説明

壁紙用裏打ち紙

【課題】
塩化ビニルペースト等の塗工時、あるいはその後の乾燥工程において毛羽立ちの発生が少ない、適度な紙力を有する壁紙裏打ち紙を提供する。
【解決手段】
壁紙用裏打ち紙中に木材パルプとセルロースナノファイバーを含有し、前記壁紙用裏打ち紙は、少なくとも木材パルプを含有する基紙に、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を塗布又は含浸してなる。また、前記セルロースナノファイバーが、臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか1つの化合物と、N−オキシル化合物との存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化し、酸化されたセルロースを得る工程、及び、前記酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してセルロースナノファイバーに解繊する工程を含む方法により得られることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル壁紙等に使用される壁紙用裏打ち紙に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙は、一般住居、ホテル、病院等において室内の美麗化のために、長期間壁に貼付される。壁紙には塩化ビニル壁紙(以下、ビニル壁紙と称す)、オレフィン壁紙、織物壁紙、紙壁紙、無機質壁紙等があるが、これらの壁紙は、塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、織物層、紙層、無機質層等の化粧層と、該化粧層を保持するための裏打ち紙により構成されている。
【0003】
ビニル壁紙は、塩化ビニルペーストを裏打ち紙の表面に塗工し、塗工物がゲル化し乾燥した後、印刷、発泡、エンボス等の加工を行って製品化される。ビニル壁紙は織物壁紙に比較して安価であるため広く用いられているが、塩化ビニル樹脂層表面に裏打ち紙のパルプ繊維の毛羽立ちが原因となる突起ができ、この部分に印刷不良(白抜け)が発生するという問題がある。特に近年においては、塩化ビニルペーストを用いる加工工程の高速化により、裏打ち紙に対してより大きなせん断力が加わり、パルプの繊維を起こす力が大きくなるために、このような問題が発生し易くなってきている。
【0004】
そこで、加工工程において発生する表面の毛羽立ちが少なく、アクリル系樹脂を含有させてなる壁紙用裏打ち紙が提案されている(特許文献1)。この発明においては、ガラス転移温度が20℃〜100℃のアクリル系樹脂を含有させることで、毛羽立ちを抑制している。しかしながら、この壁紙用裏打ち紙では、高価なアクリル系樹脂を(望ましくは2g/m〜7g/m)含有させるため、生産コストが高くなるという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−97208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、塩化ビニルペースト等の塗工時、あるいはその後の乾燥工程において毛羽立ちの発生が少ない、適度な紙力を有する壁紙裏打ち紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、紙基材からなる壁紙用裏打ち紙に、セルロースナノファイバーを含有させることによって良好な結果を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、木材パルプとセルロースナノファイバーを含有することを特徴とする壁紙用裏打ち紙である。前記壁紙用裏打ち紙は、少なくとも木材パルプを含有する基紙に、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を塗布又は含浸してなることが好ましい。
【0009】
また、前記セルロースナノファイバーの2%(w/v)水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・sであることが好ましく、前記セルロースナノファイバーが、臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか1つの化合物と、N−オキシル化合物との存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化し、酸化されたセルロースを得る工程、及び、前記酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してセルロースナノファイバーに解繊する工程を含む方法により得られることが好ましく、さらに、前記前記湿式微粒化処理が、超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で前記酸化されたセルロースをセルロースナノファイバーに解繊する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩化ビニルペースト等の塗工時、あるいはその後の乾燥工程において、裏打ち紙の表面繊維が起き上がらず、毛羽立ちの発生が少なくなるだけでなく、寸法安定性の良好な加工適性に優れた安価な壁紙用裏打ち紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施形態について説明する。
