説明

塗膜の耐水密着性に優れた亜鉛系めっき鋼板

【課題】リン酸塩皮膜をシーリングするシリカ皮膜のシリカ一次粒径,総シラノール基数を調整することにより、加工密着性を損なうことなく塗膜の耐水密着性を改善する。
【解決手段】亜鉛系めっき層に設けたリン酸塩皮膜をシリカ皮膜でシーリングした化成処理鋼板であり、シリカ皮膜はシランカップリング剤を含むことなく、皮膜を構成するシリカ粒子の一次粒径を10〜200nm,シリカ粒子1mg当りのシラノール基数と1m2当りのシリカ付着量の積として求められる総シラノール基数を1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に調整している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装材,内装材,車両用鋼板,外置き電気機器用ケーシング材,表装材等として使用され耐食性,塗膜の耐水密着性に優れた亜鉛系めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性の良好な鋼材として亜鉛めっき鋼板,亜鉛合金めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板が多用されているが、湿潤雰囲気,排ガス雰囲気,海塩粒子飛散雰囲気等に亜鉛系めっき鋼板を長時間曝すと鋼板表面に白錆が発生し外観が劣化する。クロメート処理で白錆を防止できるが、クロメート処理ではクロムイオンを含む廃液の処理に多大な負担がかかり、環境負荷の大きなクロムイオンがクロメート皮膜から溶出する。
【0003】
クロメート処理の代替として、リン酸塩皮膜を改質することによりクロメート不要のリン酸塩処理が提案されている(特許文献1)。リン酸塩皮膜は鋼板表面に析出した微細なリン酸塩結晶から形成される皮膜であり、隣り合うリン酸塩結晶の間では下地鋼が露出している。そのため、リン酸塩処理した亜鉛系めっき鋼板を加工後に塗装すると、十分な塗膜密着性が得られ難く、加工時に生じた皮膜欠陥を起点とする腐食も発生しやすい。そこで、特許文献1は、ヒドラジン誘導体,シリカ粒子,金属表面に対してエッチング作用のある酸を含む処理液でリン酸塩皮膜を後処理している。
【特許文献1】特開2001-207271号公報
【0004】
シリカ皮膜は、リン酸塩皮膜の欠陥部近傍におけるpH値の低下防止にも有効であり、疵部等を起点とする腐食を抑制する作用もある。しかし、リン酸塩処理後の防錆にシリカ処理を適用すると、リン酸塩結晶の凹部にシリカ粒子が堆積する。延性のないシリカ皮膜は、厳しい加工時に層間剥離する場合がある。そのため、シリカ処理した亜鉛系めっき鋼板を加工した後で塗装すると、密着性の良好な塗膜を形成し難い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シランカップリング剤を粒子表面に固定したシリカ粒子でシリカ皮膜を形成すると、シリカ皮膜に柔軟性が付与され、加工部の塗膜密着性が向上する。しかし、シランカップリング剤で修飾したシリカ皮膜は、湿潤雰囲気下で塗膜密着性の低下が散見される。塗膜密着性は平坦部でも低下する場合がある。
【0006】
塗膜密着性の低下は、塗膜を透過した水分子によりシランカップリング剤からシラノール基が解離し、シリカ皮膜とシランカップリング剤とが剥離することに原因があると推察される。未反応シランカップリング剤のOH基が塗膜を透過した水分子と水素結合し、水の単分子吸着で皮膜表面が水和して塗膜膨れになることも一因と考えられる。図1は、シリカ粒子と塗膜との間で生じる以上の現象を説明するモデルであるが、同様な現象は亜鉛系めっき鋼板とシリカ粒子との間でも生じる。
【0007】
本発明は、塗膜を透過した水分とシラノール基との反応が塗膜の耐水密着性に影響しているとの前提で、シリカ粒子の粒径及びシラノール基数を調整することにより塗膜の耐水密着性を改善し、耐久性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン酸塩皮膜のリン酸塩結晶間を一次粒径:10〜200nmのシリカ粒子で充填するようにシリカ皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板であり、シリカ皮膜に及ぼすシラノール基の影響を適度に調整するため、シリカ粒子:1mg当りのシラノール基数と1m2当りのシリカ付着量(mg)との積として求められる総シラノール基数が1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に調整していることを特徴とする。
