説明

塗材見本板

【課題】 環境に優しく、実用性のある塗材見本板を提供する。
【解決手段】 塗材層、下地層および基板から構成されること。塗材層が下地層から剥離容易となっているか、塗材層と下地層の一部あるいは全部が基板から剥離容易になっていること。また、下地層が塗材層側に吸湿性を有し、その中間ないし基板側において非透過性膜を有していること。全体の軽量化のため、基板を多穴剛性板とすることがある。
【効果】塗材層だけの見本あるいは塗材層と下地層の一部が一体となった塗材見本を保管することができたり、分離した基板および下地層が再利用されるのを容易にしている。軽量であり塗材見本板としての必要な強度を持ったものを提供可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規基材を用いた塗材見本板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築用仕上げ材の意匠、色調の選定、確認に当たっては、実際に用いられる塗材を塗装してなる見本帳あるいは見本板を作成し、発注者、施主等に実際に見せることが行われていた。非特許文献である「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成16年版」の15章「15.1.3見本」の項においても、見本帳又は見本塗板を用いることが記されているだけである。また、この文献中5節の仕上塗材仕上げ「15.5.3施工一般」の項において、見本塗板は、所要量又は塗厚が確認工程ごとに確認できるものとするとの記載がある。このように、仕様書あるいは他の特許文献において、見本塗板の材質について言及しているものは確認できなかった。
【0003】
そして、実際の市場では、複数の模様、色を納めた見本帳にあっては、紙の上に塗装したものを貼り付けたものが主流であり、見本板においては、石綿スレート板、MDF板(中質繊維板)、合板、が用いられることが多かった。見本板の素材の一つである石綿スレート板は健康上の問題から石綿の使用が禁止され、所定の強度が得られるフレキシブルボードは石綿混入のものに比べ厚いものとなり、持ち運び、保管の点で好ましくなく、また、合板、MDF板にあっては、天然資源の有効活用の面からすると、基板の上に直接塗装され、使用後は破棄処分されるものとなる見本板の基材に、4〜6mmの板を一回限りで利用するのは資源の浪費となるものであった。
【0004】
【非特許文献1】公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成16年版、15.1.3見本
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明では、従来利用されていた見本板の基板素材に代えて、新規素材を利用し、更にリサイクルに適したあるいはその後の塗膜部分だけの使用に適した形態を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の請求項1に記載する塗材見本板では、塗材層、下地層および基板から構成されることを要旨としている。
【0007】
また、請求項2に記載する塗材見本板では、請求項1に記載の発明において、下地層と塗材層が剥離容易に構成したことを要旨としている。
【0008】
請求項3に記載する塗材見本板では、請求項1に記載の発明において、下地層が剥離可能なシートより構成され、剥離位置よりの塗材層及び下地層の一部あるいは全部が分離可能となったことを要旨としている。
【0009】
請求項4に記載する塗材見本板では、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発明において、下地層が塗材層側に吸湿性を有し、その中間ないし基板側において非透過性膜を有することを要旨としている。
【0010】
請求項5に記載する塗材見本板では、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の発明において、基板が、多穴剛性板であることを要旨としている。
【0011】
請求項6に記載する見本板台紙は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載される塗材見本板に用いられるため、下地層および基板から構成されることを要旨としている。
【0012】
以下に、この発明の構成要素を順に説明する。
