説明

塊状体およびその製造方法ならびに複合体

【課題】力学的物性に優れた塊状体、その製造方法、および、該塊状体を形成するのに有用である複合体を提供する。
【解決手段】有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有し、有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有する。有機成分(X)において、重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量は10〜700質量部の範囲にある。化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分と無機成分とを含む塊状体および複合体、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質の改質方法の一種に、無機物質との複合化があり、複合化の方法のひとつとして、いわゆるゾル−ゲル法が試みられている。具体的には、金属アルコキシドの加水分解と重縮合とを、高分子物質の存在下または高分子物質の原料モノマーの重合系中で行わせることが試みられている。この方法によれば、高分子物質と金属酸化物(たとえば、シリカ)とからなる複合体が得られる。このような技術は、コーティング材料の分野への適用が精力的に検討されており、たとえば、特許文献1および2にはシロキサン系重合体と金属酸化物とからなる複合体が開示されている。
【0003】
従来の複合体をコーティング膜やフィルムの形態で用いる場合、無機成分の含有率が高いと、フィルムや膜にクラックが入りやすいという問題があったり、また、複合体の成形性や透明性などの理由から、従来の複合体は、一般的に、無機成分の含有率が比較的低かった。このような、無機成分の含有率が比較的低い複合体を塊状物として使用した場合には、曲げ強さ等の力学的物性が低いものしか得られなかった。
【0004】
無機成分の含有量の多い複合体を用いて塊状物を形成した例も知られている(非特許文献1参照)。この例では、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体の存在下、テトラエトキシシランの加水分解・重縮合を行うことによって、複合体の塊状物が形成されている。しかし、発明者らの検討によると、該文献の塊状体は、透明な塊状体であるという特徴を有するものの、その曲げ強さは低い値(80MPa以下)であった。
【特許文献1】特開2003−183399号公報
【特許文献2】特開平11−246661号公報
【非特許文献1】マテリアルズ レターズ(Materials Letters)、Vol.13、p261(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、金属酸化物と高分子物質とを含む複合体については、さらなる用途の拡大が望まれているが、コーティング膜やフィルムの形態で用いられてきた従来の複合体は、厚さを増すにつれてクラックが入りやすくなる傾向にある。そのため、塊状体として用いたときにも優れた力学的物性を示す複合体が求められている。
【0006】
このような状況に鑑み、本発明の目的の1つは、力学的物性に優れた塊状体およびその製造方法を提供することである。また、本発明の目的の1つは、このような塊状体を形成するのに有用な複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく検討した結果、本発明者らは、特定の重合体を特定量含有する有機成分と特定の金属含有化合物とを用いることによって、力学的物性に優れた塊状体が得られることを見出した。本発明は、この新しい知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明の1つは、有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する塊状体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である塊状体である。
【0009】
また、本発明の他の1つは、有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する塊状体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部である塊状体である。
【0010】
また、本発明は、(i)溶媒と、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)と、化合物(I)、化合物(I)の加水分解物、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)および金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む混合物を調製する工程と、(ii)前記混合物から前記溶媒を除去する工程とを含み、前記混合物において、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である塊状体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は上記の塊状体から得られる歯科材料である。
【0012】
また、本発明の1つは、有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する複合体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物であり、無機成分の含有率が45〜60質量%の範囲にある複合体である。
【0013】
また、本発明の他の1つは、有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する複合体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、無機成分の含有率が45〜60質量%の範囲にある複合体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、曲げ強さや圧縮強さなどの力学的物性に優れる塊状体が得られる。本発明の塊状体は、特定の分野において、金属材料の代わりとして用いることが可能である。また、本発明の複合体は、このような塊状体を形成するのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、特定の機能を発現する化合物として具体的な化合物を例示しているが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に説明がない限り、単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
<塊状体>
本発明の塊状体の1つは、有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する。また、本発明の塊状体の他の1つは、有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する。
