説明

塗装物

【課題】汚れによる外観の低下や光学用途としての機能を損なわないようにすることができ、しかも、汚れ防止機能やガスを分解する機能の低下を少なくすることができる塗装物を提供する。
【解決手段】ナノインプリント法により微細な凹凸1が形成された基材2の表面に、汚れ防止又はガス分解機能を付与するための光触媒コーティング剤3を塗布する。ナノインプリント法で形成された凹凸1の汚れ及び付着したガスを光触媒により容易に除去することができる。凹凸1のうちの凹部に光触媒を保持して脱落を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ防止機能又はガス分解機能を有する塗装物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント法は基材の表面にナノオーダーレベルの凹凸を形成する技術であり、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の光学用途の映りこみ防止や水をはじく性質による汚れ防止などの様々な用途に展開が可能な技術である(例えば、特許文献1参照)。しかし、ナノオーダーの凹凸は、一旦、汚れやガスが付着すると、簡単な拭き取りでは除去することができず、外観を損なうばかりでなく、光学用途としての機能をも損なうおそれがあった。
【0003】
一方、光触媒コーティング剤は、光触媒により汚れ防止機能やガスを分解する機能を有することが知られているが、微粒子の光触媒は基材の表面に保持しにくくて耐摩耗性が低いために摩擦等により落下しやすいものであり、汚れ防止機能やガスを分解する機能が低下するおそれがあり、手で触る部分への適用には不向きであった。特に、可視応答型の光触媒の場合、紫外光型に比べて活性が低いため、光触媒の含有量を増やしたり比表面積を増やしたりすることにより活性を向上させており、さらに耐摩耗性が損なわれて汚れ防止機能やガスを分解する機能の低下を招きやすいという問題があった。
【特許文献1】特開2007−248499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、汚れによる外観の低下や光学用途としての機能を損なわないようにすることができ、しかも、汚れ防止機能やガスを分解する機能の低下を少なくすることができる塗装物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る塗装物は、ナノインプリント法により微細な凹凸1が形成された基材2の表面に、汚れ防止又はガス分解機能を付与するための光触媒コーティング剤3を塗布して成ることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項2に係る塗装物は、請求項1において、光触媒コーティング剤3中の光触媒が可視応答型であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項3に係る塗装物は、請求項1又は2において、家電、内装建具、床、収納扉から選ばれる少なくとも一つを形成するための材料であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明は、ナノインプリント法で形成された凹凸1の汚れ及び付着したガスを光触媒により容易に除去することができ、汚れによる外観の低下や光学用途としての機能を損なわないようにすることができるものであり、しかも、凹凸1のうちの凹部に光触媒を保持して脱落を防止することができ、耐摩耗性が向上して汚れ防止機能やガスを分解する機能の低下を少なくすることができるものである。
【0009】
請求項2の発明では、可視光の照射により光触媒の活性を発揮させることができ、紫外光が照射されにくい屋内であっても汚れ防止機能やガスを分解する機能の低下を防止することができるものである。
【0010】
請求項3の発明では、家電等の手で触る部分であっても、外観の低下や光学性能の低下を防止することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
本発明の塗装物は、ナノインプリント法で微細な凹凸1を形成した基材2の表面に、光触媒コーティング剤3からなる被膜を設けて形成されるものである。
【0013】
