説明

基材の表面処理方法

【目的】 基材の表面処理により、親水性および耐久性に優れ、且つ多様な特性、機能を有する物品を形成する。
【構成】 酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理並びに不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理の少なくとも1種のプラズマ重合処理を基材表面に行なったのち、無機酸化物薄膜を形成する工程を含み、それによりプラズマ重合膜が基材表面の一部または全部を被覆しているとともに、無機酸化物薄膜が基材表面の残りの少なくとも一部を直接被覆しているかおよび/または前記プラズマ重合膜を不連続に被覆している物品を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プラズマ重合膜が基材表面の一部または全部を被覆しているとともに、無機酸化物薄膜が基材表面の残りの少なくとも一部を直接被覆しているかおよび/または前記プラズマ重合膜を不連続に被覆している物品を形成することからなる、基材表面に親水性被膜を形成する表面処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、基材の表面改質には物理的、電気的、化学的、機械的等のすべてにわたる数多くの技術が採用されており、また基材材料や処理材料についても、低分子および高分子、また天然および合成を含む有機物質、無機物質、金属あるいはそれらの混合物等、夥しい数にのぼっている。そのうち、基材に親水性を付与する表面改質は、接着性、印刷性、染色性、帯電防止性、防曇性、揆油性、耐汚染性、さらには生体適合性あるいは生体親和性を改良する技術として、広く採用されており、そのための技術手段は(イ)親水性材料による被覆、塗装、積層等による処理、(ロ)酸化剤、火炎等による酸化や化学反応による親水性官能基の導入、(ハ)親水性モノマーによるグラフト重合、(ニ)反応性雰囲気下での放電等によるプラズマ処理、(ホ)真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等による親水性薄膜形成のように多岐にわたっている。しかしながら、上記(イ)では、基材表面と親水性材料との間の結合が弱く、両者間の界面で分離し易いばかりか、被覆層の膜厚を薄くするのに限度があり、基材本来の特性が十分確保できるとは言えなかった。上記(ロ)はクロム酸等の酸化剤、空気中の酸素等による酸化処理、あるいは化学反応によってカルボキシル基等の親水性官能基を導入するものであるが、処理可能な基材または基材と反応試剤との組合せが制約されるのみならず、効果も一時的であって、例えば空気中にしばらく放置しただけで処理効果が損なわれるという欠点があった。上記(ハ)はアクリル酸、アクリルアミド等の親水性モノマーをグラフト重合するものであるが、グラフト重合層が柔らかいため、例えば洗浄を繰り返すことにより、親水性被覆膜が次第に磨耗する等の耐久性に欠点があった。上記(ニ)は酸素、窒素等の非重合性ガス雰囲気下でプラズマにより処理して親水性官能基を導入したり、あるいは含硫黄、含酸素、含窒素等の官能基を有する親水性プラズマ重合膜を形成するものであるが、これらも、上記(ロ)と同様空気中で放置するだけで親水性が低下したり、あるいは基材とプラズマ重合膜との間の付着性が十分でない等の耐久性に問題があり、またプラズマ重合膜の形成速度が数Å/秒程度と小さく、生産性が乏しいなどの欠点があった。さらに上記(ホ)は無機酸化物、金属、場合により有機物等を蒸発源あるいはターゲットとしてそれらの薄膜を基材表面に形成するものであり、特に無機酸化物の場合は薄膜の硬度が大きく耐擦傷性、耐磨耗性等にも優れているが、基材との接着性あるいは付着性が十分でないため繰り返し使用している間に基材から剥離してしまうなどの問題があった。しかも従来の基材の表面処理技術では、所要箇所に連続した被覆膜を形成することだけが意図されていたため、処理された基材の特性、機能等は基本的には基材あるいは処理剤の選択に依存して変えられるに過ぎず、多様な特性、機能等を有する物品を提供する方法としては不十分なものであった。
【0003】一方、上記プラズマ重合膜および無機酸化物薄膜に見られる欠点を解消するため、まず基材表面に有機モノマー等によるプラズマ重合処理を行って有機ポリマー層を形成し、ついでプラズマ重合条件下で無機酸化物等を蒸着して有機質ー無機質複合層を形成する方法が提案されている(特開昭56−147829号公報)。しかしながら、この方法は有機質ー無機質複合層を形成する工程の制御が困難であるとともに、必ずしも最外層が十分な親水性を有するとは言ないものであった。しかもこの方法も、有機ポリマー層および有機質ー無機質複合層がともに基材上に連続して存在するものであり、上記した多様な特性、機能等を有する物品を提供できるとは言えなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明が解決しようとする課題は、常に十分な親水性を有し且つ耐久性にも優れた被覆膜を有するのみならず、多様な特性、機能等を有する有用な物品を効率よく製造できる新規な方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明における上記課題を解決するための手段は、基材の表面処理において、酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理並びに不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理の少なくとも1種のプラズマ重合処理を基材表面に行なったのち、無機酸化物薄膜を形成する工程を含み、それによりプラズマ重合膜が基材表面の一部または全部を被覆しているとともに、無機酸化物薄膜が基材表面の残りの少なくとも一部を直接被覆しているかおよび/または前記プラズマ重合膜を不連続に被覆している物品を形成することを特徴とするものである。これにより、本発明は、プラズマ重合膜並びに無機酸化物薄膜についての以下に詳述する新規且つ特異な被覆形態に基づき、十分な親水性を有し且つ耐久性にも優れた多様な物品を効率よく製造できるものである。