本発明の壁紙用裏打ち紙は、その表面に化粧層を設けて壁紙とする。例えば、化粧層として塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、織物層、紙層、無機質層を設け、壁紙とすることができる。何れの場合にも、化粧層には必要に応じて表面印刷、発泡処理、エンボス処理を行うことができる。
【0012】
(セルロースナノファイバー)
本発明は、パルプ繊維を含有する紙基材中にセルロースナノファイバーを含有する。セルロースナノファイバーとは、セルロース系原料を解繊することにより得られる幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。また、カルボキシル基量としては0.5mmol/g以上であるものが望ましい。本発明では、特に、濃度2%(w/v)(すなわち、100mlの分散液中に2gのセルロースナノファイバー(乾燥質量)が含まれる)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・sであるセルロースナノファイバーを用いる。
セルロースナノファイバーの2%(w/v)水分散液におけるB型粘度は、塗料を調製する際に取り扱いが容易であるという観点から低い方が好ましい。このため、セルロースナノファイバーの2%(w/v)水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜2000mPa・sであることが好ましく、500〜1500mPa・s程度がより好ましく、500〜1000mPa・s程度がさらに好ましい。本発明に用いられるセルロースナノファイバーは、水に分散させると透明な液体となり適度な粘調性を示すので、所望の濃度に調整するだけで塗工液として好適に使用できる。なお、本発明のセルロースナノファイバーの水分散液のB型粘度は、公知の手法により測定することができ、例えば、東機産業社のVISCOMETER TV-10粘度計を用いて測定することができる。
本発明に用いられるセルロースナノファイバーは、(1)臭化物、ヨウ化物又はそれらの混合物と(2)N−オキシル化合物との存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して酸化されたセルロースを得、さらにこれを湿式微粒化処理して解繊し、ナノファイバー化することにより製造することができる。
【0013】
(セルロース系原料)
本発明のセルロースナノファイバーの原料となるセルロース系原料は、特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末を用いた場合、比較的低粘度(2%(w/v)水分散液のB型粘度において500〜2000mPa・s程度)のセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるので好ましく、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末を用いることがより好ましい。
粉末セルロースはセルロース純度の高い木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。セルロースの重合度は100〜500程度、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%、レーザー回折式粒度分布測定装置による平均粒子径は100μm以下の基本特性を有する。
【0014】
(セルロース系原料の酸化)
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度である。
セルロース系原料を酸化する際に用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
【0015】
【化1】

(式1中、R1〜R4は同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)、及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、4−ヒドロキシTEMPOと称する)を発生する化合物が好ましい。また、TEMPO又は4−ヒドロキシTEMPOから得られる誘導体も好ましく用いることができ、特に、4−ヒドロキシTEMPOの誘導体が最も好ましく用いることができる。4−ヒドロキシTEMPO誘導体としては、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基を、炭素数4以下の直鎖或いは分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化して得られる誘導体か、あるいは、カルボン酸又はスルホン酸でエステル化して得られる誘導体が好ましい。特に、炭素数が4以下であれば飽和、不飽和結合の有無に関わらず水溶性となり、酸化触媒として機能する。しかし、炭素数が5以上になると疎水性が顕著に向上し、水に不溶性となるため、酸化触媒としての機能を失う。
4−ヒドロキシTEMPOをエーテル化する際には、炭素数が4以下のアルコールを用いれば、アルコール中の飽和、不飽和結合の有無に関わらず、得られる誘導体が水溶性となり、酸化触媒として良好に機能する4−ヒドロキシTEMPO誘導体を得ることができる。
