説明

培養装置、培養管理方法およびプログラム

【課題】 培養装置における培養工程のスケジュールを、細胞の培養状態の経時的変化に応じてより適切に調整する手段を提供する。
【解決手段】 培養装置は、培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、異なる培養容器の培養工程のイベントが重複しないように実行するスケジュール管理部と、複数の培養容器の培養状況を取得して、スケジュール管理部で決定されたスケジュールを再度変更するスケジュール変更部と、を備える。そして、スケジュール管理部は、スケジュール変更部の指示により、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置、培養管理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の培養容器を用いて恒温室内で細胞の培養を行う培養装置が知られている。かかる培養装置では、培養容器のタイムラプス観察のスケジュールを設定するときに、スケジュールの重複を防止する装置も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−301368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞の培養状態の推移は各培養容器で異なるため、培養装置における培養工程の最適なスケジュールは時間の経過により変化しうる。
【0005】
上記事情に鑑み、培養装置における培養工程のスケジュールを、細胞の培養状態の経時的変化に応じてより適切に調整する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である培養装置は、内部雰囲気が所定の環境条件に維持されるととともに、培養細胞を培養する培養容器が複数収容可能な恒温室と、培養細胞の画像を撮像する撮像部と、を備える。また、培養装置は、培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、異なる培養容器の培養工程のイベントが重複しないように実行するスケジュール管理部と、複数の培養容器の培養状況を取得して、スケジュール管理部で決定されたスケジュールを再度変更するスケジュール変更部と、を備える。そして、スケジュール管理部は、スケジュール変更部の指示により、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させる。
【0007】
ここで、コンピュータを培養装置として動作させるプログラムおよびプログラム記憶媒体や、上記の培養装置の動作を方法のカテゴリで表現したものも、本発明の具体的態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
複数の培養容器の培養状況に応じて、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させる。これにより、培養装置における培養工程のスケジュールが、細胞の培養状態の経時的変化に応じてより適切に調整される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態での培養装置(ラボシステム)の構成例を示す図
【図2】一実施形態のラボシステムの動作例を示す流れ図
【図3】第1のスケジュール変更例を示す図
【図4】第2のスケジュール変更例を示す図
【図5】第3のスケジュール変更例を示す図
【図6】第4のスケジュール変更例を示す図
【図7】第5のスケジュール変更例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<一実施形態での装置構成例>
図1は、一実施形態での培養装置の構成例を示す図である。一実施形態では、培養細胞の培養および観察と、培養細胞に対する各種の培養操作とを行うラボシステムに培養装置が実装されている例を説明する。このラボシステムでは、複数の培養容器を用いて細胞の培養工程を並行して行うことができる。
【0011】
ラボシステムは、恒温室11と、搬送ロボット12と、ウォッシャー13と、ディスペンサ14と、遠心器15と、セルピッカー16と、ピペッター17と、シェーカー18と、スライドホルダユニット19と、オートシーラー20と、コントローラ21とを備えている。
【0012】
ここで、恒温室11、搬送ロボット12、ウォッシャー13、ディスペンサ14、遠心器15、セルピッカー16、ピペッター17、シェーカー18、スライドホルダユニット19およびオートシーラー20は、それぞれコントローラ21に配線で接続されている。
また、本明細書の図では、配線の接続を実線の矢印で示し、培養容器が搬送される流れを破線の矢印で示す。
