説明

塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法

【課題】 病院、食品工場あるいは家庭の台所などで用いられる塩化ビニル樹脂製手袋で、その製造時の手型からの反転脱型性にすぐれ、また使用時の手への着脱が容易で耐ブロッキング性のよい手袋を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル樹脂ゾル液に浸漬し、取り出したのち加熱して、表面に塩化ビニル樹脂層を形成させた手型を、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤よりなる組成物にポリ燐酸ナトリウムを加えて得られた手袋用処理剤に浸漬し、手型表面の塩化ビニル樹脂層上に処理剤を付着させたのち、取り出して加熱乾燥によって皮膜を形成し、次いで手型から反転脱型することで塩化ビニル樹脂製手袋を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法に係り、手袋の製造時において、手型からの反転脱型性にすぐれ、かつ使用時の手への着脱が容易で塵の発生がなく、耐ブロッキング性が良好で非粘着性の塩化ビニル樹脂製手袋を得るべく、手袋内面に施される処理剤の希釈に使用する水の水質が手袋の仕上がり状態に与える影響を少なくする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭の台所、食品工場、あるいは病院等で使用されている塩化ビニル樹脂製手袋は、塩化ビニル樹脂に可塑剤や安定剤を配合した樹脂液に手型を浸漬し、取り出した後加熱することでゲル化させて成膜したのち、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤を主成分とし、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤等からなる処理剤を固形分濃度2〜5%に水で希釈した処理液に浸漬し、取り出した後、加熱乾燥し、次いで手型から反転脱型させる方法によって製造されている。
【0003】
このような手袋の製造法としては、手型に塩化ビニル樹脂層を形成した後、微粒子シリカを含有する合成樹脂エマルションに浸漬して成膜し、冷却後反転脱型する方法(特許文献1)、手型に塩化ビニル樹脂層を形成した後、メチルメタクリレート樹脂等の硬度の高い樹脂をエマルション状態で混合した混合エマルション液に浸漬処理して成膜し、反転脱型する方法(特許文献2)などが提案されている。
【特許文献1】特開昭60−119204号公報
【特許文献2】特開昭63−99303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手袋用処理剤に求められる目的および効果は、手型からの反転脱型が容易であること、手袋を重ねて長期間保存してもブロッキングせず、また手袋内面は艶が消え、滑性がよく、手への着脱が容易であり粉落ちしないこと、などである。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2の手袋の製造方法で用いる処理剤は手袋製造工場までの輸送コストを低減するために、処理剤出荷時にはその濃度を高くし、手袋製造工場において、加工時に水で希釈して用いるようにしているため、この希釈の際に使用する水の水質によって表面処理の仕上がり状態が大きく異なってくるというのが現状である。
【0006】
一方、手袋製造工場は、何れの国にあっても各地に存在し、その個々の地にて水質には大きな差異があり、特に海外では我が国と比べて硬度の高い地域が多く、殆どの場合、硬度の低い水道水や工業用水、イオン交換水などの軟水化処理を施した水で希釈しなければならないのが実情である。
【0007】
即ち、これまで開示されている手袋の製造技術では、カルシウムやマグネシウムなどの金属イオンを含んだ硬度の高い水で手袋用処理剤を希釈した場合、希釈された処理剤の粘度は硬度の低い軟水で希釈した場合よりも低くなり、その結果手袋内面に加工された処理剤の塗膜が薄くなり、表面滑性が悪く、前記処理剤の目的、効果が発揮されないといった、希釈水の硬度差による加工時の問題が発生するのである。
【0008】
この発明は、上記の問題に着目し、硬度差のある水で処理剤を希釈しても、希釈された処理剤の粘度にバラツキがなく一定であり、その結果手袋の内面に加工された塗膜は均一となり、常に表面滑性の良好な仕上がりとなる手袋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、塩化ビニル樹脂ゾル液に浸漬し、取り出したのち加熱して、表面に塩化ビニル樹脂層を形成させた手袋用手型を、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤よりなる組成物にポリ燐酸ナトリウムを加えて得られた手袋用処理剤に浸漬し、該手型表面の塩化ビニル樹脂層上に該手袋用処理剤を付着させたのち、取り出し加熱乾燥によって皮膜を形成し、次いで手型から反転脱型する塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法を特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、手型表面の塩化ビニル樹脂層上に皮膜を形成する手袋用処理剤が、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤よりなる組成物中の固形分100重量部に対して、ポリ燐酸ナトリウムを1〜10重量部加えて得られる処理剤であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明の上記請求項に記載した塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法によれば、製造時における手型からの反転脱型性に優れ、かつ使用時の着脱が容易で、塵の発生がなく、しかも耐ブロッキング性が良好な塩化ビニル樹脂製手袋を得ることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。まず、この発明で用いる処理剤を構成する組成成分について説明する。合成樹脂エマルションとしては、水性の塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、メチルメタクリレート樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等のエマルションが単独または併用して用いられる。
【0013】
ポリアクリル酸系増粘剤は、ポリアクリル酸樹脂にカルボン酸を共重合させた、所謂アルカリ中和型ポリアクリル酸であり、アンモニア水、アミン、苛性ソーダ水溶液等のアルカリ水溶液によりカルボン酸を中和することで増粘するタイプの増粘剤を用いることができる。
【0014】
次に、界面活性剤は、合成樹脂エマルション、増粘剤、およびその他の添加剤を処理剤中に均一に分散させるとともに、塩化ビニル手袋表面に処理剤を均一に付着せしめるためのもので、ノニオン系、アニオン系、シリコーン系などの界面活性剤が使用できる。
【0015】
シリカ微粉末としては、粒径0.5〜5μmのものが適当である。その添加量は、公知の技術として開示されているように、樹脂成分の固形分に対して5〜20部程度が適当である。
【0016】
滑剤としては、シリコーンオイルをエマルションにしたタイプや、ポリエチレンワックス等の滑性を有するものが使用できる。
【0017】
次に、この発明で必須構成成分として使用するポリ燐酸ナトリウムとしては、ピロ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、ヘキサメタ燐酸ナトリウム等の無水および水和物を単独あるいは併用して用いることができる。
【0018】
合成樹脂エマルションを主体とする処理剤中にポリ燐酸ナトリウムを添加することにより、処理剤希釈時に使用する水に含まれるカルシウムやマグネシウム等の金属イオンがポリ燐酸ナトリウムにより選択的に吸着されるので、このような金属イオンが
増粘剤の増粘作用に影響を及ぼさなくなり、水の硬度差による希釈時の粘度バラツキが抑制される。
【0019】
一方、この発明で用いるポリ燐酸ナトリウムを使用しなかった場合には、水に含まれる金属イオンが処理剤中の増粘剤に結合して、増粘作用を阻害するので、水の硬度による粘度の差が生じるのである。希釈粘度にバラツキを生じ、設定よりも低い粘度の処理剤に手型を浸漬した際には、処理剤の塩化ビニル表面への付着量が少なくなるので、滑性の低下、艶消し効果の低下、耐ブロッキング性の低下が発生するのである。
【0020】
また、ポリ燐酸ナトリウムの添加量は、処理剤の固形分100重量部に対して1〜10重量部(好ましくは2〜8重量部)が適当である。これは、ポリ燐酸ナトリウムの量が1重量部より少ない場合には、金属イオンの吸着が充分に行われず、粘度バラツキが発生する恐れがあり、また10重量部より多く用いると、得られた手袋の着用時に手の汗などの影響で滑性が低下する場合があって好ましくない。かつ処理剤の保存安定性にも問題を生じることがあって好ましくない。
【0021】
以下、実施例によりこの発明を詳細に説明するが、この発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、部数はすべて重量部である。
(実施例1)
【0022】
塩化ビニルペーストレジン(カネカ社製、PSH−31)100部に、ジオクチルフタレート(可塑剤)100部、アデカサイザーO−130P(安定剤、アデカアーガス社製)5部、Ca−Ba−Zn(安定剤)3部を加えて均一に分散して得た塩化ビニルペーストゾルに、陶磁器製手型を10秒間浸漬して引き上げ、ペーストゾルが滴下しない状態に保持したのち、200℃のギヤオーブン内で4分間加熱して手型上に塩化ビニル樹脂皮膜を成膜した。
【0023】
