説明

基材の表面処理方法

【目的】 基材の表面処理により、親水性および耐久性に優れ、且つ多様な特性、機能などを有する物品を製造する。
【構成】 基材表面に無機酸化物薄膜を形成したのち、酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有するプラズマ重合膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基材表面に無機酸化物薄膜を形成したのち親水性プラズマ重合膜を形成することからなる、基材の表面処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、基材の表面改質には物理的、電気的、化学的、機械的などのすべてにわたる数多くの技術が採用されており、また基材材料や処理材料についても、低分子、高分子、天然、合成を含む有機物質、無機物質、金属あるいはそれらの混合物など、夥しい数にのぼっている。そのうち、基材に親水性を付与する表面改質は、接着性、印刷性、染色性、帯電防止性、防曇性、揆油性、耐汚染性、さらには生体適合性あるいは生体親和性を改良する技術として、広く採用されており、そのための技術手段は(イ)親水性材料による被覆、塗装、積層等による処理、(ロ)酸化剤、火炎等による酸化や化学反応による親水性官能基の導入、(ハ)親水性モノマーによるグラフト重合、(ニ)反応性雰囲気下での放電などによるプラズマ処理、(ホ)真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどによる親水性薄膜形成のように多岐にわたっている。しかしながら、上記(イ)では、基材表面と親水性材料との間の結合が弱く、両者間の界面で分離し易いばかりか、被覆材の厚さを薄くするのに限度があり、基材本来の特性が十分確保できるとはいえず、上記(ロ)はクロム酸等の酸化剤、空気中の酸素などによる酸化処理、あるいは化学反応によって、カルボキシル基などの親水性官能基を導入するものであるが、処理可能な基材または基材と反応試剤との組合せに限度があるのみならず、効果も一時的であって、例えば空気中にしばらく放置しただけで処理効果が損なわれるという欠点があり、上記(ハ)はアクリル酸、アクリルアミドなどの親水性モノマーをグラフト重合するものであるが、グラフト重合層が柔らかいため、例えば洗浄を繰り返すことにより、親水性被覆膜が次第に摩耗するなど耐久性に欠点があった。さらに上記(ニ)は酸素、窒素などの非重合性ガス雰囲気下でプラズマ等により処理して親水性官能基を導入したり、あるいは含硫黄、含酸素、含窒素等の官能基を有する親水性プラズマ重合膜を形成するものであるが、これらも、上記(ロ)と同様空気中に放置するだけで親水性が低下したり、基材とプラズマ重合膜との間の付着性が十分でないなど、耐久性に問題があるとともに、プラズマ重合膜の場合には、汚れが付着し易いなどの欠点があり、また上記(ホ)は無機酸化物、金属、場合により有機物などを蒸発源あるいはターゲットとしてそれらの薄膜を基材表面に形成するものであり、特に無機酸化物の場合薄膜の硬度が大きく耐擦傷性、耐磨耗性などにも優れているが、基材との接着性あるいは付着性が十分でないため、繰り返し使用している間に基材から剥離してしまうなどの問題があった。さらに従来の基材の表面処理技術では、所要箇所に連続した被覆膜を形成することだけが意図されていたため、処理された基材の特性、機能などは基本的には基材あるいは処理剤の選択に依存して変えられるに過ぎず、多様な特性、機能などを有する物品を提供する方法としては不十分なものであった。
【0003】一方、上記プラズマ重合膜および無機酸化物薄膜に見られる欠点を解消するため、まず基材表面に有機モノマーなどによるプラズマ重合処理を行って有機ポリマー層を形成し、ついでプラズマ重合条件下で無機酸化物等を蒸着して有機質ー無機質複合層を形成する方法が提案されている(特開昭56−147829号公報)。しかしながら、この方法は有機質ー無機質複合層を形成する工程の制御が困難であるとともに、最外層が必ずしも十分な親水性を有するとは言えないものである。しかもこの方法も、有機ポリマー層および有機質ー無機質複合層がともに基材上に連続して存在するものであり、多様な特性、機能を有する物品を提供できるとは言えなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明が解決しようとする課題は、常に十分な親水性を有し且つ耐久性にも優れた被覆膜を有するのみならず、多様な特性、機能などを有する有用な物品を効率よく製造できる新規な方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明における上記課題を解決するための手段は、基材の表面処理において、基材表面に無機酸化物薄膜を形成したのち、酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有するプラズマ重合膜を形成することを特徴とするものである。本発明によると、以下に詳述するように、十分な親水性を有し且つ耐久性にも優れた多様な物品を効率よく製造することができる。
【0006】以下、本発明について具体的に説明する。まず、本発明により処理される基材は親水性の被覆膜を形成できるものであれば特に限定されるものではなく、例えばフィルム、シート、繊維状物、多孔体(例えばスポンジ)、網体などの形態をとることができ、あるいはレンズ、プリズム、レコード、細胞培養用シャーレ、各種人工臓器・器官などの単体成形品であることができる。また基材は、本発明による処理を受ける表面あるいは他の表面が火炎処理、放電処理、紫外線照射処理、放射線照射処理、サンドブラスト処理、溶剤処理、薬品処理、グラフト重合などの他の処理を受けたものであってもよい。上記基材の材質は特に制限されないが、本発明が親水性膜を形成するものであることから、基材が疎水性である場合に本発明の効果が十二分に発揮されると言うことができる。