声門下吸引システム
【課題】人工呼吸器関連(または獲得)肺炎の発生を低下させるのに役立つ声門下吸引システムを提供する。
【解決手段】換気ルーメンと、カフ膨張用ルーメン(14)と、吸引用ルーメン(16)とを有する気管チューブ(10)を備えた声門下吸引システムを提供する。吸引用ルーメンは、分泌物が貯留するカフ(22)上部の気管内の空間と連通している。吸引用ルーメンの近位端には、真空源との接続のためのバルブ(36)が設けられる。バルブは、適所で洗浄液の導入を可能にし、吸引用ルーメンへの真空の供給を遮断しかつ洗浄完了時に真空源との接続を自動的に復旧するように適合されている。ユーザは、容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行い、すなわちラインを「パルス」することによって、吸引用ルーメンを部分的または完全に塞ぐかまたは詰まらせ得る分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くことができる。
【解決手段】換気ルーメンと、カフ膨張用ルーメン(14)と、吸引用ルーメン(16)とを有する気管チューブ(10)を備えた声門下吸引システムを提供する。吸引用ルーメンは、分泌物が貯留するカフ(22)上部の気管内の空間と連通している。吸引用ルーメンの近位端には、真空源との接続のためのバルブ(36)が設けられる。バルブは、適所で洗浄液の導入を可能にし、吸引用ルーメンへの真空の供給を遮断しかつ洗浄完了時に真空源との接続を自動的に復旧するように適合されている。ユーザは、容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行い、すなわちラインを「パルス」することによって、吸引用ルーメンを部分的または完全に塞ぐかまたは詰まらせ得る分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的人工換気に用いられる気管チューブ及び関連物品のためのシステムに関する。詳細には、本発明は、気管チューブカフ上部に貯留する汚染された分泌物を洗浄及び/または排出し、それによってそのような汚染された分泌物が患者の肺に入るリスクを減少させるための手段を有する気管チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
気管挿管は、患者の気管に中空チューブ状医療機器(気管チューブとして知られている)を挿入する行為を伴う。気管チューブは、口またはそれよりは望ましくないが鼻から挿入することができ、あるいは咽喉の前面の切開部を経て頸部から挿入することもできる。チューブは、口または鼻から挿入される場合には気管内チューブと呼ばれ、咽喉の前面から挿入される場合には気管切開チューブまたは気管チューブと呼ばれる。本明細書においては、この2種類のチューブを気管チューブと呼ぶ。気管チューブは、気管内に入り、先端が第2胸椎と第4胸椎の間の位置の前方にある気管分岐部の上方の位置にくる。このとき、気管チューブの中心ルーメンを通して患者の肺の中へガスを導入することができる。
【0003】
気管挿管の主目的は、患者が通常の呼吸誘発換気ができないときに、患者の肺を機械的に換気することである。外科的医療介入中に麻酔ガスを投与するために挿管を用いることもできる。機械的換気(人工呼吸)中に空気を肺の中に送り込むのに十分な空気圧を維持するため、及びチューブを通過したガスの漏れ(すなわち肺の「短絡」または迂回)を防止するために、気管チューブの周りの通路を密閉することが望ましい。そのような密閉状態は、気管チューブを遠位端付近において取り囲む可膨張性のカフまたはバルーンを用いることによって作り出すことができる。気管チューブが患者の気管内に挿入されたとき、可膨張性カフは通常、気管分岐部より約3〜5センチメートル上に、かつチューブ様の気管内に位置することになる。
【0004】
カフを膨張させると、カフは気管壁と係合し、それによって気管を密閉することになる。そしてカフは、気管チューブを通って導入されるガスが、チューブの遠位端から出た後に、単に逆コースを辿って上方へチューブの周りを通って逆流し、口から出ることを防止する。この種の治療法は、慢性または急性の呼吸器疾患に罹患している患者に対して成果を挙げることが証明されているが、絶えずいくつかの合併症のリスクがある。
【0005】
最もよく見られる合併症の1つは、人工呼吸器関連(または獲得)肺炎またはVAPとして知られている。気管挿管されている患者は、挿管中に、喉頭蓋を迂回した後に気管及び肺に入る汚染された貯留分泌物によって引き起こされると思われる肺の感染症から、この肺炎を発症することがある。喉頭蓋は通常、分泌物及び粒子状物質の導入を防止するために気管及び肺内への侵入口を選択的に塞ぐバルブとして機能する。しかし、気管チューブが適所にあるときには、喉頭蓋は開位置に保持され、分泌物は、普通は気管から離れて消化器系へ移動させられるのだが、その代わりに気管チューブの経路を辿り、可膨張性カフ上部に貯留する。
【0006】
そのような感染性分泌物が肺に到達するリスクが最も高い時間のうちの1つは、機械的換気の終了時である。具体的には、気管挿管の必要がなくなったとき、気管チューブの可膨張性カフを脱気して患者から気管チューブを抜管するが、このとき、可膨張性カフ上部の空間に貯留された感染性分泌物が放出され、肺の中に自由に流れ込み、そこで気管支炎または肺炎が発症する可能性がある。気管チューブが留置されている間、気管チューブカフを通過して漏れ出すおそれがある分泌物の誤嚥によって、感染性分泌物が肺に到達するリスクもある。
【0007】
これらの分泌物を気管チューブカフ上部から除去すれば、そのような感染症のリスクが減少するであろう。可膨張性カフ及び吸引手段を有する気管チューブは、先行技術において広く知られている。例えば、シングルルーメン吸引チューブを気管チューブと組み合わせることが知られている。吸引チューブは、可膨張性カフ上部の気管に貯留する貯留分泌物を持続的に吸引または排出するための手段を提供する。しかし、そのような先行技術のチューブに関して多くの懸念が残っている。ほぼ一定の吸引力を受ける吸引チューブ用シングルルーメンは、気管粘膜に直接吸引をかけるが、これにより粘膜が損傷する可能性がある。シングル吸引用ルーメンに関連する別の大きな問題は、シングル吸引用ルーメンが詰まったり閉塞したりして、結果として完全に使い物にならなくなることもある点である。分泌物は、非常に粘性が高い場合があり、カフ(吸引ポート)よりも上方にある吸引用ルーメンの開口部を塞いでしまうか、または、吸引用ルーメン内に移動し、ルーメン内の流れを止めるほどにまで内壁に蓄積する。
【0008】
これらの問題のいくつかを解決するために、多くの試みがなされてきた。例えば、米国特許第4,305,392号明細書(特許文献1)は、気管粘膜の損傷を回避するために、4つのポートを有するバルジ(膨らみ部分)の形をした吸引チャンバに終端を有する吸引用ルーメンを持つ気管チューブを提供している。米国特許第4,840,173号明細書(特許文献2)は、この場合もやはり吸引ラインが気管に付着しないことを期待して、可膨張性カフ上部に貯留し得る分泌物を排出させるために用いることができる開口部を複数備えた吸引チューブを提供している。米国特許第5,143,062号明細書(特許文献3)には、空気を循環させることができるダブルルーメンが開示されており、ルーメンの遠位端と連通している吸引孔(suction eye)を介して間接的な穏やかな吸引が行われる。しかしながら、この構造は、分泌物を吸引するのに必要な適切な吸引を提供するものではなく、容易に閉塞される。米国特許公開第2008/0121236号公報(特許文献4)には、吸引ラインに溶液を注入することができる吸引装置及びコネクタが開示されている。特許文献4には、フェイルセーフ位置、すなわちユーザが装置を使い終わった後に吸引用ルーメンに吸引を戻す位置であるデフォルト位置にバルブを戻すことができる機構がない。
【0009】
吸引用ルーメンの閉塞に対する現行の解決策は、気管チューブを取り外して別の気管チューブと交換する(従って、システムを開放する)か、または完全にカフ上部の空間の吸引をなくすことである。明らかに、これらの解決策は、吸引用ルーメンの存在理由をなくすものであり、満足できるものではない。カフ上部の空間からの分泌物の吸引をなくすと、そのような流体が蓄積し、最終的にチューブを抜去したときに、そこにある流体が肺に流れ込み、VAPを引き起こす可能性がある。チューブの抜去及び交換により、システムが開放されるとともに、患者は挿管のリスクの全て、すなわち、低血液酸素、気管の炎症、声門損傷の可能性などにさらされ、分泌物がカフ上部の空間から肺へ移動することになる。気管チューブの開存性を維持することにより、抜管のリスクを低下させるかまたは遅延させることができ、患者に好結果をもたらす公算を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,305,392号明細書
【特許文献2】米国特許第4,840,173号明細書
【特許文献3】米国特許第5,143,062号明細書
【特許文献4】米国特許公開第2008/0121236号公報
【特許文献5】米国特許第6,612,305号明細書
【特許文献6】米国特許出願第60/994,664号明細書(米国特許出願第12/206,517号明細書、特表2010−540011号明細書)
【特許文献7】米国特許第6,802,317号明細書
【特許文献8】米国特許第6,526,977号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マルチルーメン気管チューブまたはカテーテルであって、可膨張性カフ上部の空間に貯留された分泌物を効果的に吸引することができ、患者からチューブを取り外すことなしに貯留した分泌物を清拭することができるルーメン及びポートを有し、それゆえにシステムの閉鎖状態を維持できるものが必要とされている。また、名目上訓練されたとされる作業者が定期的に用いることができるように、システムは、操作しやすく、好適には直感で操作できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、単純な操作しやすいバルブを持つ洗浄機能付きのマルチルーメン気管チューブ及び吸引用ルーメンシステムを提供することによって、これらの問題を解決する。
【0013】
本発明は、吸引用ルーメン、操作しやすいバルブ及び極薄カフを気管チューブに組み込むことによって、改良された気管チューブを提供する。吸引用ルーメンは、分泌物が貯留するカフ上部の気管内の空間と連通している。気管チューブは、新たな吸引用ルーメン形状と、機能を高めた吸引用ルーメンポート構造とを含むことが望ましい。
【0014】
バルブは、吸引用ルーメンと流体連通し、ケア提供者またはユーザによって選択的に吸引用ルーメンに印加される真空源とも流体連通している。バルブは、洗浄液源も有する。バルブを用いて、ケア提供者は、吸引用ルーメンの連通先を真空源と洗浄液源との間で切り替えることができる。ケア提供者の裁量により洗浄液または真空を交互に吸引用ルーメンに供給することで、吸引用ルーメン及びカフの近位にある気管内の空間の洗浄及び吸引を可能にし、蓄積し得る分泌物を軟らかくして除去する。過剰な分泌物は、カフを通過して下気道に入り、人工呼吸器関連(または獲得)肺炎(VAP)を引き起こす可能性がある。
【0015】
様々なバルブ構造の実施形態が提供される。これらのバルブは全て、吸引源を遮断し、ケア提供者が操作したときに吸引用ルーメンへの洗浄液の通路を開放し、開放後に自動的に吸引源に戻るという共通の機能を有する。バルブは、システムの閉鎖状態を維持したまま、吸引用ルーメンを部分的にまたは完全に塞ぐかまたは詰まらせ得る分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くために、ユーザが容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行うことができるように、すなわち、ユーザがラインを「パルス(pulse)」することができるように、設計されている。
【0016】
一実施形態では、気管チューブは、或る長さ、遠位端及び近位端を有する可撓性カニューレから形成される。カニューレは、実質的にカニューレの長さに沿って延在し、カニューレを、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む複数の異なるルーメンに分割する複数の壁から構成される。可膨張性カフが、遠位端より近位側にてカニューレを取り囲んでいる。可膨張性カフは、患者の気管を密閉するのに適している。膨張用ルーメンは、可膨張性カフと流体連通している。ポートが、可膨張性カフの近位にあるカニューレの側壁を貫通して延在し、かつ吸引用ルーメンと流体連通している。
【0017】
別の実施形態では、気管チューブは、複数の吸引用ルーメンを有し得る。洗浄液は、吸引用ルーメンを通って勢いよく流されかつ真空を戻したら吸引用ルーメンを経由で取り出されるように適合されている。
【0018】
さらに別の実施形態では、気管チューブは、気管切開チューブであってよく、患者の声門下の気管を阻害する形状を有する可膨張性カフを有し得る。可膨張性カフは、遠位端上でカニューレを取り囲み、膨張時には、カニューレの近位面の下においてカニューレの遠位端部及びカニューレの近位端部の周りで膨張するように適合されている。カフはこうして気管瘻孔よりも上方の気管を塞ぐことなく気管瘻孔よりも下方の気管を塞ぐ。
【0019】
洗浄液は、水、生理食塩水のほか、他の生理適合性液体及び粘液溶解薬であってよい。洗浄液は、空気、または空気と液体との組合せを含むこともできる。患者に対する所望の効果を得るため、または吸引用ルーメンの吸引や清拭を容易にするために、洗浄液に、例えば消毒薬や抗生物質などの薬物、または界面活性剤などの処理剤を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従うマルチルーメンカテーテルの気管内チューブの実施形態を示す。
【図2】本発明に従うマルチルーメンカテーテルの気管チューブの実施形態を示す。
【図3】図1または図2のいずれかのカテーテルの3−3断面図。
【図4】米国特許第6,612,305号明細書(特許文献5)に記載の気管切開チューブのためのカフの図。
【図5】米国特許出願第60/994,664号明細書(特許文献6)に記載の気管切開チューブのためのカフの図。
