説明

塩味増強剤組成物

【課題】
食塩含量を減少させたにもかかわらず、旨味、コク味などの呈味感を維持、増強しつつ、塩味を増強することのできる塩味増強剤組成物を提供すること。
【解決手段】
サンショウ抽出物を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物またはサンショウ抽出物およびフタライド類を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味増強剤組成物に関し、さらに詳しくは、サンショウ抽出物を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は、塩味をつける調味料として、また、保存などの目的で飲食品に汎用されているが、食塩の過剰摂取は高血圧、腎臓病、心臓病などの遠因となることが指摘され、食塩含量を減らした飲食品などが開発されている。しかしながら、食塩含量を減らした場合、当然に塩味が弱くなり物足りなく感じることがある。そこで、食塩の含有量を減らしたにもかかわらず適度な塩味を呈する技術が提案されている。例えば、食塩の一部を塩化カリウムで代替し、カリウム塩特有の不快味を改善し、食塩含量が低いにもかかわらず、適度な塩味を呈する技術が開示されているが(特許文献1〜6)、実際の製品への応用はあまり進んでいないのが現状である。
【0003】
また、その他の素材による塩味増強技術についても提案されており、例えば、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸およびコハク酸またはその塩を食塩含有飲食品に添加する飲食品の食塩味増強方法(特許文献7)、食塩含有飲食品に、単糖類、二糖類、三糖類を特定量含有するソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を添加する飲食品の塩味増強方法(特許文献8)、スピラントールによる塩味または酸味の改善(特許文献9)、スピラントールとシャロット及び/又はオニオン抽出物を含有する塩味増強剤(特許文献10)、甘味、塩味、または旨味、および風味増強特性を有する飽和および不飽和N−アルカミド(特許文献11)などが提案されているが、それなりに効果はあるものの、十分満足できるものではなかった。
【0004】
一方、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC;山椒)は、その果実や葉にさわやかな強い芳香と辛味成分を有しているため、若葉(葉山椒)や未熟な果実(青山椒)は日本料理で薬味などとして使用されている。また、成熟した果実は、乾燥粉末にされて薬味や香辛料として広く利用されている。さらに、サンショウは薬効として内臓の働きを活発にする作用があるため、健胃剤や整腸剤などとして用いられている。非特許文献1には、サンショウ中の辛味成分および辛味の質などについて記載されているが、サンショウ抽出物が塩味を増強することについてはこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−287460号公報
【特許文献2】特許平4−262758号公報
【特許文献3】特開平11−187841号公報
【特許文献4】特表2008−543332号公報
【特許文献5】特開2009−27974号公報
【特許文献6】特開2010−4767号公報
【特許文献7】特開2002−345430号公報
【特許文献8】特開2008−99624号公報
【特許文献9】特公昭48−35465号公報
【特許文献10】特開2006−296357号公報
【特許文献11】特開2006−77015号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】香料,No.229,平成18年(2006年)3月,P.129−137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塩味の増強に関する前記のような提案では、ある程度の効果は得られるものの、十分満足のいくものとはいえない。そこで、飲食品本来の成分であって、添加することにより何ら異味異臭を生じることなく、効果的に塩味を増強することのできる塩味増強剤組成物が求められている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、食塩含量を減少させたにもかかわらず、旨味、コク味などの呈味感を維持、増強しつつ、塩味を増強することのできる塩味増強剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは食塩含量を減少させた飲食品の塩味増強に関して鋭意研究を重ねた結果、今回、サンショウ抽出物を飲食品に配合することにより、異味異臭を与えることなく、効果的に塩味を増強することができることを見いだした。またさらに、サンショウ抽出物とフタライド類を併用して飲食品に配合することにより、旨味、コク味などの呈味感を維持、増強しつつ、塩味を増強することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明は、サンショウ抽出物を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物を提供することができる。
【0011】
また、本発明は、サンショウ抽出物およびフタライド類を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物を提供することができる。