【0013】
恒温室11には、培養細胞を培養する培養容器が収納される。恒温室11の内部雰囲気は、内蔵の環境制御装置(不図示)により、細胞の培養に適した環境(例えば、温度37℃、湿度90%、CO2濃度5%の雰囲気)に維持されるとともに、コンタミネーションを防止するために高い清浄度に保たれる。なお、培養容器には、培養細胞が培地とともに収容されている。また、培養細胞は、幹細胞(iPS細胞、ES細胞)であってもよく、他の細胞であってもよい。
【0014】
また、恒温室11内には、複数の培養容器を収納する容器収納部22(ストッカー)と、撮像部の一例としての観察ユニット23と、容器搬送装置24とが配置されている。
【0015】
ここで、観察ユニット23は、恒温室11の環境下で培養細胞等の観察を行うための電子カメラモジュールである。一実施形態の観察ユニット23は、透過型顕微鏡(例えば位相差顕微鏡)を介して培養細胞を撮像するミクロ観察系の撮像装置23aと、培養容器全体を俯瞰的に撮像できるマクロ観察系の撮像装置23bとを有している。この観察ユニット23は、培養操作の適否を判定するための検査画像を撮像することもできる。ミクロ観察系およびマクロ観察系の各撮像装置23a,23bで撮像された画像は、それぞれコントローラ21に入力される。
【0016】
なお、一実施形態の観察ユニット23は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)によるOCT装置23cをさらに有する。OCT装置23cは、波長幅の広い光をプローブとして用いるため、その光に対して透明な被観察物の3次元構造を非染色・非侵襲で観察できる。
【0017】
容器搬送装置24は、コントローラ21の制御によって、容器収納部22および観察ユニット23の間で培養容器の受け渡しを行う。これにより、恒温室11の収納部に収納された培養容器を所定の時間間隔でタイムラプス観察することが可能となる。また、容器搬送装置24は、コントローラ21の制御によって、搬送ロボット12との間で培養容器の受け渡しを行う。これにより、恒温室11への培養容器の搬出/搬入を行うことができる。
【0018】
なお、ラボシステムにおける恒温室11の外の雰囲気は、恒温室11と同等の環境条件でなくともかまわないが、環境条件のパラメータを恒温室11の内部雰囲気に近づけてもよい。
【0019】
搬送ロボット12は、コントローラ21の制御によって、ラボシステム内の各ユニット(ウォッシャー13、ディスペンサ14、遠心器15、セルピッカー16、ピペッター17、シェーカー18、スライドホルダユニット19、オートシーラー20)と恒温室11との間で培養容器を搬送する。また、搬送ロボット12は、外部からラボシステム内への培養容器の搬出/搬入を行う。
【0020】
ウォッシャー13は、主に培養容器の培地交換で用いられるユニットであって、培養容器から古い培地を吸引する。また、ディスペンサ14は、主に培養容器の培地交換で用いられるユニットであって、培養容器に新しい培地を注入する。なお、ディスペンサ14は、培養容器への薬剤の注入にも用いることができる。
【0021】
一例として、ウォッシャー13およびディスペンサ14はほぼ同一の構成であって、使い捨てのシリンジチップを駆動させて培地吸引または培地注入を行う駆動部と、上記のシリンジチップを駆動部に着脱する着脱機構とを有している。
【0022】
遠心器15は、培養細胞と各種溶液とを遠心力で分離する装置である。一例として、遠心器15は、凍結細胞の解凍処理を行ったときの細胞および上澄液の分離や、細胞培養時のトリプシンの除去に用いられる。
【0023】
セルピッカー16は、培養容器から任意のコロニーをピッキングして取り出す装置である。例えば、セルピッカー16は、培養細胞の継代のときに用いられる場合もある。
【0024】
ピペッター17は、新たな培養容器に細胞を撒くための装置である。例えば、ピペッター17は、培養細胞の継代のときに、ピッキングされたコロニーから得られた培養細胞を新たな培養容器に撒くために用いられる。また、ピペッター17は、iPS細胞の培養時に必要となるフィーダー細胞を培養容器に撒くときに用いることもできる。
【0025】
シェーカー18は、培養容器を略水平方向に振動させることで、培養容器内に撒かれた細胞を均一にならすための装置である。
【0026】
スライドホルダユニット19は、未使用の培養容器をピペッター17等に供給するための装置である。また、オートシーラー20は、培養容器の上にシールテープを張ることで、培養容器を密封する装置である。
【0027】
