説明

増築用住宅構造

【課題】既存の建物を上方に及び、又は水平方向に増築する際の工期を短縮すると共にコストを低減する。
【解決手段】予め上方への増築が想定されている階では外壁パネル1の上端部1aを水平基準面Hとなる高さにしておく、また梁2a〜2dであって増築時に新たな柱を含む架構を接続する位置に、該架構と接続するための接続部材となるボルト15a,ナット15bを取り付けておく。ボルト15aには複数の装着片16aを有する装着部材16を挿通することで、装着片15aによってボルト15aのネジ山を押圧してボルト15aの脱落を防止すると共に共回りを防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、予め増築することを見込んで、増築時に増築部分との接続や取り合いを容易に行えるように構成した増築用住宅構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】戸建て住宅や集合住宅等の特に中低層住宅は、現在の家族構成や周辺環境に応じて最適なもの、或いは比較的近い将来に実現されるであろう状況の変化(例えば、現在では未就学児であるが就学後個室が必要になるであろうようなこと)を取り込んで建築されるのが一般的である。
【0003】特に木造の住宅では、1階部分を水平方向に部分的に増築するようなことは通常行われるものの、家族構成や周辺環境に大幅な変化が生じたような場合、部分的な増築よりも建物そのものを建て換えるのが一般的である。
【0004】一方、昨今では、建物の長寿命化も望まれており、住宅を数世代にわたって使用することが可能となり、家族構成や周辺環境の大幅な変化が生じて増築の要求がなされる可能性は充分にある。しかし、一般に現状の建物は、増築に対応し得るような考慮はなされていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記の如く、現在の一般的な建物では増築の要求が生じたとき、この要求に対処し得るように予め建築されることはない。このため、増築する際には、既存部分を大幅に取り壊して柱や梁からなる架構の取り合い部の工事を実施することになり、大きな費用が必要になるという問題がある。
【0006】例えば、既存の建物の外壁を外壁パネルによって構成した場合、屋根や庇で隠される最上階の外壁パネルの上端部の高さは該最上階の梁の位置よりも低いのが一般的である。このため、上階を増築する場合、既存の建物の最上階の外壁パネルも交換する必要がある。また上階或いは水平方向に増築する場合、既存の建物を構成する梁や柱にボルトを取り付けた後、増築部分を構成する梁や柱を接続する必要があり、既存の建物の梁や柱の周囲にボルトを挿通するのに必要な空間を形成する必要がある。このように、増築に際し、壁パネルの取り扱いの問題や、梁や柱の取り合い部の問題等多くの構造的な問題があるのが実情である。
【0007】本発明の目的は、予め増築を見込んだ住宅を提供することにあり、特に、将来増築工事を実施する際に必要な工事期間を短縮すると共に費用の増加を可及的に軽減し得る増築用住宅構造を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明に係る増築用住宅構造は、予め増築を見込んだ増築用住宅構造であって、増築前の建物の外壁の上端部を予め増築後の建物に於ける水平基準面となる高さにしておくことを特徴とするものである。
【0009】上記増築用住宅構造では、予め増築を見込んで建築する増築前の建物(既存の建物)に於ける外壁の上端部の高さを増築後の建物に於ける水平基準面となる高さにしておくことで、既存の建物の最上階の上部に増築する場合、最上階の壁を取り壊すことなく、そのままの状態で使用することが出来る。このため、壁工事を省いて工期の短縮化をはかることが出来、増築に要する費用を軽減することが出来る。
【0010】上記増築用住宅構造に於いて、予め見込まれた増築部分に配置される架構と接続される既設部分の架構に予め接続部材を取り付けておくことが好ましい。住宅をこのように構成することによって、既存の建物の水平方向への増築、及び、又は上方向への増築の際に壁の一部を取り壊して既存の建物に対応する柱,梁等からなる架構を露出させたとき、該架構に予めボルトやナット等の接続部材が取り付けられているため、増築部分の架構を既存の架構に接続する際の作業を極めて容易に進行させることが出来る。このため、工期の短縮化をはかることが出来、且つ費用を軽減することが出来る。