4−ヒドロキシTEMPO誘導体としては、例えば、以下の式2〜式4の化合物が挙げられる。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

(式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、短時間で、均一なセルロースナノファイバーを製造できるため、特に好ましい。
【0019】
【化5】

(式5中、R5及びR6は、同一又は異なる水素又はC1〜C6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
【0020】
セルロース系原料を酸化する際に用いるTEMPOや4−ヒドロキシルTEMPO誘導体などのN−オキシル化合物の量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜5mmol程度である。
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度である。
【0021】
本発明におけるセルロース系原料の酸化は、上記のとおり、(1)4−ヒドロキシTEMPO誘導体などのN−オキシル化合物と、(2)臭化物、ヨウ化物及びこれら混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いて、水中で、セルロース系原料を酸化することが好ましい。この方法は、温和な条件であってもセルロース系原料の酸化反応を円滑に効率良く進行させることができるという特色があるため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。
【0022】
(解繊)
本発明においては、上記のように、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いて得られた酸化処理されたセルロース系原料を、湿式微粒化処理して解繊することにより、セルロースナノファイバーを製造することが好ましい。湿式微粒化処理としては、例えば、高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなどの混合・攪拌、乳化・分散装置を必要に応じて単独もしくは2種類以上組合せて用いることができる。特に、100MPa以上、好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の圧力を可能とする超高圧ホモジナイザーを用いて湿式微粒化処理を行なうと、比較的低粘度(2%(w/v)水分散液のB型粘度において500〜2000mPa・s程度)のセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるので好ましい。
【0023】
本発明のセルロースナノファイバーは、絶乾1gのセルロースナノファイバーにおけるカルボキシル基量として、0.5mmol/g以上、好ましくは0.9mmol/g以上、さらに好ましくは1.2mmol/g以上であると、均一な分散液の状態となるから望ましい。セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、セルロースナノファイバーの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕=a〔ml〕×0.05/酸化パルプ質量〔g〕
【0024】
(セルロースナノファイバーを含有する壁紙用裏打ち紙)
本発明においては、壁紙用裏打ち紙中にセルロースナノファイバーを含有することにより、毛羽立ちが抑制できる理由は明らかではないが、セルロースナノファイバーを加えることにより、壁紙用打ち紙のパルプ繊維とセルロースナノファイバーが多数の水素結合を形成し、毛羽立ち原因となりやすい紙表面の長繊維を強固に留める事で毛羽立ちが抑制できると考えられる。
また、セルロースナノファイバーを含有することにより、透気抵抗度が高くなることから、水系澱粉糊などの接着剤が原紙に過度に浸透することや、化粧層の塩化ビニルペーストの溶剤が過度に浸透することを抑制できる。壁紙用裏打ち紙の平滑度が向上することから、美麗な塩化ビニル化粧面を得ることができる。
【0025】
本発明のセルロースナノファイバーを紙基材に含有させる方法としては、紙に内添してもよいし、外添してもよいが、外添の方がセルローナノファバーを紙表面付近により多量に存在させることができ、紙の透気抵抗度及び平滑度をより向上させることができる点で好ましい。外添する方法としては、セルロースナノファイバーの水分散液を、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、シムサイザー等の塗工機を用いて、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を塗布又は含浸させる方法が好ましい。
本発明の壁紙用裏打ち紙は、前記セルロースナノファイバーを0.014g/m以上含有することが好ましい。含有量が少ないとより毛羽立ち抑制効果が小さくなる傾向にある。含有量が多いと得られる効果も大きいものとなるが、5g/m以下であっても充分な効果が得られる。
【0026】
(基紙)