コントローラ21は、ラボシステムの動作を統括的に制御するとともに、ラボシステムにおける細胞の培養工程を培養容器単位で管理するコンピュータである。コントローラ21は、スケジュール管理部31と、解析部32と、表示制御部33と、記憶装置34とを有している。なお、コントローラ21には、ユーザの操作を受け付ける操作部35と、画像等を表示するモニタ36とが接続されている。
【0028】
スケジュール管理部31は、ラボシステムの各部を制御して、各々の培養容器に対する培養工程のイベント(培養容器のタイムラプス観察、培地交換、継代)を実行する。このとき、スケジュール管理部31は、培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、培養工程のイベントを単位時間(例えば10分)刻みで管理する。そして、スケジュール管理部31は、同じ単位時間で重複するイベントが存在される場合、後から登録されるイベントの時間帯を変更することで重複登録を排除する。
【0029】
解析部32は、観察ユニット23で撮像された画像を解析し、スケジュールの変更要件を満たすか否かを判定する。なお、スケジュールの変更要件を満たす場合には、スケジュール管理部31によって、後述する培養容器のスケジュール情報の変更が行われる。
【0030】
表示制御部33は、例えば、スケジュール等をモニタに表示させる。
【0031】
記憶装置34は、基本登録情報、スケジュール情報、培養容器の観察情報を記憶する不揮発性の記憶媒体である。なお、基本登録情報、スケジュール情報、培養容器の観察情報は、各々の培養容器に対してそれぞれ1セットずつ生成される。
【0032】
ここで、基本登録情報は、培養容器で培養される細胞の種類、培地の種類、継代の履歴などを示す情報と、イベント変更の設定情報(各イベントの時期を変更するときの判定条件、イベントの時期を変更するときの許容時間幅)とを含む。また、上記のイベント変更の設定情報には、イベントを変更するときの希望時間帯の情報が含まれる。例えば、他の培養容器とのイベントの時間帯が重複してスケジュールの登録ができないときに、スケジュール管理部31によって、上記の時間帯を示す情報が希望時間帯の情報として生成される。
【0033】
スケジュール情報は、培養容器のタイムラプス観察・培地交換の実行時期をそれぞれ記録した情報である。また、スケジュール情報には、タイムラプス観察時の撮影条件の情報が含まれる。
【0034】
また、培養容器の観察情報は、或る培養容器を対象としてタイムラプス観察で取得した複数の観察画像と、各観察画像の取得時期を示す情報と、観察期間における恒温室11の環境条件の情報とを含む。
【0035】
<一実施形態での動作例>
次に、図2を参照しつつ、一実施形態のラボシステムの動作例を説明する。図2の例では、それぞれ細胞が収容された複数の培養容器が予め恒温室11に収納されるとともに、各培養容器について基本登録情報およびスケジュール情報が予め記憶装置34に登録されている状態を前提として説明を行う。
【0036】
ステップ#101:スケジュール管理部31は、記憶装置34のスケジュール情報を参照し、いずれかの培養容器の培地交換の時期が到来したか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には#102に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には#103に処理が移行する。
【0037】
ステップ#102:スケジュール管理部31は、ウォッシャー13およびディスペンサ14を制御して培地交換を実行する。
【0038】
#102でのスケジュール管理部31は、搬送ロボット12および容器搬送装置24を制御して、培地交換を行う培養容器を容器収納部22からウォッシャー13に搬送する。そして、ウォッシャー13が、培養容器から古い培地を吸引する。次に、ディスペンサ14が、培養容器に新たな培地を注入する。なお、培地交換後の培養容器は、培地交換後に恒温室11の容器収納部22に再び収納される。その後、#101に戻って上記した一連の処理が繰り返される。
【0039】
ステップ#103:スケジュール管理部31は、記憶装置34のスケジュール情報を参照し、いずれかの培養容器の観察開始時間が到来したか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には#104に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#101に戻って上記した一連の処理が繰り返される。
【0040】
ステップ#104:スケジュール管理部31は、培養容器のタイムラプス観察を実行する。
【0041】