【図6A】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6B】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6C】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6D】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6E】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6F】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6G】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6H】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図7】カニューレ上の長寸の吸引ポート。
【図8】回転洗浄アダプタバルブ(ロータリーバルブ)。
【図9】プッシュ式洗浄アダプタバルブ(プッシュバルブ)。
【図10】ストレート形洗浄アダプタバルブ(ストレートバルブ)。
【図11A】ベローズ形洗浄アダプタバルブ(ベローズバルブ)。
【図11B】ベローズ形洗浄アダプタバルブ(ベローズバルブ)。
【図12A】トリガで作動する洗浄アダプタバルブ(トリガバルブ)。
【図12B】トリガで作動する洗浄アダプタバルブ(トリガバルブ)。
【図13A】インラインピンチング洗浄アダプタバルブ(ピンチバルブ)。
【図13B】インラインピンチング洗浄アダプタバルブ(ピンチバルブ)。
【図14】流れを阻害するトリガタブを有するインラインバルブ。
【図15】流れを阻害するトリガバーを有するインラインバルブ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、図面を参照すると、図面において本発明の様々な構成要素に対して符号が付され、かつ本発明について、当業者が本発明を作ることができかつ使用できるように説明がなされる。以下の説明は、本発明の原理の単なる例にすぎず、係属している特許請求範囲を狭くするものと見なされるべきではないことを理解されたい。本明細書に記載の様々な実施形態の態様が本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく置換え及び変更可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0022】
図1、図2及び図3を参照すると、本発明の2つの実施形態に従う気管チューブ10が示されている。図1は気管内チューブを示し、図2は気管切開(気管)チューブを示し、図3は図1または図2のいずれかの3−3断面図を示している。
【0023】
図の実施形態における気管チューブ10は、少なくとも1つの呼吸用ルーメン14と、少なくとも1つの吸引用ルーメン16と、少なくとも1つの膨張用ルーメン18とを有するマルチルーメンカニューレ12である。これらの実施形態では、これらの各ルーメンは、少なくとも部分的にカニューレ12の内部にある(図3)。呼吸用ルーメン14は、チューブにおいて最大のルーメンであり、カニューレ12全体を貫通して延在し、患者(図示せず)を機械的に換気するように適合されている。患者に気管チューブ10が導入されるとき、カニューレ12の遠位端20は患者の上気道系内に位置する。
【0024】
遠位端20の近位に、バルーン、ブラダーまたは可膨張性カフ22が設けられている。膨張用ルーメン18は、カニューレ12の外周面28上に設けられたカフ22内に終端を有する。膨張用ルーメン18は、チューブ10の近位端38付近まではカニューレ12の壁25内または外周面28に沿って延在することができ、近位端38付近で、膨張用ルーメン18は、カフ22に膨張流体(通常は空気)を供給するために用いられるように適合された別体をなすチュービングライン(tubing line)40になる。カフ22は、膨張させたときに患者の声門領域下の気管を塞ぐような形状にされている。これが、患者の声門及び声門下領域から患者の気管支及び肺内への望ましくない流体の流れを断ち切るかまたは少なくとも最小限に抑えるためであることは、当業者に既知でありかつ理解されている。
【0025】
吸引用ルーメン16は、膨張用ルーメン18と同様に、カニューレ12の壁25内または外周面28に沿って延在し、カニューレ12の外周面28上に設けられたポート24に終端を有する。図の実施形態におけるポート24は、カフ22の上部表面付近にある。このように、吸引用ルーメン16は、患者の換気(人工呼吸)にマイナスの影響を及ぼすことなく、呼吸用ルーメン14を介して、カフ22上部の患者の気管(声門下領域)内の空間に集まる流体を吸引するのに適している。吸引用ルーメン16は、吸引ポート24から近位方向にカニューレ12の壁25に沿って、または壁25内に、カニューレ12から分離して別体をなすチュービングライン30になる点まで延在する。チュービングライン30は、バルブ本体36に取り付けられる。バルブ本体36は、コネクタ34においてバルブ本体36に取り付けられる吸引源(図示せず)から吸引用ルーメン16への吸引をユーザが行うことができるように適合されている。バルブ本体36を用いて、ビュレット部(bullet)32または他の適切な容器内に収容されている洗浄液を吸引用ルーメン16に供給することもできる。バルブ本体36の機能については、詳細に後述する。
【0026】
バルブ本体36によって吸引を遮断している間に、洗浄液をビュレット部32から吸引用ルーメン16内へ導入することができる。洗浄液は、吸引用ルーメン16の状況が許す限り、吸引用ルーメン16を(遠位方向に)流下する。ルーメンは完全には閉塞されず、気管内においてカフ22上部の吸引ポート24から洗浄液を排出することが望ましい。洗浄液は通常、典型的な分泌物よりも粘度が低いので、ひとたび導入されると、カフ22上部の気管内空間に見られる全液体混合物の粘度を低下させる効果を有する。吸引用ルーメン16及びポート24を介して吸引用ルーメン16またはカフ22上部の空間に洗浄液を導入し終えた時点で、吸引用ルーメン16に吸引を戻すことができるので、洗浄液が軟らかくするかまたは溶解した液体及び分泌物を吸引ポート24及び吸引用ルーメン16を介して除去すなわち吸出することができる。必要とみなされるときは、この手順を繰り返すことができる。この手順は、たまって吸引用ルーメン16または吸引ポート24を詰まらせる可能性があるであろう分泌物及び他の液体を清拭するために、ケア提供者またはユーザの裁量で行われる。カフ22上部の領域から潜在的に有害な分泌物を除去できるように、吸引用ルーメン16を開放状態に保つことが重要である。
【0027】
洗浄液は、水、生理食塩水のほか、他の生理適合性液体または粘液溶解薬を含んでよい。粘液は、気道を狭窄するかまたは詰まらせ、呼吸を困難にさせることがある。粘液溶解薬は、痰を解体することによって粘液を軟らかくして気道から取り除きやすくするように粘液の特性を変更するためのものである。よく使われる粘液溶解薬には、エルドステイン、アセチルシステイン、ブロムヘキシン(bromheksin)、カルボシステイン及びグアイフェネシンが含まれる。洗浄液には、空気、または空気と液体との組合せを含めることもできる。患者に対する所望の効果を得るため、または吸引用ルーメン16の吸引や清拭を容易にするために、洗浄液に、例えば消毒薬や抗生物質などの薬物、または界面活性剤などの処理剤を加えてもよい。
【0028】
図1及び図2の断面図である図3を見て分かるように、気管チューブ10の1つの可能な構成が示されており、より具体的には、カニューレ12内の可能なルーメン配置が示されている。図を見て分かるように、吸引用ルーメン16及び膨張用ルーメン18は、カニューレ12の壁に形成される。この構成は、当然のことながら、1つの可能な配置及び他の配置が本発明の趣旨及び範囲に含まれることを示唆するためのものでしかない。カニューレ12内のルーメンの配置は、範囲が任意の特定の構成に限定されない。例えばカニューレ12内のルーメンのレイアウトを変更してもよいし、あるいは、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを、カニューレ12のどの壁内にも埋め込まれない別体をなすルーメンとしてもよい。
【0029】
他の実施形態では、複数の吸引用ルーメン16が提供されることがある。各吸引用ルーメンは、各吸引用ルーメンがバルブ36によって供給される洗浄液によって洗浄されるという点において、実質的に上記したように構成されることになる。全ての吸引用ルーメン16に対して1つの中央バルブ36を設けてもよいし、あるいは各吸引用ルーメン16に対して個別の専用バルブ36を設けることもできる。そのような配置は、より徹底的な吸引用ルーメンの洗浄に有効であることが証明されるであろう。あるいは、複数のルーメンがあれば、従来のルーメンが詰まった場合でも別のルーメンを用いることができるであろう。これらの実施形態のいずれも、単に設けるルーメンの数及び配置を増加させているだけなので、当業者によって容易に理解される。よって、これらの変形例の理解のために特別な図面は必要ない。
【0030】
上記したように、気管チューブ10は、チューブの下方(遠位)部分においてその外周面の周りにカフ22を有し、カフ22は、換気装置(人工呼吸器)を用いて気管チューブを介して補助された呼吸が生じるように気管内の正常な空気の流れを阻害する働きをする。カフは、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)またはポリオレフィンなどの軟質の柔軟なポリマーから作られたものであることが望ましい。カフは、非常に薄く、厚さ約25ミクロン以下、例えば、20ミクロン、15ミクロン、10ミクロン、または5ミクロンという薄さですらあるようにする。カフもまた、望ましくは約30mmH2O以下、例えば、25mmH2O、20mmH2O、15mmH2O以下で動作する低圧カフであるものとする。そのようなカフは、米国特許第6,802,317号明細書(特許文献7)に記載されている。特許文献7には、できるだけ密閉した状態で患者の気管を閉鎖するためのカフであって、患者の声門下部の気管を塞ぐカフと、空気チューブとを含み、カフは、空気チューブに取り付けられ、完全に膨張した状態にあるときに気管の径よりも大きいサイズを有し、患者の気管内で膨張したときにカフに少なくとも1つのひだ折り目(draped fold)を形成する軟質の柔軟な箔材料からできており、箔は、0.01mmに等しいかまたはそれ以下の肉厚を有し、少なくとも1つのひだ折り目は、少なくとも1つのひだ折り目の終端で見つかるループ状部を有し、該ループ状部が小径を有することにより少なくとも1つのひだ折り目のループ状部を通過する分泌物の自由な流れを阻害するものが記載されている。そのようなカフの別の説明は、米国特許第6,526,977号明細書(特許文献8)にあり、特許文献8には、できるだけ密閉した状態で患者の気管を閉鎖するための拡張器であって、患者の声門下部の気管を塞ぐカフと、空気チューブとを含み、カフは、空気チューブに取り付けられ、完全に膨張した状態にあるときの気管径よりも大きいサイズを有し、患者の気管内で完全に膨張したときにカフに少なくとも1つのひだ折り目を形成する軟質の柔軟な箔材料からできており、形成される少なくとも1つのひだ折り目が、折り目内に生じる毛細管力のおかげでカフの全域で分泌物の自由な流れを停止させる毛細管のサイズを有することにより、分泌物の誤嚥及びそれに続く分泌物誤嚥関連の感染症を防止するようにしたものが記載されている。上記した非常に薄いカフは、上記したように洗浄液の導入後にカフ上部に存在するより低粘度の流体の流れを阻害するのに特に適していることが分かっている。
【0031】
あるいは、気管切開チューブの具体的事例において、カフは、米国特許出願第60/994,664号明細書(現在の米国特許出願第12/206,517明細書、特許文献6)、または特許文献5に記載されているような形状のものであってよい。特許文献5において、カフは、チューブの周りで膨張するのみならず、現行モデルと同様に、頭側及び瘻孔(切開孔)側にも膨張して、瘻孔を密閉する(図4)。このことは、チューブ上の可膨張性カフの近位取付点及び遠位取付点が連続的でないために生じる。別の言い方をすれば、従来のデバイスとは異なり、180°以外の角度(α)をなすためである。特許文献5において、カフは、チューブの遠位端部分の実質的に中心に配置されかつ該遠位端部分に取り付けられている遠位カフ部分を有する。カフは、チューブの屈曲領域に取り付けられかつデバイスの近位面より下方において実質的に屈曲領域の中心を外れて配置された近位カフ部分も有する。膨張時、この構成は、デバイスの近位面より下方においてチューブの遠位端部及びチューブの近位端部の周囲でカフを膨張させることによって、気管瘻孔よりも上方の気管を塞ぐことなく気管瘻孔よりも下方の気管を塞ぐ(図5)。望ましくは、このカフ構成により分泌物を瘻孔から除去できることになる。
【0032】
気管切開チューブデバイスは、厚さが均一でない複数のカフ壁を有し得る。例えば、気管切開チューブデバイスは、カフ壁厚さが約20ないし約30μmであるカフの第1部分と、カフ壁厚さが約5ないし約15μmであるカフの第2部分とを有し得る。カフの第1部分は、気管ルーメンの或る断面領域の上部に接触するカフの部分であり、カフの第2部分は、気管ルーメンの同じ断面領域の下部に接触するカフの部分であることが望ましい。
【0033】
可膨張性カフの構成要素は、遠位端と、遠位側取付部分と、近位端と、近位側取付部分と、上部領域と、下部領域とを含むことができ、上部領域は約15ないし約30μmの厚さを有し、下部領域は約5ないし約15μmの厚さを有する。
【0034】
カフ構成要素は、熱可塑性ポリウレタン重合体、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロック共重合体、SBSジブロック型エラストマー、SEBSトリブロック型エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、並びにその配合物及び混合物から形成され得ることが望ましい。
【0035】