【0011】特に、既存の架構の所定部位に増築時に必要な接続部材を予め取り付けておくことによって、従来のように接続部材となるボルトやナットを取り付けるために周辺の構造部材を取り壊す必要がない。このため、増築工事を円滑に進行させることが出来る。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、上記増築用住宅構造の好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は既存の建物に対して増築するパターンを説明する図である。図2は既存の建物の壁の上端部を増築したときの水平基準面の高さにした状態を説明する図である。図3は図2に示す既存の建物の上階に居室を増築した状態を説明する図である。図4は既設の建物の梁に予め接続部材を取り付けた状態を説明する図である。図5は図4に示す既存の建物の上階に居室とベランダを増築した状態を説明する図である。図6は接続部材としてボルト,ナットを梁に取り付ける状態と、保持部材の構成を説明する図である。図7は既存の建物の陸屋根の構成を説明する図である。図8は図7の陸屋根の部分に居室を増築したときの構成を説明する図である。図9は図7の陸屋根の部分に居室を増築する工程を説明する図である。図10は既存の建物に於ける増築時に上下階を貫通する部分の床構造を説明する図である。図11は増築に対応させた基礎の構造を説明する図である。図12は基礎を構成する鉄筋と型枠との関係を示すと共に増築時に鉄筋を接続する状態を説明する図である。
【0013】本発明に係る増築用住宅構造は、将来の増築を見越して該増築の対象となる部位を工事を実施する際に最も手間を掛けないような構造としたものであり、予め増築工事を実施する際に必要な部材(例えば、壁や既存の梁と増築部の梁を接続するための接続部材)を予め取り付けておくことで、既存建物の取り壊し部分を可及的に小さくして工期を短縮し、且つ費用を軽減し得るようにしたものである。
【0014】既存の建物に増築する場合のパターンには数種類がある。この増築パターンの代表的な例を図1に示す、例えば、同図(a)に示す1部2階建ての建物Aに対し、同図(b)は1階部分及び2階部分の上に増築して総3階建ての建物Bとしたものであり、同図(c)は1階部分の上に増築して総2階建ての建物Cとしたものであり、同図(d)は1階部分を水平方向に増築して建物Dとしたものである。
【0015】上記の如き増築パターンを持った増築後の建物B〜Dは増築前の建物Aを建築する際に予め設計されており、建物Aは増築後の建物B〜Dを実現するのに必要な強度を持った梁や柱からなる架構を有している。即ち、増築後の建物が建物B或いは建物Cである場合、建物Aの増築部分に対応した架構は梁や柱の断面形状が予め増築後の建物B,Cに対応して設定されている。また増築後の建物が建物Dである場合、建物Aの架構は単に建物Aを実現するのに必要な強度を持って構成されている。
【0016】上記の如く、増築前の建物Aでは、予め増築する際の方向と階層が設定されており、増築の対象となる部分は増築工事を円滑に実施し得るような構造を有している。以下、本実施例に係る増築用住宅構造を鉄骨造の建物に適用した場合について具体的に説明する。
【0017】図2,図3は図1(a)に示す建物Aの1階部分の上部に居室を増築して同図(c)に示す建物Cとする場合を示すものであり、予め、上方に増築する部位の外壁(外壁パネル1)の上端部を増築後の水平基準面Hとなる高さにしておくものである。
【0018】図2(a),(b)に示す増築前の建物Aに於いて、1階の増築対象部分には2階部分を増築したときに作用する荷重に充分に耐え得るように設定された梁2a,2bが配置されており、これらの梁2a,2bは図示しない柱に支持されている。この梁2a,2bには、増築した居室の床を構成するパネル3が取り付けられており、更に、梁2a,2bに設けた束4を介して屋根5が構成されている。
【0019】梁2a,2bに取り付けたパネル3は、増築した後、該増築部の床材として機能するものである。本実施例では、増築部分が居室として構成されるため、パネル3の上面レベルは既存の居室の床6の上面レベルよりも低く設定され、前記レベルの差がパネル3の上面に施工する床材の厚さと等しくなるように設定されている。
【0020】1階の増築対象部分の外壁パネル1は、上端部1aが水平基準面Hとなる高さまで延長されている。このため、外壁パネル1の上端側は1階の屋根5の端部に形成された軒天7の上方に入り込んでおり、上端部1aを水平基準面Hとなる高さに設定した状態で、図示しない取付金具によって梁2aに取り付けられている。尚、外壁パネル1を梁2aに取り付ける構造は特に限定するものではなく、従来から通常行われているような方法を採用している。
