説明

塗布ダイスおよび絶縁電線の製造方法

【課題】絶縁電線を製造する際、絶縁皮膜の厚さを均一に制御することができる塗布ダイスを提供する。
【解決手段】塗布ダイス10は、断面形状が略長方形状の平角導体20に適用する塗布ダイスである。この塗布ダイス10の開口部11の形状は、導体20の断面形状と異形状である。具体的には、塗布ダイス10を平面視したとき、導体20が通過する際の塗布ダイス10の開口部11の内周面において、導体20の直線部20fの中央に対応する箇所が、導体20の直線部20fの端部に対応する箇所よりも、凹むように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の表面に塗布された絶縁塗料の塗布量を調整する塗布ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体の表面に絶縁皮膜を有する絶縁電線が知られている。絶縁電線は、例えば各種電気機器の配線、モータや変圧器などの巻線(コイル)として広く使用されている。
【0003】
絶縁電線は、一般的に次のようにして製造されている。導体表面に絶縁塗料を塗布した後、塗布ダイスにより導体表面の余分な絶縁塗料を除去して絶縁塗料の塗布量を調整し、次いで、焼付炉に通して絶縁塗料を焼付けすることで、導体表面に絶縁皮膜を形成する。そして、絶縁皮膜が所定の厚さに達するまで、これら一連の作業(絶縁塗料の塗布、塗布量の調整および焼付け)を複数回繰り返す。塗布量の調整に使用される塗布ダイスは、開口部を有し、絶縁塗料が塗布された導体がこの開口部を通過することで、導体表面の余分な絶縁塗料を除去して導体表面に塗布された絶縁塗料の塗布量(厚さ)を調整する。塗布ダイスは、平面視したとき、開口部の形状が導体の断面形状と略相似形であるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また最近では、絶縁電線として、巻線の占積率を上げ、小型化を図る観点から、断面形状が略長方形状の導体(平角導体)の表面に絶縁皮膜を形成した平角電線が使用されるようになっている。このような平角導体においては、絶縁塗料の付き回りを良くするため、例えば角部に角丸め加工(R加工)を施すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐123759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁電線において、絶縁皮膜の厚さが不均一である場合、絶縁皮膜が厚い箇所(肉厚部)では電気絶縁性が高いが、絶縁皮膜が薄い箇所(肉薄部)では電気絶縁性が低くなり、この絶縁皮膜の薄い箇所によって絶縁電線の電気絶縁性が決定される。また、絶縁皮膜の厚さが不均一な平角電線を巻線に使用した場合、電線同士が直接接触せず不要な空間が形成される虞があることから、占積率の低下が懸念される。したがって、絶縁電線を製造する際、絶縁皮膜の厚さを均一に形成することが望まれる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、絶縁電線を製造する際、絶縁皮膜の厚さを均一に制御することができる塗布ダイスを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記した塗布ダイスを使用した絶縁電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究したところ、平角導体のような断面形状が略多角形状の導体の表面に絶縁皮膜を形成する場合、従来の塗布ダイスでは、絶縁皮膜の厚さが不均一になり易いとの知見を得た。
【0009】
図5は、従来の塗布ダイスを説明する模式図である。塗布ダイス100は、角部が角丸めされた平角導体用の塗布ダイスである。この塗布ダイス100は、図5(A)に示すように、平角導体20が通過する開口部110を有し、この開口部110の形状が平角導体20の断面形状と略相似形、即ち略長方形状である。絶縁塗料が塗布された平角導体20は、塗布ダイス100の開口部110を通過することで、絶縁塗料の塗布量の調整が行われ、塗布ダイス100の開口部110を通過する際、開口部110の同心上に位置する。つまり、塗布ダイス100を平面視したとき、塗布ダイス100の開口部110を平角導体20が通過する際、開口部110の内周面(平角導体20の表面に対向する面)が、平角導体20の表面と所定の間隔をもって略平行になる。そのため、絶縁塗料が塗布された平角導体20は、塗布ダイス100を通過後、図5(B)に示すように、平角導体20を長手方向に直交する方向に断面視したとき、平角導体20の表面に絶縁塗料30が所定の厚さをもって略均一に塗布された状態となる。このようにして、絶縁塗料30の塗布量が調整される。その後、焼付炉に通して絶縁塗料30を焼付けすることで、平角導体20の表面に絶縁皮膜が形成される。