【0017】
化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である。
【0018】
有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有する。
【0019】
重合体(A)を構成する全単量体単位に占める、上記少なくとも一種の官能基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基)を含有する単量体単位の割合は、通常、10モル%未満(たとえば5モル%未満)である。また、重合体(B)を構成する全単量体単位に占める、上記少なくとも一種の官能基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基)を含有する単量体単位の割合は、通常、10モル%以上(たとえば40モル%以上であり、一例では50モル%以上)である。
【0020】
なお、本発明の塊状体は、有機成分(X)と、加水分解縮合物(Y−1)や金属酸化物(Y−2)とが単に混合されたものであってもよいし、これらが、例えば、加水分解縮合反応によって、互いに結合したものであってもよい。
【0021】
本明細書において塊状体とは、好ましくは0.5mm角以上の大きさのもの、より好ましくは1mm角以上の大きさのもの、さらに好ましくは2mm角以上の大きさのもの、特に好ましくは4mm角以上の大きさを有した塊状の複合体を意味する。
【0022】
有機成分(X)中における、重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量は、10〜700質量部の範囲にあり、20〜380質量部の範囲にあることが好ましく、30〜350質量部の範囲にあることがより好ましい。重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあることによって、曲げ強さ等の機械的特性に優れた塊状体を得ることができる。
【0023】
本発明において使用される重合体(A)は、その構造内にヒドロキシル基を含む重合体である。このような重合体の具体例としては、例えば、ビニルアルコール系重合体が挙げられる。また、ポリオレフィン、ポリスチレンまたはゴムエラストマーをベースとした重合体にヒドロキシル基を有する化合物をグラフトすることによって得られるグラフト共重合体が挙げられる。また、ヒドロキシル基を含む単量体(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリレート等)を重合して得られる重合体が挙げられる。
【0024】
これらの重合体の中でも、塊状体の機械的強度を向上させる観点から、ビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0025】
ビニルアルコール系重合体とは、ビニルアルコール単量体単位を主要な単量体単位として含有する重合体である。ビニルアルコール系重合体を構成する全単量体単位に占めるビニルアルコール単量体単位の割合は、40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
該ビニルアルコール系重合体は、例えば、カルボン酸ビニル単量体を付加重合することによって得られるカルボン酸ビニル系重合体をケン化することによって得ることができる。カルボン酸ビニル単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−メチルプロピオン酸ビニル等が好ましく、酢酸ビニルが特に好ましい。また、ビニルアルコール系重合体は、カルボン酸ビニル単量体に由来する単量体単位以外に、カルボン酸ビニル単量体と共重合可能な他の単量体に由来する単量体単位を含有していてもよい。該他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アリルアルコール;ビニルトリメチルシラン等を使用することができる。ビニルアルコール系重合体の具体的な例としては、ポリビニルアルコール、オレフィン−ビニルアルコールランダム共重合体、ポリオレフィン−ポリビニルアルコールブロック共重合体などが挙げられる。ビニルアルコール系重合体としてはポリビニルアルコールが好ましく、全単量体単位がビニルアルコール単量体単位であるポリビニルアルコールがより好ましい。
【0027】
本発明において使用される重合体(A)の平均重合度は、300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。該平均重合度が300以上であると、機械的物性(例えば、引張り強度、引張り伸度、屈曲性等)が特に良好な塊状体が得られる。該平均重合度の上限は特に制限されないが、該平均重合度は、後述する溶媒に重合体(A)が溶解する範囲にあることが好ましく、具体的な上限値としては、例えば、10,000である。
【0028】
本発明の塊状体において使用される重合体(B)は、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する。重合体(B)としては、塊状体の機械的強度を向上させる観点から、カルボン酸基を有する重合体が好ましい。
【0029】
カルボン酸基を有する重合体としては、例えば、カルボン酸基を含む単量体を重合することによって得られる重合体が挙げられる。該単量体の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0030】
カルボン酸基を有する重合体としては、塊状体の均一性を向上させる観点から、アクリル系重合体が好ましい。アクリル系重合体は、アクリル酸単位および/またはメタクリル酸単位を主要な単量体単位(全単量体単位に占める割合が好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上)として含有する重合体である。また、アクリル系重合体としては、塊状体の機械的強度を向上させる観点から、アクリル酸単位を主要な単量体単位(全単量体単位に占める割合が好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上)として含有する重合体であることが好ましい。
【0031】
カルボン酸基を有する重合体中における、カルボン酸基を含む単量体に由来する単量体単位の含有率は、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上である。カルボン酸基を有する重合体の特に好ましい一例は、カルボン酸基を有する単量体に由来する単量体単位のみによって構成されている重合体である。
【0032】
スルホン酸基を有する重合体としては、例えば、スルホン酸基を含有する単量体の一種または複数種を重合することによって得られる重合体(または共重合体)が挙げられる。スルホン酸基を含有する単量体としては、たとえば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、α−メチルスチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパンスルホン酸が挙げられる。