【0021】一般に最上階の外壁では(例えば図2(a)の2階部分参照)、外壁パネル1は上端部1aが屋根パネル8のレベルまで到達することはなく、屋根5の端部に形成される軒天7よりも僅かに上方に達した位置に設定される。これは最上階に配置される外壁パネル1の重量を軽減すると共に、屋根パネル8と天井9との間に形成された空間に対し、軒7を介しての通気を確保することを目的として構成されるのであって、鉄骨造の住宅建築では極めて一般的な構造である。
【0022】上記の如く構成された建物Aに於ける1階部分の上部に2階の居室を増築して図3に示すような建物Cとする。この場合、先ず、建物Aに於ける1階の増築対象部分の屋根5を取り外すと共に2階部分の外壁を取り外して既存の建物(A)の梁2a,2b及び図示しない柱を含む架構の一部を露出させる。
【0023】次に、露出させた既存の架構に増築部の架構を接続することで、増築後の建物(C)の架構を組み立てることが可能である。
【0024】また梁2a,2bに支持されて屋根パネルとして利用されていたパネル3の上部に、既存の床6と同一の床材を施工して該床6と同一レベルとし、或いは既存の床6を取り壊して既存の居室と増築された居室とに新たな床6を施工して増築部分の床6を構成することが可能である。
【0025】また既存の1階の外壁パネル1の上端部1aに連続させて、増築部に対応する外壁パネル1を配置し、夫々図示しない取付金具を介して柱に取り付ける。このとき、既存の外壁パネル1の上端部1aが予め水平基準面Hまで到達しているため、単に1階を構成する既存の外壁パネル1の上方に増築部分に対応する外壁パネル1を連続させて配置することで、建物Cの壁を構成することが可能である。
【0026】上記の如く、増築の対象部分の既設の壁を構成する外壁パネル1の上端部1aを水平基準面Hとなる高さにしておくことで、実際の増築工事を実施する際に、一時的に既存の外壁パネル1を取り外すことがあったとしても、そのままの状態で再度使用することが可能である。
【0027】上記の如くして増築部分の壁を形成した後、増築部分の架構に屋根パネル8を取り付けると共に該架構に束4を配置して屋根5を構成する。これにより、既存の建物Aの1階の上部に2階の居室を増築して建物Cを構成することが可能である。
【0028】尚、増築された2階の壁を構成する外壁パネル1の上端部1aは、2階の屋根パネル8のレベルに到達することなく、軒天7から僅かに入り込んだ部位まで到達している。この構造は、前述した従来の壁構造と同じである。
【0029】次に、図4〜図6により既存の建物Aを構成する梁や柱からなる架構であって増築部分に配置される新たな架構と接続される部位に予め取り付けておく接続部材について説明する。尚、本実施例では、前述の実施例とは異なり、既存の建物Aの上方に居室を増築して建物B或いは建物Cとし、且つ既存の付庇の上部にキャンティベランダを増築するようにしている。しかし、前述の実施例と基本的に同一の部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】既存の建物Aに於ける1階部分の上方に2階を増築するような場合、1階部分の壁側の梁2aには上部に増築部の柱(図示せず)が接続される。このため、本実施例では、梁2a及び他の梁2bや柱であって増築時に増築部を構成する柱や梁或いは他の部材が接続される部位に、これらの部材と接続する際に利用する接続部材を取り付けた構造としている。
【0031】接続部材としては、予め既存の梁や柱からなる架構に於ける増築の際の増築部に対応する新たな架構を接続する部位に予め取り付けられて該新たな架構を接続し得るものであれば良い。このような接続部材の例として、ボルト,ナット及びプレート類がある。そしてこれらの接続部材の架構に対する取付方法としては、溶接,接着等の手段があり、これらの手段を適宜選択して用いることが可能である。
【0032】本実施例では接続部材としてボルト,ナットを用いており、特に、増築工事を行う際に新たな架構を取り付けてボルト,ナットを回転させるとき、ボルトが共回りすることを防止し得るように構成している。
【0033】図4に示すように、建物Aに於ける既存の階には、陸屋根10に連続して付庇11が形成されている。付庇11は、梁2aから突出させた図示しない片持ち梁に取り付けた梁2c,2dによって構成されている。これらの梁2c,2dは、前述の梁2a,2bと同様に、増築後に作用する荷重に充分に耐え得る仕様を持って構成されている。
【0034】付庇11を構成する梁2cには壁を構成する壁パネル12が取り付けられている。特に、壁パネル12は、前述した外壁パネル1と同様に、上端部1aが増築される水平基準面H(図5に於けるベランダ13)の高さまで延長されている。また梁2c,2dにはパネル3が取り付けられている。このパネル3は、増築によって付庇11の上部にベランダ13が構成されたとき、該ベランダ13に作用する荷重に耐え得るように、床用のパネルが用いられている。