本発明により処理することができる基材材質の例としては、オレフィン系ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンープロピレンブロック共重合体など)、スチレン系ポリマー(ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂など)、ハロゲン化オレフィン系ポリマー(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレンなどの重合体)、ビニルアルコール系ポリマー(ポリビニルアルコール、エチレンービニルアルコール共重合体など)、アクリル系ポリマー(メチルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクレート、フルオロアルキルメタクリレート、シリルアルキルメタクリレート、アクリロニトリルなどの重合体)、ジエン系ポリマー(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンーブタジエン共重合体、スチレンーブタジエンブロック共重合体など)、スチレンーブタジエンブロック共重合体の水素添加物、ポリアセタール、ポリエーテル(ポリフェニレンエーテルなど)、ケトン系ポリマー(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリケトンサルファイドなど)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリアミド(ナイロン46、ナイロン11、ポリパラフェニレンテレフタルアミドなど)、ポリエステルーアミド、ポリイミド(ポリエーテルイミド、ポリエステルーイミド、ポリアミドーイミドなど)、ポリウレタン、ポリサルファイド(ポリフェニレンサルファイドなど)、ポリスルホン(ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホンなど)、ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、フルオロアルキルポリシロキサン、シアノアルキル系ポリシロキサン、ジアリールポリシロキサンなど)、ポリフェニレン、ポリキシリレン、天然ゴム、セルロース、絹、羊毛、あるいは上記材料から得られる誘導体、前記2種以上の材料のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイ、液晶材料、有機半導体材料などの有機物質;ガラス、セラミック(Al−O系、Mg−O系、Zr−O系、Al−Si−O系、Al−Mg−Si−O系、Al−Ti−O系、Al−N系、Si−C系、Si−N系、Al−Si−O−N系、Ti−N系、B−N系、Ti−B系など)、無機半導体材料、石材、金属などの無機物質;さらには上記材料の2種以上からなる複合材料が挙げられる。
【0007】本発明において使用される無機酸化物は、一般に周期律表III〜VIII族元素の酸化物、ガラスなどである。好ましい無機酸化物は周期律表III〜VI族元素の酸化物であり、その例には酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化タングステンなどが挙げられる。特に酸化珪素および酸化アルミニウムが好ましい。また無機酸化物の場合、薄膜の親水性、耐久性などの観点から高純度(例えば純度99.99%以上)のものが好ましい。これらの無機酸化物は何れも親水性薄膜をもたらすものである。
【0008】つぎに、本発明において形成されるプラズマ重合膜は酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有するものである。このような重合膜は、■酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有する化合物(以下、「極性基含有化合物」という。)のプラズマ重合、■プラズマ重合可能な化合物と酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種との混合ガスを使用するプラズマ重合などによって形成することができるものであり、これらのプラズマ重合はそれぞれ単独で行なうことができ、また同時に行なうこともできる。プラズマ重合により親水性薄膜を形成する技術は、既に本発明者らによって提案されている(例えば特公平3−29084号公報、特開昭59−22933号公報など)。プラズマ重合は炭素ー炭素不飽和結合を持たない化合物であっても生起しうるものであり、したがって、上記■および■のプラズマ重合が可能な化合物についても、不飽和結合を有することは必ずしも必要ではない。また場合により存在しうる炭素ー炭素不飽和結合は脂肪族あるいは芳香族の不飽和結合であることができ、脂肪族炭素ー炭素不飽和結合の場合は、二重結合または三重結合であることができる。
【0009】本発明において使用することができる上記■における極性基含有化合物は、プラズマ重合条件下でガス化あるいは蒸気化できるものである。その化合物が有することができる酸素原子および/または窒素原子を有する極性基の例を挙げると、アルコール性またはフェノール性の水酸基、エーテル基、ケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基、酸無水物基、アシル基、スルホン酸基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アセタール基、ペルオキシカルボキシル基、オキシム基などがある。これらの極性基は、それぞれについて1分子中に1個でもよく、また2個以上存在することもできる。これらの極性基含有化合物は脂肪族、脂環族あるいは芳香族の化合物であることができ、脂環族および芳香族の化合物では炭素環あるいは複素環を有することができ、またこれらの炭素環および複素環は単環でも2以上の環からなることもできる。これらの化合物は単独でまたは2種以上混合して使用される。
【0010】本発明において使用することができる上記極性基含有化合物のうち、炭素ー炭素不飽和結合を持たない化合物の具体例を挙げると、メタノール、エタノール、プロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、1−クロロ−2−プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノンなどのケトン類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸類、無水酢酸、無水コハク酸などの酸無水物類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸2−エチルブチルなどのカルボン酸エステル類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのスルホン酸類、前記スルホン酸類のエステルのような酸素原子含有化合物;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなどのアミン類、エチレンイミン、ピロリジンなどのイミン類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ヒドロキシエチルアミン、ヒドロキシプロピルアミンなどのヒドロキシアミン類、グリシン、セリンなどのアミノ酸類、アセトアミド、プロピオンアミドなどのアミド類、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物類、アセトンシアノヒドリン−2−アミノメタノールなどのシアン化合物類のような窒素原子含有化合物がある。