図3に示した吸引用ルーメン16は、現在入手可能な市販の気管チューブの形状である円形、卵形または楕円形であってよい。しかし、改良形状を調査しようと、数多くの様々な形状をテストした。単に被選択形状にのみ基づきルーメンを流れる流量に著しい違いがあることがテストにより示された。カフの近位側に貯留した流体は、ニュートン流体ではない複数の分泌物の複雑な組合せであることが分かった。流体の粘度は、実質的に、流体に働く剪断の量によって異なっていた。様々な形状のルーメンを調査したところ、剪断はルーメン内でばらつきがあり、湾曲部や隅部において高剪断であり、中央では低剪断であるので、粘度に影響し、流れに影響を与えることが分かった。調査の結果、単純な円形、楕円形または卵形よりも、細長い僅かに湾曲した形状が良好に機能することが分かった。多くのそのような「競技場のトラック(bent oval)」形状、「豆」形状または「バナナ」形状のルーメンが、図6A〜図6Hに示されている。図6A〜図6Hは、換気ルーメン14及び吸引用ルーメン16を有する気管チューブの断面図である。より望ましくは、図6G、図6Hのトラック形状のルーメンが、より良好に機能した。
【0036】
トラック形状のルーメンの製造は既知の円形または卵形ルーメンの製造と同様に難しいことではないことが分かるはずである。気管カテーテルを製造するために用いられるチューブは、通常は押し出される。押出形状を変えることは、高分子押出成形の分野の当業者にとって難しい問題ではない。
【0037】
図1及び図2の吸引ポート開口部24は、気管の後壁に付着して組織を損傷させやすいことが分かっている。持続的吸引は間欠吸引よりも危険であるが、いずれの方法においても、吸引に関係のある組織の損傷が生じる可能性がある。吸引ポート24は、従来通りカニューレ12上に、患者が仰向けに横たわっているときに吸引ポート24がカフ上部の気管内の最下点にくるような位置に配置される。吸引ポート24は、従来と同じように円形ポートである。この領域は、分泌物が自然に多量に貯留する場所である。これは、カニューレ12において、高い曲げ応力を受けるが故に吸引ポート24を気管と接触させる可能性が高い領域でもある。この問題の1つの解決策は、カニューレ12が過度に曲がったとしても気管と接触することにならない位置に吸引ポート24を移動させることである。図1及び図2に示されている従来の位置から90または180°離れた位置にすれば、気管を損傷しにくくするであろうが、仰向けに横たわっている患者からの分泌物の吸引にそれほど効果があるというものでもないであろう。
【0038】
図7は、カフ22上部のカニューレ12上の吸引ポート24を示しており、ここで、吸引ポート24は、ある程度の距離にわたってカニューレ12の周壁において円周方向に細長い。この吸引ポート24は、吸引用ルーメン16に接続する。吸引ポート24はまた、両側に浅い延長部(shallow extension)を有し、それにより、吸引ポート24が気管壁に付着する可能性が低下する。浅い延長部は、カニューレ12の外周面28から僅かな、例えば1または2ミリメートルの深さまで延下しているが、吸引ポート24が吸引用ルーメン16と連通する領域を除いてカニューレ12の肉厚を貫通してはいない。仮に長寸の吸引ポート24の中央部が気管と接触しても、吸引ポート24の細長部分は依然として気管壁と接触することにはならないので、気管壁に完全に吸い寄せられることは回避されるであろう。本明細書に開示されている細長い吸引ポート24はこのようにして気管の損傷を減少させ、さらにまた、カニューレ12が気管壁に吸い寄せられることを防止することによって吸引ラインを開放状態に維持するのに役立つ。長寸の吸引ポート24は、従来の円形ポートよりも2〜5倍、望ましくは約3倍幅広であってよい。
【0039】
バルブは、本明細書に開示されている分泌物を吸引する気管チューブ及びシステムの重要な部品である。バルブは、チュービングライン30及び、拡大解釈すれば吸引用ルーメン16、吸引ポート24及びカフ22上部の気管内の空間を吸引及び洗浄するために用いられる。吸引用ルーメンを部分的にまたは完全に塞ぐかまたは詰まらせるかもしれない分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くために、バルブは、容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行う能力を持つこと、すなわち、ユーザはラインを「パルス」することができることが望ましい。ユーザがバルブを使い終わった後に、分泌物が除去されるようにシステムの吸引が行われるノーマルデフォルト位置すなわち「フェイルセーフ」位置にバルブが自動的に(すなわち単独で、ユーザによる介入なしで)戻ることも望ましい。バルブが「洗浄」位置にとどまっていると、洗浄液を供給するビュレット部が空になった時点で、分泌物がカフ22上部の空間内に蓄積し、吸引ラインを有する目的がなくなる。洗浄液ビュレット部へのアクセスを開放する前にバルブが吸引ラインへのアクセスを閉鎖することも重要であり、そうでなければ、流体はビュレット部から奪い取られて吸引源に向かい、浪費されることになる。患者の偶発的な動作がバルブを作動させないように、バルブがユーザ側にバルブを洗浄位置に移動させるための積極的な行動を要求することも望ましい。例えば、患者が寝返りを打ってバルブの上にのってしまった場合、バルブは、ケア提供者が望む位置、通常はフェイルセーフ位置すなわち吸引位置にとどまるべきであり、または、患者が加えていた力が取り除かれたときには、単独で比較的迅速にフェイルセーフ位置に戻るべきである。最後に、洗浄及び吸引を行うことができ、システムは閉鎖状態が維持されることが望ましい。例えば吸引を行うたびにビュレット部を取り外すとすれば、システムを繰り返し開放し、病原菌の侵入を許すことになる。当然、ビュレット部は最終的には交換が必要になることは確かであるが、そうなることは、吸引が行われるたびに取り外す必要がある場合よりもずっと稀である。システムの閉鎖状態を維持することが感染の可能性を減らすのに役立つので、洗浄液源が適所にとどまっている間に吸引及び洗浄を可能にするバルブは望ましい。後述するバルブは、これらの基準を満たす。
【0040】
一実施形態では、バルブ36は、図8に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液(例えば生理食塩水)用ビュレット部32または注射器を収容できる回転洗浄アダプタバルブ(ロータリーバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続してもよいし、チュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続してもよい。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメン16の洗浄が望ましいときには、ビュレット部32が挿入されて矢印で示されているように回転させられる。ビュレット部32のこの回転変位は、スリーウェイバルブを回転させ、吸引源または真空源を遮断し、ビュレット部32からチュービングライン30への流体アクセスを開放する。チュービングライン30は、吸引用ルーメン16と流体連通している。ビュレット部32を圧迫することによって、洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動的手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に回転させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。真空源とチュービングライン30との流体連通を復旧することにより、吸引ポート24を通して吸引用ルーメン及びカフ22上部の空間の吸引がなされる。ユーザは、必要に応じて繰り返し吸引と洗浄液供給とを交互に行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0041】
別の実施形態では、バルブ36は、図9に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液ビュレット部32または注射器を収容できるプッシュ式洗浄アダプタバルブ(プッシュバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続され、チュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続されることができる。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメン16の洗浄が望ましいとき、洗浄液を含むビュレット部32が図のようにバルブ36に挿入される。ビュレット部32がバルブ36に向かって下向きに押されると、ビュレット部32は、真空源を遮断し、ビュレット部32から吸引用ルーメンと流体連通しているチュービングライン30へのアクセスを開放する。ビュレット部32を圧迫して洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動的手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に移動させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液を交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0042】
さらに別の実施形態では、バルブ36は、図10に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液ビュレット部32または注射器を収容できるストレート形洗浄アダプタバルブ(ストレートバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続されるかまたはチュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続されることができる。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメンの洗浄が望ましいとき、洗浄液を含有するビュレット部32が挿入される。ビュレット部32は、下向きに押されると、吸引源からチュービングライン30への流路を塞ぎ、ビュレット部32とチュービングライン30との流体連通を確立する。ビュレット部32を圧迫して洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に移動させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液を交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0043】
図11A及び図11Bはベローズで作動するサクションバルブを示しており、ここで図11Bは断面図である。吸引操作中、コネクタ34は吸引源(図示せず)に接続される。吸引された流体または空気は、チュービングライン30を通り、患者側の端部42からピストン46の中央ルーメン51を通って進み、その後オリフィス47を通過し、内部にばね44が見られる環状空間45に到ることができる。吸引された流体または空気は、ピン48の垂直部分52の周りを通過し、コネクタ34を越えて吸引源へ排出されることができる。ピン48は、流体または空気の流れを阻害するのではなく、中央及び他の構成要素を適所に保持する働きをするのみである。ベローズ41を圧迫することにより、ベローズ41を押しつぶし、ばね44が吸引側の端部43に当たるようにする。ピストン46が動き始めた直後、ピストン46は、オリフィス47を通過する流体または空気の流れを阻害する。ベローズをさらに圧迫することにより、洗浄(一方向)チェックバルブ50を開放し、ベローズ41の内容物をチュービングライン30内へ患者に向けて移動させる。ベローズ41の圧迫を緩和すると、ばね44はピストン46を吸引側の端部43から遠ざけ、同時に洗浄チェックバルブ50を閉じることができる。そうなったとき、オリフィス47がピストン46によってされていた蓋を外される前に、流体(一方向)チェックバルブ49が開き、洗浄液がビュレット部32からベローズ41内へ流れる。ベローズ41の圧迫を継続的に緩和することで、オリフィス47を蓋がされていない状態にし、ベローズ41に吸引を戻す。そのような一連の行動は当然、洗浄液をベローズ41から吸引源に向かって吸引することになり、非生産的であろう。しかし、ベローズ41の圧迫を完全に緩和するよりもむしろ、ベローズ41の圧迫を部分的にのみ緩和することにより、ベローズ41は洗浄液で満たされるがオリフィス47は開放されないようにすることができる。ベローズ41の圧迫を再開することができ、その結果、流体チェックバルブ49が閉鎖し、洗浄液は、ベローズ41から押し出され、洗浄チェックバルブ50を通過してチュービングライン30内へ患者に向かって移動する。このベローズ41の圧迫と緩和を繰り返すことによって、ケア提供者は、洗浄液を、カフ22上部の気管内の空間に送達するための吸引ポート24と、チュービングライン30とにパルスすることができる。このように洗浄液供給と吸引とを交互に行うことにより、定常状態吸引に比べてより効果的な堆積物及び分泌物の除去方法を提供することができる。バルブ40は、ビュレット部32が適所にないときに生理食塩水チェックバルブ49及びバルブ40の残りを汚染から保護するために用いられ得るテザー付きキャップ53を含むこともできる。
【0044】
図12A及び図12Bは、トリガで作動するサクションバルブ60を示しており、ここで図12Bは断面図である。トリガ61を圧迫するとピボットバルブ62が閉位置に変位し、圧迫によりバルブ60内のチュービングライン30が閉鎖されて吸引源が遮断される。固定ピストン65内の2つの一方向チェックバルブと、吸引用ルーメンチェックバルブと、洗浄液チェックバルブとがある。トリガは、圧迫されているときに内側へ変位し続けるので、ばね62が圧縮され、洗浄液が、吸引用ルーメンチェックバルブ65を通ってトリガ空間63内に送られ、細いチューブ66を通過し、細いチューブ66が主チュービングライン30に接続する位置67においてチュービングライン30内に送られる。トリガ61を解放すると、ばね62がトリガ61を外向きに押して洗浄液チェックバルブを開放し、洗浄液は、ビュレット部32からチューブ(図では見えない)を通ってトリガ空間63に流入することができる。ピボットバルブ62は、トリガ61が完全に解放されるまで閉じたままであるので、ユーザは、繰り返しパルスされる洗浄液をチュービングライン30を通して吸引ポート24へ送ることができる。ユーザは、チュービングライン30内へ洗浄液をパルスすることとチュービングライン30に吸引を戻すこととを交互に行うことができる。バルブの開放時に、ばねは吸引源から吸引用ルーメンへのアクセスを自動的に閉鎖し、ビュレット部から吸引用ルーメンへの自動的に閉鎖する。当業者は、必要に応じてバルブ60の上面または側面にトリガを配置することができること及びそれもやはり本明細書に提示されているアクティブなトリガバルブの教示及び発明の趣旨に含まれることが容易に分かるであろう。