【0035】図5に示すように、増築したとき。梁2aの上部には上階の外壁パネル1が取り付けられ、梁2cの上部にはベランダ13の腰壁14が取り付けられる。このため、梁2aには上階の居室を構成するために図示しない柱が取り付けられ、梁2cには腰壁を構成するために図示しない柱が取り付けられる。
【0036】従って、各梁2a,2cに対し柱を取り付ける部位には、予め接続部材となるボルト15a,ナット15bが取り付けられている。梁2a,2cにボルト15a,ナット15bを取り付ける場合、前述したように、ボルト15a,ナット15bを溶接して固定することが可能であり、また接着剤を用いて接着することも可能である。しかし、何れの方法であっても、作業性が劣り取付コストが高い。このため、本実施例では、梁2a,2cにボルト15aを取り付ける際に、図6に示す装着部材16を利用している。
【0037】装着部材16は、図6(b)に示すように、内周側に複数のバネ性を持った装着片16aを有する座金状に形成されており、同図(a)に示すように、前記装着片16aをボルト15aのネジ部に係合させて付勢することで、ボルト15aを例えば梁2aのフランジ側に押圧して該ボルト15aにナット15bを螺合させる際に共回りを防止し得るように構成されている。
【0038】即ち、装着部材16は薄い金属板を素材として構成され、外径はボルト15aのネジ仕様に応じた寸法を持って形成され、内径がボルト15aの山径よりも大きく形成された穴16bを有し、この穴16bを3等分した位置に装着片16aが形成されている。装着片16aの内径はボルト15aの谷径よりも僅かに大きく形成されており、高いバネ性を発揮し得るように装着片16aは切込16cによって充分に長い片持ち状に形成されている。
【0039】そして同図(a)に示すように、梁2aのフランジの所定位置に形成したボルト穴にボルト15aを挿通してネジ部を突出させたした後、該ネジ部に装着部材16を挿通してフランジ側に移動させる。このとき、装着部材16の装着片16aはバネ性を有するためにネジ山を通過する。そして装着部材16が梁2aのフランジに到達したとき、各装着片16aはネジ山に接触して押圧する。この状態ではボルト15aを梁2aに装着しておくことは可能であるが、ナット16bを螺合したとき、共回りを防止することは困難である。
【0040】上記状態で、ボルト15aにナット15bを螺合して締結すると、装着部材16の装着片16aは梁2aのフランジとボルト15aのネジ山の間に入り込んでボルト15aを保持するような力を作用させる。このため、ナット15bを緩めてもボルト15aは梁2aに対する圧接状態を維持する。
【0041】従って、増築工事を実施する際に、梁2a,2cを含む既存の架構に新たな柱や他の部材からなる新たな架構を接続する作業を容易に行うことが可能となる。特に、増築工事のように既存の部材が入り組んでいる場合、既存の梁にボルトを取り付けることであっても容易ではないことが多く、単にボルトを取り付けることを目的として床パネルや壁パネルを取り壊さざるを得ないことがあるが、このように、新たな架構を接続する部位に、予めボルト15a,ナット15bを装着しておくことで、既存の床パネルや壁パネル等の部材を壊す必要がなく、容易に且つ円滑に作業を進行させることが可能となる。
【0042】前述の実施例のように、陸屋根10の部分に増築することによって居室とベランダ13を構成する場合、水勾配のついた陸屋根10の増築部分を水平な床6として構成する必要がある。このため、本実施例では、陸屋根10を図7に示す構造とし、この陸屋根10を図9に示す手順で工事することによって、図8に示す床6を構成している。以下、水勾配のついた陸屋根10を居室の水平な床6にする手順について説明する。
【0043】先ず、図7により本実施例に係る陸屋根10の構造について説明する。陸屋根10に於ける増築時の居室部分に相当する梁2a,2bにはブラケット20が固着されており、該ブラケット20にパネル21が支持されている。また増築時のベランダ13に相当する梁2cにはブラケット20が固着されており、該ブラケット20と他の梁2dとによってパネル21が支持されている。そして前記パネル21の上部に陸屋根10が構成されている。
【0044】通常、陸屋根を構成するパネルとしては、床専用のパネルよりも強度や剛性の小さい屋根専用のパネルを用いるのが一般的である。しかし、本実施例では、パネル21として床用のパネル(床パネル)を用いている。
