説明

塗装耐食性に優れた船舶用鋼材

【課題】船舶のバラストタンク等の厳しい海水腐食環境下においても、船舶設計寿命である25年まで補修塗装を行う必要のない、塗装耐食性に優れた船舶用鋼材を提案することを目的とする。
【解決手段】質量%、で、鋼材の化学組成が、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜2.5%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、
Al:0.005〜0.3%、N:0.008%以下、を含有し、さらに、Cu、Cr、Ni、Mo、W、Sb、Sn、のうちから選ばれる1種以上の元素を一定範囲含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、該鋼材の上層にエポキシ系塗膜が形成されており、該塗膜は、内部応力が8.0MPa以下、水蒸気透過度が50g/m・day以下であることを特徴とする塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭船、鉱石船、鉱炭兼用船、原油タンカー、LPG船、LNG船、ケミカルタンカー、コンテナ船、ばら積み船、木材専用船、チップ専用船、冷凍運搬船、自動車専用船、重量物船、RORO船、石灰石専用船およびセメント専用船等に用いて好適な塗装耐食性に優れた塗装鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶は厚鋼板、薄鋼板、形鋼や棒鋼等の鋼材を溶接して建造されており、その鋼材の表面には防食塗膜が施されて使用される。この防食塗膜は、一次防錆としてショッププライマー(例えば、亜鉛を含有するようなJIS K 5552に規定するジンクリッチプライマーや機能性ジンクプライマー等)を塗布し、小組み後あるいは大組み後に、二次塗装(本塗装)としてエポキシ系の塗装が施されるのが一般的である。したがって、船舶の鋼材表面の大部分は、ジンクプライマー塗膜とエポキシ系塗膜の2層構造となっている。
【0003】
一方、原油タンカー等の船舶は、空荷の時でも船体が安定するようにバラストタンクに海水を積載している。バラストタンクは、高温多湿な極めて厳しい腐食環境下におかれている。このため、バラストタンクに用いられる鋼材の防食には、通常エポキシ系塗料などによる防食塗膜と電気防食とが併用されている。しかし、これらの防食対策を講じてもバラストタンクの腐食状態は、依然として厳しい状態にあり、顕著な改善は認められない。
【0004】
すなわち、バラストタンクに海水を注入したとき、海水に完全に浸されている部分は、電気防食が機能しているので腐食の進行を抑えることができる。一方、バラストタンクの天井部付近、特に上甲板の裏側部分は海水に浸からず、海水の飛沫を常に浴びる状態におかれているため、電気防食が機能せず、さらに日中においては、太陽熱によって上甲板の温度が上昇するため、非常に過酷な腐食環境となっている。
【0005】
また、バラストタンクの天井部付近以外の海水に没水する部位である側壁部、底辺部においても、バラストタンクに海水が注入されていない時には、バラストタンク全体で電気防食が全く機能しないため、残留付着塩分の作用によって激しい腐食を受けることとなる。
【0006】
このような厳しい腐食環境下に長期間曝されたバラストタンクの防食塗膜は、塗膜損傷部、塗膜ピンホール、塗膜薄膜部を起点として大きな膨れを伴い、塗膜劣化が進行していく。その防食塗膜の寿命は、一般的に約10〜15年といわれており、船舶の寿命とされる20〜25年の約半分である。従って、残りの約10年は、補修塗装をすることによって耐食性を維持しているのが実情である。しかし、バラストタンクは、上述したように厳しい腐食環境にあるため、補修塗装を行ってもその効果を長期間持続させることが難しい。また、補修塗装は狭い空間での作業となるため、作業環境としても好ましいものではない。
【0007】
このような船舶バラストタンクの防食を目的に、次のような技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、C:0.20%以下の鋼に、耐食性改善元素としてCu:0.05〜0.50%、W:0.01〜0.05%未満を添加した耐食性低合金鋼が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、C:0.20%以下の鋼材に、耐食性改善元素としてCu:0.05〜0.50%、W:0.05〜0.5%を添加し、さらにGe、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Te、Beのうちの1種もしくは2種以上を0.01〜0.2%添加した耐食性低合金鋼が開示されている。特許文献3には、重量%でC:0.1%以下の鋼に、Cr:0.50〜3.50%を添加することによって耐食性を向上させる低合金鋼が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、Cr、Cu、Ni、Sn、及びSbの含有量から算出されるαが、α=Cr/(Cu+Ni+Sn+Sb)≧0.46で耐海水腐食性に優れた耐海水鋼について開示されている。
【0011】
その他、特許文献5には、C:0.15%以下の鋼に、耐食性改善元素としてP:0.03〜0.10%、Cu:0.1〜1.0%、Ni:0.2〜1.0%を添加した低合金耐食鋼材に、タールエポキシ塗料、ピュアエポキシ塗料、無溶剤型エポキシ塗料およびウレタン塗料等の防食塗料を塗布し、樹脂被覆したバラストタンクが開示されている。この技術は、鋼材自身の耐食性向上により防食塗装の寿命を延長し、船舶の使用期間である20〜30年に亘ってメンテナンスフリー化を実現しようとするものである。
【0012】
特許文献6には、C:0.15%以下の鋼に、耐食性改善元素としてCr:0.2〜5%を添加して耐食性を向上し、船舶のメンテナンスフリー化を実現しようとする技術が開示されている。特許文献7には、質量%でC:0.001〜0.025%の鋼に、Ni:0.1〜4.0%を添加することによって耐塗膜損傷性を向上させ、補修塗装などの保守費用を軽減する船舶用鋼板が開示されている。