【0045】
図13A及びその分解立体図である図13Bは、インラインピンチング洗浄バルブ70を示している。この比較的複雑でないバルブは本体71を有し、本体71は、この実施形態では、鏡像的な2つの半分部分すなわち右半分部分72及び左半分部分73から構成されている。バルブの前方部分を、チュービングライン30に接続する患者側の端部と規定する。本体は、代替的に、上下の半分部分から構成されてもよいし、あるいは一体成形として構成されてもよいことに留意されたい。バルブ70の後方部分は、吸引源(図示せず)用のコネクタ34である。2つの本体半分部分のうちの少なくとも一方は半島形タブ(peninsular tab)74を有し(図では左半分部分73のみ見ることができる)、半島形タブ74は、その長さの大部分にわたって当該本体半分部分から僅かな隙間75だけ離間している。半島形タブ74は、一端において当該本体半分部分に付着したままである。本体半分部分の原材料が十分に薄くかつ/または柔軟性があるとすれば、隙間75のおかげで、半島形タブ74は破損せずに曲がりかつ本体半分部分に対して変位し、圧迫力が除かれた時点で元の位置に跳ね返る。少なくとも一方の本体半分部分の内部には、隆起部76が、望ましくは圧着チューブ77に垂直に、設けられるべきであり、隆起部76のサイズは、半島形タブ74がユーザの指によって圧迫されたときに隆起部76が圧着チューブ77の内部長さに接触することになり、十分な力が加えられたら圧着チューブ77のルーメンを閉鎖し、圧着チューブ77を介して吸引源と連通することを阻害するようなサイズである。半島形タブ74及び隆起部76の正確なサイズ及び形状は、半島形タブ74を圧迫することによって圧着チューブ77のルーメンを閉鎖することができるという条件で、バルブ設計者の要望によって異なり得るが、本明細書に開示されている教示内にとどまる。例えば、隆起部76は、図に示した矩形形体である代わりに、半島形タブ74が一緒に圧迫されたときに圧着チューブ77と接触するように適所に配置された円形または卵形の突起のような別の形状であってよい。隆起部76が本体半分部分から完全に取り除かれ、半島形タブ74が圧着チューブ77上に直接当接して圧着チューブ77のルーメンを閉鎖するように、半島形タブ74を設計することも可能である。
【0046】
既に述べたように、圧着チューブ77の患者側の端部はチュービングライン30と流体連通しており、チュービングライン30は同様に吸引用ルーメン16及び吸引ポート24と流体連通している。圧着チューブ77の他端はコネクタ34と流体連通し、コネクタ34はさらに吸引源と連通する。バルブ70は、ビュレット部から洗浄液を受容するために取入口78を有する。バルブ70は、ビュレット部を受容しかつ流体の漏れを減らすためにビュレット部にぴったり合うように設計されたアダプタ79と、ビュレット部から流入する生理食塩水を通過させるチェックバルブ80とを有することが望ましい。チェックバルブ80は、吸引源単独で加えられるよりも多くの力を必要とするので、ユーザは、ビュレット部を圧迫することによって、チェックバルブ80を開いて洗浄液をチュービングライン30内に移動させるのに十分な力を供給する必要がある。ビュレット部が適所にないときに取入口78を覆うように適合された任意選択のテザー付きキャップ(図示せず)を設けてもよい。
【0047】
完全に導入されて使用されるとき、ユーザは単に、本体71上の半島形タブ74を一方の手で圧迫することによって圧着チューブ77のルーメンを閉鎖し、チュービングライン30から吸引源を遮断し、圧着チューブ77を閉じたままにして、流体ビュレット部を他方の手で圧迫することによって液体をチュービングライン30内へ、及びカフ22上部の気管内の空間に向かって送り込むことができる。ユーザは通常それぞれの手で1つの機能を実行することを好むこと、及び片手で2つ以上の機能を実行することが要求されると混乱を招く場合があることが分かっている。従って、このバルブがそれぞれの手に対して1つの機能を有することは有利である。所望の量の流体が吐出された時点で、ユーザはビュレット部を圧迫するのを止めて半島形タブ74への圧力を緩和することができる。こうすることにより、半島形タブ74は元の位置に跳ね返り、圧着チューブ77を正常な形状に回復させ、チュービングライン30に吸引を戻すことができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液供給とを交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによってビュレット部を取り外すことなく分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0048】
図13Aの本体71が一体成形でできている実施形態において、チュービングライン30を本体71の内部に滑り込ませてコネクタ34と結合させ、ひいては圧着チューブ77として働く別体をなす部品を省くことができる。この場合、洗浄液源によるアクセスのためにチュービングライン30に孔を開けることができる。
【0049】
手袋が隙間75に挟まれるようならば、例えば、隙間75を完全に覆い、隙間75に手袋が入り込むことを防止するために、本体71を熱に反応して適所で収縮する「収縮フィルム」樹脂のような高分子材料でくるんでもよい。さらに、手袋を装着しているユーザが感じる触感覚を向上させるため、及び本体71上でのユーザの把持の質を向上させるために、半島形タブ74は、線、山形(逆V字)、凹み、逆凹み(reverse dimple)などのような表面と歩グラフィ80を有していてもよい。
【0050】
特定の実施形態では、図13Aのバルブ70は、長さが3〜10cm、望ましくは長さ約7cmかつ直径0.5〜2cm、望ましくは約1.7cmの本体半分部分sを有することができる。互いに対向して位置する2つの半島形タブ74は、長さが1〜5cm、望ましくは約2.5cmであり得、隆起部76は、各半島形タブ74の長手方向のほぼ中心に位置し得る。隙間75は、幅が0.3〜3mm、望ましくは約1mmであり得る。
【0051】
図14は、図13のバルブのように、バルブの片手操作を可能にさせる別の実施形態を示している。このバルブ70は、多くの点で図13のバルブと類似しているが、作動させる方法が異なる。図14のバルブ70では、バルブ70の底部のトリガタブ81を押し下げることにより、本体の内部でチューブが圧着されかつ閉鎖される。トリガタブ81を解放すると、圧着チューブ(図示せず)は再開通し、吸引源と吸引用ルーメンとの連通を復旧することができる。
【0052】
図15は、図13のバルブのようにバルブの片手操作を可能にさせる別の実施形態を示している。このバルブ70は、多くの点で図13のバルブと類似しているが、作動させる方法が異なる。図14のバルブ70では、バルブ70の底部ののトリガバー82を後方に(吸引源用コネクタ34に向かって)移動させることにより、本体の内部でチューブが圧着されかつ閉鎖される。トリガバー82を解放すると、圧着チューブ(図示せず)は再開通し、吸引源と吸引用ルーメンとの連通を復旧することができる。
【0053】
本明細書に開示されているバルブの構成材料は、本体に関しては、ポリオレフィン、例えばポリエチレン及びポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリル、PVCなどであってよい。特に適しているのは、高密度ポリエチレン(HDPE)である。チェックバルブ及びチューブと同じように、柔軟性のあるパーツの構成材料には、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはエラストマーベースのポリオレフィンが含まれる。
【0054】
使用にあたり、医療提供者は、既知の、当業者に理解されている方法で、すなわち、経口または経鼻挿管により、あるいは気管切開術により、気管チューブ10を患者の気管内に挿入することになる。可膨張性カフ22は、患者の気管壁に気密に係合するように、膨張用ルーメン18を通って供給される空気により膨張させられることになる。これにより、声門下空間から気管支及び肺内への望ましくない流体の流れが効果的に防止されるかまたは少なくとも最小限に抑えられることになる。この時に呼吸用ルーメン14を介して患者の換気を行い、必要な限り継続することができる。
【0055】
ケア提供者の裁量により、カニューレ12の壁25を貫通するポート24を経由して吸引用ルーメン16を介して患者の気管内の声門下空間を吸引することができる。そのような吸引は、必要に応じて連続的または断続的に行うことができる。同様にケア提供者の裁量により、吸引用ルーメン16及び/またはカフ22上部の空間を洗浄しかつ吸引することができる。これは、既に詳細に説明したように、バルブ36を用いて吸引用ルーメン16から吸引源を遮断し、ビュレット部32から吸引用ルーメン16へ洗浄液を導入することによって達成される。液体を導入し終わった後、バルブ36が再開通されることによって真空源及び吸引源との接続が元の状態に戻るので、吸引用ルーメン16が空にされ、吸引用ルーメン16内の分泌物及び他の液体並びに、望ましくはカフ22上部に貯留した分泌物が除去される。洗浄液に、例えば、消毒薬、抗生物質などの薬物、または粘液溶解薬などの処理剤を加えてもよい。その場合、吸引前に所望の治療効果を得るために、洗浄液の導入とルーメン及びカフ領域からの洗浄液の排出との間により多くの時間を見込むことが望ましいであろう。
【0056】
本発明についてその特定の実施形態に関して詳細に説明してきたが、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなしに様々な改変、修正及び他の変更をなすことができることは、当業者に明らかであろう。従って、特許請求の範囲は、添付の請求項群に含まれる全てのそのような修正形態、改変形態及び他の変更形態に及ぶものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的人工換気に用いられる気管チューブ及び関連物品のためのシステムに関する。詳細には、本発明は、気管チューブカフ上部に貯留する汚染された分泌物を洗浄及び/または排出し、それによってそのような汚染された分泌物が患者の肺に入るリスクを減少させるための手段を有する気管チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
気管挿管は、患者の気管に中空チューブ状医療機器(気管チューブとして知られている)を挿入する行為を伴う。気管チューブは、口またはそれよりは望ましくないが鼻から挿入することができ、あるいは咽喉の前面の切開部を経て頸部から挿入することもできる。チューブは、口または鼻から挿入される場合には気管内チューブと呼ばれ、咽喉の前面から挿入される場合には気管切開チューブまたは気管チューブと呼ばれる。本明細書においては、この2種類のチューブを気管チューブと呼ぶ。気管チューブは、気管内に入り、先端が第2胸椎と第4胸椎の間の位置の前方にある気管分岐部の上方の位置にくる。このとき、気管チューブの中心ルーメンを通して患者の肺の中へガスを導入することができる。
【0003】
気管挿管の主目的は、患者が通常の呼吸誘発換気ができないときに、患者の肺を機械的に換気することである。外科的医療介入中に麻酔ガスを投与するために挿管を用いることもできる。機械的換気(人工呼吸)中に空気を肺の中に送り込むのに十分な空気圧を維持するため、及びチューブを通過したガスの漏れ(すなわち肺の「短絡」または迂回)を防止するために、気管チューブの周りの通路を密閉することが望ましい。そのような密閉状態は、気管チューブを遠位端付近において取り囲む可膨張性のカフまたはバルーンを用いることによって作り出すことができる。気管チューブが患者の気管内に挿入されたとき、可膨張性カフは通常、気管分岐部より約3〜5センチメートル上に、かつチューブ様の気管内に位置することになる。
【0004】
カフを膨張させると、カフは気管壁と係合し、それによって気管を密閉することになる。そしてカフは、気管チューブを通って導入されるガスが、チューブの遠位端から出た後に、単に逆コースを辿って上方へチューブの周りを通って逆流し、口から出ることを防止する。この種の治療法は、慢性または急性の呼吸器疾患に罹患している患者に対して成果を挙げることが証明されているが、絶えずいくつかの合併症のリスクがある。
【0005】
最もよく見られる合併症の1つは、人工呼吸器関連(または獲得)肺炎またはVAPとして知られている。気管挿管されている患者は、挿管中に、喉頭蓋を迂回した後に気管及び肺に入る汚染された貯留分泌物によって引き起こされると思われる肺の感染症から、この肺炎を発症することがある。喉頭蓋は通常、分泌物及び粒子状物質の導入を防止するために気管及び肺内への侵入口を選択的に塞ぐバルブとして機能する。しかし、気管チューブが適所にあるときには、喉頭蓋は開位置に保持され、分泌物は、普通は気管から離れて消化器系へ移動させられるのだが、その代わりに気管チューブの経路を辿り、可膨張性カフ上部に貯留する。
【0006】
そのような感染性分泌物が肺に到達するリスクが最も高い時間のうちの1つは、機械的換気の終了時である。具体的には、気管挿管の必要がなくなったとき、気管チューブの可膨張性カフを脱気して患者から気管チューブを抜管するが、このとき、可膨張性カフ上部の空間に貯留された感染性分泌物が放出され、肺の中に自由に流れ込み、そこで気管支炎または肺炎が発症する可能性がある。気管チューブが留置されている間、気管チューブカフを通過して漏れ出すおそれがある分泌物の誤嚥によって、感染性分泌物が肺に到達するリスクもある。
【0007】