【0010】
しかし、本発明者らが、従来の塗布ダイス100を使用して絶縁塗料30の塗布量を調整し、平角導体20の表面に絶縁皮膜を形成して製造した平角電線21について観察したところ、絶縁皮膜の厚さに不均一(ばらつき)が生じる場合があることが分かった。具体的には、図5(C)に示すように、平角電線21を長手方向に直交する方向に断面視したとき、平角導体20の表面において、平角導体20の直線部20fの中央における絶縁皮膜31が薄く、平角導体20の直線部20fの端部における絶縁皮膜31が厚くなる傾向が見られた。これは、塗布量の調整後、焼付けするまでの間にタイムラグがあるため、その間、平角導体20の表面に塗布された絶縁塗料30が表面張力により平角導体20の角部20r側に移動し、そして導体20表面に絶縁塗料30が不均一に塗布された状態で絶縁塗料30の焼付けが行われることが原因の一つと考えられる。
【0011】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明の塗布ダイスは、断面形状が少なくとも1つの直線部と角部とを有する略多角形状である導体の表面に塗布された絶縁塗料の塗布量を調整する塗布ダイスである。また、塗布ダイスは、導体が通過する開口部を有している。そして、塗布ダイスを平面視したとき、導体が通過する際の塗布ダイスの開口部における導体の表面に対向する面(以下単に「開口部の内周面」と呼ぶ場合がある)において、導体の直線部の中央に対応する箇所が、導体の直線部の端部に対応する箇所よりも、凹むように形成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、塗布ダイスの開口部において、導体の直線部の中央に対応する箇所が導体の直線部の端部に対応する箇所よりも凹むように形成されていることで、導体表面に塗布された絶縁塗料が、導体の直線部の中央では厚く、一方、導体の直線部の端部では薄く塗布された状態となる。そのため、塗布量の調整後、焼付けするまでの間、導体表面に塗布された絶縁塗料が表面張力により導体の角部側に移動するようなことがあっても、絶縁塗料の厚さのばらつきが均一化される。したがって、導体表面に絶縁塗料が略均一に塗布された状態で絶縁塗料を焼付けすることができ、その結果、絶縁皮膜の厚さを均一に制御することができる。
【0014】
本発明における「略多角形状」とは、少なくとも1つの直線部と角部とを有する形状であればよく、特に限定されるものではない。角部には、2つの直線部が繋がる角部の他、直線部と曲線部とが繋がる角部も含む。略多角形状の具体例としては、四角形状(矩形状、台形状、菱形状など)、三角形状、六角形状や、半円形状、半楕円形状、オーバルトラック形状(2つの平行な直線部とこれら直線部に繋がる2つの円弧部とからなる形状)などが挙げられる。そして、角部が角丸めされたり、角部が面取りされた形状も含むことから、ここでは「略多角形状」と表現した。また、「平面視」とは、塗布ダイスを開口部の軸方向の上側から見た状態をいう。さらに、「直線部の中央」とは、直線部の長さに対して直線部の中央位置を中心とする1/2の長さの領域を指し、「直線部の端部」とは、直線部の長さに対して直線部の端部から1/4の長さの領域を指す。
【0015】
「導体の直線部の中央に対応する箇所が導体の直線部の端部に対応する箇所よりも凹むように形成されている」とは、塗布ダイスの開口部を導体が通過する際、開口部の内周面において、導体の直線部の中央に対応する箇所と導体の直線部の端部に対応する箇所とでは導体の直線部との間隔が異なる。そして、導体の直線部に対して、直線部の中央に対応する箇所の間隔が直線部の端部に対応する箇所の間隔よりも広いことを意味する。上記の条件を満たすのであれば、開口部の内周面の形状は、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明の一形態としては、開口部の内周面が、導体の直線部に対して、直線部の端部に対応する箇所から直線部の中央に対応する箇所に向かって段階的又は連続的に間隔が広くなるように傾斜していることが挙げられる。
