説明

基肥として液肥を用いた露地作物の栽培方法

【課題】本発明は、トウモロコシ等の露地作物の栽培において、生育の遅れや作物収量減少を防止し、また糞尿を使用する場合でもチッソ、リン酸及びカリの成分を適切に調整可能とし、さらに肥料の施肥の労力を軽減することができる、露地作物の栽培方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基肥として播種時に液肥を施肥して、露地作物を栽培することを特徴とする、露地作物の栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基肥として液肥を用いたトウモロコシ等の露地作物の栽培方法に関する。ここに、露地作物とはグリーンハウス内のような室内での栽培で作られる作物ではなく、屋外で作られる作物を指す。
【背景技術】
【0002】
例えば、九州の畜産地帯では大量の糞尿(堆肥やスラリー)が圃場に還元されている。畜産農家にとって日々大量に発生する糞尿を最も安定的で、しかも簡単に処理する方法は圃場還元であり、トウモロコシ等の露地作物栽培においても適正に利用されるなら糞尿も重要な肥料資源となる。
【0003】
従来、一部の畜産農家は糞尿だけでトウモロコシを栽培(無肥料栽培)しているが、無肥料栽培はほぼ共通して、チッソおよびリン酸の欠乏により初期成育の遅れが観察され、これが収量にも悪影響を与える。このことは、糞尿だけでは、生育初期に必要な成分が十分まかなわれていないためと解される。また、火山灰土壌では糞尿中のリン酸が土壌中に固定され、また特に低温時には植物に十分なリン酸が供給されず初期の生育に大きな影響がでる。以上のことから、現実には糞尿を相当量入れても、全く無肥料では正常なトウモロコシ栽培は困難であると考えられる。
【0004】
さらに、糞尿を多年に渡り使用した場合には、土壌分析をしてみると、多くの場合適正値を大きく超えたカリ過剰を示す。カリ過剰はその拮抗作用でマグネシウムの吸収を抑制し、その圃場から生産されたトウモロコシはカリが多く、マグネシウムの欠乏した家畜のエサとなる。マグネシウムは植物体内でリン酸の代謝に大きな影響を与えるためその欠乏は作物生育の遅れとなる。
【0005】
従って、多くの畜産農家はトウモロコシの栽培にあたり慣行的に糞尿に加えて化学肥料を10アール当たり30kgから100kg程度施肥している。コントラクターや大規模農家が大面積の圃場にトウモロコシを播種する場合に、重い肥料の装備や運搬・散布が大変な労力となっている。一方、従来の液肥は、肥料成分を例えば1000倍から2000倍程度に希釈し、水の散布する際に副次的に肥料も撒くというもので、基肥として用いるという発想はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トウモロコシ等の露地作物の栽培において、生育の遅れや作物収量減少を防止し、また糞尿を使用する場合でもチッソ、リン酸及びカリの成分を適切に調整可能とし、さらに肥料の絶対量の低減や施肥の労力を軽減することができる、露地作物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る露地作物の栽培方法は、基肥として播種時に液肥を施肥して、露地作物を栽培することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、基肥として播種時に液肥を用いて、露地作物を栽培するようにしたので、生育の遅れや露地作物の収量減少を防止し、また堆肥を使用する場合でもチッソ、リン酸及びカリの成分を適切に調整可能とし、さらに肥料の絶対量の低減と施肥の労力を軽減することができる。低含水量で肥料が高濃度の液肥を用いることによって、露地作物の発芽発育時の吸収効率が高められ、基肥に関し従来の顆粒上の化学肥料に比較し、液肥で必要とされる肥料の量がすくなくてよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
(1)液肥
液肥は、基肥として播種時に施肥する。「播種時に施肥」とは播種するのと同時に施肥する場合、および播種する時点の前後に施肥する場合を含むが、作業能率から、播種するのと同時に施肥することが好ましい。
基肥は、作物の生育期間中充分な量の栄養を確保する為に播種する前及び播種時に施す肥料のことをいうが、液肥に加えて、堆肥及び/または化学肥料を基肥として施肥しても良い。好ましくは、基肥として液肥に加えて環境リサイクルを考えて、堆肥を用いることが好ましい。
【0010】
本発明にいう液肥とは、水の中に肥料を溶解あるいは懸濁させたものであり、低含水量で、肥料を高濃度に含むものを指す。肥料の比重にもよるが、例えば、肥料濃度を20〜60wt%とし、残部を水とすることができる。例えば、肥料として窒素、リン酸、カリ肥料を合計で20〜50wt%含むもの、例えば、窒素、リン、カリ成分を10−20−5重量%、残部は水あるいはN−P−KO−Mg=10−20−0−1重量%、残部は水とすることができる。肥料設計は、例えば施肥をする前に土壌検査をしてその土壌の中にいかなる栄養成分がどのくらい既に含まれているかを検査し、トウモロコシ等の露地作物が最大限に土地から吸収できるように肥料設計をする。肥料と水の混合割合は適当に選択することができる。
【0011】
液肥を施肥する場合には、上記高濃度の肥料を含む液肥を1〜8リットル/10アールの割合でそのまま施肥することもできるし、上記高濃度肥料の液肥1〜8リットルを1〜12リットルとなる比率で水により希釈して(上記肥料濃度の場合には1wt%より大きく40wt%となる)、希釈液を1〜12リットル/10アールとして散布してもよい。肥料を高濃度で含む液肥を準備し、使用に際して農家が現場において水で希釈して施肥用の液肥を調合するようにすれば、取り扱い、運搬等が容易となる。