これらの分泌物を気管チューブカフ上部から除去すれば、そのような感染症のリスクが減少するであろう。可膨張性カフ及び吸引手段を有する気管チューブは、先行技術において広く知られている。例えば、シングルルーメン吸引チューブを気管チューブと組み合わせることが知られている。吸引チューブは、可膨張性カフ上部の気管に貯留する貯留分泌物を持続的に吸引または排出するための手段を提供する。しかし、そのような先行技術のチューブに関して多くの懸念が残っている。ほぼ一定の吸引力を受ける吸引チューブ用シングルルーメンは、気管粘膜に直接吸引をかけるが、これにより粘膜が損傷する可能性がある。シングル吸引用ルーメンに関連する別の大きな問題は、シングル吸引用ルーメンが詰まったり閉塞したりして、結果として完全に使い物にならなくなることもある点である。分泌物は、非常に粘性が高い場合があり、カフ(吸引ポート)よりも上方にある吸引用ルーメンの開口部を塞いでしまうか、または、吸引用ルーメン内に移動し、ルーメン内の流れを止めるほどにまで内壁に蓄積する。
【0008】
これらの問題のいくつかを解決するために、多くの試みがなされてきた。例えば、米国特許第4,305,392号明細書(特許文献1)は、気管粘膜の損傷を回避するために、4つのポートを有するバルジ(膨らみ部分)の形をした吸引チャンバに終端を有する吸引用ルーメンを持つ気管チューブを提供している。米国特許第4,840,173号明細書(特許文献2)は、この場合もやはり吸引ラインが気管に付着しないことを期待して、可膨張性カフ上部に貯留し得る分泌物を排出させるために用いることができる開口部を複数備えた吸引チューブを提供している。米国特許第5,143,062号明細書(特許文献3)には、空気を循環させることができるダブルルーメンが開示されており、ルーメンの遠位端と連通している吸引孔(suction eye)を介して間接的な穏やかな吸引が行われる。しかしながら、この構造は、分泌物を吸引するのに必要な適切な吸引を提供するものではなく、容易に閉塞される。米国特許公開第2008/0121236号公報(特許文献4)には、吸引ラインに溶液を注入することができる吸引装置及びコネクタが開示されている。特許文献4には、フェイルセーフ位置、すなわちユーザが装置を使い終わった後に吸引用ルーメンに吸引を戻す位置であるデフォルト位置にバルブを戻すことができる機構がない。
【0009】
吸引用ルーメンの閉塞に対する現行の解決策は、気管チューブを取り外して別の気管チューブと交換する(従って、システムを開放する)か、または完全にカフ上部の空間の吸引をなくすことである。明らかに、これらの解決策は、吸引用ルーメンの存在理由をなくすものであり、満足できるものではない。カフ上部の空間からの分泌物の吸引をなくすと、そのような流体が蓄積し、最終的にチューブを抜去したときに、そこにある流体が肺に流れ込み、VAPを引き起こす可能性がある。チューブの抜去及び交換により、システムが開放されるとともに、患者は挿管のリスクの全て、すなわち、低血液酸素、気管の炎症、声門損傷の可能性などにさらされ、分泌物がカフ上部の空間から肺へ移動することになる。気管チューブの開存性を維持することにより、抜管のリスクを低下させるかまたは遅延させることができ、患者に好結果をもたらす公算を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,305,392号明細書
【特許文献2】米国特許第4,840,173号明細書
【特許文献3】米国特許第5,143,062号明細書
【特許文献4】米国特許公開第2008/0121236号公報
【特許文献5】米国特許第6,612,305号明細書
【特許文献6】米国特許出願第60/994,664号明細書(米国特許出願第12/206,517号明細書、特表2010−540011号明細書)
【特許文献7】米国特許第6,802,317号明細書
【特許文献8】米国特許第6,526,977号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マルチルーメン気管チューブまたはカテーテルであって、可膨張性カフ上部の空間に貯留された分泌物を効果的に吸引することができ、患者からチューブを取り外すことなしに貯留した分泌物を清拭することができるルーメン及びポートを有し、それゆえにシステムの閉鎖状態を維持できるものが必要とされている。また、名目上訓練されたとされる作業者が定期的に用いることができるように、システムは、操作しやすく、好適には直感で操作できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、単純な操作しやすいバルブを持つ洗浄機能付きのマルチルーメン気管チューブ及び吸引用ルーメンシステムを提供することによって、これらの問題を解決する。
【0013】
本発明は、吸引用ルーメン、操作しやすいバルブ及び極薄カフを気管チューブに組み込むことによって、改良された気管チューブを提供する。吸引用ルーメンは、分泌物が貯留するカフ上部の気管内の空間と連通している。気管チューブは、新たな吸引用ルーメン形状と、機能を高めた吸引用ルーメンポート構造とを含むことが望ましい。
【0014】
バルブは、吸引用ルーメンと流体連通し、ケア提供者またはユーザによって選択的に吸引用ルーメンに印加される真空源とも流体連通している。バルブは、洗浄液源も有する。バルブを用いて、ケア提供者は、吸引用ルーメンの連通先を真空源と洗浄液源との間で切り替えることができる。ケア提供者の裁量により洗浄液または真空を交互に吸引用ルーメンに供給することで、吸引用ルーメン及びカフの近位にある気管内の空間の洗浄及び吸引を可能にし、蓄積し得る分泌物を軟らかくして除去する。過剰な分泌物は、カフを通過して下気道に入り、人工呼吸器関連(または獲得)肺炎(VAP)を引き起こす可能性がある。
【0015】
様々なバルブ構造の実施形態が提供される。これらのバルブは全て、吸引源を遮断し、ケア提供者が操作したときに吸引用ルーメンへの洗浄液の通路を開放し、開放後に自動的に吸引源に戻るという共通の機能を有する。バルブは、システムの閉鎖状態を維持したまま、吸引用ルーメンを部分的にまたは完全に塞ぐかまたは詰まらせ得る分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くために、ユーザが容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行うことができるように、すなわち、ユーザがラインを「パルス(pulse)」することができるように、設計されている。
【0016】
一実施形態では、気管チューブは、或る長さ、遠位端及び近位端を有する可撓性カニューレから形成される。カニューレは、実質的にカニューレの長さに沿って延在し、カニューレを、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む複数の異なるルーメンに分割する複数の壁から構成される。可膨張性カフが、遠位端より近位側にてカニューレを取り囲んでいる。可膨張性カフは、患者の気管を密閉するのに適している。膨張用ルーメンは、可膨張性カフと流体連通している。ポートが、可膨張性カフの近位にあるカニューレの側壁を貫通して延在し、かつ吸引用ルーメンと流体連通している。
【0017】
別の実施形態では、気管チューブは、複数の吸引用ルーメンを有し得る。洗浄液は、吸引用ルーメンを通って勢いよく流されかつ真空を戻したら吸引用ルーメンを経由で取り出されるように適合されている。
【0018】
さらに別の実施形態では、気管チューブは、気管切開チューブであってよく、患者の声門下の気管を阻害する形状を有する可膨張性カフを有し得る。可膨張性カフは、遠位端上でカニューレを取り囲み、膨張時には、カニューレの近位面の下においてカニューレの遠位端部及びカニューレの近位端部の周りで膨張するように適合されている。カフはこうして気管瘻孔よりも上方の気管を塞ぐことなく気管瘻孔よりも下方の気管を塞ぐ。
【0019】
洗浄液は、水、生理食塩水のほか、他の生理適合性液体及び粘液溶解薬であってよい。洗浄液は、空気、または空気と液体との組合せを含むこともできる。患者に対する所望の効果を得るため、または吸引用ルーメンの吸引や清拭を容易にするために、洗浄液に、例えば消毒薬や抗生物質などの薬物、または界面活性剤などの処理剤を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従うマルチルーメンカテーテルの気管内チューブの実施形態を示す。
【図2】本発明に従うマルチルーメンカテーテルの気管チューブの実施形態を示す。
【図3】図1または図2のいずれかのカテーテルの3−3断面図。
【図4】米国特許第6,612,305号明細書(特許文献5)に記載の気管切開チューブのためのカフの図。
【図5】米国特許出願第60/994,664号明細書(特許文献6)に記載の気管切開チューブのためのカフの図。
【図6A】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6B】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6C】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6D】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6E】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6F】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6G】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図6H】吸引用ルーメンの様々な望ましい形状のうちの1つを示す。
【図7】カニューレ上の長寸の吸引ポート。
【図8】回転洗浄アダプタバルブ(ロータリーバルブ)。
【図9】プッシュ式洗浄アダプタバルブ(プッシュバルブ)。
【図10】ストレート形洗浄アダプタバルブ(ストレートバルブ)。
【図11A】ベローズ形洗浄アダプタバルブ(ベローズバルブ)。
【図11B】ベローズ形洗浄アダプタバルブ(ベローズバルブ)。
【図12A】トリガで作動する洗浄アダプタバルブ(トリガバルブ)。
【図12B】トリガで作動する洗浄アダプタバルブ(トリガバルブ)。
【図13A】インラインピンチング洗浄アダプタバルブ(ピンチバルブ)。
【図13B】インラインピンチング洗浄アダプタバルブ(ピンチバルブ)。
【図14】流れを阻害するトリガタブを有するインラインバルブ。
【図15】流れを阻害するトリガバーを有するインラインバルブ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、図面を参照すると、図面において本発明の様々な構成要素に対して符号が付され、かつ本発明について、当業者が本発明を作ることができかつ使用できるように説明がなされる。以下の説明は、本発明の原理の単なる例にすぎず、係属している特許請求範囲を狭くするものと見なされるべきではないことを理解されたい。本明細書に記載の様々な実施形態の態様が本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく置換え及び変更可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0022】
図1、図2及び図3を参照すると、本発明の2つの実施形態に従う気管チューブ10が示されている。図1は気管内チューブを示し、図2は気管切開(気管)チューブを示し、図3は図1または図2のいずれかの3−3断面図を示している。
【0023】
図の実施形態における気管チューブ10は、少なくとも1つの呼吸用ルーメン14と、少なくとも1つの吸引用ルーメン16と、少なくとも1つの膨張用ルーメン18とを有するマルチルーメンカニューレ12である。これらの実施形態では、これらの各ルーメンは、少なくとも部分的にカニューレ12の内部にある(図3)。呼吸用ルーメン14は、チューブにおいて最大のルーメンであり、カニューレ12全体を貫通して延在し、患者(図示せず)を機械的に換気するように適合されている。患者に気管チューブ10が導入されるとき、カニューレ12の遠位端20は患者の上気道系内に位置する。
【0024】
遠位端20の近位に、バルーン、ブラダーまたは可膨張性カフ22が設けられている。膨張用ルーメン18は、カニューレ12の外周面28上に設けられたカフ22内に終端を有する。膨張用ルーメン18は、チューブ10の近位端38付近まではカニューレ12の壁25内または外周面28に沿って延在することができ、近位端38付近で、膨張用ルーメン18は、カフ22に膨張流体(通常は空気)を供給するために用いられるように適合された別体をなすチュービングライン(tubing line)40になる。カフ22は、膨張させたときに患者の声門領域下の気管を塞ぐような形状にされている。これが、患者の声門及び声門下領域から患者の気管支及び肺内への望ましくない流体の流れを断ち切るかまたは少なくとも最小限に抑えるためであることは、当業者に既知でありかつ理解されている。
【0025】
吸引用ルーメン16は、膨張用ルーメン18と同様に、カニューレ12の壁25内または外周面28に沿って延在し、カニューレ12の外周面28上に設けられたポート24に終端を有する。図の実施形態におけるポート24は、カフ22の上部表面付近にある。このように、吸引用ルーメン16は、患者の換気(人工呼吸)にマイナスの影響を及ぼすことなく、呼吸用ルーメン14を介して、カフ22上部の患者の気管(声門下領域)内の空間に集まる流体を吸引するのに適している。吸引用ルーメン16は、吸引ポート24から近位方向にカニューレ12の壁25に沿って、または壁25内に、カニューレ12から分離して別体をなすチュービングライン30になる点まで延在する。チュービングライン30は、バルブ本体36に取り付けられる。バルブ本体36は、コネクタ34においてバルブ本体36に取り付けられる吸引源(図示せず)から吸引用ルーメン16への吸引をユーザが行うことができるように適合されている。バルブ本体36を用いて、ビュレット部(bullet)32または他の適切な容器内に収容されている洗浄液を吸引用ルーメン16に供給することもできる。バルブ本体36の機能については、詳細に後述する。
【0026】