本発明の壁紙用裏打ち紙は、針葉樹材の晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、脱墨パルプ(DIP)を単独、または任意の配合率で混合して抄紙したものを基紙とする。なお、木材パルプ繊維以外に各種合成繊維を配合することもできる。
本発明においては、使用するパルプのカナダ標準濾水度(CSF)を450ml〜550mlに調整することが好ましい。パルプのCSFは、前記した少なくとも1種のパルプを叩解して上記範囲に調整すれば良い。2種類以上のパルプを使用する場合には、別々に叩解したパルプを混合して上記範囲にしても、予め混合したパルプを叩解して上記範囲に調整してもよい。パルプのCSFが450mlより低いと、水性の糊を用いて施工する際の壁紙の伸びが大きくなり、また、乾燥時の収縮も大きくなるので、隣同士に貼った壁紙の目開き(隙間)が大きくなって好ましくない。パルプのCSFが550mlより高いと紙力が低くなるために、ビニルペースト等の塗工時に断紙が発生し易くなる上、原紙に毛羽立ちが発生し易くなるので好ましくない。
上記基紙は、公知の抄紙機によって適宜製造することができる。抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機等を挙げることができる。
【0027】
(填料)
本発明の壁紙用裏打ち紙には、不透明度を向上させるために、さらに填料を1質量%以上30質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。通常、填料が無機の場合、含有量は、JIS P 8251や、JIS P 8252に規定される灰分として求められる。
填料とは一般の抄紙において使用される材料であればいずれのものを用いることができる。例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂等の有機填料を単独使用または併用することができる。なお、本発明においては、ビニルペースト塗工時等に生じるブリスター(裏打ち紙と塩化ビニル層との間の膨れ)の発生を抑制することができるため、焼成クレーを使用することが好ましい。
【0028】
(難燃剤)
本発明においては、壁紙用裏打ち紙に難燃性を付与することもできる。難燃性を付与するために、上述した前記セルロースナノファイバーと共に難燃剤を含有する塗工液を塗布または含浸させるか、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを填料として更に裏打ち紙中に配合することが好ましい。前記難燃剤としては、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジンメチロール化物、リン酸グアニジン、スルファミン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等を単独または混合して使用することができる。
【0029】
(サイズ剤)
本発明の壁紙用裏打ち紙は、通常の紙の場合と同様に、サイズ剤が内添及び/又は外添されていてもよい。サイズ剤としては、酸性抄きの場合、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、α−カルボキシルメチル飽和脂肪酸等を使用することができる。また、中性抄きの場合には、中性抄紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、カチオンポリマー系サイズ剤を使用することができる。サイズ剤の添加量は特に限定されるものではないが、ステキヒトサイズ度で10秒以上となるように使用することが好ましい。また、サイズプレス等を用いた外添においても、ロジン系、合成樹脂系等の表面サイズ剤を使用することが可能である。
【0030】
(表面処理)
本発明の壁紙用裏打ち紙には、表面強度を高めるために、水溶性高分子及び/または水分散性高分子を主成分とする塗工液を、少なくとも化粧層を設ける側の表面に塗工することが好ましい。例えば、ビニル壁紙の場合には、壁紙用裏打ち紙の表面に塩化ビニルペーストを塗布し、塩化ビニルペーストの硬化後、印刷工程に付されて塩化ビニル層が化粧層となる。このとき壁紙用裏打ち紙の表面強度が低いと、化粧層の塗工時に紙表面の繊維が毛羽立ち、硬化後に該毛羽立ち部が壁紙表面で突起状となり、印刷不良の原因となる。前記水溶性高分子及び/または水分散性高分子は、セルロースナノファイバーを含有する塗工液中に混合して塗工してもよい。
前記水溶性高分子として、酸化澱粉、酵素変性澱粉等の各種変性澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、カゼイン等を適宜使用することが可能である。また、水分散性高分子として、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン等を適宜使用することができる。このとき表面処理剤を含有する塗工液中に、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等の各種顔料を混合して使用することもできる。
【0031】
上記の塗工液は、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター等の塗工機によって塗布することができるが、ゲートロールコーターのような被膜転写方式の塗工機を使用する方が、表面処理剤が紙表面に留まり、より少ない塗布量でも効果が得られるので好ましい。水溶性高分子及び/または水分散性高分子の塗布量としては、片面当たり0.1g/m以上3g/m以下が好ましい。