【0011】また上記■における極性基含有化合物のうち、炭素ー炭素不飽和結合を持つ化合物としては、2−プロピン−1−オール、アリルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、前記アルコール類のエステル、フェノール、クレゾールなどのフェノール類、ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、エトキシベンゼン、エトキシエチレン、メトキシアセチレン、エトキシアセチレン、ベンジルエチルエーテル、フラン、2−メチルフランなどのエーテル類、3−ペンテン−2−オン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン、アセトフェノンなどのケトン類、2−ペンテンジアール、ベンズアルデヒド、プロピオールアルデヒドなどのアルデヒド類、アクリル酸、メタクリル酸、プロピン酸、4−ペンテン酸、安息香酸などのカルボン酸類、前記カルボン酸類のエステル(例えばアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、フッ素含有アルキルエステルまたはシロキサニルアルキルエステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなど)、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フタール酸などの酸無水物類、前記酸無水物類のエステル、ベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン酸類、前記スルホン酸類のエステルのような酸素原子含有化合物;アニリン、N,N−ジメチルアニリン、、ベンジルアミン、ニトロベンゼン、ピリジン、ピラゾロン、ニトロトルエン、ニトロエチレン、2−ペンテンジニトリル、アリルアミン、ピロール、ピコリン、2,4−ジメチルピリジン、アミノ安息香酸、ベンズアミド、ニトロベンゼンなどの窒素原子含有化合物類が挙げられる。
【0012】これらの極性基含有化合物のうち好ましいものを挙げると、炭素ー炭素不飽和結合を持たない化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸2−エチルブチル、エチルアミン、プロピルアミン、ニトロメタン、ニトロエタンなどがあり、また炭素ー炭素不飽和結合を持つ化合物としては、2−プロピン−1−オール、アリルアルコール、ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、エトキシエチレン、メトキシアセチレン、エトキシアセチレン、フラン、2−メチルフラン、3−ペンテン−2−オン、プロピオールアルデヒド、アクリル酸、メタクリル酸、プロピン酸、4−ペンテン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ヘキサフルオロプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロプロピル、ピリジン、ニトロエチレン、アリルアミン、ピロール、ピコリンなどがある。
【0013】さらに、本発明における上記■において、酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種と混合して使用されるプラズマ重合可能な化合物(以下、「プラズマ重合化合物」という。)は、プラズマ重合条件下でガス化あるいは蒸気化できるものである。この化合物は、脂肪族、脂環族あるいは芳香族の化合物であることができ、脂環族および芳香族の化合物では炭素環あるいは複素環を有することができ、またこれらの炭素環および複素環は単環でも2以上の環からなることもできる。さらに、このプラズマ重合可能な化合物は炭化水素に限られず、置換基を有することもでき、また単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0014】前記プラズマ重合化合物のうち、炭素ー炭素不飽和結合を持たない化合物の例を挙げると、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどの鎖状炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンなどの環状炭化水素類がある。また炭素ー炭素不飽和結合を持つ化合物の例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、ペンテン、2−メチル−2−ブテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、1,3−ブタジエン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−ビニル−1,3−ブタジエン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1,4−ペンタジエンなどの鎖状炭化水素類;シクロペンテン、シクロブタジエン、シクロヘキセン、ピネン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの環状炭化水素類が挙げられる。これらのうち好ましい化合物は、鎖状炭化水素類では、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなど、環状炭化水素類では、ベンゼン、トルエン、シクロペンテンなどである。