バルブ本体36によって吸引を遮断している間に、洗浄液をビュレット部32から吸引用ルーメン16内へ導入することができる。洗浄液は、吸引用ルーメン16の状況が許す限り、吸引用ルーメン16を(遠位方向に)流下する。ルーメンは完全には閉塞されず、気管内においてカフ22上部の吸引ポート24から洗浄液を排出することが望ましい。洗浄液は通常、典型的な分泌物よりも粘度が低いので、ひとたび導入されると、カフ22上部の気管内空間に見られる全液体混合物の粘度を低下させる効果を有する。吸引用ルーメン16及びポート24を介して吸引用ルーメン16またはカフ22上部の空間に洗浄液を導入し終えた時点で、吸引用ルーメン16に吸引を戻すことができるので、洗浄液が軟らかくするかまたは溶解した液体及び分泌物を吸引ポート24及び吸引用ルーメン16を介して除去すなわち吸出することができる。必要とみなされるときは、この手順を繰り返すことができる。この手順は、たまって吸引用ルーメン16または吸引ポート24を詰まらせる可能性があるであろう分泌物及び他の液体を清拭するために、ケア提供者またはユーザの裁量で行われる。カフ22上部の領域から潜在的に有害な分泌物を除去できるように、吸引用ルーメン16を開放状態に保つことが重要である。
【0027】
洗浄液は、水、生理食塩水のほか、他の生理適合性液体または粘液溶解薬を含んでよい。粘液は、気道を狭窄するかまたは詰まらせ、呼吸を困難にさせることがある。粘液溶解薬は、痰を解体することによって粘液を軟らかくして気道から取り除きやすくするように粘液の特性を変更するためのものである。よく使われる粘液溶解薬には、エルドステイン、アセチルシステイン、ブロムヘキシン(bromheksin)、カルボシステイン及びグアイフェネシンが含まれる。洗浄液には、空気、または空気と液体との組合せを含めることもできる。患者に対する所望の効果を得るため、または吸引用ルーメン16の吸引や清拭を容易にするために、洗浄液に、例えば消毒薬や抗生物質などの薬物、または界面活性剤などの処理剤を加えてもよい。
【0028】
図1及び図2の断面図である図3を見て分かるように、気管チューブ10の1つの可能な構成が示されており、より具体的には、カニューレ12内の可能なルーメン配置が示されている。図を見て分かるように、吸引用ルーメン16及び膨張用ルーメン18は、カニューレ12の壁に形成される。この構成は、当然のことながら、1つの可能な配置及び他の配置が本発明の趣旨及び範囲に含まれることを示唆するためのものでしかない。カニューレ12内のルーメンの配置は、範囲が任意の特定の構成に限定されない。例えばカニューレ12内のルーメンのレイアウトを変更してもよいし、あるいは、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを、カニューレ12のどの壁内にも埋め込まれない別体をなすルーメンとしてもよい。
【0029】
他の実施形態では、複数の吸引用ルーメン16が提供されることがある。各吸引用ルーメンは、各吸引用ルーメンがバルブ36によって供給される洗浄液によって洗浄されるという点において、実質的に上記したように構成されることになる。全ての吸引用ルーメン16に対して1つの中央バルブ36を設けてもよいし、あるいは各吸引用ルーメン16に対して個別の専用バルブ36を設けることもできる。そのような配置は、より徹底的な吸引用ルーメンの洗浄に有効であることが証明されるであろう。あるいは、複数のルーメンがあれば、従来のルーメンが詰まった場合でも別のルーメンを用いることができるであろう。これらの実施形態のいずれも、単に設けるルーメンの数及び配置を増加させているだけなので、当業者によって容易に理解される。よって、これらの変形例の理解のために特別な図面は必要ない。
【0030】
上記したように、気管チューブ10は、チューブの下方(遠位)部分においてその外周面の周りにカフ22を有し、カフ22は、換気装置(人工呼吸器)を用いて気管チューブを介して補助された呼吸が生じるように気管内の正常な空気の流れを阻害する働きをする。カフは、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)またはポリオレフィンなどの軟質の柔軟なポリマーから作られたものであることが望ましい。カフは、非常に薄く、厚さ約25ミクロン以下、例えば、20ミクロン、15ミクロン、10ミクロン、または5ミクロンという薄さですらあるようにする。カフもまた、望ましくは約30mmH2O以下、例えば、25mmH2O、20mmH2O、15mmH2O以下で動作する低圧カフであるものとする。そのようなカフは、米国特許第6,802,317号明細書(特許文献7)に記載されている。特許文献7には、できるだけ密閉した状態で患者の気管を閉鎖するためのカフであって、患者の声門下部の気管を塞ぐカフと、空気チューブとを含み、カフは、空気チューブに取り付けられ、完全に膨張した状態にあるときに気管の径よりも大きいサイズを有し、患者の気管内で膨張したときにカフに少なくとも1つのひだ折り目(draped fold)を形成する軟質の柔軟な箔材料からできており、箔は、0.01mmに等しいかまたはそれ以下の肉厚を有し、少なくとも1つのひだ折り目は、少なくとも1つのひだ折り目の終端で見つかるループ状部を有し、該ループ状部が小径を有することにより少なくとも1つのひだ折り目のループ状部を通過する分泌物の自由な流れを阻害するものが記載されている。そのようなカフの別の説明は、米国特許第6,526,977号明細書(特許文献8)にあり、特許文献8には、できるだけ密閉した状態で患者の気管を閉鎖するための拡張器であって、患者の声門下部の気管を塞ぐカフと、空気チューブとを含み、カフは、空気チューブに取り付けられ、完全に膨張した状態にあるときの気管径よりも大きいサイズを有し、患者の気管内で完全に膨張したときにカフに少なくとも1つのひだ折り目を形成する軟質の柔軟な箔材料からできており、形成される少なくとも1つのひだ折り目が、折り目内に生じる毛細管力のおかげでカフの全域で分泌物の自由な流れを停止させる毛細管のサイズを有することにより、分泌物の誤嚥及びそれに続く分泌物誤嚥関連の感染症を防止するようにしたものが記載されている。上記した非常に薄いカフは、上記したように洗浄液の導入後にカフ上部に存在するより低粘度の流体の流れを阻害するのに特に適していることが分かっている。
【0031】
あるいは、気管切開チューブの具体的事例において、カフは、米国特許出願第60/994,664号明細書(現在の米国特許出願第12/206,517明細書、特許文献6)、または特許文献5に記載されているような形状のものであってよい。特許文献5において、カフは、チューブの周りで膨張するのみならず、現行モデルと同様に、頭側及び瘻孔(切開孔)側にも膨張して、瘻孔を密閉する(図4)。このことは、チューブ上の可膨張性カフの近位取付点及び遠位取付点が連続的でないために生じる。別の言い方をすれば、従来のデバイスとは異なり、180°以外の角度(α)をなすためである。特許文献5において、カフは、チューブの遠位端部分の実質的に中心に配置されかつ該遠位端部分に取り付けられている遠位カフ部分を有する。カフは、チューブの屈曲領域に取り付けられかつデバイスの近位面より下方において実質的に屈曲領域の中心を外れて配置された近位カフ部分も有する。膨張時、この構成は、デバイスの近位面より下方においてチューブの遠位端部及びチューブの近位端部の周囲でカフを膨張させることによって、気管瘻孔よりも上方の気管を塞ぐことなく気管瘻孔よりも下方の気管を塞ぐ(図5)。望ましくは、このカフ構成により分泌物を瘻孔から除去できることになる。
【0032】
気管切開チューブデバイスは、厚さが均一でない複数のカフ壁を有し得る。例えば、気管切開チューブデバイスは、カフ壁厚さが約20ないし約30μmであるカフの第1部分と、カフ壁厚さが約5ないし約15μmであるカフの第2部分とを有し得る。カフの第1部分は、気管ルーメンの或る断面領域の上部に接触するカフの部分であり、カフの第2部分は、気管ルーメンの同じ断面領域の下部に接触するカフの部分であることが望ましい。
【0033】
可膨張性カフの構成要素は、遠位端と、遠位側取付部分と、近位端と、近位側取付部分と、上部領域と、下部領域とを含むことができ、上部領域は約15ないし約30μmの厚さを有し、下部領域は約5ないし約15μmの厚さを有する。
【0034】
カフ構成要素は、熱可塑性ポリウレタン重合体、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロック共重合体、SBSジブロック型エラストマー、SEBSトリブロック型エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、並びにその配合物及び混合物から形成され得ることが望ましい。
【0035】
図3に示した吸引用ルーメン16は、現在入手可能な市販の気管チューブの形状である円形、卵形または楕円形であってよい。しかし、改良形状を調査しようと、数多くの様々な形状をテストした。単に被選択形状にのみ基づきルーメンを流れる流量に著しい違いがあることがテストにより示された。カフの近位側に貯留した流体は、ニュートン流体ではない複数の分泌物の複雑な組合せであることが分かった。流体の粘度は、実質的に、流体に働く剪断の量によって異なっていた。様々な形状のルーメンを調査したところ、剪断はルーメン内でばらつきがあり、湾曲部や隅部において高剪断であり、中央では低剪断であるので、粘度に影響し、流れに影響を与えることが分かった。調査の結果、単純な円形、楕円形または卵形よりも、細長い僅かに湾曲した形状が良好に機能することが分かった。多くのそのような「競技場のトラック(bent oval)」形状、「豆」形状または「バナナ」形状のルーメンが、図6A〜図6Hに示されている。図6A〜図6Hは、換気ルーメン14及び吸引用ルーメン16を有する気管チューブの断面図である。より望ましくは、図6G、図6Hのトラック形状のルーメンが、より良好に機能した。
【0036】
トラック形状のルーメンの製造は既知の円形または卵形ルーメンの製造と同様に難しいことではないことが分かるはずである。気管カテーテルを製造するために用いられるチューブは、通常は押し出される。押出形状を変えることは、高分子押出成形の分野の当業者にとって難しい問題ではない。
【0037】
図1及び図2の吸引ポート開口部24は、気管の後壁に付着して組織を損傷させやすいことが分かっている。持続的吸引は間欠吸引よりも危険であるが、いずれの方法においても、吸引に関係のある組織の損傷が生じる可能性がある。吸引ポート24は、従来通りカニューレ12上に、患者が仰向けに横たわっているときに吸引ポート24がカフ上部の気管内の最下点にくるような位置に配置される。吸引ポート24は、従来と同じように円形ポートである。この領域は、分泌物が自然に多量に貯留する場所である。これは、カニューレ12において、高い曲げ応力を受けるが故に吸引ポート24を気管と接触させる可能性が高い領域でもある。この問題の1つの解決策は、カニューレ12が過度に曲がったとしても気管と接触することにならない位置に吸引ポート24を移動させることである。図1及び図2に示されている従来の位置から90または180°離れた位置にすれば、気管を損傷しにくくするであろうが、仰向けに横たわっている患者からの分泌物の吸引にそれほど効果があるというものでもないであろう。
【0038】
図7は、カフ22上部のカニューレ12上の吸引ポート24を示しており、ここで、吸引ポート24は、ある程度の距離にわたってカニューレ12の周壁において円周方向に細長い。この吸引ポート24は、吸引用ルーメン16に接続する。吸引ポート24はまた、両側に浅い延長部(shallow extension)を有し、それにより、吸引ポート24が気管壁に付着する可能性が低下する。浅い延長部は、カニューレ12の外周面28から僅かな、例えば1または2ミリメートルの深さまで延下しているが、吸引ポート24が吸引用ルーメン16と連通する領域を除いてカニューレ12の肉厚を貫通してはいない。仮に長寸の吸引ポート24の中央部が気管と接触しても、吸引ポート24の細長部分は依然として気管壁と接触することにはならないので、気管壁に完全に吸い寄せられることは回避されるであろう。本明細書に開示されている細長い吸引ポート24はこのようにして気管の損傷を減少させ、さらにまた、カニューレ12が気管壁に吸い寄せられることを防止することによって吸引ラインを開放状態に維持するのに役立つ。長寸の吸引ポート24は、従来の円形ポートよりも2〜5倍、望ましくは約3倍幅広であってよい。
【0039】
バルブは、本明細書に開示されている分泌物を吸引する気管チューブ及びシステムの重要な部品である。バルブは、チュービングライン30及び、拡大解釈すれば吸引用ルーメン16、吸引ポート24及びカフ22上部の気管内の空間を吸引及び洗浄するために用いられる。吸引用ルーメンを部分的にまたは完全に塞ぐかまたは詰まらせるかもしれない分泌物及び堆積物を軟らかくし、解体して取り除くために、バルブは、容易にかつ繰り返し、吸引用ルーメンを通して吸引と洗浄液供給とを交互に行う能力を持つこと、すなわち、ユーザはラインを「パルス」することができることが望ましい。ユーザがバルブを使い終わった後に、分泌物が除去されるようにシステムの吸引が行われるノーマルデフォルト位置すなわち「フェイルセーフ」位置にバルブが自動的に(すなわち単独で、ユーザによる介入なしで)戻ることも望ましい。バルブが「洗浄」位置にとどまっていると、洗浄液を供給するビュレット部が空になった時点で、分泌物がカフ22上部の空間内に蓄積し、吸引ラインを有する目的がなくなる。洗浄液ビュレット部へのアクセスを開放する前にバルブが吸引ラインへのアクセスを閉鎖することも重要であり、そうでなければ、流体はビュレット部から奪い取られて吸引源に向かい、浪費されることになる。患者の偶発的な動作がバルブを作動させないように、バルブがユーザ側にバルブを洗浄位置に移動させるための積極的な行動を要求することも望ましい。例えば、患者が寝返りを打ってバルブの上にのってしまった場合、バルブは、ケア提供者が望む位置、通常はフェイルセーフ位置すなわち吸引位置にとどまるべきであり、または、患者が加えていた力が取り除かれたときには、単独で比較的迅速にフェイルセーフ位置に戻るべきである。最後に、洗浄及び吸引を行うことができ、システムは閉鎖状態が維持されることが望ましい。例えば吸引を行うたびにビュレット部を取り外すとすれば、システムを繰り返し開放し、病原菌の侵入を許すことになる。当然、ビュレット部は最終的には交換が必要になることは確かであるが、そうなることは、吸引が行われるたびに取り外す必要がある場合よりもずっと稀である。システムの閉鎖状態を維持することが感染の可能性を減らすのに役立つので、洗浄液源が適所にとどまっている間に吸引及び洗浄を可能にするバルブは望ましい。後述するバルブは、これらの基準を満たす。