また、平滑性及び印刷品質の向上等のため、上述の手法で得られた壁紙用裏打ち紙を、平滑処理することができる。平滑処理方法としては弾性ロールにコットンロールを用いたスーパーカレンダーや、弾性ロールに合成樹脂ロールを用いたソフトニップカレンダー等、公知の平滑処理装置を用いることができる。
【0032】
本発明の壁紙用裏打ち紙は、塩化ビニルペーストを塗工した際等に表面に毛羽立ちが発生しないことが望ましい。毛羽立ちの有無は、アプリケータを用いて塩化ビニルペーストを塗工した時に発生する、塩化ビニル塗工面の毛羽立ち個数(凸部の数)を数えることによって評価することができる。
また、平滑性及び印刷品質の向上等のため、上述の手法で得られた塗工紙を、表面処理
することができる。表面処理方法としては弾性ロールにコットンロールを用いたスーパー
カレンダーや、弾性ロールに合成樹脂ロールを用いたソフトニップカレンダー等、公知の
表面処理装置を用いることができる。
【0033】
また、本発明の壁紙用裏打ち紙には、製品の品質に影響を与えない範囲で、内添薬品として、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、染料、顔料等を使用することができる。
本発明の壁紙用裏打ち紙の坪量は、40g/m以上120g/m以下であることが好ましい。坪量が40g/m未満であると強度が低く、加工時に断紙が発生し易くなる。また、坪量が120g/mを超えると壁紙に加工した時に硬くなりすぎ、施工が困難となるという欠点が生じる。
【0034】
[作用]
本発明のセルロースナノファイバーが、毛羽立ち、寸法安定性、平滑性、透気抵抗度を顕著に向上させる理由は明白ではないが、澱粉等の水溶性高分子とは異なり繊維状の形態であるため、紙表面のパルプ繊維の空隙を埋めるように架橋した状態で存在することが可能であるためと推察される。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0036】
<セルロースナノファイバーの製造>
粉末セルロース(日本製紙ケミカル(株)製、粒径24μm)15g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(5mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、粉末セルロースが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、遠心操作(6000rpm、30分、20℃)で酸化した粉末セルロースを分離し、十分に水洗することで酸化処理した粉末セルロースを得た。酸化処理した粉末セルロースの2w/v%(g/100ml)スラリーをミキサーにより12,000rpm、15分処理し、さらに粉末セルローススラリーを超高圧ホモジナイザーにより140MPaの発送圧力で5回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は890mPa・sであった。
【0037】
[実施例1]
<セルロースナノファイバーの壁紙裏打ち紙への含有方法>
非塗工壁紙原紙(坪量80.0g/m、日本製紙(株)社製)にヒシラコピー機でセルロースナノファーバー分散液(固形分0.05%、B型粘度(60rpm、20℃)26mPa・s)を乾燥固形分で0.014g/mとなるよう塗布した。その後、シリンダードライヤーで110℃、2分乾燥した。得られた紙シートを23℃、湿度50%の条件で1日間調湿し、壁紙用裏打ち紙を得た。
【0038】
[実施例2]
セルロースナノファーバー分散液(固形分0.05%、B型粘度(60rpm、20℃)26mPa・s)を乾燥固形分で0.007g/mとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして壁紙用裏打ち紙を得た。
【0039】
[比較例1]
<PVA(比較例)の壁紙裏打ち紙への含有方法>
非塗工壁紙原紙(坪量80.0g/m、日本製紙(株)社製)にヒシラコピー機でPVA(PX−160A: 日本酢ビポバール製)溶解液(固形分3.0%、B型粘度(60rpm、20℃)10mPa・s)を塗布した。その後、シリンダードライヤーで110℃、2分乾燥した。得られた紙シートを23℃、湿度50%の条件で1日間調湿し、壁紙用裏打ち紙を得た。
【0040】
実施例及び比較例で作製した壁紙用裏打ち紙については、下記に示した方法によって毛羽立ち及び紙力を評価した。
<毛羽立ちの測定方法>
壁紙用裏打ち紙を23℃、50RH%の環境下で24時間調湿した後、32cm(MD方向)×15cm(CD方向)となるように断裁した。なお、サンプリングに際しては、紙面を擦らないように十分注意した。ガラス板上に、坪量150g/mの上質紙を2枚敷き、クリップにて固定した。次に、幅250mm×長さ130mm×厚さ15mmの金属直方体(重さ約400g)にガーゼを4重に巻きつけ、上質紙の表面を2回擦ってガーゼの面をならした。
別の上質紙表面に、塩化ビニル塗工面となるF面が上になるように、壁紙用裏打ち紙のサンプルをのせ、ガーゼを巻きつけた金属直方体にて、自重により、MD方向の上から下に向かって1回擦った。壁紙用裏打ち紙の上下方向の向きを変え、同様に上から下に向かって1回擦った。
