定する(2)に記載の培養組織の品質管理方法、
(5)前記培養組織は、三次元構造を有する組織再生用基材に細胞を播種・培養することによって作製されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の培養組織の品質管理方法、
(6)前記組織再生用基材はコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、キチン、キトサン、ラミニン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及びポリロタキサンのいずれか1つを含むことを特徴とする(5)に記載の培養組織の品質管理方法、
(7)前記培養組織の源となる細胞としては軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、神経細胞またはこれらの前駆細胞の少なくとも1つであることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の培養組織の品質管理方法、および
(8)(1)乃至(7)のいずれかの品質管理方法を含む培養組織の製造方法である。
本発明の(2)の品質管理方法における培養組織の硬さ測定方法は、インビトロで培養された培養組織の移植適性を判定するために、接触部、該接触部に連結された振動子及び該振動子の振動を検出する振動検出部を備えた検出部と、該振動検出部からの検出結果に基づいた硬さ情報を算出する算出手段と、を有する硬さ測定装置を使用し、前記培養組織に前記接触部を接触させて該培養組織の硬さを測定することを特徴としている。
【0009】
この硬さ測定方法によれば、培養組織に接触部が接触して振動子の振動数が変化することにより、培養組織の硬さ情報を得られ、この硬さ情報から培養組織の硬さを測定できる。これにより得られた培養組織の硬さに基づいて培養組織の産生基質量の測定又はこれに基づく移植適性を判定することができる。
【0010】
本発明の(3)の品質管理方法における硬さ測定方法は、(2)の硬さ測定方法において、前記検出部が、前記接触部に加えられる荷重を検出する荷重検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記荷重検出部により検出された荷重との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定することを特徴としている。
【0011】
この硬さ測定方法によれば、接触部に加わる荷重情報が得られ、この荷重情報と振動子の振動との関係に基づいて培養組織の硬さが測定できる。これにより得られた培養組織の硬さに基づいてより適切に培養組織の移植適性を判定することができる。
【0012】
本発明の(4)の品質管理方法における硬さ測定方法は、(2)の硬さ測定方法において、前記検出部が、前記接触部の基準位置からの変位量を検出する変位量検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記変位量検出部により検出された変位量との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定することを特徴としている。
【0013】
この硬さ測定方法によれば、振動子が基準位置から変位することにより変位量が得られ、この変位量と振動子の振動との関係に基づいて培養組織の硬さが測定される。これにより得られた培養組織の硬さに基づいてより適切に培養組織の移植適性を判定することができる。
【0014】
上記品質管理方法の硬さ測定方法において、前記培養組織が三次元構造を有する組織再生用基材に播種・培養された細胞及び該細胞から産生された産生基質のいずれか1つを有する。
【0015】
上記培養組織の品質管理方法における前記組織再生用基材は、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、キチン、キトサン、ラミニン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及びポリロタキサンのいずれか1つを含むものであることができる。
【0016】
また、これらの上記培養組織の品質管理方法における前記細胞は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、神経細胞またはこれらの前駆細胞の少なくとも1つであることができる。
【0017】
本発明の品質管理方法は、上記(2)乃至(4)におけるいずれかを使用することによって、培養組織の移植適性の判定を、培養組織を破壊することなく測定された硬さに基づいて客観的にかつ適切に判定することができる。
【0018】
本発明は、前記(1)乃至(7)のいずれかの品質管理方法を含む培養組織の製造方法を含む。
この培養組織の製造方法によれば、硬さを測定しながら培養するので、培養組織の硬さを指標として移植適性を判定しながら、培養組織を培養することができる。これにより、移植に適切な培養組織を確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、培養組織を破壊することなく培養組織の硬さを測定して、培養組織の品質を容易に且つ適切に管理することができ、また、移植適性を有する培養組織を確実に且つ容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1を参照して、本発明に係る硬さ測定装置10を説明する。硬さ測定装置10は、架台12に固定保持されるプローブ20(本発明の検出部に相当)と、プローブ20各部の駆動制御やプローブ20内の各センサからの検出信号を処理するコントロールユニット40(本発明の算出手段に相当)から構成されている。
【0021】
プローブ20内には、触覚センサ部24、圧力センサ部26から構成される測定子22、及び測定子22を上下方向に駆動させるモータ30が配置されている。モータ30には変位センサ部28が一体的に固着されており、モータ30の駆動軸の回転数に基づいて測定子22の移動量を検出する。モータ30はプローブ20に固着されており、プローブ20内部で上下移動可能に設置された測定子22を上下動させる。