シリカ皮膜は、必要に応じTi,Zr,V,Mo,Wから選ばれた一種又は二種以上の金属を酸化物,水酸化物,フッ化物等として含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
リン酸塩皮膜を設けた亜鉛系めっき鋼板をシリカ処理すると、鋼板表面に分布しているリン酸塩結晶の表面及びリン酸塩結晶間で露出しているめっき層表面にシリカ粒子が堆積する。本発明者等による調査・研究結果は、シリカ皮膜を構成するシリカ粒子の一次粒径,シラノール基数が塗膜の耐水密着性に大きな影響を及ぼしていることを示している。
【0010】
堆積したシリカ粒子が一次粒径:10nm未満の微粒子では、塗膜を透過した水分子が毛管現象によってシリカ皮膜に浸透し堆積しやすくなる。浸透水が気化すると、塗膜とシリカ皮膜との界面に隙間が生じ塗膜フクレとなる(図2)。シリカ粒子の一次粒径が10nm以上(好ましくは、40nm以上)になると、シリカ皮膜に水分子が浸透し堆積する毛管現象が起こらず、結果として塗膜フクレが抑制される。しかし、200nmを超える一次粒径では、加工後の塗膜密着性が低下しやすい。
【0011】
シラノール基数は、リン酸塩皮膜の隙間から覗いている亜鉛系めっき層の露出表面をシリカ皮膜で被覆する上で重要な因子である。シラノール基数の影響は、シリカ粒子:1mg当りのシラノール基数と1m2当りのシリカ付着量(mg)との積として求められる総シラノール基数で定量化できる。そして、総シラノール基数を1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に調整すると、亜鉛系めっき層の露出表面が効果的にシリカ皮膜で覆われ、しかも適度な耐水性をシリカ皮膜に付与できることが判った。
【0012】
総シラノール基数が1.1×1015個未満では、亜鉛系めっき層の露出表面をシリカ皮膜で被覆し難く、塗膜を透過した水分子が亜鉛系めっき層の露出表面に到達し、露出表面の腐食,塗膜密着性の低下を引き起こす(図3)。シリカ皮膜表面のシラノール基数が減少すると、塗膜密着性が更に低下する。逆に8.5×1018個を超える総シラノール基数になると、シリカ皮膜の親水性が高くなり、塗膜を透過した水分子が水素結合でシリカ皮膜に吸着され、シリカ皮膜の水和,ひいては塗膜フクレが生じやすくなる(図4)。
【0013】
必要に応じシリカ皮膜に導入されるTi,Zr,V,Mo,W等のバルブメタルは、酸化物,水酸化物となって緻密で強固なバリア皮膜を形成し、耐食性の更なる向上に寄与する。また、Si原子に配位結合したバルブメタルの水酸化物は、腐食性雰囲気に曝されると溶出し難溶性の酸化物,水酸化物となって再析出する。溶出・再析出の過程で亜鉛系めっき層の露出表面及び皮膜欠陥部が自己修復されることも、優れた耐食性が得られる一因である。
【実施の形態】
【0014】
化成処理される原板には、電気めっき法,溶融めっき法,蒸着めっき法で製造された亜鉛系めっき鋼板が使用される。亜鉛合金めっきには、Zn-Al,Zn-Mg,Zn-Ni,Zn-Al-Mg等がある。溶融めっき後に合金化処理した合金化亜鉛めっき鋼板も化成処理用原板として使用できる。
【0015】
リン酸塩処理液には、リン酸イオンの他に必要に応じZn,Mn,Mg,Ca,Ni,Co等の金属イオンを添加した水溶液が使用される。処理促進剤として硝酸イオンをリン酸塩処理液に含ませても良い。リン酸塩処理液は、リン酸イオン濃度を0.03〜0.5モル/l,金属イオン濃度を0.01〜0.5モル/lの範囲に調整することが好ましい。硝酸イオンを含ませる場合、硝酸イオン濃度を0.01〜1.0モル/lの範囲に調整する。
【0016】