【0013】
特許文献8には、C:0.15%以下の鋼に、耐食性改善元素としてCr:0.2〜5%を添加した鋼材を構成材料として使用すると共に、バラストタンク内部の酸素ガス濃度を大気中の値に対する比にして0.5以下とすることを特徴とするバラストタンクの防食方法が開示されている。
【0014】
特許文献9には、低合金鋼に海水中における浸漬電位が基材よりも卑なる金属粒子(Zn、Mg粉末等)を含み、残部がシリケートからなるプライマー層からなる構造用鋼が開示され、また、特許文献10には、質量%でC:0.003〜0.20%を添加した鋼にCr:0.1〜6.0%、Cu:0.1〜2.0%、Al:0.010〜0.10%が添加された鋼板に無機ジンクリッチプライマー層を有した防錆鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭48−50921号公報
【特許文献2】特開昭48−50922号公報
【特許文献3】特開平7−310141号公報
【特許文献4】特開2005−220394号公報
【特許文献5】特開平7−34197号公報
【特許文献6】特開平7−34196号公報
【特許文献7】特開2002−266052号公報
【特許文献8】特開平7−34270号公報
【特許文献9】特開2007−191730号公報
【特許文献10】特開2008−144204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の特許文献1〜4では、バラストタンク等を構成する鋼材に対して塗膜存在下での耐食性については検討がなされていない。特許文献5の鋼材は、下地金属の耐食性を向上させるために、Pを0.03〜0.10%と比較的多量に添加しているため、溶接性や溶接部靱性の面から問題が残る。また、特許文献5〜7では、エポキシ系塗料等の塗膜劣化について検討がなされているが、鋼材自体の腐食量ならびに板厚減少について検討されていない。
【0017】
特許文献8では、バラストタンク内部の酸素ガス濃度管理のためには、膨大な設備投資が必要となる問題があり、実用化が困難である。
また、特許文献9および10では、Zn、Mg粉末等を含んだプライマー層や無機ジンクリッチプライマーの存在による、犠牲防食作用や錆層中への塩化物トラップ等により、鋼材の腐食が抑制されることが開示されているが、プライマー塗膜の形成過程で発生したバラストタンク内で腐食の起点となる塗膜内空隙については検討がされていない。そのため、これら文献に開示された技術は、塗装耐食性の観点で、十分に満足する効果が認められない。なお、ここで、塗装耐食性とは、塗料を塗布してなる鋼材の上塗り塗膜であるエポキシ系塗膜において、塗膜の膨れ面積が低減し、同時に、鋼材の腐食量および最大板厚減少量が低減する性能をいう。
【0018】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、船舶のバラストタンク等の厳しい海水腐食環境下においても、船舶設計寿命である25年まで補修塗装を行う必要のない、塗装耐食性に優れた船舶用鋼材を提案することを目的とする。言うまでもなく、本塗装鋼材は、バラストタンクより腐食環境として緩やかな船側外板、上甲板等の海上から飛来塩分を受ける部位や、船底部等の海水との接触部に使用しても、優れた塗装耐食性を示す
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、耐食性元素を添加した鋼材の上層に、塗膜の内部応力及び水蒸気透過度がある一定のレベル以上のエポキシ系塗膜を有することで、エポキシ系塗膜の膨れ面積が低減し、同時に鋼材の腐食量および最大板厚減少量が著しく抑制されることの知見を得た。
具体的な知見としては以下の通りである。
1)一般的に、エポキシ系樹脂を鋼板に塗装した場合、塗膜の硬化・形成過程において、塗膜が体積収縮し、それにより塗膜内に応力が発生する。船舶バラストタンク内において、鋼材上層に塗装されたエポキシ系塗膜に存在する塗膜損傷部やピンホール等の塗膜欠陥部に、内部応力が集中し、そこで腐食や劣化が進行する。また、バラストタンク内は、昼間と夜間において大きな温度変化が生じる。例えば、バラストタンク上甲板裏では、30℃近くの温度変化が生じ、その際、塗膜の内部応力が高いエポキシ系塗膜は、同時に熱膨張・収縮が大きくなっていると考えられ、そのことで、塗膜損傷部に対して内部応力がさらに集中し塗膜にひずみが発生し、結果として塗装耐食性が悪化する。
2)塗膜の水蒸気透過度が高くなると、塗膜下に腐食性因子である水の供給が多くなる。バラストタンク内は、貨物タンク・原油タンク等が空荷の際、海水が導入されており、それによって塗膜ごしから、塗膜下へ海水が拡散され、水蒸気透過度が高い塗膜ほど、腐食劣化が促進される。水蒸気透過度と酸素透過性には、一般的に相関性があるため、酸素透過性も小さい方が、塗装耐食性に有利となる。ここで、水蒸気透過度とは、JIS K 7129で規定される、単位時間中に試験片を通過する単位面積当たりの水蒸気の量を意味する。
【0020】
本発明は上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたもので、その要旨は次の通りである。
[1]鋼材の上層にエポキシ系塗膜を有する塗装耐食性に優れた船舶用鋼材であって、
前記鋼材が、質量%で、
C:0.01〜0.20%、
Si:0.01〜2.5%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.03%以下
S:0.01%以下
Al:0.005〜0.3%、
N:0.008%以下を含有し、
さらに、
Cu:0.005〜2.0%、
Cr:0.005〜5.0%、
Ni:0.005〜5.0%、
Mo:0.005〜3.0%、
W:0.005〜3.0%、
Sb:0.005〜1.0%、