別途、固形分40%の水溶性ポリエステル系ポリウレタン樹脂100部、固形分50%のメチルメタクリレート樹脂100部、平均粒径2μmのシリカ微粉末15部、無水ピロリン酸ナトリウム1.5部、固形分40%のシリコーンオイルエマルション10部、シリコーン系界面活性剤3部、トリエチルアミン9部および硬度40の水道水226部を混合し、さらに攪拌しながら固形分30%のポリアクリル酸系増粘剤50部を徐々に加えて、固形分濃度25%、粘度2,300mPa・s/25℃を有する手袋用処理剤を作製した。この処理剤100部に、硬度0のイオン交換水1,150部を加えて、固形分濃度2%に調整した希釈処理剤とした。
【0024】
次に、上記で得た希釈処理剤の中に、上記で塩化ビニル樹脂皮膜を表面に形成した手型を10秒間浸漬し、徐々に引き上げたのち、180℃のギヤオーブン内で2分間加熱し、乾燥させた。その後、空気中で70℃まで冷却させたのち、手型から反転脱型して塩化ビニル樹脂製手袋を得た。
【0025】
なお、水質を表わす硬度は、水1000mlに含まれる炭酸カルシウムの重量をミリグラム数で表わした数値である。
(実施例2〜8)
【0026】
実施例1で無水ピロリン酸ナトリウムを用いたポリリン酸ナトリウムの種類および量と、処理剤希釈時に用いる水の水質を表1に示すように変える以外は実施例1と同様にして希釈処理剤を作製し、それらを用いて塩化ビニル樹脂製手袋を得た。また、同じようにして表1の処方で比較例1〜4の手袋を得た。
【0027】
上記実施例1〜8、比較例1〜4で得た塩化ビニル樹脂製手袋について、手型からの脱型性、手袋の着脱性、滑性、耐ブロッキング性、光沢などの評価を行った。それらの結果は表1に示した。なお、評価方法および評価基準は次の通りである。
【0028】
手型からの脱型性:陶磁器製手型から塩化ビニル手袋を反転脱型する時の容易さを示したもので、手型に付着した反転前の手袋の袖口部分の両端を両手指で持ち、反転させながら脱型する際の状況から、
・ :滑らかに脱型できる。×:脱型の途中で引っ掛かったり、破れたりする。
と判定した。
【0029】
手袋の着脱性:手袋の手への装着と脱着を10回繰り返して行い、10回後の装着と脱着が、○:円滑に行える。×:大きな抵抗を感じる時や破れが生じる場合がある。
で評価した。
【0030】
滑性:角度を自由に変えられる台に処理面を上にして試験試料を貼り、200gの分銅が滑り始める時の角度を測定した。角度の小さいものが滑性にすぐれている。
【0031】
耐ブロッキング性:手袋を10枚重ねて2枚のガラス板にはさみ、上から1kgfの荷重を加え、70℃で2日間放置した後の手袋の内面(処理剤の処理面)同士の付着状態を観察し、
・ :全く異常がなくブロッキングしていない。△:袖口部分に少しブロッキングが見られる。×:全体的にブロッキングが発生。
と判定した。
【0032】
光沢値:60度光沢値を示す。JIS Z−8741に準拠して測定した。数値が小さいほど光沢が少なく、滑性に富む手袋であることを意味する。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1の結果から、この発明の方法において用いる処理剤は、硬水を使用して希釈しても、目的とする滑性や、光沢が軟水を使う場合と何ら変わらない仕上がりとなる。軟水を使わなければならない従来の方法に比べると、塩化ビニル手袋製造工場において一般の工業用水が使用できるというすぐれた特徴を有するのである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂ゾル液に浸漬し、取り出したのち加熱して、表面に塩化ビニル樹脂層を形成させた手袋用手型を、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤よりなる組成物にポリ燐酸ナトリウムを加えて得られた手袋用処理剤に浸漬し、該手型表面の塩化ビニル樹脂層上に該手袋用処理剤を付着させたのち、取り出し加熱乾燥によって皮膜を形成し、次いで手型から反転脱型することを特徴とする塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法。
【請求項2】
手型表面の塩化ビニル樹脂層上に皮膜を形成する手袋用処理剤が、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸系増粘剤、界面活性剤、シリカ微粉末、滑剤よりなる組成物中の固形分100重量部に対して、ポリ燐酸ナトリウムを1〜10重量部加えて得られる処理剤であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル樹脂製手袋の製造方法。


【公開番号】特開2006−233350(P2006−233350A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47079(P2005−47079)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000107952)セイコー化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】