ナノインプリント法は、図1(a)(b)(c)に示すように、基板2aの表面に樹脂材料2bを塗布した後、樹脂材料2bを型(モールド)4と基板2aとで挟み込むことによって、ナノレベルの微細な凹凸1を転写する方法であり、本発明で用いる基材2は、図2(a)に示すように、基板2aの表面に樹脂材料2bからなる多数の突起5を設けて形成されるものである。ここで、基板2aとしては例えば、ガラス、セラミック等の無機系材料、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂等のプラスチック系材料で、これに限定されるものではない。また、樹脂材料2bとしては熱方式の場合はポリスチレン、ポリカーボネート、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)などの樹脂を使用することができ、UV方式(紫外線方式)の場合はエポキシ系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂(アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂)などの紫外線硬化性樹脂を使用することができるが、これに限定されるものではない。また、樹脂材料2bは基板2aの表面に厚み0.1〜10mmの薄膜で塗布して形成することができる。凹凸1のパターンはナノオーダーから数十ミクロンの範囲を意味し、例えば、図2(b)に示すように、突起5の直径dが0.1〜100μm、隣り合う突起5、5の間隔(ピッチ径)pが0.1〜200μmとすることができる。そして、突起5が凸部として、隣り合う突起5、5の間が凹部として、凹凸1が形成されている。
【0014】
本発明で用いる光触媒コーティング剤3は、微粒子の光触媒をバインダー樹脂(コーティング剤)に配合することにより調製されるものである。光触媒としては光触媒活性を有する光半導体等であれば使用することができ、例えば、紫外光型(特に、紫外光により活性が高くなるもの)では酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化タングステン、酸化鉄などを挙げることができ、特に、入手の容易性などから酸化チタンが好ましい。また、可視応答型の光触媒としては、上記酸化チタンなどの紫外線型の光触媒にCr(クロム)やV(バナジウム)などの金属イオンを注入した物や、酸化チタンに白金化合物等が担持された物などを用いることができる。また、光触媒の粒径は小さいことが好ましく、平均粒径が0.005〜0.2μmのものを使用することができる。尚、平均粒径は、例えば、大塚電子製データ電位粒径測定システムELSZ−2により測定することができる。バインダー樹脂としては光触媒作用により劣化しにくく、また基材2の表面との密着性がよいものであれば特に限定されないが、シリコーン樹脂を用いることができる。そして、光触媒コーティング剤3は光触媒とバインダー樹脂とが質量比で2:8〜8:2の割合で混合されたものを用いることができる。
【0015】
そして、本発明の塗装物は、図1(d)に示すように、上記基材2の凹凸1を形成した表面に上記の光触媒コーティング剤3を塗布して乾燥等することにより形成することができる。光触媒コーティング剤3の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ナノオーダーの凹凸1のパターン表面に均一に塗布することができれば、どのような方法でもよく、例えば、スプレー法、ディップ法、スピンコート法などを挙げることができる。また、光触媒コーティング剤3は均一に塗布しやすくするためなどの観点から、粘度は低い方が好ましく、例えば、25℃において0.5〜5cpにすることができる。また、光触媒コーティング剤3を塗布することにより基材2の表面に形成される被膜の膜厚は均一に塗布されていれば特に限定されるものではないが、0.1〜5μmであることが好ましい。尚、光触媒コーティング剤3の被膜と基材2との密着性が低い場合や基材2が光触媒で劣化しやすい場合では、図3に示すように、光触媒コーティング剤3の被膜と基材2との間にプライマー層6を設けるのが好ましい。このプライマー層6は光触媒で劣化がない材料で形成することができ、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂などで厚み0.1μm以上で形成することができる。
【0016】
本発明の塗装物は、布等で汚れが拭き取られたときに耐摩耗性が要求され、光触媒で汚れを分解して汚れを防止したりガスを分解したりする機能を発揮させるために、光が当たる場所で使用することが必須となる。また、光触媒の特性上、徐々に汚れやガスを分解するため、極度に汚れやガスが付着する場所での使用は適切でない。従って、本発明の塗装物は家電製品の筐体、内装建具、床、収納扉などの表面材として用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0018】