【0045】陸屋根10は、各梁2a〜2dに支持された床パネル21の上部に、予め所定の水勾配を持って成形された所定長さのポリスチレンフォームからなる保温板22を施工し、該保温板22を勾配方向(軒側から棟にかけての方向)に連続させる際には、保温板22と床パネル21の間に調整板23を配置し、更に、陸屋根10の全体に保温板22を配置した後、該保温板22の上面に防水シート24を施工することで構成されている。
【0046】梁2aの所定位置には、前述した接続部材となるボルト15aが装着部材16を用いて取付られており、該ボルト15aにはナット15bが螺合している。また梁2a,2b,2dには取付部材25が取り付けられている。この取付部材25は、陸屋根10に居室及びベランダ13を増築する際に柱や開口部を構成する金具類を取り付ける際に利用される部材である。
【0047】上記の如き構造を持った陸屋根10は、保温性を有し且つ一般的な陸屋根よりも充分に高い強度を持った屋根として機能する。この陸屋根10に居室とベランダ13を増築する場合、先ず、陸屋根10を部分的(居室に相当する部分)に取り壊すことが行われ、取り壊した後、居室に変更される。
【0048】陸屋根10に居室及びベランダ13を増築する場合、図9に示す手順で行われる。即ち、同図(a)に示すように、増築前の陸屋根10は前述したように水勾配が形成されている。陸屋根10を構成する梁であって、居室に対応する梁2a,2b及び梁2dには接続部材となるボルト15a,ナット15b及び取付部材25をが取り付けられている。またベランダ13に対応する軒部には予め手摺りを取り付けるための金具26を固着しておくことが好ましい。
【0049】次に、同図(b)に示すように、居室を増築する部分に対応する陸屋根10を取り外す、この手順は、陸屋根10の居室に対応する部分の防水シート24を該居室の面積よりも小さい面積で切除して保温材22から剥がし、ベランダ13に対応する部分の防水シート24を該ベランダ13の面積よりも大きい面積にしておく、次いで、ベランダ13側の防水シート24をめくり、居室を増築するのに必要な面積(外壁部分を含めた面積)に対応させて保温板22及び保温板22と床パネル21の間に配置された調整板23を排除する。
【0050】上記の如くして防水シート24,保温板22,調整板23を排除することにより、居室に相当する部分には床パネル21が水平面として露出し、該露出面の周囲には梁2a,2b,2dの一部が露出すると共にこれらの梁2a,2b,2dに取り付けてあったボルト15a,ナット15b及び取付部材25が露出する。
【0051】従って、同図(c)に示すように、梁2a,2b,2dに増築部の柱27,開口部材(サッシ等)28を取り付けると共に柱27に梁29を取り付けて該梁29に屋根パネル8を取り付けて陸屋根10を構成すると共に、外壁パネル1を取り付けて外壁を構成することで居室の外構えを構成することが可能である。また軒に取り付けた金具26に手摺り30を取り付けることでベランダ13の外構えを構成することが可能である。
【0052】居室に対応させて露出させた床パネル21の上面には居室が和室か洋間かにあわせて床6が構成される。即ち、増築された居室が和室である場合、図8(a)に示すように、床パネル21の上面には所定の厚さでモルタル31が施工され、該モルタル31の上面にベランダ13の上面レベルと居室の床面レベルとを調整する高さ調整材32を配置した後、該高さ調整材32の上面に畳33を敷き込んで床6が構成されている。
【0053】また居室が洋間である場合、同図(b)に示すように。床パネル21の上面にベランダ13の上面レベルと居室の床面レベルとを調整する目的を持った重ねパネル34を配置し、この重ねパネル34の上面にモルタル35を施工した後、該モルタル35の上面に床材36を取り付けて床6が構成されている。
【0054】陸屋根10に居室を増築した後、該居室を増築する際にめくってあった防水シート24を戻して開口部材28との取り合い部分に水切り材37やシール材38を施工することで、止水工事を行い、これにより、陸屋根10をベランダ13として構成することが可能である。
【0055】上記の如く、本実施例に係る陸屋根10では、水平な上面を有する床パネルを予め設定された居室に対応する増築部に配置し、該床パネル21の上面に水勾配を持って成形された保温板22、及び調整板23を重ねて配置し、更に、保温板22の上面に防水シート24を施工することで、増築する以前には陸屋根10とし、且つ増築する際には極めて容易に水平面を露出させることが可能であり、更に、露出させた水平面に居室の床6を構成することが可能である。