このようにして壁紙用裏打ち紙の擦った場所に、塗工厚が200μmとなるアプリケータを用い、塩化ビニルペーストを塗工した後、145℃の乾燥機中に1分間入れ、塩化ビニルペーストをゲル化させた。ゲル化した塩化ビニル層表面の中央部に、CD方向に5cm×MD方向に10cmの大きさとなるように切り抜いた型紙をのせ、その中に発生した突起物(欠陥)の数を計測した。同様にして作製したサンプル4枚の計測値を合計して、1サンプル当りの突起物の数(200cm当りの個数)とし測定した。
【0041】
<寸法安定性の測定方法>
壁紙用裏打ち紙を、23℃、50RH%の環境下にて24時間調湿した後、23℃の水中にて1時間吸水させたときの水伸び、またそれを23℃、50RH%の環境下にて24時間、乾燥調湿させた乾燥収縮を測定し、水伸びと乾燥収縮を足した値を寸法安定性とした。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1から、CNFを0.014g/m塗布した実施例は、PVAを0.325g/m塗布した比較例1より少ない塗布量であるのにかかわらず、毛羽個数、寸法安定性ともに優れていた。
また、CNFの塗布量がより少ない実施例2では、大きな効果が発現しなかった。
【0044】
[実施例3]
壁紙原紙(日本製紙(株)製、坪量64g/m)に上記のセルロースナノファイバー分散液を2ロールサイズプレス装置にて塗布量を変えて塗布した。
[比較例2]
実施例3で使用した壁紙原紙に水のみを2ロールサイズプレス装置にて塗布した。
[比較例3]
実施例3で使用した壁紙原紙に酸化澱粉(商品名:SK200、日本コーンスターチ(株)製)の水溶液を2ロールサイズプレス装置にて塗布量を変えて塗布した。
[比較例4]
実施例3で使用した壁紙原紙にポリビニルアルコール(商品名:PVA117、(株)クラレ製)の水溶液を2ロールサイズプレス装置にて塗布量を変えて塗布した。
【0045】
<平滑度、透気抵抗度>
Japan TAAPI 紙パルプ試験方法 No.5−2:2000に従い、王研式平滑度透気度試験器により測定した。
実施例3(CNF)、比較例2(ブランク)、比較例3(澱粉)、比較例4(PVA)にて作成した紙の平滑度、透気抵抗度を測定し、結果を図1、2に示した。
図1に示されるように、本願発明のセルロースナノファイバーを塗布することにより、酸化澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースを塗布した紙に比較して、顕著に透気抵抗度が向上した。また、図2に示されるように平滑度は若干向上した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例3(CNF)、比較例2(ブランク)、比較例3(澱粉)、比較例4(PVA)にて作成した紙の透気抵抗度を測定した結果のグラフである。
【図2】実施例3(CNF)、比較例2(ブランク)、比較例3(澱粉)、比較例4(PVA)にて作成した紙の平滑度を測定した結果のグラフである。
【図3】本発明で使用されるN−オキシル化合物の一般式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプとセルロースナノファイバーを含有することを特徴とする壁紙用裏打ち紙。
【請求項2】
前記壁紙用裏打ち紙は、少なくとも木材パルプを含有する基紙に、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を塗布又は含浸してなることを特徴とする請求項1に記載された壁紙用裏打ち紙。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーの2%(w/v)水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された壁紙用裏打ち紙。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、
臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか1つの化合物と、N−オキシル化合物との存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化し、酸化されたセルロースを得る工程、及び、前記酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してセルロースナノファイバーに解繊する工程を含む方法により得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された壁紙用裏打ち紙。
【請求項5】
前記前記湿式微粒化処理が、超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で前記酸化されたセルロースをセルロースナノファイバーに解繊する工程を含むことを特徴とする請求項4記載の壁紙用裏打ち紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−263851(P2009−263851A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83567(P2009−83567)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】