【0022】
触覚センサ部24は、接触子32、振動子34、ピックアップ36を一体的に連結することにより構成されている。接触子32は、半球形状をしており、測定子22の先端に設けられている。接触子32の直径は、測定対象となる培養組織(対象物)の大きさや種類、測定方法等によって、適宜変更することができる。振動子34は圧電素子等で構成されており、またピックアップ36は振動感知用圧電素子等で構成されている。
【0023】
圧力センサ部26は感圧素子等からなる圧力センサを備えている。この圧力センサは触覚センサ部24のピックアップ36に固着されており、接触子32に付加される荷重を検知する。なお、圧力センサは、その固有振動数がピックアップ36での振動数検出に影響を与えないような形で固着されている。
【0024】
変位センサ部28は、エンコーダやポテンショメータ等から構成される変位センサを備えている。この変位センサは、プローブ20に配置されたモータ30の駆動により測定子22が図1上下方向に移動したときの移動量に基づいて位置の変位を検知するようになっている。
【0025】
プローブ20は、アーム14及び支持軸16を介して架台12に対して接近離反可能に取り付けられている。架台12にはステージ18が設けられており、プローブ20の下端に配置された接触子32に対面するようになっている。ステージ18には、測定対象となる培養組織が載置される。
【0026】
コントロールユニット40は、制御部42及び自励発振回路44から構成され、さらに図示なきコンピュータが接続されている。
自励発振回路44は、図示なき増幅回路と帯域フィルタから構成されると共に振動子34及びピックアップ36に接続されている。またこの自励発振回路44は、ピックアップ36からの出力信号を増幅回路で増幅した後、帯域フィルタを通して、振動子34に強制帰還をおこなわせる回路構成となっている。これにより増幅回路の増幅度と帯域フィルタの特性を調製することで自励発振回路44の入出力信号位相差を零に調整し、振動子34を振動させ、自励発振を行っている。
【0027】
制御部42は、自励発振回路44に接続されており、触覚センサ部24での振動子34の振動について、帯域フィルタの周波数特性を振動子34の周波数特性に適用するように調整することにより、硬さ情報の算出を行う。
また、制御部42は、圧力センサ部26及び変位センサ部28にそれぞれ接続されており、圧力センサ部26で検知された荷重及び、変位センサ部28で検知された変位から、それぞれ荷重情報及び変位情報を算出する。
【0028】
変位情報は、変位センサ部28からの位置情報に基づいて算出される。本実施形態では、任意の位置を初期位置とし、この初期位置を、位置情報における基準位置とするよう設定されている。また、この基準位置を零として、モータ30により測定子22が下方に移動した移動量を正とした場合に得られる位置情報を、変位情報としている。
【0029】
なお、測定子22の初期位置から培養組織に接触するまでの区間を空走距離とし、培養組織接触後の移動量を変位情報とすることもできる。この場合、圧力センサ部26からの圧力情報に基づいて測定子22が培養組織表面に接触した位置を基準位置とし、変位センサ部28から得られる移動量との差に基づいて変位情報としてもよい。また、圧力センサ部26からの圧力情報に代え、触覚センサ部24からの触覚情報に基づいて接触位置を判別してもよい。
【0030】
なお圧力センサ部26の圧力センサの固有振動数がピックアップ36での振動数検出に影響を与えるときには、圧力センサの固有振動数の補正処理を行って、適正な振動数変化を検出するように構成することもできる。
【0031】
コントロールユニット40に接続された図示なきコンピュータではオペレータによる種々の測定条件の設定が可能である。設定項目としては、測定子22の移動速度(1〜4mm/s)及び移動量(1〜10mm)等を挙げることができる。コンピュ−タは、これらの設定条件を基にコントロールユニット40を介してモータ30による測定子22の移動を制御して測定を行う。各センサ部からの検出情報は制御部42に送信され、これらの検出情報は図示なき記憶部に同期して記録される。
【0032】
硬さ測定装置10では、インビトロで培養された培養組織の硬さが測定される。ここで測定可能な培養組織は、インビトロで培養されたものであって硬さ測定装置10により測定可能であればいずれでもよいが、培養期間の経過に伴って培養組織の硬さ又は弾性が変化する組織であることが必要である。このような培養組織に含まれる細胞としては、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、神経細胞またはこれらの前駆細胞などを挙げることができる。
【0033】
また、培養組織として十分な構造が保たれるのであれば、必ずしも組織再生用基材は必要ではないが、測定される培養組織は、三次元構造を有する組織再生用基材と、該組織再生用基材に保持された少なくとも細胞及び産生基質のいずれか1つと、で構成されていることが好ましい。このような培養組織は、そのままの形態で生体への移植に適しており、また硬さ測定装置10による測定がより適切に実施可能である。このような移植形態や測定の容易性の観点から、本発明により移植判定を行う培養細胞としては、軟骨細胞、骨芽細胞又はこれらの前駆細胞であることがより好ましい。
【0034】
ここで適用可能な組織再生用基材としては、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、キチン、キトサン、ラミニン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及びポリロタキサンなどを挙げることができる。このうち、生体への適合性及び生体吸収性の観点からコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、フィブリンがより好ましい。