【0033】
また、ホスホン酸基を有する重合体としては、例えば、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルメチルホスホン酸等が挙げられる。
【0034】
本発明の塊状体において使用される重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。該数平均分子量(Mn)が10,000以上であると、機械的物性が特に良好な塊状体が得られる。該数平均分子量(Mn)の上限は特に制限されないが、該数平均分子量(Mn)は、後述する溶媒に重合体(B)が溶解する範囲にあることが好ましく、具体的な上限値としては、例えば、300,000である。
【0035】
有機成分(X)は、重合体(A)や重合体(B)以外の、他の有機成分を含有していてもよい。このような他の有機成分としては、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン系ブロック共重合体等が挙げられる。また、他の有機成分として、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、結晶核剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防カビ剤、抗菌剤、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、カップリング剤等の各種添加剤のうち有機系の添加剤も挙げられる。また、他の有機成分として、シリコンオイル、ポリエステル繊維、木粉等の有機系充填剤も挙げられる。
【0036】
有機成分(X)中における、重合体(A)および重合体(B)の合計の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)は、化合物(I)が加水分解縮合することによって生成されるものである。化合物(I)が加水分解縮合することによって、複数の化合物(I)に含まれる金属原子(M)は、酸素原子を介して連結される。そして、この加水分解縮合反応が十分に進行すると、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)は、実質的に、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)となる。本発明の塊状体は、化合物(I)に由来する成分として、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)のみを含んでいても、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)のみを含んでいても、これらの両方を含んでいてもよい。
【0038】
なお、「化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)」は、化合物(I)の一部のみが加水分解縮合したものも含む。
【0039】
化合物(I)や金属酸化物(Y−2)に含まれる金属原子(M)の具体的な例としては、Si、Al、Ti、Zr、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、Sb、V、Ta、W、La、Ndなどが挙げられる。これらの中でも、加水分解縮合反応(ゾル−ゲル反応)の制御のし易さという点を考慮すると、金属原子(M)は、Si、Al、TiおよびZrから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。ケイ素(Si)は、透明性の高い塊状体が得られる点で、特に好ましい。なお、BやSiは類金属元素に分類される場合があるが、本明細書においては金属元素として扱う。
【0040】
化合物(I)が有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基などが挙げられる。また、化合物(I)が有するハロゲン原子としては、例えば、塩素原子や臭素原子などが挙げられる。
【0041】
また、化合物(I)では、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が金属原子(M)に結合している限り、アルコキシ基およびハロゲン原子以外の他の原子団が金属原子(M)に結合していてもよい。このような他の原子団としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基およびブチル基等のアルキル基;フェニル基、トルイル基およびナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0042】
典型的な例では、金属原子(M)に結合しているのは、アルコキシ基のみ、ハロゲン原子のみ、またはアルコキシ基およびハロゲン原子のみである。なお、金属原子(M)に結合している原子団の数は、金属原子(M)の原子価に等しい。
【0043】
化合物(I)の好ましい例は、以下の式(1)で示される少なくとも一種の化合物である。
1(OR1n1(m-n) (1)
[式中、M1はSi、Al、TiまたはZrを表す。R1はアルキル基を表す。L1はハロゲン原子を表す。mはM1の原子価と等しい。nは0〜mの整数を表す。]
【0044】
式(1)の化合物に用いられるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基などが挙げられる。また、式(1)の化合物に用いられるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子や臭素原子などが挙げられる。
【0045】
化合物(I)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン等のシリコンアルコキシド;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン等のハロゲン化シラン;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン等のアルコキシチタン化合物;テトラクロロチタン等のハロゲン化チタン;トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、ジエトキシアルミニウムクロリド等のアルコキシアルミニウム化合物;テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、メチルトリイソプロポキシジルコニウム等のアルコキシジルコニウム化合物などが挙げられる。これらのうちでも、化合物(I)の加水分解縮合反応(ゾル−ゲル反応)の制御のし易さを考慮すると、シリコンアルコキシド、アルコキシチタン化合物、アルコキシアルミニウム化合物、アルコキシジルコニウム化合物が好ましく、シリコンアルコキシド、アルコキシチタン化合物、アルコキシジルコニウム化合物がより好ましく、シリコンアルコキシドがさらに好ましい。