この発明に言う塗材層とは、見本塗板の仕上塗材による塗膜だけの部分のことを言う。仕上塗材はJIS A6909:2003,建築用仕上塗材に規定される薄付け仕上げ塗材、厚付け仕上げ塗材、軽量仕上げ塗材、複層仕上げ塗材あるいは可とう形改修用仕上げ塗材の他、JISに規定のない意匠、素材による仕上塗りに利用される塗膜から構成される層のことである。従って、一種類だけの仕上げ塗材だけにより構成される場合から、下塗り、主材、上塗材のように複数の仕上塗材から構成される場合まで、その全てを含むものである。
【0013】
この発明に言う、下地層とは塗材層の下地となる部分であり、仕上塗材の水分あるいは溶剤を吸収し、それら塗材の水分、溶剤が基板へ透過することを制限あるいは抑止する部分を言う。
【0014】
この下地層に用いられる素材としては、非塗工印刷用紙、軽量コート紙、コート紙、アート紙を含む塗工印刷用紙(例えば、ミラーコート:王子製紙の商品名、ピカソコート:大王製紙の商品名、エスプリコート:日本製紙の商品名)、上質紙、中質紙、下級紙、未晒クラフト紙、晒クラフト紙、特殊板紙、マニラボール、コートボール、キャストコート、クラフトボールなどの紙、板紙あるいは紙、板紙を加工した耐水耐油紙、合成紙、プラスチック板、合板、アルミ板が例示され、中でも表面(塗材層に接する側)に吸湿性があり、裏面には透水性のないものが好ましく用いられる。但し、吸湿の結果、膨潤して、下地が膨れたり、その上に塗装される塗材層にまで膨れの影響、ひび割れ等の問題が生じる、耐水性に難のある材料は良くない。
【0015】
下地層にポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックをそのまま用いた場合および耐油耐水紙を用いた場合は、塗材層との充分な接着力が得られず好ましくない。同様に上質紙を用いた場合は、吸水による基板と下地層の剥離が生じ好ましくない。また、アルミ板を用いた場合は、原料が高価であり、リサイクルする際に分離の手間がかかり好ましくない。
【0016】
更に、下地層は塗材層側では吸湿性を有し、その中間ないし基板側において非透過性膜を有しているのが良い。このように構成することにより、塗材見本を作成する際に、塗材中の水分あるいは溶剤を下地が吸収することができ、塗材が下地に対し滲みこみ投錨効果が得られ、かつ、その水分ないし溶剤を基板側に透過することを防ぐことが可能となる。この水分ないし溶剤が透過しないことにより、基板あるいは基板と下地層を接着している接着剤への悪影響を防ぐことができる。このような機能を持った素材としては、板紙に防湿加工、ラミネート加工を施したものが好適に用いられる。
【0017】
この発明の基板には、下地層と同種の素材を用いることができる。板紙、プラスチック板、合板、アルミ板を利用することが可能である。中でも、板紙の積層物からなるものとした場合、軽量であり、必要な強度が得られ易く、また、塗材層、下地層を分離し、再生紙に利用する上では、効率よく利用可能である。他の素材は、塗材層あるいは塗材層と下地層を分離した後の再利用、資源回収に手間がかかる不便さがある。
【0018】
基板を軽量化する手段として、基板に穴を開け多穴剛性板とするのが良い。多穴剛性板は、平板に多数の穴を規則的に開設させたものでる。穴の形状は円、楕円、三角、四角、五角形、六角形、星形等、種々の形状が採用され得るが、開設の容易さ、そのための装置の製造のし易さ、その装置を可動させるための動力量からして円形の穴が望ましい。
【0019】
穴の配置、数量は、基板上に塗材層を形成させ、折れ曲がったりしない強さが確保できる範囲にて設定される。通常は、穴の大きさを3〜50mmの範囲に設定することが、経済的で良い。3mm以下では、穿孔の手間が大きくなることと、軽量化の効率が悪くなる。50mm以上の場合、塗材見本板に対する穴の位置の設定が困難となったり、基板の強度が小さくなり良くない。穴の数は、基板上への配置により決まり、穴と穴の間隔では、1〜10mmの範囲にあるのが良い。穴の大きさが小さい時には、小さい数値でも強度上問題なく、大きい時には基板の強度を確保するため間隔を大きくする必要がある。また、穴の配置は、格子点位置に設けるのが設計上簡単となる。しかしながら、千鳥の位置として、全ての円形穴が等距離とすることも可能である。
【0020】
穴を設けた多穴剛性板は、穴を設けない状態の平板の重量の50%〜70%となる。板紙の4mm厚積層板からなる多穴剛性板を作成したところ、穴空け前の重量は、A4版換算重量において、230gであり、直径15.5mmの穴を間隔4mmで開設した時145gとなった。同じく、A4版換算重量が合板(5.5mm厚)185g、MDF板(中質繊維板、4.0mm厚)204g、石綿スレート板(4.0mm厚)406g、に比べても遜色のないものとなり、見本板を製造する者、利用する者への負担を小さくすることができる。