【0035】
硬さ測定装置10によって培養組織を測定する場合には、架台12上のステージ18に、測定対象となる培養組織が収容されたディッシュDを載置する。この際、接触子32のサイズによって変更可能であるが、硬さ測定装置10によって一層適正な硬さを測定する観点から、接触子32の表面積よりも培養組織の表面積が大きいことが好ましく、培養組織の特性が得られる測定深さよりも培養組織の厚みが大きいことが好ましい。なお、培養組織のサイズが接触子32のサイズよりも大きく培養組織上の複数箇所で測定可能である場合には、より適正な硬さを測定する観点から、複数箇所で測定することが好ましい。なお、培養組織の形状が一定であると、測定結果も安定し、適切に基質産生の測定や移植適性の判定を行うことができる。
【0036】
より適正な硬さを測定する観点から、培養組織のサイズを変更したり、測定点の数を増やすことの他に、接触子32のサイズを変更することも好ましい。培養組織のサイズにもよるが、接触子32の接触面を大きめに取った場合には、培養組織全体の硬さを反映させた硬さ情報を得ることができ、接触子32の径を小さくすると共に測定点の数を増やして測定した場合には、培養組織の局所的な硬さを測定できると共に、平均値を得ることで再現性よく正確に硬さを測定することができる。このような観点から、培養組織全体の硬さを反映させた硬さ情報を得たい場合には、接触子32の接触面は、培養組織の投影面積に対して、1〜1/5程度であることが好適である。一方、培養組織の局所的な硬さ情報を得たい場合には、接触子32の接触面は、培養組織の投影面積に対して、1/5以下であることが好適であって、再現性よく正確に硬さ測定をするためには、1つの培養組織に対して5〜50個の測定点で測定することが好ましい。
【0037】
次に硬さ測定装置10の作用について説明する。
測定対象となる培養組織をステージ18上に載置し、アーム14及び支持軸16を調整して、プローブ20を培養組織の上方に配置する。測定子22の移動速度及び移動量を設定し、測定を開始する。
【0038】
測定を開始すると、モータ30が駆動を開始すると共に振動子34が振動を開始し、設定された移動速度で測定子22が培養組織に向かって接近して、測定子22の接触子32が培養組織と接触する。接触子32が培養組織と接触することにより、振動子34の振動周波数が変化する。培養組織と接触した後も、測定子22は設定された移動速度で移動し、設定された基準位置からの移動量分の移動が完了すると、制御部42からモータ30の反転が指示される。モータ30の反転によって測定子22が上方へ移動し、接触子32が培養組織から離反して、基準位置まで戻り、測定を終了する。
この一連の動作による硬さの測定は、測定子22の上下動に伴って同期して得られる触覚センサ部24、圧力センサ部26、変位センサ部28からの出力信号のうち、単独又は複数のセンサによる数値、変化、関係等を基に行われる。
【0039】
硬さ測定装置10の原理は、固有振動している接触子32を測定対象物に接触させると、測定対象物に応じて接触子32の振動数が変化することに基づいている。この振動数の変化量を基に所定の演算処理を加えることによって測定対象物の硬さ情報として測定することができる。このような硬さ測定装置の詳細に関しては、特開平09−145691号(発明の名称:周波数偏差検出回路及びそれを利用した測定器)等に記載されている。オペレータはコンピュータを操作することによって、測定条件等を設定し、硬さ測定を行う。
【0040】
本発明では、上述の硬さ測定装置10を用いて硬さを測定することにより、培養組織の移植適性を判定する。なお、上記測定装置10により無菌的に、非破壊で測定を行うことによって、移植用の培養組織そのものを測定することが可能であり、その移植適性を判定することができる。
【0041】
<移植適性判定>
本発明の培養組織の移植適性の判定は、培養期間に伴って培養組織の硬さに変化が生じることに基づいている。このような培養組織の硬さは、培養組織を生体内に移植する際、移植した培養組織が患者の適用箇所に適切に作用するための要件の1つであるとともに、培養組織の取り扱い易さの要件の1つでもある。培養組織の硬さの変化は、培養組織中の細胞数や、細胞から産生される基質の量などが増加することに依っており、培養組織を構成する細胞種の性質により異なっている。したがって、培養組織の硬さを測定することによって培養組織の産生基質量を測定することもできる。このため、培養組織の硬さに基づく移植適性の具体的な判定は、培養組織の種類毎に行われるものであり、ここでは培養軟骨組織を例に本発明の培養組織の移植適性の判定方法を説明する。
【0042】
本発明における「移植適性を判定する」とは、移植時に当該培養組織が移植に適しているか否かを判定することを言うが、本発明では、特定の時点で移植時までの時間を勘案した適切な状態であるか否かを判定することも含む。例えば、出荷時は、移植時よりも所定の期間だけ早い時期となるので、その期間の保管・保存条件等を考慮した上で培養組織が適正な状態にあるか否かを判定することが好ましい。このため、出荷時において、当該培養組織が出荷時点として適切な状態にあるか否かを判定することが好ましく、本発明は、このような場合にも利用することができる。
【0043】
培養組織の移植適性は、硬さ測定装置10の触覚センサから得られる振動数情報、圧力センサから得られる荷重情報、及び変位センサから得られる変位情報を基に、単独のセンサ情報からの数値や変化、あるいは複数のセンサ情報の関係等からの各種硬さ情報を基に判定される。
【0044】
(1)触覚センサの振動数情報による判定
硬さ測定装置10による培養軟骨の硬さを測定し、この測定結果が適切な範囲内にあるか否かによって、培養軟骨の移植適性が判定される。即ち、硬さ測定装置10の測定子22に所定の変位あるいは荷重を加え、培養組織に接触させたときの、触覚センサから得られる振動数変化量Δfが、移植用組織として適正な範囲にあるか否かによって移植適性を判定する。この適正な範囲は、細胞種、担体の種類及び形状、接触子径等の測定条件、対象疾患等の種々の要素によって異なるため、対象となる培養組織に対して予め予備試験等を行うことによって決定する必要がある。