【0040】
一実施形態では、バルブ36は、図8に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液(例えば生理食塩水)用ビュレット部32または注射器を収容できる回転洗浄アダプタバルブ(ロータリーバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続してもよいし、チュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続してもよい。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメン16の洗浄が望ましいときには、ビュレット部32が挿入されて矢印で示されているように回転させられる。ビュレット部32のこの回転変位は、スリーウェイバルブを回転させ、吸引源または真空源を遮断し、ビュレット部32からチュービングライン30への流体アクセスを開放する。チュービングライン30は、吸引用ルーメン16と流体連通している。ビュレット部32を圧迫することによって、洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動的手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に回転させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。真空源とチュービングライン30との流体連通を復旧することにより、吸引ポート24を通して吸引用ルーメン及びカフ22上部の空間の吸引がなされる。ユーザは、必要に応じて繰り返し吸引と洗浄液供給とを交互に行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0041】
別の実施形態では、バルブ36は、図9に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液ビュレット部32または注射器を収容できるプッシュ式洗浄アダプタバルブ(プッシュバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続され、チュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続されることができる。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメン16の洗浄が望ましいとき、洗浄液を含むビュレット部32が図のようにバルブ36に挿入される。ビュレット部32がバルブ36に向かって下向きに押されると、ビュレット部32は、真空源を遮断し、ビュレット部32から吸引用ルーメンと流体連通しているチュービングライン30へのアクセスを開放する。ビュレット部32を圧迫して洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動的手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に移動させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液を交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0042】
さらに別の実施形態では、バルブ36は、図10に示すようなものであってよい。この図は、無菌の洗浄液ビュレット部32または注射器を収容できるストレート形洗浄アダプタバルブ(ストレートバルブ)を示している。バルブ36は、コネクタ34によって真空源に接続されるかまたはチュービングライン30によって吸引用ルーメン(図示せず)に接続されることができる。バルブのノーマル位置すなわちフェイルセーフ位置では、チュービングライン30への持続的な吸引が可能になる。吸引用ルーメンの洗浄が望ましいとき、洗浄液を含有するビュレット部32が挿入される。ビュレット部32は、下向きに押されると、吸引源からチュービングライン30への流路を塞ぎ、ビュレット部32とチュービングライン30との流体連通を確立する。ビュレット部32を圧迫して洗浄液をチュービングライン30内に送り込むことができる。ユーザが洗浄液をルーメンに注入し終わった時点で、ビュレット部32を解放することにより、ばねまたは他の自動手段(図示せず)がビュレット部32を反対方向に移動させて元の(ノーマル)位置に戻し、ビュレット部32からの流体アクセスを閉鎖し、真空源への流路を再開通することができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液を交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによって分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0043】
図11A及び図11Bはベローズで作動するサクションバルブを示しており、ここで図11Bは断面図である。吸引操作中、コネクタ34は吸引源(図示せず)に接続される。吸引された流体または空気は、チュービングライン30を通り、患者側の端部42からピストン46の中央ルーメン51を通って進み、その後オリフィス47を通過し、内部にばね44が見られる環状空間45に到ることができる。吸引された流体または空気は、ピン48の垂直部分52の周りを通過し、コネクタ34を越えて吸引源へ排出されることができる。ピン48は、流体または空気の流れを阻害するのではなく、中央及び他の構成要素を適所に保持する働きをするのみである。ベローズ41を圧迫することにより、ベローズ41を押しつぶし、ばね44が吸引側の端部43に当たるようにする。ピストン46が動き始めた直後、ピストン46は、オリフィス47を通過する流体または空気の流れを阻害する。ベローズをさらに圧迫することにより、洗浄(一方向)チェックバルブ50を開放し、ベローズ41の内容物をチュービングライン30内へ患者に向けて移動させる。ベローズ41の圧迫を緩和すると、ばね44はピストン46を吸引側の端部43から遠ざけ、同時に洗浄チェックバルブ50を閉じることができる。そうなったとき、オリフィス47がピストン46によってされていた蓋を外される前に、流体(一方向)チェックバルブ49が開き、洗浄液がビュレット部32からベローズ41内へ流れる。ベローズ41の圧迫を継続的に緩和することで、オリフィス47を蓋がされていない状態にし、ベローズ41に吸引を戻す。そのような一連の行動は当然、洗浄液をベローズ41から吸引源に向かって吸引することになり、非生産的であろう。しかし、ベローズ41の圧迫を完全に緩和するよりもむしろ、ベローズ41の圧迫を部分的にのみ緩和することにより、ベローズ41は洗浄液で満たされるがオリフィス47は開放されないようにすることができる。ベローズ41の圧迫を再開することができ、その結果、流体チェックバルブ49が閉鎖し、洗浄液は、ベローズ41から押し出され、洗浄チェックバルブ50を通過してチュービングライン30内へ患者に向かって移動する。このベローズ41の圧迫と緩和を繰り返すことによって、ケア提供者は、洗浄液を、カフ22上部の気管内の空間に送達するための吸引ポート24と、チュービングライン30とにパルスすることができる。このように洗浄液供給と吸引とを交互に行うことにより、定常状態吸引に比べてより効果的な堆積物及び分泌物の除去方法を提供することができる。バルブ40は、ビュレット部32が適所にないときに生理食塩水チェックバルブ49及びバルブ40の残りを汚染から保護するために用いられ得るテザー付きキャップ53を含むこともできる。
【0044】
図12A及び図12Bは、トリガで作動するサクションバルブ60を示しており、ここで図12Bは断面図である。トリガ61を圧迫するとピボットバルブ62が閉位置に変位し、圧迫によりバルブ60内のチュービングライン30が閉鎖されて吸引源が遮断される。固定ピストン65内の2つの一方向チェックバルブと、吸引用ルーメンチェックバルブと、洗浄液チェックバルブとがある。トリガは、圧迫されているときに内側へ変位し続けるので、ばね62が圧縮され、洗浄液が、吸引用ルーメンチェックバルブ65を通ってトリガ空間63内に送られ、細いチューブ66を通過し、細いチューブ66が主チュービングライン30に接続する位置67においてチュービングライン30内に送られる。トリガ61を解放すると、ばね62がトリガ61を外向きに押して洗浄液チェックバルブを開放し、洗浄液は、ビュレット部32からチューブ(図では見えない)を通ってトリガ空間63に流入することができる。ピボットバルブ62は、トリガ61が完全に解放されるまで閉じたままであるので、ユーザは、繰り返しパルスされる洗浄液をチュービングライン30を通して吸引ポート24へ送ることができる。ユーザは、チュービングライン30内へ洗浄液をパルスすることとチュービングライン30に吸引を戻すこととを交互に行うことができる。バルブの開放時に、ばねは吸引源から吸引用ルーメンへのアクセスを自動的に閉鎖し、ビュレット部から吸引用ルーメンへの自動的に閉鎖する。当業者は、必要に応じてバルブ60の上面または側面にトリガを配置することができること及びそれもやはり本明細書に提示されているアクティブなトリガバルブの教示及び発明の趣旨に含まれることが容易に分かるであろう。
【0045】
図13A及びその分解立体図である図13Bは、インラインピンチング洗浄バルブ70を示している。この比較的複雑でないバルブは本体71を有し、本体71は、この実施形態では、鏡像的な2つの半分部分すなわち右半分部分72及び左半分部分73から構成されている。バルブの前方部分を、チュービングライン30に接続する患者側の端部と規定する。本体は、代替的に、上下の半分部分から構成されてもよいし、あるいは一体成形として構成されてもよいことに留意されたい。バルブ70の後方部分は、吸引源(図示せず)用のコネクタ34である。2つの本体半分部分のうちの少なくとも一方は半島形タブ(peninsular tab)74を有し(図では左半分部分73のみ見ることができる)、半島形タブ74は、その長さの大部分にわたって当該本体半分部分から僅かな隙間75だけ離間している。半島形タブ74は、一端において当該本体半分部分に付着したままである。本体半分部分の原材料が十分に薄くかつ/または柔軟性があるとすれば、隙間75のおかげで、半島形タブ74は破損せずに曲がりかつ本体半分部分に対して変位し、圧迫力が除かれた時点で元の位置に跳ね返る。少なくとも一方の本体半分部分の内部には、隆起部76が、望ましくは圧着チューブ77に垂直に、設けられるべきであり、隆起部76のサイズは、半島形タブ74がユーザの指によって圧迫されたときに隆起部76が圧着チューブ77の内部長さに接触することになり、十分な力が加えられたら圧着チューブ77のルーメンを閉鎖し、圧着チューブ77を介して吸引源と連通することを阻害するようなサイズである。半島形タブ74及び隆起部76の正確なサイズ及び形状は、半島形タブ74を圧迫することによって圧着チューブ77のルーメンを閉鎖することができるという条件で、バルブ設計者の要望によって異なり得るが、本明細書に開示されている教示内にとどまる。例えば、隆起部76は、図に示した矩形形体である代わりに、半島形タブ74が一緒に圧迫されたときに圧着チューブ77と接触するように適所に配置された円形または卵形の突起のような別の形状であってよい。隆起部76が本体半分部分から完全に取り除かれ、半島形タブ74が圧着チューブ77上に直接当接して圧着チューブ77のルーメンを閉鎖するように、半島形タブ74を設計することも可能である。
【0046】
既に述べたように、圧着チューブ77の患者側の端部はチュービングライン30と流体連通しており、チュービングライン30は同様に吸引用ルーメン16及び吸引ポート24と流体連通している。圧着チューブ77の他端はコネクタ34と流体連通し、コネクタ34はさらに吸引源と連通する。バルブ70は、ビュレット部から洗浄液を受容するために取入口78を有する。バルブ70は、ビュレット部を受容しかつ流体の漏れを減らすためにビュレット部にぴったり合うように設計されたアダプタ79と、ビュレット部から流入する生理食塩水を通過させるチェックバルブ80とを有することが望ましい。チェックバルブ80は、吸引源単独で加えられるよりも多くの力を必要とするので、ユーザは、ビュレット部を圧迫することによって、チェックバルブ80を開いて洗浄液をチュービングライン30内に移動させるのに十分な力を供給する必要がある。ビュレット部が適所にないときに取入口78を覆うように適合された任意選択のテザー付きキャップ(図示せず)を設けてもよい。
【0047】
完全に導入されて使用されるとき、ユーザは単に、本体71上の半島形タブ74を一方の手で圧迫することによって圧着チューブ77のルーメンを閉鎖し、チュービングライン30から吸引源を遮断し、圧着チューブ77を閉じたままにして、流体ビュレット部を他方の手で圧迫することによって液体をチュービングライン30内へ、及びカフ22上部の気管内の空間に向かって送り込むことができる。ユーザは通常それぞれの手で1つの機能を実行することを好むこと、及び片手で2つ以上の機能を実行することが要求されると混乱を招く場合があることが分かっている。従って、このバルブがそれぞれの手に対して1つの機能を有することは有利である。所望の量の流体が吐出された時点で、ユーザはビュレット部を圧迫するのを止めて半島形タブ74への圧力を緩和することができる。こうすることにより、半島形タブ74は元の位置に跳ね返り、圧着チューブ77を正常な形状に回復させ、チュービングライン30に吸引を戻すことができる。ユーザは、必要に応じて吸引と洗浄液供給とを交互に繰り返し行い、こうしてシステムをパルスすることによってビュレット部を取り外すことなく分泌物を軟らかくして取り除くことができる。
【0048】
図13Aの本体71が一体成形でできている実施形態において、チュービングライン30を本体71の内部に滑り込ませてコネクタ34と結合させ、ひいては圧着チューブ77として働く別体をなす部品を省くことができる。この場合、洗浄液源によるアクセスのためにチュービングライン30に孔を開けることができる。
【0049】
手袋が隙間75に挟まれるようならば、例えば、隙間75を完全に覆い、隙間75に手袋が入り込むことを防止するために、本体71を熱に反応して適所で収縮する「収縮フィルム」樹脂のような高分子材料でくるんでもよい。さらに、手袋を装着しているユーザが感じる触感覚を向上させるため、及び本体71上でのユーザの把持の質を向上させるために、半島形タブ74は、線、山形(逆V字)、凹み、逆凹み(reverse dimple)などのような表面と歩グラフィ80を有していてもよい。