【0017】
この構成によれば、絶縁塗料の表面張力による絶縁塗料の厚さのばらつきをより小さく抑えることができ、絶縁塗料の厚さのばらつきがより効果的に改善される。その結果、絶縁皮膜の厚さをより均一に制御することができる。
【0018】
ここで、連続的に間隔を広くする場合は、開口部の内周面において、導体の直線部に対向する面を導体の直線部に対して直線状(V字状)に傾斜させる、或いは、導体の直線部に対して開口部の内周面を湾曲状(U字状)に傾斜させることが挙げられる。
【0019】
開口部の内周面において、導体の直線部の中央に対応する箇所における導体から最も離隔する点を通り、かつ、導体の直線部に平行な第一直線P1と、導体の直線部の端部に対応する箇所における導体に最も近接する点を通り、かつ、導体の直線部に平行な第二直線P2と、を引いたとき、本発明の一形態としては、以下の少なくとも一つの要件を満たすことが好ましい。
【0020】
(1)2直線P1‐P2間の距離dL(P1‐P2)が5μm以上40μm以下である。
(2)導体の直線部から第一直線P1までの距離D1と、導体の直線部から第二直線P2までの距離D2との比(D1/D2)が3/2以上5/1以下である。
(3)導体の直線部から第一直線P1までの距離D1が15μm以上80μm以下であり、かつ、導体の直線部から第二直線P2までの距離D2が10μm以上75μm以下である(但し、D1>D2)。
【0021】
これらの要件のうち少なくとも一つを満たすことで、絶縁塗料の表面張力による絶縁塗料の厚さのばらつきが効果的に改善され、絶縁皮膜の厚さをより均一に制御することができる。なお、以上の要件のうち二つ以上を満たすことが好ましく、以上の要件の全てを満たすことがより好ましい。
【0022】
本発明の絶縁電線の製造方法は、断面形状が少なくとも1つの直線部と角部とを有する略多角形状である導体の表面に絶縁塗料を塗布して焼付けする絶縁電線の製造方法であり、次の工程を備える。
導体の表面に絶縁塗料を塗布する塗布工程。
絶縁塗料を塗布した導体を塗布ダイスの開口部に通過させ、絶縁塗料の塗布量を調整する調整工程。
絶縁塗料の塗布量を調整した後、導体の表面に塗布した絶縁塗料を焼付けする焼付工程。
そして、調整工程において、上記した本発明の塗布ダイスを使用することを特徴とする。
【0023】
本発明の絶縁電線の製造方法は、上記した本発明の塗布ダイスを使用して導体表面に塗布した絶縁塗料の塗布量を調整することで、従来に比較して、絶縁皮膜の厚さが均一な絶縁電線を製造することができる。その結果、絶縁電線における絶縁皮膜の電気絶縁性の信頼性を良好に確保することができ、また、この絶縁電線を巻線に使用した場合に、占積率の向上を図ることができる。
【0024】
ここで、絶縁電線を製造する際、絶縁塗料の塗布、塗布量の調整および焼付け作業を複数回繰り返す、即ち、塗布工程、調整工程および焼付工程の一連の工程を複数回繰り返す場合、全ての調整工程において、本発明の塗布ダイスを使用することが望ましいが、少なくとも1回の調整工程において、本発明の塗布ダイスを使用すれば、本発明の効果が期待できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の塗布ダイスは、開口部の平面形状が、導体の直線部の中央に対応する箇所が導体の直線部の端部に対応する箇所よりも凹むように形成されていることで、焼付けする際の絶縁塗料の厚さのばらつきを小さく抑えることができる。その結果、絶縁電線を製造する際、絶縁皮膜の厚さを均一に制御することができる。また、本発明の絶縁電線の製造方法は、絶縁皮膜の厚さが均一な絶縁電線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態に係る絶縁電線の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の塗布ダイスの一例を説明する模式図である。(A)は本例の塗布ダイスの平面図であり、(B)は本例の塗布ダイス通過後の絶縁塗料が塗布された導体の断面図であり、(C)は本例の塗布ダイスを使用して製造した絶縁電線の断面図である。