【0015】上記プラズマ重合化合物と酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種との混合比(プラズマ重合化合物/酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種)は、容量比として通常0.05〜10であるが、好ましい混合比は0.2〜4.0である。混合比が0.05未満では無機酸化物薄膜との密着性が乏しくなり、また10を超えると着色を生じ易くなる。
【0016】本発明において使用される極性基含有化合物、プラズマ重合化合物、酸素、窒素あるいはアンモニアは、純粋のものでもよいが、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、空気などの他のガス成分も全体の10モル%以下混合することができる。
【0017】本発明において酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有するプラズマ重合膜を形成する際には、上記■、■などのプラズマ重合を単独でまたは2つ以上を組合せて実施することができる。2つ以上のプラズマ重合を組み合わせるには、例えば極性基含有化合物、プラズマ重合化合物並びに酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種のすべてが共存する混合ガスを使用することができ、またプラズマ重合を極性基含有化合物と酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種との混合ガスを使用して行うこともできる。何れにせよ、本発明により形成されるプラズマ重合膜は、その含有される極性基に由来して、親水性を具備したものとなる。
【0018】本発明においては、以上に説明した材料を使用して少なくとも2段階からなる工程により基材に被覆膜を形成するが、以下それらの方法について説明する。まず本発明における第1段階、即ち無機酸化物薄膜の形成には、好ましくは高純度の上記した無機酸化物を蒸発源あるいはターゲットとする、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの通常の薄膜化技術を使用することができる。真空蒸着法は、真空室内で蒸発源である無機酸化物を加熱あるいは電子線照射により蒸発させ、この無機酸化物蒸気を一般に蒸発源と対向配置される基材表面に凝縮させることにより薄膜を形成するものである。イオンプレーティング法は、アルゴンなどの非反応性ガス雰囲気下にある真空室内で、蒸発源である無機酸化物(陽極)と基材(陰極)との間に高電圧の直流電圧を印加して両極間にグロー放電を起こさせ、その状態で無機酸化物を加熱蒸発させてイオン化させ、電界により加速して基材表面に打ち込み無機酸化物薄膜を形成するものである。またスパッタリング法は、アルゴンなどの非反応性ガス雰囲気下にある真空室内で、ターゲットとなる無機酸化物と基材との間に高電圧直流電圧あるいは高周波電界を印加することにより、加速された非反応性ガスイオンにより無機酸化物をプラズマ状態に放出させ、基材表面に凝縮させることにより無機酸化物薄膜を形成するものである。なお、スパッタリング法では、処理雰囲気中に存在する電子が効率よくターゲットに戻るよう真空室内に磁場を印加しておくこともできる。
【0019】本発明においては、無機酸化物薄膜は基材表面の少なくとも一部に形成される。即ち、無機酸化物薄膜は基材の特定の主要表面のみに形成されていてもよく、また2以上の主要表面に形成することもでき、さらに前記それぞれの場合において、連続あるいは不連続に存在することができる。本発明における不連続な無機酸化物薄膜とは、例えば基材表面からなる海の上に無機酸化物薄膜が島状に分散した、所謂海ー島構造と考えることができるものである。これらの無機酸化物薄膜が形成される範囲や場所はとくに制限されるものではなく、処理された基材の特性や機能上の差異などを考慮して適宜選定することができるものである。無機酸化物薄膜の範囲や場所を限定する際には、適当な大きさや形状の孔などが開けられたマスクを使用することにより、例えば基材の特定主要表面の限定された範囲(例えば、主要表面の半分)あるいは特定場所だけに無機酸化物薄膜を形成することができる。
【0020】本発明における無機酸化物薄膜の膜厚については、とくに臨界的な範囲が存在する訳ではないが、一般に約2000〜10Å(好ましくは30Å以上)の範囲から選択される。膜厚が約2000Åを超えると無機酸化物薄膜が剥離しやすくなったり、コンタクトレンズなどのように酸素などのガス透過性を要求される基材の場合には、その透過性を損なうおそれがあり、また10Å未満では基材表面の親水性が不十分となる傾向があるからである。一方、膜厚が比較的薄く、100Å以下である場合には、無機酸化物薄膜が不連続、即ち海ー島構造となることが、本発明者らによって見出された。また不連続な無機酸化物薄膜は基材表面の所定箇所に微細な孔の空いたマスク、ネットなどを被せて薄膜形成することによっても得ることができ、この場合には、薄膜を不連続とするための膜厚には特に制約はない。本発明においては、不連続無機酸化物薄膜を形成させる場合、処理された主要表面の合計面積に対する薄膜部分の合計面積の割合(以下、「被覆率」という。)は、マスクなどを使用するか否かに係わらず、ほぼ100%から例えば5%までの任意の値に選定することができる。マスクなどを使用しない場合の無機酸化物薄膜の被覆率は、真空室内圧力、処理時間などを制御することによって調節することができる。さらに本発明においては、無機酸化物薄膜の膜厚が比較的薄く、好ましくは100Å以下の場合には、基材が親水性であるか疎水性であるかに係わらず、また薄膜が連続であるか不連続であるかを問わず、該薄膜と基材との結合あるいは接着が特に強固となる。
【0021】つぎにプラズマ重合処理する際には、極性基含有化合物をガスとして、あるいはプラズマ重合化合物と酸素、窒素およびアンモニアの少なくとも1種との混合ガスとして、また常温で液体または固体の化合物の場合には蒸気化して、真空室からなる処理系に供給される。処理電場は直流でも交流でもよい。処理条件は、通常のプラズマ処理におけるもの同様であり、特に限定されるものでないが、例えば真空度が0.01Torr〜10Torr、交流の場合の周波数が50〜50MHz、放電電力が0.2〜1000W、処理時間は30秒〜数十分であり、また基材温度は、処理中の基材の変質を抑えるため100°C以下とすることが好ましい。交流の場合、10MHz程度以下の周波数では電極を処理装置の内部に配置することもできるが、数MHz以上の高周波、マイクロ波などでは、処理系から電極金属の影響を取り除き、真空装置に電極端子を取り付ける必要がないなどの理由から、外部電極方式が好ましい場合もある。この外部電極方式では、プラズマへのエネルギー供給は容量結合あるいは誘導結合によって行なわれるが、強力な電磁波が放出されやすいので、一般に電磁気シールドを施すことが好ましい。。さらにプラズマは磁場の影響を強く受けるので、処理系に磁場をかけ、それによりプラズマを局在化させて安定な放電を行なわせることもできる。本発明による表面処理の対象となる基材は一般に誘電体であるので、とくに有機ポリマーからなる基材の場合には電荷の蓄積による絶縁破壊を避けるよう配慮することが望ましく、そのためには、放電周波数を比較的高くするか放電電流を小さくするなどの方策を講じることができる。