【0012】
さらに本発明は、前記の塩味増強剤組成物を、塩味含有飲食品に添加することを特徴とする塩味含有飲食品の塩味増強方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、飲食品に不要な呈味や香気を付与することなく、塩味含有飲食品の塩味を増強することができる塩味増強剤組成物を提供することができる。また、カリウム塩含有飲食品の不快味を改善し、旨味、コク味などを維持、増強しつつ、塩味を増強することができる塩味増強剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塩味増強剤組成物は、サンショウ抽出物を含有することを特徴とする。本発明のサンショウ抽出物に用いられるサンショウ(山椒)は、ミカン科サンショウ属(Zanthoxylum)の植物であり、多数の品種が存在する。例えば、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC)、アサクラザンショウ(Z.piperitum DC.var.inerme Makino)、イヌザンショウ(青椒、青花椒:Z.schinifolium Sieb.et Zucc.)、ホワジョウ(花椒:Z.bungeanum Maxim.)などがあり、本発明に使用するサンショウは、いずれの品種を用いることができるが、食経験が十分にあり、比較的安価なサンショウ(山椒)またはホワジョウ(花椒)が好ましい。
【0015】
本発明に使用するサンショウの部位としては特に制限されないが、成熟果皮で、果皮から分離した種子をできるだけ除いたものが好ましく、その形態も特に制限されず、果皮をそのまま、粉砕したもの、乾燥して粉末とした山椒末などを使用することができる。本発明のサンショウ抽出物は、上記したサンショウ材料を溶媒により抽出して得られる抽出物、超臨界または亜臨界二酸化炭素により抽出して得られる抽出物あるいは水蒸気蒸留により得られるサンショウの精油などを例示することができる。かかる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられ、これらのうち2種以上を混合して用いてもよい。溶媒抽出は、サンショウ材料1重量部に対して、通常、溶媒を5〜20重量部加え、攪拌または浸漬し、濾過または遠心分離などにより抽出物を得ることができる。得られる抽出物は、所望により減圧濃縮などの適宜な濃縮手段を用いて溶媒を回収し、濃縮物の形態とすることもできる。抽出条件としては、10℃〜100℃、好ましくは50℃〜95℃の温度で、30分〜24時間、好ましくは2時間〜10時間の条件を例示することができる。
【0016】
本発明のサンショウ材料の超臨界または亜臨界二酸化炭素による抽出は、二酸化炭素を用いるそれ自体既知の抽出方法に従って実施することができ、一般には、25℃〜100℃の温度、5MPa〜50MPaの圧力、好ましくは25℃〜70℃の温度、10MPa〜30MPaの圧力の条件下の二酸化炭素を用いて抽出操作をおこなうのが好適である。
【0017】
本発明のサンショウ材料から水蒸気蒸留により精油を得る方法は、それ自体既知の水蒸気蒸留法により、すなわち、蒸留釜内にサンショウ材料を置き、下部より水蒸気を吹き込み、得られる留分を冷却して、分離した油相部を採取することにより得ることができる。
【0018】
上記のようにして得られる本発明のサンショウ抽出物は、そのままで本発明の塩味増強剤組成物とすることができるが、それ自体既知の精製方法、例えば、減圧蒸留、分子蒸留などの蒸留法、イオン交換樹脂などを用いたカラムクロマトグラフィーなどにより精製した精製物として使用することもできる。
【0019】
上記した本発明のサンショウ抽出物の形態は、液体状の抽出物をそのままで使用することもできるが、該抽出物と適当な希釈剤もしくは担体との組成物の形態で用いてもよい。このような希釈剤もしくは担体としては、例えば、アラビアガム、デキストリン、グルコース、シュークロースなどの固体希釈剤もしくは担体、または水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、界面活性剤などの液体希釈剤もしくは担体を例示することができ、該抽出物はこれらの希釈剤もしくは担体を用いて任意の剤形、例えば、粉末状、顆粒状、液状、乳液状、ペースト状、その他適宜の剤形に調製することができるが、例えば、アラビアガム、デキストリンなどを添加して粉末状、顆粒状とすることができる。
【0020】
本発明の塩味増強剤組成物の別の態様は、上記したサンショウ抽出物とフタライド類とを含有することを特徴とする。本発明で用いるフタライド類は、セリ科の植物の精油中に特徴的に存在する独特のスパイシーな生薬臭を有する一群の化合物類で、フタライド骨格を有する化合物を意味する。具体的には、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライド、3−ブチリデンフタライド、リグステライド、クニジライド、イソクニジライド、ネオクニジライド、メチルセダノエート、3−ブチルヘキサヒドロフタライドなどを挙げることができる。これらの化合物のうち、特に好ましいものとして、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドを例示することができる。これらのフタライド類は合成品を使用しても良く、また、セリ科植物から水または溶剤抽出あるいは水蒸気蒸留などにより抽出物または精油を得、それらから各種の公知手段などにより精製することもできる。