【図3】(A)は図2に示す本例の塗布ダイスの開口部形状を説明する拡大平面図であり、(B)は従来の塗布ダイスの開口部形状を説明する拡大平面図である。
【図4】本発明の塗布ダイスの変形例を説明する模式図である。(A)は変形例1の塗布ダイスの平面図であり、(B)は変形例1の塗布ダイスの開口部形状の拡大平面図である。
【図5】従来の塗布ダイスを説明する模式図である。(A)は従来の塗布ダイスの平面図であり、(B)は従来の塗布ダイス通過後の絶縁塗料が塗布された導体の断面図であり、(C)は従来の塗布ダイスを使用して製造した絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示す絶縁電線を製造するための装置の構成を説明する。絶縁電線の製造装置50は、塗料槽51、塗布ダイス10、焼付炉54、冷却部55を備える。そして、プーリー56,57によって、導体20を装置50内の塗料槽51、塗布ダイス10、焼付炉54および冷却部55に通過させるように、下方から上方に向かって移動(走行)させるように構成されている。具体的には、繰り出しボビン(図示せず)から繰り出した導体20を、プーリー56を通して装置50の下方側に案内し、装置50内に通過させるように、プーリー57を通して装置50の上方側に案内する。そして、導体20の表面に形成された絶縁皮膜が所定の厚さに達するまで導体20を装置50内に繰り返し(例えば、10〜15回)通過させ、最終的に得られた絶縁電線21を巻き取りボビン(図示せず)に巻き取る。以下、装置50の構成を詳しく説明する。
【0028】
導体20は、断面形状が少なくとも1つの直線部と角部とを有する略多角形状であれば特に限定されるものではなく、用途に応じて、材質、形状、寸法を適宜選択することができる。材質としては、例えば、銅線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、銅心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線などが挙げられる。形状、寸法としては、例えば、断面形状を略長方形状とし、厚さ(即ち、断面の短辺)を0.5mm〜3mm、幅(即ち、断面の長辺)を1〜10mm程度にすることが挙げられる。また、角部に角丸め加工を施してもよい。
【0029】
塗料槽51には、絶縁塗料30が収納されており、導体20を塗料槽51に通過させることにより絶縁塗料30に浸漬して、導体20の表面に絶縁塗料30を塗布する。絶縁塗料30は、絶縁電線21の絶縁皮膜を形成する樹脂を有機溶剤に溶解したものである。絶縁皮膜を形成する樹脂としては、導体20との密着性に優れ、電気絶縁性および耐熱性が高い樹脂であれば特に限定されるものではない。例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびH種ポリエステル樹脂などが挙げられる。なお、導体20との密着性が高い樹脂とは、例えばポリアミドイミド樹脂については、導体20との密着性が、汎用のポリアミドイミド樹脂(例えば、日立化成工業株式会社製、商品名:HI‐405H、HI‐401Dなど)よりも高いポリアミドイミド樹脂(例えば、日立化成工業株式会社製、商品名:HI‐400A、HI‐407Aなど)をいう。
【0030】
上記した樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに、上記した樹脂に密着性付与剤として、例えば、メラミンなどのアミノ樹脂やヘテロ環状メルカブタンなどを添加してもよい。また、有機溶剤としては、例えば、N‐メチル‐ピロリドンなどが挙げられる。絶縁塗料30における樹脂の含有量(濃度)は、例えば20〜30質量%とすることが好適である。
【0031】
ところで、絶縁皮膜は、同じ(同質の)樹脂で形成した単層構造とする他、異なる(異質の)樹脂で形成した複数の樹脂層を積層した積層構造とすることも可能である。積層構造とする場合、例えば、導体表面に第1樹脂層を形成し、第1樹脂層の上に第2樹脂層を形成することが挙げられる。この場合、例えば、第1樹脂層を導体との密着性が高い樹脂で形成し、第2樹脂層を第1樹脂層の樹脂(例、ポリアミドイミド樹脂)よりも伸長性が高い樹脂で形成することが挙げられる。これにより、絶縁電線を巻線に使用した場合、曲げ加工(コイリング)による絶縁電線の変形に第2樹脂層が追従するため、絶縁皮膜に亀裂が生じるのを効果的に回避することができる。