【0022】本発明におけるプラズマ重合処理はバッチ式でも、半連続式でも、また連続式でも実施できる。バッチ式の場合のプラズマ重合処理室(即ち真空室)は1室あるいは2以上の室から構成することができ、後者ではプラズマ重合の予備段階として、例えば基材を清浄化するためのスパッタエッチングやプラズマ処理をプラズマ重合処理とは別の処理室で実施することができる。半連続式は一般に基材がプラズマ重合領域を移動するものであるが、このプラズマ重合領域は、例えば基材がフィルムの場合、送り出し室や巻取り室と同一であっても別であってもよい。半連続式では被処理基材が活性なプラズマ雰囲気下に長時間置かれることによる影響を考慮しておかなければならない。また、連続式は基本的にはプラズマ重合処理領域が真空室となっており、基材の送り出し、巻取り・取り出しなどの付帯設備が真空室外(即ち空気中)にあるものである。この連続式は、付帯設備が空気中にあるため、プラズマ重合を中断しないで基材を取り扱える利点があるが、真空室と他の区域との接続がやや困難である。これらの半連続式および連続式は、基材が連続体(フィルムなど)であっても、多数の単体(レンズ、板材などの成形品)であっても、適用することができ、またバッチ式と同様に、予めスパッタエッチングやプラズマ処理によって基材を清浄化しておくこともできる。
【0023】本発明により形成されるプラズマ重合膜は、基材の全ての表面に対して実施することができるが、一般には基材の主要表面(例えばレンズの場合では、前面および/または後面)に対して実施される。特定の主要表面だけにプラズマ重合処理する場合には、通常他の主要表面をマスクすることが必要となる。本発明におけるプラズマ重合膜は基材表面の一部または全部を被覆しているが、その何れの場合であっても、基材表面上に連続して存在することができ、あるいは不連続に存在することができる。ここで言う不連続に存在するとは、例えば、無機酸化物薄膜の場合と同様に海ー島構造と考えることができるものである。連続して存在するプラズマ重合膜は、一般に膜厚が比較的厚い場合に形成され、不連続なプラズマ重合膜は、一般に膜厚が比較的薄い場合に生成される。しかしながら本発明においては、プラズマ重合膜の膜厚自体は特に限定されるものではなく、通常採用される膜厚(一般に5000Å以下)の範囲内から適宜に選定することができるものである。なお本発明における不連続なプラズマ重合膜は、無機酸化物薄膜の場合と同様に、基材に微細な孔の空いたマスク、ネットなどを被せてプラズマ重合処理することによっても形成することができる。本発明における不連続プラズマ重合膜についても、その被覆率(処理された主要表面の合計面積に対するプラズマ重合膜の合計面積の割合)は、マスクなどを使用するか否かに係わらず、ほぼ100%から例えば5%までの任意の範囲に調節することができる。マスクなどを使用しない場合の被覆率は、プラズマ重合処理の条件を制御することによって調節することができる。さらにプラズマ重合膜が形成される範囲や場所も、無機酸化物薄膜の場合と同様に、作用効果上の差異などを考慮して適宜選定することができる。
【0024】ここで、本発明における無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜の被覆形態について、最も一般的な2つの主要表面を有する基材に基づき説明する。
(1)無機酸化物薄膜が基材の一方の主要表面のみを被覆している場合この場合には、プラズマ重合膜は基材の何れか一方の主要表面に形成でき、また両方の主要表面に形成することもできる。そしてその各々の場合について、無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜が相互に独立して連続または不連続に存在しうるものである。したがって、無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜の被覆状態(連続、不連続)や被覆場所などによる被処理基材全体としての被覆形態は、前記各条件が独立に組み合わされた多くの態様をとることができる。
【0025】(2)無機酸化物薄膜が基材の両主要表面を被覆している場合この場合にも、プラズマ重合膜は基材の何れか一方の主要表面のみあるいは両方の主要表面を被覆することができ、その各々の場合について、無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜は、それぞれ連続または不連続であることができる。したがって、この場合の被覆形態も、これらの各条件を独立に組み合わせた種々の態様の中から選択できる。
【0026】また3つ以上の主要表面を考えなければならない基材についても、無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜全体の被覆形態は、上記(1)および(2)と同様にして理解することができるものである。
【0027】さらに本発明により基材が不連続に被覆される場合について、無機酸化物薄膜とプラズマ重合膜との配置関係を観点を変えて説明すると、無機酸化物薄膜あるいはプラズマ重合膜の形成時にマスクなどを使用しない場合は、被覆される領域を正確に予測することは困難であるが、例えば無機酸化物薄膜も不連続である場合、不連続なプラズマ重合膜が形成される領域は、無機酸化物薄膜で被覆された部分のみであることもでき、また無機酸化物薄膜で被覆されない部分のみであることもできる。しかし通常の処理条件下では、これら両方の部分においてランダムにプラズマ重合膜が形成されると言える。無機酸化物薄膜あるいはプラズマ重合膜の形成時にマスクなどを使用する場合は、それらの孔の位置、大きさ、形などを調節することによって、任意の領域に被覆膜を形成させることができる。したがって、例えば無機酸化物薄膜形成時にもマスクなどを使用して不連続な薄膜を形成させたときは、これらの孔の位置をプラズマ重合膜形成時のマスクなどの孔と適切に対応させることによって、両被覆膜の配置関係を調節することができる。