【0006】以下、本発明について具体的に説明する。まず、本発明により処理される基材は親水性の被覆膜を形成することができるものであれば特に限定されないが、例えば、フィルム、シート、繊維状物、織物、編み物、多孔体(例えばスポンジ)、網体等の形態をとることができ、あるいはレンズ、プリズム、レコード、細胞培養用シャーレ、各種人工臓器・器官等の特定成形品であることができる。また基材は、本発明による処理を受ける表面あるいは他の表面が火炎処理、放電処理、紫外線照射処理、放射線照射処理、サンドブラスト処理、溶剤処理、薬品処理、グラフト重合等の他の処理を受けたものであってもよい。さらに本発明による処理は、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、プラズマ重合法等により予め表面処理した基材に対しても適用することができるものであり、これにより、予め形成された膜の親水性及び耐久性の総合特性を改善することができる場合がある。上記基材の材質はとくに制限されないが、本発明が親水性膜を形成するものであることから、基材が疎水性である場合に本発明の効果が十二分に発揮されると言うことができる。本発明により処理することができる基材材質の例としては、オレフィン系ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンープロピレンブロック共重合体等)、スチレン系ポリマー(ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂等)、ハロゲン化オレフィン系ポリマー(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等の重合体)、ビニルアルコール系ポリマー(ポリビニルアルコール、エチレンービニルアルコール共重合体等)、アクリル系ポリマー(メチルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクレート、フルオロアルキルメタクリレート、シリルアルキルメタクリレート、アクリロニトリル等の重合体)、ジエン系ポリマー(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンーブタジエン共重合体、スチレンーブタジエンブロック共重合体等)、スチレンーブタジエンブロック共重合体の水素添加物、ポリアセタール、ポリエーテル(ポリフェニレンエーテル等)、ケトン系ポリマー(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリケトンサルファイド等)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン46、ナイロン11、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等)、ポリエステルーアミド、ポリイミド(ポリエーテルイミド、ポリエステルーイミド、ポリアミドーイミド等)、ポリウレタン、ポリサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリスルホン(ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン等)、ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、フルオロアルキルポリシロキサン、シアノアルキル系ポリシロキサン、ジアリールポリシロキサン等)、ポリフェニレン、ポリキシリレン、天然ゴム、セルロース、絹、羊毛、あるいは上記材料から得られる誘導体、前記2種以上の材料のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイ、液晶材料、有機半導体材料等の有機物質、ガラス、セラミック(Al−O系、Mg−O系、Zr−O系、Al−Si−O系、Al−Mg−Si−O系、Al−Ti−O系、Al−N系、Si−C系、Si−N系、Al−Si−O−N系、Ti−N系、B−N系、Ti−B系等)、無機半導体材料、石材、金属等の無機物質、さらには上記材料の2種以上からなる複合材料が挙げられる。
【0007】つぎに、本発明において使用される酸素原子および/または窒素原子を有する不飽和化合物は、脂肪族および/または芳香族の炭素ー炭素不飽和結合を有する、プラズマ重合条件下でガス化あるいは蒸気化できる化合物であり、前記脂肪族不飽和結合は二重結合あるいは三重結合であることができる。また脂肪族および/または芳香族の不飽和結合は1分子中に2以上存在することもできる。このような酸素原子及び/又は窒素原子を有する不飽和化合物の例としては、イ) 2−プロピン−1−オール、アリルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、ロ) フェノール、クレゾール等のフェノール類、ハ) ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、エトキシベンゼン、エトキシエチレン、メトキシアセチレン、エトキシアセチレン、ベンジルエチルエーテル、フラン、2−メチルフラン等のエーテル類、ニ) 3−ペンテン−2−オン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン、アセトフェノン等のケトン類、ホ) ベンズアルデヒド、プロピオールアルデヒド等のアルデヒド類、ヘ) アクリル酸、メタクリル酸、プロピン酸、4−ペンテン酸等の不飽和カルボン酸、ト) アクリル酸あるいはメタクリル酸のアルキルエステル、フッ素含有アルキルエステルまたはシロキサニルアルキルエステル等の不飽和カルボン酸エステル類、チ) アニリン、N,N−ジメチルアニリン、ニトロベンゼン、ピリジン、ピラゾロン、ニトロトルエン、ニトロエチレン、2−ペンテンジニトリル、アリルアミン、ピロール、ピコリン、2,4−ジメチルピリジン等の窒素含有不飽和化合物が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して使用される。これらの酸素原子および/または窒素原子を有する不飽和化合物のうち好ましいのは、2−プロピン−1−オール、アリルアルコール、ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、エトキシエチレン、メトキシアセチレン、エトキシアセチレン、フラン、2−メチルフラン、3−ペンテン−2−オン、プロピオールアルデヒド、アクリル酸、メタクリル酸、プロピン酸、4−ペンテン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ヘキサフルオロプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロプロピル等の酸素原子含有不飽和化合物、ピリジン、ニトロエチレン、アリルアミン、ピロール、ピコリン等の窒素原子含有不飽和化合物である。
