説明

塩素化ポリエチレン樹脂組成物

【課題】低温特性、架橋性等に優れ、低比重で、信頼性の高い、ヒュージブルリンクワイヤー絶縁体を形成するのに好適な組成物を提供する。
【解決手段】(1)塩素含有量30〜45重量%の第1の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、
(2)塩素含有量15重量%以上30重量%未満の第2の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、及び
(3)高密度ポリエチレン2〜10重量部、
を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化ポリエチレン樹脂組成物に関し、詳細には、塩素含有量の異なる2種類以上の塩素化ポリエチレンと高密度ポリエチレンを含み、ヒュージブルリンクワイヤーの絶縁体に要求される低温特性等の諸特性をバランス良く達成することができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒュージブルリンクワイヤーは、自動車用ワイヤリングハーネスの、コンパクトで経済的な防災用保護装置として、現在多くの自動車に使用されている。近年、自動車の安全走行、公害防止、燃費改善をはじめ、操作性、快適性を向上するために、自動車に各種機能が付加されている。このため、ヒュージブルリンクワイヤーにも、従来にない優れた特性が要求されている。さらに、自動車のコスト低減、車輌本体の軽量化のため、ヒュージブルリンクワイヤーのコスト低減、軽量化の要求も強い。
【0003】
ヒュージブルリンクワイヤーに要求される特性としては、溶断特性、低温特性、耐油性等が挙げられ、そのうち溶断特性は、導体部分の組成や構造に大きく影響を受けるが、その他の特性の多くは、絶縁体部分に起因する。従来、ワイヤー用絶縁体としては、塩化ビニル樹脂が主として使用されていた。しかし、環境上の問題から、塩素を含まないオレフィン系樹脂、例えば高密度ポリエチレンを含む組成物(例えば特許文献1)、塩素が少ない塩素化ポリオレフィン樹脂を含む組成物(例えば特許文献2)が開発されている。
【0004】
塩素化ポリオレフィン樹脂組成物としては、結晶性塩素化ポリエチレンを使用したもの、ゴム材料と併用したもの等があるが(特許文献3、4)、いずれの配合も、ヒュージブルリンクワイヤー用絶縁体に要求される上記諸特性を満遍なく満たすのは困難である。特に、高いゲル化分率と低い脆化温度等の互いに相反する特性を両立することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−230292号公報
【特許文献2】特開2002−60569号公報
【特許文献3】特開平7−228736号公報
【特許文献4】特開平6−157855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、低温特性、架橋性等に優れ、低比重で、信頼性の高い、ヒュージブルリンクワイヤー絶縁体を形成するのに好適な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、(1)塩素含有量30〜45重量%の第1の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、
(2)塩素含有量15重量%以上30重量%未満の第2の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、及び
(3)高密度ポリエチレン2〜10重量部、
(但し、成分(1)〜(3)の合計が100重量部である)
を含む組成物である。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の組成物は、塩素化ポリエチレンを少なくとも2種類と、高密度ポリエチレンの組み合わせによって、互いに相反する特性の両立を達成する。また、高密度ポリエチレンの配合による特性の低下を、塩素含有量が低い塩素化ポリエチレンによって補う。これにより、動作安全性が高いヒュージブルリンクワイヤーを提供することができ、ひいては自動車の安全性向上をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例及び比較例の組成物から得られた架橋物の比重を比較したグラフである。
【図2】実施例及び比較例の組成物から得られた架橋物の脆化温度を比較したグラフである。
【図3】実施例及び比較例の組成物から得られた架橋物のゲル分率を比較したグラフである。