【0021】
これらの化合物は、単独で使用しても良く、また、いくつかを組み合わせて使用しても良い。さらにまた、これらの化合物を含むセンキュウ、トウキ、ロベージ、セロリなどの精油やオレオレジンなどの抽出物をそのまま、あるいは調合香料の一部として配合した形態として使用することもできる。
【0022】
一方、セリ科植物の精油やオレオレジンは、天然原料であり、安全、安心面から、本発明の塩味増強剤組成物として好ましいが、精油やオレオレジンには、前記のフタライド類の他、リモネン、ミルセン、β−カリオフィレン、α−セリネン、β−セリネン、γ−セリネンなどの炭化水素類などが含まれており、独特の青っぽい香気を有する。これらの、青っぽい香気は、通常の香料用途などのようにセリ科植物の風味を付与する目的で使用する場合は、好ましい風味であるが、本発明の塩味増強剤組成物として使用する場合には、不必要に青っぽい風味を付与してしまうため、低減または除去することが好ましい。特にセリネン類はセリ科植物に特有の青っぽい香気が強いため、できるだけ低減または除去することが望ましい。これら炭化水素類のうちリモネン(沸点:176℃;大気圧)のように沸点の比較的低い物質は、通常の精留塔などを用いた蒸留(温度:50℃〜70℃、圧力:500Pa〜1000Pa)により留出させて低減させることが容易であるが、セスキテルペン炭化水素であるセリネン類(β―セリネン:沸点:260℃;大気圧)およびフタライド類(セダネノライド:沸点:367℃;大気圧)はいずれも香料化合物としては比較的沸点が高い部類に属し、通常の精留塔などを用いた蒸留では、いずれの化合物も釜残に残ってしまい、分離が困難である。したがって、簡便でコストのかからない方法によりセリ科植物の精油やオレオレジンから、セリネン類を除く方法が必要となる。
【0023】
セリ科植物の精油やオレオレジンからセリネンを含む炭化水素類を低減または除去する方法としては、各種クロマトグラフィーなども採用し得るが、簡便で、かつ、工業的に実施可能な方法として分子蒸留を挙げることができる。分子蒸留とは、高真空条件下での蒸留であって、蒸発した分子が他の分子と衝突を起こさず冷却面へ到達して凝縮するような蒸留による精製方法をいう。使用される装置あるいは器具については、かかる方法が適用できる装置であれば、特にその種類は問わないが、一般的に回分式又は連続式分子蒸留装置があり、形式により流下薄膜式分子蒸留装置、遠心薄膜式分子蒸留装置に分類される。これらの装置の中でも安定した薄膜状態を形成できる観点から遠心薄膜式分子蒸留装置、特に連続式遠心薄膜式分子蒸留装置を使用することが好ましい。
【0024】
遠心薄膜式分子蒸留装置を使用し、炭化水素類を除くための条件としては温度90℃〜110℃、圧力10Pa〜30Paを例示することができる。この条件により、リモネンのような低沸点の炭化水素類はもちろんのこと、セスキテルペン炭化水素であるセリネンも留去することができ、釜残としてフタライド類を得ることができる。分子蒸留に供する原料が精油である場合は、一回の分子蒸留で前記の釜残としてフタライド類を60%以上含有する組成物として本発明の塩味増強剤組成物に使用することができる。さらにまた、原料がオレオレジンなどの不揮発性成分を含む場合には、前記条件で、炭化水素類を除いた後、フタライド類を含む釜残を、再度分子蒸留に供し、温度140℃〜160℃、圧力10Pa〜30Paの条件でフタライド類を留出させ、留出部としてフタライド類を60%以上含有する組成物として本発明の塩味増強剤組成物に使用することができる。
【0025】
本発明の塩味増強剤組成物は、塩味含有飲食品に配合することにより塩味含有飲食品の塩味を増強することができる。かかる塩味含有飲食品とは塩味を有する飲食品を指し、特に、健康志向のため食塩の含有量を減量した減塩飲食品に適用することにより、食塩含量を減少させたにもかかわらず、ものたりなさを解消し、旨味、コク味などの呈味感を維持、増強しつつ、塩味を増強することができるため効果的である。また、食塩の一部を塩化カリウムで代替したカリウム塩含有飲食品に適用することにより、カリウム塩含有飲食品の不快味を改善し、旨味、コク味などを維持、増強しつつ、塩味を増強することができる。かかる塩味含有飲食品としては、例えば、おかき、せんべい、その他種々の和菓子、塩キャラメル、塩キャンディー、クッキー、パンその他種々の洋菓子;ポテトチップス、その他種々のスナック菓子;フラワーペースト、ピーナッツペースト、その他種々のペースト類;漬物類、佃煮類、塩辛類;ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、その他種々の蓄肉製品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、チクワ、ハンペン、てんぷら、その他種々の魚介類製品;即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー、その他種々のカレー類;みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、つゆ、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、固形ブイヨン、焼き肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、ダシの素、その他種々の調味料類;みそ汁、そばつゆ、すまし汁、コンソメスープ、ラーメンスープなどが挙げられる。