【0046】
本発明の塊状体は、加水分解縮合物(Y−1)および金属酸化物(Y−2)以外の他の無機系の成分を含んでいてもよい。このような他の無機系の成分としては、例えば、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、結晶核剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防カビ剤、抗菌剤、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、カップリング剤等の各種添加剤のうち無機系の添加剤が挙げられる。また、他の無機系の成分として、ガラス繊維、タルク、金属粉等の各種無機系充填剤等も挙げられる。これらの他の無機系の成分の、本発明の塊状体中における含有率の合計は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の塊状体における無機成分の含有率は、30〜75質量%の範囲にあることが好ましい。無機成分の含有率が該範囲にある場合、曲げ強さ等の機械的強度に優れた塊状体を得ることができる。無機成分の含有率は、35〜70質量%の範囲にあることがより好ましく、40〜65質量%の範囲にあることがさらに好ましく、45〜60質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0048】
本明細書において、塊状体における無機成分の含有率とは、塊状体に含まれるすべての無機成分の含有率の合計を意味する。すなわち、塊状体が上記のような他の無機系の成分を含有する場合には、それらの他の無機系の成分も考慮して含有率を算出する。また、加水分解縮合物(Y−1)の無機成分としての質量は、加水分解縮合反応が完全に進行して金属酸化物になったと仮定して、その金属酸化物の質量で近似する。この質量を用いて、加水分解縮合物(Y−1)の無機成分としての含有率を算出する。
【0049】
以下に、加水分解縮合物(Y−1)の無機成分としての含有率の算出をより具体的に説明する。化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)が、例えば、上記式(1)で示した化合物の加水分解縮合物である場合、化合物(I)が完全に加水分解縮合して金属酸化物になったと仮定すると、該金属酸化物はM1(m/2)(M1およびmは上述したものと同義)で示される。該金属酸化物の質量と他の無機系の成分の質量との合計を、塊状体の質量で除することによって、塊状体における無機成分の含有率を算出できる。
【0050】
本発明の塊状体の3点曲げ強さは、200MPa以上であることが好ましく、300MPa以上であることがより好ましい。さらには、400MPa以上である塊状体も製造可能である。このような塊状体は、高い力学的物性が要求される用途に有用である。なお、3点曲げ強さの測定方法は後述する。
【0051】
また、本発明の塊状体は、海成分と島成分とからなる海島状の微細構造を有していることが好ましい。海島状の微細構造を有している塊状体は、曲げ強さなどの力学的物性により優れる。より好ましくは、島成分は化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)および/または金属酸化物(Y−2)から主としてなり、海成分は有機成分(X)から主としてなる。島成分の平均径は、1〜1,000nmの範囲にあることが好ましく、1〜500nmの範囲にあることがより好ましく、1〜100nmの範囲にあることがさらに好ましい。また、上記島成分は、その中にさらに、海成分と島成分とからなる海島状の微細構造を有していてもよい。
【0052】
本発明の塊状体は、硬く、曲げ強さ等の機械的物性に優れているため、歯科材料、光学材料、電気・電子部品材料などの材料として好ましく使用できる。
【0053】
歯科材料の具体例としては、クラウン、インレー、アンレー、ブリッジ等の歯冠材料、硬質レジン前装冠やメタルボンドポーセレンに使用されるメタルフレーム、人工歯、義歯、義歯床、義歯床用裏装材、インプラント上部構造、種々のインプラント用部材(スクリューフィクチャー、アバットメント等)、歯科用ポスト、クラスプ、歯科用コンポジットレジン用フィラー等が挙げられる。
【0054】
これらの義歯材料の製造方法としては、後述する本発明の製造方法において、溶媒等を含有する流動性のある状態の混合物を、目的とする形状の空隙を有する型に流し込んで成型する方法や、また、本発明の塊状体を切削加工して目的の形状とする方法等が挙げられる。
【0055】
歯科用コンポジットレジンは、重合性単量体と無機フィラー(無機粉末)とからなる複合材料である。このコンポジットレジンは、歯の一部を削って形成された穴の充填や、支台築造や、クラウンなどの歯冠材料として利用されている。
【0056】
これらの歯科用コンポジットレジンにおいては、従来、無機フィラーの材質としては、シリカやシリカを基材とするガラスが用いられてきた。これらの従来の無機フィラーに代えて本発明の塊状体から得た粉末を無機フィラーとして用いると、機械的強度と研磨滑沢性に優れ、さらには口腔内での滑沢耐久性に優れた歯科用コンポジットレジンが得られる。
【0057】
本発明の塊状体を歯科用コンポジットレジン用フィラーとして用いる場合、本発明の塊状体をボールミルなどの方法で粉砕して適切な粒径の粉末にして用いられる。この粉末は、通常、平均粒径が0.05〜50μmの範囲にあり、粒径が0.01〜200μmの範囲にある。
【0058】
また、重合性単量体としては公知のものが制限無く用いられる。本発明の塊状体をフィラーとして含む歯科用コンポジットレジンにおいて、重合性単量体100質量部に対する該フィラーの配合割合は、通常、10〜1,000質量部の範囲にある。
【0059】
<塊状体の製造方法>
以下、塊状体の製造方法について説明する。本発明の製造方法によれば、上述した塊状体を製造することができる。本発明の製造方法により得られる塊状体は、本発明の塊状体の別の側面を構成する。
【0060】
本発明の製造方法は、溶媒と、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)と、化合物(I)、化合物(I)の加水分解物、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)および金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む混合物を調製する工程(i)を含む。以下、「化合物(I)、化合物(I)の加水分解物、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)および金属酸化物(Y−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物」を「化合物(I)成分」と総称する場合がある。化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である。