【0028】本発明により達成される無機酸化物薄膜(あるいはプラズマ重合膜)が基材の前面、後面など2以上の異なる主要表面上に存在する被覆形態は、無機酸化物薄膜(あるいはプラズマ重合膜)を形成する一回の処理により達成でき、また複数の処理を段階的に実施することによっても達成することができる。例えば無機酸化物薄膜が、一方の主要表面では連続で他方の主要表面では不連続である場合のように、2以上の主要表面で被覆状態が相違する場合は、それぞれの被覆状態を与える処理を各主要表面毎に段階的に行なうか、または不連続に被覆される主要表面についてはマスクなどを使用して、両主要表面に対して同時に処理を行なうことができる。
【0029】上記した本発明における無機酸化物薄膜およびプラズマ重合膜の被覆形態の例を、模式的に図1〜図4に示す。図中、1は基材、2、2′は無機酸化物薄膜、3はプラズマ重合膜である。図1は、基材1の一方の主要表面上に連続無機酸化物薄膜2が形成され、他方の主要表面に連続プラズマ重合膜3が形成された場合を、図2、は基材1の一方の主要表面上に不連続無機酸化物薄膜2が形成されるとともに、その上に不連続プラズマ重合膜3が形成された場合を、図3は、基材1の両主要表面上に連続無機酸化物薄膜2、2′が形成され、且つ一方の無機酸化物薄膜2の上にさらに連続プラズマ重合膜3が形成された場合を、図4は基材1の両主要表面上に連続無機酸化物薄膜2、2′が形成され、且つ一方の無機酸化物薄膜2の上にさらに不連続プラズマ重合膜3が形成された場合を、それぞれ例示している。
【0030】これらの図示した物品の製造例を示すと、図1の物品は、一方の主要表面に連続無機酸化物薄膜2を形成したのち、他方の主要表面に連続プラズマ重合膜3を形成することによって、図2の物品は、一方の主要表面に不連続無機酸化物薄膜2と不連続プラズマ重合膜3とを段階的に形成することによって、図3の物品は、両方の主要表面に対して同時に連続無機酸化物薄膜2、2′を形成したのち、一方の主要表面に連続プラズマ重合膜3を形成するか、または一方の主要表面に連続無機酸化物薄膜2と連続プラズマ重合膜3とを段階的に形成したのち、他方の主要表面に連続無機薄膜2′を形成することによって、さらに図4の物品は、一方の主要表面上の連続プラズマ重合膜を不連続にする以外は図3の場合と同様にして、それぞれ製造することができる。また図3および図4の物品は、他方の主要表面に予め連続無機酸化物薄膜2′を形成した基材に対して、本発明による2段階の表面処理を行なったものと考えることもできる。しかしながら、図1〜図4に示した被覆形態は、あくまで模式的且つ限定的に例示したものであり、実際の被覆形態は、各々の膜の被覆範囲、被覆場所、形状、膜厚などの数多くの条件の組み合わされたものとなるのであって、図示したものよりはるかに複雑且つ変化に富んでいることは理解されなければならない。
【0031】本発明によると、基材を極めて多様な被覆形態に表面処理することができるが、さらには無機酸化物薄膜の形成あるいはプラズマ重合膜の形成を繰り返すことにより、特定の主要表面について3層以上の被覆膜を有する多層構造を得ることができる。このような多層構造においては、3層目以降の無機酸化物薄膜あるいはプラズマ重合膜の状態(連続、不連続)、範囲、場所、膜厚などは、とくに限定されることはない。
【0032】以上詳述したように、本発明においては、無機酸化物薄膜とプラズマ重合膜とを有する基材を多様な形態、構造で得ることがきるものであり、したがって本発明によって処理される物品の特性、機能なども変化に富んだものとなる。これは、本発明により達成される顕著な効果の1つである。本発明により製造される物品特有の特性、機能などについて主なものを挙げると、次の通りである。即ち、プラズマ重合膜が無機酸化物薄膜上にある場合には、プラズマ重合膜が酸素原子および/または窒素原子を含有する極性基を有し、無機酸化物薄膜との結合、接着が強固であるため、耐久性に優れた被覆膜をもたらすことができる。しかも、無機酸化物薄膜単独では膜厚が500Å以上になると、とくに柔軟な基材の場合、薄膜にクラックなどが生じやすく耐久性に問題があるが、本発明においては、酸化物薄膜の膜厚が比較的厚い場合でも、クラック等の発生をするおそれがない。また基材の主要表面に形成された無機酸化物薄膜および/またはプラズマ重合膜が不連続で且つ疎水性の基材表面が露出している物品では、親水性表面と疎水性表面とが適度に分布したものとなるため、例えばアルブミンの吸着能が高くなり、抗血栓性や生体適合性に優れるのみならず、細胞培養における細胞接着率も高いものとなる。しかも、例えばコンタクトレンズの場合、その前面(フロントカーブ側)に無機酸化物薄膜を形成し、後面(ベースカーブ側)にプラズマ重合膜を形成することにより、前面への涙成分や塵等の汚れの付着、固着などを防止できるとともに、角膜上でのコンタクトレンズの動きをスムーズにでき眼球の動きに適切に対応できるものとすることができる。さらに、無機酸化物薄膜の膜厚を比較的薄く、好ましくは膜厚100〜10Å(さらに好ましくは100〜30Å)とすることにより、基材と該薄膜とが剥離し難くなるとともに、十分な親水性を付与することもできる。
【0033】本発明により製造される物品は、その特異な被覆形態と優れた特性、機能などとから、コンタクトレンズを始めとする各種の医用機器・人工臓器、細胞培養用器材など、親水性や生体適合性が望まれる幅広い分野において好適に使用することができるものである。しかも、上記したように多様且つ有用な物品を製造することができる本発明は、親水性表面処理された基材に対して、前記以外の分野での利用の道をさらに開くものである。
【0034】つぎに実施例及び比較例により、本発明の実施態様並びに効果をさらに具体的に説明する。
【実施例】