【0056】例えば、図1に於ける建物Aを増築して建物Bのような3階建てにする場合、建物Aでは不要であったエレベーターが必要になることがある。特に、建物Bが2世代住宅であるような場合には1階から3階に貫通させてエレベーターを設置することが好ましい場合が多い。
【0057】本実施例では、上記の如く増築前の建物Aでは不要であるが増築後の建物Bではエレベーターが必要になる場合、該予め平面プラン上でエレベーターの設置場所を設定しておくと共に、設定された場所の床6を容易に取り外しし得るように構成している。この構造について図10により説明する。
【0058】増築に伴ってエレベーターを設置する場合、この設置場所は増築前の建物Aでは納戸や他の目的を持った空間として利用されており、エレベーターを設置する際に、床6を取り外して1階から3階まで貫通した空間を形成し得るように構成されている。
【0059】即ち、図10(a)に示すように、エレベーターを設置するための場所は、各階毎の床6が梁2eによって囲まれており、該梁2e上に間仕切壁40が構成されている。梁2eにはブラケット20が着脱可能に取り付けられ、該ブラケット20にエレベーターを設置する空間の面積に対応する平面寸法を持った床パネル41が支持されている。尚、間仕切壁40は必ずしも必要なものではない。
【0060】梁2eの上フランジの略半分に一般の床6を構成する床パネル3が載置されて支持されており、梁2eのブラケット20を取り付けた側にはL字型に形成された堰部材42が取り付けられている。この堰部材42が一方の片42aが床パネル41の厚さと略等しい長さを有しており、他方の片42bが梁2eの上フランジの幅方向の寸法の半分以下の寸法を有している。
【0061】そして片42aを梁2eの上フランジの幅方向の端部に沿って配置すると共に片42bを梁2eの上フランジに固定し、一般の床6を構成する場合には、梁2eに床パネル3を載置した後、モルタル43を施工している。従って、モルタル43は堰部材42によってせき止められ、これにより。床パネル41を堰部材42によって一般部の床6を構成する床パネル3から絶縁することが可能である。また床パネル41の上面に床材44を取り付けることで、エレベーターを設置するための場所は、一般部の床6と同一仕様の床6として、或いは単独仕様の床6として構成されている。
【0062】尚、増築前の建物Aの屋根5に於けるエレベーターの設置場所に対応する部位であっても、前述と同様の構造を持って構成されている。即ち、エレベーターの設置場所の周囲は梁によって囲われ、該梁には屋根用のパネル或いは床用のパネルが取り付けられ、且つ該梁に取り付けた堰部材によって他の屋根用のパネルとは絶縁した状態で取り付けられている。
【0063】上記の如く構成されたエレベーターの設置場所では、増築に当たって1階から3階までを貫通した空間を構成する場合、各階層の床6に於けるエレベーターの設置場所に対応した床材44を取り外して床パネル41を露出させる。次に、床パネル41を取り外すと共に、梁2eに取り付けたブラケット20を取り外すことで、上下階を貫通する開口45を形成することが可能である。
【0064】上記の如く構成された開口45では、一般部の床6が該開口45に臨む面には梁2eに取り付けた堰部材42が露出しており、床パネル3やモルタル43が露出することはない。従って、増築に当たってエレベーターを設置する際に、極めて簡単な工事で、寸法精度が高く且つ露出面が崩れることのない開口45を構成することが可能である。更に、梁2eに間仕切壁40が形成されていても、開口45は梁2eを逃げて形成されるため、この間仕切壁40に影響尾与えることがなく、作業を容易に進行させることが可能である。
【0065】図1に示す増築前の建物Aを増築する場合、1階部分を水平に増築して建物Dとすることがある。この場合、増築する方向に基礎を増設する必要がある。このように基礎を増設する場合の構造について図11,図12により説明する。
【0066】基礎50に配筋された定着筋51の端部にはネジ51aが形成されており、該ネジ51aに固定ナット52と高ナット53が螺合している。高ナット53は基礎50の表面と同一面に位置してネジが露出している。このため、高ナット53には止水パッキン54を介して止水ボルト55が螺合しており、高ナット53のネジ部に水が浸入することを防止している。
【0067】上記構造を持った基礎50では、増設時には止水ボルト55,止水パッキン54を外し、露出した高ナット53に差し筋56を螺合させて接続することで、基礎50を壊すことなく新たな基礎を増設することが可能である。
