説明

壁構造

【課題】残存型枠11の軽量化を促進して、残存型枠11の取付作業の能率を向上させると共に、残存型枠11の成形に必要な成形金型の構成を簡略化して、残存型枠11の製造コストの低減を図ること。
【解決手段】床版3の外端部にコンクリート製の残存型枠11が立設され、残存型枠11の内側面にコンクリート壁27が一体的に接合され、残存型枠11の内側面の上端側にコンクリート壁27の上面に近接した下部シール保持板33が残存型枠11の幅方向に沿って横断するように設けられ、下部シール保持板33の下面とコンクリート壁27の上面の間に下部シール材35が設けられていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁、土留め等の建築物の基礎版に構築された壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の床版(基礎版の一例)に構築された壁構造の先行技術として、特許文献1に示すものがあり、先行技術に係る壁構造の構成について簡単に説明すると、次のようになる。
【0003】
即ち、床版(特許文献1では床部(5))の外端部には、コンクリート製の残存型枠(特許文献1ではハーフプレキャスト壁部材(1))が立設されており、この残存型枠の内側面の上端側には、床版の内方向へ突出した突出部(特許文献1では飛散防止壁部(2))が一体形成されている。また、残存型枠の内側面には、コンクリート壁が接合されており、このコンクリート壁は、残存型枠と残存型枠の内側に配置した内側型枠(特許文献1では内側型枠(15))との間にコンクリートを打設することによって形成されたものであって、コンクリート壁の上面は、残存型枠の突出部の下面に近接してある。
【0004】
残存型枠の突出部の下面とコンクリート壁の上面との間には、シール材(特許文献1ではシール材(21))が設けられている。これにより、紫外線によるシール材の劣化を抑えつつ、シール材によって残存型枠とコンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる。
【特許文献1】特許第3636960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、先行技術に係る壁構造にあっては、前述のように、シール材によって残存型枠とコンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止するためには、残存型枠の構成要素として突出部が不可欠である。一方、残存型枠の内側面の上端側に突出部を一体形成すると、残存型枠の重量が増大して、残存型枠の取付作業が煩雑化する共に、残存型枠に成形に必要な成形金型の構成が複雑化して、残存型枠の製造コスト、換言すれば、壁構造の構築コストが高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、建築物の基礎版に構築された壁構造において、前記基礎版の外端部に立設されたコンクリート製の残存型枠と、前記残存型枠の内側面に一体的に接合され、前記残存型枠と前記残存型枠の内側に配置した内側型枠との間にコンクリートを打設することによって形成されたコンクリート壁と、前記残存型枠の内側面の上端側に前記残存型枠の幅方向に沿って横断するように設けられ、前記コンクリート壁の上面に近接したシール保持板と、前記シール保持板の下面と前記コンクリート壁の上面の間に設けられ、上方向からみたときに前記シール保持板に覆われているシール材と、を具備したことを要旨とする。
【0008】
なお、前記基礎板とは、床版を含む意である
本発明の特徴によると、前記残存型枠の内側面の上端側に前記シール保持板が前記残存型枠の幅方向に沿って横断するように設けられ、前記シール保持板の下面と前記コンクリート壁の上面の間に前記シール材が設けられているため、前記残存型枠の内側面に前記床版の内方向へ突出した突出部を一体形成することなく、紫外線による前記シール材の劣化を抑えつつ、前記シール材によって前記残存型枠と前記コンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記残存型枠の内側面に前記突出部を一体形成することなく、前記シール材によって前記残存型枠と前記コンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができるため、前記残存型枠の軽量化を促進して、前記残存型枠の取付作業の能率を向上させると共に、前記残存型枠の成形に必要な成形金型の構成を簡略化して、前記残存型枠の製造コスト、換言すれば、前記壁構造の構築コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態について図1から図6を参照して説明する。
【0011】
ここで、図1は、本発明の実施形態に係る壁構造の断面図、図2は、上部シール保持板及び下部シール保持板が取付けられた状態の残存型枠を裏からみた図、図3は、図2を上から見た図、図4は、図2におけるIV-IV線に沿った図、図5は、図1における矢視部Vの拡大図、図6は、図1における矢視部VIの拡大図である。