【0061】
工程(i)ののち、上記混合物から上記溶媒を除去する工程(ii)が行われる。工程(ii)によって、本発明の塊状体が得られる。
【0062】
工程(i)の混合物では、重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量は、10〜700質量部の範囲にあり、20〜380質量部の範囲にあることが好ましく、30〜350質量部の範囲にあることがより好ましい。重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあることによって、曲げ強さ等の機械的特性に優れた塊状体を得ることができる。
【0063】
なお、化合物(I)の加水分解物とは、化合物(I)中の金属原子(M)に結合しているアルコキシ基および/またはハロゲン原子の一部または全部が加水分解によってヒドロキシル基に置き換わったものである。
【0064】
さらに、本発明の製造方法では、重合体(A)および重合体(B)の合計の使用量は、無機成分の含有率が30〜75質量%の範囲にある塊状体が得られる量とすることが好ましい。
【0065】
本発明の製造方法において使用される溶媒は、特に制限されないが、重合体(A)、重合体(B)、および化合物(I)成分等を溶解可能な溶媒であることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;スルホラン等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または混合して用いることができる。
【0066】
溶媒の使用量に特に限定はないが、上記混合物中における、重合体(A)の質量と重合体(B)の質量との合計の割合が1〜50質量%となる量であることが好ましく、5〜30質量%となる量であることがより好ましく、5〜20質量%となる量であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明の製造方法においては、まず、溶媒、重合体(A)、重合体(B)、および化合物(I)成分を混合する。この際、上記各成分の混合順序には特に制限はないが、溶媒として水を用いる場合には、はじめに少量の水の存在下に化合物(I)成分の加水分解縮合反応(ゾル−ゲル反応)を進行させた後、水を添加して所望の濃度に調整し、その後、重合体(A)や重合体(B)をさらに添加することが好ましい。
【0068】
たとえば、工程(i)は、化合物(I)が溶解された溶液中で化合物(I)を加水分解縮合させ、その溶液に重合体(A)と重合体(B)とを加える工程を含んでもよい。このような工程を含むと、得られる塊状体において、上記したような海成分と島成分とからなる海島状の微細構造を形成させることができる。
【0069】
化合物(I)成分の加水分解縮合反応は、触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0070】
上記触媒としては、酸触媒またはアルカリ触媒を用いることができ、通常は酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、公知の酸触媒を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が好ましい。酸触媒の好ましい使用量は、触媒の種類などによって異なるが、通常、化合物(I)成分が有する金属原子(M)1モルに対して、1×10-5〜10モルの範囲内であることが好ましく、1×10-4〜5モルの範囲内であることがより好ましく、5×10-4〜1モルの範囲内であることがさらに好ましい。酸触媒の使用量がこの範囲にある場合、曲げ強さや圧縮強さなどの機械的特性に優れた塊状体が得られる。
【0071】
また、化合物(I)成分の加水分解縮合反応時に使用される水の量(モル数)は、化合物(I)成分が有する金属原子(M)に結合している、アルコキシ基およびハロゲン原子の全モル数に対して、0.05〜10倍の範囲にあることが好ましく、0.1〜4倍の範囲にあることがより好ましく、0.2〜3倍の範囲にあることがさらに好ましい。加水分解縮合反応時に使用される水の使用量がこの範囲にある場合、曲げ強さや圧縮強さ等の機械的特性に優れる塊状体が得られる。なお、上記の触媒(特に塩酸等)を使用する場合には、触媒が有する水の量を考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
【0072】
また、化合物(I)成分の加水分解縮合反応を行う際の温度は、2〜100℃の範囲にあることが好ましく、4〜60℃の範囲にあることがより好ましく、6〜50℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0073】
化合物(I)成分の加水分解縮合反応の反応時間は、使用される触媒の種類や量といった反応条件に応じて相違するが、0.01〜60時間の範囲にあることが好ましく、0.1〜12時間の範囲にあることがより好ましく、0.1〜6時間の範囲にあることがさらに好ましい。
【0074】
化合物(I)成分の加水分解縮合反応時の反応系の雰囲気に特に制限はなく、たとえば、空気雰囲気、二酸化炭素ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気といった雰囲気を採用できる。
【0075】
工程(ii)における溶媒の除去方法に特に制限はない。溶媒の除去は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。また、溶媒の除去は、常温で行ってもよいし、加熱して行ってもよい。また、常温または加熱した気体を送風することによって溶媒を除去してもよい。
【0076】
溶媒を除去する際の温度は、10〜180℃の範囲にあることが好ましく、20〜160℃の範囲にあることがより好ましく、20〜140℃の範囲にあることがさらに好ましい。なお、肉厚の塊状体を得る場合には、低温で溶媒を除去することが好ましい。具体的には、10〜80℃の範囲にあることが好ましく、20〜60℃の範囲にあることがより好ましい。また、必要に応じて、混合物の周囲雰囲気の密閉度を制御することによって混合物と外気との接触を調節し、それによって溶媒の除去速度をコントロールしてもよい。
【0077】
溶媒を含む混合物を、たとえば、成型用の型に注ぎ、その後に溶媒を除去することによって、様々な形状の塊状体を得ることができる。成型用の型を構成する材質は、型としての機能を果たすものであれば特に限定されず、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン等の各種プラスチック、金属、ガラス、石膏などを適用できる。成型する型の形状を変化させることによって様々な形状の塊状物を得ることができ、たとえば、角柱、円柱、シート、管等の形状の塊状体が得られる。
【0078】
本発明の製造方法において、上述した他の有機成分や他の無機系の成分を工程(i)の混合物に配合する場合には、本発明の効果が得られる限り、どの段階で配合してもよい。
【0079】