【0026】
本発明を以下の実施例により更に具体的に述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
製造例1(サンショウの超臨界二酸化炭素抽出物)
サンショウ(花椒)の粉砕物1Kgを内容量5Lの抽出器に充填し、抽出圧力20MPa、抽出温度40℃にて超臨界二酸化炭素を5Kg/時間の流速で3時間抽出し、サンショウの抽出物を含有する二酸化炭素流体を分離槽に導き、圧力4MPa、温度40℃にて分離した後、不溶物を濾過し、サンショウ抽出物45gを得た(サンショウ抽出物A)。
【0028】
製造例2(サンショウの溶媒抽出物)
フラスコにサンショウ(花椒)の粉砕物350gとアセトン840ml、ヘキサン560mlを仕込み、40℃で2時間攪拌しながら抽出した。抽出終了後、30℃以下まで冷却した後、濾過助剤(ダイヤフロック)の存在下で吸引濾過して得た抽出液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮により溶媒を回収し、サンショウオレオレジン15gを得た(サンショウ抽出物B)。
【0029】
実施例1(減塩中華スープでの評価)
市販の減塩中華スープ(食塩含有率:0.6重量%)に本発明の塩味増強剤組成物として前記のサンショウ抽出物Aを下記表1に示す濃度で添加して、サンショウ抽出物A添加および無添加の減塩中華スープを作製した。それぞれの減塩中華スープについて、無添加品をコントロールとして10名のパネラーによる香味比較評価を行い、その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示したとおり、サンショウ抽出物Aを0.1ppb〜50ppm添加することにより、減塩中華スープの塩味が増強され、減塩されているのにもかかわらず香味の物足りなさが解消されることが示された。サンショウ抽出物Aの添加量としては0.05ppm〜5ppm程度が特に良好であった。なお、50ppm添加では塩味が増強されたが、辛味がやや強く感じられた。また、0.1ppbという低濃度でも塩味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも塩味増強効果があることが判明した。
【0032】
実施例2(浅漬けの素での評価)
キュウリ200gをよく水洗いし、2〜3mmに切りポリエチレン袋に入れる。市販の減塩浅漬けの素(液状、食塩含有率:4重量%)100mlに本発明の塩味増強剤組成物として前記のサンショウ抽出物Bを下記表2に示す濃度で添加して、サンショウ抽出物B添加および無添加の減塩浅漬けの素を作製した。それぞれの減塩浅漬けの素を裁断したキュウリの入ったポリエチレン袋に加え、よく攪拌し、袋の上から手もみし、十分脱気して冷蔵庫で3時間保管した後、よく水洗したそれぞれの浅漬けキュウリについて、無添加品をコントロールとして10名のパネラーによる香味比較評価を行い、その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示したとおり、サンショウ抽出物Bを0.1ppb〜50ppm添加することにより、減塩浅漬けの素によって漬けたキュウリの塩味が増強され、減塩されているのにかかわらず香味の物足りなさが解消されることが示された。サンショウ抽出物Bの添加量としては0.05ppm〜5ppm程度が特に良好であった。なお、50ppm添加では塩味が増強されたが、辛味がやや強く感じられた。また、0.1ppbという低濃度でも塩味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも塩味増強効果があることが判明した。
【0035】
実施例3(減塩イカ塩辛での評価)
市販の減塩イカ塩辛(食塩含有率:4.5重量%)に本発明の塩味増強剤組成物として前記のサンショウ抽出物Aを下記表3に示す濃度で添加して、サンショウ抽出物A添加および無添加の減塩イカ塩辛を作製した。それぞれの減塩イカ塩辛について、無添加品をコントロールとして10名のパネラーによる香味比較評価を行い、その結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示したとおり、サンショウ抽出物Aを0.1ppb〜50ppm添加することにより、減塩イカ塩辛の塩味が増強され、減塩されているのにもかかわらず香味の物足りなさが解消されることが示された。サンショウ抽出物Aの添加量としては0.05ppm〜5ppm程度が特に良好であった。なお、50ppm添加では塩味が増強されたが、辛味がやや強く感じられた。また、0.1ppbという低濃度でも塩味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも塩味増強効果があることが判明した。
【0038】
実施例4(減塩中華スープでの評価)
実施例1で使用した市販の減塩中華スープ(食塩含有率:0.6重量%)に本発明の塩味増強剤組成物として前記のサンショウ抽出物Aを0.05ppmおよびフタライド類としてセダネノライド(No.3)、セダノライド(No.4)、3−n−ブチルフタライド(No.5)および3−ブチリデンフタライド(No.6)をそれぞれ5ppbの濃度で添加して、減塩中華スープを作製した。無添加品(No.1)およびサンショウ抽出物Aを0.05ppm添加品(No.2)とあわせてそれぞれの減塩中華スープについて、無添加品をコントロールとして10名のパネラーによる香味比較評価を行い、10名のパネラーの平均的な評価を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