【0045】
例えば、コラーゲンゲルに軟骨細胞を包埋・培養し、直径10mm、厚さ3mmのドーム状に培養した培養軟骨組織の場合において、直径5mmの半球状の接触子32を有するプローブ20を培養軟骨の天頂部から上方約0.5mmの位置に設置し、2mmの移動量を与えて(培養組織天頂部より約1.5mm程度の押込量)硬さ測定を行った場合を考える(以下、培養軟骨組織測定モデルという)。このような培養軟骨組織測定モデルにおいて、接触子32を天頂部から約1.0mm下方に押込んだときの硬さの適性範囲は、振動数変化量Δfでは−200〜0Hzであり、好ましくは−150〜0Hzである。−200Hzより低い場合、培養組織に十分な硬さがえられていない状態であり、この状態での移植は好ましくない。また、0Hzより高い場合、培養組織が硬くなり過ぎているため、移植先での親和性が低く、脱落の可能性が考えられる。なお、本実施形態における振動数変化量Δfは、測定振動数から振動子の固有振動数を差引いたものとしている。
【0046】
また、所定荷重時におけるΔfの値を基に判定基準を定めてもよい。例えば、前述の培養軟骨組織測定モデルの場合、0.067N荷重時においては−150〜0Hzが好ましく、−100〜0Hzが更に好ましい。この範囲外では、前述と同様に柔らか過ぎたり、硬すぎたりするので、移植には好ましくない。
これに対して、直径30mm、厚さ3mmのドーム状に作製したコラーゲンゲル包埋型の培養軟骨組織を、直径1mmの半球状の接触子32を有するプローブ20で天頂方向から硬さ測定を行った場合、0.0049N(0.5gf)荷重時での適正範囲は、振動数変化量Δfで−15〜0Hzであり、好ましくは−10〜0Hzとなる。このように、測定条件や培養組織の状態が違うと適正範囲も異なる。
【0047】
(2)触覚センサの振動数情報に基づく比較判定
また、硬さの変化は細胞の増殖及び産生基質の量に応じてほぼ比例しているため、産生基質量の測定や培養組織の移植適性の判定を、基準となるモデルを予め定義することによって行うことができる。
この場合、細胞を播種することなく培養組織と同条件の培養操作を行った担体のみの振動数情報を判定基準モデルとし、この判定基準モデルとの比較を行うことにより、移植適性を判定する。なお、移植適性を判断するための比較基準は、対象となる担体、細胞、培養条件及び測定条件等により種々異なるので、各培養組織に対応した適性範囲を定める必要がある。
【0048】
硬さ測定装置10の測定子22に所定の荷重あるいは変位を加えて判定基準モデルに接触させ、予め振動数変化量(Δf)を測定する。移植適性の検査時には、判定基準モデルの測定条件と同一条件で培養組織の振動数変化量Δfを測定する。測定したΔfを判定基準モデルのΔfと比較することによって培養組織の移植適性を判定する。
【0049】
ここで前記培養軟骨組織測定モデルの場合、移植適性が適切な範囲であると判断する比較基準は、培養軟骨組織測定モデルにおいて接触子32を天頂部から約1.5mm下方に押し込ませたときの培養組織の硬さ情報(Δf)が判定基準モデルの硬さ情報(Δf)に対して硬いこと(Δf/Δfが1.0未満)が示されることが指標となる。好ましくは振動数変化量の比Δf/Δfが0〜0.9であり、更に好ましくは0〜0.7である。この範囲外では、前述と同様に柔らか過ぎたり、硬すぎたりするので、移植には好ましくない。
【0050】
(3)触覚−荷重情報(変位情報)の関係による判定
接触子32を培養組織又は担体に接触させた後、徐々に変位を加えていくと、これに伴って荷重Lが増加し、振動数変化量Δfが変化する。この変化は触覚−荷重情報の関係からは、傾きとして捉えることができる。この傾きは硬さ情報を含んでいるので、移植適性検査の判定指針とすることができる。触覚−変位情報の関係も、触覚−荷重情報と同様な傾向を示すため、触覚−変位情報による関係を触覚−荷重情報の代わりに利用することも可能である。なお、傾きは触覚−荷重関係図あるいは触覚−変位関係図において、所定荷重あるいは所定変位での接線の傾きとしても良いし、疑似的に所定荷重あるいは所定変位の値と基準位置での値を結んだ直線の傾きとしても良い。
【0051】
ここで培養軟骨組織測定モデルの場合、縦軸をΔf、横軸を荷重Lとした場合の触覚−荷重関係図を作成すると、0.067N荷重時点までの傾き(最小自乗法)としては−1200〜0Hz/Nが好ましく、−800〜−300Hz/Nが更に好ましいとすることができる。この範囲外では、前述と同様に柔らか過ぎたり、硬すぎたりするので、移植には好ましくない。
【0052】
傾きを判定するための荷重の値は、培養組織の特性が得られるような位置であればどこでもよいが、培養組織以外のディッシュ(底面)などの影響を受ける荷重での測定は好ましくない。
【0053】
さらに、培養組織の弾性の変化に基づいて移植適性を判定することができる。この場合には、触覚−荷重情報の関係から、培養組織の弾性を観察し、培養組織の弾性状態に基づいて移植適性を判定する。
【0054】
触覚−荷重の関係において、弾性は同一荷重での往路と復路(測定子22の上下動)の振動数変化量の差(残留変形)として観察される。判定基準モデルを測定した場合、同一荷重量での往路と復路の振動数変化量に大きな差異が観察されるが、細胞増殖及び基質産生により弾性が付加されると、往路と復路の振動数変化量の差異が減少する。このように所定荷重における往路と復路の差(残留変形)が所定の適性範囲内にあれば、移植適性が適切であるとの検査結果を導くことが可能となる。また、このような弾性情報に基づく移植適性の判定は、触覚−変位の関係においても同様の方法で行うことができる。
【0055】
このように、非破壊で硬さを測定することが可能な硬さ測定装置10を利用して、同一ロットの他の培養組織を多数利用することなく、移植用の培養組織そのものの移植適性を検査することも可能である。また、測定結果が適正範囲内にあるか否かを検査することによって容易に移植適性を判定することができる。