【0012】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る壁構造1は、橋梁の床版3に構築された構造であって、壁構造1の具体的な構成等は、以下のようになる。なお、壁構造1の周辺構造である床版3は、橋梁の橋桁(図示省略)に設けられた底板5と、この底板5の上面に設けられかつ底板5を補強するH形鋼材7と、底板5の上面に一体的に接合されたコンクリート床9とを備えおり、コンクリート床9は、底板5の上側にコンクリートを打設することによって形成されたものである。
【0013】
底板5の外端部には、複数(1つのみ図示)のコンクリート製の残存型枠11が一対(1つのみ図示)のブラケット13を介してそれぞれ立設されており、複数の残存型枠11は、連結具(図示省略)によって一体的に連結されている。また、各残存型枠11の下端側は、底板5よりも下方向へ突出してある。そして、壁構造1の主要な構成要素である残存型枠11の具体的な構成は、次のようになる。
【0014】
図2から図4に示すように、残存型枠11は、四角形状の型枠本体15を備えており、この型枠本体15は、コンクリートからなるものである。そして、型枠本体15の略全領域には、型枠本体15を補強する鉄筋又は網状体等の補強骨材17が埋設されており、この補強骨材17は、鉄又はステンレス等からなるものである。また、補強骨材17は、表面に、防食塗装が施されている。
【0015】
補強骨材17には、上下方向(型枠本体15の高さ方向)へ延びた一対の溝形鋼材(形鋼材の1つ)19が溶接等によって一体的に接合されており、各溝形鋼材19の一部分(本発明の実施形態にあっては、溝形鋼材19の短辺方向の長さmの半分程度)は、型枠本体15の内側面(裏面)から露出している。また、各溝形鋼材19には、複数の取付穴21が間隔を置いて形成されており、複数の取付穴21は、前記連結具等の取付に用いられるものである。更に、各溝形鋼材19は、表面に、防食塗装が施されている。なお、上下方向へ延びた一対の溝形鋼材19の他に、型枠本体15の幅方向へ延びた複数の溝形鋼材が補強骨材17に一対の溝形鋼材19を連結するように接合されたり、溝形鋼材19の代わりに、H形鋼材等の別の形鋼材を用いたりしても構わない。
【0016】
各溝形鋼材19の下端側には、取付金具23が固定されており、各取付金具23は、対応するブラケット13に複数の締結ボルト25によって締結可能になっている(図1参照)。
【0017】
図1に示すように、複数の残存型枠11の内側面には、コンクリート壁27が一体的に接合されており、このコンクリート壁27の上面は、床版3の内方向に向かって徐々に低くなるように水平方向に対して傾斜している。また、コンクリート壁27は、残存型枠11と残存型枠11の内側にセパレート(図示省略)等を介して配置した木製の内側型枠29との間にコンクリートを打設することによって形成されたものであって、木製の内側型枠29は、壁構造1の構築後に撤去されるものである。更に、コンクリート壁27には、コンクリート壁27を補強する鉄筋ユニット31が適宜に埋設されている。
【0018】
図1及び図6に示すように、各残存型枠11における型枠本体15の内側面の下端側には、下部シール保持板33が残存型枠11の幅方向に沿って横断するように設けられており、各下部シール保持板33の基端部は、対応する残存型枠11における補強骨材17に溶接等によって一体的に接合されている。また、各下部シール保持板33は、鉄等からなるものであって、底板5の上面に近接している。更に、各下部シール保持板33は、表面に、防食塗装が施されてあって、各下部シール保持板33の先端部は、水平方向(換言すれば、型枠本体15の厚み方向)に対して上向きに傾斜している。そして、各下部シール保持板33の下面と底板5の上面との間には、下部シール材35が挟持されるように設けられている。なお、下部シール材35は、合成ゴムからなるシール板35aと、合成ゴム又は合成樹脂からなるペースト状のコーキング材35bである。
【0019】
図1及び図5に示すように、各残存型枠11における型枠本体15の内側面の上端側には、上部シール保持板37が残存型枠11の幅方向に沿って横断するように設けられており、各上部シール保持板37の基端部は、対応する残存型枠11における補強骨材17に溶接等によって一体的に接合されている。また、各上部シール保持板37は、鉄等からなるものであって、コンクリート壁27の上面に近接している。更に、各上部シール保持板37は、表面に、防食塗装が施されてあって、先端側が低くなるように水平方向に対して傾斜している。そして、各上部シール保持板37の下面とコンクリート壁27の上面との間には、上部シール材39が設けられており、各上部シール材は、上方向からみたときに上部シール保持板37に覆われている。なお、上部シール材39は、合成ゴム又は合成樹脂からなるペースト状のコーキング材である。
【0020】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0021】
各上部シール保持板37の下面とコンクリート壁27の上面との間に上部シール材39が設けられてあって、コンクリート壁27の上面が床版3の内方向に向かって徐々に低くなるように水平方向に対して傾斜しているため、残存型枠11における型枠本体15の内側面に床版3の内方向へ突出した突出部を一体形成することなく、紫外線による上部シール材39の劣化を抑えつつ、残存型枠11とコンクリート壁27との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる(雨水の侵入防止作用)。特に、各上部シール保持板37は、先端側が低くなるように水平方向に対して傾斜しているため、各上部シール保持板37の先端は残存型枠11における型枠本体15の内側面上の雨水を切ることができ、雨水の浸入防止作用を高めることができる。