Sn:0.005〜1.0%、
のうちから選ばれる1種以上の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、前記エポキシ系塗膜は、内部応力が8.0MPa以下であり、水蒸気透過度が50g/m・day以下であることを特徴とする塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[2]前記鋼材が、質量%で、さらに、
Nb:0.001〜0.2%、
V:0.001〜0.5%、
Ti:0.002〜0.2%、
Zr:0.001〜0.5%、
B:0.0002〜0.005%、
Ta:0.005〜0.5%、
Te:0.005〜0.5%、
Co:0.005〜0.5%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[3]前記鋼材が、質量%で、さらに、
Ca:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.1%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Y:0.0001〜0.1%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材
[4]前記鋼材が、質量%で、さらに、
Se:0.005〜0.5%、
Pb:0.005〜0.5%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[5]前記エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が100〜1000μmであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[6]前記エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が500μm以上となる場合は、該塗膜は2層以上の塗膜層からなり、該塗膜層の1層あたりの塗膜厚は100〜500μmの範囲であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1つに記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[7]前記鋼材と前記エポキシ系塗膜の中間層にジンクプライマーの塗膜層が形成されていることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1つに記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[8]前記ジンクプライマーに含有される亜鉛末が、2.0〜30g/mであることを特徴とする[7]に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[9]前記ジンクプライマーにMo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snのうちから選ばれる1種以上を含む顔料のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする[7]または[8]に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
[10]さらに、前記顔料のうちから選ばれる1種以上をMo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snの量の合計が、0.01〜10g/mであることを特徴とする[9]に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、船舶のバラストタンク等の厳しい海水腐食環境下においても優れた塗装耐食性を発揮して、船舶設計寿命である25年まで補修塗装を行う必要のない、塗装耐食性に優れた船舶用鋼材を得ることができる。船舶の部位としては、船側外板、上甲板等の海上から飛来塩分を受ける部位や、船底部等の海水との接触部のみでなく、海水飛沫や海水接触期間と乾湿繰り返し環境の期間が交互となる船舶において最も腐食環境として厳しいバラストタンクにおいても、塗装耐食性に優れる船舶用鋼材に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
1.エポキシ系塗膜の内部応力が8.0MPa以下
本発明者らは、鋼材表面での腐食反応は、以下の過程により生じていることを見出した。まず、エポキシ系塗膜の内部応力が8.0MPaを超える場合、腐食環境下ではピンホールや疵等の塗膜欠陥部の面積が拡大していくことを見出した。この場合、水、酸素、塩化物イオン等の腐食性因子は、これら塗膜欠陥部を通り、塗膜下へ過剰に供給される。そのため、このような箇所は、鋼材表面で腐食反応が多数の箇所で生じ、その結果、塗装耐食性は低下する。また、ジンクプライマー層が鋼材と前記エポキシ系塗膜の中間層として存在する場合は、犠牲防食作用が機能してジンクプライマー層の塗膜中に含有されている亜鉛が非常に早く消費される。さらに、塗膜欠陥面積が大きくなった場合、防食性に有利な亜鉛の腐食生成物や鋼材に添加された耐食元素によって生成する保護性の腐食生成物が塗膜欠陥部全体を充填することができず、防食塗膜として不十分な状態となる。このような状態が起こるのは、エポキシ系塗膜の内部応力が8.0MPaを超える場合である。そこで、本発明では、塗装耐食性を向上させるため、内部応力は8.0MPa以下に限定した。さらに塗装耐食性を向上させるため、内部応力が5.0MPa以下とすることが望ましい。本発明において、内部応力を8.0MPa以下と制御するためには、エポキシ系樹脂に変性樹脂あるいはコールタール等を組み合わせた、変性エポキシ系樹脂あるいはタールエポキシ樹脂を用いて塗膜を形成する方法を用いることができる。ここで、塗膜の内部応力の測定方法は後述する。
【0023】