リン酸イオン濃度:0.03モル/l未満では短時間処理でリン酸塩結晶が充分に析出せず、逆に0.5モル/lを超えるとリン酸塩処理液の安定性が低下し、スラッジが発生し易くなる。金属イオン濃度:0.01〜0.5モル/lは各種金属イオンを合計した値であり、0.01モル/l未満では短時間処理でリン酸塩結晶を充分に析出させることができず、逆に0.5モル/lを超えるとリン酸塩処理液の安定性が低下する。硝酸イオンによる反応促進効果は0.01モル/l以上でみられるが、1.0モル/lを超える過剰量の硝酸イオンが含まれると酸化作用により亜鉛系めっき層の表面が不活性化し、却って反応性が低下する。
【0017】
Alを含むめっき層が形成された亜鉛系めっき鋼板をリン酸塩処理する場合、めっき層から溶出したAlがリン酸塩反応を阻害する傾向がみられるが、リン酸塩処理に及ぼす溶出Alの悪影響はリン酸塩処理液にフッ化物を添加することにより抑制できる。フッ化物としてはフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素ナトリウム等があり、フリーのフッ素イオン濃度が30ppm以上でフッ化物の添加効果が顕著になる。連続的な操業を可能とする上では、一定量のフッ化物を連続的にリン酸塩処理液に添加し、フッ素イオン濃度を30ppm以上に維持することが好ましい。
【0018】
リン酸塩処理は、好ましくは液温40〜80℃の範囲で実施される。液温が40℃に達しない場合、短時間処理ではリン酸塩結晶の析出が不充分となる。逆に、80℃を超える液温ではリン酸塩処理液の安定性が低下し、スラッジの発生や水分の蒸発が多くなり連続操業での濃度管理が難しくなる。液温が40〜80℃のリン酸塩処理液を使用する限り、スプレー処理であれば2〜6秒程度、浸漬処理であれば3〜9秒程度で必要とするリン酸塩皮膜が形成される。処理時間を長く設定しても、リン酸塩の析出が飽和状態になり外観に変化は無く問題は無い。
【0019】
リン酸塩結晶は亜鉛系めっき層の表面にある析出起点から成長し、表面全体がリン酸塩結晶で覆われて飽和状態に達すると析出反応が停止する。リン酸塩皮膜の被覆率,付着量はリン酸塩処理液との接触時間及び結晶の成長速度の調整により制御でき、析出起点の増加、ひいては結晶サイズの調整によっても制御できる。たとえば、接触時間の短縮、或いは同じ接触時間でも処理液温度を低くして結晶の成長速度を遅くすると、リン酸塩皮膜の被覆率,付着量が減少する。また、リン酸塩処理に先立つ表面調整で使用される処理液濃度の上昇やリン酸塩処理液の昇温により析出起点を増加でき、結果としてリン酸塩結晶が微細となるためリン酸塩皮膜の付着量が減少する。
【0020】
リン酸塩皮膜は,基材表面に対し面積比率:50%以上で形成することが好ましい。リン酸塩皮膜の被覆率は膜厚やリン酸塩結晶のサイズに影響されるが、50%以上の面積比率でリン酸塩皮膜を設けることにより十分な塗膜密着性,塗装後耐食性が得られる。
リン酸塩皮膜の形成後、シリカ粒子分散処理液で化成処理する。シリカ粒子は、リン酸塩結晶表面に付着して塗膜密着性向上に有効なアンカー効果を付与し、且つ耐水浸透性を確保するため一次粒径が10〜200nmの範囲にある微粒子が使用される。
【0021】
シリカ皮膜のシラノール基数は、TDS-MS分析で得られるピーク面積から算出される。TDS-MS分析には、たとえばWA1000S/W型(電子科学株式会社製)の分析装置を用いた昇温脱離分析法がある。この方法では、強い吸着エネルギーで分子が試料に吸着しているほど脱離温度が高くなることを利用し、真空容器中で試料を昇温・加熱して所定量の試料から発生するガス成分を分析する。
【0022】
測定条件としては、たとえばスキャン幅:1〜200amuのSCANモード測定,測定温度:室温〜1030℃,昇温速度:60℃/分が採用され、図5に示すようなTDS-MS分析グラフが得られる。シリカ粒子表面にあるシラノール基のOHが解離し、分析試料中のHと結合してH2Oの形で検出されるので、これをシリカ粒子表面のシラノール基数として換算できる。なお、付着水(水分子)は150℃以上になると検出されないので、シラノール基とはピーク分離できる。
【0023】
シリカ粒子種に応じシリカ粒子:1mg当りのシラノール基数が異なるため、シリカ粒子種ごとにTDS分析し、150〜1030℃のシラノール基起因のピーク面積とシラノール基数がすでに知られている試料のピーク面積との比率からシリカ粒子:1mg当りのシラノール基数を算出する。そして、シリカ処理した鋼板の1m2当りのシリカ付着量との積から総シラノール基数を求めた。