【0032】
第1樹脂層を形成する樹脂としては、上記した導体との密着性に優れる樹脂、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびH種ポリエステル樹脂などが好適に使用できる。一方、第2樹脂層を形成する樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂などが好適に使用できる。上記した樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、さらに、上記した樹脂に密着性付与剤を添加してもよい。また、第2樹脂層の樹脂は、第1樹脂層の樹脂よりも伸長性が高い樹脂であれば、第1樹脂層の樹脂と同種の樹脂であってもよい。具体的には、例えば、第1樹脂層の樹脂として、上記した導体との密着性が高いポリアミドイミド樹脂(例えば、日立化成工業株式会社製、商品名:HI‐400A、HI‐407Aなど)を使用し、第2樹脂層の樹脂として、第1樹脂層のポリアミドイミド樹脂よりも伸長性が高いポリアミドイミド樹脂(例えば、日立化成工業株式会社製、商品名:HI‐401D‐24、HI‐401A No.1、HI‐401A No.1 K‐1、HI‐401A No.1 K‐2、HI‐401A No.4、HI‐401SE‐23、HI‐407A No.1、HI‐407A No.4など)を使用することも可能である。
【0033】
なお、ここでいう伸長性とは、引張伸びのことをいう。例えば、ポリイミド樹脂の引張伸びは約60%であり、ポリアミドイミド樹脂の引張伸び(約30%)よりも高く、ポリイミド樹脂はポリアミドイミド樹脂よりも伸長性が高い樹脂であるといえる。なお、第2樹脂層を形成する樹脂の引張伸びは、40%以上であることが好ましい。
【0034】
絶縁皮膜の厚さは、絶縁電線に求められる電気絶縁性などを考慮して決定され、通常、20μm〜40μm程度である。積層構造とする場合、各樹脂層の厚さは、要求特性などに応じて適宜決定すればよい。
【0035】
塗布ダイス10は、図2(A)に示すように、導体20が通過する開口部11を有しており、導体20を塗布ダイス10の開口部11に通過させることで、導体20の表面に塗布した絶縁塗料30の塗布量(厚さ)を調整する。ここでは、断面形状が略長方形状の導体20、即ち平角導体に適用する塗布ダイス10を例に挙げ説明する。また、この導体(平角導体)20の角部20rには、角丸め加工が施されている。
【0036】
この塗布ダイス10の開口部11の形状は、従来の塗布ダイス100の開口部110の形状(図5(A)を参照)とは異なり、導体20の断面形状と異形状である。具体的には、塗布ダイス10を平面視したとき、導体20が通過する際の塗布ダイス10の開口部11の内周面において、導体20の直線部20fの中央に対応する箇所が、導体20の直線部20fの端部に対応する箇所よりも、凹むように形成されている(図3(A)も併せて参照)。また、より具体的には、この例では、開口部11の内周面が、導体20の直線部20fに対して、直線部20fの端部に対応する箇所から直線部20fの中央に対応する箇所に向かって連続的に間隔が広くなるように、湾曲状に傾斜している。つまり、塗布ダイス10の開口部11を導体20が通過する際、導体20の直線部20fの中央に対応する箇所では開口部11の内周面と導体20の表面との間隔が広く、導体20の直線部20fの端部に対応する箇所では開口部11の内周面と導体20の表面との間隔が狭い。
【0037】
よって、絶縁塗料30が塗布された導体20は、塗布ダイス10を通過後、図2(B)に示すように、導体20を長手方向に直交する方向に断面視したとき、導体20表面に塗布された絶縁塗料30が、導体20の直線部20fの中央では厚く、端部では薄く塗布された状態となる。そのため、塗布ダイス10により絶縁塗料30の塗布量を調整した後、焼付炉54に通して絶縁塗料30を焼付けするまでの間、導体20表面に塗布された絶縁塗料30が表面張力により導体20の角部20r側に移動するようなことがあっても、絶縁塗料30の厚さのばらつきが均一化される。したがって、導体20表面に絶縁塗料30が略均一に塗布された状態で絶縁塗料30を焼付けすることができ、その結果、図2(C)に示すように、絶縁皮膜31の厚さを均一に制御することができる。