【0056】
また、判定基準モデルを予め定義することによって、培養組織での細胞増殖や基質産生の状態を容易に把握することができ、培養組織の移植適性検査を容易に行うことができる。
【0057】
<培養組織の品質管理>
本発明の培養組織の品質管理方法では、上述のような硬さ測定を経時的に行って培養状態を把握し、これらの情報から測定後の培養状態を予測し、これに基づいて培養組織の培養条件を適切に制御することによって、培養組織の品質を管理する。
即ち、培養組織の硬さは、播種された細胞が増殖し、また増殖に伴って基質を産生することによって変化する。また、播種密度や培地等の培養条件を変化させることによって細胞増殖や基質産生の経時変化の状態が異なるため、これらに依存する硬さの経時変化も変化することになる。本品質管理方法は、これに基づいて、培養工程中の培養組織の硬さ情報を得ることによって、その後の培養組織状態の経時変化を予測し、所望の培養日数で移植用培養組織として適正な硬さになるように、予測に基づいて培養組織の培養条件を制御する。
【0058】
ここで「培養組織の品質」とは、移植後に効率よく生着し、或いは移植された個体における組織再生が効率よく行われるための要件を備えていることであり、「移植適性を有する」とは、このような能力を有していることを言う。
【0059】
またここで「培養組織の品質管理」とは、移植適性を有する培養組織を提供可能とするために、提供時期との関係において、培養組織中の細胞数及び/又は基質量を所定範囲内に調整することを言う。この培養組織の品質管理は、特定の時期に適切な状態の培養組織のみを選択可能にすることを意味する。即ち、培養過程においては、測定時の培養状態を把握し、その後の培養期間や培養条件を調整することにより、特定の時期、例えば移植時又は出荷時に培養組織が適切な状態となるように培養組織の状態を制御することを意味する。培養組織の出荷時では、移植時までの期間や状態などを勘案し、出荷時として適切な状態にある培養組織のみを選択することを意味する。これにより、提供される培養組織を常に一定の品質のものに維持することができる。
【0060】
以下に詳述するが、このような品質管理には、培養中の培養組織の状態を把握し、把握された培養組織の状態に応じて、市場に供するのに適しているか否かを判定したり、培養に関する種々の因子を調整して培養組織の状態をコントロールするといった作業が挙げられる。また、本発明の品質管理のための培養条件の制御には、培養条件を変更することを必ずしも必要としない。硬さ情報の時間的変化に基づいて、培養条件の変更が不要と判断した場合における同一培養条件の継続も、培養条件の制御に含まれる。なお、上記培養に関する種々の因子の調整には、培地の種類や栄養因子の添加等の培地組成に限らず、培養期間の延長、短縮又は維持も含まれる。
【0061】
培養状態を予測するための硬さの測定は、培養組織を構成する細胞種の増殖速度によって異なるが、培養開始時を含め回数が増えるほど的確に培養状態を予測することができる。播種密度や培養速度から培養状態がある程度把握可能な場合には、培養開始後少なくとも1回測定すればよく、例えば軟骨細胞の場合には培養開始後14日目に測定することにより、ある程度予測することができる。これにより、より簡便に品質を管理することができる。
【0062】
培養組織の硬さの測定は、移植適性の判定に用いた硬さ測定装置10を用いて行うことが好ましい。これにより、既存の装置を用いて、硬さ情報に基づいた移植適性を判定しながら、品質管理を行うことができる。
【0063】
培養組織の培養制御は、培養条件を変化させて細胞増殖を促進させたり、遅滞させたりすることによって行われる。このような細胞増殖速度の調整には、栄養因子の添加や除去等の培地組成の変更、培地交換の時期、培養温度等が挙げられる。これらにより、培養組織の細胞増殖又は基質産生を促進、あるいは遅滞させることができ、所望の時期に適切な状態の培養組織を得ることができる。また、硬さ情報に基づいて細胞増殖の遅い場合には培養期間を長くし、細胞増殖の早い場合には培養期間を短くし、適切である場合にはその培養期間を予定通り維持するという培養期間の制御によっても、培養組織の品質を安定させることができる。
【0064】
なお品質管理を行う際の硬さ測定は、培養組織に破壊が生じない程度の荷重又は変位量を加えて測定することが必要である。これにより、非破壊で同一培養組織に対する継続した硬さ測定が可能となり、延いては品質の安定した培養組織を供給するための品質管理が可能となる。
【0065】
このように培養組織の硬さ情報に基づいて培養組織の培養条件を制御するので、培養組織を破壊することなく、高い精度で安定して培養組織の品質を管理することができ、また所望の状態の培養組織を供給可能であり、品質の安定した培養組織の品質管理を行うことができる。
【0066】
また培養組織を上記したように硬さを測定しながら培養することにより、移植適性を有する培養組織を容易に製造することができる。このような製造方法により培養組織を製造する場合には、培養開始後から所定期間毎に培養組織の硬さを測定して、培養組織の経時的な変化を把握しながら、硬さを指標として移植適性を判定しながら培養組織を培養する。
【0067】
これにより、硬さを指標として移植適性を経時的に判定しながら培養を行うので、移植に適切な状態になる前に培養を停止してしまったり、適切な時期を超えて培養してしまったりといったことを回避することができる。また、上記硬さ測定装置10を使用することにより培養組織を破壊することなく移植適性を有する培養組織を製造することができるので、培養を開始した移植用の培養組織から効率よく数多くの移植適性を有する培養組織を製造することができる。また、上記品質管理方法で記載した培養条件の調整と組合わせることにより、移植適性を有する培養組織を、適切な時期に適切な量で効率よく製造することができる。
【0068】