【0008】さらに、本発明において酸素および/または窒素と混合して使用される不飽和化合物は、脂肪族および/または芳香族の炭素ー炭素不飽和結合を有する、プラズマ重合条件下でガス化あるいは蒸気化できる化合物であり、前記脂肪族不飽和結合は二重結合あるいは三重結合であることができる。また脂肪族および/または芳香族の不飽和結合は1分子中に2以上存在することもできる。このような不飽和化合物の例には、リ) 前記イ) 〜チ) に挙げた酸素原子および/または窒素原子を有する不飽和化合物のほか、ヌ) エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、2−メチル−2−ブテン、1,3−ブタジエン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−ビニル−1,3−ブタジエン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1,4−ペンタジエン等の鎖状炭化水素類、ル) ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、シクロペンテン、シクロブタジエン、シクロヘキセン、ピネン等の環状炭化水素類が挙げられる。好ましい不飽和化合物は、鎖状炭化水素類では、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等、環状炭化水素類では、ベンゼン、トルエン、シクロペンテン等である。
【0009】本発明において使用される前記不飽和化合物並びに酸素および/または窒素は、純粋のものでもよいが、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、空気等の他のガス成分も全体の10モル%以下混合することができる。
【0010】前記不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合比は、酸素および/または窒素に対する不飽和化合物の容量比として通常0.05〜10であるが、好ましい混合比は0.2〜4.0である。混合比が0.05未満では無機酸化物薄膜の基材との密着性が乏しくなり、また10を超えると基材に着色を生じ易くなる。
【0011】本発明においては、酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理あるいは不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理をそれぞれ単独で行なうことができ、またこれらの2つのプラズマ重合処理を組み合わせて実施することもできる。例えば、酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物、他の不飽和化合物並びに酸素および/または窒素をすべて含む混合ガスによるプラズマ重合処理を行なうことができ、また酸素および/または窒素と混合して使用される不飽和化合物自体が酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物である場合には、結果的に両プラズマ重合処理が同時に行なわれることになる。何れにせよ、本発明によるプラズマ重合処理により、酸素原子および/または窒素原子含有極性基を有する親水性重合膜が形成されることになる。
【0012】つぎに、本発明においてプラズマ重合膜が形成された基材を被覆するのに使用される無機酸化物は、処理生成物の機能、特性、用途等に応じて種々選択できるが、一般に周期律表III〜VIII族元素の酸化物、ガラス等が使用される。好ましい無機酸化物は周期律表III〜VI族元素の酸化物であり、その例には酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化タングステン等が挙げられる。とくに酸化珪素および酸化アルミニウムが好ましい。また無機酸化物の場合、薄膜の親水性、耐久性等の観点から高純度(例えば純度99.99%以上)のものが好ましい。これらの無機酸化物は何れも親水性薄膜をもたらすものである。
【0013】本発明においては、以上に説明した材料を使用して少なくとも2段階からなる工程により基材を表面処理するが、以下にそれらの処理条件及び処理装置について説明する。まず酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理並びに不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理の少なくとも1種のプラズマ重合処理に際しては、酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物の場合、該不飽和化合物をガスとして、あるいは常温で非ガス体のものでは蒸気化して、また不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスの場合、該不飽和化合物を必要ならば蒸気化して酸素および/または窒素と混合して、あるいは混合しないで別々に、真空室からなる処理系にそれぞれ供給される。処理電場は直流でも交流でもよい。処理条件は通常のプラズマ重合処理におけるものと同様であり、とくに限定されるものでないが、例えば真空度が0.01〜10Torr、交流の場合の周波数が50〜50MHz、放電電力が0.2〜1000W、重合時間は30秒〜数十分であり、また基材温度は、処理中の基材の変質を抑えるため100°C以下とすることが好ましい。交流の場合、10MHz程度以下の周波数では電極を処理装置の内部に配置することもできるが、数MHz以上の高周波、マイクロ波等を用いる場合は、処理系から電極金属の影響を取り除き、真空装置に電極端子を取り付ける必要がないなどの理由から、外部電極方式が好ましい場合もある。この外部電極方式では、プラズマへのエネルギー供給は容量結合あるいは誘導結合によって行なわれるが、強力な電磁波が放出されやすいので、一般に電磁気シールドを施すことが好ましい。。さらにプラズマは磁場の影響を強く受けるので、処理系に磁場をかけ、それによりプラズマを局在化させて安定な放電を行なわせることもできる。本発明による表面処理の対象となる基材は一般に誘電体であるので、とくに有機ポリマーからなる基材の場合には電荷の蓄積による絶縁破壊を避けるよう配慮することが望ましく、そのためには、放電周波数を比較的高くするか放電電流を小さくする等の方策を講じることができる。