【0038】
ここで、図3(A)に示すように、塗布ダイス10の開口部11の内周面において、導体20の直線部20fの中央に対応する箇所における導体20から最も離隔する点を通り、かつ、導体20の直線部20fに平行な第一直線P1と、導体20の直線部20fの端部に対応する箇所における導体20に最も近接する点を通り、かつ、導体20の直線部20fに平行な第二直線P2と、を引いたとする。そのとき、塗布ダイス10は、以下の少なくとも一つの要件を満たすことが好ましい。
【0039】
(1)2直線P1‐P2間の距離dL(P1‐P2)が5μm以上40μm以下である。
(2)導体の直線部から第一直線P1までの距離D1と、導体の直線部から第二直線P2までの距離D2との比(D1/D2)が3/2以上5/1以下である(但し、導体の表面に既に樹脂層が形成されている場合は、樹脂層を含めた導体を基準とする)。
(3)導体の直線部から第一直線P1までの距離D1が15μm以上80μm以下であり、かつ、導体の直線部から第二直線P2までの距離D2が10μm以上75μm以下である(但し、D1>D2)。
【0040】
これらの要件のうち少なくとも一つを満たすことで、絶縁塗料30の表面張力による絶縁塗料30の厚さのばらつきをより小さく抑えることができ、絶縁塗料30の厚さのばらつきが効果的に改善される。
【0041】
また、この例では、塗布ダイス10の開口部11における導体20を導入する導入側開口部(図1の紙面下側)が広くなるようにテーパ状に形成されており、これにより導体20が開口部11に導入され易くなっている。
【0042】
焼付炉54は、導体20表面に塗布した絶縁塗料30を加熱することにより焼付けして、導体20表面に絶縁皮膜(樹脂層)を形成する。焼付けは、絶縁塗料30に含まれる有機溶剤が蒸発し、樹脂が硬化することにより行われるため、焼付け後の絶縁皮膜は焼付け前の絶縁塗料に比べて若干収縮する。ここで、焼付炉54による加熱温度および加熱時間は、使用する絶縁塗料30の種類などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。加熱温度は例えば400℃〜800℃程度、加熱時間は例えば30秒〜60秒程度に設定することが挙げられる。
【0043】
冷却部55は、絶縁塗料30を焼付けして表面に絶縁皮膜が形成された導体20、即ち絶縁電線21を冷却する。
【0044】
そして、以上の一連の作業(絶縁塗料の塗布、塗布量の調整および焼付け)を複数回繰り返すことにより、導体20表面に所定の厚さを有する絶縁皮膜を形成して、絶縁電線21を製造する。即ち、導体20表面に絶縁塗料30を塗布した後、塗布ダイス10により絶縁塗料30の塗布量を調整し、次いで、焼付炉54に通して絶縁塗料30を焼付けする作業を繰り返すことで、徐々に絶縁皮膜を成長させ、所定の厚さの絶縁皮膜を形成する。
【0045】
(実施例1)
上述した図2および図3(A)に示す塗布ダイス10を使用して平角導体20の表面に絶縁皮膜31を形成した絶縁電線(平角電線)21を製造した。ここでは、無酸素銅からなる平角導体20を用意した。この平角導体20の寸法は、厚さを1.5mm、幅を3.4mmとし、平角導体20の角部20rの曲率半径は、0.32mmとした。
【0046】
塗布ダイス10は、焼付け後の絶縁皮膜31の最小膜厚が45μmとなるように、平角導体20表面に塗布した絶縁塗料30の厚さを調整するように設計した。ここで、図3(A)に示すように、開口部11の内周面において、導体20の4つの直線部20fに対向する各面の中央が凹むようにU字状に傾斜しており、この中央がそれぞれの直線部20fから最も離隔する点となる。また、開口部11の各角部が角丸めされ、上記した導体20の直線部20fに対向する面とこの角部との接合位置が直線部20fに最も近接する点となる。そして、図3(A)に示すように2直線P1、P2を引いたとき、塗布ダイス10の開口部11の形状が以下の要件を満たすように設計した。
距離dL(P1-P2):10μm
距離D1:30μm,距離D2:20μm
比(D1/D2):1.5
また、開口部11の角部の曲率半径は、0.32mmとした。
【0047】
絶縁塗料30には、ポリアミドイミド樹脂系の絶縁塗料(日立化成工業株式会社製、商品名:HI‐405H)を用いた。