総シラノール基数は、単位重量当りのシラノール基数又はシリカ付着量を変化させることで制御できる。単位重量当りのシラノール基数は、シリカ粒子径を変化させて表面積を調整する方法,同一表面積でもシリカ粒子を100℃以上で加熱処理又は窒化処理することにより制御できる。以上の手法を用いることで、1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に総シラノール基数を調整することにより塗膜の耐水密着性が向上する。
【0024】
処理液には、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wの一種又は二種以上の化合物を添加しても良い。Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W等は、バルブメタルとして働き、シリカ皮膜を緻密化しバリア機能,ひいては耐食性を飛躍的に向上させる。また、Si原子に配位結合したバルブメタルの水酸化物が腐食性雰囲気に曝されると溶出し、難溶性の酸化物,水酸化物となって再析出する過程でリン酸塩皮膜の隙間から覗く亜鉛めっき層の露出部や皮膜欠陥部が自己修復される。
【0025】
シリカ粒子分散処理液は、ロールコート,スピンコート,スプレー等、適宜の方法でリン酸塩処理後の亜鉛系めっき鋼板に塗布される。塗布後、加熱・乾燥により化成皮膜が形成されるが、皮膜特性を損なうことなく短時間処理を可能にするため80〜200℃の範囲で乾燥することが好ましい。厚すぎる化成皮膜ではリン酸塩結晶が皮膜に埋没し、後塗装後の塗膜密着性の低下や成形加工時に加わる応力によるクラック発生を誘発して耐食性が低下するため、基材表面から起立しているリン酸塩結晶の高さの半分以下の膜厚で化成皮膜を形成することが好ましい。膜厚は処理液の濃度で制御でき、ロールコートによる場合にはロールの表面粗さ,硬さ,周速等でロール表面のウエット量を調整することによっても制御できる。
【0026】
生成した化成皮膜は、リン酸塩結晶で分断されているので、加工時等に加えられる応力を分散させる作用を呈し、亜鉛系めっき層に強固に密着する。しかも、亜鉛系めっき層から突出しているリン酸塩結晶の大半が化成皮膜で覆われておらず、総シラノール基数の規制によってシリカ皮膜に適度の耐水性が付与されているので、その上に設けられる塗膜や接着剤層の密着性,耐水密着性が格段に向上する。
【0027】
化成皮膜を形成した後に設けられる塗膜として、耐食性に優れた有機皮膜を形成するこが好ましい。この種の皮膜として、たとえばウレタン系樹脂,エポキシ樹脂,ポリエチレン、ポリプロピレン,エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂,ポリスチレン等のスチレン系樹脂,ポリエステル,或いはこれらの共重合物又は変性物,アクリル系樹脂等の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5μmで化成皮膜の上に設けると、クロメート皮膜を凌駕する高耐食性が得られる。或いは、導電性に優れた樹脂皮膜を化成皮膜の上に設けることにより、潤滑性が改善され、溶接性も付与される。この種の樹脂皮膜としては、たとえば有機樹脂エマルジョンを静電霧化して塗布する方法で形成できる。
【実施例】
【0028】
片面当りめっき付着量20g/m2でZnめっき層が形成された板厚0.8mmの電気めっき鋼板を原板に使用し、市販のチタンコロイド系処理剤を用いて前処理した後、リン酸塩処理液(リン酸:0.15モル/l,Zn:0.08モル/l,Ni:0.001モル/l,硝酸:0.2モル/l)をスプレーし、付着量:2.0g/m2のリン酸塩皮膜を形成した。
【0029】
次いで、シリカ粒子又はシリカ粒子とバルブメタルを混合した処理液を塗布し、熱風乾燥路で乾燥してシリカ皮膜を形成した。比較のため、シランカップリング剤と結合したシリカ粒子を分散させた処理液及びCr:3g/lのクロメート処理液でリン酸塩皮膜を同様にシーリングした。
【0030】

【0031】
処理後の亜鉛系めっき鋼板から試験片を切り出し、次の試験で耐水密着性,加工密着性,平坦部耐食性を調査した。
〔耐水密着性〕