【0014】本発明におけるプラズマ重合処理はバッチ式でも、半連続式でも、また連続式でも実施できる。バッチ式の場合のプラズマ重合処理室(即ち真空室)は1室あるいは2以上の室から構成することができ、後者ではプラズマ重合処理の予備段階(例えば基材を清浄化するための、スパッタエッチングやプラズマ処理等)をプラズマ重合処理とは別室で実施することができる。半連続式は一般に基材がプラズマ重合領域を移動するものであるが、このプラズマ重合領域は、例えば基材がフィルムの場合送り出し室や巻取り室と同一であっても別であってもよい。連続式は基本的にはプラズマ重合処理領域が真空室となっており、基材の送り出し、巻取り・取り出し等の付帯設備が真空室外(即ち空気中)にあるものである。この連続式は付帯設備が空気中にあるためプラズマ重合を中断しないで基材を取り扱える利点があるが、真空室と他の区域との接続がやや困難である。これらの半連続式および連続式は基材が連続体(フィルム、織物等)であっても多数の単体(レンズ、板材等の成形品)であっても適用することができ、またバッチ式と同様に、予めスパッタエッチングやプラズマ処理を行なって基材を清浄化しておくこともできる。本発明において使用することができるプラズマ重合処理装置の具体例は、例えば特公平3−29084号公報および特開昭59−22933号公報に記載されている。
【0015】本発明によるプラズマ重合処理は、基材(例えばフィルム、シート、レンズ等)の全ての表面に対して実施することができるが、一般には基材の主要表面(例えばレンズの場合では、前面および/または後面)に対して実施される。特定の主要表面だけにプラズマ重合処理する場合には、通常他の主要表面をマスクすることが必要となる。本発明におけるプラズマ重合膜は基材表面の一部または全部を被覆しているが、その何れの場合であっても、基材表面上に連続して存在することができ、あるいは不連続に存在することができる。この場合、プラズマ重合膜は最初基材表面の海の上に島状に分散した海島構造をとるが、膜厚を厚くするに従って海島が逆転してプラズマ重合膜が連続部分となり、さらに膜厚を厚くすると基材表面全体が連続したプラズマ重合膜で覆われることになる。したがって、連続して存在するプラズマ重合膜は一般に膜厚が比較的厚い場合に形成され、不連続なプラズマ重合膜は一般に膜厚が比較的薄い場合に形成される。しかしながら本発明においては、プラズマ重合膜の膜厚自体は特に限定されるものではなく、通常採用される膜厚(一般に5000Å以下)の範囲内から適宜に選定することができるものである。プラズマ重合膜が連続膜から不連続膜に移行する膜厚は使用成分、処理条件等によって変わり一概には言えないが、一般に150Å以下の膜厚では不連続プラズマ重合膜が形成されやすくなる。また本発明における不連続なプラズマ重合膜は、基材表面に微細な孔の空いたマスク、ネット等を被せてプラズマ重合処理することによっても形成することができるものである。
【0016】つぎに本発明における第2段階、即ち無機酸化物薄膜を形成する方法について、説明する。この段階においては、好ましくは高純度の前記した無機酸化物を蒸発源あるいはターゲットとして使用して、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の通常の薄膜化技術により薄膜を形成する。真空蒸着法は真空室内で蒸発源である無機酸化物を加熱あるいは電子線照射により蒸発させ、この無機酸化物蒸気を一般に蒸発源と対向配置される基材表面上に凝縮させることにより薄膜を形成するものである。イオンプレーティング法はアルゴン等の非反応性ガス雰囲気下にある真空室内で、蒸発源である無機酸化物(陽極)と基材(陰極)との間に高電圧の直流電圧を印加して両極間にグロー放電を起こさせ、その状態で無機酸化物を加熱蒸発させてイオン化させ、電界により加速して基材表面に打ち込み無機酸化物薄膜を形成するものである。またスパッタリング法はアルゴン等の非反応性ガス雰囲気下または酸素、アンモニア等の反応性ガス雰囲気下にある真空室内で、ターゲットとなる無機酸化物と基材との間に高電圧直流電流あるいは高周波電界を印加することにより、加速されたガスイオンにより無機酸化物をプラズマ状態に放出させ、基材表面上に凝縮させることにより無機酸化物薄膜を形成するものである。なおスパッタリング法では、処理雰囲気中に存在する電子が効率よくターゲットに戻るよう真空室内に磁場を印加しておくこともできる。
【0017】本発明における無機酸化物薄膜の形成は、既にプラズマ重合処理された基材に対して行なうが、その無機酸化物薄膜は、基材表面の残りの少なくとも一部(即ち基材表面のうちプラズマ重合膜で被覆されていない領域の一部または全部)を直接被覆しているかおよび/または基材表面上に形成されたプラズマ重合膜を不連続に被覆している。この無機酸化物薄膜も、プラズマ重合膜と同様に、連続膜あるいは不連続膜として存在することができ、また無機酸化物薄膜が形成される面は、プラズマ重合処理された側の基材表面とすることも、未だプラズマ重合処理されていない側の基材表面とすることも、さらにはこれらの両表面とすることもできる。不連続な無機酸化物薄膜は、プラズマ重合膜の場合と同様に海島構造と考えることができるものである。
【0018】本発明における無機酸化物薄膜の膜厚は30〜2000Åであることが好ましい。膜厚が30Å未満では基材表面の親水性が不十分となる傾向があり、また2000Åを超えると無機酸化物薄膜が剥離しやすくなったり、コンタクトレンズ等のように酸素等のガス透過性が要求される基材の場合には、その透過性を損なうおそれがあるからである。不連続な無機酸化物薄膜の形成は、一般に該薄膜の膜厚を比較的薄く、好ましくは100Å以下とすることにより達成されるものであるが、また不連続な無機酸化物薄膜はプラズマ重合処理した基材の表面所定箇所に微細な孔の空いたマスク、ネット等を被せて薄膜形成することによっても得ることができる。後者の場合には、薄膜を不連続とするために膜厚がとくに制限されることはない。