【0050】
特定の実施形態では、図13Aのバルブ70は、長さが3〜10cm、望ましくは長さ約7cmかつ直径0.5〜2cm、望ましくは約1.7cmの本体半分部分sを有することができる。互いに対向して位置する2つの半島形タブ74は、長さが1〜5cm、望ましくは約2.5cmであり得、隆起部76は、各半島形タブ74の長手方向のほぼ中心に位置し得る。隙間75は、幅が0.3〜3mm、望ましくは約1mmであり得る。
【0051】
図14は、図13のバルブのように、バルブの片手操作を可能にさせる別の実施形態を示している。このバルブ70は、多くの点で図13のバルブと類似しているが、作動させる方法が異なる。図14のバルブ70では、バルブ70の底部のトリガタブ81を押し下げることにより、本体の内部でチューブが圧着されかつ閉鎖される。トリガタブ81を解放すると、圧着チューブ(図示せず)は再開通し、吸引源と吸引用ルーメンとの連通を復旧することができる。
【0052】
図15は、図13のバルブのようにバルブの片手操作を可能にさせる別の実施形態を示している。このバルブ70は、多くの点で図13のバルブと類似しているが、作動させる方法が異なる。図14のバルブ70では、バルブ70の底部ののトリガバー82を後方に(吸引源用コネクタ34に向かって)移動させることにより、本体の内部でチューブが圧着されかつ閉鎖される。トリガバー82を解放すると、圧着チューブ(図示せず)は再開通し、吸引源と吸引用ルーメンとの連通を復旧することができる。
【0053】
本明細書に開示されているバルブの構成材料は、本体に関しては、ポリオレフィン、例えばポリエチレン及びポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリル、PVCなどであってよい。特に適しているのは、高密度ポリエチレン(HDPE)である。チェックバルブ及びチューブと同じように、柔軟性のあるパーツの構成材料には、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはエラストマーベースのポリオレフィンが含まれる。
【0054】
使用にあたり、医療提供者は、既知の、当業者に理解されている方法で、すなわち、経口または経鼻挿管により、あるいは気管切開術により、気管チューブ10を患者の気管内に挿入することになる。可膨張性カフ22は、患者の気管壁に気密に係合するように、膨張用ルーメン18を通って供給される空気により膨張させられることになる。これにより、声門下空間から気管支及び肺内への望ましくない流体の流れが効果的に防止されるかまたは少なくとも最小限に抑えられることになる。この時に呼吸用ルーメン14を介して患者の換気を行い、必要な限り継続することができる。
【0055】
ケア提供者の裁量により、カニューレ12の壁25を貫通するポート24を経由して吸引用ルーメン16を介して患者の気管内の声門下空間を吸引することができる。そのような吸引は、必要に応じて連続的または断続的に行うことができる。同様にケア提供者の裁量により、吸引用ルーメン16及び/またはカフ22上部の空間を洗浄しかつ吸引することができる。これは、既に詳細に説明したように、バルブ36を用いて吸引用ルーメン16から吸引源を遮断し、ビュレット部32から吸引用ルーメン16へ洗浄液を導入することによって達成される。液体を導入し終わった後、バルブ36が再開通されることによって真空源及び吸引源との接続が元の状態に戻るので、吸引用ルーメン16が空にされ、吸引用ルーメン16内の分泌物及び他の液体並びに、望ましくはカフ22上部に貯留した分泌物が除去される。洗浄液に、例えば、消毒薬、抗生物質などの薬物、または粘液溶解薬などの処理剤を加えてもよい。その場合、吸引前に所望の治療効果を得るために、洗浄液の導入とルーメン及びカフ領域からの洗浄液の排出との間により多くの時間を見込むことが望ましいであろう。
【0056】
本発明についてその特定の実施形態に関して詳細に説明してきたが、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなしに様々な改変、修正及び他の変更をなすことができることは、当業者に明らかであろう。従って、特許請求の範囲は、添付の請求項群に含まれる全てのそのような修正形態、改変形態及び他の変更形態に及ぶものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管チューブを含む声門下吸引システムであって、
或る長さ、遠位端及び近位端を有しかつ、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む複数の別個のルーメンを含む可撓性カニューレと、
前記遠位端上で前記カニューレを取り囲み、患者の気管を密閉するように適合され、かつ前記膨張用ルーメンと流体連通する可膨張性カフと、
前記可膨張性カフより近位側にて前記カニューレの側壁を貫通して延在し、前記吸引用ルーメンと流体連通するポートと、
前記吸引用ルーメンの前記近位端上に設けられ、前記吸引用ルーメン及び吸引源にそれぞれ流体連通し、かつ洗浄液源を有するバルブとを有し、
ケア提供者の裁量で前記バルブの操作によって前記洗浄液を前記吸引用ルーメンに注入できるようにするとともに、前記バルブの開放時に吸引が再度行われるようにしたことを特徴とする声門下吸引システム。
【請求項2】
前記吸引源が、前記ケア提供者が前記洗浄液源を変位させることによって遮断され、前記洗浄液が、前記吸引用ルーメン内に導入され、前記吸引源へのアクセスが、前記ケア提供者が前記洗浄液源を解放することによって回復され得るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項3】
前記バルブが、ロータリーバルブ、プッシュバルブ及びストレートバルブからなる群から選択されるスリーウェイバルブであることを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項4】
前記バルブが、本体の少なくとも片側に半島形タブを有し、該半島形タブに前記吸引用ルーメンを通し、前記半島形タブを圧迫することによって、前記吸引用ルーメンから前記吸引源を遮断するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項5】
前記バルブが、前記洗浄液源用のアダプタを覆うように適合されたテザー付きキャップを有することを特徴とする請求項4に記載の気管チューブ。
【請求項6】
前記吸引用ルーメンが、トラック形状を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の気管チューブ。
【請求項7】
前記吸引用ルーメンが、図6Aないし図6Hにそれぞれ示されている断面のいずれかを有し得ることを特徴とする請求項6に記載の気管チューブ。
【請求項8】
前記洗浄液が、水や生理食塩水などの生理適合性液体を含むことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項9】
前記洗浄液が、粘液溶解薬を含むことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項10】
前記ポートが、前記カニューレの周壁において円周方向に細長いことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項11】
気管切開チューブであって、
或る長さ、遠位端及び近位端を有しかつ、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む可撓性カニューレと、
前記遠位端上で前記カニューレを取り囲み、膨張時には、前記カニューレの近位面より下方において前記カニューレの遠位端部及び前記カニューレの近位端部の周囲で膨張することによって前記気管瘻孔よりも上方の前記気管を塞ぐことなく前記気管瘻孔よりも下方の前記気管を塞ぐように適合され、さらに前記膨張用ルーメンと流体連通している可膨張性カフと、
前記可膨張性カフより近位側にて前記カニューレの側壁を貫通して延在し、前記吸引用ルーメンと流体連通するポートと、
前記吸引用ルーメンの前記近位端上に設けられ、前記吸引用ルーメン及び吸引源とそれぞれ流体連通し、かつ洗浄液源を有するバルブとを含み、
ケア提供者の裁量で前記バルブの操作によって真空または液体のいずれか一方を前記吸引用ルーメンに投与することができるようにしたことを特徴とするチューブ。
【請求項12】
前記吸引用ルーメンが、図6Gないし図6Hに示されているような断面を有する吸引用ルーメンのいずれかであり得ることを特徴とする請求項11に記載のチューブ。
【請求項13】
前記洗浄液が、水や生理食塩水などの生理適合性液体を含むことを特徴とする請求項11に記載のチューブ。
【請求項14】
前記洗浄液が、粘液溶解薬を含むことを特徴とする請求項13に記載のチューブ。
【請求項1】
気管チューブを含む声門下吸引システムであって、
或る長さ、遠位端及び近位端を有しかつ、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む複数の別個のルーメンを含む可撓性カニューレと、
前記遠位端上で前記カニューレを取り囲み、患者の気管を密閉するように適合され、かつ前記膨張用ルーメンと流体連通する可膨張性カフと、
前記可膨張性カフより近位側にて前記カニューレの側壁を貫通して延在し、前記吸引用ルーメンと流体連通するポートと、
前記吸引用ルーメンの前記近位端上に設けられ、前記吸引用ルーメン及び吸引源にそれぞれ流体連通し、かつ洗浄液源を有するバルブとを有し、
ケア提供者の裁量で前記バルブの操作によって前記洗浄液を前記吸引用ルーメンに注入できるようにするとともに、前記バルブの開放時に吸引が再度行われるようにしたことを特徴とする声門下吸引システム。
【請求項2】
前記吸引源が、前記ケア提供者が前記洗浄液源を変位させることによって遮断され、前記洗浄液が、前記吸引用ルーメン内に導入され、前記吸引源へのアクセスが、前記ケア提供者が前記洗浄液源を解放することによって回復され得るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項3】
前記バルブが、ロータリーバルブ、プッシュバルブ及びストレートバルブからなる群から選択されるスリーウェイバルブであることを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項4】
前記バルブが、本体の少なくとも片側に半島形タブを有し、該半島形タブに前記吸引用ルーメンを通し、前記半島形タブを圧迫することによって、前記吸引用ルーメンから前記吸引源を遮断するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項5】
前記バルブが、前記洗浄液源用のアダプタを覆うように適合されたテザー付きキャップを有することを特徴とする請求項4に記載の気管チューブ。
【請求項6】
前記吸引用ルーメンが、トラック形状を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の気管チューブ。
【請求項7】
前記吸引用ルーメンが、図6Aないし図6Hにそれぞれ示されている断面のいずれかを有し得ることを特徴とする請求項6に記載の気管チューブ。
【請求項8】
前記洗浄液が、水や生理食塩水などの生理適合性液体を含むことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項9】
前記洗浄液が、粘液溶解薬を含むことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項10】
前記ポートが、前記カニューレの周壁において円周方向に細長いことを特徴とする請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項11】
気管切開チューブであって、
或る長さ、遠位端及び近位端を有しかつ、呼吸用ルーメン、吸引用ルーメン及び膨張用ルーメンを含む可撓性カニューレと、
前記遠位端上で前記カニューレを取り囲み、膨張時には、前記カニューレの近位面より下方において前記カニューレの遠位端部及び前記カニューレの近位端部の周囲で膨張することによって前記気管瘻孔よりも上方の前記気管を塞ぐことなく前記気管瘻孔よりも下方の前記気管を塞ぐように適合され、さらに前記膨張用ルーメンと流体連通している可膨張性カフと、
前記可膨張性カフより近位側にて前記カニューレの側壁を貫通して延在し、前記吸引用ルーメンと流体連通するポートと、
前記吸引用ルーメンの前記近位端上に設けられ、前記吸引用ルーメン及び吸引源とそれぞれ流体連通し、かつ洗浄液源を有するバルブとを含み、
ケア提供者の裁量で前記バルブの操作によって真空または液体のいずれか一方を前記吸引用ルーメンに投与することができるようにしたことを特徴とするチューブ。
【請求項12】
前記吸引用ルーメンが、図6Gないし図6Hに示されているような断面を有する吸引用ルーメンのいずれかであり得ることを特徴とする請求項11に記載のチューブ。
【請求項13】
前記洗浄液が、水や生理食塩水などの生理適合性液体を含むことを特徴とする請求項11に記載のチューブ。
【請求項14】
前記洗浄液が、粘液溶解薬を含むことを特徴とする請求項13に記載のチューブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2013−500756(P2013−500756A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522280(P2012−522280)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052927
【国際公開番号】WO2011/013015
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052927
【国際公開番号】WO2011/013015
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
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