【0021】
この発明では、塗材見本板を、意匠、色調の選定、確認にのみ利用するのではなく、この見本板の一部を確認後も保管が容易にできるようにすること、あるいは、見本板台紙をリサイクルし易くするための工夫もしている。
【0022】
その一つに、下地層と塗材層が容易に剥離する事のできる様に構成することがある。このように構成することにより、塗材層だけ独立させて塗材見本を保管することが可能となる。塗材見本として保管する際には、見本板面積全てでなくとも、その一部を切り取って保管することもできる。剥離容易にするためには、表面にシリコーン塗工を施したり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂フィルムをラミネートすることにより、易剥離な表面が得られる。
【0023】
このように構成すれば、基板および下地層の再利用に際し、塗材との分離が容易になり、塗材の主成分である顔料、充填材、結合材の混入を防ぐことが容易となる。
【0024】
また、別の手法として、下地層が剥離可能となったシートから構成されることである。下地層が剥離可能であることにより、剥離位置より塗材層および下地層の一部が分離されることとなり、下地層の一部が一体となった塗膜見本が得られることとなる。剥離位置は、下地層の基板接着面側、あるいは下地層を積層物とし、その層間において剥離容易面を形成すれば、塗材層と下地層の一部あるいは全部が基板から分離可能となる。
【0025】
先に説明した、請求項2の発明である、塗材層だけの分離は塗材層が靱性あるいは弾性を有しないと塗材層が破断してしまうが、下地層が一緒の状態で分離されるのであればその可能性は小さいものとなる。
【0026】
下地層が層間剥離可能とするには、下地層が複数回の抄造が行われたものであるにより達成される。また、抄紙そのものが、0.5mm程度の厚みを有することが、後の層間剥離を容易に行うことができる。
【0027】
この塗材層および下地層の一部が分離されたものについても、先の例と同様に、塗材見本の保管を容易にしたり、基板および下地層の再利用を容易にしたりすることができる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、下地層を有することにより塗材見本板としての利用後の分別回収を容易なものとすることができる。
【0029】
請求項2の発明では、請求項1の発明の効果に加え、塗材見本板として利用した後、塗材だけの見本を保管することができたり、分離した基板および下地層が再利用されるのを容易にしている。
【0030】
請求項3の発明では、請求項1の発明の効果に加え、請求項2の方法では塗材層だけの分離が不可能な塗材見本であっても下地層の一部あるいは全部があることにより、塗材見本の保管を必要部分だけ、軽量にして薄膜な状態にて得ることができる。
【0031】
請求項4の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、塗材層との付着に優れ、基板あるいは基板と下地層の接着部分に悪影響のない下地層とすることができる。
【0032】
請求項5の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明の効果に加え、必要な強度を確保しながら基板の軽量化を達成している。
【0033】
請求項6の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の効果が得られるため、塗材見本板としての問題のない、最適な基板及び下地層を提供することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、この発明の実施例を示し、具体的に説明する。
図1では、この発明の塗材見本板の外観斜視図を一部切り欠き状態により示している。図2では、この発明の塗材見本板に用いられる基板のみの平面図を示している。図3では、この発明の塗材見本板の断面図を示している。図4は下地層および基板よりなる、見本板台紙の拡大断面図を示している。図中、符号1が塗材層、符号2が下地層、符号3が基板、符号4が穴である。
【0035】
実施例では、基板1としての多穴剛性板には、坪量460g/平米の非塗工紙を5枚貼り合わせ、更に両面に450〜480g/平米の塗工紙を貼り合わせたもの、貼り合わせたときの厚み4mmのものを利用した。この基板は大きさが42.5cm×23.6cmであり、長辺方向に20ヶ、短辺方向に11ヶの円形の穴4が規則的に設けてある。穴の大きさは最大16mm、最小14mmであり、板紙に穴を開ける時に穿孔具の刃先の角度により生じるものであり、穴を開けた後の打抜き部分の取り出しを容易にするためにテーバーの付いたものでもある。この多穴となった状態における見かけの坪量は2260g/平米となった。