#104でのスケジュール管理部31は、容器搬送装置24を制御して、培養容器を容器収納部22から観察ユニット23に搬送する。そして、スケジュール管理部31は、観察ユニット23を制御して、ミクロ観察系の撮像装置23aによる培養細胞の観察画像と、OCT装置23cによる培養細胞の観察画像とを撮像する。なお、#104でのスケジュール管理部31は、マクロ観察系の撮像装置23bで培養容器の全体観察画像を撮像してもよい。その後、スケジュール管理部31は、記憶装置34の培養容器の観察情報を更新する。具体的には、スケジュール管理部31は、タイムラプス観察した培養容器の観察情報に、#104で撮像された観察画像を対応付けて記録する。
【0042】
ステップ#105:解析部32は、#104で取得した画像を解析し、処理対象の培養容器(#104で観察した培養容器)の継代を行うか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には#106に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には#108に処理が移行する。
【0043】
一例として、#105での解析部32は、ミクロ観察系の観察画像またはOCTでの観察画像を解析する。そして、解析部32は、培養容器での細胞領域の占有率が閾値以上となるとき(コンフリューエントの状態に近い場合)に、継代を行うと判定する。
【0044】
ステップ#106:スケジュール管理部31は、ウォッシャー13、セルピッカー16、ディスペンサ14、ピペッター17等を制御して、培養細胞の継代を実行する。一例として、#106での継代は、以下のようにして行われる。
【0045】
まず、ウォッシャー13が、継代を行う培養容器から古い培地を吸引する。セルピッカー16は、継代を行う培養容器から培養細胞のコロニーをピッキングする。このとき、培養容器から細胞を剥離させるためにトリプシン処理をおこなってもよい。次に、ディスペンサ14は、スライドホルダユニット19から供給された新たな培養容器に培地を注入する。そして、ピペッター17は、ピッキングされたコロニーをある程度ばらばらにした上で、新たな培養容器に培養細胞を撒く。その後、培地をこぼさないように撹拌機で撹拌して細胞を均一にする。なお、継代後の培養容器は、培地交換後に恒温室11の容器収納部22に再び収納される。
【0046】
ステップ#107:スケジュール管理部31は、継代後の培養容器について基本登録情報およびスケジュール情報を記憶装置34に新規に登録する。
【0047】
例えば、スケジュール管理部31は、継代前の培養容器の基本登録情報を引き継ぎ、さらに今回の継代の履歴を基本登録情報に記録する。また、スケジュール管理部31は、今回の継代を基準として、培養容器のタイムラプス観察と培地交換とを所定時間ごとに行うスケジュール情報を生成する。
【0048】
また、継代前の培養容器での培養が中止される場合には、#107でのスケジュール管理部31は、継代前の培養容器のスケジュール情報を変更し、以後のイベントの実行をキャンセルしてもよい。この場合には、ラボシステムの培養工程のスケジュールにおいて、継代前の培養容器に関する全イベントの時間帯に空きが生じることとなる。その後、#115に処理が移行する。
【0049】
ステップ#108:解析部32は、#104で取得した画像を解析し、処理対象の培養容器についてタイムラプス観察の時期を変更するか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には#109に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には#110に処理が移行する。
【0050】
例えば、#108での解析部32は、同じ培養容器の前回の観察画像と今回の観察画像とを用いて、培養細胞の占有面積の変化率や、培養細胞の単独/2連結比率の変化率を求める。上記のパラメータは、培養細胞の分裂頻度に相関を有する。そのため、解析部32は、上記のパラメータから、細胞分裂の頻度、細胞の分裂周期、コンフリューエントの予想時期などを求めることができる。そして、解析部32は、細胞分裂の頻度、細胞の分裂周期、コンフリューエントの予想時期から、現在のタイムラプス観察のインターバルが適正でないと判定したときに、タイムラプス観察の時期を変更する。
【0051】
ステップ#109:スケジュール管理部31は、処理対象の培養容器についてスケジュール情報のタイムラプス観察の時間帯を再設定する。この場合には、ラボシステムの培養工程のスケジュールにおいて、従前のタイムラプス観察の時間帯に空きが生じることとなる。その後、#115に処理が移行する。
【0052】
ステップ#110:解析部32は、#104で取得した画像を解析し、処理対象の培養容器について培地交換の時期を変更するか否かを判定する。
【0053】
例えば、#110での解析部32は、観察画像の培地に添加されるpH試薬の色に基づいて、培地の交換が必要か否かを判定する。