【0019】ここで、本発明における無機酸化物薄膜の被覆形態を、最も一般的な2つの主要表面を有する基材に基づいて説明する。まず基材の特定の主要表面(即ち、1つの主要表面)に着目すると、プラズマ重合膜の被覆形態には、(1)当該主要表面の一部のみを被覆している場合と(2)当該主要表面全体を被覆している場合との2つのがある。前記(1)の場合、無機酸化物薄膜は当該主要表面を連続または不連続に被覆することができる。そして(1−1)無機酸化物薄膜が連続して基材主要表面を被覆するときは、一般に無機酸化物薄膜が基材表面上のプラズマ重合膜が存在する領域からプラズマ重合膜が存在しない領域にかけて主要表面全体を被覆することになり、また(1−2)無機酸化物薄膜が基材主要表面を不連続に被覆するときは、一般に、プラズマ重合膜が存在する領域およびプラズマ重合膜が存在しない領域を含めて、主要表面上に無機酸化物薄膜がランダムに形成されることになる。この(1−2)のケースでは、場合により、例えば疎水性の基材表面の一部を露出あるいは残存させておき、疎水性表面と親水性表面とを併せもつ物品を製造することもできる。前記(2)場合は、(2−1)無機酸化物薄膜が該主要表面上のプラズマ重合膜を不連続に被覆することになる。
【0020】つぎに、基材の一方の主要表面がプラズマ重合膜で被覆されているが、他方の主要表面がプラズマ重合膜で被覆されていない場合に基づき、これらの2つの主要表面を関連づけて説明すると、この場合のプラズマ重合膜の被覆形態には、(3)片方の主要表面を不連続に被覆している場合と(4)片方の主要表面全体を被覆している場合との2つがある。前記(3)の場合、連続した無機酸化物薄膜は、(3−1)プラズマ重合膜で被覆された主要表面あるいは(3−2)プラズマ重合膜で被覆されない主要表面を被覆することができ、また不連続な無機酸化物薄膜は、(3−3)プラズマ重合膜で被覆された主要表面あるいは(3−4)プラズマ重合膜で被覆されない主要表面を被覆することができる。そして、前記(3−1)は前記(3−2)及び(3−4)と組合せることができ、前記(3−2)は前記(3−3)と組合せることができ、また前記(3−3)は前記(3−4)と組合せることができる。前記(4)の場合、無機酸化物薄膜は、連続膜としては、(4−1)プラズマ重合膜で被覆されていない主要表面のみ、あるいは(4−2)プラズマ重合膜で被覆されていない主要表面とプラズマ重合膜で被覆された主要表面との両面を被覆でき、そして不連続膜としては、(4−3)プラズマ重合膜で被覆された主要表面あるいは(4−4)プラズマ重合膜で被覆されていない主要表面を被覆することができる。そして、前記(4−1)は前記(4−3)と組合せることができ、また前記(4−3)は前記(4−4)と組合せることができる。前記(4−4)の場合には、連続無機酸化物薄膜がさらにプラズマ重合膜上を被覆していることもできる。
【0021】前記組合せのうち、例えば、(3−1)と(3−2)とを組合せた物品は、一方の主要表面に不連続プラズマ重合膜が形成された基材の両面に対して、さらに連続無機酸化物薄膜を形成したものと考えることもでき、また(4−3)と(4−4)とを組合せた物品は、一方の主要表面に連続プラズマ重合膜が形成された基材の両面に対して、さらに不連続無機酸化物薄膜を形成したものと考えることもできるものである。
【0022】さらに、プラズマ重合膜が基材の2つの主要表面の両方を連続あるいは不連続に被覆している場合も、上記と同様に考えることができるのであり、また3つ以上の主要表面を考えなければならない基材についても、プラズマ重合膜および無機酸化物薄膜全体の被覆形態は、上記と同様にして理解することができる。
【0023】本発明により基材が不連続に被覆される場合について、プラズマ重合膜と無機酸化物薄膜との配置関係を観点を変えて説明すると、プラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜の形成時にマスク、ネット等を使用しない場合は、被覆膜が形成される領域を正確に予測することは困難であるが、例えばプラズマ重合膜も不連続である場合、不連続な無機酸化物薄膜が形成される領域はプラズマ重合膜で被覆された部分のみであることもでき、またプラズマ重合膜で被覆されない部分のみであることもできる。しかし通常の処理条件下では、両部分においてランダムに無機酸化物薄膜が形成されると言える。プラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜の形成時にマスク、ネット等を使用する場合は、それらの孔の位置、大きさ、形等を調節することによって基本的には任意の領域に被覆膜を形成させることができる。したがって、例えばプラズマ重合処理時にもマスク、ネット等を使用して不連続な重合膜を形成させたときは、これらの孔の位置と無機酸化物薄膜形成時のマスク、ネット等の孔の位置とを適切に対応させることによって、両被覆膜の配置関係を調節することができる。
【0024】本発明により処理される基材表面の範囲や場所はとくに制限されるものではなく、プラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜で被覆することによる実用上のメリット等を考慮して適宜選定することができるものである。この場合、適当なマスク等を使用することにより、例えば基材の特定主要表面の限定された範囲(例えば、主要表面の半分)あるいは特定の場所だけにプラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜を形成することができる。さらに、本発明によるプラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜それぞれが基材の前面、後面など異なる2以上の主要表面上に存在する被覆形態は、個々の被覆形態に応じて、一回のプラズマ重合処理あるいは無機酸化物薄膜の形成処理により達成でき、またこれらの処理を各主要表面に対して段階的に実施することによっても達成することができる。そして、例えばプラズマ重合膜が2以上の主要表面で被覆形態が相違する場合(即ち、一方の主要表面で連続で他方の主要表面では不連続である場合)は、各主要表面に対して段階的にプラズマ重合処理を行なうか、または他方の主要表面にマスク等を被せて両主要表面同時にプラズマ重合処理を行なう。これは無機酸化物薄膜の場合も同様である。