2.エポキシ系塗膜の水蒸気透過度が50g/m・day以下
まず、本発明者らは、鋼材表面での腐食反応は、以下の過程により生じていることを見出した。エポキシ系塗膜の水蒸気透過度が50g/m・dayを超える場合には、船舶が空荷でバラストタンク内に海水が存在していると、塗膜の下へ水が浸透し、塗膜の膨れ面積が増加し、同時に、鋼材の腐食量および最大板厚減少量が増加し、塗装耐食性が低下した。そこで、本発明では、塗装耐食性を向上させるため、エポキシ系塗膜の水蒸気透過度は50g/m・day以下とした。さらに、塗装耐食性を向上させるためには、水蒸気透過度が20g/m・day以下であることが望ましい。
【0024】
本発明においてエポキシ系塗膜の水蒸気透過度を50g/m・day以下と制御するためには、エポキシ系樹脂に変性樹脂あるいはコールタール等を適宜組み合わせ混合して、変性エポキシ樹脂あるいはタールエポキシ樹脂を用いる方法を採用することができる。
【0025】
3.化学成分について
つぎに、本発明の鋼の化学成分を規定した理由を以下に説明する。ここで、特に断らない限り、%の表示は質量%を意味する。
C:0.01〜0.20%
Cは鋼材強度を上昇させるのに有効な元素であり、所望の強度を得るために0.01%以上の添加が必要であるが、0.20%を超えて添加すると、溶接熱影響部の靱性を低下させるため、C量は0.01〜0.20%の範囲とする。好ましくは、0.05〜0.15%の範囲である。
【0026】
Si:0.01〜2.5%
Siは脱酸剤として、また鋼材の強度向上を目的として添加される元素であり、0.01%以上の添加が必要であるが、2.5%を超えて添加すると鋼の靱性を劣化させるので、Si量は0.01〜2.5%の範囲とする。好ましくは、0.05〜0.50%の範囲である。
【0027】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは熱間脆性を防止し鋼材の強度向上に有用な元素であるので、0.1%以上の添加が必要であるが、2.0%を超える添加は、鋼の靱性および溶接性を低下させるので、Mn量は0.1〜2.0%の範囲とする。
【0028】
P:0.03%以下
Pは鋼の母材靱性のみならず、溶接性および溶接部靱性を劣化させる有害な元素であるので極力低減することが望ましい。特にP量が0.03%を超えると、母材靱性および溶接部靱性の低下が大きくなるのでP量は0.03%以下とする。
【0029】
S:0.01%以下
Sは鋼の靱性および溶接性を劣化させる有害な元素であるので、極力低減することが望ましく、S量は0.01%以下とした。また、Sは耐食性の劣化元素であるため、好ましくは0.005%以下とする。
【0030】
Al:0.005〜0.3%
Alは脱酸剤として作用し、このためには0.005%以上の添加を必要とするが、0.3%を超える添加は、溶接部靱性を低下させるので、Al量は0.005〜0.3%の範囲とする。
【0031】
N:0.008%以下
Nは靱性に対して有害な成分であり、靱性の向上を図るためにはできるだけ低減することが望ましく、N量が0.008%を超えると靱性の著しい劣化を招く。よってN量は0.008%以下の範囲とした。
【0032】
Cu:0.005〜2.0%、Cr:0.005〜5.0%、Ni:0.005〜5.0%、Mo:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%、Sb:0.005〜1.0%、Sn:0.005〜1.0%のうちから選ばれる1種以上
Cu、Cr、Niは、耐食元素であり、これらを含有すると鋼材自体の耐食性が向上し、また、保護性のある微細な腐食生成物を塗膜下に形成し、塗装耐食性が向上する。また、ジンクプライマー塗膜層がある場合には、その塗膜中に残存している空隙にCu、Cr、Niに起因して形成した微細な腐食生成物が充填されることで、さらなる優れた塗装耐食性が得られる。その効果は、Cu、Cr、Niのいずれも0.005%以上含有すると発現する。また、これらCu、Cr、Niのいずれも、過度の添加は靱性や溶接性を悪化させるため、上限値は、Cuでは2.0%、Crでは5.0%、Niでは5.0%とした。
【0033】
MoおよびWは、耐食元素であり、これらは母材から溶出した際に酸素酸を形成し、これらが塩化物イオンを電気的に反発させ、塩化物イオンが地鉄表面にまで侵入することを防ぎ、耐食性を向上させる。また、MoおよびWは、FeMoOやFeWOといった難溶性の腐食生成物を形成することで、鋼材の耐食性が向上する。ジンクプライマー塗膜層がある場合には、その塗膜中の空隙内に塗装耐食性を向上させるのに十分な量の酸素酸あるいは腐食生成物を充填することができるため、優れた塗装耐食性が発揮される。その効果は、Mo、Wのいずれも0.005%以上含有すると発現する。また、これらMo、Wのいずれも、3.0%を超えて含有しても、耐食性効果が飽和するため、Moは0.005〜3.0%、Wは0.005〜3.0%の範囲とした。
【0034】
SbおよびSnは、耐食元素であり、これらは鋼材表面のアノード部などpHが低い部位での腐食を抑制する効果がある。この効果は、いずれも0.005%以上の添加で発現するが、1.0%を超えて添加すると母材および溶接熱影響部の靱性を劣化させるため、Sb量は0.005〜1.0%、Sn量は0.005〜1.0%の範囲とする。
以上、必要とする特性に応じてこれら元素を1種以上含有することが必要である。
【0035】
Nb:0.001〜0.2%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.002〜0.2%、Zr:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.005%、Ta:0.005〜0.5%、Te:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%のうちから選ばれる1種以上