【0054】
上記要件を満たす場合(YES側)には#111に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には#112に処理が移行する。
【0055】
ステップ#111:スケジュール管理部31は、処理対象の培養容器についてスケジュール情報の培地交換の時間帯を再設定する。この場合には、ラボシステムの培養工程のスケジュールにおいて、従前の培地交換の時間帯に空きが生じることとなる。その後、#115に処理が移行する。
【0056】
ステップ#112:解析部32は、#104で取得した画像を解析し、処理対象の培養容器が培養終了条件を満たすか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には#113に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#101に戻って上記した一連の処理が繰り返される。
【0057】
一例として、#112での解析部32は、培養細胞の成長が停止している場合には、培養終了条件を満たすと判定する。
【0058】
また、他の例として、#112での解析部32は、培養細胞が所望の状態になった場合(iPS細胞へ脱分化できた場合や、iPS細胞から所望の細胞に分化誘導できた場合など)に、培養終了条件を満たすと判定する。
【0059】
このとき、解析部32は、観察画像に含まれる培養細胞の形態的特徴(細胞の大きさ、細胞の形状、アポトーシスの有無等)や、細胞とマーカーとの反応に応じて、培養細胞が所望の状態にあるか否かを判定すればよい。なお、心筋細胞への分化誘導の場合には、複数フレームの観察画像から培養細胞の反復的な収縮運動(心筋細胞の脈動)が検出できたときに、解析部32は培養終了条件を満たすと判定すればよい。
【0060】
ステップ#113:スケジュール管理部32は、搬送ロボット12を制御して、処理対象の培養容器をラボシステムから搬出する。
【0061】
ステップ#114:スケジュール管理部31は、処理対象の培養容器のスケジュール情報を変更し、以後のイベントの実行をキャンセルする。この場合には、ラボシステムの培養工程のスケジュールにおいて、処理対象の培養容器に関する全イベントの時間帯に空きが生じることとなる。
【0062】
ステップ#115:スケジュール管理部31は、#107、#109、#111、#114でのイベントの変更に伴って、スケジュール上で他の培養容器のイベント(あるいは処理対象の培養容器のイベント)を移動させる。
【0063】
例えば、#115でのスケジュール管理部31は、他の培養容器の基本登録情報(イベント変更の設定情報)を参照し、上記の変更されたイベントと重複する時間帯から現在の時間帯に移動されたイベントを探索する。そして、スケジュール管理部31は、上記の要件を満たすイベントが存在するときに、スケジュール上で他の培養容器のイベントを空きの生じた時間帯に移動させる。なお、上記の条件を満たす他の培養容器のイベントが存在しない場合には、スケジュール管理部31は、#115の処理を省略してもよい。
【0064】
ここで、上記の要件を満たすイベントが複数存在する場合、スケジュール管理部31は、各イベントにおける変更時の許容時間幅を考慮し、許容時間幅のより小さいイベントを優先的に移動させてもよい。また、スケジュール管理部31は、公知の最適化問題のアルゴリズムを適用して、上記の要件を満たす各イベントの時間帯をそれぞれ調整してもよい。
【0065】
また、例えば、グループ化された複数の培養容器で同種類の細胞を同時並行して培養しているケースでは、グループ内の培養容器のいずれかでスケジュールが変更されたときに、スケジュール管理部31は、同じグループに含まれる他の培養容器のスケジュールも一括して変更する。これにより、同種類の細胞を大量培養するときに、ラボシステムによる培養工程のスケジュールの管理が容易となる。
【0066】
ステップ#116:表示制御部33は、変更後のスケジュールをモニタ36に更新表示させる。これにより、ユーザは培養工程のスケジュールの状態をリアルタイムで確認することができる。なお、表示制御部33は、ユーザの表示指示があったときに、変更後のスケジュールをモニタ36に表示するようにしてもよい。その後、#101に戻って上記した一連の処理が繰り返される。以上で、図2の流れ図の説明を終了する。
【0067】
<一実施形態での実施例>
以下、理解の便宜のため、一実施形態のラボシステムによるスケジュール変更例を具体的に説明する。なお、実施例の図3〜図7では、横方向が時間経過に対応する。
【0068】
(第1のスケジュール変更例)