【0022】
また、各下部シール保持板33の下面と底板5の上面との間に下部シール材35が挟持されるように設けられているため、残存型枠11の内側に打設されたコンクリート(具体的には、床版3におけるコンクリート床9を形成する際に打設されたコンクリート)が残存型枠11と底板5の隙間から漏れることを防止できる(打設コンクリートの漏れ防止作用)。特に、各下部シール保持板33の先端部は、水平方向に対して上向きに傾斜しているため、残存型枠11の内側に打設されたコンクリートの内圧によって、下部シール保持板33の先端部によるくさび効果が働いて、打設コンクリートの漏れ防止作用を高めることができる。
【0023】
更に、各下部シール保持板33の基端部及び各上部シール保持板37の基端部が対応する残存型枠11における補強骨材17に一体的に溶接等によって接合されているため、各下部シール保持板33及び各上部シール保持板37を残存型枠11に強固に固定することができる。
【0024】
以上の如き、本発明の実施形態によれば、残存型枠11における型枠本体15の内側面に床版3の内方向へ突出した突出部を一体形成することなく、紫外線による上部シール材39の劣化を抑えつつ、残存型枠11とコンクリート壁27との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができるため、残存型枠11の軽量化を促進して、残存型枠11の取付作業の能率を向上させると共に、残存型枠11の成形に必要な成形金型の構成を簡略化して、残存型枠11の製造コスト、換言すれば、壁構造1の構築コストの低減を図ることができる。
【0025】
また、残存型枠11の内側に打設されたコンクリートが残存型枠11と底板5の隙間から漏れることを十分に防止できるため、壁構造1の構築作業の煩雑化を抑えることができる。
【0026】
更に、各下部シール保持板33及び各上部シール保持板37を残存型枠11に強固に固定できるため、壁構造1の構築作業中に、各下部シール保持板33及び各上部シール保持板37が残存型枠11から離脱することを防止することができる。
【0027】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、各下部シール保持板33の基端部及び各上部シール保持板37の基端部が残存型枠11における補強骨材17に溶接等によって一体的に接合されないようにしたり、橋梁の床版3に構築された壁構造1の具体的な構成を、土留め等の橋梁以外の建築物の基礎版に構築された壁構造に適用したりする等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る壁構造の断面図である。
【図2】上部シール保持板及び下部シール保持板が取付けられた状態の残存型枠を裏からみた図である。
【図3】図2を上から見た図である。
【図4】図2におけるIV-IV線に沿った図である。
【図5】図1における矢視部Vの拡大図である。
【図6】図1における矢視部VIの拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
1 壁構造
3 床版
5 底板
9 コンクリート床
11 残存型枠
15 型枠本体
27 コンクリート壁
29 内側型枠
33 下部シール保持板
35 下部シール材
35a シール板
35b コーキング材
37 上部シール保持板
39 上部シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の基礎版に構築された壁構造において、
前記基礎版の外端部に立設されたコンクリート製の残存型枠と、
前記残存型枠の内側面に一体的に接合され、前記残存型枠と前記残存型枠の内側に配置した内側型枠との間にコンクリートを打設することによって形成されたコンクリート壁と、
前記残存型枠の内側面の上端側に前記残存型枠の幅方向に沿って横断するように設けられ、前記コンクリート壁の上面に近接したシール保持板と、
前記シール保持板の下面と前記コンクリート壁の上面の間に設けられたシール材と、を具備したことを特徴とする壁構造。
【請求項2】
前記シール保持板は、先端側が徐々に低くなるように水平方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の壁構造。
【請求項3】
前記残存型枠は、コンクリートからなる型枠本体と、前記型枠本体に埋設されかつ前記型枠本体を補強する補強骨材とを備え、
前記前記シール部材の基端部は、前記補強部材に一体的に接合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−161947(P2009−161947A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340601(P2007−340601)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)