肥料設計を行なえば、所定の肥料成分を水に溶解、懸濁することによって容易に所望の液肥を得ることができる。従来の低濃度肥料の液肥は、ハウス栽培において噴霧散布により施肥していたが、本発明においては、露地栽培において液肥を基肥として土壌に対して液状で直接適用する。この場合、種等のできるだけ近傍であるが肥料やけを回避するために種等に直接施肥するのを避けることが好ましい。
【0012】
(2)堆肥、顆粒状化学肥料、液肥
本発明では、基肥として液肥に加えて、堆肥及び/または顆粒状化学肥料を用いることができるが、堆肥、顆粒状化学肥料、液肥の混合比としては、本発明の目的、効果が達成できる範囲であれば任意に選択することができる。例えば、10アール当たり堆肥を0トンから30トンの範囲、顆粒状化学肥料を0kgから100kgの範囲、液肥は上記高濃度で肥料を含む場合には1〜8リットル、上記希釈した場合は1リットルから12リットルの範囲とすることができる。本発明で言う「堆肥」とは、糞尿混合物あるいは尿単体等をさす。
【0013】
(3) 施肥時期
施肥は、基肥としての液肥、堆肥及び/または化学肥料を別々に行なっても良いし、あるいは堆肥を施肥した後、化学肥料と液肥を一緒に加えても良い。施肥に当たっては、化学肥料と液肥はそれぞれ別々に施肥をしても良いし、また化学肥料と液肥を一緒に混合して施肥しても良い。あるいは堆肥を施肥した後、化学肥料と液肥とを別々に加えても良い。液肥は、基肥として用いる他に、追肥として加えることもできる。
【0014】
(4)露地作物
本発明の栽培方法が適応できる好適な露地作物としては、飼料用トウモロコシあるいは食用トウモロコシをあげることができる。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
実施の農家圃場(熊本県菊池郡七城町)で従来から行われてきた堆肥を使用した場合と、堆肥と顆粒状化学肥料とを使用した場合とを使用した場合とに対して比較のため、堆肥と非常に少量の液肥とを使用した場合の実規模での比較栽培試験を行った。播種は2003年5月27日、イタリアンライグラス収穫後、液状堆肥(スラリー、糞成分が低濃度のもの)を10アール当たり3トンと固形状堆肥2トン(糞濃度の高いもの)とからなる堆肥5トンとを散布した後、下記肥料条件で播種をおこなった。1区の面積は約1000m2で、調査は9月9日、2列の20m収穫を2回往復しておこなった。
【0016】
化学肥料はこの地域で慣行的に利用されているりん安30kg/10アールとし、液肥の組成はN−P−KO−Mg=10−20−0−1重量%、残部は水とし、液肥を下記量で施用した。施用に当たっては、液肥1Lを7Lの水を加えて希釈液8Lとし基肥として使用した。その他の除草剤散布等は通常の管理をおこなった。表中「堆肥のみ」とは10アール当たり上記堆肥5トンのみを施肥した場合である。また、表中の指数%は、乾物収量kg/10aの比較である。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
本実施例(液肥を加えたもの)はいずれの区でもりん安区と比較して7%高い収量が得られている。農家圃場の肥沃度のバラツキや施肥コストを含めて考慮すると、2L/10aの施用が取り敢えずこの液肥の適正量と思われる。
この試験では無肥料区がそれなりの収量を上げているが、前述したように無肥料では春先の低温時リン酸欠乏を起こす可能性が非常に高く、春播きから液肥栽培を想定する場合、無肥料栽培は不適切と判断される。
【0019】
以上の結果から、糞尿を十分還元した圃場条件下でとうもろこしの液肥栽培をするには、暫定的な施用量は2L/10アールが適切と判断された。
この試験の途中経過に基づき、2003年8月上旬、5軒の酪農家に依頼し2期作トウモロコシを液肥にて合計18ヘクタールに播種してもらった。この結果、慣行法と同等以上の収量を得られたことが確認された。また、肥料を投入する作業時間が著しく短縮された。前述したように、多くの酪農家の化学肥料の慣行的施肥量は10アール当たり30kgから60kgであり、2L/10アールの液肥でトウモロコシが栽培でき、重量の嵩さむ顆粒状化学肥料の運搬、装着、散布が軽減できるとの観点から、大幅な労働生産性の向上となる。
【0020】
従来化学肥料としては粒状肥料のみが用いられてきたが、液肥でも十分作物の栽培が可能であることが上記試験によって示された。液肥は利用効率が非常に高いため少量でも従来の粒状肥料と同等あるいはそれ以上の効果が期待でき、しかも周囲の環境に溢れ出る肥料成分の量が著しく低減できると期待できる。
【0021】
さらに、上記高濃度肥料を含む液肥を用いた場合にも、希釈して得られた液肥を用いた実施例と同様なトウモロコシ栽培結果が得られることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基肥として播種時に液肥を施肥して、露地作物を栽培することを特徴とする、露地作物の栽培方法。
【請求項2】
露地作物が飼料用トウモロコシあるいは食用トウモロコシであることを特徴とする、請求項1記載の露地作物の栽培方法。
【請求項3】
基肥として播種時に液肥に加えて、堆肥及び/または顆粒状化学肥料を施肥して、露地作物を栽培することを特徴とする、請求項1または2記載の露地作物の栽培方法。
【請求項4】
基肥として、10アール当たり堆肥を0トンから30トンの範囲、顆粒状化学肥料を0kgから100kgの範囲、液肥をそのままあるいは希釈して1リットルから12リットルの範囲で施肥することを特徴とする、請求項3記載の栽培方法。

【公開番号】特開2006−25772(P2006−25772A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234080(P2004−234080)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(500271937)パイオニアエコサイエンス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】