【0025】上記した本発明におけるプラズマ重合膜並びに無機酸化物薄膜の被覆形態の例を、プラズマ重合膜が基材の特定の主要表面のみに形成された場合について、断面図で模式的に図1〜図4に示す。図中、1は基材、2はプラズマ重合膜、3、3′は無機酸化物薄膜である。図1は基材1の特定主要表面上に不連続プラズマ重合膜2が形成され、さらにその上に連続無機酸化物薄膜3が形成された場合を、図2は基材1の一方の主要表面上に不連続プラズマ重合膜2が形成されるとともに、その上に不連続無機酸化物薄膜3が形成され、且つ基材の他方の主要表面上に連続無機酸化物薄膜3′が形成された場合を、図3は基材1の特定主要表面上に連続プラズマ重合膜2が形成され、且つその上に不連続無機酸化物薄膜3が形成された場合を、図4は基材1の一方の主要表面上に連続プラズマ重合膜2と連続無機酸化物薄膜3とが形成され、且つ他方の主要表面上に不連続無機酸化物薄膜3′が形成された場合を、それぞれ例示している。
【0026】これらの図示した物品の製造例を挙げると、図1の物品は、一方の主要表面に不連続プラズマ重合膜2を形成したのち、連続無機酸化物薄膜3を形成することによって、図2の物品は、一方の主要表面にともに不連続なプラズマ重合膜2と無機酸化物薄膜3とを段階的に形成したのち、他方の主要表面に連続無機酸化物薄膜3′を形成することによって、図3の物品は、一方の主要表面に連続プラズマ重合膜2を形成したのち、さらに不連続無機酸化物薄膜3を形成することによって、また図4の物品は、一方の主要表面にともに連続したプラズマ重合膜2と無機酸化物薄膜3とを段階的に形成したのち、他方の主要表面に不連続無機酸化物薄膜3′を形成することによって、それぞれ製造することができる。あるいは、図2および図4の物品は、予め他方の主要表面に連続または不連続な無機酸化物薄膜3′を形成させた基材に対して、本発明を実施したものと考えることもできる。なお前述したように、図4の物品から他方の主要表面上にある不連続無機酸化物薄膜3′を取り除いたものは、本発明では製造されないことに留意すべきである。また、図1〜図4に示した被覆形態はあくまで模式的且つ限定的に例示したものであり、実際の被覆形態は、個々の膜の被覆範囲、被覆場所、形状、膜厚等の数多くの要素が複雑に組合されたものとなるのであって、図示したものよりはるかに複雑且つ変化に富んでいることは理解されなければならない。
【0027】さらに本発明においては、酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理並びに不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理の少なくとも1種のプラズマ重合処理、あるいは無機酸化物薄膜の形成を繰り返すことにより、3層以上の多層膜構造を得ることができる。例えば無機酸化物薄膜単独では膜厚が500Å以上になると、とくに柔軟な基材に被覆した場合、薄膜にクラック等が生じやすく耐久性に問題があるが、無機酸化物薄膜をさらにプラズマ重合膜で被覆した3層以上の多層構造とすることにより、無機酸化物薄膜の膜厚が比較的厚い場合のクラック等の発生を防止することができる。このような3層以上の多層構造においては、3層目以降のプラズマ重合膜あるいは無機酸化物薄膜の膜厚、それらが存在する状態(連続、不連続)や範囲等は、とくに制約されるものではない。
【0028】以上詳述したように、本発明においては、プラズマ重合膜と無機酸化物薄膜とを有する基材を多様な形態、構造等で得ることがきるものである、したがって本発明により製造される物品の特性、機能等も多様性を有する。これは、本発明により達成される顕著な効果の1つである。本発明により製造される物品特有の特性、機能等について主なものを挙げると、次の通りである。即ち、基材表面に形成されたプラズマ重合膜が酸素原子および/または窒素原子含有極性基を有するため、プラズマ重合膜上に位置する無機酸化物薄膜が強固に付着し耐久性に優れたものとなる。また基材の主要表面に形成されたプラズマ重合膜および/または無機酸化物薄膜が不連続で且つ疎水性の基材表面が露出している物品では、親水性表面と疎水性表面とが適度に分布したものとなるため、例えばアルブミンの吸着能が高くなり、抗血栓性や生体適合性に優れるのみならず、細胞培養における細胞接着率も高いものとなる。しかも、例えばコンタクトレンズの場合、その前面(フロントカーブ側)に無機酸化物薄膜を形成し、後面(ベースカーブ側)にプラズマ重合膜を形成することにより、前面への涙成分や塵等の汚れの付着、固着等を防止できるとともに、角膜上でのコンタクトレンズの動きをスムーズにでき、眼球の動きに適切に対応できるものとすることができる。さらに本発明により3層以上に被覆された物品では、比較的膜厚の厚い無機酸化物薄膜の場合であっても、クラック等の発生を防止でき、耐久性の優れたものとなる。
【0029】本発明により製造される物品は、その特異な被覆形態と優れた特性から、コンタクトレンズを始めとする各種の人工臓器・器官、細胞培養用器材、外科・看護用器具等の幅広い分野において好適に使用することができるものである。
【0030】
【実施例】つぎに実施例および比較例により、本発明の実施態様並びに効果をさらに具体的に説明する。
実施例1平行平板型電極を有する内容積160リットルのプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に幅10mm、長さ30mm、厚さ0.5mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)基材を保持し、装置内を0.03Torrの真空度に保ち、アリルアルコールとアルゴンの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用し10分間放電させて、基材の両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理された基材両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。ついで、マグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力80Wで基材の片面に1分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理された基材片面は、膜厚約100Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。得られた基材について、処理直後、空気中に3ヵ月放置後およびスポンジテスト後について、水の接触角を測定した。スポンジテストでは、基材の片面を両面接着テープで試料台に固定し、水を含んだスポンジに1Kgの荷重をかけて基材の他方の表面を前後に1000回(但し、前後それぞれを1回にカウント)擦った。測定結果を表1に示す。