本発明の製造方法では、混合物中において、化合物(I)成分の加水分解縮合や、化合物(I)成分と重合体(A)のヒドロキシル基との縮合反応(たとえば加水分解縮合反応)が進行する。特に、混合物から溶媒を除去する工程において縮合反応が進行する。この縮合反応によって、力学的物性が特に優れた塊状体が得られる。
【0080】
以下に、本発明の製造方法の具体的な例を示すが、本発明の製造方法は以下の例に限定されない。
【0081】
まず、有機溶媒と水と化合物(I)成分と、必要に応じて触媒とを含む反応溶液を調製する。反応溶液は、たとえば、有機溶媒に化合物(I)を溶解したのち、触媒と少量の水とを添加することによって調製できる。調製された反応溶液中で化合物(I)は加水分解および/または加水分解縮合し、加水分解縮合物(Y−1)や金属酸化物(Y−2)と、溶媒とを含む溶液が得られる。化合物(I)の加水分解縮合物の縮合度は、使用する有機溶媒および水の量や反応の温度などによって制御できる。得られた溶液に水等の溶媒をさらに加えて濃度の調整をおこなうのが好ましい。
【0082】
上記の有機溶媒は、化合物(I)が溶解可能な溶媒であることが好ましい。たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールといったアルコールが好適に用いられる。アルコキシ基が結合した金属原子(M)を含む化合物を化合物(I)として用いる場合には、化合物(I)が含有するアルコキシ基と同種の分子構造(アルコキシ成分)を有するアルコールが、溶媒として好適に用いられる。たとえば、テトラメトキシシランに対してはメタノールが好ましく、テトラエトキシシランに対してはエタノールが好ましい。有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、反応溶液中における化合物(I)の濃度が1〜90質量%の範囲となる量であることが好ましく、10〜80質量%の範囲となる量であることがより好ましく、10〜60質量%の範囲となる量であることがさらに好ましい。
【0083】
本発明の製造方法では、化合物(I)成分の加水分解縮合反応を進行させた後に、重合体(A)および重合体(B)を添加して混合物を得ることが好ましい。たとえば、工程(i)は、化合物(I)が溶解された溶液中で化合物(I)を加水分解縮合し、その溶液に重合体(A)と重合体(B)とを加える工程を含んでもよい。重合体(A)および重合体(B)は、そのままの状態で配合してもよいし、上述したような溶媒にあらかじめ溶解させた状態で配合してもよい。重合体(A)および重合体(B)は、あらかじめ混合した状態で配合してもよいし、それぞれを別々に配合してもよい。
【0084】
化合物(I)成分の加水分解縮合反応物と、重合体(A)および重合体(B)との混合方法は特に制限されないが、攪拌機を用いて混合することが好ましい。これによって、より均一な混合物を得ることができる。
【0085】
上記混合物における固形分の割合(含有率)は、1〜50質量%の範囲にあることが好ましく、2〜30質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜15質量%の範囲にあることがさらに好ましい。固形分の質量は、重合体(A)の質量、重合体(B)の質量、化合物(I)成分の質量、その他の有機成分の質量、およびその他の無機系の成分の質量の、合計質量である。なお、化合物(I)成分の質量は、化合物(I)成分が完全に加水分解縮合反応が進行して金属酸化物になったと仮定して算出される。固形分の割合を1〜50質量%の範囲とすることによって、曲げ強さや圧縮強さ等の機械的特性がより良好な塊状体が得られる。混合物における固形分の割合は、混合物を調製する任意の段階で制御できる。
【0086】
このようにして得られる混合物から、上記で述べた方法によって溶媒を除去することによって、本発明の塊状体を得ることができる。
【0087】
<複合体>
以下、複合体について説明する。本発明の複合体は、形状が塊状に限定されないこと、および複合体の全質量に対する無機成分の含有率が45〜60質量%であること以外は、上述した本発明の塊状体と同様のものであり、特に力学的物性に優れた塊状体を形成するのに有用である。なお、本明細書において複合体における無機成分の含有率とは、上述した塊状体における無機成分の含有率と同様の方法により算出される値である。
【0088】
本発明の複合体の1つは、有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する複合体である。有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有する。有機成分(X)において、重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量が10〜700質量部である。化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である。該複合体における無機成分の含有率は、45〜60質量%である。
【0089】
本発明の複合体の別の1つでは、有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する複合体である。有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有する。有機成分(X)において、重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の量が10〜700質量部である。該複合体における無機成分の含有率は、45〜60質量%である。
【0090】
重合体(A)、重合体(B)、化合物(I)、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)、および金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)については、上述した塊状体の場合と同様である。
【0091】
本発明の複合体における無機成分の含有率は、45〜60質量%であり、55〜60質量%であることが好ましい。無機成分の含有率がこのような範囲である複合体は、曲げ強さや圧縮強さ等の機械的特性が良好な塊状体を形成する材料として好ましい。
【0092】
本発明の複合体は、塊状体の製造方法に準じた方法によって製造することができる。
【0093】
本発明の複合体の形状は、特に制限されず、塊状、粉末状、針状、膜状などの形状をとることができる。膜状の複合体は、例えば、本発明の製造方法において説明した混合物(溶媒、重合体(A)、重合体(B)および化合物(I)成分を含む混合物)を、基材上に塗工し、溶媒を除去した後、基材から剥離することによって、製造することができる。基材の材質に特に限定はなく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂、金属、ガラス、焼結体であってもよい。
【0094】
本発明の複合体は、塊状体を形成する以外にも、塗料、インク、接着剤、粘着剤、相容化剤、シーリング材などの種々の用途に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。以下の実施例における測定は、次に示す方法で実施した。