表4に示したとおり、本発明の塩味増強剤組成物であるサンショウ抽出物Aを添加したものは無添加品に比べ、塩味を強く感じられ、また、サンショウ抽出物Aにフタライド類を併用したものは、サンショウ抽出物A単独に比べ旨味、コク味など全体的な香味も強く感じられた。
【0041】
製造例3(セロリ抽出物)
市販のセロリオレオレジン(揮発性成分組成:3−n−ブチルフタライド;5.0%、セダネノライド;41.3%、セダノライド;2.5%、リモネン;30.4%、β−セリネン;8.2%、その他;12.6%)に米サラダ油72.9g(セロリオレオレジンの20%)を加え良く混合し、遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度100℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、コールドトラップ部25.1g、冷却水トラップ部10.6gおよび釜残部399.8g(揮発性成分組成:3−n−ブチルフタライド;6.9%、セダネノライド;58.3%、セダノライド;3.0%、リモネン;8.3%、β−セリネン;13.2%、その他;10.3%)を得た。釜残部399.8gを再度遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度150℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、留出部(セロリ抽出物A)54.7gを得た(成分組成:3−n−ブチルフタライド;8.0%、セダネノライド;65.5%、セダノライド;3.5%、リモネン;0.6%、β−セリネン;10.9%、その他;11.5%)。
【0042】
製造例4(粉末状塩味増強剤組成物)
サンショウ抽出物Aを0.1gおよびセロリ抽出物Aを0.01gに中鎖脂肪酸トリグリセライド19.8gおよびSAIB30gを混合溶解し油相部とした。また、軟水680gにパインデックスNo.2を955gおよびHLB15のショ糖脂肪酸エステル50gを加えて溶解し、85℃で15分間加熱殺菌した。この溶液を約40℃に冷却後、TK−ホモミキサー(特殊機化工業製)でかき混ぜながら先に調製した油相部50gを注加し、更に5000回転/分で5分間かき混ぜて乳化処理し、乳化液1690gを得た。この乳化液を噴霧乾燥機(NIRO社製:モービルマイナー)を用いて送風温度150℃、排風温度80℃で乾燥し、本発明の粉末状塩味増強剤組成物900gを得た(本発明品1:サンショウ抽出物Aを100ppm、セロリ抽出物Aを10ppm含有)。
【0043】
実施例5(減塩即席麺用和風スープでの評価)
精製塩10g、塩化カリウム10g、グラニュー糖33g、グルタミン酸ソーダ12g、核酸系調味料3g、粉末カラメル0.5g、昆布エキスパウダー1g、魚介エキスパウダー20g、粉末醤油10gおよび唐辛子粉末0.5g(計100g)を混合して粉末状スープ(コントロール)とした。一方、このコントロール100gに製造例4で調製した本発明品1を2g(粉末状スープ中でサンショウ抽出物Aを2ppmおよびセロリ抽出物Aを0.2ppm含有)添加混合した粉末状スープ(本発明品2)を調製した。コントロールおよび本発明品2の粉末状スープをそれぞれ10gずつ即席麺用スチロール製丼型容器に投入し、これにそれぞれ麺重量70gの即席油揚げ麺(そば)を入れ、400mlの熱湯を注ぎ、3分間放置して調理し、それぞれの即席麺について10名のパネラーによる香味比較評価を行った結果、10名のパネラー全員がコントロールの即席麺は塩味が物足りなく、かつ、カリウム塩由来の苦味を感じると評価し、一方、本発明品2の即席麺は、コントロールに比べ塩味を強く感じて、全体的な旨味、コク味などの風味も強く感じ、カリウム塩由来の苦味もなく、非常に良好であると評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウ抽出物を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物。
【請求項2】
サンショウ抽出物およびフタライド類を含有することを特徴とする塩味増強剤組成物。
【請求項3】
フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上である請求項2に記載の塩味増強剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の塩味増強剤組成物を、塩味含有飲食品に添加することを特徴とする塩味含有飲食品の塩味増強方法。
【請求項5】
塩味含有飲食品が減塩飲食品である請求項4に記載の塩味増強方法。
【請求項6】
塩味含有飲食品がカリウム塩含有飲食品である請求項4に記載の塩味増強方法。

【公開番号】特開2011−254772(P2011−254772A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133489(P2010−133489)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】