Nb、V、Ti、Zr、B、Ta、Te、Coはいずれも、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して1種以上添加することができる。このような効果を得るためには、Nb、V、Zrは0.001%以上、Tiは0.002%以上、Bは0.0002%以上、Ta、Te、Coは0.005%以上を添加する必要がある。しかしながら、一定の範囲を超えて添加した場合、靱性が劣化する。そのため、Nbは0.001〜0.2%、Vは0.001〜0.5%、Tiは0.002〜0.2%、Zrは0.001〜0.5%、Bは0.0002〜0.005%、Taは0.005〜0.5%、Te:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%の範囲とする。
【0036】
Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.1%、Mg:0.0001〜0.01%、Y:0.0001〜0.1%のうちから選ばれる1種以上
Ca、REM、Mg、Yは、添加すれば、介在物の形態制御により鋼の延性向上、あるいは、溶接熱影響部の靱性向上に寄与する元素であり、このような効果を発揮させるためには、Ca、REM、Mg、Yはいずれも0.0001%以上を1種以上添加することが好ましい。しかしながら、一定の範囲を超えて添加した場合、靱性の低下の原因となるため、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.1%、Mg:0.0001〜0.01%、Y:0.0001〜0.1%とする。なお、本発明において、REM(Rare Earth Metals:希土類金属)とは、原子番号57のLaから71のLuまでのいわゆるランタノイド元素から選択される1種または2種以上を指すものとする。REMであれば、どの元素であっても、上記の効果は共通して得られる。REMを含有させるにあたっては、たとえば、Ce、Laなどの一種類のREMやその化合物を添加してもよく、また、複数種類のREMを含有する混合物として添加してもよい。混合物としては、たとえば、一般にミッシュメタルと呼ばれる、Ce、La、Ndなどを主成分とする混合物を用いることができ、その混合物の組成によらず、上記の効果が得られる。
【0037】
Se:0.005〜0.5%、Pb:0.005〜0.5%のうちから選ばれる1種以上
SeおよびPbは、添加すれば、いずれも鋼中に0.005%以上含有することで塗装耐食性を向上させる元素であるが、過度の含有は、靱性の低下の原因となるため、上限はいずれも0.5%とする。
【0038】
本発明の鋼材は、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物であることが望ましい。ただし、本発明の効果を害しない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものではないことは勿論である。
【0039】
4.エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が100〜1000μm
エポキシ系塗膜による防食効果は、20μm以上の塗膜厚から得られるが、塗膜厚が100μ未満であると、使用環境によっては船舶寿命25年を持たず、防食効果維持のために塗り替えが必要となる場合がある。そこで、合計塗膜厚は100μm以上とすることが好ましい。1000μmを超えて塗装されても、防食効果が飽和、あるいは、塗膜に付与される内部応力が増大し、それによって劣化してしまうので、エポキシ系塗膜の合計塗膜厚の範囲は、100〜1000μmが好ましい。さらに、防食効果と内部応力による劣化を防ぐことを両立させるための最適範囲は、100〜500μmであることが望ましい。
【0040】
5.エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が500μm以上となる場合は、該塗膜は2層以上の塗膜層からなりその塗膜層の1層あたりの塗膜厚は100〜500μmの範囲であること
エポキシ系塗膜は、その塗膜の形成・硬化過程において、塗膜に内部応力が生じる。1回の塗装で形成した単一塗膜層の塗膜厚が厚いほど、塗膜に発生する内部応力が大きくなる。そこで、エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が500μm以上である場合は、2回塗り以上の多層塗膜とすることが望ましい。多層塗膜は、2層以上の塗膜層から構成される。塗膜層の1層あたりの塗膜厚は100〜500μmが好ましい。2回塗りの際の1回あたりの塗膜層の1層あたりの塗膜厚が100μm未満であっても、合計塗膜厚が100μm以上であれば防食効果は発揮されるが、多大な塗装工数となり経済的に無駄であるので塗膜層の1層あたりの塗膜厚は100μm以上が好ましい。
【0041】
一方、1回塗りで形成する塗膜厚が500μm以上であると、塗膜に生じる内部応力が大きくなり、塗装耐食性に不利である。したがって、合計塗膜厚が500μm以上となる場合は、該塗膜は2層以上の塗膜層からなりその1層あたりの塗膜厚は100〜500μmの範囲であることが好ましい。
【0042】
なお、エポキシ系塗膜を2回塗り以上の多層塗膜とする場合、全く同じ塗膜組成を塗布してもよいし、異なる塗膜組成を塗布してもよい。
【0043】
6.鋼材とエポキシ系塗膜の中間層としてジンクプライマーの塗膜層を形成すること
鋼材とエポキシ系塗膜の中間層は必須ではないが、ジンクプライマーの塗膜層を形成することが好ましい。すなわち、亜鉛は鋼より海水浸漬時の電位が卑となるため、犠牲防食作用があり、また亜鉛の腐食生成物は防食効果があるためである。
【0044】
7.ジンクプライマーに含有される亜鉛末量
ジンクプライマーの耐食性向上効果を得るためには、ジンクプライマーに含有される亜鉛末が、2.0g/m以上であることが好ましい。また、30g/m超であると、効果が飽和し、また、ジンクプライマー層に欠陥部が生じやすく、塗装耐食性が劣化する場合があるため、0.2〜30g/mの範囲が好ましい。