【0096】
(1)塊状体の3点曲げ強さの測定方法
測定用のサンプルとして、およそ4mm(縦)×4mm(横)×20mm(高さ)の大きさの角柱状の塊状体を、実施例および比較例で作製した。このサンプルについて、インストロン万能試験機(インストロン・ジャパン製:1175型)を用いて3点曲げ強さの測定を行なった。測定は、支点間距離を8mmとして、クロスヘッドスピード1mm/分の速度で静的な荷重をサンプルに与えることによって行った。破壊または亀裂が生じた時の静的荷重と、使用した角柱の断面積とから曲げ強さを算出した。実施例1について6個のサンプルを測定し、その平均値を曲げ強さの値とした。実施例2〜5および比較例についても、同様の方法で測定した。なお、角柱の断面積は、角柱の縦と横の寸法をノギスによって測定して求めた。
【0097】
(2)重合体(A)の平均重合度の測定方法
JIS K−6726に準じて測定した。
【0098】
(3)重合体(B)の数平均分子量の測定方法
Waters社製の150C−2(本体)、RID−6A(屈折率検出器)、CIO−6A(カラムオーブン)を用いたGPC測定により測定した。カラムはGMPWXL(東ソー株式会社)を用い、カラムオーブンは40℃に設定した。溶離液には0.2Mリン酸バッファーを用い、1.0mL/分の流量で溶離液を流した。重合体(B)を濃度が0.1質量%となるように0.2Mリン酸バッファーに溶解したものを測定サンプルとした。なお、標準試料としては、Polymer Laboratories社製のEasiVial PEG/PEO 2080−0200(ポリエチレングリコール/オキシド)を使用した。
【0099】
(4)塊状体の微細構造の観察
以下の実施例により得られた角柱状の塊状体の中央付近を破断して得られた破断面に、Ptスパッタ装置(E−1030型イオンスパッター、日立製作所製)を用いて約20オングストロームの厚さとなるように白金をスパッタリングして、観察試料を作製した。該観察試料を用いて、走査型電子顕微鏡S−4000(日立製作所製)を用いて、加速電圧15kVで10万倍に拡大して観察し、また、写真撮影をおこなった。
【0100】
得られた電子顕微鏡写真から、任意の10個の島成分を選択し、それぞれの最長径と最短径とを測定し、得られた合計20個の径の平均値を、島成分の平均径とした。
【0101】
<実施例1>
テトラエトキシシラン100質量部をエタノール100質量部に溶解し、水13.5質量部および37質量%塩酸1.2質量部を加えた後、室温下で30分間攪拌し、化合物(I)の加水分解縮合物を含む混合液を得た。この混合液の固形分濃度が10質量%になるように、この混合液を攪拌しながら水を添加した。水を添加したのち速やかに、該混合液にポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、けん化度98.8%、平均重合度=1,700)の10質量%水溶液144質量部と、ポリアクリル酸(和光純薬工業製、数平均分子量(Mn)=32,700)の10質量%水溶液48質量部を攪拌しながら添加して混合物を得た。
【0102】
次に、その混合物をモルド(内部のサイズが10mm×10mm×45mm)にキャストした後、60℃で保温したところ、その混合物はゲル化した。このモルドを密閉度が低い容器内に配置した状態で、該ゲルの質量減少が飽和するまで60℃の熱風乾燥機で乾燥した。具体的には3週間乾燥を行った。その後、該複合体を容器およびモルドから取り出し、150℃で12時間追加乾燥を行って残存溶媒を除き塊状体を得た。この塊状体の3点曲げ強さは460MPaであった。また、得られた塊状体は、海島状の微細構造を有しており、島成分の平均径は25nmであった。
【0103】
<実施例2>
ポリビニルアルコールの10質量%水溶液144質量部とポリアクリル酸の10質量%水溶液48質量部に代えて、ポリビニルアルコールの10質量%水溶液48質量部と、ポリアクリル酸の10質量%水溶液144質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして塊状体を得た。この塊状体の3点曲げ強さは320MPaであった。なお、ポリビニルアルコールおよびポリアクリル酸は、実施例1と同じものを用いた。
【0104】
<実施例3>
ポリビニルアルコールの10質量%水溶液144質量部とポリアクリル酸の10質量%水溶液48質量部に代えて、ポリビニルアルコールの10質量%水溶液25質量部と、ポリアクリル酸の10質量%水溶液175質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして塊状体を得た。この塊状体の3点曲げ強さは250MPaであった。なお、ポリビニルアルコールおよびポリアクリル酸は、実施例1と同じものを用いた。
【0105】
<実施例4>
ポリビニルアルコールの種類を変えたことを除き、実施例2と同様の方法で塊状体を得た。実施例4では、平均重合度が300のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、けん化度98.8%)を用いた。得られた塊状体の3点曲げ強さは220MPaであった。
【0106】
<実施例5>
ポリアクリル酸の種類を変えたことを除き、実施例1と同様の方法で塊状体を得た。実施例5では、数平均分子量(Mn)が12,400のポリアクリル酸(和光純薬工業製)を用いた。得られた塊状体の3点曲げ強さは315MPaであった。
【0107】
<比較例1>
テトラエトキシシラン100質量部をエタノール100質量部に溶解し、水13.5質量部、37質量%塩酸1.2質量部を加えた後、80℃で30分間加熱還流して反応溶液を得た。その液を攪拌しながらその液に、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート(アルドリッチ製、平均重合度=920)の10質量%エタノール溶液200質量部を添加して混合物を得た。
【0108】
次に、その混合物をモルド(内部のサイズが10mm×10mm×45mm)にキャストした後、60℃で保温したところ、その混合物はゲル化した。このモルドを密閉度が低い容器内に配置した状態で、該ゲルの質量減少が飽和するまで60℃の熱風乾燥機で乾燥した。具体的には2週間乾燥を行った。その後、該複合体を容器およびモルドから取り出し、150℃で12時間追加乾燥を行って残存溶媒を除き塊状体を得た。この塊状体の3点曲げ強さは130MPaであった。
【0109】
以上の結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1に示すように、本発明によれば、機械的特性が良好な塊状体および複合体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、各種の部材の材料となる塊状体および複合体に適用でき、たとえば、曲げ強さや圧縮強さなどの力学的物性が求められる部材の材料となる塊状体および複合体に適用できる。本発明の塊状体および複合体は、特定の分野において、金属材料の代わりとして用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する塊状体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である塊状体。