(実施例1−1)
基材2としては、材質ポリスチレンから形成される基板2aの表面にポリスチレンからなる樹脂材料2bを塗布し、株式会社日立製作所の作製で図2(a)に示すようなパターンを有する凹凸1をナノインプリント法で形成した。この凹凸1は基板2aの表面に樹脂材料2bからなる多数の円柱状の突起5を設けて形成されるものであり、突起5の直径及び隣り合う突起5、5の間隔(ピッチ)は表1に示す。尚、この基材2を表の基材No.において「No.1」と表記する。
【0019】
次に、基材2に形成した凹凸1の表面に接着性の向上のためにコロナ放電処理を施した後、図3に示すようなプライマー層(下地保護層)6として無機塗膜を形成した。無機塗膜は無機塗料Aをスプレーで凹凸1の表面に塗布し、80℃で30分間乾燥することにより厚み0.3μmで形成した。この後、無機塗膜の表面に光触媒コーティング剤3を塗布し、80℃で30分間乾燥することにより厚み0.2μmの光触媒コーティング剤3の被膜を形成した。尚、無機塗料A、光触媒コーティング剤3は以下のようにして作製した。
【0020】
無機塗料Aは、まず、イソプロパノール分散シリカゾル(日産化学工業製の「IPA−ST」)100質量部と、メチルトリメトキシシラン68質量部と、水10質量部とを混合し、65℃で撹拌下5時間反応させてベース塗料A−1を得た。また、メチルトリイソプロポキシシラン220質量部をトルエン150質量部に溶解し、これに1%塩酸水溶液108質量部を20分撹拌下で60℃で滴下した。この滴下後40分静止させた後、分液ロートに入れて上層の液を得た。この後、この上層の液をさらに水洗及び減圧除去し、この後、イソプロピルアルコール(IPA)で希釈し、固形分40質量%のベース塗料A−2を得た。そして、ベース塗料A−1を50質量部、ベース塗料A−2を50質量部、IPAを300質量部及びN−β−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランを1質量部混合し、上記の無機塗料Aを得た。
【0021】
光触媒コーティング剤3は、まず、メチルメトキシシラン100質量部にテトラエトキシシラン10質量部とイソプロパノール分散オルガノシリカゾル(商品名「OSCAL1432」、触媒化成工業株式会社製)90質量部とジメチルジメトキシシラン30質量部とIPA100質量部とを混合し、さらに水90質量部を添加して撹拌した。得られた液をさらに60℃で5時間加熱し、固形分濃度(NV)=23%の溶液を得た。この溶液100質量部に光半導体として平均粒径が10nmの酸化チタン(紫外光型光触媒)からなる酸化チタンゾル(触媒化成株式会社製:商品名クィーンタイタニック11−1020G:固形分20.6%)30質量部を添加し、さらに固形分1質量%になるようにIPAで希釈することにより、光触媒コーティング剤3を得た。
【0022】
(実施例1−2、1−3)
突起5の直径及び隣り合う突起5、5の間隔(ピッチ)を表1に示す基材2を用いた以外は実施例1−1と同様にして塗装物を得た。表において、基材No.の欄に「No.2」「No.3」と表記する。
【0023】
(実施例1−4)
酸化チタンゾルを50重量部を添加した以外は実施例1−1と同様である。
【0024】
(実施例1−5)
酸化チタンゾルを石原産業製;STS−01、平均粒径50nm、固形分30%)を用いた以外は実施例1−1と同様である。
【0025】
(比較例1−1)
無機塗料A及び光触媒コーティング剤3のいずれも施さない基材2そのものを用いた。
【0026】
(比較例1−2、1−3)
突起5の直径及び隣り合う突起5、5の間隔(ピッチ)を表1に示す基材2を用いた以外は比較例1と同様にした。
【0027】
(比較例1−4)
基材2として凹凸1を形成していないアルミニウム基材を用いた以外は実施例1−1と同様にして塗装物を得た。表において、基材No.の欄に「No.4」と表記する。
【0028】
(実施例2−1)
光触媒コーティング剤3として可視光応答型の光触媒を含有したものを使用した。この光触媒コーティング剤3は、0.1N塩酸190質量部に、光触媒として白金錯体を光増感剤としたルチル型酸化チタン光触媒MPT621(石原産業(株)社製、平均粒径9.8nm)10質量部を添加し、5%分散液を作製した。この後、5%分散液10質量部を実施例1−1の光触媒コーティング剤の100質量部に添加し、光触媒コーティング剤3とした。そして、この光触媒コーティング剤3を用いた以外は実施例1−1と同様にして塗装物を得た。