【図4】実施例及び比較例の組成物から得られた架橋物の引張強度及び伸び率と、バッテリー液浸漬後のそれらの維持比を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物において、第1の塩素化ポリエチレンは、その塩素含有量が30重量%〜45重量%、好ましくは30重量%〜35重量%である。塩素含有量が45重量%超では、比重が高くなり好ましくない。第2の塩素化ポリエチレンは、その塩素含有量が15重量%以上30重量%未満、好ましくは20重量%以上30重量%未満である。塩素含有量が15重量%未満のものは、ゴム弾性に劣り、好ましくない。このように塩素含有量が異なる少なくとも2種類の塩素化ポリエチレンを、後述する高密度ポリエチレンと組み合わせることによって、種々の特性のバランスを取ることが可能となる。
【0011】
両者の配合量は、第1の塩素化ポリエチレン、第2の塩素化ポリエチレン及び後述する高密度ポリエチレンの合計を100重量部としたときに、第1の塩素化ポリエチレンの量が30〜68重量部、好ましくは、40〜60重量部であり、第2の塩素化ポリエチレンの量が30〜68重量部、好ましくは36〜56重量部である。第1の塩素化ポリエチレンの量が前記下限値未満では、所望のゲル分率を達成することが困難であり、前記上限値を超えては所望の比重を達成することが困難である。
【0012】
諸特性をより細かく調整するため、第1及び第2の塩素化ポリエチレンを、夫々、上記の各塩素含有量の範囲内の、2種以上のものの混合物としてもよい。例えば、第2の塩素化ポリエチレンを、(2−1)塩素含有量25重量%以上30重量%未満の塩素化ポリエチレン30〜54重量部と(2−2)塩素含有量20重量%以上25重量%未満の塩素化ポリエチレン2〜10重量部の混合物とすることによって、ゲル分率を低下することなく、比重を低下することができる。
【0013】
これらの塩素化ポリエチレンの原料ポリエチレンは、エチレン単独重合であっても、少量のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。また、その製造方法は任意のものであってよく、好ましくは、中低圧法2段重合法により製造される。
【0014】
塩素化の方法にも限定はなく、粉末状又は粒子状のポリエチレンを水性懸濁液中で塩素化されたものであっても有機溶媒中に溶解して塩素化されたものであっても使用することができる。好ましくは、水性懸濁液に塩素を吹き込んで塩素化される。
【0015】
高密度ポリエチレン(以降、「HDPE」と表す場合がある)としては、エチレンの単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等を使用することができる。密度は0.94g/cm3 以上、好ましくは0.95〜0.97g/cm3 の範囲である。また、メルトマスフローレート(JIS K7112)が2〜20g/10分、より好ましくは8〜16g/10分の範囲である。上記高密度ポリエチレンの密度が下限値未満では所望の耐薬品性を達成することが困難である。またメルトマスフローレートが前記上限値より高いと成形安定性が低下する。
【0016】
高密度ポリエチレンの配合量は、第1の塩素化ポリエチレン、第2の塩素化ポリエチレンとの合計を100重量部としたときに、2〜10重量部、好ましくは4〜8重量部である。配合量が前記下限値未満では高密度ポリエチレンを配合する効果、例えば軽量化、を十分に達成することが困難であり、前記上限値を超えるとゲル分率、低温特性が低下する。
【0017】
本発明の組成物には、絶縁体用組成物に慣用の添加剤、例えば難燃剤、酸化防止剤、耐候剤、安定剤、充填材、滑材、架橋剤、可塑剤、分散促進剤を、本発明の目的を阻害しない量で配合することができる。ヒュージブルリンクワイヤー用途には、70〜100重量部の難燃剤、特に金属水酸化物系難燃剤、及び10〜50重量部の充填材、特に湿式シリカを配合することが好ましい。
【0018】
本発明の組成物は、上記各成分、所望により各種添加剤、を定法に従い混合することによって製造することができる。混合手段としては、ヘンシェルミキサー、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル等を使用することができる。
【0019】
得られる組成物は、比重が1.520以下、好ましくは1.518以下である。また、脆化温度が−56℃以下、好ましくは−59℃以下である。比重の下限及び脆化温度の下限については特に制限はないが、実際上、比重は1.500程度、脆化温度は−65℃程度である。さらに、ゲル分率が、75%〜84%、好ましくは78%〜83%である。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