【請求項2】
前記化合物(I)が、以下の式(1)で示される少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の塊状体。
1(OR1n1(m-n) (1)
[式中、M1はSi、Al、TiまたはZrを表す。R1はアルキル基を表す。L1はハロゲン原子を表す。mはM1の原子価と等しい。nは0〜mの整数を表す。]
【請求項3】
有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する塊状体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部である塊状体。
【請求項4】
前記重合体(A)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%未満であり、前記重合体(B)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項5】
前記重合体(A)がビニルアルコール系重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項6】
前記重合体(A)の平均重合度が300以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項7】
前記重合体(B)がアクリル系重合体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項8】
前記重合体(B)の数平均分子量(Mn)が10,000以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項9】
3点曲げ強さが200MPa以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項10】
無機成分の含有率が30〜75質量%の範囲にある、請求項1〜9のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項11】
海成分と島成分とからなる海島状の微細構造を有し、前記島成分の平均径が1〜1,000nmの範囲にある、請求項1〜10のいずれか1項に記載の塊状体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の塊状体から得られる歯科材料。
【請求項13】
(i)溶媒と、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)と、化合物(I)、化合物(I)の加水分解物、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)および金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む混合物を調製する工程と、
(ii)前記混合物から前記溶媒を除去する工程とを含み、
前記混合物において、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物である、塊状体の製造方法。
【請求項14】
前記重合体(A)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%未満であり、前記重合体(B)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%以上である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記(i)の工程は、前記化合物(I)が溶解された溶液中で前記化合物(I)を加水分解縮合させ、前記溶液に前記重合体(A)と前記重合体(B)とを加える工程を含む、請求項13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
化合物(I)が、以下の式(1)で示される少なくとも一種の化合物である、請求項13〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
1(OR1n1(m-n) (1)
[式中、M1はSi、Al、TiまたはZrを表す。R1はアルキル基を表す。L1はハロゲン原子を表す。mはM1の原子価と等しい。nは0〜mの整数を表す。]
【請求項17】
前記重合体(A)がビニルアルコール系重合体である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記重合体(A)の平均重合度が300以上である、請求項13〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記重合体(B)がアクリル系重合体である、請求項13〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記重合体(B)の数平均分子量(Mn)が10,000以上である、請求項13〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
有機成分(X)と、化合物(I)の加水分解縮合物(Y−1)とを含有する複合体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、前記化合物(I)は、アルコキシ基および/またはハロゲン原子が結合した金属原子(M)を含む少なくとも一種の化合物であり、無機成分の含有率が45〜60質量%の範囲にある複合体。
【請求項22】
有機成分(X)と、金属原子(M)を含む金属酸化物(Y−2)とを含有する複合体であって、前記有機成分(X)は、ヒドロキシル基を含有する重合体(A)と、カルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(B)とを含有し、前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の量が10〜700質量部の範囲にあり、無機成分の含有率が45〜60質量%の範囲にある複合体。
【請求項23】
前記重合体(A)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%未満であり、前記重合体(B)を構成する全単量体単位に占める、前記少なくとも一種の官能基を含有する単量体単位の割合が10モル%以上である、請求項21または22に記載の複合体。

【公開番号】特開2007−217457(P2007−217457A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36597(P2006−36597)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】