図3は、第1のスケジュール変更例を示す図である。図3の例では、培養容器A〜Cにつき、それぞれタイムラプス観察のスケジュールが予め登録されている。また、図3の例では、培養容器Aの4回目のタイムラプス観察との重複を排除するために、スケジュール管理部31が、培養容器Bについて3回目のタイムラプス観察の時間帯を移動させている。
【0069】
ここで、培養容器Aの3回目のタイムラプス観察で、培養容器Aの培養終了条件を満たすと解析部32が判定した場合(#112のYES側)を考える。
【0070】
このとき、スケジュール管理部31は、培養容器Aの4回目および5回目のタイムラプス観察をキャンセルする(#114)。そして、スケジュール管理部31は、培養容器Bについて3回目のタイムラプス観察の時間帯を空きの生じた時間帯に移動させる(#115)。
【0071】
(第2のスケジュール変更例)
図4は、第2のスケジュール変更例を示す図である。図4の例では、培養容器A,Bにつき、それぞれタイムラプス観察のスケジュールが予め登録されている。また、図4の例では、培養容器Aの5回目のタイムラプス観察との重複を排除するために、スケジュール管理部31が、培養容器Bについて4回目のタイムラプス観察の時間帯を移動させている。
【0072】
ここで、培養容器Aの1回目のタイムラプス観察で、培養容器Aのタイムラプス観察の時期を変更すると解析部32が判定した場合(#108のYES側)を考える。
【0073】
このとき、スケジュール管理部31は、培養容器Aのタイムラプス観察の時期を再設定する(#109)。そして、スケジュール管理部31は、培養容器Bと重複が生じたイベントの時間帯が空いたときには、培養容器Bについて4回目のタイムラプス観察の時間帯を空きの生じた時間帯に移動させる(#115)。
【0074】
(第3のスケジュール変更例)
図5は、第3のスケジュール変更例を示す図である。図5の例では、培養容器A,Bにつき、それぞれ培地交換のスケジュールが予め登録されている。また、図5の例では、培養容器Aの培地交換の許容時間幅は、培養容器Bの培地交換の許容時間幅よりも短くなっている。なお、図5において、各培養容器における培地交換の許容時間幅を細実線で示す
ここで、培養容器Aについて、培地交換の時期を変更すると解析部32が判定した場合(#110のYES側)を考える。
【0075】
例えば、培養容器Aの培地交換の時間帯を移動させたとき(#109)に、培養容器Aの6回目の培地交換と、培養容器Bの3回目の培地交換との間でイベントが一部重複したとする。この場合、スケジュール管理部31は、培養容器A,Bの培地交換の許容時間幅に基づいて、より許容時間幅が短い培養容器Aの培地交換を優先し、培養容器Bの培地交換の時間帯を重複が生じないように移動させる(#111,#115)。
【0076】
(第4のスケジュール変更例)
図6は、第4のスケジュール変更例を示す図である。図6は、グループ化された5つの培養容器A1〜A5で同種類の細胞を同時並行して培養しているケースである。図6の例では、予め登録されたスケジュールにおいて、培養容器A1〜A5の順に各イベントが連続的に実行されるようになっている。
【0077】
一例として、培養容器A1〜A5のうち、培養容器A2,A4で細胞の成長が遅いと解析部32が判定した場合(#110のYES側に相当)を考える。
【0078】
このとき、スケジュール管理部31は、培養容器A1〜A5の培地交換の時期をグループ内で入れ替えて、培養容器A2,A4の培地交換の時間帯を遅くする(#111,#115)。
【0079】
(第5のスケジュール変更例)
図7は、第5のスケジュール変更例を示す図である。図7は、3つの培養容器A〜Cで同種類の細胞を同時並行して培養しているケースである。図7の例では、予め登録されたスケジュールにおいて、培養容器A〜Cの順に各イベントが連続的に実行されるようになっている。
【0080】
一例として、培養容器A〜Cのうち、培養容器Bで先に継代の時期が到来したと解析部32が判定した場合(#105のYES側に相当)を考える。
【0081】
このとき、スケジュール管理部31は、培養容器Bの継代を先に行う(#106)とともに、培養容器Bでの細胞の培養を継続する(#107)。その後、培養容器A,Cで継代の時期が到来したと解析部32が判定した場合には、スケジュール管理部31は、培養容器A,Cの継代をそれぞれ実行する(#106)。
【0082】
(実施例に関する補足説明)
従来、細胞培養工程は、所定のスケジュールが組まれると、そのスケジュールに応じて実行されていた。しかしながら、同種の培養細胞であっても一般的な培養スケジュールが組まれている場合にも、細胞の培養状況によっては個別的に異なる場合がある。例えば、細胞A1は、細胞の育成状態が順調で、同種の細胞A2よりも細胞培養が早く進む場合がある。この場合には、細胞の培養状況に応じて各種のイベント(培地交換、継代など)をスケジュールより早く進めることも可能である。