実施例1マグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力60Wで1分間スパッタリング処理して、支持台上の非含水ソフトコンタクトレンズ(リッキーコンタクトレンズ社製ソフィーナ)の前面に酸化珪素薄膜を形成した。ここで処理されたレンズ前面は、膜厚約60Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。ついで平行平板型電極を有する内容積160リットルのプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上にスパッタリング処理した前記コンタクトレンズを保持し、装置内を0.05Torrの真空度に保ち、4−メチル−1−ペンテンを10cc/分の流量で、酸素を15cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。得られたコンタクトレンズについて、処理直後、空気中に3ヵ月放置した場合およびスポンジテスト後について、水の接触角を測定した。スポンジテストでは、基材の片面を両面接着テープで試料台に固定し、水を含んだスポンジに1Kgの荷重をかけて基材の他方の表面を前後に1000回(但し、前後それぞれを1回にカウント)擦った。測定結果を表1に示す。処理後のコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性は良好であり、3ヶ月装用後でも、両面とも汚れの固着は全く認められず、僅かに見られたレンズ前面の汚れの付着は洗剤で洗浄すると容易に除去することができた。また、角膜上でのコンタクトレンズの動きも極めて良好であった。
【0035】比較例1実施例1と同様にプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に非含水ソフトコンタクトレンズを保持し、プラズマ重合装置内を0.05Torrの真空度に保ち、4−メチル−1−ペンテンを10cc/分の流量で、酸素を15cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理されたコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性は良好であったが、3ヵ月装用後にはコンタクトレンズ前面に汚れの固着が認められ、この汚れは洗剤で洗浄しても完全には除去できなかった。またコンタクトレンズの角膜上での動きも不良であった。
【0036】比較例2実施例1と同様にマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力100Wで2分間、支持台上の非含水ソフトコンタクトレンズの両面にスパッタリング処理して、酸化珪素薄膜を形成した。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約250Åの酸化珪素薄膜が全面を被覆していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理後のコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性は良好であったが、3ヶ月装用後のレンズ表面には汚れが認められ、洗浄剤で洗浄しても汚れは除去できなかった。このコンタクトレンズの表面を肉眼で観察すると部分的に水はじきが認められ、顕微鏡で観察したところ、微細なひび割れ、欠損が認められ、酸化珪素薄膜が剥がれていることが明らかとなった。
【0037】実施例2実施例1と同様にマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力40Wで1分間スパッタリング処理して、非含水ソフトコンタクトレンズの両面に酸化珪素薄膜を形成した。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約40Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。ついで、実施例1と同様にプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に前記スパッタリング処理したコンタクトレンズを保持し、装置内を0.05Torrの真空度に保ち、イソプロパノールとアルゴンとの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理後のコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性は良好であり、3ヶ月装用後でも、両面とも汚れの固着は全く認められず、僅かに見られたレンズ前面の汚れの付着は洗剤で洗浄すると容易に除去することができた。また、角膜上でのコンタクトレンズの動きも極めて良好であった。
【0038】実施例3実施例1と同様にマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用いて、酸化アルミニウムをターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力100Wで1分間スパッタリング処理して、ポリメチルメタクリレート製コンタクトレンズの前面に酸化アルミニウム薄膜を形成した。ここで処理されたレンズ前面は、膜厚約140Åの酸化アルミニウム薄膜で全面が被覆されていた。ついで、実施例1と同様にプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に前記スパッタリング処理したコンタクトレンズを保持し、装置内を0.05Torrの真空度に保ち、メタクリル酸とアルゴンとの等モル混合ガスを20cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、コンタクトレンズの両面にプラズマ重合処理を行なった。ここで処理されたレンズ両面は、膜厚約100Åのプラズマ重合膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。得られたコンタクトレンズについて、実施例1と同様にして水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。処理後のコンタクトレンズは、前面、後面とも水濡れ性は良好であり、3ヶ月装用後でも、両面とも汚れの固着は全く認められず、僅かに見られたレンズ前面の汚れの付着は洗剤で洗浄すると容易に除去することができた。また、角膜上でのコンタクトレンズの動きも極めて良好であった。
【0039】
【表1】


【0040】表1から明らかなように、本発明により表面処理されたコンタクトレンズは処理直後、3ヶ月放置後並びに通常の使用条件をはるかに越える過酷なスポンジテスト後において、常に良好な水ぬれ性を示しているのに対して、プラズマ重合膜のみを形成した場合(比較例1)および無機酸化物薄膜のみを形成した場合(比較例2)では、初期水ぬれ性は良好であるが、空気中で3ヶ月放置後あるいはスポンジテスト後では、水ぬれ性が顕著に低下しており、本発明により、耐久性の優れた被覆膜を形成できることがわかる。