【0045】
8.ジンクプライマーに添加されるMo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snのうちから選ばれる1種以上を含む顔料
ジンクプライマーの塗膜内の空隙が多い場合、その空隙を通り、鋼材表面に腐食性因子(水、酸素、塩化物イオン等)が過剰に供給され、鋼材表面で腐食反応が多数の箇所で生じ、その結果犠牲防食作用を期待されて塗膜中に含有されている亜鉛が非常に早く消費され、ジンクプライマーを塗布した効果の発揮が不十分な場合がある。これに対して、Znによる防錆性を補強する場合には、ジンクプライマーへの添加成分として、Mo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snのうちから選ばれる1種以上を含む顔料が有効である。添加される顔料の形態は、金属、化合物のいずれの形態でもよい。これらの成分を添加することによって、亜鉛の緻密な腐食生成物や亜鉛とFeとの安定な複合酸化物が形成しやすくなり、また、発生した錆中にこれらの顔料に起因する酸化物または鉄との複合酸化物が形成することで、塗装耐食性がさらに向上する。さらに、Mo、W、P、Vについては、塗膜中に水が浸透した際にこれら顔料がイオンとして溶出し、これらのインヒビター作用により、鋼材の腐食を抑制する。
また、Al、Mgは、鋼より卑なる金属であるため、犠牲防食作用を発現し、塗装耐食性が向上する。Sb、Snの作用機構は、塗膜下にSb、Snが存在することで、塗膜下の錆層が緻密になり、塗膜下の腐食が抑制されることで、塗装耐食性が向上すると考えている。これらの顔料による塗装耐食性向上効果は、Mo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snの量の合計が、0.01g/m以上で顕著となる。一方で、10g/mを超えても効果が飽和するだけでなく、ジンクプライマー塗膜で欠陥部として存在することとなり、塗装耐食性が劣化する原因となる。そのため、最適範囲は0.01〜10g/mとした。
【0046】
Mo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snのうちから選ばれる1種以上を含む顔料としては、添加される形態は、金属、化合物のいずれの形態でもよく、顔料としては、リン酸、亜リン酸、ポリリン酸等のリン酸塩系、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩系の化合物のマグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、ストロンチウム塩のいずれかの化合物やもしくはリンモリブデン酸塩やリンタングステン酸系といった2種以上含むものが利用可能である。これらの中では特にリン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸ストロンチウムの効果が優れる。また、銅塩、ニッケル塩、スズ塩系の化合物の硫酸塩、炭酸塩等の化合物も利用可能である。また、金属や酸化物でも効果がある。なお、金属顔料の純度は特に限定するものではないが、純度が90%以上のものが望ましい。例えば、アルミニウム粉末のように通常ペースト状態で市販されているものは、これを用いるのが好ましい。もちろん、各元素に用いる顔料は、上記に限らない。
【0047】
ジンクプライマーの防食性には、前述のように、亜鉛や顔料等の効果が大きいが、これら単独では塗膜の形成が困難であるため、樹脂(ビヒクル)を配合して塗膜を形成すればよく、ジンクプライマーの塗膜を形成する樹脂(ビヒクル)は、シリケート樹脂であることが好ましい。シリケート樹脂としては、アルキルシリケート樹脂やアルカリシリケート樹脂が好ましい。例えば、アルキルシリケート樹脂は、シリケート化合物を反応させて得られる。シリケート化合物としては、例えば、テトラアルコキシシリケート、アルキルトリアルコキシシリケート、ジアルキルアルコキシシリケート、およびこれらの部分縮合物等を挙げることができる。テトラアルコキシシリケ−トとしては、例えばテトラメトキシシリケ−ト、テトラエトキシシリケ−ト、テトラプロポキシシリケ−ト、テトライソプロポキシシリケ−ト、テトラブトキシシリケ−ト、テトライソブトキシシリケ−ト、エチルシリケ−ト等が挙げられ、アルキルトリアルコキシシリケ−トとしては、例えばメチルトリメトキシシリケ−ト、メチルトリエトキシシリケ−ト、メチルトリプロポキシシリケ−ト、エチルトリメトキシシリケ−ト、エチルトリエトキシシリケ−ト等が挙げられ、ジアルキルジアルコキシシリケートとしては、例えばジメチルジメトキシシリケ−ト、ジメチルジエトキシシリケ−ト、ジエチルジメトキシシリケ−ト、ジエチルジエトキシシリケ−ト等が挙げられる。
【0048】
これらは単独でまたは2種以上混合して使用できる。さらに、上記シリケ−ト類に水分散型コロイダルシリカ、溶剤分散型コロイダルシリカを併用してもよい。
【0049】
さらに、塗膜の空隙率を小さくするため、シリケート化合物と水酸基含有樹脂とを反応させて得られるアルキルシリケート樹脂を用いることができる。水酸基含有樹脂を用いる理由は、塗膜の硬化反応の制御がしやすくなるとの観点からである。水酸基含有樹脂としては、2級水酸基および3級水酸基を含有するものが好ましい。このような樹脂としては、たとえばブチラール樹脂やアクリル樹脂等を挙げることができる。
【0050】
このような樹脂を含めたジンクプライマー全体の膜厚としては、5〜50μmが好ましい。ジンクプライマーの塗膜厚が5μm以上であると、塗膜内に均一に亜鉛末が分散されやすくなり、塗装耐食性の向上効果が効果的に得られるので好ましい。一方、ジンクプライマーの塗膜厚が50μmを超えて塗布されても防食効果は飽和し、上塗り塗膜であるエポキシ系塗膜との密着性が劣化傾向となるので、ジンクプライマーの塗膜厚は5〜50μmの範囲とするのが好ましい。さらに、均一な塗膜を十分に安定して形成させるためには、10〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0051】