【0048】
そして、図1に示す装置50に上記した塗布ダイス10を取付けると共に、塗料槽51に上記した絶縁塗料30を収納して、試験的に平角導体20を装置50内に12回通過させて平角電線21を製造し、絶縁皮膜31の厚さのばらつきを調査した。なお、2回目以後においては、前回の一連の作業で形成される樹脂層を含めた導体を基準として上記要件を満たすように設計した塗布ダイスを使用する。
【0049】
焼付炉54における加熱温度は、600℃に設定し、平角導体20の移動速度は、12m/分に設定した。また、冷却部55による冷却は、送風による空冷とした。
【0050】
(比較例1)
また、比較例1として、図5に示す従来の塗布ダイス100を使用して平角導体20の表面に絶縁皮膜31を形成した平角電線21を製造した。比較例1において、塗布ダイスを変更した以外は、実施例1と同様にした。なお、この塗布ダイス100は、開口部110の形状が平角導体20の断面形状と略相似形(開口部110の角部の曲率半径:0.32mm)であり、図3(B)に示すように、開口部110の内周面と平角導体20の表面との間隔D0が30μmで略一定となるように設計した。
【0051】
実施例1および比較例1の平角電線21をエポキシ樹脂などの透明な樹脂で固めて切断・研磨して断面試料を作製し、顕微鏡で断面観察を行ったところ、実施例1では、比較例1に比較して、絶縁皮膜31の厚さが均一であった。具体的には、比較例1では、平角導体20の直線部20fの中央における絶縁皮膜31が薄く、平角導体20の直線部20fの端部における絶縁皮膜31が厚かったのに対し、実施例1では、これら各部における絶縁皮膜31の厚さがほぼ同じであった。
【0052】
次に、断面観察に基づいて、絶縁皮膜31の厚さを測定し、絶縁皮膜31の平均膜厚、並びに、絶縁皮膜31の最大膜厚と最小膜厚の差を算出した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、実施例1では、絶縁皮膜31の最大膜厚と最小膜厚の差が20μm以下と小さく、比較例1に比較して、絶縁皮膜31の厚さのばらつきが小さいことが分かる。以上の結果から、絶縁電線を製造する際、本発明の塗布ダイスを使用することで、絶縁皮膜の厚さを均一に制御できることが分かる。特に、導体の断面形状が、1.5mm以上、特に3mm以上の少なくとも1つの直線部を有するときに有効であると考えられる。
【0055】
(変形例1)
塗布ダイス10の開口部11の内周面が、図4の(A)および(B)に示すように、導体20の直線部20fに対して、直線部20fの端部に対応する箇所から直線部20fの中央に対応する箇所に向かって連続的に間隔が広くなるように、直線状に傾斜してもよい。この変形例1では、図4(B)に示すように、開口部11の内周面において、導体20の4つの直線部20fに対向する各面の中央が凹むようにV字状に傾斜しており、この中央がそれぞれの直線部20fから最も離隔する点となる。また、開口部11の各角部が角丸めされ、上記した導体20の直線部20fに対向する面とこの角部との接合位置が直線部20fに最も近接する点となる。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、導体の材質や形状、並びに、塗布ダイスの開口部形状を適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の塗布ダイスおよび絶縁電線の製造方法は、絶縁電線の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10,100 塗布ダイス
11,110 開口部
20 導体(平角導体) 21 絶縁電線(平角電線)
20f 直線部 20r 角部
30 絶縁塗料 31 絶縁皮膜
50 絶縁電線の製造装置
51 塗料槽
54 焼付炉 55 冷却部 56,57 プーリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が少なくとも1つの直線部と角部とを有する略多角形状である導体の表面に塗布された絶縁塗料の塗布量を調整する塗布ダイスであって、
前記塗布ダイスは、前記導体が通過する開口部を有しており、