表1に示す配合量(重量部)の各成分をニーダーで混合することによって、組成物を得た。表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
塩素化ポリエチレン1(塩素含有量40重量%):エラスレン401A、昭和電工(株)製
塩素化ポリエチレン2(塩素含有量35重量%):エラスレン351TA、昭和電工(株)製
塩素化ポリエチレン3(塩素含有量32重量%):エラスレン302A、昭和電工(株)製
塩素化ポリエチレン4(塩素含有量29重量%):エラスレン301TA、昭和電工(株)製
塩素化ポリエチレン5(塩素含有量23重量%):エラスレン252B、昭和電工(株)製
高密度ポリエチレン:ハイゼックス1300J、(株)プライムポリマー製
金属水酸化物系難燃剤:水酸化アルミニウム、ハイジライトH−42M、昭和電工(株)製
【0022】
【表1】

【0023】
各組成物を、750KV、100KGyで電子線照射架橋処理した後、以下の方法により評価した。結果を図1〜4に示す。
(1)比重
JIS K 7112、A法(水中置換法、n=3)に準拠して測定した。
(2)低温特性(脆化温度)
JIS K 7216(試験片:A型ダンベル状)に準拠して測定した。
(3)架橋度(ゲル分率)
JIS K 3005 4.25に準拠して測定した。
(4)バッテリー液浸漬後の引張強度及び伸び率比
各組成物から、JIS K 6251及びJIS K 7161に準拠する引張試験片6個を作成した。そのうち3つを50℃のバッテリー液に20時間浸した。バッテリー液に浸した試験片3つと浸していない試験片3つの引張試験を行い、前者の引張強度及び伸び率の後者のそれらに対する比(%)を求めた。結果を表1及び図4に示す。
【0024】
図1に示すように、本発明の組成物から得られる架橋物は、HDPEを含むことにより、比較例に比べて比重が顕著に低い。HDPEの添加は、比較例1と3とを比べると分かるように、ゲル分率、低温特性を低下させる傾向がある。これに対して、実施例で得られた架橋物は、塩素含有量が低い第2の塩素化ポリエチレンを含むことによりHDPEを含まない比較例1及び2と同等以上のゲル分率及び脆化温度を示した。また、図4に示すように、バッテリー液浸漬後の引張強度及び伸び率の維持比は、比較例と同等以上であった。その他の特性(難燃性、耐熱性、耐摩耗性、硬度、柔軟性、耐油性)に関しても、比較例と遜色がないことが確認され、溶断特性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の組成物は、諸特性をバランス良く備えた、ヒュージブルリンクワイヤーの絶縁体を形成するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)塩素含有量30〜45重量%の第1の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、
(2)塩素含有量15重量%以上30重量%未満の第2の塩素化ポリエチレン30〜68重量部、及び
(3)高密度ポリエチレン2〜10重量部、
(但し、成分(1)〜(3)の合計が100重量部である)
を含む組成物。
【請求項2】
(1)塩素含有量30〜35重量%の前記第1の塩素化ポリエチレン40〜60重量部、
(2)塩素含有量20重量%以上30重量%未満の前記第2の塩素化ポリエチレン36〜56重量部、及び
(3)高密度ポリエチレン4〜8重量部、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第2の塩素化ポリエチレンが、
(2−1)塩素含有量25重量%以上30重量%未満の塩素化ポリエチレン30〜54重量部、及び
(2−2)塩素含有量20重量%以上25重量%未満の塩素化ポリエチレン2〜10重量部、
からなる、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ヒュージブルリンクワイヤー絶縁体用途である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
比重が1.500〜1.520、脆化温度が−65℃〜−56℃、及び、ゲル分率が75%〜84%である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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