【0036】
下地層には、実施例1では連量210Kgにあるキャストコート紙を用い、実施例2では非塗工紙に連量180Kgにあるプレスコート紙を用い、基板に対してアクリル酸エステル共重合体からなる粘着剤により貼り合わせた。実施例2に用いた下地は、基板側にビニール引きした面を利用し、塗材が塗装される側では、塗材中の水分を吸水できるものであった。
【0037】
塗材層には、JIS A6909「建築用仕上塗材」に規定される、複層仕上塗材の塗材を3工程に亘って塗装した。使用した商品は、菊水化学工業(株)製の、下塗り「キクスイ プライマースーパーE」、主材塗り「キクスイ タイル・エマルナ」、上塗り「ウルトラドライ」とした。
【0038】
実施例1、同2では、塗材層にひび割れ、皺の発生もなく、塗材見本板として問題のないものとなった。実施例2の塗材見本板では、見本板として利用後、下地層から剥離分離することができ、これを切り取って、薄膜の控え見本とすることができた。更に、下地層分離後の基板は、再生紙の原料として用いることが可能となった。
【0039】
実施例3では、実施例1に用いた連量210Kgにあるキャストコート紙を基とし、塗材層形成側には、シリコン樹脂塗工を行ったものを利用した。そして、塗材層には、JIS A6909「建築用仕上塗材」に規定される、防水形外装合成樹脂エマルション系薄付け仕上塗材(通称:単層弾性仕上塗材)を塗装した。使用した商品は、菊水化学工業(株)製の、「BeニューS」とした。
【0040】
この実施例3では、塗材層にひび割れ、皺の発生もなく、塗材見本板として問題のないものとなった。実施例3の塗材見本板では、見本板として利用後、塗材層のみを下地層から剥離分離することができ、これを切り取って、薄膜の控え見本とすることができた。更に、塗材層分離後の基板は、再生紙の原料として用いることが可能となった。
【0041】
比較例1では、下地層にニスコートされた連量180Kgにあるコートボール、比較例2では連量180Kgにあるプレスコートを用い、塗材層には、先の実施例1と同じ塗材を用いて試験を行った。
【0042】
比較例1では、主材塗りの段階で、下地層が膨潤し、上塗りを塗装し、乾燥した後も、その膨潤した跡である、皺が塗材層表面に表れてしまった。
比較例2においても、比較例1と同様な現象が発生し、塗材見本板としての、機能を果たすことが不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の実施例による塗材見本板の外観斜視図
【図2】この発明の実施例による基板のみの平面図
【図3】この発明の実施例による塗材見本板の断面図
【図4】この発明の実施例による見本板台紙の部分拡大断面図
【符号の説明】
【0044】
1…塗材層、2…下地層、3…基板、4…穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗材層、下地層および基板から構成されることを特徴とする塗材見本板。
【請求項2】
下地層と塗材層が剥離容易に構成したことを特徴とする請求項1に記載の塗材見本板。
【請求項3】
下地層が剥離可能なシートより構成され、剥離位置よりの塗材層及び下地層の一部あるいは全部が分離可能となったことを特徴とする請求項1に記載の塗材見本板。
【請求項4】
下地層が塗材層側に吸湿性を有し、その中間ないし基板側において非透過性膜を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の塗材見本板。
【請求項5】
基板が、多穴剛性板であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の塗材見本板。
【請求項6】
下地層および基板である多穴剛性板から構成される請求項1ないし請求項5に記載の塗材見本板に用いられるための見本板台紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−98744(P2006−98744A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284841(P2004−284841)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)