【0031】実施例2実施例1と同様に平行平板型電極を有するプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に非含水ソフトコンタクトレンズ((株)リッキーコンタクトレンズ製ソフィーナ)を保持し、プラズマ重合装置内を0.03Torrの真空度に保ち、アクリル酸とアルゴンの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。ついで、マグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力40Wでコンタクトレンズの両面にそれぞれ1分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約40Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。その後さらに、0.05Torrの真空度に保ったプラズマ重合装置を使用して、アクリル酸とアルゴンとの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行った。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。ついで酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力80Wでコンタクトレンズの前面のみに1分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ前面は、膜厚約100Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理されたコンタクトレンズは、前面、後面とも極めて水濡れ性が良好で、3ヵ月装用後も汚れの固着は全く見られず、また角膜上での動きも良好であった。
【0032】実施例3実施例1と同様に平行平板型電極を有するプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に実施例2と同様の非含水ソフトコンタクトレンズを保持し、プラズマ重合装置内を0.05Torrの真空度に保ち、アクリル酸とアルゴンとの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使って20分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約180Åのプラズマ重合膜で全面が被覆されていた。ついでマグネトロン型低温高速スパッテリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力60Wでコンタクトレンズの前面に1分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ前面は、膜厚約60Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理されたコンタクトレンズは、前面、後面とも極めて水濡れ性が良好で、3ヵ月装用後も汚れの固着は全く見られず、また角膜上での動きも良好であった。
【0033】実施例4平行平板型電極を有するプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に幅10mm、長さ30mm、厚さ0.5mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)基材を保持し、プラズマ重合装置内を0.03Torrの真空度に保ち、エチレンと酸素とをそれぞれ10cc/分の流量で装置内に導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、基材の両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理された基材両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。ついでマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化アルミニウムをターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力60Wで基材の片面に2分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理された基材片面は、膜厚約80Åの酸化アルミニウム薄膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。得られた基材について、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】実施例5実施例1と同様に平行平板型電極を有するプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に実施例2と同様の非含水ソフトコンタクトレンズを保持し、プラズマ重合装置内を0.05Torrの真空度に保ち、4−メチル−1−ペンテンを10cc/分の流量、窒素を15cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。ついでマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力60Wでコンタクトレンズの両面にスパッタリング処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約40Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部を残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様に水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理されたコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性が極めて良好であり、3ヵ月装用後も汚れの固着は全く見られず、また角膜上での動きも良好であった。