【0083】
そこで、図6,7に示されるように、複数の細胞同士のイベントの入れ替えではなく、1つの細胞容器に着目した場合には、その細胞の培養状況によって細胞培養工程の短縮が可能である。
【0084】
一方、細胞の育成状態が悪いものでは、逆に各種イベントを遅らせることが必要な場合がある。その場合には、許容の範囲内で遅らせてイベントを実行すればよいが、許容範囲外の場合には細胞培養を続行することが無意味な場合もある。例えば、細胞が正常に育成されていない場合などである。
【0085】
<一実施形態の作用効果>
一実施形態でのラボシステムは、コントローラ21の制御下で、恒温室11での細胞培養と、細胞のタイムラプス観察と、継代・培地交換に関する培養操作を実行する。そのため、一実施形態のラボシステムによれば、細胞の培養工程を大幅に省力化できる。また、一実施形態のラボシステムによれば、培養工程上での人為的なミスを抑制するとともに、培養工程を平準化できるので、培養細胞の品質を安定させることが容易となる。
【0086】
また、一実施形態のラボシステムは、観察画像(#104)の解析結果に応じて、処理対象の培養容器に対する培養工程のスケジュールを管理する(#105、#108、#110、#112)。そして、ラボシステムは、スケジュール上で処理対象の培養容器のイベントと時期が前後する他の培養容器のイベントを移動させる(#115)。これにより、細胞の培養状態の経時的変化に応じて、各培養容器のスケジュールが自動的に調整されるので、ラボシステム全体として培養工程の最適化および培養工程のスループット向上を図ることができる。
【0087】
例えば、研究室の共用設備で異なる細胞の培養を並行して行う場合、各培養容器でのスケジュールは全く異なるものとなるので、その管理が非常に煩雑となる。一実施形態のラボシステムでは、細胞の培養状態の経時的変化に応じて各培養容器のスケジュールが自動的に最適化されるので、有用性が高い。
【0088】
<実施形態の補足事項>
(補足事項1):上記実施形態において、観察ユニット23は、レーザ光源および共焦点光学系を有する共焦点蛍光顕微鏡で細胞の観察を行う撮像装置(不図示)をさらに有していてもよい。
【0089】
(補足事項2):上記実施形態においてiPS細胞の培養を行うときには、スケジュール管理部31は、継代に先立って、冷凍保存されたフィーダー細胞の解凍や、フィーダー細胞の培養を行うようにしてもよい。
【0090】
(補足事項3):上記実施形態では、コントローラ21のスケジュール管理部31、解析部32、表示制御部33をハードウェア的に実現する例を説明したが、これらの各部の機能をコンピュータのプログラムで実現させてもよい。なお、かかる場合には、プログラムは、例えば記憶装置34などに記録すればよい。
【0091】
(補足事項4):なお、本明細書に含まれる培養装置の態様を付記1〜3として以下に示す。
【0092】
(付記1):内部雰囲気が所定の環境条件に維持されるととともに、培養細胞を培養する培養容器を収容可能な恒温室と、前記培養細胞の画像を撮像する撮像部と、を備える培養装置であって、
予め登録されたスケジュールに基づいて、前記培養容器の培養工程のイベントを実行するスケジュール管理部と、
前記培養容器の培養状況を取得して、前記スケジュール管理部で決定されたスケジュールを再度変更するスケジュール変更部と、を備え、
前記スケジュール管理部は、前記スケジュール変更部の指示により、予め登録されたスケジュールに対して前記培養容器のイベントを移動させることを特徴とする培養装置。
【0093】
(付記2):付記1に記載の培養装置において、
前記第1培養容器を撮像して得た前記画像を解析し、前記スケジュールを早めに進めるかあるいは遅くするかを判定する解析部を、前記スケジュール変更部が有することを特徴とする培養装置。
【0094】
(付記3):付記2に記載の培養装置において、
前記解析部は、前記画像解析により前記培養細胞の育成状況が良好であると判定されると、前記スケジュールを早めに進める指示を前記スケジュール管理部に出力することを特徴とする培養装置。
【0095】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図する。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0096】