【0029】
(比較例2−1)
無機塗料A及び光触媒コーティング剤3のいずれも施さない基材2そのものを用いた。
【0030】
(比較例2−2)
基材2として凹凸1を形成していないアルミニウム基材を用いた以外は実施例2−1と同様にして塗装物を得た。
【0031】
[汚れ試験]
実施例1−1〜1−5及び比較例1−1〜1−4の試験体について、汚れ試験を行った。
【0032】
まず、試験体の汚れ付着を行い、この後の色差を測定した。汚れ付着は、カーボン粉末を水に1%分散して汚れ液を調製し、この汚れ液を光触媒コーティング剤3の被膜面に均一にスプレーで噴霧するようにして行った。また、色差はミノルタ製分光測色計CM−2002で測定した。
【0033】
次に、汚れ液を噴霧した試験体にブラックライトを1mW/cmの強度で100時間照射した。
【0034】
次に、ブラックライトを照射した試験体の汚れ洗浄を行い、この後の色差を測定した。汚れ洗浄は、ブラックライトを照射した試験体にさらに水を噴霧し、汚れ液を洗浄して除去するようにした。
【0035】
そして、除去率は以下の式で計算した。
【0036】
汚れ液噴霧後の色差をA、水洗浄後の色差をBとし、
除去率(%)=(1−B/A)×100
結果を表2に示す。
【0037】
[摩耗後の汚れ試験]
上記の[汚れ試験]で使用した試験体に対してさらに摩耗作業を行った。摩耗作業は、500gの荷重をかけながら市販のウレタンスポンジを試験体([汚れ試験]で使用したもの)の表面で1万回往復させた。
【0038】
次に、試験体にブラックライトを1mW/cmの強度で168時間照射し、この後の色差を測定した。
【0039】
そして、除去率は以下の式で計算した。
【0040】
汚れ液噴霧後の色差をA、水洗浄後の色差をBとし、磨耗後の色差をCとして、
除去率(%)=((A−C)/(A−B))×100
結果を表2に示す。
【0041】
[ガス分解試験]
実施例2−1及び比較例2−1、2−2の試験体について、ガス分解試験を行った。
【0042】
まず、試験体(2cm)を72mLのガスパックに入れ、さらにその中に500ppmのアセトアルデヒドを注入し、蛍光灯2000Lxを48時間照射後のアセトアルデヒド濃度をGC−FID(水素炎イオン化型検出器ガスクロマトグラフィー)で測定した。
【0043】
そして、除去率を以下の式で計算した。
【0044】
初期濃度をC、除去後の濃度をDとし
除去率(%)=(1−D/C)×100
結果を表3に示す。
【0045】
[摩耗後のガス分解試験]
摩耗作業は、1kgの荷重をかけながら市販の上記スポンジを試験体の表面で1万回往復させた。この後、上記の[ガス分解試験]と同様にして除去率を計算した。
【0046】
結果を表3に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2、3から明らかなように、各実施例では摩耗後においても高い汚れ除去率やガスの除去率を示すが、各比較例では摩耗後にそれらの効果が著しく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示し、(a)乃至(d)は製造工程を示す概略の断面図である。
【図2】同上の(a)は一部の拡大した概略の斜視図、(b)はさらに拡大した概略の斜視図である。
【図3】同上の他例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 凹凸
2 基材
3 光触媒コーティング剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインプリント法により微細な凹凸が形成された基材の表面に、汚れ防止又はガス分解機能を付与するための光触媒コーティング剤を塗布して成ることを特徴とする塗装物。
【請求項2】
光触媒コーティング剤中の光触媒が可視応答型であることを特徴とする請求項1に記載の塗装物。
【請求項3】
家電製品、内装建具、床、収納扉から選ばれる少なくとも一つを形成するための材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125357(P2010−125357A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300139(P2008−300139)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】