【0035】実施例6実施例1と同様に平行平板型電極を有するプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に実施例1と同様のPMMAを保持し、装置内を0.03Torrの真空度に保ち、エチレン3モルおよび酸素1モルの割合で混合した混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して30分間放電させて、基材の両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理された基材両面は、膜厚約240Åのプラズマ重合膜で全面が被覆されていた。ついで、マグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力40WでPMMA基材の片面に5分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理された基材片面は、膜厚約200Åの酸化珪素薄膜で全面が被覆されていた。得られた基材について、実施例1と同様にして酸化珪素薄膜面の水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】比較例実施例1と同様のマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用い、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力80Wで、実施例2と同様の非含水ソフトコンタクトレンズの両面に2分間スパッタリング処理を行なった。ここで処理されたコンタクトレンズ両面は、膜厚約200Åの酸化珪素薄膜で全面が被覆されていた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様に水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理されたコンタクトレンズは前面、後面とも水濡れ性は良好であったが、3ヵ月装用後の表面に汚れが認められ、この汚れは洗浄剤で洗浄しても除去できなかった。この3ヶ月装用後のコンタクトレンズ表面の肉眼観測では部分的に水はじきが認められるとともに、顕微鏡観測では表面に微細なひび割れ、欠損が認められ、酸化珪素薄膜が基材表面から剥がれていることが明らかとなった。
【0037】
【表1】


【0038】表1から明らかなように、本発明により表面処理された基材はいずれも初期水濡れ性に優れ、しかも空気中に3ヶ月放置後並びに通常の使用条件をはるかに越える過酷なスポンジテスト後であっても十分な親水性を保持しているのに対して、無機酸化物薄膜のみを形成した比較例では、処理表面の空気中3ヶ月放置後及びスポンジテスト後の水濡れ性の低下が著しい。これは、同様の無機酸化物薄膜を外側被覆層として有する場合であっても、本発明のように予めプラズマ重合膜を形成させることにより、該無機酸化物薄膜の耐久性が顕著に改善されることを示している。
【0039】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、プラズマ重合処理と無機酸化物薄膜の形成とを組み合わせ、且つ基材表面の少なくとも一部をプラズマ重合膜により被覆するとともに、基材表面の残りの少なくとも一部を無機酸化物薄膜により直接被覆するかおよび/またはプラズマ重合膜を無機酸化物薄膜により不連続に被覆することによって、良好な親水性を有するとともに、汚れが付着し難く且つ空気中放置や繰り返される洗浄にも十分耐えることができ、また長期間の使用しても基材と被覆膜との密着が十分保たれる等、優れた物品を製造することができる。しかも本発明においては、プラズマ重合処理と無機酸化物薄膜の形成とを適切に組合せて実施することにより、例えばコンタクトレンズの場合には眼球の動きへの対応性に優れ、また抗血栓性や生体適合性が良好な親水性と疎水性とがバランスした基材表面を効率よく達成できるのみならず、比較的厚い無機酸化物薄膜を形成した場合でも十分な耐久性を持たせることができる等、優れた特性を備えた多様な物品を効率よく製造できるものである。本発明により製造される物品は、種々の人工臓器・器官、細胞培養用器材、外科・看護用器具等のほか、表面が親水性であることが望まれる他の一般器具・器材として、好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材の特定主要表面上に不連続プラズマ重合膜と連続無機酸化物薄膜とが形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図2】基材の一方の主要表面上に不連続プラズマ重合膜と不連続無機酸化物薄膜が形成され、且つ他方の主要表面上に連続無機酸化物薄膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図3】基材の特定主要表面上に連続プラズマ重合膜と不連続無機酸化物薄膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図4】基材の一方の主要表面上に連続プラズマ重合膜と連続無機酸化物薄膜とが形成され、且つ他方の主要表面上に不連続無機酸化物薄膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 プラズマ重合膜
3 無機酸化物薄膜
3′ 無機酸化物薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸素原子および/または窒素原子を含有する不飽和化合物によるプラズマ重合処理並びに不飽和化合物と酸素および/または窒素との混合ガスによるプラズマ重合処理の少なくとも1種のプラズマ重合処理を基材表面に行なったのち、無機酸化物薄膜を形成する工程を含み、それによりプラズマ重合膜が基材表面の一部または全部を被覆しているとともに、無機酸化物薄膜が基材表面の残りの少なくとも一部を直接被覆しているかおよび/または前記プラズマ重合膜を不連続に被覆している物品を形成することを特徴とする、基材の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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