【0041】実施例4実施例1と同様のスパッタリング装置を用いて、支持台上にポリスチレン製シャーレを保持し、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力40Wでスパッタリング処理を行い、シャーレ内面に酸化珪素薄膜を形成した。ここで処理されたシャーレ内面は、膜厚約40Åの酸化珪素薄膜を有し、且つ島状の未被覆部が残存していた。ついで、実施例1と同様にプラズマ重合装置を用い、その中央の支持台上に前記スパッタリング処理したシャーレを保持し、装置内を0.05Torrの真空度に保ち、メタンを10cc/分、酸素を5cc/分の流量で導入し、高周波電源を使用して10分間放電させて、シャーレ内面にプラズマ重合膜を形成した。ここで処理されたシャーレ内面は、膜厚約80Åのプラズマ重合膜により島状に被覆されていた。得られたシャーレを24時間空気中に放置したのち、エチレンオキサイドガスで滅菌した。その後、残留エチレンオキサイドガスを抜くため、1リットル/分の流量で窒素ガスを流したデシケータ中に1週間放置したのち、別途培養しておいた正常2倍体繊維芽細胞Flow2000の0.25重量%トリプシン溶液によって遊離細胞としてシャーレに植え込み、牛胎児血清を10重量%含有するイーグルHEM培地を使用して、炭酸ガス5容量%、空気95容量%のインキュベーター中、37°Cで細胞培養した。培養時間が120分に達したときにシャーレをインキュベーターから取り出し、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄したのち、プロナーゼEDTA溶液1ミリリットルを加えて培養床表面に接着していた細胞を遊離させ、血球カウンターを用いて細胞数を測定した。接着していた細胞数の全細胞数に対する割合(細胞接着率)を求めた。その結果を表2に示す。
【0042】比較例3実施例1と同様のマグネトロン型低温高速スパッタリング装置を用い、支持台上にポリスチレン製シャーレを取り付け、その表面に、酸化珪素をターゲット材料とし、アルゴンガスを流して、処理圧力0.05Torr、出力60Wでスパッタリング処理を行い、シャーレ内面に酸化珪素薄膜を形成した。ここで処理されたシャーレ内面は、膜厚約200Åの酸化珪素薄膜により全面が被覆されていた。 得られたシャーレを実施例3と同様に細胞培養に供し、細胞接着率を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】


【0044】表2から明らかなように、本発明により表面処理されたシャーレは、その特有の不連続被覆形態(即ち、海ー島構造)に基づき、生体適合性が良く細胞接着率が極めて優れたものとなる。これに対して、無機酸化物薄膜のみからなる連続被覆膜を形成した場合(比較例3)は、細胞接着率が低く、細胞培養には適しないものとなる。
【0045】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、(1)無機酸化物薄膜の形成とプラズマ重合処理とを組み合わせることによって、良好な親水性を有するとともに、汚れの付着や固着が生じ難く且つ空気中放置や繰り返される洗浄にも十分耐えることができる、優れた物品を製造することができるものである。しかも本発明においては、無機酸化物薄膜の形成とプラズマ重合処理とを適切に組合せて実施することにより、例えば、(2)プラズマ重合膜を無機酸化物薄膜上に形成することにより、無機酸化物薄膜の膜厚が比較的厚い場合でも、クラック等の発生するおそれがない、(3)基材の主要表面に形成された無機酸化物薄膜および/またはプラズマ重合膜が不連続で且つ疎水性の基材表面が露出している物品では、親水性表面と疎水性表面とが適度に分布したものとなるため、抗血栓性や生体適合性に優れるのみならず、細胞培養における細胞接着率も高いものとなる、(4)コンタクトレンズの場合、その前面(フロントカーブ側)に無機酸化物薄膜を形成し、後面(ベースカーブ側)にプラズマ重合膜を形成することにより、前面への涙成分や塵等の汚れの付着、固着などを防止できるとともに、角膜上でのコンタクトレンズの動きをスムーズにでき眼球の動きに適切に対応できるものとすることができるなど、優れた特性、機能などを備えた多様な物品を効率よく製造できるものである。さらに本発明においては、(5)無機酸化物薄膜の膜厚を比較的薄く、好ましくは膜厚100〜10Å(さらに好ましくは100〜30Å)とすることにより、基材と該薄膜とが剥離し難くなるとともに、処理表面に十分な親水性を付与することができる。したがって本発明により製造される物品は、レンズ、プリズム、レコード、細胞培養用シャーレ、各種人工臓器・器官などのほか、表面が親水性であることが望まれる他の一般器具・器材として、好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材の一方の主要表面上に連続無機酸化物薄膜が形成され、また他方の主要表面上に連続プラズマ重合膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図2】基材の一方の主要表面上に不連続無機酸化物薄膜及び不連続プラズマ重合膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図3】基材の両主要表面上に連続無機酸化物薄膜が形成され、且つ一方の無機酸化物薄膜上に連続プラズマ重合膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【図4】基材の両主要表面上に連続無機酸化物薄膜が形成され、且つ一方の無機酸化物薄膜上に不連続プラズマ重合膜が形成された、本発明による物品の模式断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 無機酸化物薄膜
2′ 無機酸化物薄膜
3 プラズマ重合膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に無機酸化物薄膜を形成したのち、酸素原子および/または窒素原子を有する極性基を含有するプラズマ重合膜を形成することを特徴とする、基材の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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