次に、本発明にかかわる耐食鋼材の好適な製造方法について説明する。
上記した好適成分組成になる溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の炉で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の鋳造方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加しても良いことは言うまでもない。
【0052】
ついで、上記鋼素材を、好ましくは1050〜1250℃の温度に加熱したのち所望の寸法形状に熱間圧延するか、あるいは鋼素材の温度が熱間圧延可能な程度に高温である場合には再加熱することなく、あるいは均熱する程度で直ちに所望の寸法形状の鋼材に熱間圧延することができる。
【0053】
なお、熱間圧延では、強度を確保するために、熱間仕上圧延終了温度および熱間仕上圧延終了後の冷却速度を適正化することが好ましく、熱間仕上圧延終了温度は、700℃以上、熱間仕上圧延終了後の冷却は、放冷または冷却速度10℃/sec以上の加速冷却を行うことが好ましい。なお、冷却後に再加熱処理を施してもよい。
【0054】
次に、本発明にかかわるジンクプライマーの塗装方法について説明する。
【0055】
ジンクプライマーは、鋼材表面のスケールをサンドブラスト、ショットブラスト等で除去した後に、鋼材表面へエアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り等の方法が適用できる。
【0056】
また、本発明にかかわるエポキシ系塗膜の塗装方法について説明する。
【0057】
エポキシ系塗膜は、前述のジンクプライマー層の上層、あるいは、鋼材表面のスケールをサンドブラスト、ショットブラスト等で除去した後に、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り等の方法が適用できる。
【実施例】
【0058】
表1に示す成分を有する溶鋼を、真空溶解炉で溶製または転炉溶製後、連続鋳造によりスラブとした。なお、表1において、REMと表示したものは市販のミッシュメタルを添加したものである。ついで、スラブを加熱炉に装入して1150℃に加熱後、熱間圧延により30mm厚の鋼板とした。ここで、熱延仕上終了温度は、800℃、熱延後の冷却は放冷とした。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
これらの鋼板から、4mmt×100mmW×180mmLの試験片を採取し、その試験片の表面をショットブラストして、表面のスケールや油分を除去したのち、試験片表面に表2に示すジンクプライマーを所定の膜厚となるようにエアスプレー塗装を施し、さらにその上層にエアスプレー塗装にて表3に示すエポキシ系塗膜を施した。ジンクプライマー層が無い供試材を作成する場合は、試験片のショットブラストされた面に、所定の膜厚となるようにエポキシ系塗膜をエアスプレー塗装方法により施した。なお、エポキシ系塗膜は、1回塗りと2回塗りの各々で塗装されており、2回塗りの場合は、1回目の塗装後に1日間隔を置き、その上にエアスプレー塗装を行った。ジンクプライマーは、表2に示す成分量となるよう、かつ、膜厚が15μmとなるように、アルキルシリケート樹脂量を調整して配合し、よく攪拌した後に塗装に用いた。
【0063】
また、その上層に、エポキシ系塗膜を形成した。エポキシ系塗膜は、市販品の各種エポキシ系塗料を表3に示す膜厚になるように塗装し、内部応力及び水蒸気透過度を測定した結果を表3に示す。なお、鋼材上層に塗装したエポキシ系塗膜の内部応力と水蒸気透過度の測定方法は以下の通りである。塗膜の内部応力はバイメタル法における曲率半径と、塗膜のヤング率を測定し、次式により算出した。
【0064】
【数1】

【0065】
曲率半径の測定は、厚さ100μmのリン青銅板に乾燥塗膜が50〜900μmとなるようにエポキシ系塗膜を塗布し、塗布後の反り程度で測定を行った。ヤング率はJIS K 7113により、2号ダンベル試験片を作成して実施した。塗膜の水蒸気透過度の測定は、JIS K 7129に準拠し、乾湿センサー法にて測定した。
【0066】
耐食性の評価は、試験片に塗膜欠陥を模擬することを目的にスクラッチを付加し、その試験片を腐食試験に供した。スクラッチ付加方法は、塗膜の上からカッターナイフで地鉄表面まで達する80mm長さの直線のスクラッチ疵を付加した。なお、塗膜欠陥としてスクラッチを付加することは、試験による評価の促進性を目的としており、事前実験にて、スクラッチの有無による、鋼種・塗装種の優位順や相対的な腐食割合の評価には影響しないことを確認している。
【0067】
腐食試験は2種類の試験を実施した。第一の試験方法は、実船のバラストタンクの上甲板裏に相当する腐食環境を模擬した(35℃、5%NaCl溶液噴霧、2Hr)→(60℃、25%RH、4Hr)→(50℃、95%RH、2Hr)を1サイクルとする試験を最大で1095サイクル行った(これを腐食試験Iとする)。ここで、RHは相対湿度を意味する。耐食性の評価項目は、相対塗膜膨れ面積率、相対腐食減量と相対最大板厚減少量とした。相対塗膜膨れ面積率は、表4では比較例Y9、表5では比較例Y1(従来鋼に相当)の塗膜膨れ面積を100%とした場合の相対値である。相対腐食減量(%)は、表4では比較例Y9、表5では比較例Y1(従来鋼に相当)の腐食減量を100%とした場合の相対値であり、相対最大板厚減少量(%)とは、同様に表4では比較例Y9、表5では比較例Y1の最大板厚減少量を100%とした場合の相対値である。
【0068】
第二の腐食試験方法は、実船のバラストタンクで海水に没水する側壁部や底面部に相当する腐食環境を模擬した、海水浸漬(50℃人工海水浸漬)7日間→乾湿繰り返し(60℃、25%RH、4Hr)→(50℃、95%RH、2Hr)7日間を1サイクルとする試験を52サイクル行った(これを腐食試験IIとする)。評価方法は、第一の腐食試験と同様の項目に対しておこなった。