以上の説明では、硬さ情報として触覚センサ部24に基づく振動数変化量Δfを用いたが、振動数変化量Δfから求められるスティフネス(硬さ)Sを算出して、産生基質の測定又は移植適性の判定に振動数変化量Δfと同様に用いても良い。なお、スティフネスSは、以下の式(1)によって得ることができる。
Δf=a・logS+b式・・・・・・(1)
但し、a及びbは装置によって定められる定数
このように、ΔfとスティフネスSとの関係は、測定装置によって異なる定数によって変化するため、同一の培養組織であってもプローブの構成、プローブ径、プローブの材質等が異なることによって、測定されるΔfは容易に変化する。したがって、本発明の実施の形態で示した好適なΔfの範囲は、以下に示す実施例に基づくものであって、これらの記載によって本発明の技術的思想がこれらの好適範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
以下、軟骨細胞を基に培養した培養軟骨組織を一実施例として挙げ、培養組織の硬さ情報に基づく検査方法及び硬さ情報の経時的な測定による品質管理方法の説明を行う。本発明では培養組織の硬さ測定にバイオセンサー(AXIOM社製)を利用した。
【0070】
[実施例1]
<培養軟骨組織の作製>
日本白色家兎の膝、股、肩関節から関節軟骨を採取し、トリプシンEDTA溶液およびコラゲナーゼ溶液で酵素処理を行い、軟骨細胞を分離・回収した。得られた軟骨細胞を洗浄後、10v/v%FBS(ウシ胎児血清)−DMEM(ダルベッコ変法イーグル最小必須培地)を加え、細胞密度が1×10個/mlとなるように細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液と3%アテロコラーゲンインプラント(高研社製)が1:4の割合になるように混合し、培養皿に混合液100μlをドーム状にマウント(設置)した。このときの播種密度は2×10個/mlとなる。
【0071】
マウントした混合液は、5%CO、37℃の条件下で0.5〜1時間静置してゲル化させ、培地を加え、培養を開始した。培地には50μg/mlアスコルビン酸及び100μg/mlヒアルロン酸を含有するように調整した10v/v%FBS−DMEMを使用し、5%CO、37℃条件下で3週間培養を行った。
【0072】
上記培養方法により作製した培養軟骨組織を前述の硬さ測定装置10を用いて、その硬さを測定した。測定時の測定子22の移動速度及び移動量は、移動速度2mm/s,移動量2mmで行った。
【0073】
<培養軟骨の硬さ測定>
プローブ20を架台12に固定し、コンピュータを操作して前述の移動速度、移動量に設定する。PBS(リン酸緩衝液)にて洗浄した培養軟骨組織をディッシュごと測定位置に設置し、プローブ20が培養軟骨組織の頂点部から所定量上方に位置するようにセットする。オペレーターがコンピュータを操作することで測定が開始され、測定子22が設定された移動速度でモータ30によって下降する。設定された移動量を下降すると、モータ30が反転し、設定された移動速度で上昇し、硬さ測定が終了する。モータ30による測定子22の移動量は、基準位置からの変位量として変位センサによって常に検出されている。
【0074】
この一連の下降・上昇の測定工程中に得られる変位、圧力、触覚の各データの単独又は複数の関係から得られる培養軟骨組織の硬さ情報に基づいて移植適性を検査する。
【0075】
<培養軟骨の移植適性の判定>
図2は所定の変位(培養組織の天頂部から下方へ1.5mmの地点)を加えたときの各播種密度における触覚情報(振動数変化量Δf)の経時変化を示すグラフである。図2には、細胞を播種していない担体(コラーゲンゲル)のデータを判定基準モデルとして示してある。図3は図2の各種播種密度による触覚情報を、コラーゲンゲル担体のみの触覚情報で無次元化したΔf/Δfの経時変化を示すグラフである。
【0076】
図2中では振動数変化量Δfが大きくなるにつれて硬さが増すことを示しており、播種密度が高いほど早期に硬さを増していくことが観察される。一方、播種密度が少ないと細胞増殖による硬さへの影響は少ない。これは播種密度が少ないほど増殖率が高くなり、脱分化などの影響によって、基質の産生量が播種密度の多いものに比して少なくなるためであると考えられる。
【0077】
通常、培養軟骨組織では培養3週間後(約21日目)から移植用培養組織として十分な適性を有していることから、振動数変化量Δfが−200Hz以上となることが好ましく、−150〜0Hzとなることが更に好ましいことが観察できる。また、図3からは移植適性の判定基準として、Δf/Δfが0〜0.9であることが好ましく、0〜0.7であることが更に好ましいことが観察できる。
【0078】
図4は所定の荷重(0.067N)を加えたときの振動数変化量Δfの経時変化を示すグラフである。図中には播種密度2×10個/mlのものと、コラーゲン担体のみのものが示されている。
【0079】
所定荷重を加えたときの振動数変化量Δfの傾向は、図2及び図3の所定変位を加えて測定した場合と同様に、培養日数に伴って硬さが増していくのが観察される。0.067Nの荷重を負荷した時の移植適性範囲は、図中より−150以上であることが好ましく、−100〜0Hzであることが更に好ましい。
【0080】
図5は触覚−荷重の関係図、図6は触覚−変位の関係図である。図5の触覚−荷重の関係図では、硬さ情報は傾きとして得ることができる。図中1W、2W、3W、5Wは、それぞれ培養1週目、2週目、3週目、5週目を示している。培養日数の経過に伴って傾きが緩やかになり、培養組織の硬さが増していることが観察できる。所定荷重時の傾きを解析することによって移植適性の判定基準とすることができる。例えば、荷重検出開始時から0.067N荷重までの傾きとしては、−1200〜0Hz/Nが好ましく、−800〜−300Hz/Nが更に好ましい。
【0081】
触覚−荷重の関係図での弾性情報は、所定荷重時の往路と復路の差として得ることができる。図5では、往路と復路(測定子22の上下動)のデータに大きな差が見られるが、これは測定子22の移動速度が早いため、培養組織の復元が測定子22の戻りに対応できていないことが考えられる。測定時のプローブ20の移動速度を適切な状態にしたり、付加荷重を小さくしたりすることによって、培養組織の弾性による移植適性判定が可能となる。