試験片を90℃の熱水に浸漬して所定時間経過した後、熱水から引き上げた試験片をJIS K5400の碁盤目試験法に供し、塗膜残存率:100%の試験片を◎,80%以上を○,60〜80%を△,60%未満を×として塗膜密着性を評価した。
【0032】
〔加工密着性〕
試験片をエリクセン3mmで張出し加工した後、同じくJIS K5400の碁盤目試験法に供し、塗膜残存率:100%の試験片を◎,80%以上を○,60〜80%を△,60%未満を×として加工密着性を評価した。
〔平坦部耐食性〕
試験片の端面をシールし、JIS Z2371に準拠して35℃の5%NaCl水溶液を試験片表面に噴霧した。塩水噴霧を24時間又は72時間継続した後、試験片表面を観察し白錆発生状況を調査した。試験片表面に占める白錆の面積占有率が5面積%未満を◎,5〜10面積%を○,10〜30面積%を△,30〜50面積%を▲,50面積%以上を×として平坦部耐食性を評価した。
【0033】
表2の試験結果にみられるように、一次粒径:10〜200nm,総シラノール基数を満足するシリカ皮膜が設けられたNo.1〜10の化成処理鋼板(本発明例)は、耐水密着性,加工密着性,平坦部耐食性の何れにも優れており、クロメート皮膜(No.16)を凌駕する特性が得られた。
これに対し、細かすぎるシリカ粒子からなるシリカ皮膜を設けたNo.11は、耐水密着性が劣っており、熱水浸漬試験でシリカ皮膜に水分子が浸透したことが窺われる。逆に粗大なシリカ粒子からなるシリカ皮膜を設けたNo.12では、耐水密着性は良好であるものの加工密着性に劣っていた。総シラノール基数が不足するNo.13や過剰なNo.14、またシリカ粒子にシランカップリング剤を結合したNo.15は、熱水浸漬後に塗膜密着性が低下していた。
【0034】

【産業上の利用可能性】
【0035】
以上に説明したように、リン酸塩皮膜をシーリングするシリカ皮膜を構成するシリカ粒子の一次粒径を10〜200nm,総シラノール基数を1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に規制することにより、加工密着性を損なうことなく水分浸透に対するシリカ皮膜の抵抗力を高め、シリカ皮膜の上に設けられる塗膜に耐水密着性を付与している。化成処理された亜鉛系めっき鋼板は、優れた耐食性,耐水密着性,加工密着性を活用し、外装材,内装材,表装材,車両用鋼板等の素材として広範な分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】シラノール基を介してシリカ皮膜に結合した塗膜の密着性が浸透水で低下することを説明する模式図
【図2】細かすぎるシリカ粒子からなるシリカ皮膜の耐水性が劣ることを説明する模式図
【図3】総シラノール基数が不足するシリカ皮膜の耐水性が劣ることを説明する模式図
【図4】総シラノール基数が過剰なシリカ皮膜の耐水性が劣ることを説明する模式図
【図5】総シラノール基数の算出に用いたTDS-MS分析グラフの一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩皮膜のリン酸塩結晶間を一次粒径:10〜200nmのシリカ粒子で充填するようにシリカ皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板であり、シリカ粒子:1mg当りのシラノール基数と1m2当りのシリカ付着量(mg)との積として求められる総シラノール基数が1.1×1015〜8.5×1018個の範囲に調整され、シリカ皮膜にシランカップリング剤が含まれていないことを特徴とする塗膜の耐水密着性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
シリカ皮膜がTi,Zr,V,Mo,Wから選ばれた一種又は二種以上を含んでいる請求項1記載の亜鉛系めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−182600(P2007−182600A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−601(P2006−601)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】