【0069】
なお、相対腐食減量と相対最大板厚減少量は、腐食試験後に試験片表面に残存している塗膜と錆を完全に除去したのちに、腐食減量および板厚減少量を測定している。
【0070】
腐食試験の結果を、表4、5に示す。表4はジンクプライマーに顔料を添加していない系での評価結果をまとめている。表5はジンクプライマーに顔料を添加している系での評価結果をまとめている。
【0071】
実施例のうち、本発明の要件を満足している本発明例の試験片No.X1〜X36は全て、相対塗膜膨れ面積率、相対腐食減少量および相対板厚減少量の特性について、比較例のY9と比較して、いずれも50%未満まで大幅に低減している。また、Z1〜Z15は全て、相対塗膜膨れ面積率、相対腐食減量および相対最大板厚減少量の特性について、比較例のY1と比較して、いずれも50%未満まで大幅に低減している。
【0072】
また、表4と表5の結果を比較すると、全体的にジンクプライマー中に顔料を添加している系での方が、塗装耐食性が向上していた。このことから、本発明で得られた船舶用鋼材は優れた塗装耐食性を発揮することが明らかである。
【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の技術は、船舶用鋼材に限られるものではなく、海水腐食環境下において塗装耐食性を求められる部材用途に適用でき、更に、橋梁や建築物などの鋼構造物で腐食環境の厳しい分野で用いられる鋼材にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の上層にエポキシ系塗膜を有する塗装耐食性に優れた船舶用鋼材であって、
前記鋼材が、質量%で、
C:0.01〜0.20%、
Si:0.01〜2.5%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.03%以下
S:0.01%以下
Al:0.005〜0.3%、
N:0.008%以下を含有し、
さらに、
Cu:0.005〜2.0%、
Cr:0.005〜5.0%、
Ni:0.005〜5.0%、
Mo:0.005〜3.0%、
W:0.005〜3.0%、
Sb:0.005〜1.0%、
Sn:0.005〜1.0%、
のうちから選ばれる1種以上の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、前記エポキシ系塗膜は、内部応力が8.0MPa以下であり、水蒸気透過度が50g/m・day以下であることを特徴とする塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項2】
前記鋼材が、質量%で、さらに、
Nb:0.001〜0.2%、
V:0.001〜0.5%、
Ti:0.002〜0.2%、
Zr:0.001〜0.5%、
B:0.0002〜0.005%、
Ta:0.005〜0.5%、
Te:0.005〜0.5%、
Co:0.005〜0.5%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項3】
前記鋼材が、質量%で、さらに、
Ca:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.1%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Y:0.0001〜0.1%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材
【請求項4】
前記鋼材が、質量%で、さらに、
Se:0.005〜0.5%、
Pb:0.005〜0.5%、
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項5】
前記エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が100〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項6】
前記エポキシ系塗膜の合計塗膜厚が500μm以上となる場合は、該塗膜は2層以上の塗膜層からなり、該塗膜層の1層あたりの塗膜厚は100〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項7】
前記鋼材と前記エポキシ系塗膜の中間層にジンクプライマーの塗膜層が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項8】
前記ジンクプライマーに含有される亜鉛末が、2.0〜30g/mであることを特徴とする請求項7に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項9】
前記ジンクプライマーにMo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snのうちから選ばれる1種以上を含む顔料のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項7または8に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。
【請求項10】
さらに、前記顔料のうちから選ばれる1種以上をMo、W、P、V、Ni、Cu、Al、Mg、Sb、Snの量の合計が、0.01〜10g/mであることを特徴とする請求項9に記載の塗装耐食性に優れた船舶用鋼材。

【公開番号】特開2012−92403(P2012−92403A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241673(P2010−241673)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】