前記塗布ダイスを平面視したとき、前記導体が通過する際の前記塗布ダイスの前記開口部における前記導体の表面に対向する面において、前記導体の前記直線部の中央に対応する箇所が、前記導体の前記直線部の端部に対応する箇所よりも、凹むように形成されていることを特徴とする塗布ダイス。
【請求項2】
前記塗布ダイスを平面視したとき、前記導体が通過する際の前記塗布ダイスの前記開口部における前記導体の表面に対向する面が、前記導体の前記直線部に対して、前記直線部の端部に対応する箇所から前記直線部の中央に対応する箇所に向かって段階的又は連続的に間隔が広くなるように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の塗布ダイス。
【請求項3】
前記塗布ダイスを平面視したとき、前記導体が通過する際の前記塗布ダイスの前記開口部における前記導体の表面に対向する面において、
前記導体の前記直線部の中央に対応する箇所における前記導体から最も離隔する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第一直線P1と、
前記導体の前記直線部の端部に対応する箇所における前記導体に最も近接する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第二直線P2と、を引いたとき、
これら2直線P1‐P2間の距離dL(P1‐P2)が5μm以上40μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布ダイス。
【請求項4】
前記塗布ダイスを平面視したとき、前記導体が通過する際の前記塗布ダイスの前記開口部における前記導体の表面に対向する面において、
前記導体の前記直線部の中央に対応する箇所における前記導体から最も離隔する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第一直線P1と、
前記導体の前記直線部の端部に対応する箇所における前記導体に最も近接する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第二直線P2と、を引いたとき、
前記導体の前記直線部から前記第一直線P1までの距離D1と、前記導体の前記直線部から前記第二直線P2までの距離D2との比(D1/D2)が3/2以上5/1以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗布ダイス。
【請求項5】
前記塗布ダイスを平面視したとき、前記導体が通過する際の前記塗布ダイスの前記開口部における前記導体の表面に対向する面において、
前記導体の前記直線部の中央に対応する箇所における前記導体から最も離隔する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第一直線P1と、
前記導体の前記直線部の端部に対応する箇所における前記導体に最も近接する点を通り、かつ、前記導体の前記直線部に平行な第二直線P2と、を引いたとき、
前記導体の前記直線部から前記第一直線P1までの距離D1が15μm以上80μm以下であり、
前記導体の前記直線部から前記第二直線P2までの距離D2が10μm以上75μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗布ダイス。
【請求項6】
断面形状が少なくとも1つの直線部と角部とを有する略多角形状である導体の表面に絶縁塗料を塗布して焼付けする絶縁電線の製造方法であって、
前記導体の表面に絶縁塗料を塗布する塗布工程と、
前記絶縁塗料を塗布した前記導体を塗布ダイスの開口部に通過させ、前記絶縁塗料の塗布量を調整する調整工程と、
前記絶縁塗料の塗布量を調整した後、前記導体の表面に塗布した前記絶縁塗料を焼付けする焼付工程と、を備え、
前記調整工程において、請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗布ダイスを使用することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−48919(P2012−48919A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188802(P2010−188802)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【Fターム(参考)】