【0068】上記基礎50を構築する場合、図12に示すように、型枠57を組み立てると共に該型枠57の内部に定着筋51を配筋し、基礎50を増設する方向に配置された定着筋51のネジ部51aに固定ナット52,高ナット53を螺合させ、その後、高ナット53を型枠57の内面に当接させて固定ナット52を締結することでその位置を保持させる。この状態で、型枠57にコンクリートを充填し、該コンクリートが硬化した後、型枠57を撤去すると、基礎50の表面には高ナット53が露出する。そして露出した高ナット53に止水パッキン53,止水ボルト55を取り付けることで、基礎50を構成することが可能である。
【0069】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明に係る増築用住宅構造では、増築前の建物を上方に増築するに際し、該増築前の建物の外壁の上端部を増築後の水平基準面となる高さにしておくことによって、増築工事を実施する際に下階の壁に追加工事をする必要がなく、従って、工期を短縮化することが出来る。
【0070】また増築前の建物であって、増築部分の架構と接続される架構に予め接続部材を取り付けておくことで、増築工事を実施するに際し、梁や柱と壁との間のような狭い部分を通してボルト等の接続部材を取り付ける必要がなくなり、作業性を向上させると共に工期の短縮化をはかることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】既存の建物に対して増築するパターンを説明する図である。
【図2】既存の建物の壁の上端部を増築したときの水平基準面の高さにした状態を説明する図である。
【図3】図2に示す既存の建物の上階に居室を増築した状態を説明する図である。
【図4】既設の建物の梁に予め接続部材を取り付けた状態を説明する図である。
【図5】図4に示す既存の建物の上階に居室とベランダを増築した状態を説明する図である。
【図6】接続部材としてボルト,ナットを梁に取り付ける状態と、保持部材の構成を説明する図である。
【図7】既存の建物の陸屋根の構成を説明する図である。
【図8】図7の陸屋根の部分に居室を増築したときの構成を説明する図である。
【図9】図7の陸屋根の部分に居室を増築する工程を説明する図である。
【図10】既存の建物に於ける増築時に上下階を貫通する部分の床構造を説明する図である。
【図11】増築に対応させた基礎の構造を説明する図である。
【図12】基礎を構成する鉄筋と型枠との関係を示すと共に増築時に鉄筋を接続する状態を説明する図である。
【符号の説明】
A 増築前の建物
B〜D 増築パターンを説明する建物
H 水平基準面
1 外壁パネル
1a 上端部
2a〜2e 梁
3 パネル(床パネル)
4 束
5 屋根
6 床
7 軒天
8 屋根パネル
9 天井
10 陸屋根
11 付庇
12 壁パネル
13 ベランダ
14 腰壁
15a ボルト
15b ナット
16 装着部材
16a 装着片
16b 穴
16c 切込
20 ブラケット
21 パネル(床パネル)
22 保温板
23 調整板
24 防水シート
25 取付部材
26 手摺りを取り付けるための金具
27 柱
28 開口部材
29 梁
30 手摺り
31 モルタル
32 高さ調整材
33 畳
34 重ねパネル
35 モルタル
36 床材
37 水切り材
38 シール材
40 間仕切壁
41 床パネル
42 堰部材
42a,42b 片
43 モルタル
44 床材
45 開口
50 基礎
51 定着筋
51a ネジ
52 固定ナット
53 高ナット
54 止水パッキン
55 止水ボルト
56 差し筋
57 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め増築を見込んだ増築用住宅構造であって、増築前の建物の外壁の上端部を予め増築後の建物に於ける水平基準面となる高さにしておくことを特徴とする増築用住宅構造。
【請求項2】 予め見込まれた増築部分に配置される架構と接続される既設部分の架構に予め接続部材を取り付けておくことを特徴とする請求項1に記載した増築用住宅構造。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図11】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【公開番号】特開2000−192539(P2000−192539A)
【公開日】平成12年7月11日(2000.7.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−369259
【出願日】平成10年12月25日(1998.12.25)
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)