11…恒温室、12…搬送ロボット、13…ウォッシャー、14…ディスペンサ、15…遠心器、16…セルピッカー、17…ピペッター、18…シェーカー、19…スライドホルダユニット、20…オートシーラー、21…コントローラ、22…容器収納部、23…観察ユニット、24…容器搬送装置、31…スケジュール管理部、32…解析部、33…表示制御部、34…記憶装置、35…操作部、36…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部雰囲気が所定の環境条件に維持されるととともに、培養細胞を培養する培養容器が複数収容可能な恒温室と、前記培養細胞の画像を撮像する撮像部と、を備える培養装置であって、
前記培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、異なる前記培養容器の培養工程のイベントが重複しないように実行するスケジュール管理部と、
前記複数の培養容器の培養状況を取得して、前記スケジュール管理部で決定されたスケジュールを再度変更するスケジュール変更部と、を備え、
前記スケジュール管理部は、前記スケジュール変更部の指示により、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載の培養装置において、
前記第1の培養容器を撮像して得た前記画像を解析し、前記スケジュールの変更要件を満たすか否かを判定する解析部を、前記スケジュール変更部が有することを特徴とする培養装置。
【請求項3】
請求項1に記載の培養装置において、
外部からのスケジュール変更指示を受け付ける受付部を、前記スケジュール変更部が有することを特徴する培養装置。
【請求項4】
請求項1に記載の培養装置において、
前記イベントは、前記培養容器の観察、培地交換、継代のいずれかを含むことを特徴とする培養装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の培養装置において、
前記スケジュール管理部は、前記第1の培養容器のイベントと重複する時間帯から現在の時間帯に移動されたイベントが前記第2の培養容器のスケジュールに存在するときに、スケジュール上で第2の前記培養容器のイベントを移動させる培養装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の培養装置において、
前記スケジュール管理部は、グループ化された複数の前記培養容器のうちで1つの培養容器のスケジュールが変更されたときに、グループ化されている他の培養容器のスケジュールを変更する培養装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の培養装置において、
変更後のスケジュールを表示装置に表示させる表示制御部をさらに備える培養装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の培養装置において、
前記スケジュール管理部は、前記第1の培養容器のイベントの許容時間と、前記第2の培養容器のイベントの許容時間との大小を比較し、短い前記許容時間の前記イベントを優先することを特徴とする培養装置。
【請求項9】
内部雰囲気が所定の環境条件に維持されるととともに、培養細胞を培養する培養容器が複数収容可能な恒温室と、前記培養細胞の画像を撮像する撮像部と、を備える培養装置を制御する培養管理方法であって、
前記培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、異なる前記培養容器の培養工程のイベントが重複しないように実行する工程と、
前記複数の培養容器の培養状況を取得して、登録されたスケジュールを再度変更する工程と、
前記スケジュールの再度の変更に応じて、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させる工程と、
を含む培養管理方法。
【請求項10】
内部雰囲気が所定の環境条件に維持されるととともに、培養細胞を培養する培養容器が複数収容可能な恒温室と、前記培養細胞の画像を撮像する撮像部と、を備える培養装置を制御するコンピュータに、
前記培養容器ごとに予め登録されたスケジュールに基づいて、異なる前記培養容器の培養工程のイベントが重複しないように実行する工程と、
前記複数の培養容器の培養状況を取得して、登録されたスケジュールを再度変更する工程と、
前記スケジュールの再度の変更に応じて、スケジュール上で第1の培養容器のイベントと第2の培養容器のイベントとのいずれか一方を移動させる工程と、を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200181(P2012−200181A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66650(P2011−66650)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】