【0082】
図6の触覚−変位の関係図では往路と復路の差が顕著に現れている。コラーゲンゲル担体のみの場合に比べ、培養軟骨組織の往路と復路の差は明らかであり、培養軟骨組織に弾性が付与されていることが明らかである。
【0083】
このように、触覚−荷重、あるいは触覚−変位の関係図からは、所定変位あるいは荷重時の振動数変化量Δfのみでなく、その傾きや往路と復路の差による弾性情報等を得ることができ、これらを単独あるいは関連させることで移植特性の判定基準とすることができる。従って、ここで得られた判定基準を用いて、同様に培養された培養軟骨の移植適性を容易に且つ適切に判定することができる。
【0084】
<培養軟骨組織の培養における硬さの経時変化>
図2〜4の全ての経時変化グラフ及び図5の関係図による経時変化が示すように、コラーゲンゲル担体のみの硬さがほぼ平坦で変化がないのに比して、細胞を組み込み培養した培養軟骨組織では培養日数の経過とともに、徐々に硬さが増していることが観察できる。
【0085】
培養組織の硬さは培養7日目(1週間目)頃まではコラーゲン担体のみの判定基準モデルとの相違がほとんど見られないが、播種密度によっては培養14日目(2週間目)以降になると硬さの差が顕著に観察できる。コラーゲンゲル担体のみのものに対して相違の少ない播種密度の低い培養軟骨であっても、この時点での培養組織から切片を作成し、染色像を確認すると、細胞が増殖していることは確認できる。培養21日目(3週間目)にもなるとコラーゲンゲル担体のみのものとも差が顕著に現れるとともに、播種密度の違いによる硬さの相違も大きく観察できる。播種密度2×10個/mlのものでは、培養21日目以降の硬さの変化については、大きな変化は観察されなかった。
【0086】
<経時変化データに基づく品質管理>
本実施例での培養軟骨組織は図2〜4に示される通り、培養開始後すぐには硬さの変化が見られず、培養14〜21日目において硬さの変化を顕著に観察できる。ここで得られた培養軟骨組織の経時的な変化に基づいて、移植適性を予測し、播種密度や培地等の培養条件を変更させる。この培養条件の変更によって、この硬さの変化の割合、及び細胞増殖の割合等を変化させることができるので、所望の培養日数で移植用培養組織に適正な硬さになるように培養を制御することができ、適切な硬さを有する培養組織を安定して提供することが可能となる。
【0087】
[実施例2]
次に図7及び8を参照して、本発明の実施例2を説明する。実施例2では、前述の培養軟骨組織測定モデル及び実施例1の測定条件を一部変更して測定を行なった。本実施例の培養軟骨組織測定は、直径2.8〜3.0cm、厚さ3mmの半球状に培養した培養軟骨組織を測定対象とし、直径1mmの半球状の接触子32を有するプローブ20を用いて測定した。硬さ測定装置10は、接触子32のサイズが異なる以外は、前記培養軟骨組織測定モデル及び実施例1で使用したものと同一のものであった。
【0088】
培養軟骨組織の作製は、細胞懸濁液の濃度を1×10個/mlとして3%アテロコラーゲン溶液と混合し、この混合液1500μl(播種密度は、2×10個/ml)を半球状にマウントした以外は、実施例1と同様に行なった。硬さの測定は、培養軟骨組織の天頂部と、それ以外の29地点の合計30地点で行なった。測定時の測定子22の移動速度は2mm/sとし、移動量は2mmとした。測定点の密度は、培養軟骨組織の表面1cm当たり約5箇所となった。それ以外の測定条件は、前記培養軟骨組織測定モデル及び実施例1の測定条件と同一とした。
【0089】
図7は、所定の荷重(4.9×10−3N(0.5gf))を加えたときの振動数変化量Δfの経時変化を示すグラフである。なお、グラフは、30箇所の測定点の平均を示している。所定荷重を加えたときの振動数変化量Δfは、実施例1と同様の傾向を示しており、培養期間の経過と共に培養軟骨組織の硬さが増していくことが観察された。また、このように複数点測定に基づく平均値で評価することによって、培養軟骨の硬さの変化を確実に把握することができ、正確な測定及び移植適性の判定に適していることが示された。本実施例の測定条件では、好ましくは−15Hz以上、更に好ましくは−10〜0Hzの振動数変化量Δfを移植適性範囲として、培養軟骨組織の移植適性判定、品質管理及び培養軟骨組織の製造を行なうことができる。
【0090】
図8は、触覚−変位の関係を示したグラフである。実施例1と同様に、培養期間が経過するのに従って、変位の増加に伴う振動数変化量Δfが小さくなっており、このことは、硬さが増していることを示している。また、培養7日目では行き(接触子の下降)と戻り(接触子の上昇)の触覚情報に差が見られ、培養組織に十分な弾性がまだ備わっていないことが見て取れる。培養14日目以降になると、行きと戻りの差はほとんど見られず、培養組織が弾性を有し、接触子の上昇に追随するように元の形状に復元していることが見て取れる。なお、図8において変位量は、測定子22の基準位置からの移動量を示している。このため、移動量0.5mmのときに、接触子32が培養軟骨組織と接触する。
【0091】
このように、本発明では、培養軟骨組織における細胞の増殖状態、つまり培養状態を硬さ情報として測定するため、培養組織を破壊することなく、また具体的に、移植適性を有するか否かを判定することができる。また、経時的な変化を測定し予測することによって、移植用として品質の安定した培養組織を提供するための品質管理が可能となる。さらに、このような品質管理を行うことによって、移植適性を有する培養組織を効率よく計画的に製造することができる。
【0092】
なお、本明細書では、培養軟骨を例に本発明を説明したが、硬さ情報に基づいて移植適性を判定可能な培養組織であれば、各培養組織を構成する細胞種によって上述のように硬さ情報を得ることにより、同様に適用することができることは、当業者であれば明らかである。
【0093】
また本実施の形態に係る硬さ測定装置10では、触覚センサ部24以外に圧力センサ部26及び変位センサ部28を設けているが、培養組織の硬さを測定して移植適性を判定するには、触覚センサ部24のみが配置されていればよい。これにより簡単な装置構成で培養組織の移植適性を判定することができる。
【0094】
本実施の形態に係る硬さ測定装置10は、プローブ20をアーム14及び支持軸16により架台12に固定させているが、培養組織に対して一定の荷重で接触可能であれば、プローブ20は固定されていなくてもよい。例えば、同様の機能を備えたペン型の硬さ測定装置でも培養組織の硬さを測定して、本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に適用可能な硬さ測定装置の一例を示した図である。
【図2】本発明の実施例における各播種密度における触覚情報(振動数変化量Δf)の経時変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における各播種密度における触覚情報をコラーゲンゲル担体のみの触覚情報で無次元化したΔf/Δfの経時変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例における所定荷重における触覚情報の経時変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例に係る触覚−荷重の関係図である。
【図6】本発明の実施例に係る触覚−変位の関係図である。
【図7】本発明の他の実施例における触覚情報(振動数変化量Δf)を経時変化を示す他のグラフである。
【図8】本発明の他の実施例における触覚−変位の関係図である。
【符号の説明】
【0096】
10 硬さ測定装置
20 プローブ(検出部)
22 測定子
24 触覚センサ部
26 圧力センサ部(荷重検出部)
28 変位センサ部(変位量検出部)
32 接触子(接触部)
34 振動子
36 ピックアップ(振動検出部)
40 コントロールユニット(算出手段)
42 制御部
44 自励発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで培養され、培養期間の経過に伴って硬さまたは弾性が変化する三次元構造を有する培養組織の硬さ情報を測定し、該測定結果に基づいて細胞の増殖および産生基質の量の状態を把握し、当該状態に基づいて、培養組織の移植適性を判定する培養組織の品質管理方法。
【請求項2】
接触部、該接触部に連結された振動子及び該振動子の振動を検出する振動検出部を備えた検出部と、該振動検出部からの検出結果に基づいた硬さ情報を算出する算出手段と、を有する硬さ測定装置を使用し、前記培養組織に前記接触部を接触させて該培養組織の硬さを測定する請求項に記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項3】
前記検出部が、前記接触部に加えられる荷重を検出する荷重検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記荷重検出部により検出された荷重との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定する請求項に記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項4】
前記検出部が、前記接触部の基準位置からの変位量を検出する変位量検出部を更に備え、前記振動検出部により検出された振動子の振動と前記変位量検出部により検出された変位量との関係に基づいて前記培養組織の硬さを測定する請求項に記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項5】
前記培養組織は、三次元構造を有する組織再生用基材に細胞を播種・培養することによって作製されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項6】
前記組織再生用基材はコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、キチン、キトサン、ラミニン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及びポリロタキサンのいずれか1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項7】
前記培養組織の源となる細胞としては軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、神経細胞またはこれらの前駆細胞の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の培養組織の品質管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれかの品質管理方法を含む培養組織の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−76409(P2008−76409A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279001(P2007−279001)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【分割の表示】特願2002−12628(P2002−12628)の分割
【原出願日】平成14年1月22日(2002.1.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年8月25日 社団法人日本整形外科学会発行の「日本整形外科学会雑誌 第74巻第8号」に発表
【出願人】(599170434)
【出願人】(399051858)株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (21)